敗戦糧に真の実力発揮
大差で東海3歳の頂点に
東海地区における3歳馬の頂上決戦・東海優駿。その最大の前哨戦である駿蹄賞(5月5日・名古屋)は、波乱の結末だった。能力と戦歴では明らかに傑出していながら、気性面に少なからぬ課題を抱えていたアストラビアンコが、レースの最中に物見をして失速。笠松・リバーサルトップの後塵を拝する結果となった。本番の東海優駿を迎えるにあたり、そのリバーサルトップが1週間前に軽い寝違えの影響で回避を決めると、レースの焦点は、アストラビアンコが今回こそ能力を出し切ることが出来るかどうか、概ねその一点に集まった。
前走後アストラビアンコは、立て直しを図るべく滋賀県にあるキャニオンファームに出され、かつて名古屋競馬に携わり競走馬と競馬を深く知るスタッフの手に委ねられた。狭い坂路でまっすぐ走ることを改めて教えられ、馬の集中力を増すべく負荷のかけ方も調整された。身体面は良くなり効果はあったが、それでも競馬場の厩舎に戻ると、調教ではスタッフを手こずらせた。調教で負荷をかけきれない分、馬のデビュー前に施す初期馴致に近いことも含め「やれることを全てやった」(角田輝也調教師)。そして最後には、馬の体力を戻し活気を持たせ、リラックスさせることに専念しようと、角田調教師も腹を括った。
レースでは、引き続き細川智史騎手に手綱が委ねられた。前走と同じ2周目2コーナーで馬が同じ仕草を見せようとしたシーンを、彼は「馬と僕の“駆け引き”」と振り返る。馬が“憶えてしまったこと”を出さぬよう気を配り、今回はその駆け引きに勝った。馬は力を発揮し、一旦迫って来たライバル達を勝負所から再度引き離した。ゴールでの着差は大差。レース前には「前回の敗戦で気持ち的には楽になった」と話した細川騎手だったが、レース後馬と共に引き上げてくる際、人目をはばかることなく流していた涙が、これまで彼にのしかかっていたプレッシャーの大きさ、凄まじさを物語っていた。
敗者たちの戦い振りも、見事だった。2着のアルティメイタムは、前走(中京ペガスターカップ1着)後の青写真通り駿蹄賞をパスし、今回のレースに臨んでいた。塚本征吾騎手は、現状における最高の状態に馬を仕上げた厩舎スタッフに感謝を述べ、「相手を負かしに行っての2着。よく頑張った。あれで負けたのだから勝ち馬を称えるしかない」と、悔いを残さぬ馬の走りに満足げな表情を見せた。
また、2着から1馬身差3着のタガノアイゼンには、この4月にデビューしたばかりの近藤颯羽騎手が起用されていた。人馬共に所属している藤ケ崎一人調教師は、馬の健闘を称えつつ近藤騎手についても「乗り替わりになると決まった時点で、近藤君で行くと決めた。減量もない中で、良く頑張ってくれた」と労った。当の近藤騎手は「凄く緊張したが、スタートが決まり気持ちが楽になった。ただそこから冷静になりすぎ、仕掛け遅れてしまったのが反省点」とレースを振り返る。「先生にも、馬主さんにも感謝している。(環境として)名古屋だからこそこういう機会ももらえるのだと思う」と話す視線の先には、次の新たなる挑戦とそこでの活躍をすでに見据えているようだった。
それまで死力を尽くして戦ったプレイヤー同士も、レースが終われば“ノーサイド”。アストラビアンコの強さと、馬に関わった全ての人々の多大な労苦を直に見て知っている他の騎手や調教師など厩舎関係者たちの多くが、レース後口々に「良かった良かった」と笑顔で引き上げていく様もまた、大一番だからこそのスポーツの神髄に溢れた、素晴らしい風景だった。
取材・文坂田博昭
写真岡田友貴(いちかんぽ)
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角田輝也調教師
スタッフみんなが一丸となってこの馬を作ってくれたと思うし、細川騎手と一緒にこのレースを獲りたいと思っていました。前走で負けたからこそ、今日があると思っています。秋までしっかり充電し、身体を作って、この走りに気性がしっかりついてくれば、次世代の名古屋のエースになれると思っています。







細川智史騎手
今日は1頭馬を前に置こうかと思っていましたが、スタート後思いのほか進み具合が良く、イチかバチか勝負してハナに立ちました。最後は、お客さんも僕を応援してくださって声も聞こえたので、少し早かったけれど嬉しくて手を上げてしまいました。駿蹄賞の負けが、僕と馬を進化させてくれました。