~新競走体系が与える効果を様々な角度から紐解く~
文:古谷剛彦
トラジロウ(ネクストスター門別)
帝王賞JpnIが終わり、地方競馬は下半期の競馬に突入。JRAでは函館競馬の開催が終わり、北海道シリーズは札幌競馬が開幕した。本州ほどではないにせよ、昨年同様、今夏の札幌は蒸し暑い。この原稿を書いている直後には、北海道新ひだか町静内の北海道市場でセレクションセールが開催されるが、今年は3日間開催(7月22~24日)となり、初日はプレミアムセッションが組まれて良血馬揃い。近年は地方競馬の賞金もアップした効果で、地方競馬のオーナーも、セレクションセールから積極的に参加するようになった。
一昨年はウルトラノホシ(佐賀)が、セレクションセールで落札(1500万円、税別)された。新ダート体系において、全国各地から大きな夢を見るチャンスが生まれた。全日本2歳優駿JpnI→ブルーバードカップJpnIII→雲取賞JpnIIIと3戦続けて佐賀から挑んだ経験は、輸送がなくしっかり調教ができる地元の二冠で圧倒したように、大きな糧となった。セレクトセール(7月8・9日)の結果を見ても、競走馬市場は引き続き、オーナーたちの購買意欲は凄い。この流れは、セレクションセール以降の北海道市場でも継がれることは確実だ。
新ダート体系において、ダート三冠と並んで改革の1つである3歳短距離路線は、8月15日に門別競馬場で行われる北海道スプリントカップJpnIIIが最終戦となる。3歳短距離路線は、各ブロックのネクストスターを経て、4月29日に園田競馬場で行われた兵庫チャンピオンシップJpnIIでJRA勢と地方馬が激突。日程的に遠征が叶わなかった北海道勢が、JRA勢や他地区勢を迎え撃つ形になる。
北海道スプリントカップJpnIIIが3歳限定に変わることは一昨年の段階で発表された。これを受けてホッカイドウ競馬では他地区への移籍に歯止めをかける策を講じ、『前年度の閉幕日にホッカイドウ競馬に所属していた2歳馬が、他地区へ転出せず、3歳時にホッカイドウ競馬所属として第2回門別開催までに(4月17日~5月9日)出走した場合、対象馬の1走目に対して馬主に30万円を支給』という従来のルールに加え、新たに『上記対象馬のうち、2歳時に1勝以上かつ収得賞金200万円超または重賞出走歴のある馬は、加えて70万円を支給する』という文言も付け加えられた。
さらに、新ダート体系を鑑み、3歳馬他主催者出走奨励金が導入された。この制度は『前年度の閉幕後も他地区へ移籍せず、今年度の閉幕までに実施される他主催者の競走(ダートグレード、JRA主催の競走、地方重賞競走)に出走した後、今年度のホッカイドウ競馬に出走した場合、もしくは今年度のホッカイドウ競馬に出走後、今年12月末までに実施される他主催者の競走に出走し、ホッカイドウ競馬所属のまま北海道へ帰厩した場合、馬主に対して1走毎に奨励金を支給する(ダートグレードとJRA主催の競走は100万円、地方重賞競走は50万円)』というもの。この効果で、中距離路線はブラックバトラーやパッションクライ。短距離路線はトラジロウやストリーム、オスカーブレイン、カプセルといった重賞ウィナーたちが、冬場も移籍せずに残留した。ブラックバトラーとパッションクライは冬場の3歳ダートグレードに、カプセルもダートグレードに加え、ネクストスター東日本にも遠征するなど、新たな制度を有効活用していた。
またこの制度の他に「3歳馬他主催者出走遠征費補助」も新設され、「3歳馬他主催者出走奨励金」対象馬に輸送費実費と遠征先主催者の輸送費補助額との差額について、1走あたり70万円を上限として馬主に対し補助される。
北海道スプリントカップJpnIIIの前哨戦である星雲賞は、ストリーム、トラジロウ、ライトヴェール、デュアルロンドといった2歳時からホッカイドウ競馬の重賞で活躍していた馬に加え、大井から転入してきたピコイチが初戦を快勝した勢いで挑んだ。トラジロウが昨年の重賞連勝を飾った頃の状態を取り戻し、逃げるライトヴェールを残り100mでとらえて突き放した走りは、JRA勢を打ち破る可能性を感じさせるものだった。一方、ストリームは道中でモタつき、勝負所では執拗に岩橋騎手の手が動く状況ながら、直線に向くとエンジンが掛かって4着に。「前走が1000mだったので、スタート後は掛かることを心配して出たなりに運びました。それが逆効果となり、序盤からハミを取らず、昨年のネクストスター門別のような走りになってしまいました」と岩橋騎手はレースを振り返る。目標のレースを前に課題が見えたことは収穫と考え、大一番での巻き返しを期待したい。
そして、大井の優駿スプリントは初めて1200mを走ったティントレットが、ギガースやカヌレフレイバーといった世代屈指のスプリンターを破り、悲願の重賞初制覇を飾った。レース後、荒山勝徳調教師は北海道スプリントカップJpnIII参戦も視野に入れていることを話し、星雲賞の結果やJRA勢の動向を気にされていた。兵庫チャンピオンシップJpnIIを制したエートラックス、エーデルワイス賞JpnIIIを差し切ったモズミギカタアガリ、7月20日福島メインで3連勝を飾りオープン入りを果たしたエスカルなどのJRA勢も出走見込みとなっている。
北海道スプリントカップJpnIIIは、JRA勢にとっても3歳短距離馬の目標となり、レースレベルはどんどん上がっていくことは間違いない。改革元年の北海道スプリントカップJpnIIIにご注目頂きたい。
写真:いちかんぽ
PROFILE
古谷剛彦
(ふるや たけひこ)
1975年東京都出身。2001年からホッカイドウ競馬パドック解説者となり、北海道を中心に活動している。グリーンチャンネル『地方競馬中継』『アタック!地方競馬』『KEIBAコンシェルジュ』『馬産地通信』にレギュラー出演。ホッカイドウ競馬LIVE『なまちゃき』解説者。スポーツ報知『こちら日高支局です』毎週水曜掲載。フリーペーパー『うまレター』南関東競馬NEWS担当。監修・著書に『地方競馬完全攻略ガイド』。