異次元の末脚で直線一気
フィンガーは三冠ならず
逃げ馬の宿命と言おうか、もろさと言おうか。今年のダート三冠最終戦は、注目の2頭が、自分たちが作り出した展開に泣いた。前半3ハロン34秒0の猛ペースでは、大井2000メートルを押し切ることはできない――。
登録馬が出た時点では、羽田盃JpnIと東京ダービーJpnIを制したフィンガー(JRA)に注目が集まった。ダート三冠体系がスタートして3年目で、早くも三冠馬が誕生するのか。その半面、アメリカのデルマー競馬場で行われたパシフィッククラシックステークスG1(11着)からの帰国初戦で、状態面がどうなのか。期待と不安が入り混じり、当日は5番人気でレースを迎えることになった。
一方、人気面で注目を集めたのはイッテラッシャイ(JRA)。前走の不来方賞JpnIIは、コパノリッキーが持つ盛岡2000メートルのレコードに0秒1差まで迫る圧巻の逃げ切り。実業家の堀江貴文氏(名義はSNSグループ(株))が所有していることでも話題を集め、フィンガーの主戦も務めていた戸崎圭太騎手がこの馬を選んだ点でも有力視された。
この日の大井競馬場は良馬場で平均的な時計だったが、思いのほか逃げ馬の好走が目立っていた。そんな舞台も激流に拍車をかける形になった。
ゲートが開き、大方の予想以上に逃げ争いを演じた2頭。ゴール板前でも並んだままで、そのまま1コーナーに突っ込んでいく。枠順の差でフィンガーが前に出たが、隊列は縦に大きく伸びた。前半3ハロンは前述のとおり34秒0。スマートファルコンのスーパーレコード2分0秒4が出た、あの軽馬場の東京大賞典GI(2010年)ですら34秒8だった。平均的な馬場で、3歳馬同士のレースとしては厳しすぎる流れ。それでも三冠最終戦の大事な舞台だけに、2頭は後悔のないよう、持ち味を出し切りたかったのだろう。
それを後方14番手で進めていたのが、2番人気のシルバーレシオ(JRA)だった。東京ダービーJpnIでは2着と苦杯をなめたが、大井コースに対する適性は示しており、岩田望来騎手の騎乗停止に伴う代打・横山武史騎手も期するところがあった。
3コーナー手前から抜群の手応えで進出。4コーナーで先行集団を射程に入れると、持ち前の末脚を繰り出した。1頭だけ次元の違う、後半3ハロン37秒6。脚いろが鈍った各馬を次々と飲み込み、最後の一冠を手にした。
鮮やかな追い込みだった。向正面では大きく差をつけられ、横山騎手も「結構心配でした」と話すほどだったが、縦長の隊列だったぶん、ロスなく上がってくることができた。「成長途上のなかでもこれだけ走れる子ですから、なかなかのポテンシャルを秘めているのかなと感じます」と、ジョッキーは将来性を高く評価した。
管理する野中賢二調教師も「相変わらず進みが悪く、横山騎手とはもう1列前くらいにはつけたいと話していたのですが、思い通りにはいかなかったですね。でも余裕は感じられたので、直線で脚は使えるかなと見ていました」と激戦を振り返る。優先出走権を獲得したJBCクラシックJpnIは「選択肢のひとつとして考えたい」とするにとどまったが、こうした脚質だけに、参戦してくれば面白みのある一頭だ。
2着にはUAEダービー(G2)馬で、3番人気に推されたワンダーディーン(JRA)が入った。道中は5、6番手を追走し、消耗戦のなかでも後半3ハロン39秒0の脚を使った。「久々で少しイレ込んだけど、レースではすごく素直でした。最後は少し苦しくなりましたが、このメンバーを相手に力を発揮してくれました」と松山弘平騎手。サウジダービーG3・4着、ケンタッキーダービーG1・8着と世界を相手に戦ってきた経験は大きく、今後も立ち回りのうまさを活かしてダート戦線を盛り上げてくれるに違いない。
三冠がかかったフィンガーは9着で、「何が何でもハナということで、この馬の競馬はできたと思います。ただ、4コーナーで手応えがいっぱいになってしまいました」と坂井瑠星騎手。一方、1番人気のイッテラッシャイは最下位の16着に敗れ、戸崎騎手は「ペースが速くなったとはいえ、向正面から苦しそうでした。雰囲気は良かったのですが……」と肩を落とした。成長途上の3歳馬らしいと言えばそれまでだが、この経験が馬にとっては大きな刺激となるはず。さらなる成長を期待したい。
取材・文大貫師男
写真いちかんぽ(築田純、岡田友貴)
Comment

野中賢二調教師
東京ダービーで悔しい思いをして、それを糧にみんながやってきたことが結果として出たことをうれしく思います。直線で勢いよくかわしましたが2着馬もしぶとかったので、最後まで力が入りました。JBCの権利は得ましたが、まだ成長途上なので、間隔を詰めて使うかどうか確認していきたいと思います。













横山武史騎手
代打として任されたからには結果を、と思っていました。調教のときから、前半であまり急かすとよくないイメージだったので、前半のリズムを大事にしました。3~4コーナーでの反応が想像以上に良く、前を捉えてくれるんじゃないかな、と期待して追い出しました。もっと良くなる余地がありそうです。