SPECIAL COLUMNSダートの高みを目指して

~注目レースを関係者の声から振り返り、新しい「道」へ~

文:赤見千尋

VOL.5

佐賀からダート三冠への挑戦
羽田盃出走目指すウルトラノホシ

ウルトラノホシ(ネクストスター佐賀)

ウルトラノホシ(ネクストスター佐賀)

 2024年に入り、いよいよ新たなダート体系が本格化してきました。その中で象徴的な挑戦を続けているのが、佐賀のウルトラノホシです。昨年はネクストスター佐賀(10月1日・佐賀)からカペラ賞(10月22日・佐賀)を連勝し、全日本2歳優駿JpnI(12月13日・川崎)に出走して6着。今年に入ってからはブルーバードカップJpnIII(1月17日・船橋)で4着と、長距離遠征でダートグレード競走に挑戦しています。そして2月14日の雲取賞JpnIII(大井)に出走予定。ここで地方所属馬の上位2頭に入れば、羽田盃JpnIへの優先出走権を獲得することができます。

-ブルーバードカップは惜しくも4着

 ウルトラノホシは、2022年北海道セレクションセールで1500万円(税別)で落札された馬。管理する真島元徳調教師は、「私自身ここまでの高額な新馬は開業以来初めてですから、結果を出してくれてホッとしています」と話していました。
 ダート競走の体系整備によりネクストスターが新設されたことで、全国各地にこれまで以上に質の高い新馬が入厩するようになりましたし、初年度からウルトラノホシのような活躍馬が出ると、今後この流れはさらに加速していきそうです。
 デビュー当初の目標はネクストスター佐賀で、さらにその先は地元でトップを獲れる馬にという想いだったそうですが、ネクストスター佐賀、カペラ賞と連勝を果たし、その後は使うレースが限られてしまうため、全日本2歳優駿JpnIに挑戦しました。
 「結果的には6着でしたが、強いメンバーの中でもそれほど差のない競馬をしてくれて、こちらが想像していた以上に頑張ってくれました。もちろん全国的に活躍する馬に育って欲しいという願望はありましたが、早い時期からここまで頑張ってくれるとは……。全日本2歳優駿の走りを見て、三冠戦線に挑戦してみようということになり、馬にもオーナーにも、周りの方々にもとても感謝しています」と真島調教師。
 続くブルーバードカップJpnIIIでは、4コーナーで前の馬と接触し躓く場面もありながら、直線よく伸びてきて4着でした。
 「私も悔しかったですが、乗り役(石川倭騎手)が一番悔しかったんじゃないでしょうか。最近は道中の手ごたえが良すぎてしまって、もう少しリラックスして走れるようになればと思って調整しています」。
 トップスピードに乗る直前の躓きで、あそこで気持ちが切れてしまう場合もありますが、最後までしっかりと伸びてくることができたのは、ウルトラノホシの精神力の強さだと感じます。真島調教師いわく「凹まない馬」なのだそう。だからこそ長距離輸送で連戦しても、大きな馬体減なく戦うことができるのですね。

全日本2歳優駿 パドック

全日本2歳優駿 パドック

-教養センターを遠征の拠点に

 しかし、そんなウルトラノホシでも戸惑ってしまう出来事がありました。ブルーバードカップJpnIIIから雲取賞JpnIIIへ挑戦する際、ダート競走の体系整備の一環として始まった出走拠点制度の第1号として、当初は地方競馬全国協会の教養センター(栃木県にある騎手等の養成施設)に入厩し、調教を積む予定でしたが、2日後に急遽佐賀へ帰厩するという緊急事態が発生。
 「初めての環境に戸惑って、飼い葉を食べなくなってしまって……。あと2、3日待ったら環境に慣れたかもしれませんが、雲取賞前に大きく体を減らしたくなかったですし、タイミング良く馬運車の手配もできたので帰ってくることにしました。教養センター側にとっても初めての入厩でいろいろよくしていただきましたし、今後またお願いする機会もあると思うので、今回のことをいい経験にして改善点などをすり合わせていければと思っています」とのこと。
 佐賀の馬房は対面式の厩舎でいつも周りに馬が見えますが、教養センターの馬房からは他の馬が見えず、1頭で淋しくなってしまったのかもしれません。普段は馬の姿が見えないのに、昼間の訓練の時間になるとたくさんの馬たちが背後を通って馬場へ行くということに戸惑ったのかもしれません。予定とは違う調整過程にはなりましたが、佐賀へ帰厩後のウルトラノホシはケロっとして飼い葉をしっかりと食べているそう。馬体も戻っており、雲取賞へ向けて順調に調教を進めているということで、さすが凹まない馬だなと感心しました。
 ちなみに、ウルトラノホシが入厩したことで、出走拠点制度の課題が浮かび上がり、地方競馬全国協会では改善策も考えられているそうですから、すぐに帰ったとはいえ、今後の地方競馬にとって大事な一歩を踏み出してくれました。
 ウルトラノホシは全日本2歳優駿JpnIでもブルーバードカップJpnIIIでも、現地で間近に見た方々から、「あの馬かっこいい!」と感嘆の声が上がるほどの馬体の持ち主で、その馬っぷりの良さには本当に惚れ惚れしてしまいます。まだ3歳が明けたばかりですが、すでにいろいろな経験を積んでいる、凹まない馬ウルトラノホシ。その逞しい馬体と精神力で、佐賀から全国へ挑戦を続けて欲しいです。

ブルーバードカップ 返し馬の様子

ブルーバードカップ 返し馬の様子

写真:いちかんぽ

PROFILE

赤見千尋(あかみ ちひろ))

赤見千尋
(あかみ ちひろ)

群馬県出身。1998年高崎競馬場で騎手デビュー。地方競馬通算2033戦91勝。2005年に北関東の競馬場がすべて廃止となり、騎手を引退。現在は競馬レポーターとして、グリーンチャンネル『アタック!地方競馬』『地方競馬中継』などに出演中。

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