SPECIAL COLUMNSダート競馬、新時代へ

~新競走体系が与える効果を様々な角度から紐解く~

文:古谷剛彦

VOL.1

セリ市場の活況と
ダート競馬のレベルアップ

ミックファイア(ジャパンダートダービー)

ミックファイア(ジャパンダートダービー)

 今年の3歳三冠は、ミックファイア(南関東)、ベルピット(北海道)、ユメノホノオ(高知)と、3頭の三冠馬が誕生した。そのほかにも、ショウガタップリ(金沢)が無敗で二冠馬となり、西日本ダービーを快勝。この後は、ロジータ記念で南関東の牝馬たちと戦う。岩手では、牝馬のミニアチュールが牡馬路線と牝馬路線を二冠ずつ制覇する偉業を成し遂げた。

 ミニアチュールはホッカイドウ競馬でデビューした移籍組だが、それ以外は生え抜きの馬たち。しかも、北海道市場で取引されている。ミックファイアは、大人気のシニスターミニスター産駒の牡馬だが、一昨年のサマーセールで500万円(税別、以下同)をオンライン一押しで落札。ベルピットはサマーセール630万円、ユメノホノオはセプテンバーセール250万円で取引された。ショウガタップリはサマーセール410万円で、石川県馬主協会で落札されている。

 北海道市場は、5月のトレーニングセールに始まり、セレクション、サマー、セプテンバー、オータムと1歳市場が開催される。2019年から5年連続で前年比100%超えを続け、昨年もそうだったが、セプテンバーセールの時点で前年の市場成績を上回った。購買者が早い時期の1歳市場で良質の馬を探す傾向が、年を重ねるにつれて数字に表れている。
 昨年の6月、全日本的なダート競走の体系整備が発表された。7月以降に行われる(九州は6月下旬)1歳市場にとってこれまで以上に、地方競馬のみならず、中央競馬の関係者にとっては大きな転機となった。北海道市場はもちろん、セレクトセールでもダート向きの種牡馬の産駒が高額で取引されるケースが目立った。ダート三冠のインパクトはもちろん、古馬のダート体系が大幅に変更されることは、今まで以上に世界を見据えたレベルアップが想像できる。

 その中で、セレクトセール出身のウシュバテソーロがドバイワールドカップを制したことは、強烈なインパクトを与えた。そして、ミックファイアの南関東三冠達成は、地方競馬の関係者に勇気を与えた。市場の活況は、上場馬の質の高さとともに競走にもつながっていることは間違いない。

 全日本的なダート競走の体系整備は、2024年から始まる3歳ダート三冠ばかりがクローズアップされている。しかし、2歳である今年が改革元年であり、2歳馬のレース体系も各地で整備された。その中で、地方競馬デビュー馬によるネクストスター競走が、9月24日の金沢から始まり、佐賀、盛岡、門別、笠松、園田で行われた(10月16日現在)。

 地方競馬デビュー馬限定とはいえ、その地区でデビューした馬のみの争いではなく、ホッカイドウ競馬でデビューし、ネクストスターを狙って移籍するケースもある。そのことに、異論を唱える声も聞く。しかし、個人的な意見として「競馬の基本はオールカマー」という思いがあるので、生え抜き限定まで条件を絞ることには正直、賛同しかねる。今回のダート競馬の改革の根本は、「すべてのダートグレードを国際化し、“G”表記を目指す」ことである。ネクストスターが最大目標ではなく、ネクストスターから兵庫ジュニアグランプリJpnII、そして全日本2歳優駿JpnIと、JRA勢に立ち向かう流れがある。ネクストスターだけを見るのではなく、もっと大きな視野でダート競馬を見て欲しい。

 生え抜きだけのメンバーとなったネクストスターは、デビュー頭数が全国一の北海道と、西日本最大の園田のみ。それ以外の金沢、佐賀、盛岡、笠松の4場は、ホッカイドウ競馬から移籍した馬も出走した。しかし、金沢・ダヴァンティ、佐賀・ウルトラノホシ、盛岡・フジユージーン、笠松・ワラシベチョウジャは、すべて地元デビュー馬による優勝だった。

ダヴァンティ(ネクストスター金沢)

ダヴァンティ(ネクストスター金沢)

 北海道は2歳馬のレベルが高いとはいえ、門別で思うような出世ができずに移籍する馬が、他地区でそう簡単にビッグタイトルを勝てる時代ではない。それは、1歳市場の活況ともリンクしている。ダヴァンティは昨年のサマーセール250万円、フジユージーンはオータムセール500万円、ワラシベチョウジャはオータムセール180万円、ウルトラノホシはセレクションセール1500万円という高額取引馬だ。ちなみに、門別を制したトラジロウはサマーセール720万円、園田を優勝したマミエミモモタローはサマーセール200万円と、これまで行われたネクストスターはすべて、北海道市場の取引馬である。ネクストスター佐賀には、優勝したウルトラノホシの他、4着グッドタイミングも1350万円の高額馬で、新馬勝ちを収めた後はJRA小倉のフェニックス賞に挑戦。その後は九州ジュニアチャンピオンで3着、そしてネクストスター佐賀に駒を進めている。

 この後のネクストスターは、高知(10月29日)と名古屋(10月31日)に組まれている。高知は、距離を延ばして連勝中のプリフロオールインや準重賞の潮菊特別を快勝したウオタカなど将来性豊かな2歳馬が集う。名古屋は、10月4日のセレクトゴールド第3戦を制したミトノウォリアーや、デビュー戦から3連勝したリンクビーナスなどが注目される。移籍組の目論見を打ち破る、生え抜きの馬たちの意地を見たいものだ。

写真:いちかんぽ・NAR

PROFILE

古谷剛彦(ふるや たけひこ)

古谷剛彦
(ふるや たけひこ)

1975年東京都出身。2001年からホッカイドウ競馬パドック解説者となり、北海道を中心に活動している。グリーンチャンネル『地方競馬中継』『アタック!地方競馬』『KEIBAコンシェルジュ』『馬産地通信』にレギュラー出演。ホッカイドウ競馬LIVE『なまちゃき』解説者。スポーツ報知『こちら日高支局です』毎週水曜掲載。フリーペーパー『うまレター』南関東競馬NEWS担当。監修・著書に『地方競馬完全攻略ガイド』。

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