SPECIAL COLUMNSダートの高みを目指して

~注目レースを関係者の声から振り返り、新しい「道」へ~

文:中川明美

VOL.2

無傷の5連勝
ダテノショウグン
ダート三冠に
高まる期待

ダテノショウグン(ハイセイコー記念)

ダテノショウグン(ハイセイコー記念)

 2024年から始まる『3歳ダート三冠』。4月24日の羽田盃JpnI(1800m)、6月5日の東京ダービーJpnI(2000m)、そして10月2日にはジャパンダートクラシックJpnI(2000m)が時期を秋に移して新装。舞台はすべて大井競馬場である。
 それぞれに選定レースが設けられ、例えば羽田盃ではブルーバードカップJpnIII(船橋)、雲取賞JpnIII(大井)、京浜盃JpnII(大井)が前哨戦としてダートグレード競走として実施される。

-中央馬を迎え撃てる馬に育てたい

 南関東伝統の2歳重賞・ハイセイコー記念(大井、10月31日)を制したのはダテノショウグン。「ここまでの5連勝、こちらが思う以上のパフォーマンスをしてくれましたね。初めてのタフな馬場も苦にすることなく強い勝ち方をしてくれた。中央馬を迎え撃てるような馬に育てていきたいと思っている。」と森下淳平調教師は、レース後に早くも『3歳ダート三冠』を意識したコメントを口にした。
 この開催から敷き替えられたオーストラリアの珪砂は重く、よりタフさを求められるが、大外から好ポジションを取ると、直線では外から弾けるように伸びてきた。その差はグングン広がり8馬身ぶっちぎり。デビューから無敗でのタイトル制覇となった。
 ダテノショウグンは2022年のサマーセール取引馬。
 「自分が好きな骨格のバランスをしていて、歩きのバランスもいいし、動きの中にバネを感じた。利口そうな顔をしていましたね。」と森下調教師はひと目で気に入ってオーナーに勧めたという。
 「育成は山口ステーブルさんにお願いして、そこでも早い段階から山口さんから評価してもらって。BTCで調教を進めていくと動きの良さから、夏前にはデビューできるだろうとのことでした。」と、大井の厩舎にやってきた。
 5月26日の新馬戦は6馬身差をつける圧勝。「正直、新馬戦が一番不安でした。幼いし本来のポテンシャルからすれまだまだ。それでも水準以上には走れているので使い出そうということになりました。今思えば、その段階であれだけ走ってくれたんだと素質の高さを感じますね。」と森下調教師は周囲を驚かせた新馬戦を振り返った。
 2戦目(6月27日)も6馬身差の快勝だった。ここまで手綱を取ったのは矢野貴之騎手。8月に骨折を負って戦列を離れ、10月29日の大井開催からようやく復帰したところだ。
 「走り方とか身体つきの完成度は低かったけど、性格は大人びていて、どっしりと乗りやすい馬でしたね。何より雰囲気に品がある。競馬を覚えさせようと、引いたり、下げたりして、そういう経験が生きたんだと思う。ハイセイコー記念を見ていましたが、マイルであれだけの競馬ができるなんて、こちらが考えている以上の成長。直線はすごい脚なので外コースになればさらに良いでしょうね。」と矢野騎手が話すように調教を始めた日からひとつひとつ成長を重ねた。
 3戦目(9月7日)から乗替ったのは御神本訓史騎手。
 「直線の走りを見るとミックファイアをイメージするかもしれないけど、タイプが全然違う。正反対なくらい。ダテノショウグンはおとなしくてゆったりしているからね。すごいと思ったのは乗せてもらった2戦目(通算4戦目、10月6日)に57キロを背負ったとき。勝ちっぷりの素晴らしさに雰囲気の変化と奥深さを感じました。次のハイセイコー記念は55キロなので自信を持って乗ることができました。一戦ごとに強くなって、主役を張れる1頭。前哨戦もクラシックも狙っていきたい。伸びしろはまだまだあると思うので楽しみしかないですよ!」と、これから始まる『3歳ダート三冠』に期待は膨らんでいく。

口取り式の様子(ハイセイコー記念/ダテノショウグン)


-日本の競馬全体のレベルアップを意識する機会

 ハイセイコー記念後のダテノショウグンは1週間くらい厩舎でのんびりさせてから、茨城のミッドウェイファームへ移動した。疲れを取るためにいったん緩めて、それから作り直して仕上げていこうと陣営は考えている。
 「このあとは雲取賞へいくつもりでしたが、斤量を背負うことがわかったので、それなら京浜盃で始動することになりました(※)。馬の状態を見てから、京浜盃に向けていいタイミングで厩舎に戻して最終仕上げをするつもりです。」と森下調教師。
 『3歳ダート三冠』が発表になった当時、“南関東”という枠を手放すことに動揺する関係者もいた。刻んできたきた歴史を思えばそれも仕方ない。しかし森下調教師は違った。
 「時代はかわっていくものですし、日本の競馬はもはや世界のトップと戦えるレベルまできています。総合的な馬づくりのレベルを上げていかなければ勝てない。レベルアップしていかないと太刀打ちできません。それを意識する良い機会だと僕は捉えています。活性化して日本の競馬全体のレベルを上げていこうとするのは必要なことです。それを自分たちが、ちゃんと迎え撃てるだけの馬づくりに取り組んで、中央の強い馬たちとやっていかなければならないんですからね。」と地方競馬の未来を考える気鋭の調教師の言葉は力強かった。

 ※主催者側からの訂正により雲取賞の負担重量が当初の想定より軽くなることが判明したため、雲取賞もしくは京浜盃のどちらかから始動していく予定となりました。

写真:いちかんぽ

PROFILE

中川明美(なかがわ あけみ)

中川明美
(なかがわ あけみ)

競馬ブック南関東担当記者。新聞紙面にてコラム『南関こんしぇるじゅ』、週刊競馬ブックで『NANKAN通信』、競馬ブックWEBにて『南関あらうんど』等を執筆。週刊競馬ブック南関東S重賞本誌担当。グリーンチャンネルにて『アタック!地方競馬』『ダート競馬JAPAN』に出演中。

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