~注目レースを関係者の声から振り返り、新しい「道」へ~
文:中川明美
フロインフォッサル
日本のダート競馬で開かれる新たな扉に胸が躍る。東京ダービーJpnIが6月5日に迫った。
いくつかの前哨戦や指定競走を経て、選定馬が発表された中でも、トライアルで奮闘し自力で東京ダービーJpnI出走の権利をつかんだ地方馬の1頭がフロインフォッサル。
まずステップレースの雲取賞JpnIIIで11番人気ながら5着に飛び込んで羽田盃JpnIへの出走権利を獲得し、その羽田盃JpnIでは最低人気の評価だったが、直線鋭い脚を使って3着に入線。地方馬最先着で東京ダービーJpnIへの優先出走権を手にした。
-距離が延びるのはプラスになる
羽田盃JpnIでは最後方をポツンと追走していたフロインフォッサル。出遅れたのでもなく、むしろ好スタートを切ったのだが二の脚の加速がつかなかった。
「スタートを出て何歩かは促していったんですが、進もうとしない。まだ馬体に緩さがあるせいだと思うのですが、急かしても進まないので無理させてもしょうがないと腹をくくった。3コーナー過ぎからエンジンが掛かれば、終いの脚がしっかりしていることはわかっていましたから。前との差はあっても東京ダービーでも馬のリズムを大切にして、力むことなく最善を尽くして頑張ります。距離が延びるのはプラスになると思います」と本田正重騎手は羽田盃JpnIを振り返った。
離れた最後方から直線では猛然と追い上げてきて3着。東京ダービーJpnIへの切符を手にした。
「いい脚だったよね。それでも前とは大きな差はあった。まだ馬体も緩く、キ甲が抜けきれていないくらい馬体が子供。これからの成長がむしろ楽しみだね」と山下貴之調教師。
フロインフォッサルが入厩してきたのはちょうど1年前。5月の下旬のことだ。
「セレクションセールで取引された馬だが、トモに緩さがあることから、馬に合わせてゆっくり仕上げていこうとオーナーサイドとも話し合った」という。
6月の船橋で新馬戦を快勝。
その後、「ここでいったん成長を促そう」と休養に出され、復帰戦は9月となったが、まさかのレース取止め。ひとつ前のレースでゲートに引っ掛かった馬が競走除外となり、その対応に時間が掛かったためだった。仕切り直しとなった2戦目は、10月の川崎1500メートル戦。早めに動いて4馬身差をつける完勝だった。馬体も12キロ増え、ひと夏の成長を見せた。その後も状態面を見ながら大事に使われた。
-2歳馬はとにかくクラシックを目指す
担当するのは波多野敬二厩務員。
ディラクエ、エミーズバラダイス、カジノフォンテン、そしてフロインフォッサルと、およそ5年に1度は東京ダービーに担当馬を送り出してきた。フリオーソ、カジノフォンテンで川崎記念JpnIを制したのも波多野厩務員の手腕が大きく関わっている。
「5連勝しているフーリッシュホビーと同時期に(フロインフォッサルが)自分のもとにやって来た。5月の終わりだというのに冬毛がボーボーでね。馬が緩いから、調教でも躓いてばかり。1~2コーナーは大丈夫なんだが3~4コーナーでは外に逃げてしまってうまくいかなかった。レースでも直線しか競馬をしていないし、まだ真剣に走ったことがないのかもしれないね」と波多野厩務員。
外に張ってしまう調整の難しさを補うために、単走ではなく、外に馬を置いた併せ馬をしてカバーしている。だいぶ改善されてきているという。
「やっと馬体に幅が出てきたところだから、トモに筋肉が付いてくれば緩さも解消してくるんだろう。ドレフォンの産駒はマイルくらいのイメージなんだけど、母父のキズナの血の方が多く出てくるのかな。そうだな、フロインフォッサルはディラクエに似たイメージだね。人間が仕掛けたり余計なことをするとよくない。あの馬も3コーナーから自分でハミ取るとガツンといい脚を使った」と腕利きには調整の手札がいくつもある。
「2歳馬が入厩したら、安い馬だろうが高かろうがとにかくクラシックを目指そうとやってきた。東京ダービーはどんな相手になるのかわからないが、自分の馬をいい状態で出走させることだけを考えている。フロインフォッサルは自分の競馬をするだけだ」
新たにJpnIとなった東京ダービーを目指す波多野厩務員の言葉は力強かった。
写真:NAR
PROFILE
中川明美
(なかがわ あけみ)
競馬ブック南関東担当記者。新聞紙面にてコラム『南関こんしぇるじゅ』、週刊競馬ブックで『NANKAN通信』、競馬ブックWEBにて『南関あらうんど』等を執筆。週刊競馬ブック南関東S重賞本誌担当。グリーンチャンネルにて『アタック!地方競馬』『ダート競馬JAPAN』に出演中。