~注目レースを関係者の声から振り返り、新しい「道」へ~
文:赤見千尋
ソルジャーフィルド(JBC2歳優駿)
11月4日に門別競馬場で行われた、第5回JBC2歳優駿JpnIIIを勝利したソルジャーフィルド。レースは序盤からハイラップを刻む速いペースで流れ、後方待機だったソルジャーフィルドが直線素晴らしい末脚で差し切りました。
管理する川島洋人調教師は、「北海道では一番大きいタイトルのレースですし、勝ててホッとしました。オーナーをはじめ関係者の皆さま、応援してくれたファンの皆さまに感謝しています。JRA勢は前に行く馬が多かったのでペースは速くなるだろうなと思っていましたが、想像以上に速かったですね。末脚を生かすタイプのソルジャーフィルドにとってはいい流れになりました。騎乗した小野楓馬騎手が前を追いかけず、自分の競馬に徹してくれたことも大きかったです」
-2戦連続2着でもあきらめず
川島洋人厩舎は、先行馬のリコースパローと追い込み馬のソルジャーフィルドの2頭出し。これまで2度の対戦ではリコースパローがともに勝利し、この日の単勝人気でもリコースパローが3番人気、ソルジャーフィルドは5番人気でした。
「2頭出しというのは、私としては複雑というか、辛い気持ちの方が大きいです。2頭ともとても力のある馬で、脚質が真逆。展開一つで変わりますから」
これまで対戦した2戦、ブリーダーズゴールドジュニアカップとサンライズカップはリコースパローが前に行く競馬で勝利。ソルジャーフィルドは追い込んで来たもののどちらも2着という結果でした。しかし2頭の勝負付は済んでいないと川島調教師。
「初対戦となったブリーダーズゴールドジュニアカップでは、1着と2着の差は騎手の経験の差だったかなと思います。厳しいことを言うようですが、ソルジャーフィルドに乗った(宮内)勇樹は相手が前にいるのでそこを意識してしまって、追いかけて脚をなくしてしまいました。私としては、最後の末脚に賭ける競馬をしてほしかったです」
川島調教師が挙げた経験の差とは、リコースパローに騎乗した落合玄太騎手は前年の北海道リーディングで、すでに多数の重賞勝利を経験しているのに対して、宮内勇樹騎手はデビュー2年目で重賞は未勝利。この敗戦後、ソルジャーフィルドの鞍上は小野楓馬騎手に任されることになりました。
「JBC2歳優駿は前が速くなることが分かっていますから、前を追いかけるような競馬をしてしまったら勝てません。本当は勇樹にチャンスをあげたい気持ちもありましたが、このままではJBCは任せられないと。次のサンライズカップまではとも思いましたが、テン乗りでJBCというのは(小野)楓馬にとってもプレッシャーになりますから、JBCを見据えてサンライズカップから騎手を変えました」
-乗替り2戦目で期待にこたえる
サンライズカップでは2番手から抜け出したリコースパローに、ソルジャーフィルドが迫ったものの並ぶところまでは行かず、ブリーダーズゴールドジュニアカップと同じ1馬身半差の2着。
「楓馬にとっても、追いだしのタイミングを計れたのではないかと思います。すんなりサンライズカップを勝っていたら、JBC2歳優駿のあの競馬はなかったんじゃないでしょうか。乗り役心理だと、手ごたえがいいとどうしても前を追いかけたくなるものです。特に重賞や大きなレースならばなおさらでしょう。でもそこを抑えて、自分の競馬に徹することがソルジャーフィルドにとっては重要だったので、楓馬にはこの馬の能力を出すために、(JBC2歳優駿では)残り3ハロンで勝負してくれと伝えました」
2度目の騎乗となった小野楓馬騎手は、早めに動いていく馬たちがいる中で、残り3ハロンまで追い出しを我慢。3コーナーではまだ後方3番手にいましたが、4コーナーで先行集団を射程圏に入れると直線鮮やかに突き抜けました。
ソルジャーフィルドの鞍上をなぜ小野楓馬騎手に託したのか伺うと、「楓馬はね、こっちの指示に対して素直なんです。謙虚な素直さがあるから、私の言っていることをそのまま理解してくれると思いました。もともと、もう一皮むければさらにいいジョッキーになるなと思っていましたから、今回大きなレースを勝って自信になったのではないでしょうか。それに、勇樹にとっても大きな経験だったと思います。リコースパローに2度負けて、おそらく勝負付は済んだと思っていたでしょうから。でも競馬はそういうものじゃない。簡単に勝負付けが済んだと思ってはいけないんです。今は悔しいでしょうが、ここからは本人次第。いい経験を積みましたから、この悔しさを来年に繋げてほしいです」
-初コースでさらなる高みへ
現在、ソルジャーフィルドは12月11日に川崎競馬場で行われる全日本2歳優駿JpnIに向けて調教を重ねています。
川島調教師は、「これまではレース後に精神的にも疲れが来て、少し元気がなくなることが多かったのですが、今回はケロっとしていました。肉体的な部分はもちろんですが、精神的なところもとても成長してくれましたね。次は馬場もコースも違いますから、そこに気を付けながら調整しています」
全日本2歳優駿JpnIは1600m戦。コーナーがきついと言われる川崎で、初の左回りとなります。ソルジャーフィルドにとって、このコースはどう感じているでしょうか。
「大きなコースならばマイルでも問題ないですが、小回りでとなると少し忙しい気はします。前走のように直線だけで差してくるという競馬が難しいコースですから。私の中では、ロジータ記念のポルラノーチェ(2着・落合玄太騎手)の走り。3コーナー手前から動いていく競馬が参考になったかなと。JRA勢もいますし、他にも注目される馬たちがいますが、JBC2歳優駿を勝った以上、恥ずかしい競馬はしないようにと思っています」
第1回のラッキードリーム以来、4年ぶりに地元門別所属馬が勝利したJBC2歳優駿JpnIII。その勢いに乗って、ソルジャーフィルドと小野楓馬騎手が、さらなる高みを目指します。
写真:いちかんぽ
PROFILE
赤見千尋
(あかみ ちひろ)
群馬県出身。1998年高崎競馬場で騎手デビュー。地方競馬通算2033戦91勝。2005年に北関東の競馬場がすべて廃止となり、騎手を引退。現在は競馬レポーターとして、グリーンチャンネル『アタック!地方競馬』『地方競馬中継』などに出演中。