JOCKEYS HEART

どんなきっかけで騎手の道を選んだのか。
騎手になってから、どのように競馬と向き合い、どんな夢をもって走っているのか。
女性騎手として第一線で活躍する彼女たちの想いをお伝えします。

#08 濱尚美(高知競馬)

  • 濱尚美騎手
  • 高知競馬
INTERVIEW
INTERVIEW

どんなきっかけで騎手の道を選んだのか。
騎手になってから、どのように競馬と向き合い、どんな夢をもって走っているのか。
女性騎手として第一線で活躍する彼女たちの想いをお伝えします。

祖父の勧めに、興味本位で。

祖父の勧めに、興味本位で。

 騎手になったのは、祖父に勧められたのが理由です。小さい頃からの夢とかではなくて。私は高校に行く気満々だったんですけど、受験間際に祖父に勧められて。祖父が競馬好きなのと、本人もジョッキーになりたかったこともあって。私は私で、勧められるがままに興味本位で決めた感じです。小さい頃から色んなことをやってきたので、挑戦することが好きだったんですね。テニス、卓球、水泳、陸上、体操、バスケ、習字、ピアノ…ほんと、色々やっていましたね(笑)。小学校の時は色々やっていて、中学校からはバスケ一筋でした。でも、将来プロになりたいわけでもないし、どうしようかなぁって考えている時に、騎手を勧められて、思考回路がガバッと騎手にもっていかれた感じですね。

逆境の3ヶ月を乗り越えて…

 騎手を勧められたのが教養センターの受験締め切りの一週間前くらいだったんですよ。そこから走り込んだりしましたが、体力テストのうちの一つだった懸垂が一回もできなくて。受かるか心配でしたが、なんとか合格しました。でも、入学して最初の3ヶ月はとても大変でしたね。同期のなかでは一番年下で、女性は私だけで。あとは乗馬未経験だったので、最初は一人で飛び乗りもできなくて。できないと訓練に参加させてもらえなくて。腕力をつけるために懸垂はできるけど、乗り方を同期に聞ける感じでもなかったので、教官に聞いたり、騎乗日誌を何度も読み返して、一人で試行錯誤して、やっとできるようになりました。そんな状況でしたが、やめたいとは一回も思いませんでした。辛いから、できないから、やめますと言うのが悔しくて。絶対やめるもんか!と思いました。そうして月日が経つうちに、同期との絆もだんだん深まっていって、最後の一年間は本当に楽しかったですね。

反省ばかりの、初勝利。

反省ばかりの、初勝利。

 デビュー戦は、たしか第1レースだったと思うんですけど記憶はないですね。ゲートまでは心臓がすごくバクバクして、ドキドキだったんですけど、ゲートが開いて気がついたらゴールという感じでした(笑)。初勝利は、それから一週間後ですね。グリグリの1番人気に乗せてもらって。でもレース自体は滅茶苦茶で全然ダメでしたね。逃げる馬なのにゲートで出負けしてしまって。両サイドの同期の騎手の間をなんとか割って入って、その後は馬なりで逃げ切りましたが、自分でまったく馬をコントロールできなかったので、誰が乗っても勝てるようなレースをしてしまって、反省ばかりでしたね。でも、祖父が自分で作った横断幕をもって「なおちゃ〜ん」って、応援してくれたのは嬉しかったです。

状況に応じて、臨機応変に乗れる騎手に。

 初勝利のあとも、何度か同じ馬に騎乗させてもらいましたが、だんだん自分でコントロールして乗れるようになってきました。騎手としてはまだまだですが、理想としているのは同じ高知の倉兼育康騎手ですね。ベテランの方なんですが、重賞レースでも、レース展開が予想と違う展開になっても、全然焦らないでレースをするんですよね。私だったら、「どうしよう?」ってなっちゃうんですが。また、自分に不利な展開になっても、軌道修正をして、レースをものにしてしまうんですよね。すごいと思うし、自分もそうなれたらいいなと憧れます。状況に応じて、臨機応変に乗れる対応力と引き出しの多さ、あとは技術もないとなかなかそうはいかないと思いますが。

2020年10月25日。濱騎手は最終レースで落馬。
大腿骨骨折で休養を余儀なくされる。
怪我で深まった、競馬への想い。

怪我で深まった、競馬への想い。

 あの時は、また乗れるようになるかという不安しかなかったですね。祖父からは「もう、乗りたくないんじゃないか」というような連絡が来たりしたけど、早くレースに復帰したいという気持ちはありました。それで年が明けて2月に高知に帰ってきました。復帰はまだ先かなと思っていたんですけど、馬に跨って軽く運動しているうちに、みるみる回復したんですよ。自分でもビックリするくらいで、馬の力はスゴイっ!て思いました。おかげで、戻って4週間足らずで復帰できました。それからですね、意識が変わったのは。前は騎乗できるのが当たり前のことだと思っていたけど、とてもかけがえのないことなんだと思うようになって。騎乗できるありがたみが深くなりました。技術的に変わったことはないですが、意識が変わったことで成長できたかなと。だからいまでは、怪我をしたのも無駄じゃなかったんだと思えます。これから先も怪我をする可能性はあるけど、とにかく最後まで悔いのない騎手人生を送りたいですね。所属する那俄性調教師や馬主さん、関係者の方々、そしてファンの皆様に恩返しのできるような騎手になりたいです。