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未来優駿馬の紡ぐシンクロニシティ

 昨年10月に、各地の2歳馬5重賞を約1週間で短期集中のシリーズ化する初の試みとして行われた未来優駿。シリーズが行われてまもなく半年が過ぎようとしている。勝ち名乗りを上げた5頭の馬たちは、その後、地元に残る、各地を転戦する、新天地での活躍を目指す、とそれぞれの選択肢を歩んでいる。どのような未来を紡いでいるのか、その近況を追ってみた。
取材・文●土屋真光
写真●いちかんぽ、NAR

 
 シリーズ第1戦である若駒賞(10月19日、盛岡)を制したワタリシンセイキ(牡、岩手・三野宮通厩舎→川崎・佐々木仁厩舎)は、続いて水沢で行われた南部駒賞(11月16日)に出走。一旦は抜け出しながらゴール前でマヨノエンゼルの強襲におびやかされる場面もありながら、これを勝利して、この年より制定された岩手2歳三冠に王手。2歳特別戦1着を経て臨んだ金杯(1月2日、水沢)では、中団待機からのひとまくりで、後に笠松に移籍して若草賞(3月20日、福山)を制するなど重賞で活躍するトウホクビジン以下に4馬身差をつける圧勝。制定初年度にして岩手2歳三冠を達成し、年度末に行われた岩手競馬の表彰では、2歳馬ながら年度代表馬に選出されるという快挙を成し遂げたのであった。その後、川崎・佐々木仁厩舎に移籍。 初戦の雲取賞(2月19日、大井)と2戦目の京浜盃(3月25日、大井)を続けて4着とし、新天地でのチャレンジの結果、無敗だったダートでついに黒星がついてしまったが、次なる目標である、南関東3歳三冠の初戦羽田盃(4月22日、大井)に向けて歩みを止めていない。現在の主戦である今野忠成騎手が、岩手時代の主戦であった関本淳騎手から情報交換を交わすなどしながら、調整は入念という話だ。
 
 
 シリーズ第2戦の九州ジュニアグランプリ(10月20日、荒尾)を制したギオンゴールド(牝、佐賀・九日俊光厩舎)も、その後の成績ではワタリシンセイキに引けを取らない。九州ジュニアチャンピオン(11月23日、佐賀)では、前走から+20Kgという大幅な馬体増の影響もあってか、ゴール寸前でパスカルに交わされクビ差で涙を飲んだが、年明け初戦の古馬一般戦を見事な末脚で勝利すると、続く花吹雪賞(1月25日、佐賀)を好位から抜け出して快勝。そして、圧巻だったのはじっくりと間隔を取って出走したル・プランタン賞(4月5日、佐賀)。これまでとは一転してマイペースに持ち込んで後続に6馬身差をつける圧勝劇。「ジョッキーに任せていたので、ちょっとびっくりはしましたが、特に心配はしていませんでした」と管理する九日俊光調教師は愛馬の能力に全幅の信頼を寄せる一方で、「無敗だったら、九州にこんなに強い馬がいるんだぞと、もっと胸を張れるんですが」と謙虚な姿勢を崩さない。今後については荒尾ダービー(5月3日、荒尾)は視野に入れつつも、九州ダービー栄城賞(5月31日、佐賀)に万全な状態で出走することを最優先に調整されていくとのことだ。
 
 
 ギオンゴールドと同じくゴールドヘイローを父に持ち、生産者も同じであるチョットゴメンナ(牡、北海道・堂山芳則厩舎→船橋・岡林光浩厩舎)は、第3戦の平和賞(10月22日、船橋)を勝利。当時道営所属だったため、その後のダートグレード出走については長距離輸送を嫌って回避し、南部駒賞に参戦することを示唆していたが、一転して兵庫ジュニアグランプリ(11月27日、JpnII 園田)から全日本2歳優駿(12月17日、JpnI 川崎)とハードに転戦。ともにスーニの10着、9着と結果は出なかったが、未来優駿勝ち馬の中で、唯一の2歳ダートグレード競走への出走を果たした。年越しを挟んで船橋・岡林光浩厩舎へと転厩し、年明け以降4戦を消化しているがいずれも掲示板にも乗らず不本意な成績が続いている。シンガリに敗れたクラウンカップ(4月15日、川崎)の直前にも「極端に抑えて行かせたり、前に行かせてみたりしているんですが、自分が気に入らないと競馬をやめちゃうみたいで、馬の気分頼みでねぇ」と岡林光浩調教師は首をかしげていた。しかしその一方で、「体の張りは良くなっているし、状態そのものは文句ない」と語っており、まだまだ見限るのは早計かもしれない。道営時代には展開に恵まれたとはいえナサニエルを封じ込めているのだ。
 
