未来優駿2016特集
 毎年秋に行われる各地の2歳主要競走(計7レース)を短期集中施行するシリーズ(2008年創設)。2016年は10月5日から、11月1日まで、未来を期待される優駿たちの戦いが繰り広げられます。

 3歳馬によるダービーウイーク同様、各地の主要競走が短期間で楽しめる贅沢感や、先々への期待感を醸成できることが、このシリーズ最大の魅力。また、11月以降のダートグレード競走(11/1・門別競馬場・北海道2歳優駿、11/23・園田競馬場・兵庫ジュニアグランプリ、 12/14・川崎競馬場・全日本2歳優駿)への期待感を高めることも期待されます。


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直線先頭の断然人気馬をとらえる
流れを読んだ鞍上の好騎乗で快勝

 10月12日の門別第10レース、五十嵐冬樹騎手は地方・中央通算2000勝を達成。ホッカイドウ競馬でデビューした騎手としては初の快挙となった。カツゲキライデンとともに引き上げてきた五十嵐騎手は、「(桑原)先生と一緒に写真を撮りたいんだけど、次のレースの装鞍があるもんなぁ」と、少し寂しそうにウィナーズサークルへ向かった。
 記録達成の翌週となる18日に表彰式が行われた。これまでの戦歴が紹介された後、マイクを向けられた五十嵐騎手が珍しく言葉を詰まらせた。「いろんなことを喋ろうと思っていたんですが、何か(涙が)こみ上げてきちゃって……」
 そんな五十嵐騎手を隣で見ていた桑原義光調教師は、「肩でも叩いてやろうかと思ったんだ」と、愛弟子の珍しい姿を暖かく見守っていた。
 これまで11度の北海道リーディングを獲得してきた五十嵐騎手は、コスモバルクとのコンビで一世を風靡するなど、まさにホッカイドウ競馬の顔。勝つことだけでなく、勝ち方やレース運びなど、今もなお厳しく指導する桑原調教師の姿勢に、五十嵐騎手は応えてきた。記録達成が自厩舎の馬だった喜びを先生と分かち合いたいという思いが、2000勝達成時の言葉として出てきた。
 今年のサッポロクラシックカップは、ダート1200メートルの持ち時計で他馬より約2秒以上速いローズジュレップの1強ムード。それでも、9月16日に新しい砂を入れたことで、よりパワーを必要とする馬場に変化していた。ローズジュレップはスピードの違いでウィナーズチャレンジを2勝しているが、「先行馬にきつい馬場状態をどう乗り切るかがポイント」と、田中淳司調教師は戦前に話していたように、持ち前のスピードが仇となる不安も感じていた。
 その馬場状態を味方につけ、ストレンジウーマンとの先行争いで展開が向くのでは……と、フライングショットに騎乗する五十嵐騎手はシミュレーションしていた。前半3ハロンは34秒9と、今の馬場状態を考えれば相当なハイペース。「ゲートの課題はありますが、この中間は練習をしっかりしたことでゲート内も落ち着いていました。スタートを決め、想定していた流れになった時には、ひょっとすると、との思いはありました」と、五十嵐騎手は道中を振り返る。
 持ち切れない手応えでローズジュレップは途中から先頭に立って押し切りを図ったが、最後の1ハロンは14秒4もかかる展開に。剛腕・五十嵐騎手のステッキが唸り、ゴール前でフライングショットがローズジュレップをとらえ、重賞初制覇を飾った。
 「1頭強いのがいるから、正直自信は持てませんでしたが、気性の成長からようやく能力を出し切れるようになってきたので、期待は持っていました。そうはないチャンスを生かしてくれないことには、2000勝ジョッキーとして恥ずかしいですからね。勝てて嬉しいですよ」と、レース後のインタビューで、五十嵐騎手への厳しい言葉も垣間見えた桑原調教師だった。しかし、少し時間を空けて、「でも、今日の冬樹には何も言うことはないな。素直に褒めてやらなきゃ」と笑顔で答えた瞬間、大きく育ったリーディングジョッキーへの愛情が感じられた。久々に見た師弟関係の強い絆に、私もジーンと来てしまった。
 なお、フライングショットの次走は未定だが、将来的に船橋・出川克己厩舎へ移籍する予定。2着のローズジュレップは、兵庫ジュニアグランプリJpnⅡで巻き返しを狙う。
五十嵐冬樹騎手
精神面が成長したことで、縮こまることなくダイナミックな走りができました。ゲートの課題をクリアできたことはもちろん、馬場や展開も向いた印象はありますが、直線での手応えから前を捕まえられる雰囲気があっただけに、勝ててホッとしました。
桑原義光調教師
能検で好時計をマークするなど、素質の高さを感じていましたが、ゲートの課題など若さが抜けきれない面がありました。ただ、中間の過程で気性の成長も感じ、期待をもって挑みましたが、よく差し切ってくれました。今後についてはオーナーと相談して決めたいと思います。



取材・文:古谷剛彦
写真:中地広大(いちかんぽ)