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2017年12月29日(金) 大井競馬場 2000m

作戦通りの逃げで後続を寄せつけず
ジーワン最多勝記録を更新して引退

 2017年暮れの大一番、東京大賞典GⅠが冬晴れの大井競馬場で行われた。前日のJRA開催もあり、客足や売上がどうなるか興味深いところではあったが、当日は昨年を上回る35,221人が来場。東京大賞典GⅠの売上42億7307万1200円は地方競馬1レースの売上レコードを更新。1日あたりの売上70億4365万7260円(SPAT4LOTO含む)もこれまでの記録を8億円以上も上回るレコードとなり、大盛況の1日となった。
 ファンで埋め尽くされたスタンドから、この日一番の歓声が響いた東京大賞典GⅠのゴールシーン。先頭で駆け抜けたのはこれが引退レースのコパノリッキーだった。圧倒的なパフォーマンスでライバルたちを完封し、史上最多のGⅠ/JpnⅠ・11勝。見事に有終の美を飾った。
 出走馬16頭中、JRA勢は7頭でそのうち5頭がGⅠ/JpnⅠ馬という豪華なメンバー。1番人気は、帝王賞JpnⅠの勝ち馬ケイティブレイブで単勝3.5倍。2番人気は、JBCクラシックJpnⅠを制したサウンドトゥルーで4.0倍。そしてコパノリッキーは3番人気で4.7倍と、今年の国内古馬ダートJpnⅠを制した3頭が上位人気に支持された。地方からは、ジャパンダートダービーJpnⅠを勝った3歳馬ヒガシウィルウィンが参戦し、一線級の古馬相手にどんなレースを見せるのか注目が集まっていた。
 ゲートが開くと、ケイティブレイブと逃げ宣言をしていたコパノリッキーとの先行争いとなったが、コパノリッキーが先手を奪いペースを握った。ケイティブレイブは2番手となり、3番手にインカンテーション、そのうしろにミツバ、ロンドンタウンとJRA勢が続いた。少し離れた6番手にヒガシウィルウィンが追走し、末脚勝負のサウンドトゥルーやアポロケンタッキーは後方からレースを進めていた。
 3コーナーでケイティブレイブが前との差を少し縮めたが、直線に入り突き放したコパリッキーはそのまま独走態勢。2着に3馬身差をつける鮮やかな逃げ切り勝ちでラストランを締めくくった。
 直線で追い込み2着に上がったサウンドトゥルーの大野拓弥騎手は「勝負どころではいけるんじゃないかと思いましたが勝ち馬が強かったです」とコメント。3着に粘ったケイティブレイブの福永祐一騎手は「逃げか番手かという指示だったのでその通りには乗れました。早めに仕掛けたけどつかまえられず、最後は脚が上がってしまいました。完敗です」と振り返った。これらの言葉からも、コパノリッキーの強さが際立つレースだった。
 なお、7着までをJRA勢が独占し、地方馬最先着の8着がヒガシウィルウィンとなった。「相手が強かったですね。でもこのメンバーに揉まれて良い経験になったと思います。まだ3歳ですし来年またがんばります」と森泰斗騎手は語った。
 最終レース後には多くのファンが見守る中、コパノリッキーの引退式が行われた。挨拶に立った小林祥晃オーナーは「神様と皆様に感謝申し上げます。こんな馬が私の手元に……。ありがとうございました」と声を詰まらせ、涙が溢れた。今回は、初めてGⅠ/JpnⅠ制覇を飾った2014年のフェブラリーステークスGⅠと同じ7枠13番ということで、オーナー自身、当時と全く同じ服装でこのレースに挑んだそうだ。そして、引退式の後、ベストパフォーマンスについて尋ねると、「今日のレースですね。ずっとこういうレースをさせてあげたかった」とにっこり微笑んだ。
 村山明調教師は感慨深げに「正直、最初は期待していた馬ではありませんでした。食べることしか考えていないのかなと(笑)。こんなに強くなるとは思いませんでした」と。
 また、2014年のフェブラリーステークスにも騎乗していたのが田邊裕信騎手だ。「この馬で僕も初めてジーワンを勝たせてもらい、しかも最低人気での勝利とインパクトのある勝ち方で自分の知名度もあげてもらいました。今の僕があるのはリッキーのおかげです」と感謝の気持ちを語った。
 そして、コパノリッキーを生産したヤナガワ牧場は、今年の有馬記念GⅠを制し日本での獲得賞金史上最高額となったキタサンブラックの生産牧場でもある。ともにラストランを勝利で飾り、芝・ダート双方で歴史に名を刻む2頭の名馬を輩出した。これもまた偉業といえよう。
 コパノリッキーは来年から北海道のブリーダーズ・スタリオン・ステーションで種牡馬生活を送る。小林オーナーからは、自身の所有馬で快速牝馬として名を馳せたラブミーチャンとの交配という楽しみなプランも明かされた。数年後、コパノリッキーの子供たちが競馬界を盛り上げてくれることを期待しながら待ちたい。
 
田邊裕信騎手
ほっとしました。無事に引退させること、また記録もかかっていたので一番いい形で終われて本当に良かったです。ケイティブレイブとの先行争いになりましたがうまく対応できて、折り合いも大丈夫だったので後半はリズムよく走れました。コパノリッキーの仔に騎乗して、また良い結果を残したいですね。
村山明調教師
3日前にオーナーと田邊騎手とで話し、思った通りのレースになってくれたので勝てるのではと思っていました。安心しては見られませんでしたが自分の形に持ち込めましたからね。引退レースを勝てて本当に嬉しいです。子供が生まれたら自分で管理したいですし、皆さんにまた応援していただきたいです。


取材・文:秋田奈津子
写真:いちかんぽ(早川範雄、国分智)