SPECIAL COLUMNSダートの高みを目指して

~注目レースを関係者の声から振り返り、新しい「道」へ~

文:大恵陽子

VOL.3

スマイルミーシャで挑む
地元のダートグレード

スマイルミーシャ(園田金盃) ※写真左

スマイルミーシャ(園田金盃) ※写真左

 「生え抜き馬へのこだわりがあるんです」
 スマイルミーシャの松野真一オーナーは、地元・園田愛をそう語った。地方競馬ファンにとって、JRAから実績馬の移籍にはワクワクするが、地元生え抜き馬の活躍にはまた違った興奮と親心が芽生える。
 まさにそれをもたらしてくれそうなのが3歳牝馬ながら園田金盃を制したスマイルミーシャだ。兵庫では古馬の壁は厚く、ましてや同レースは兵庫で王道路線とされる1870メートル。加えて、ファン投票で大将クラスがこぞって集う一戦とあって、3歳馬は牡馬を含めても出走でさえ直近10年で8頭と少ない中、初めてその年の兵庫ダービー馬が勝利を手にしたのだった。

-早くから兵庫女王盃を意識

 しかしながら、戦前は松野オーナーも飯田良弘調教師も気楽な挑戦者の立場だった。「ラッキードリームやツムタイザンなど強い馬がいて、こちらは3歳牝馬でチャレンジャー。兵庫ダービーとは対照的にリラックスして『どこまでやれるかな』と見ていました」と松野オーナーが話せば、飯田調教師も「前走の兵庫クイーンカップは、相手が強かったとはいえハクサンアマゾネス(金沢)の2着。牝馬同士で負けたので、古馬の牡馬相手にやれるとはなかなか思えなくて……」と感じていた。
 ところが、レースはスマイルミーシャの長所が存分に生きる格好となった。外を回らされた前走とは対照的に、内枠を生かして4~5番手のインに収まると、最初の4コーナーでベラジオソノダラブが掛かり気味にハナを奪ってペースが速くなった場面でも冷静に対処。4コーナーまでじっと溜め続けた脚を直線で爆発させると、外から迫るツムタイザンをアタマ差抑えて勝利を手にした。
 「天才的なアイドル様です」
 吉村智洋騎手は流行りの楽曲に重ねてそう表現した。序盤こそ出して行った分、少し力みが見られたが、その後は操縦性の高さを発揮。「どう乗っても勝てる馬です」と、主戦は先の言葉の理由を説明した。
 その勝利後、陣営からは「兵庫女王盃を目指す」という言葉が飛び出した。ダート競走の体系整備にともない、2024年からTCK女王盃が舞台を大井競馬場から園田競馬場へと移し、名称も変更となる。陣営の中でも早くから意識をしはじめたのは松野オーナーだった。
 「この話を聞いた早い段階から『目指せるんじゃないか』と飯田先生と話していました。幸いスマイルミーシャという馬がいて、これも何かのご縁かな、と意識しはじめて、兵庫ダービーを勝たせていただいた際に一つの大目標に置きました。そこから逆算してレースを使う中で、仮に園田金盃で全く勝負にならなければ断念せざるを得ませんでした。勝てたことで挑戦する権利は得られたのかなと思います。私は馬主資格を取ったのが園田競馬場。地元への思い入れは強くて、生え抜き馬へのこだわりもあります」

-生え抜きで狙うグレードタイトル

 そのこだわりは馬選びから始まっている。サマーセールで1000頭以上の上場馬の中から自分なりの観点で気になる血統をピックアップ。200~300頭に絞った中から飯田調教師と、21年の兵庫ダービーをスマイルサルファーで制した渡瀬寛彰調教師が馬体などを見てセリに参加する馬を厳選していく。チーム一丸となって両厩舎から生え抜き馬が育っていっているのだ。
 同じく生え抜き馬へ思いを抱くのが吉村騎手。「地元生え抜き馬でダートグレード競走を勝てれば、兵庫県がもっと活気づくと思います」
 イグナイターを筆頭に、近年兵庫県競馬の馬がダートグレード制覇を果たし、「次は地元で育った馬で」という地元愛も高まっているのだろう。
 輸送未経験のスマイルミーシャにとって、牝馬限定のダートグレード競走が地元開催になるのは大きな追い風にもなる。吉村騎手は「ミーシャにしてみれば園田は庭で、平常心でいつも通りレースに臨めると思います。僕も他場のジョッキーよりその日の馬場コンディションは分かっています。人馬ともに地元開催はプラスでしかないと感じています」と利点を話す。飯田調教師も普段の物腰柔らかな口調とは異なり、力を込めてこう話した。「スマイルミーシャが行かないと誰が行くんだ、という状況。相手は強いですけど、挑戦者の立場で挑みたいと思います」
 奇しくも騎手も調教師も23年の当地リーディングがほぼ確実。そうなれば、いよいよ人馬ともに地元を背負っての出走となる。特に2年連続の地方全国リーディングがかかる吉村騎手は下積み期間が長かったことからも挑戦することの大切さを実感している。
 「この秋、クリノメガミエースとジャパンカップに参戦して、JRA東京競馬場のパドックやゲート裏の光景をしっかり目に焼き付けてきました。応援に来た後輩騎手が『今までで一番刺激を受けた』と言っていましたが、『僕の方がその何百倍も感動を味わった』と答えました。たとえ限りなくゼロでも、挑戦しないことには勝てません。結果はどうであれ人も馬も得るものはあると思っています」
 だからこそ、スマイルミーシャにもこう声をかける。
 「地元で一番強くて、牝馬なら抜けて強いでしょう。とはいえ、ダートグレード初出走でいきなり勝てるほど甘くはないと思っています。でも、挑戦者として出ることでこの先のための経験を積んでプラスになると思います。あの馬なら、耐えられると思っています」
 来年、新たな時代を迎える地方競馬の古馬路線。スマイルミーシャはそこに堂々と挑戦する。

写真:いちかんぽ

PROFILE

大恵陽子(おおえ ようこ)

大恵陽子
(おおえ ようこ)

競馬リポーター。関西を拠点に、小学5年生から地方競馬とJRAの二刀流。グリーンチャンネル『地方競馬中継』、『アタック!地方競馬』コメンテーター、ラジオNIKKEI『競馬LIVEへGO!』、YouTube『ヨルノヲケイバ』(高知)、『SAGAリベンジャーズ』(佐賀)などに出演中。また、優駿『地方競馬トピックスWEST』、週刊競馬ブック『地方競馬WEST通信』、馬事通信『地方競馬Eye』のほか、netkeiba、うまレター、NumberWebなどでも地方競馬にまつわるインタビューやコラムを執筆。

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