2009年6月1日(月) 盛岡競馬場 2,000m


 

後続を離しての叩き合い、小柄な馬体も闘志に火がつき二冠達成

 
濃い緑の中に浮かび上がる盛岡競馬場。それまで、降ったり止んだりを繰り返していた小雨もピタリと止み、雲間から光が差し込む幻想的な景色の中、先頭でゴールを駆け抜けたのは、1番人気マヨノエンゼルだった。
 402キロの小柄な馬体。この日初めて騎乗した小林俊彦騎手は、返し馬の時点では半信半疑だったという。本当に強いのだろうか?
 マヨノエンゼルに初めて騎乗した者は、口を揃えて言うのだそう。それが……ゲートを出ると、馬が変わった。
 先行したい馬たちを行かせ、マヨノエンゼルは中団外のポジションにつける。とても402キロとは思えないほどの力強いストライド。ペースが落ちた2コーナーからは押さえたまま先団に取り付き、勝負どころの4コーナーでは、他のすべてのジョッキーが仕掛けているというのに、小林騎手だけが手綱を持ったままの状態で上がっていく。そしてゴーサインを出すと、アッという間に先頭へ。その外から、行き脚のついたトキワノマツカゼが並びかけ、交わされた瞬間、マヨノエンゼルのギアがまた変わった。グイッとハミを取ってすぐに差し返すと、そこから先は絶対に抜かせないという闘志に火がついた。トキワノマツカゼも負けじと食い下がり、2頭は他の馬たちをグングンと突き放していった。ゴールまで続いた激しい叩き合いは、内と外に離れていたために、どちらが勝ったかジョッキーさえもわからなかったという。結果、単勝1.7倍の断然人気に支持されたマヨノエンゼルが、ハナ差で岩手ダービー馬に輝いた。
 前走の七時雨賞では他の牡馬たちよりも2キロ重い57キロを背負い、絶対に届かないと思われた位置から、豪快に伸びて2着に追い上げたマヨノエンゼル。まさに、負けて強しの内容だった。その激しいレースから中2週で挑んだ今回も、馬体重を減らすことなく順調に調整できたことで、葛西勝幸調教師は自信を持って送り出していた。勝負根性が桁違いに強いこの馬にとっては、2000メートルに距離が伸びることも心配していなかったという。これでマヨノエンゼルは、4月の阿久利黒賞に続き、岩手3歳ダート二冠を奪取した。
 ハナ差で涙を飲んだトキワノマツカゼにとっては、終始いい手応えで一度は抜け出しているだけに惜しいレースとなった。板垣吉則騎手がコースから引き上げてくる時に、前回までトキワノマツカゼに騎乗していた菅原勲騎手に向かって、馬上で悔しそうに話しかけていた姿がとても印象的だった。
 3着以下を6馬身ちぎっての2頭のマッチレースは、力と力のぶつかり合いとなり、見応えあるゴールシーンとなった。勝ったマヨノエンゼル、負けたトキワノマツカゼ、共に拍手を送りたい。

取材・文:赤見千尋
写真:森澤志津雄(いちかんぽ)

 
小林俊彦騎手
  道中はずっと手応えがよく、4コーナーまで楽に進めました。早めに抜け出す形になったけど、一度交わされてからものすごい勝負根性を発揮してくれましたね。最後は内外離れていたので勝ったかわからなかったです。身体が小さい馬だけど、レースに行くと全然違いました。  
 
葛西勝幸調教師
  ずっとここまで順調にこられたし、素質がある馬なので自信を持っていました。追ってからの反応がいいし、とにかく根性がある馬です。次走はまだ未定で、これから馬主さんと相談して、一息入れるか、どこか使うか決めます。