直線内に切り替えて抜け出す
期待の素質馬が重賞初勝利
昨年から始まった3歳ダート三冠。JRA所属馬は前哨戦で好成績を残すのが出走への近道で、ユニコーンステークスGIIIの上位1頭(2着以内)に東京ダービーJpnIへの優先出走権が与えられる。
すでにダート三冠の初戦・羽田盃JpnIは4日前に行われており、ナチュラルライズが5馬身差で完勝した。同馬にカトレアステークスで3/4馬身差まで迫ったのがクレーキング。残り200メートルからの末脚は鋭く、その後は1勝クラスを8馬身差で圧勝してここに駒を進めてきた。そのレースぶりから、単勝1.6倍の1番人気。
2番人気は伏竜ステークスでルクソールカフェの2着だったメイショウズイウンで、こちらも勝ち馬が4連勝でケンタッキーダービーG1に向かったことを考えると、自身の評価が上がるのも当然だろう。3番人気にカナルビーグルだった。
レースは1番人気クレーキングがやや伸び上がるような出遅れで幕を開けた。対照的に好スタートから先行集団の5番手に収まったのはカナルビーグル。ペースはそこまで上がらず、向正面で最後方からメイショウズイウンと武豊騎手が捲っていくと、場内からは歓声が起きた。
呼応するようにペースは上がり、4コーナーではメイショウズイウンの直後にカナルビーグル、すぐ外にクレーキングと上位人気3頭が先団にとりついた。そこで進路をなかなか見出せずにいたのがカナルビーグル。武騎手とダミアン・レーン騎手がわずかな隙も与えなかったが、直線で内に進路ができるとカナルビーグルと吉村誠之助騎手はすぐに切り替えて脚を伸ばし、2着クレーキングに3/4馬身差で勝利。クビ差3着にメイショウズイウンだった。
2走前は直線で前が壁になりながら4着、前走は向正面で捲ってきた馬がいながらも器用な立ち回りで7馬身差の完勝を見せた素質馬が、ついにタイトルを手にした。
「直線は少しあっぷあっぷしたところで強引に外に行きたかったですが、内に進路ができたので、そちらに行きました。少し強引になりましたが、内に切り替えてからも馬がよく反応してくれました」。1カ月前に直線で狭い間を割って勝ったチャーチルダウンズカップGIIIに続き、重賞2勝目となった吉村騎手はそう話して汗を拭った。父である兵庫の吉村智洋騎手が2018年に初めて地方全国リーディングに輝いた時には、NARグランプリの表彰式に同席するなど、その背中を見て育った。
また、カナルビーグルを管理する佐藤悠太調教師は今年3月に同馬で初勝利を挙げると、これが嬉しい重賞初制覇。父は山形県の上山で厩舎を構え、廃止に伴い金沢へ移籍した佐藤茂調教師で、上山競馬場のそばで生まれ育ち、小学生の頃からJRAの調教師になることを夢見てきた。
重賞初制覇に「新規開業の厩舎に預けてくださったオーナーのおかげです。いまも十分、筋肉はついていますが、まだまだ良くなりそうな奥深さを感じる馬。成長を阻害しないよう大切に育てていきたいです」とカナルビーグルの将来に期待を寄せた。
開業前から「その馬の適材適所を選べる調教師になりたい」と話していた佐藤調教師。技術調教師時代には海外遠征に帯同して経験を積み、厩舎を構えてからは地方交流レースにも積極的に申し込みをしてきた。
「今後、色んなところへチャレンジする馬になってくれると期待していますし、厩舎力をもっと上げていかないといけません」
次走についてはオーナーと相談して決めるとのこと。どの舞台で戦うにしても、楽しみが広がるポテンシャルと勝負根性を見せた。
取材・文大恵陽子
写真桂伸也(いちかんぽ)