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2017年11月3日(祝・金) 大井競馬場 1200m

【リポート動画】

4頭が同タイムの激戦を制す
地方デビュー馬が頂点奪取

 地元・大井のララベルによるJBCレディスクラシックJpnⅠ制覇の興奮が冷めやらぬうちに、スタートが切られたJBCスプリントJpnⅠ。その1分11秒後、大観衆が目にしたのは、JBC史上に残る名勝負だった――。
 前哨戦・東京盃JpnⅡは、地方馬によるワンツーフィニッシュ。船橋のキタサンミカヅキが持ち前の末脚を繰り出し、先に抜け出した浦和のブルドッグボスをゴール前で差し切った。当然、この2頭への期待も大きかったが、東京盃JpnⅡで休み明けながら3着に食い込んだニシケンモノノフ、大井1200メートルで抜群の成績を誇るコーリンベリー、そしてGⅠ/JpnⅠ単独最多勝の11勝目を狙い、あえてこのレースを選択してきたコパノリッキーと、JRA勢も強力な布陣。地方馬として、スプリンターとして、GⅠ/JpnⅠ・10勝馬として、それぞれの意地がぶつかり合う一戦となった。
 ダッシュ良く飛び出したコーリンベリーを先頭に、向正面の長い直線を使った先行争いが演じられる。そのさなか、出遅れ気味のスタートだったコパノリッキーが外から一気に位置取りを上げ、3コーナーで先団に取りつく。最内枠のニシケンモノノフは先行争いに加わりながらも内で脚をため、ブルドッグボスとキタサンミカヅキは中団位置。それぞれの思惑が入り乱れ、最後の直線を迎えた。
 コーリンベリーとネロがしぶとい粘り腰を発揮し、コパノリッキーもじわじわと差を詰める。直線も半ばを過ぎると、外では中団にいた地方勢2頭の末脚が爆発。ニシケンモノノフは抜け出す場所を内に求め、進路を切り替える。6頭による息が詰まるような最後の攻防。結果、4頭が同タイムでゴール線を切った。
 そして、左手でガッツポーズを作ったのはニシケンモノノフ鞍上の横山典弘騎手。内に進路を切り替えたとたん、ニシケンモノノフは爆発的な加速を見せ、瞬時に前に出た。ホッカイドウ競馬でデビューして以来、コンスタントに走り続け、6歳の秋にようやくつかんだ頂点。検量室前に引き揚げてきた横山騎手は、馬から下りるやいなや満面の笑みで関係者と抱き合い、喜びを爆発させた。「本当にタフに走ってくれる」。横山騎手のその言葉には、万感の思いが込められている。
 コパノリッキーはゴール寸前で一瞬、先頭に立ったものの、最後は勝ち馬の瞬発力に屈して2着。手中にしたかと思われたGⅠ/JpnⅠ・11勝目が、するりと抜け落ちてしまった。「少し出遅れて……。流れが速くて戸惑ったのかも。じっと構えていた方が良かったのかな……」。森泰斗騎手は1番人気に応えられなかった悔しさもあったか。話の合間に「すみません」という言葉を繰り返し入れて話した。ただ、初めて挑んだスプリント戦で、しかもJpnⅠ。それでアタマ差の2着なら、胸を張れる結果だろう。
 期待された地方勢は、ブルドッグボスの3着が最高だった。「もう少し前で運べたら良かったけどね。でも、差のないところまで来たし、よく頑張っている」と内田博幸騎手。今回は勝利の女神がほほえまなかったが、グレードウイナーらしい卓越した末脚は見せた。チャンスはまた巡ってくるに違いない。
 一般的に“意地の張り合い”という言葉は、いい意味では使われない。しかし勝負の世界では、これほどのすばらしい名場面を演出し、そして興奮と余韻を与えてくれる。地方馬として、スプリンターとして、GⅠ/JpnⅠ・10勝馬として――。JBC史上に残る名勝負を演じた各馬に、惜しみない拍手を送りたい。
横山典弘騎手
返し馬ではいつも以上に元気が良くて、具合が良さそうだと感じました。道中の手応えもずっと良かったですね。最後はどこへ出そうか迷ったけど、内に進路をとってからは反応も良く、伸び伸び走ってくれました。6歳馬ですが、本当にタフな馬ですし、来年も再来年も頑張ってくれると思います。
庄野靖志調教師
このレースを目標にしてきたから、勝てて本当にうれしいです。前走を使ってから、グングン調子が上がってきていました。最後に前が詰まったときには『ノリさん、お願い!』と祈りましたね。次走は未定ですが、とにかく元気いっぱいですし、来年以降も頑張ってくれるでしょう。

地方勢最先着の3着に入ったブルドッグボス

取材・文:大貫師男
写真:いちかんぽ(早川範雄、国分智)