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南関東にただ1頭輝く三冠牝馬チャームアスリープ


REWIND 00's

2025.11.28 (金)

昨年より体系整備されたダート三冠。 春に羽田盃、東京ダービーが大井競馬場で行われ、ナチュラルライズが二冠馬に輝いた。そして三冠達成を懸けたジャパンダートクラシックが秋に実施されたが、新鋭ナルカミに3馬身振り切られて2着という結果。三冠馬となることの難しさを感じされられた今年のダート三冠だった。 南関東では牝馬クラシックが1987年より桜花賞、東京プリンセス賞、関東オークスと体系づけられたが、桜花賞は浦和競馬場、東京プリンセス賞は大井競馬場、関東オークスは川崎競馬場と、それぞれコースが違い、春の短い期間のローテーションは成長期の乙女たちには過酷な条件。さらに2000年からは関東オークスがダートグレード競走となりますます三冠達成への道は厳しくなっていた。

2006年6月14日、厳しい関門をくぐり抜けて史上初の三冠牝馬が誕生した。船橋・佐藤賢二厩舎所属のチャームアスリープである。 1番人気には牝馬ながら全日本2歳優駿と兵庫チャンピオンシップを制した重賞3勝馬のJRAグレイスティアラ、2番人気は芝のクスクラシック路線から初ダートに挑んだJRAのシェルズレイ、3番人気がチャームアスリープだった。 川崎コースの2100mはコーナーを6度回らなくてはならない。ペースの緩急が難しい距離だ。川崎のフローレンスガールが逃げてスローペースで淡々とレースが進んだ。向正面からレースは動き、後方からレースを進めたチャームアスリープはじわじわとポジションを上げていった。3コーナーから捲り気味に進出したグレイスティアラが直線で先に抜け出すと差を広げた。そこへ外からチャームアスリープが鋭い脚で猛追。2頭が並んだところがゴール版。クビ差の僅差で三冠牝馬が誕生した瞬間だ。 泥んこの馬体で戻ってきたのは激戦の証。チャームアスリープは場内の大きな歓声に包まれた。レース後のインタビューでは手綱を取った内田博幸騎手が「並べばしっかり伸びるので必ず交わしてくれると信じて乗っていました」と答えた。 その後も南関東では牝馬三冠馬は現れていない。 後にも先にもチャームアスリープが唯一の三冠牝馬なのである。

第42回関東オークス(2006年6月14日)

チャームアスリープは2003年3月19日、新冠の村田牧場で誕生した。 「母のターフアミティエは、細身の素軽い馬体の持ち主でした。いかにも芝向きでしたが、生まれてくる初仔の馬体を考えた場合、この牝馬の配合相手には立派な馬体をしている種牡馬が望ましいと考えて、配合相手に選んだのが、骨量もあって馬体に厚みもあるティンバーカントリーです。この配合から初仔として生まれたのが、チャームアスリープでした。当歳時から一見すると牡馬かと思うほど立派な馬格をしていました。1歳になってからは、同じ牝馬のグループのなかでも明らかに大柄で、非常に馬っぷりの良い馬体だったのを憶えています。配合を考えるのはこの仕事の醍醐味ではありますが、こうして大きな結果を出した馬を生産できたのは誇らしいことです」と村田牧場の村田代表は話す。

チャームアスリープとの出会いをインタビューで答えた故・佐藤賢二調教師の言葉が当時の取材メモに残っている。 「山口オーナーがうちに預けて2頭目の馬だった。村田牧場で見て、 馬体も気に入ったし、ティンバーカントリーの仔なら距離も保つだろうと考えて買ってオーナーにお勧めしたんだ」。 適性距離をイメージし、すでにこの時にタイトルを意識していたと言う。

「いい切れ脚をもっているんだけど、新馬戦を勝った後はなかなかハマらなくて、張田京騎手を乗せたり森下騎手を乗せたり色々して、(石崎)駿はほかに乗り馬がいるというから誰か合う騎手はいないかと探していたら、たまたま内田博幸があいていた。クラシックを前にした大井のもくれん特別でひと捲りで8馬身差をつける楽勝。持っている能力の高さを再認識した印象深いレースだね」と佐藤賢二調教師の相馬眼はまちがっていなかった。

「入厩してきた頃は牝馬っぽくないおとなしい馬だと感じました。デビュー戦から乗せてもらったんですが、新馬戦は1000mで距離も合っていないし、砂を被って嫌がっていたので被らない外に出すと、そこからの脚はすごいものがありました。調教もおとなしくてズブいくらい。レースでは距離が延びるほどにいい競馬をしていましたよね。おとなしくて気が入ってないくらいの感じだったので、カリカリしがちな普通の牝馬とは違っていました。後々考えれば、短期間での三冠を耐え抜けたのはそのおとなしい気性が消耗を少なくしていたんでしょうね。内田博幸騎手や今野忠成騎手のような馬を動かす豪腕騎手がズブさを補ったんだと思います」と佐藤賢二のもとで騎手としての矜持を培ってきた石崎駿騎手(現在は調教師)。

桜花賞は内田博幸騎手の手綱でひと捲り、東京プリンセス賞は今野忠成騎手が騎乗して直線一気に突き抜けた。そして関東オークスは内田博幸騎手がチャームアスリープの気性を武器に変えた勝利だった。

「チャームの三冠すべて主人と競馬場で見ていました。関東オークスのときはJRAの実績馬が人気でしたし、後ろからレースをするタイプなのでドキドキして見ていました。主人が冷静な人なので三冠達成した瞬間も、応援に来てくださっていた村田牧場さんたちと〝良かったね〟って静かに受け止めたのを覚えています。皆さんからおめでとうと声を掛けてもらってじわじわと実感が沸きました。こんな素晴らしい馬と出会えたことは馬主冥利に尽きますね」と山口圭子さんは達成の瞬間を振り返った。

亡き夫・山口美樹オーナーの忘れ形見でもあるチャームアスリープを繁殖牝馬として生まれ故郷の村田牧場へと託し7頭の産駒を送り出した。同じく持ち馬だったセレンを種牡馬にして2頭の愛の結晶も誕生した。しかしながら2018年に事故のためチャームアスリープは死亡。新冠町の優駿メモリアルパーク内に墓碑が設置され、今はそこで眠っている。 最後の産駒となったセレン産駒のブラヴールは7歳になる現在も競走生活を続けている。

チャームアスリープ産駒のブラヴールが制した第43回京浜盃(2020年3月18日)

中川明美

写真いちかんぽ

中川明美(なかがわあけみ)

競馬ブック南関東担当記者。新聞紙面にてコラム『南関こんしぇるじゅ』、週刊競馬ブックで『NANKAN通信』、競馬ブックWEBにて『南関あらうんど』等を執筆。
週刊競馬ブック南関東S重賞本誌担当。グリーンチャンネルにて『アタック!地方競馬』などに出演中。