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今年も韓国で輝いたディクテオン


最後方から差し切り6馬身差圧勝
 期待にこたえコリアカップ連覇

8歳でも衰えなく再び韓国へ

「昨年もコリアカップへ遠征して、地方所属馬として初となる海外ダートグレード競走優勝という偉業をなし遂げました。勢いそのままに東京大賞典を制覇し、8歳シーズンとなる本年も、川崎記念や帝王賞で上位に食い込む競馬を見せているように衰えを感じさせません。状態はなんら問題なく、元気いっぱいの様子です。それらを踏まえ、次走については様々な選択肢を元に検討を行いましたが、コリアカップ連覇を狙うことが最適解であるとの結論に至り、2年連続での遠征の決断を下しました」(G1レーシングの担当者)

ディクテオンの活躍でG2昇格

この春、コリアカップはアジアパターン委員会から国際G2昇格が認められた。直近3年間のレースレーティングの平均値が、国際G2の基準値である110を上回ったからだ。レースレーティングは1着馬から4着馬までのレーティングの平均値で算出される。ディクテオンは東京大賞典GI勝利で、コリアカップ勝利時に115だったレーティングを118へと伸ばし、レースレーティングを114.5まで引き上げた。国際G1の基準値は115。韓国のホースマン達にコリアカップのG1昇格を期待させることとなり、今年もディクテオンが出走するという一報が届くと、彼らは歓迎ムードとなった。

韓国馬事会(KRA)のレーシング担当エグゼクティブ・ディレクターのソン・デヨン氏も次のように話す。

「コリアカップが国際G2に昇格したことは、韓国競馬の国際化に向けた私達の取り組みにおいて重要な節目となりました。このレースでは、長年にわたり、数々の素晴らしい優勝馬が誕生してきましたが、ディクテオンがそれを引き継いでくれた形です。そして、ディクテオンがコリアカップと東京大賞典の2つの大レースを制したことは大変喜ばしい出来事で、今年もタイトル防衛を目指して再び出走してくれたことをうれしく思っています」

だが、主役ともなれば、その首を狙う者も現れる。特に今年は韓国には地元期待のクリーンワンが出走を表明しており、その脚質が逃げであることから、どうすれば後方からレースを進めるディクテオンを負かすことができるのか。分析をはじめる韓国の記者もいた。

この状況に、荒山勝徳調教師は「神様のように扱われているね」と喜びつつも「あんまり注目されても」と本音をのぞかせていた。

今年は矢野騎手が現地へ帯同

今年の韓国遠征も、昨年とほぼ同じスケジュールで進められた。8月中旬に大井・小林分厩舎の検疫厩舎へ入厩し、真島大輔調教師を背に国内最終追い切り。その2日後にはソウル競馬場へと移動した。唯一、昨年と違った点は、仁岸尚昌厩務員と共に現地に帯同したのは藤田凌騎手ではなく矢野貴之騎手だったことだ。

「その点だけが不安というか。藤田の方が良かったりしてね」。矢野騎手はそう笑うと次のように話した。

「騎手生活24年。今までの騎手人生の中でこういう馬に巡り合ったことはなかったし、今後、こういう馬にまた巡り合えるかと言ったら、確率的に低くなっていくと思います。1週間、ディクテオンと向き合えることを幸せに感じますし、今後の自分の糧にもなると思うので来させてもらいました」

10日間の滞在中、矢野騎手は2日間だけ日本に帰った。レース感を鈍らせないために大井競馬場で騎乗。その間、7戦騎乗して4勝。その中には荒山調教師の管理馬ティントレットで勝利したアフター5スター賞も含まれる。表彰式後の花道では、多くのファンからグータッチを求められ、たくさんのエールを受け取った。

「荒山調教師のバックアップがあって、こういう強行日程ができました。しっかり勝てたことで自分自身への自信にもなりました」

何とか結果を出したい。これがずっと続くとちょっと耐えられない。それくらいのプレッシャーで自分を追い込んでいた矢野騎手。アフター5スター賞の勝利は、いい流れに乗れていると感じていた。

それは目に見える形でも表れてくる。ソウル競馬場の馬場の良化だ。今年5月の砂の入れ替えの影響か、それとも到着時から続いた雨の影響か、週前半の調教では馬場状態の悪さが気にかかっていた。晴天となった週後半も気温がなかなか上がらず、荒山調教師に「昨年より悪い馬場でのレースになるかもしれない」と報告したほどだった。ところが、レース当日の馬場水分は6%まで回復。14%だった昨年よりもディクテオン向きの馬場となったのだ。

