SPECIAL COLUMNSダート競馬、新時代へ

~新競走体系が与える効果を様々な角度から紐解く~

文:古谷剛彦

VOL.6

成長を見極めデビューする時期を判断
ダート向きなら地方デビューが有利

ホッカイドウ競馬 レースの様子

 出産、種付けが本格的に始まる前に、主要スタリオンでは繋養種牡馬の展示会が開催される。血統を重視して交配相手を考えるのはもちろん、馬体や脚元、気性など、競馬のパドックとは違う観点で改めて生産者や繁殖牝馬を所有するオーナーが確認する場である。近年は、JRAや南関東のデビュー時期、そしてJRA3歳未勝利戦の終了時期が早まったこともあり、種付けを行う時期も以前より早くなった。それに伴い、種牡馬展示会も、かつては2月中旬から下旬に行われていたが、最近は2月上旬に各地区がまとめて行う流れとなった。JRAは2歳戦のスタートが6月なので、競走馬の誕生日はさほど気にしなくても良いだろう。しかし、地方競馬は、北海道は以前から4月の開幕から新馬戦(フレッシュチャレンジ)が組まれる。そして、南関東でも4月下旬に開催する競馬場では新馬戦を行っている。デビューをする条件として、能力検査(能力試験という地区もある)で合格することに加え、満2歳になっている必要がある。能力検査は、数え年での2歳で受検は可能だが、デビューとなると誕生日を迎えなければいけない。

 3月14日、ホッカイドウ競馬では早くも2歳能力検査が始まった。昨年のカプセルなど、早い時期から活躍を見込む若駒を育て上げることで有名な山口ステーブルの代表で、馬主でもある山口裕介氏は、今年も能力検査初日に期待馬を送り込んだ。ヨフカシ(牡、父マインドユアビスケッツ、母ポラリス)は、25Rに登場。二の脚が早く、コーナーで加速をすると、そのスピードはゴールまで緩むことなく2着馬に1秒8の大差をつけた。例年なら、開幕のデビューを意識するが、ヨフカシは5月13日生まれなので、その日を超えなければならない。この日の馬体重は482キロと雄大な馬体を誇り、当然さらなる成長も期待できる。

 「ダートグレードの日程など、全国的に重賞日程が変化し、しっかり体系化されましたから、地方競馬にあらゆる可能性を感じています。栄冠賞を勝ちたい!という思いで、これまでは早期にデビューできそうな馬を送り込みましたが、今年は違う視点で北海道からチャレンジしてみたいと思いました。カプセルは、南関東などの移籍を全く考えず、ダート改革元年に北海道から挑戦することを決め、田中淳司調教師に預けた馬です」と、山口裕介氏。

 ホッカイドウ競馬=早期デビューの印象は強い。しかし、昨年サンライズカップを制したパッションクライは7月5日、NARグランプリで3年連続表彰されたスピーディキックは一昨年、6月30日にそれぞれデビューした。成長を見極めた上でデビューする時期を考えることは、どの地区でも重要だ。遅生まれのヨフカシは、速い時計を求めずに合格してくれれば……と思っていたようだが、内走路で行われた窮屈なコースでの能力検査になったとはいえ、長く良い脚を使って好タイムで走り切った内容に、筆者も楽しみな逸材だと感じた。

 山口裕介氏は、2021年セレクトセール当歳で落札したライゾマティクスを、浦和の小久保智厩舎に預けて重賞戦線を戦っている。そして今年、2023年キーンランドセプテンバーセールにおいて17万ドルで落札したライトスリー(牡、父City of Light、母Hollidaze)を、小久保智厩舎に送り込む。3月29日の能力試験を受ける予定だが、「JRAはダート番組が3歳春まで少ないので、明らかにダート向きだと判断すれば、地方競馬でデビューさせる方が番組選択に頭を悩ます必要がありません。日本の到着まで考えれば、馬代金と輸送費を合わせて約3000万円ほど費用は掛かりましたが、今年はこの馬とともに夢を見たいですね」と期待を寄せる。ホッカイドウ競馬は、馬産地保護の観点もあるため、2歳馬に関しては内国産馬の入厩しか認めていない(交流競走等に出走する他地区所属の外国産馬は除く)。

 私が競馬を見始めたころは、外国産馬と言えば驚異の存在だった。しかし、内国産馬の驚異的なレベルアップに加え、JRAでも出世する過程で、外国産馬の出走が決してフルオープンではないことから番組選択と調整面で頭を悩ますことがある。その点では、2014年に大井でデビューしたルックスザットキルのように、南関東からダート頂点を目指す試みは面白い。

 4月になれば、羽田盃JpnIからダート三冠が始まる。しかし、馬産地では早くも来年、さらにはその先を見据えた戦いが始まっている。

写真:いちかんぽ

PROFILE

古谷剛彦(ふるや たけひこ)

古谷剛彦
(ふるや たけひこ)

1975年東京都出身。2001年からホッカイドウ競馬パドック解説者となり、北海道を中心に活動している。グリーンチャンネル『地方競馬中継』『アタック!地方競馬』『KEIBAコンシェルジュ』『馬産地通信』にレギュラー出演。ホッカイドウ競馬LIVE『なまちゃき』解説者。スポーツ報知『こちら日高支局です』毎週水曜掲載。フリーペーパー『うまレター』南関東競馬NEWS担当。監修・著書に『地方競馬完全攻略ガイド』。

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