SPECIAL COLUMNSダートの高みを目指して

~注目レースを関係者の声から振り返り、新しい「道」へ~

文:井上オークス

VOL.7

高知の馬場で力をつけて重賞2連勝
兵庫チャンピオンシップに挑むリケアサブル

リケアサブル(ネクストスター西日本)

リケアサブル(ネクストスター西日本)

 高知競馬のリケアサブルは、メモリアルウィンの請負馬になっている。
 2月の兵庫ユースカップ(姫路)を快勝して、金沢の吉原寛人騎手に地方競馬全場重賞制覇をプレゼントした。3月のネクストスター西日本(園田)を制覇して、JRAの小牧太騎手に久々の戴冠をもたらした。小牧騎手が古巣の兵庫で重賞を勝つのは、20年ぶりのことだった。
 重賞2連勝の勢いに乗って、4月29日の兵庫チャンピオンシップJpnII(園田)に挑むリケアサブル。管理する田中守調教師にお話をうかがった。

-第一印象は“非力な馬”

 昨年6月、門別でデビュー戦を快勝。ほどなくしてホッカイドウ競馬から高知競馬へ移籍した。田中調教師いわく、リケアサブルの第一印象は“非力な馬”だった。
 「高知の深い馬場には対応できないんじゃないかと心配していました」
 7月の移籍初戦は勝利するも、2戦目は4着に敗れた。それから少しずつ成長し、10月のネクストスター高知では中団から脚を伸ばして2着に食い込んだ。12月の金の鞍賞は好位で立ち回って2着。いずれも勝ち馬はプリフロオ―ルインで、着差も同じ4馬身だった。
 「ネクストスター高知の頃にはだいぶ力をつけていて、しっかり調教ができるようになっていました。その後、滋賀県の吉澤ステーブルで1カ月ほど過ごして坂路調教を詰んだのもよかったと思います。プリフロオールインには勝てないまでも、1秒以内の差ですからね」
 3歳初戦は2月の兵庫ユースカップ(姫路)。リケアサブルの調教をつけている山頭信義厩務員が、田中調教師に「勝てるんじゃないですか」と伝えるほど絶好調でレースに臨んだ。
 「初めての遠征競馬でしたし、勝つかどうかはやってみないとわからないことですが、状態はめちゃめちゃよかったです。ワンウォリアーには高知で負けていたけど、『1400mであればひょっとして』と思っていました」
 リケアサブルは道中3番手から3~4コーナーで先頭に立つとそのまま押し切った。ワンウォリアーが2馬身半差の2着に入って、高知勢がワンツーフィニッシュを決めた。
 3月のネクストスター西日本(園田)では、道中3番手から直線で先頭に立ち後続を振り切った。ワンウォリアーが2馬身差の2着、ホーリーバローズが6馬身差の3着。高知勢のワンツースリーフィニッシュが炸裂した。
 「リケアサブルは輸送を苦にしないですね。2歳の時に神経性の腹痛を起こしたことがありますが、それ以降は一度もありません。本当に手がかからない馬です」
 田中調教師は「ユメノホノオみたいな心配事がない」と、一世代上の個性派三冠馬を引き合いに出してほほ笑む。

-高知の馬が強くなる理由

 高知の3歳世代は粒ぞろい。田中厩舎所属の牝馬グラインドアウトは、佐賀に遠征して花吹雪賞とル・プランタン賞を制覇した。そのほか、打越勇児厩舎のプリフロオールイン、シンメデージー、工藤真司厩舎のワンウォリアー、目迫大輔厩舎のサノノスピードなどなど、強い馬が続々と現れるものだから、番付をつけるのが難しい。賞金がアップしたことに伴い、高知に入厩する馬のレベルはたしかに上がっている。ただ、ほかにも理由があるのでは……?
 田中調教師は言う。
 「高知のレースを走っているうちに、力をつけていくんだと思います。日本一深いこの馬場で、スタートからバンバン行って、道中も動くように促される。自然と心肺機能が高まって、鍛えられるんでしょうね」
 一番深いところの砂厚は約14センチの高知コース。パワーを要する馬場が強さの源というわけだ。実際、高知と比べると他場のダートコースは総じて軽いので、「遠征すると、馬がすごく気持ちよさそうに走る」と高知ジョッキーズは口を揃える。特にリケアサブルのように小柄な馬には、園田の軽い馬場がピタリとマッチするようだ。
 さあ、いよいよ兵庫チャンピオンシップが間近に迫って来た。
 「前走後は園田から吉澤ステープルに直行して、4月半ばに高知へ帰ってきました。状態は変わりなく順調です。ある程度は出来上がっているので、オーバーワークにならないように仕上げていきます。ここ2戦は、ペースが遅くて少し引っ掛かるところがありました。今回はJRAの馬がいるので、ペースが流れてスムーズに走ることができると思います。リケアサブルは差す競馬もできる馬ですし、園田の軽い馬場は合うので、いい勝負ができるかもしれないですね」
 昨年まで1870mで行われてきたが、今年から1400mに距離短縮となり、春の3歳スプリント王を争うレースに生まれ変わった兵庫チャンピオンシップJpnII。リケアサブルの父のベストウォーリアは、11年前のこのレースで2着だった。ここ2戦は鞍上にとびきりの勲章を授けたリケアサブル。今度は自身を彩るメモリアルウィンをつかむのだろうか。

写真:いちかんぽ

PROFILE

井上オークス(いのうえ おーくす)

井上オークス
(いのうえ おーくす)

旅打ち競馬ライター。優駿、スポニチ、Number、うまレター、Web Furlong等に寄稿。グリーンチャンネル『地方競馬中継』や『アタック!地方競馬』等に出演。KKベストセラーズより『いま、賭けにゆきます』『馬酔い放浪記』を出版。

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