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裏DRAMATIC3 制作者の舞台裏

「砂のアートと、砂の競馬。このコラボはいけるんじゃない?」今思えば、東京某所の会議室から、ドラマははじまっていた。
CM、ポスター、WEBのプロジェクトを手掛ける広告制作スタッフは東京にいる。プレゼンテーションの後、
砂像彫刻家の茶圓氏にファーストコンタクトをとった。茶圓氏はそのとき、姫路にいた。
大きな工事を行う姫路城の近くで、砂の姫路城をつくっていた。茶圓氏は企画書を見て、賛同してくれた。
と同時に、不安の色も見せた。「いけるかなぁ、いろいろ大変だろうなぁ。でも一緒にがんばろう」
弾丸出張で姫路までやってきたスタッフの本気度だけは伝わった。

一度東京に戻り、スケジュールや予算のことを考えたスタッフは、茶圓氏の不安の意味を少しずつ知ることになる。
高さ約4mの砂像を4面つくる。そのためには、ここでCM撮影。ここでポスター撮影。
しかし茶圓氏は途中で海外に行ったりする。だから、かなりタイトなスケジュール表ができた。
まず、スタッフの頭を悩ませたのは、土台づくり。砂像の完成日を守るためには、すぐにでも土台をつくる必要がある。
机上でばかり考えていたスタッフは、砂像の大変さをリアルに感じた。「砂像とは、半分が土木工事。半分がアートなんだ」

一週間ほどで土台が出来上がり、スタッフは鳥取へ向かった。鳥取砂丘を観光し、日本酒と白イカを堪能し、
砂の美術館を見学し・・・初めての鳥取を楽しんだスタッフだったが、制作に入ると、数時間で絶句していた。
暑い。とにかく暑い。全国ニュースで取り上げられるほど、鳥取は暑かった。体感温度は日々40度を超える。
そんな猛暑の中、黙々と砂像を刻みつづける茶圓氏に、まずは驚愕した。

とはいえ、スタッフはわがままだ。彼らは平面のプロである、グラフィックデザイナーとして、
パソコンでつくったラフのようにやってくれと言う。しかし、立体的である砂像ではそれができない。
しかし、そのせめぎ合いが茶圓のソウルを奮い立たせていた。
たとえば、こういう解決策はどうだと、提案を出しつづけた。

砂像は、上から下に向かってつくられていく。ゆえに、下はこうなるだろうという想像のもと、上からつくっていく。
彫ってはひいて見る。彫っては目をつむって考える。このまま先に進んでいいものか。砂に負担をかかえていないか。
茶圓氏は、自問自答しながら砂像をつくりあげていった。

CMの企画は、そういう一部始終を見逃さず撮影するというライブなものに決まっていた。日々現場に張り付く、忍耐と体力のある撮影だ。ディレクター自らカメラを構え、プロデューサー自ら雑用をこなした。
砂像制作を目の当たりにして思うのは、つくる最中が一番面白いということだ。
茶圓氏も同じことを言う。「砂像は、パフォーマンスも含めてアートなんだ」見学者がいても、嫌な顔ひとつせず、積極的にコミュニケーションをとる姿が印象的だった。砂像は、知れば知るほど面白い。

一面目の制作が終わったあと、スタッフは一旦東京に戻り、茶圓氏は海外へ飛んだ。スタッフは考えた。もっとクオリティを
上げるために何をすべきか?スタッフはラフデザインを平面ではなく、粘土でつくることで
より立体的で細かい指示ができるのではないか?

その粘土でつくられたラフを見て、茶圓氏は言った。
「粘土と砂は違う。砂の粒子ではできることとできないことがある。 でもね、そこが面白いんだよ」
しかし、スタッフの本気度は伝わった。
作業が深夜に及んだり、早朝からはじまったりするようになった。
グラフィックデザイナーとの葛藤を楽しんでいるように見えた。

ポスター用の撮影は砂像が完成した直後に行われた。ツヤが出るようにと、撮影前には液体のりを念入りに吹きかけた。
微妙に角度を変えるだけで砂像の顔つきが変わる。カメラマンはアングル決めに一日使い、翌日に本撮影を行った。

砂像制作は、アシスタントこそつくものの、実質は茶圓氏一人で行われた。スタッフにとって、一番怖いのは、
大事に大事につくられている砂像が途中で損壊することだ。そんなスタッフの心配をあざ笑うかのように、
台風が来た。やってくる前日に、日よけのテントを外し、応急処置でビニール袋で砂像を覆った。
砂像は無事だという連絡を聞いたとき、スタッフはハイタッチを交わしていた。
みんなの情熱が伝わったのか、砂像は猛暑と豪雨と二度の台風に耐え、損壊することはなかった。

そうして、4面の砂像は、およそ2ヶ月で完成した。バックが鳥取砂丘という絶景にふさわしく、
躍動感を感じるような砂像ができた。

茶圓氏ともっと話をしたいと思ったスタッフは、インタビューをお願いした。そこに見えたのは、
アーティストの顔と、エンターテイナーの顔だ。「砂像は、原始時代からあるような古いアート。
だが、エコロジーの時代という流れに乗れば、最先端のアートでもある。」
え?これってほんとに砂だけでできたの?っていうところに面白さを感じたりする。
観に来た人が、携帯で写真を撮ってメールを送ったり、ブログに乗せたくなる。そういうアートがリアルなんだ」
茶圓氏は少しはにかみながら、砂像への想いを語ってくれた。
砂像によって、人が人を呼んで盛り上がり、町が次第に生き生きしてくる。村おこしの考え方に
非常に近いのかもしれない。若いカップルが砂像を見て素直に感動し、写真を撮ってる姿を見て、
単なるアートにとどまらない砂像の可能性を強く感じた。

茶圓氏は、最後にこう締めくくった。
「はじめにこの話を聞いたとき、素直に嬉しかった。人類がはじまって、馬という動物ほど、美しい動物はいない。
 それを砂の粒子で描くというのは、本当に楽しいんです。砂像をつくったり、観たりする気持ちと、
 競馬をライブで見る気持ち。そこには相通じるものがあると思います」

今という一瞬は、歴史になる。
砂像も競馬も、それは同じだ。

準備から制作物の仕上げまで合わせれば、およそ3ヶ月。
ぶつかりはしたが、スタッフみんなが同じ方向を向いていた。

だが、

DRAMATIC3の歴史は、まだはじまったばかりだ。

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砂像アーティスト茶圓勝彦プロフィール