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2017年6月28日(水) 大井競馬場 2000m

直線並ぶ間もなく突き抜ける
運を味方にジーワン初制覇

 昨年の帝王賞JpnⅠ以降、古馬のダートGⅠ/JpnⅠを2勝以上したのはコパノリッキーのみ。そのコパノリッキーが右ヒザ関節炎により回避したとなれば、混戦により拍車がかかることは明白だった。それはオッズにも反映され、2.6倍の1番人気アウォーディーから8.2倍のケイティブレイブまで6頭がひしめき合い、7番人気のオールブラッシュですら10.8倍。どの馬が勝っても不思議はなかった。
 こうしたときに勝つのは、えてして“運のいい”馬。力が拮抗していれば展開次第で結果が変わる。この日、この時、この場所で、最も勝利の女神に愛されたのは、コパノリッキーの回避により繰り上がり出走となったケイティブレイブだった。
 しかし、スタートでつまずくとは思わなかった。ハナに固執するつもりだった福永祐一騎手も「終わったと思った」と口にするほど、致命的なつまずき。だが、結果的にはそれが功を奏すこととなる。
 川崎記念JpnⅠを逃げ切ったオールブラッシュが、当時と同じようにペースを掌握。しかし、クリソライトと戸崎圭太騎手が楽逃げを許さない。2ハロン目が11秒台で、それ以外もきれいに12秒台が並ぶ淀みない流れ。追走する各馬も手ごたえに余裕は見られなかった。それでもクリソライトは容赦なくプレッシャーをかけ続け、3コーナー過ぎで先頭へ。持ち前のしぶとさを発揮し、直線半ばでさらに加速する。勝負あったか――。そう思われた瞬間だった。外からケイティブレイブの末脚が一閃。並ぶ間もなく突き抜け、初のJpnⅠタイトルを手にした。
 振り返れば、まくり勝ちもあるケイティブレイブだが、近況の好走パターンはハナか2番手。それが向正面で12番手を追走していたなら、福永騎手ならずともため息が出たことだろう。ただ、鞍上は文字通りの手ごたえをつかんでいた。「リズムを守って追走できたのが良かった。3コーナーからは今までにないような感触だった」。そして今まで見せたことがないような鋭い末脚。大歓声に包まれ、先頭でゴールに飛び込んだ。
 惜しかったのは、2着のクリソライト。「しぶといタイプだから早めに先頭に立った」と、戸崎騎手はパートナーの持ち味を信じ、渾身の騎乗を見せた。最後は「相手が切れたね」と勝ち馬の末脚に脱帽したが、見せ場十分の積極的なレースぶりで、かつてのホームコースを沸かせた。
 一方、1番人気のアウォーディーは直線で伸びきれず3着。3番手を進み、4コーナーで先頭に並びかける王道の競馬だったが、「道中から手ごたえがあまり良くなかった。集中していない感じだったね」と武豊騎手。ただ、それで3着なら地力は見せたといえる。「また、秋だね」と武騎手もリベンジを誓った。
 結果的にJRAから出走した7頭が、7着までを占めた。同様の結果に終わったかしわ記念JpnⅠに続き、地方勢には厳しい結果を突き付けられたことになる。救いは地方最先着(8着)を果たしたタマモネイヴィー、10着のウマノジョーともに伸びしろがある中での参戦だったこと、9着のミッキーヘネシーも強敵相手でのレースぶりに多少の進境が見られたことか。ただ、そうは言っても3秒もの差は埋めがたく、中~長距離GⅠ/JpnⅠでのこの状況は、しばらく続きそうだ。
 コパノリッキーの回避、よもやのつまずきと、すべての流れがケイティブレイブに向いた一戦だったが、忘れてならないのはこの馬自身の精神的な成長。「新しい一面を見せてくれたし、こういう(差す)かたちで勝てたのは収穫」と、口元に笑みを見せた福永騎手。まだ4歳と若いだけに、これからのダート戦線を席巻する可能性を十分に秘めている。
福永祐一騎手
初めて乗った時からポテンシャルの高さを感じていたし、馬の雰囲気からも状態の良さが感じられました。もろい面もあると思っていたけど、今回のレースはまさにひょうたんから駒。目の覚めるような末脚を見せてくれましたね。今後は人気を背負っても強さを発揮できるよう、成長してほしいと思います。
目野哲也調教師
来年には定年引退を控えているので、どこかでジーワンを勝ちたいと思っていました。つまずいたときには「あっ」と思いましたが、直線まで離されずにきたから、これなら差し切れるかなと思いました。地方の馬場が合っているし、もっと強くなるでしょう。どれだけの力を持っているか、僕もわからないほどです。


取材・文:大貫師男
写真:国分智(いちかんぽ)