ダービーウイーク タイトル

 競走距離1000メートル以下のレースのみで構成されるシリーズ競走、『地方競馬スーパースプリントシリーズ(略称:SSS)』、3年目となる本年は6月11日(火)~7月15日(月・祝)の間、トライアル4戦およびファイナルの計5戦で実施します。
 SSSは、超短距離戦で能力を発揮する異才の発掘と、各地方競馬場で実施可能な最短距離を極力活かすためワンターン(コーナー通過が3~4コーナーのみ)のスプリント戦をシリーズとして2011年に創設されたもので、各地区の超スピードホースが、トライアル、そしてファイナルで極限の速さを競い、初夏の1カ月間を大いに盛り上げます。

 ちなみに昨年は名古屋でら馬スプリントを制した笠松のラブミーチャンが、ファイナルの習志野きらっとスプリントにも優勝。その後、東京盃やJBCスプリントなどでも自慢のスピードを披露して好走を果たしました。

 「ワンターンに駆ける」激戦必至の究極のスプリント戦をお見逃しなく!


スーパースプリントシリーズ2013の総括はこちらです
※下の“タブ”をクリックするとご覧になりたいレースの記事に切り替わります。

信じた末脚でゴール前差し切る
高知から3度目の挑戦で成就


 速度の遅い台風4号はまだ九州のはるか南西の沖にあったが、梅雨前線の影響もあってこの日の園田競馬場は1日じゅう雨。時おり小降りにはなったが、準メインのあたりから雨脚が強くなった。昨年のレースハイライトを見直してみると、2年連続で台風と前線の影響を受けたようで、同じように水の浮く馬場でのスピード決戦となった。
 人気を集めたのは高知から遠征の2頭で、ともに中央オープンの経験馬。特に1番人気となったエプソムアーロンは、大井を経由して転入後4連勝と絶好調で臨んできた。
 スタートで、もう1頭の高知の期待馬、ファイアーフロートが前につんのめるような感じで後手を踏んだ。向正面での激しい先行争いから、地元兵庫勢に佐賀のエーシンパナギアが加わって5頭が横一線で3コーナーに入った。そして3~4コーナーでは、内枠のホットチリペッパーが先頭へ。母は中央で富士ステークス(99年)など重賞2勝の活躍馬。さすがのスピードだ。
 直線を向いてもホットチリペッパーが先頭だったが、先行争いの中からホクセツラインが直線半ばで交わして先頭へ。しかし外から明らかに違う脚色で伸びてくる馬がいた。地元兵庫の下原理騎手が手綱をとった、高知のエプソムアーロンだ。スタート後の直線は中団を追走していたが、外から徐々に位置取りを上げると、4コーナーで前を射程圏にとらえ、ゴール前では並ぶ間もなく抜き去った。
 1馬身差で2着にはホクセツラインが入ったが、大外から伸びてきた馬がもう1頭。出遅れたファイアーフロートだった。「出遅れる可能性も考えていたけど、枠順(1番)がねぇ、厳しかったです」と赤岡修次騎手。この超短距離戦で、出遅れたがゆえに外に持ち出すという二重のロスがありながら、直線では勝ち馬と同じような勢いで迫ったものの、ホクセツラインには3/4馬身届かず、それでも3着は確保した。
 勝ったエプソムアーロンは、9歳ながら高知に移籍後、これで負けなしの5連勝。「結果的に外枠がよかったと思いました。一度、前をカットされたんですけど、切り替えて、外からまた行けて、それでこの馬の力を出せたと思います」と下原騎手は勝因を語った。
 管理する雑賀正光調教師は、第1回の一昨年にはグランシュヴァリエ、ポートジェネラルというダートグレードでも好走があった2頭の有力馬で挑戦し、1、2番人気に支持されながらも、それぞれ5、3着。昨年もシーアクロスで挑んで6着。そして3度目の挑戦で結果を出せたことには、ホッとした様子だった。



下原理騎手
予想紙を見て前には行けないと思いましたが、差せると信じて乗ってみようと思っていました。3~4コーナーでひと息入れる場面があったので、あとは直線でどこまで伸びてくれるかという気持ちで4コーナーを回りました。このレースでは差し切りはなかなか難しいと思っていたので、この馬の力に驚きました。
雑賀正光調教師
道中は、もっと前にいるだろうと思っていたので、どこにいるのかテレビで見直してしまいました(笑)。それでも3コーナーを回るときには大丈夫かなと思いました。過去2年も(別の馬で)挑戦して負けているので、この距離には多少不安はありました。久しぶりに遠征競馬で勝ててよかったです。


 さて、次はスーパースプリントシリーズ・ファイナルの習志野きらっとスプリントへということになるが、雑賀調教師は「馬主さんと相談して…」と慎重な様子で、さらに続けた。「目標をこしらえると、馬が壊れてしまう」と言って笑った。なるほど高知には中央や南関東のオープンで活躍した馬もいるが、そうした馬たちはどこかに問題を抱えているという場合も少なくない。それでもそのときどきの状態を見ながら馬を再生させ、遠征競馬でも結果を出すというのが、なるほど高知の底力なのだろう。
 目標はつくらないと言った雑賀調教師だが、「佐賀(サマーチャンピオンJpnⅢ)に行くつもりはあります。佐賀で、中央の馬といい勝負をしてやろうと思って(笑)」。今年も地方の全国リーディングでトップを独走している雑賀調教師の目標は、やはり高いところにある。

取材・文:斎藤修
写真:桂伸也(いちかんぽ)