SPECIAL COLUMNSダートの高みを目指して

~注目レースを関係者の声から振り返り、新しい「道」へ~

文:中川明美

VOL.16

ネクストスターで念願の重賞初勝利
笠野騎手とともにガバナビリティー

ガバナビリティー(ネクストスター東日本)

ガバナビリティー(ネクストスター東日本)

 ネクストスター東日本は5月に行われる兵庫チャンピオンシップを頂点とする3歳スプリントシリーズ。今年は3月19日に浦和競馬場で行われる予定だったが、馬場コンディション不良のため取止めとなり、4月10日に川崎で代替開催となった。
 「浦和を使おうと日にちを逆算してきっちり仕上げていましたので、競馬が中止になって馬が戸惑ってストレスがすごかった。目一杯の仕上げだったぶん心身のダメージがあったのでしょう。そこから状態を上げるのは大変でしたが、担当の小西厩務員と、調教に乗っている笠野雄大騎手が懸命に仕上げてくれてこの日を迎えました。笠野騎手から恩返しの気持ちで一生懸命仕上げますと言ってもらって嬉しかったですね」と佐藤裕太調教師。

縁の下で支える騎手に重賞を獲ってほしい

 中央の一口馬主を楽しんでいたオーナーがご自身名義の馬を持ちたいと馬の見立てを依頼された佐藤調教師は、だったら早目にデビューできた方がいいだろうと、オーナーと共に昨年5月の千葉サラブレッドセールに向かった。
 「千葉セリはトレーニングセールですのである程度完成している馬ばかり。船橋のダートを力強く走る姿を見て、馬体が雄大で、オーナーの求める即戦力になりそうだとガバナビリティーをお勧めしました。血統はシニスターミニスター×サウスヴィグラスでまさしくダートですからね」(佐藤調教師)。オーナーも納得して落札。
 購入後はいったん山元トレセンに入って1カ月ほどかけてメンテナンス。6月に入厩すると7月22日の新馬戦を目標にしようということになった。
 「自信を持って送り出せましたし、期待通りの走りをしてくれました。ゲートもスムーズに出て逃げ切った。初めての持ち馬の初勝利にオーナーも喜んでくれました」(佐藤調教師)。最後は後続を7馬身突き離す圧勝だった。
 「自分でもまたがってみて、これは重賞を取れる逸材だと確信していたので、この馬については笠野騎手に調教をお任せしました。僕の現役時代と重なるところがあって、深夜2時から9時まで毎日20頭以上調教を一生懸命している姿を見ていていたので、笠野騎手のような縁の下で支えているジョッキーに重賞を獲ってほしいと思ってお願いしました。ありがたいことにオーナーも応援してくれて。オーナーは教育者で、オリンピックでバトミントンのコーチをしていた方。人を育てることに共感してくれました」(佐藤調教師)
 佐藤調教師は騎手時代に川島正行厩舎に所属しアジュディミツオーやフリオーソをはじめとする名馬の調教をまかされてきたが、騎手として重賞勝ちを果たすことができなかった。自身の経験を重ね、オーナーの応援を得て、デビュー前から笠野騎手に馬の仕上げを委ねた。
 「最初の印象は乗りやすくて幼い中にも良いものを持っていると感じました。まだまだこれから良くなってきそうだと。だから新馬戦も負ける気がしなかった。スピードがあるので余裕をもって競馬を教えてあげればよかったんですが勝ちに行ってしまいました」。笠野騎手はガバナビリティーの相棒として手の内に入れていった。
 夏休みは厩舎で過ごし、2戦目は9月24日。勝ち馬に逃げ切られて2着だったが、番手で抑える競馬を経験。3戦目は重賞の平和賞(10月30日)へ臨み、直線で抜け出したが最後の最後で差し馬の脚に屈して2着だった。11月28日の4戦目では、引退を迎える森泰斗騎手を配すると準重賞を6馬身差で快勝した。

東京ダービー出走を目指して

 年が明けて浦和のニューイヤーカップ。笠野騎手を背に好スタートを切ったが、序盤は激しい主導権争いとなり、後半も早めにホーリーグレイルにマークされて息の入りづらい厳しい展開。結果2着ではあったが、負けて強しのレース内容だった。
 「流れが速くなった展開でも押し切れると思った。道中で楽をさせてあげられれば違ったのかな。馬に厳しい競馬をさせてしまいました」と笠野騎手は反省しきり。「自分が結果を出せなかったので悔しさはあります。2歳から3歳になって、体つきが成長して力強くなってきました。精神面はもともとしっかりした馬なので折り合いも付くし、世代の中ではかなりの位置にいると思います。今後距離が延びるのは未知数ではありますが、スタートも良いし、なにより操作性が良く、ゴーサインに反応してくれる賢い馬です」
 浦和のネクストスター東日本が取止めとなったあとは、川崎マイルのクラウンカップと代替開催のネクストスター東日本の両にらみでエントリー。
 「いずれ長い距離も対応する馬だと思っていますが、前走のニューイヤーカップでテンから出していく経験をしていたのでそれがいい方に出てくれればとネクストスター東日本に出走を決めました」(佐藤調教師)
 ネクストスター東日本では矢野貴之騎手が手綱を取った。ダッシュ良く2番手のポジションを取ると3コーナーでは早くも先頭。直線もしっかり伸びて完勝し、念願のタイトルを獲得。佐藤調教師は“重賞を獲る”という阿部オーナーとの約束を果たした。
 「昨年のギガースに続いて連覇できて光栄に思います。重賞を獲れる逸材だと思っていたので本当によかった。どこからでも競馬ができる馬。騎乗はお任せだったんですが完璧に乗ってくれました。矢野騎手が行きたいのを抑える競馬をしてくれたのも今後に生きてくると思います。次は兵庫チャンピオンシップ(園田)までの輸送となるとまだ体質の弱さもあるし無理せず厩舎でしっかり管理したい。地元の東京湾カップを目指そうと思っています。その先は東京ダービー出走を目指しています。笠野騎手を乗せたい気持ちに変わりないし大舞台を経験させたい」と佐藤調教師は話した。

写真:いちかんぽ

PROFILE

中川明美(なかがわ あけみ)

中川明美
(なかがわ あけみ)

競馬ブック南関東担当記者。新聞紙面にてコラム『南関こんしぇるじゅ』、週刊競馬ブックで『NANKAN通信』、競馬ブックWEBにて『南関あらうんど』等を執筆。週刊競馬ブック南関東S重賞本誌担当。グリーンチャンネルにて『アタック!地方競馬』『ダート競馬JAPAN』に出演中。

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