THE DEBUT! ~新人ジョッキーデビュー戦 観戦記~

神尾香澄(川崎競馬)

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DOCUMENTARY
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2021年、川崎競馬で18年ぶりに女性騎手が誕生した。静岡県出身の神尾香澄騎手だ。デビュー戦は4月19日から開催された第1回川崎競馬・初日の第3レース。騎手としてのスタートラインである特別な一日。彼女はどのような思いでレースに臨んだのか。調教師をはじめとする関係者は、どのような思いでレースを見届けたのか。神尾騎手の記念すべきデビューの一日を追ってみた。

2021年、川崎競馬で18年ぶりに女性騎手が誕生した。静岡県出身の神尾香澄騎手だ。デビュー戦は4月19日から開催された第1回川崎競馬・初日の第3レース。騎手としてのスタートラインである特別な一日。彼女はどのような思いでレースに臨んだのか。調教師をはじめとする関係者は、どのような思いでレースを見届けたのか。神尾騎手の記念すべきデビューの一日を追ってみた。

前回は

待ちに待った、デビュー戦。意外や、それほど緊張した様子はない。「焦ったら負けなんで、流れをうまくつかんで乗りたい」とレース前のコメント。デビュー戦は第3レース。〈レーヴエモーション〉は14頭中8番人気でゲートイン。心配された反応の鈍さはなく、出遅れることなくスタートするが、結果は7着。勝利はならなかった。残すはあと5レース。果たして、勝利の女神は微笑むのか…。

第三話:デビュー戦篇 ②

2番人気で迎えた、2戦目。

デビュー2戦目は第4レース。騎乗するのは、安池厩舎の〈ミュウハッピー〉。神尾騎手自身、レース前に密かに期待をしていた馬だ。競馬新聞の予想も各紙で○、△、▲が並ぶ。最終的に単勝オッズ7.1倍、12頭中2番人気でゲートイン。出だしはよく、2番手を追走。4コーナーまで粘るが、最後の直線でバテて10着。「人気がある馬とわかっていましたけど、プレッシャーはありませんでした。でも、流れがつかめなくて行き過ぎちゃいました。抑えることができたら、もう少し上にいけたと思います」。本人が言うように、加速がよかったぶん、勢いに任せて行ってしまった感じだった。スタートから絶好のポジションだっただけに、悔いの残るレースだった。

2番人気で迎えた、2戦目。

試練の、3戦目。

次の第5レースは、山田質調教師が期待していた〈ヤマトフェニックス〉でのレース。しかしその期待は本馬場入場で脆くも消える。馬が言うことを聞かず、前に進まないのだ。少し歩いて止まったり、戻ろうとしたり。前脚を上げて暴れるシーンも。この様子に山田質調教師は「どちらかというと大人しい馬だったので、あんな風になるとは思いませんでした。ただ、ビックリです」。スタンドの観客もざわつき、一時はどうなるかと思ったが、ようやくゲートまで辿り着いた。スタートが心配されたが、出だしはスムーズ。神尾騎手も行けると思ったのか、大外枠からガンガン攻め、ハナを切る。終始1番手で、ひょっとしたら、という期待が高まる。最後の直線も1番手で入ってくるが、残り100mで脚色が悪くなり7着でゴール。第4レースと同じような展開に「最初に勢いをつけたのは良かったけど、さらに仕掛けちゃって。逆に抑えにいかなきゃいけないところを、余分なことをしたから、馬がどんどん行く気になって、最後はバテちゃった。何をやっているんだよ、という感じですね」と山田質調教師の厳しいコメント。レース前のアクシデントからは思いも寄らない好スタートだっただけに、残念でならない様子だった。

試練の、3戦目。

今日の学びを、次のステップに。

第7レースは13頭中8番人気の〈ナインシュヴァハ〉で13着。第8レースは12頭中5番人気の〈プリモ〉に騎乗。「この馬は前走3番手で行って勝っていたので、行けると思ったら行っていいよ、と話していたんです。スタートが良くて、1コーナー手前まではすごく良かったのに、そのあとが全然ダメで。馬とのリズムがまったく合っていなかったですね。行くなら行く、抑えるなら抑えなきゃいけないのに、ガチャガチャでした」。山田質調教師が振り返ったように、スタートが良く先行するも最後の直線でつかまり9着という結果だった。最終の第12レースは13頭中10番人気の〈エック〉で7着。神尾騎手に今日の感想を聞くと「勝てなかったけど、いろいろ学びたいと思ってレースに臨んで、勉強することができました。勝つのは大変だと思うけど、もう少し余裕ができたら、もっと楽しめるんだろうなと思います」と笑顔で答えてくれた。

今日の学びを、次のステップに。

(写真)第8レース:11番プリモに騎乗の神尾騎手(スタート後の直線から第1コーナーまで)

デビューして、変わったこと。

5月12日、神尾騎手と山田質調教師にインタビューする機会を得た。この時点で34戦未勝利。デビューしてから、何か心境の変化はあったのだろうか。
「もっと努力しないといけないという気持ちが芽生えたと思います。デビュー前は、実戦を知らないから自分で描いた騎手生活を送れると考えていたと思うんですけど、デビューして実力不足がよくわかったので、いまどんどん努力している。本当はデビュー前からしなきゃいけなかったんですけど、足りなかったですね」という山田質調教師の言葉に、神尾騎手も「その通り」と頷く。今はレース映像をたくさん見て勉強し、木馬でイメージトレーニングをし、調教では馬によって乗り方を変えたり工夫をしているという。同じことをやるにしても、実戦経験なしでやるのと、経験した上でやるのでは、その成果は違ってくるだろう。経験を重ねるほど、よりリアルに様々なことを考えてトレーニングすることができるからだ。きっと、この努力の積み重ねが、近いうちに彼女を初勝利へと導くに違いない。

デビューして、変わったこと。

デビューから42戦目、神尾騎手がついに初勝利を成し遂げた。
初勝利した神尾騎手から、こんなコメントが届いた。

“勝ててほっとしました。周りの方からアドバイスをもらったり、先輩方も励ましてくれて…
勝ててよかったです。1着でゴールするのはとても気持ち良かったですし、勝利後はたくさんの方が喜んでくれて、もの凄く嬉しかったです。これからは、今できることに全力で取り組んで結果につなげていきたいです。”