ダービーウイーク タイトル

 競走馬にとって最高の名誉、それはダービー馬の称号。

 全国各地の6競馬場(佐賀・盛岡・門別・大井・園田・名古屋)で行われる“ダービー”6競走を約1週間で短期集中施行する夢のような6日間、それが「ダービーウイーク(Derby Week)」(創設2006年)です。

 ダービーウイーク各レースで勝利を掴んだ各地の世代ナンバーワンホースは、全国3歳馬のダート頂上決戦「ジャパンダートダービーJpnⅠ(大井・7/9)」出走に向け、大きなアドバンテージが与えられます(※)。
※ 東京ダービーの1・2着馬にはジャパンダートダービー(JDD)への優先出走権が与えられ、その他5競走は指定競走(注)として認定されている。
(注) 指定競走とは、その1着馬が根幹競走の選定委員会において、同一地区内の他の馬に優先して選定される競走をいう。なお、他の優先出走権の状況や指定馬の数によって適用されない場合がある。
 前年秋の「未来優駿」シリーズを皮切りに、一世代でしのぎを削る熱き戦いは、集大成への大きな山場を迎え、興奮はクライマックスへ。今年もダービーウイークから競馬の未来が生まれる。

2014年ダービーウイークの総括はこちらです
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直線の混戦からゴール前差し切る
距離を延ばして勝負根性を発揮

 『ダービーウイーク』として6月上旬に行われるようになった北海優駿(06年のみ北斗盃で実施)は、三冠最終戦で定着していたそれまでとは全く異なるレースに変貌。ホッカイドウ競馬の関係者にとっては、最も欲しいタイトルは『道営記念』であり、それは今でも変わらない。しかし、6月の“ダービー”として認知され、アラベスクシーズとフーガが直線で叩き合い(2009年)、クラキンコの歴史的な父母娘の北海優駿Vでは場内から惜しみない拍手が沸き起こり(2010年)、さらにはピエールタイガーとスタープロフィットによる壮絶な叩き合い(2011年)のあたりから、関係者の北海優駿への思いも強くなってきた。
 2011年生まれの世代は昨年、約480頭が門別でデビュー。その頂点にはNARグランプリ2013の年度代表馬に輝いたハッピースプリントがいる。しかし、今年6月2日現在における3歳馬の入厩状況は約130頭まで減少。ホッカイドウ競馬出身馬が各地で活躍する姿は嬉しくもあり、また歯がゆい面もある。その中でも、残った3歳馬で北海道の頂点を決める一戦を戦うべく、シーズンオフをじっくり調整された馬や、各地で揉まれて再転入した馬など今年は多士済々。どの馬が勝っても重賞初制覇がダービー馬の勲章を得られるメンバーでの争いとなった。
 短距離戦からシフトしてきたハピネスチャンスが先頭に立ち、前半の3ハロン通過は37秒8と少々速い流れとなり、最後方にいたグッドマテリアルまで約3秒離れた縦長の展開。タフな門別の馬場で、この流れだと上がりは相当掛かるのでは……と思ったが、向正面で14秒台が2つ続き、馬群が凝縮。4コーナーまで一団で進み、直線はズラッと横に並ぶ好レースとなった。
 「ワイルドサプライズが意外としぶとく、差し切れるかどうかちょっと不安だった」と、レース後に井上俊彦騎手が直線での心境を語ったヤマノミラクルが、前哨戦でも見せた勝負根性できっちりゴール前で捕まえた。
 「ピッチ走法だから、2歳時は短距離の差し馬と思いレースを選択してきたが、この2戦で距離にメドも立ち、並外れた勝負根性に成長を感じる。何より坂路の効果も大きいかな」と、松本隆宏調教師は充実著しいヤマノミラクルを称えた。
 ホッカイドウ競馬の三冠は1200、2000、2600メートルと距離の幅が広く、三冠の道は険しい。今回のメンバーで一冠目の北斗盃に出走した馬は、ヤマノミラクルとハーブティーだけだった。しかし過去5年で見ると、クラキンコ、ピエールタイガー、ミータローと北斗盃で上位争いを演じ、三冠ロードを歩んだ馬は強い。トライアルのローズキングダム賞を制したヤマノミラクルは、他馬にない経験値で混戦を断った印象を受ける。
 「北斗盃(4着)も、外枠ならもっと際どい競馬になっていたと思う。言われてみれば確かに、短距離戦の厳しい競馬を経験したことは大きいかもね」と井上騎手。スピード、運、スタミナ。この3つが試されるのがホッカイドウ競馬の三冠ロードである。その道は、しっかりと考え抜かれた上に作られたものであることを改めて認識させられる一戦だった。
井上俊彦騎手
前走は前半行きたがる面があったので、今回は折り合いを重視し、行く気を見せずにレースを運びました。4コーナーを回った時は手応えからよしっ!と思いましたが、意外と前がしぶとくヒヤッとしました。勝負根性を見せてなんとか差し切った時はホッとしました。
松本隆宏調教師
昨年は坂路で時計を詰めることができなかった馬が、今回の直前は3ハロン36秒0と前走より1秒1も詰めているように、状態も上がって臨めました。飼い食いが細いタイプなので、遠征に関しては未定で、王冠賞で二冠制覇を目標にすることになると思います。


2着ワイルドサプライズ

取材・文:古谷剛彦
写真:中地広大(いちかんぽ)