芝GI馬を振り切って逃げ切る
重賞3連勝でダート短距離頂点に
2025年の地方競馬において、荒山勝徳厩舎(大井)の奮闘は大きなトピックスとして記されるだろう。特に8月以降の活躍は目覚ましく、南関東重賞3連勝(スパーキングサマーカップ=リンゾウチャネル、フリオーソレジェンドカップ=サントノーレ、アフター5スター賞=ファーンヒル)を記録。ディクテオンでコリアカップG3を制して海外重賞初制覇を果たすと、10月には大井所属調教師として初の地方競馬通算1000勝も達成した。その勢いに乗って今回のJBCには3頭を送り込み、トレーナー自身も「地方競馬でJBCを2回以上勝った調教師はいないらしいね」と、17年のJBCレディスクラシックJpnI(ララベル)以来となるJBC制覇へ、並々ならぬ意欲を見せていた。
その初戦、JBCレディスクラシックJpnIに出走したヘニータイフーンは12着に敗れたが、気を取り直して2戦目へ。ファーンヒルはJRAオープンで苦戦を強いられていたが、転入後にスプリント重賞を連勝。特に習志野きらっとスプリントでは3馬身差をつける完勝で、船橋5ハロンに適性を示していた。
好スタートを決めると、3番枠を生かして先手を主張。浦和のエンテレケイアと激しい先行争いを演じる形になったが、鞍上の笹川翼騎手は一歩も引かない。スタートから300メートル付近で前に出ると、単独先頭で3~4コーナーを回り、後続に1馬身ほど差をつけて直線に向いた。
ダートグレードはここからが勝負。地方馬がどんなに手応え良く先行しても、直線でJRA勢に交わされるシーンを何度も見てきた。ましてや今回は強豪ぞろいのJpnI。先手を奪い切るのに脚も使ったとなれば不安もよぎる。
それでもファーンヒルは二の脚を繰り出した。残り200メートルを切っても内ラチ沿いでストライドを伸ばし、他馬の追撃を許さない。そして、歓喜の瞬間が訪れた。追い上げてきた芝GI馬ママコチャを1馬身退け、ダートスプリントの頂点に立った。
満面の笑みで検量室前に姿を見せた荒山調教師。「テンに速い馬がいるので、ジョッキーとは出たところで決めればいいんじゃないかと話していました。なんとか最後までしのいでくれという感じで見ていたんですけど、ゴールの瞬間はちょっとフワッとしましたね」と、天にも昇るような気持ちを表現した。
23年のイグナイター(兵庫)以来、2度目のJBCスプリントJpnI制覇となった笹川騎手は「自信を持って、馬を信じて乗るだけだと確信するくらい、いいデキでした。スタートも決まったので、これで駄目なら仕方がないという気持ちでした」と何度もガッツポーズ。「JBCで地方所属の馬が勝てたことはすごく大事なこと。その鞍上に僕がいられたのは幸せです」と喜びを噛みしめた。
今後について荒山調教師は「ここまで力がある馬なので、来年はサウジやドバイなど、海外も視野に入れながら考えていきたいと思っています」と青写真を描く。今のファーンヒルと厩舎の勢いをもってすれば、期待は高まるばかり。ディクテオンに続くことができるか注目だ。
1番人気のママコチャが2着。母ブチコ、伯母にユキチャンがいる血統らしく、初ダートでも適性の高さを示した。砂をかぶりにくい外枠だったのも功を奏した印象で、今後も芝・ダートを問わず、短距離路線で存在感を示してくれそうだ。
さらに1馬身差の3着にはサンライズアムールが入った。好位で粘った内容に、松山弘平騎手も「最後は苦しくなったけど踏ん張ってくれた」と奮闘をねぎらった。この路線の中心勢力であることは間違いなく、今後も軽快なスピードを生かしてタイトルを積み重ねるに違いない。
ただ、今回の主役はなんといってもファーンヒルと笹川騎手、そして荒山調教師。JRAオープンで好走歴があるとはいえ、重賞3連勝でのJpnI制覇は並大抵のことではない。かつて、船橋の川島正行調教師(故人)はサクラハイスピード(1995年東京盃)、ネームヴァリュー(03年帝王賞GI)、トーセンジョウオー(07年エンプレス杯JpnII)などの転入馬をよみがえらせ、再生工場と呼ばれた。そのお株を奪うような荒山調教師の再生劇が、ここ船橋で演じられたことに縁を感じる。地方競馬に生きるホースマンのたすきは脈々と受け継がれている。
取材・文大貫師男
写真いちかんぽ(早川範雄、岡田友貴)
Comment

荒山勝徳調教師
レース間隔があったほうが力が出せるということで、前走後は放牧に出して、リフレッシュさせました。今年は全てがうまくいっているような感じがするので、これを続けられるような、しっかりした厩舎になっていかないと、という思いはあります。来年は海外も視野に入れていきたいと思っています。











笹川翼騎手
この馬にJpnIのタイトルを取らせることができてうれしいです。厩舎のみなさんのおかげで、馬の状態は抜群。レース前はいろいろと考えていたのですが、乗ったらこの馬を信じて乗るだけだと確信するくらい、いいデキでした。みなさんの応援が力になって、一番を取ることができました。