 
 第4戦の兵庫若駒賞(10月23日、園田)を制したカラテチョップ(牡、兵庫・寺嶋正勝厩舎)にとってここまでの戦いは、ライバルとの戦いと同時に自身の脚元との戦いでもあった。デビュー戦の勝利の直後に出た脚部不安の影響から、兵庫若駒賞は2ヶ月ぶりの実戦。ここで勝利を挙げたものの、その後もソエなどで間隔を詰めて使うことができず、また十分な調教も施せないこともあってか、絞り込んで出走したレースでも惜敗が続いていた。その間にタマモリターン、ミナミノヒリュウ、キヨミラクルらが台頭。この4頭が兵庫3歳三冠の第1弾、菊水賞(4月9日、園田)でいよいよ顔を揃えた。ここまで無理をさせなかったことが功を奏し、カラテチョップの脚はほぼ万全の状態。直前にも強い調教を施すことができたようで、レースでは、4コーナーで一瞬置かれかけながらも、ゴール前で抜け出したキヨミラクルを外から捻じ伏せるような力強い脚で勝利。兵庫若駒賞以来の勝利で、再度世代ナンバーワンをアピール。ロードバクシン以来不在の兵庫三冠に向けて、第1関門を見事に突破したのである。順調に行けば、次は兵庫チャンピオンシップ(5月6日、園田)の予定。昨暮に回避した兵庫ジュニアグランプリの分も好走を期待したい。
 
 
 第5戦のゴールドウィング賞(10月24日、名古屋)を未勝利馬ながら制したダイナマイトボディ(牝、愛知・角田輝也厩舎)は、この勝利が呼び水となったのか、ここから調子を上げていく。次走は2着に敗れたが、その後は2連勝で当座の目標だった認定レースを勝利。更に、年が明けて初戦の新春ペガサスカップ(1月2日、名古屋)に出走、スタートから先手を取ると、そのままマイペースで逃げ切り重賞2勝目を果たした。すると、ここからはチャレンジが続く。まず、中12日で参戦した園田クイーンセレクション(1月14日、園田)では不利を受けて7着に終わったが、翌月にはJRAのエルフィンステークス(2月7日、京都)に挑戦。初の芝に戸惑ったのか道中やや置かれ加減になるが、直線では出走頭中5番目に速い上がり3ハロンの脚を見せ、後に桜花賞JpnI2着となるレッドディザイアから1.2秒差に健闘した。その後は、若干ソエの症状が出たために、状態を見ながらの出走となったが、初の古馬との対戦(4着)や、笠松への遠征(2着)では負けて尚強しの内容を見せている。ダイナマイトボディの強さを「素質ではなく、稽古に応えて強くなっている」と評する角田輝也調教師。前述のように馬の状態と相談しながら、駿蹄賞を目標に調整していくと語ってくれた。
 
 ここまで、未来優駿勝ち馬の現在までを振り返ったが、まず驚かされるのが、この5頭で重賞を12も勝っているということ。それも2歳時だけのものではなく、3歳になってからのものも半数近く含まれている。これは3歳の今の時期としてはかなりの高水準ではないだろうか。また、それぞれに事情はあるものの、どの馬にも大きな故障がなく、順調にレースを使えているということも特筆すべき点であろう。どんなに高い素質を持っていても、脚元が弱くてレースに出られなくては頂点を極めることはできない。最低限であり、もっとも重要なポイントをクリアできているのが、この快進撃の原動力でもあるだろう。

 もう一つ異なった角度で見ると、それぞれの種牡馬の勢いというか共鳴するかのような活躍にも気付かされる。本文中でも触れたギオンゴールドとチョットゴメンナの父、ゴールドヘイローの活躍は言わずもがな。ワタリシンセイキの父、ビワシンセイキの産駒ではディアボロスが一足先に秋風ジュニア(9月25日、笠松)を勝利。ダイナマイトボディの父、レギュラーメンバーの産駒では同じく東海地区でブラックポイントが活躍し、つい先日にはクラウンカップ(4月15日、川崎)をサイレントスタメンが制した。いかにも地方競馬らしい血統が活躍することを嬉しく思うのと同時に、この結果は偶然では片付けられないような印象を受ける。シンクロニシティ(Synchronicity)。この共時性に何かの因果があるとするならば、未来に向かって駆ける優駿たちを追うのと同時に、彼らの種牡馬たちが現役だった頃をもう一度見つめてみるのも一興なのかもしれない。

 

 
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