~注目レースを関係者の声から振り返り、新しい「道」へ~
文:中川明美
サヨノネイチヤ(大井記念)
上半期のダートチャンピオン決定戦となる第47回帝王賞JpnIが6月26日に大井競馬場で行われる。昨年の東京大賞典GI勝ち馬ウシュバテソーロは不在ながら、ダート界で勢いあるトップホースが揃って、今年も砂の頂点を極めるにふさわしい激突が見られそうだ。
その中でも異色の戦歴を放っているサヨノネイチヤ。5歳にして初めてのダートグレード競走に参戦するが、これまで14戦して12勝、2着2回。デビューから連対パーフェクトで帝王賞JpnIへ挑むのである。
-3歳春のデビューも一戦ごとに手応え
サヨノネイチヤの父はダノンレジェンド、母はオムスビ(母の父オレハマッテルゼ)。北海道セプテンバーセールで取引され、2歳の秋に大井の坂井英光厩舎に入厩した。
「担当が決まって、馬体を触ってみると、特に秀でたところも感じなかったのが正直な感想です。まさかオープンにまで行くとは思いませんでした。とにかく甘えん坊で身体を寄せてくる。幼さもあると感じました」と朴澤光厩務員は当時を振り返る。
能力試験を受けると軽いソエが出てしまったこともあって休養に出されることになった。
「線が細い印象があってもう少しボリュームもほしかった。追い切りの動きも今ひとつだったし、時間をかけて仕上げようということになった」(坂井調教師)
半年の休養を経て再能力試験を受けてデビュー戦を迎えた。3歳春になっていた。スタートで出遅れたものの、4番手から直線で抜け出すと、2着に5馬身差。あっさり新馬戦を勝ってしまった。
しかしながら気性面では我が強く、調教もままならないほど。1頭ではコースを回ろうとしない。時には止まってしまったり、ゴールしてから後ろから来た馬を追いかけてもう1周したこともあった。そのため調教もレースも一貫して騎乗してほしいと、同じ小林分場に所属する西啓太騎手が依頼を受けた。
「乗り味がいいわけではないし、デビュー戦を使う時点ではこれくらいの馬かなって思いました。それが3、4戦目あたりから、レースに乗っていて雰囲気が変わった。あれっと思うような反応があって、それから一戦ごとにオッと思わせる感じが出た。うれしい誤算でしたね。返し馬やレースの感じが変わってきました」と西騎手。
ここがひとつ目のターニングポイントだったのかもしれない。C1クラスに格付けされたばかりだったが、坂井調教師も同様なことを感じたという。「この馬、オープンに行くぞって西騎手に話をした。後ろから猛追して勝ったんだけど本気で走っていないのがわかった。まだ底を見せていないと感じた」と坂井調教師は言った。
頑固な気性面ゆえに精神面が消耗するのか疲れも出やすい体質でもあった。レースを3回使うくらいのタイミングで休養を挟みながら、14戦を駆け上がってきた。元JRA騎手の谷中公一さんが経営する育成牧場・ケイワンステーブルと連携してフレッシュな状態を維持してきた。
-重賞3連勝でいよいよ帝王賞へ
重賞初挑戦となった昨年12月の勝島王冠。B1からの格上挑戦だったが、後方からレースを進めると直線ではものすごい勢いで上がってきた。
「後手を踏んで挟まれて、4コーナーで1頭になってしまったので今回は走る気をなくしてしまうかもしれないと心配していたら、(先頭の)ライトウォーリアをめがけて追いかけた。負けたと思ったけどハナ差の勝利。そのときのレース内容からそのあとの2戦は少し安心してみることができました」と坂井調教師は話す。
相手は、のちに川崎記念JpnIを制するライトウォーリア。この時、初めて本気モードに入ってやり合ったのかもしれない。これがふたつ目のターニングポイントだろうか。この後から調教でも変化が見られるようになったという。
4カ月ぶりの実戦となったブリリアントカップではヒーローコールを下し、帝王賞JpnIの前哨戦となる大井記念ではバーデンヴァイラーを封じた。
そして、いよいよ帝王賞。
「厩舎でゆっくりさせて、メンテナンスして追い切り3本出してレースに向かう予定。3頭併せの真ん中に入って負荷をかけた2本目の追い切りではイメージより時計が遅かったけど内容は良かった」と朴澤厩務員にもスイッチが入った。
「追っかける分にはむしろいい形なので、ペースへの戸惑いがなければいいですね。楽しみな部分でもあります。馬を信じて乗りたいと思います」と西騎手。
そして坂井調教師は、「いい意味で力を出し切っていない。休ませながらのレースで、理解ある吉岡オーナーでなかったらここまできていなかったと思う。ただメンバー的にも甘くはないと思うから3~4コーナーがカギ。追いっぱなしになるだろうけど食らいついていって4コーナーを迎えられたらおもしろいと思う。その話を西騎手にしたらイメージが同じだった。こんなワクワクするすることはなかなかない」
チーム坂井英光とサヨノネイチヤの、新たな挑戦の扉が開く。
写真:いちかんぽ
PROFILE
中川明美
(なかがわ あけみ)
競馬ブック南関東担当記者。新聞紙面にてコラム『南関こんしぇるじゅ』、週刊競馬ブックで『NANKAN通信』、競馬ブックWEBにて『南関あらうんど』等を執筆。週刊競馬ブック南関東S重賞本誌担当。グリーンチャンネルにて『アタック!地方競馬』『ダート競馬JAPAN』に出演中。