6馬身差圧勝で連覇達成

今年のコリアカップG2は、ディクテオン、JRAのサンデーファンデー、そして韓国のクリーンワンの3強争いと言われた。

ゲートが開くと真っ先にハナを奪いに行ったのはサンデーファンデー。これにクリーンワンが1コーナーで追いつくと、この2頭がレースを引っ張っていった。

ディクテオンは最後方からの競馬となったが、1コーナーの通過タイムは19秒8と昨年より1秒近く速い数字。それでも相手は前を行く馬と決めていた矢野騎手は、向正面に入るとその差を詰めにかかった。そして、3コーナーで前2頭を射程圏に捕らえ、息の上がったクリーンワンの内へと進路を取る。これは、最後はラチを頼らせた方がいい脚を使ってくれると考えていたからだ。矢野騎手はディクテオンの持ち味を次のように分析する。

「強い精神力と恐ろしいほどのスタミナだと思っています」

最後の直線で、ディクテオンはその言葉通りの走りを披露した。抜け出したサンデーファンデーを残り200メートルで捕えると、並ぶ間もなく突き放してあとは独走状態。2着に6馬身をつけてゴールしたのだ。

韓国の競馬ファンの心もつかむ

韓国競馬の客層はここ数年で変わってきたという。日本と同じように、カメラ片手に競馬場を訪れる人が増えているのだ。レースを終えたディクテオンの前には、その雄姿を写真に収めようと「矢野さーん!」、「おめでとう!」の声が飛び交った。矢野騎手もその言葉に何度も応え、迎えにきた仁岸厩務員と共にポーズを取った。このファンサービスが、韓国の競馬ファンや関係者達の心をわしづかみしたのかもしれない。

表彰式が終わると真っ先に矢野騎手達を取り囲んだのは韓国のメディアだった。そして、それがひと段落すると今度はファンからのサイン攻めがはじまった。彼らが手にしているのはディクテオンの写真。昨年のコリアカップで撮影したものだろう。この状況をKRAのスタッフや警備員が収め、検量室裏で日本のメディア用のインタビューが始まった時には、次のレースが始まっていた。

「どや!うれしいです!」

矢野騎手が開口一番叫ぶと、見慣れた顔にほっとしたのか、そこからはいつもの荒山調教師と矢野騎手のくだけた会話がはじまった。

「今年ほど本当に勝ちたいなと思ったことがなくて。ここ最近では一番勝ちたいなと思っていたので、この1週間ピリピリしていました。僕自身も。そういう意味じゃ、本当……」

「韓国はピリ辛があるからね」

「そうそう、本当そうなんですよ……」

矢野騎手に茶々を入れる荒山調教師。その言葉で微妙となった空気を矢野騎手がつっこんだ。

「失笑ですけど」

そして、矢野騎手の目標でもある「荒山調教師を泣かすことができたか」という話題に。

「正直なところ、目に光るものがあったぽいですね」

「歳を取りましたね」

「矢野の奥さんが号泣だったの。それの3分の1くらいちょっと出たかなって、涙が」

最初は素直に泣いていたことを認めた荒山調教師だったが、矢野騎手につっこまれると言い返したくなるようだ。矢野騎手の奥さんを引き合いに出す。

「(僕は)荒山先生が泣いているところを見ていないので、東京大賞典連覇で泣かせられたらなと思っています。この目で見るまではね。それを目標に頑張りたいと思います」

話を軌道修正しようとする矢野騎手。しかし、スイッチの入った荒山調教師は止まらない。

「矢野が乗っているとは限りませんからね。1人で言っていますけど。結構、僕はジョッキーの引き出しはある方なので」

これには、さすがに矢野騎手もたじたじだった。

「厳しい厩舎なんでね。荒山調教師の目に留まるように、また一から頑張りたいと思います。大井に帰って」

最後は指ハートでツーショット撮影に応え、仲睦まじさを見せた荒山調教師と矢野騎手。そこへ韓国のメディアから、韓国のファン向けにコメントをお願いされた。既に最終レースも終わり、場内はまばら。その中を2人は笑顔で最後まで対応していた。

韓国の関係者も3連覇に期待

「ディクテオンが持つ本当の力をこれからも証明してほしいと思っています。ダートのトップホースを長く現役で走らせ続けることは簡単ではありませんが、健康で走る意欲を持っている限り、できるだけ多くのレースでその姿を見たいです。真のダート王としての地位を確立して、これからもその力を証明してくれたらと願っています」

そう話すのはKRAのアナウンサー、ジョー・キムさん。矢野騎手にツーショット撮影をお願いするほどディクテオン陣営に魅せられた1人だ。ディクテオンは、今が充実期で、さらに上を目指せる馬だと思っているそうだ。当然、「3連覇を目指します」という荒山調教師の発言に大きな期待を寄せている。

「コリアカップを3連覇した馬はこれまでいませんので興味深いです。そのためにも、この先1年間、ディクテオンが健康で無事に過ごせることを願っています」

2度の韓国遠征で韓国に多くのファンが誕生したディクテオン。9月8日に帰国したばかりだが、すでに彼らは来年のコリアカップG2で会えることを待ち望んでいる。


取材・文・写真森内智也