~注目レースを関係者の声から振り返り、新しい「道」へ~
文:赤見千尋
ストリーム(ネクストスター北日本)
新ダート体系により、今年から3歳限定戦となった北海道スプリントカップJpnIII(8月15日・門別)。2歳シーズンを終えると他地区に移籍することが多かった北海道デビューの馬たちにとって、北海道に残って戦う大きな目標ができました。
-3歳ながら早くも古馬相手に重賞勝利
ホッカイドウ競馬のトップトレーナーである田中淳司調教師は、「今回の改革はこれ以上ないほどの喜びです。新ダート三冠競走は全国から挑戦できるようになりましたし、短距離も中距離も、他地区に移籍せず北海道所属のまま戦う意義ができました。僕らの意識も上がりますし、オーナーに恩返しするためにも改革初年度から結果を出したいです」と話してくれました。
田中淳司厩舎で早くから北海道スプリントカップJpnIIIを大目標に掲げてきたのが、昨年の栄冠賞を勝ったストリーム。今年に入ってネクストスター北日本(4月18日)とグランシャリオ門別スプリント(6月6日)を制覇。星雲賞(7月11日)では1番人気ながら4着に敗れてしまいましたが、当初からの予定通り、北海道スプリントカップJpnIIIに向けて調整中ということです。
ストリームはデビュー前から気性の難しいところがあり、鞍を着けることも乗るのも大変だったそう。田中調教師は、「ダノンレジェンドの仔はこういう気性の馬が多い印象で、当初は見た目も乗り味もそこまで抜けているようには見えませんでした。でもデビューが近づいてきて、他とは違う動きを見せ始めて。入厩したての頃から比べると、こちらが想像していた以上に成長してくれましたね。2戦目のウィナーズチャレンジは一気にレベルが上がりましたが、そこで好位から差すという味のある競馬で勝ってくれて、相当な能力があると感じました」。
デビューから3連勝で栄冠賞を勝ち、あっという間に世代トップの座に躍り出たストリーム。ホッカイドウ競馬のシーズンが終了した11月には、初の遠征で兵庫ジュニアグランプリJpnII(園田)に挑戦。前半は砂を被って揉まれる展開でしたが、3コーナーの勝負所から長くいい脚を使って地方馬最先着の4着に健闘しました。田中調教師は、「兵庫ジュニアグランプリを見て、改めて力はあると確信しました。レースを使いながら精神面も成長してきて、今年に入ってからの2戦(ネクストスター北日本、グランシャリオ門別スプリント)は強いレースをしてくれましたね」
特に印象的だったのが、古馬相手のグランシャリオ門別スプリント。道営スプリントを連覇したスティールペガサスを相手に、一度は抜かされながらも盛り返して勝ち切りました。「正直1000mは向いている距離ではないと思いますが、古馬と一戦したかったので挑戦したんです。速いペースの中、思っていたよりもいい位置に付けられましたが、スティールペガサスが抜けて来た時にはさすがに敵わないかと思いました。基本的に門別の内は馬場が重くて、追い比べになるとだいたい外が勝つイメージがありますが、内側から差し切る強い競馬をしてくれたので、あのレースは自信になりました」
-中央相手の舞台で巻き返しを期す
ストリームはここまで9戦5勝、うち3勝が重賞です。この馬の強さはどこから来るのでしょうか。「体はもちろんですが、気持ちが強いところではないでしょうか。自分の競馬ができた時には、本当に強いですから。ただ、その気持ちの強さが裏目に出てしまうこともあって、まだまだ難しい面がありますね」と田中調教師。
2歳時のネクストスター門別(4着)や前走の星雲賞(4着)は、まさにその不安点が露出したレースでした。ネクストスター門別では内枠で揉まれる競馬で道中はほとんどハミを取らず、最後の直線で上がり最速の脚を使いましたが4着に追い上げるのがやっと。星雲賞ではスタートを決めて3番手に付けたものの、早々に手ごたえがなくなって下がって行き、直線に入ると間から伸びての4着。どちらも内目の枠(1枠1番と3枠3番)ではありますが、同じく内枠だった栄冠賞(2枠2番)やグランシャリオ門別スプリント(3枠3番)では強い競馬で勝利していますから、単純に内枠が苦手というわけではないのでしょう。
一筋縄ではいかないストリームですが、自分の競馬ができた時の爆発力は証明済み。星雲賞後は順調に調整を続けているそうで、田中調教師は「次の大舞台で必ず巻き返したいです!」と話していました。
田中淳司厩舎といえば、毎年のようにその世代を代表する強い馬が現れます。その秘訣はどこにあるのでしょうか。
「いい競馬をさせてもらうと、よりいい馬をということで、毎年素晴らしい馬たちを預けていただき、オーナーの皆様には感謝の気持ちでいっぱいです。そして、強い馬が揃うと調教のレベルが上がることも大きいのではないでしょうか。うちの馬たちは比較的早い段階から坂路でいい時計が出る馬が多く、ストリームも1歳上のスペシャルエックスと併せ馬をして力をつけてきました。2歳のうちからしっかりした調教ができて、そこで鍛えられるのかもしれません」
スペシャルエックスは7月17日に行われたポラリスサマースプリント(門別)を快勝し、約1年ぶりの重賞制覇を果たしました。僚馬であるストリームも、北海道スプリントカップJpnIIIで巻き返しを目指します。
写真:いちかんぽ
PROFILE
赤見千尋
(あかみ ちひろ)
群馬県出身。1998年高崎競馬場で騎手デビュー。地方競馬通算2033戦91勝。2005年に北関東の競馬場がすべて廃止となり、騎手を引退。現在は競馬レポーターとして、グリーンチャンネル『アタック!地方競馬』『地方競馬中継』などに出演中。