SPECIAL COLUMNSダートの高みを目指して

~注目レースを関係者の声から振り返り、新しい「道」へ~

文:中川明美

VOL.4

デビュー前から大物の予感
雲取賞から三冠目指すギガース

ギガース(ニューイヤーカップ)

ギガース(ニューイヤーカップ)

 ダート競馬の新たな扉が開く2024年。南関東最初の3歳重賞・ニューイヤーカップ(1月10日、浦和)を制したのはキャリアわずか3戦のギガースだった。
 初めての重賞挑戦。相手関係がグンと強化するなか、馬なりで2番手につけるダッシュ力を見せ、直線半ばで逃げた1番人気のクルマトラサンを捕らえるとそのまま押し切った。
 「馬が好きで、最後の叩き合いでも離れたがらなかった。それくらい余裕があった」という森泰斗騎手のコメントが印象的だった。
 その後の調教師インタビューでは、新たなダート三冠を目指していくことを佐藤裕太調教師は明言した。

-課題を克服しながらの重賞制覇

 新馬戦から衝撃的だった。折り合いを欠きながら先手を取ると4馬身突き離す完勝。「重賞を勝てる馬ですよ」。馬上から降りた森騎手は陣営に対してそう口にした。
 「僕も普段の調教の中で素質を感じていたので森騎手の評価はうれしかったですね。調教を自分でつけているんですが、最初のひとまたぎでオープン馬の雰囲気を感じました。オーナーと一緒にセリに行って、バランスがよく目を引く馬だと意見が一致して買った馬です。僕の恩師の川島正行先生が好む体型だったので、ご健在だったらセリで取り合っていたかもしれません。バランスが良く、力強さがあふれていました」と佐藤裕太調教師。
 数々の名馬を育てた亡き川島正行調教師の元でその“イズム”を学んだ佐藤調教師の言葉には説得力がある。
 ところが育成段階で管骨を骨折。程度は軽いものだったが、早い時期のデビューを目指していた陣営にとっては誤算だった。
 「予定より遅れて秋デビューになりました。今思えばその遅れが功を奏して、その間に馬体の成長が見られたし、骨折箇所の回復も思っていた以上に早かった。結果的に良いかたちでデビューできました」(佐藤調教師)と収穫ある誤算になった。
 9月に船橋の厩舎に入厩したが、馬体の成長のわりに気性が幼く、ヤンチャそのもの。佐藤調教師も調教で3、4回振り落とされたという。
 能力試験は好タイムで合格。騎乗していたのは山中悠希騎手だ。
 「能力(試験)の時はまだ子供っぽくてヤンチャなんですが、芯がしっかりしていてトモに良い緩さがありました。抜け出すと遊んでしまうのが課題でしたね。重賞や強い馬と戦った方が闘争心かき立てられてむしろ良さそうだと思いました」と振り返った。今もスポット的に調教に騎乗している。
 デビュー戦は10月27日。
 「個人的にはつかまってれば勝てるだろうと思っていましたが、元気のいい馬だから返し馬で落ちないように気をつけてと森騎手にはそれだけを伝えました」(佐藤調教師)と送り出した。
 心配された課題がつぶさになったのが2戦目。直線先頭に立つと遊んでしまい、インから鋭い脚を使った勝ち馬に差されて2着。「差されてから追いかけても間に合わなかった。あれが4コーナーだったら抜き返すんでしょうけど、もうゴール前でしたから」と森騎手。
 それではと3戦目では砂を被せ、折り合いに専念する競馬を教える乗り方をして勝利。これは大きな収穫だった。
 調教メニューも工夫した。「馬が好きだからと以前は併せ馬で競わせるかたちにしていたんですが、最近は途中から交わして抜け出す調教をしています。後ろの馬を気にしないようにひとり旅になる調教や、実戦を意識して、前に馬を置いて我慢させる調教もしている。馬から離したり、近づけたり柔軟に動けるように、相手との距離に気をつけて調教しています」(佐藤調教師)と日々の積み重ねが実を結んだのがニューイヤーカップだった。


-ぜひダート三冠に行きたい

 「パワーがあるしスピードもある。全体的なポテンシャルが高い。今までクラシックを勝つような3歳馬にも乗ってきましたが、その中でも素材はトップクラスだと思います。馬が大好きなんで、馬に懐くような走りをするぶん、速い流れになったり、強い馬がいた方が一緒になって走ってくるので真剣味が増すでしょう。気性面の難しさが悪い方にいかないようにポテンシャルを引き出して良い経験値を積ませて育てていきたい」と森騎手がギガースに寄せる期待は大きい。
 「次走は雲取賞に挑戦する予定です。前走で1周まわる競馬を経験できたことが大きく、普段の調教から身体に伸びやかさが出てきて雰囲気が良くなってきました。可動域が広がって跳びが綺麗になってますね。自分がこれまで経験してきた優秀な馬の背中に近いものを感じさせます。雲取賞でどういうパフォーマンスをするか。それによってダート三冠に行くか、別路線を歩むかを考えたいと思います。素質からはぜひダート三冠に行きたい。雲取賞が試金石になると思います」と佐藤調教師。
 初めてまたがった際に直感した素質を信じて、ダート三冠で強敵に挑んでいく。

写真:斎藤修

PROFILE

中川明美(なかがわ あけみ)

中川明美
(なかがわ あけみ)

競馬ブック南関東担当記者。新聞紙面にてコラム『南関こんしぇるじゅ』、週刊競馬ブックで『NANKAN通信』、競馬ブックWEBにて『南関あらうんど』等を執筆。週刊競馬ブック南関東S重賞本誌担当。グリーンチャンネルにて『アタック!地方競馬』『ダート競馬JAPAN』に出演中。

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