SPECIAL COLUMNSダート競馬、新時代へ

~新競走体系が与える効果を様々な角度から紐解く~

文:古谷剛彦

VOL.4

中央の厚い壁を打ち破るには
挑戦なくして成功なし

ウルトラノホシ(ネクストスター佐賀)

ウルトラノホシ(ネクストスター佐賀)

 2024年のダート競馬は、3歳ダート三冠、川崎記念JpnIの4月への移行、さきたま杯のJpnI昇格など、いよいよ本格的な改革を迎える。これまで当コラムでも、体系の変化やスケジュールの話題も書いてきたが、古馬のスケジュールはカテゴリーが幅広く、長きに渡り染みついた記憶も邪魔となり、私も覚えきれていない。

 ただ、1月11日に園田競馬場で行われたコウノトリ賞で、昨年の兵庫ダービーや園田金盃などを制したスマイルミーシャが、今年から園田競馬場で4月に施行される兵庫女王盃JpnIIIを目指すことを、管理する飯田良弘調教師がレース後のインタビューで答えていた。園田金盃で一線級の牡馬を破り、兵庫中距離のトップクラスに上り詰めたスマイルミーシャが、西日本にようやく設けられた牝馬ダートグレードを目指すことは、改革元年の象徴にもなる。それとともに、レース時期を覚えるきっかけにもなるだろう。大恵陽子さんが、スマイルミーシャにスポットを充てたコラムを当サイトで掲載されているので、ぜひご覧頂きたい。地元からスターホースを……。この強い思いは、ファンも後押しする。スマイルミーシャが、兵庫で行われる牝馬ダートグレードの初代女王に輝くことができるどうか!? 私ももちろん、スマイルミーシャの挑戦を応援したい。

 そして、3歳ダート三冠の前哨戦が、年明け早々に始まる。1月17日に船橋競馬場で行われるブルーバードカップJpnIIIには、JRA3頭、他地区3頭(北海道2頭、佐賀1頭)を含め9頭立てで覇を競う。このコラムが掲載される時には結果が出ているかもしれないが、地方所属馬たちの奮起を期待している。ただ、1週前にニューイヤーカップが行われたこともあり、南関東所属馬の出走が少なかったのは残念でならない。古馬中距離路線にも言えることだが、ダートグレードを避ける地方所属馬が多く、少頭数のレースになることが目立つ。

 一方、JRAで行われる重賞は出走頭数が一桁になることはほぼない。特にダート戦はレース数が少ないことも影響し、確実にフルゲートに近い激戦となる。ところが、地方のダートグレードに選出されれば、JRAよりフルゲートが少ない地区が大半なので馬群に揉まれるなどの不利が少なく、もしフルゲートになったとしても、出走馬の能力差などもあり縦長の展開になることが多いので、JRA所属馬にとってはレースを組み立てやすくなる

 短距離戦(1400メートル以下)に関しては、昨年もイグナイターがJBCスプリントJpnIとさきたま杯JpnIIを制覇したように、以前から地方馬が互角以上に戦えるカテゴリーである。スタートから各コーナーまでの距離が短い競馬場が多く、コーナーでゴチャついたり、ペースの緩急が激しいことなど、JRAで行われるレースとは異なる展開が少なくない。また、JRAで行われる古馬のダート重賞は、中距離に比べて短距離の方が圧倒的に少ない。1200メートルはカペラステークスGIII、1400メートルは根岸ステークスGIIIとプロキオンステークスGIII(24年は小倉開催のため1700メートル)のみ。JBCスプリントJpnIに向かう過程で、JRA所属馬が賞金加算をするには狭き門のカテゴリーとなる。

 しかし、マイル以上となると、フェブラリーステークスGIとチャンピオンズカップGIを頂点に、東海ステークスGII、マーチステークスGIII、アンタレスステークスGIII、平安ステークスGIII、エルムステークスGIII、シリウスステークスGIII、みやこステークスGIII、武蔵野ステークスGIIIと倍以上。どれもフルゲートになることが多く、同じ時期に地方競馬で行われるダートグレードも設定されている。

 JRA勢の中距離の層が厚くなるのは必然であり、この壁を打ち破るには、地方所属馬が積極的にJRAの重賞にチャレンジすることが望ましい。メイセイオペラやアジュディミツオーなど、地方所属馬が輝いていた時代は、JRA勢の層が今ほどは厚くなかったと言えばそれまでかもしれない。しかし、当時はダートグレードも開放したばかりで体系化がしっかりされていた訳ではなく、地方所属馬がフェブラリーステークスGIに当然のように挑戦したり、アブクマポーロがウインターステークスGII(現・東海ステークスGII)を1番人気で優勝した時代だった。その経験が、地元のレースに戻って真価を発揮するケースが多かったと思う。

 3歳ダート路線は、JRA所属馬にとって賞金加算の機会が少ない。昨年のJBC2歳優駿JpnIIIで2着に健闘したサンライズジパングも、1勝馬での2着で賞金加算額が少なく、ブルーバードカップJpnIIIも補欠だった。しかも年明けの真冬のレースなら、トップホースの挑戦も考えづらい状況なので、地方所属馬に優勝のチャンスは十分ある。まさに、古馬短距離路線の図式だ。

 ホッカイドウ競馬の関係者は移籍せずに各地のダートグレードへ挑める機会を積極的に利用している。「屋内坂路があるとはいえ、年末年始を挟む真冬の調整は決して楽ではない」と北海道の田中淳司調教師は話していたが、海を渡る挑戦を何度も経験していくうちに、地方競馬を代表する調教師になっていく。佐賀のウルトラノホシも、全日本2歳優駿JpnIで善戦(6着)したことを機に、強行軍でもブルーバードカップJpnIIIに参戦した。この経験は何事にも代え難い。「挑戦なくして成功なし」ダート競馬の改革元年に、改めてこの言葉を示したい。

写真:いちかんぽ

PROFILE

古谷剛彦(ふるや たけひこ)

古谷剛彦
(ふるや たけひこ)

1975年東京都出身。2001年からホッカイドウ競馬パドック解説者となり、北海道を中心に活動している。グリーンチャンネル『地方競馬中継』『アタック!地方競馬』『KEIBAコンシェルジュ』『馬産地通信』にレギュラー出演。ホッカイドウ競馬LIVE『なまちゃき』解説者。スポーツ報知『こちら日高支局です』毎週水曜掲載。フリーペーパー『うまレター』南関東競馬NEWS担当。監修・著書に『地方競馬完全攻略ガイド』。

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