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2023年9月29日(金)

ダート競馬の未来 ~教えて古谷先生~

第2回 新ダート三冠って?

先に発表された『全日本的なダート競走の体系整備』では、中央・地方交流のダート三冠をはじめとして、ダートグレード競走を中心に大幅に体系の見直しが行われました。まもなく始まる新たなダート体系についての疑問や、これから日本のダート競馬がどのように変わっていくのか、古谷剛彦さんに解説していただきました。聞き手は一瀬恵菜さん、司会は小堺翔太さん。第2回は、南関東の三冠から、中央・地方の交流へと発展する、新たなダート三冠についてです。

小堺:では、3歳の三冠路線に話を進めていきます。ファンの間でも話題になりましたダート三冠について、古谷さん、改めてどのように変わるか教えてください。

古谷:もともと南関東三冠最終戦のジャパンダートダービーはJpnIのダートグレード競走として行われていましたが、それに加えて羽田盃、東京ダービーも交流のJpnIとして、新たな3歳ダート三冠が誕生します。ジャパンダートダービーはジャパンダートクラシックに名称を変え、JRAの菊花賞のように秋の実施となります。これにともない前哨戦(トライアル)も変わってきます。ブルーバードカップ、雲取賞、京浜盃がダートグレード競走となり、東京ダービーに向けては中央のユニコーンステークスもトライアルになります。秋には岩手の不来方賞、JRAのレパードステークスがジャパンダートクラシックのトライアルになります。JRAも含めたダート競馬の一大改革といえます。

小堺:前哨戦から大きく変わるということで、頭を切り替えていかないといけないですね。

古谷:JRAの番組では3歳戦にダート重賞が少ないことが指摘されていましたが、三冠の前哨戦として1月からJRAとの交流重賞ができたことで、中央馬にとっても(2歳11月の)JBC2歳優駿から毎月のようにダートの重賞を狙っていけるようになります。

一瀬:今回の改革では、全日本の三冠という位置付けになると思うんですけど、三冠レースすべてが大井で行われるのはなぜなのでしょうか。

小堺:難しい質問がきましたね(笑)。

古谷:高額の賞金を出せるということもありますが、コース形態やフルゲート16頭という点も大きいですね。またこれまでにも帝王賞や東京大賞典など、ダートのチャンピオンを争うレースが行わてきた実績から、レベルの高い馬がたくさん集まりやすい環境でもありますよね。

一瀬:(ダート三冠は)1800、2000、2000mと距離の幅もあまりないですよね。

古谷:アメリカの競馬を考えれば僕はこれでいいと思います。(大井の)内回りコースでやれるのかという疑問もありますし、広いコースの1600m戦を設定するのかという話にもなりますが、1400mに距離短縮される兵庫チャンピオンシップがあるので、中距離は1800メートル以上と考えると、大井で実施するというのが妥当ではないかなと思います。

一瀬:東京ダービーの1着賞金が1億円と、三冠で最高額に設定されていますが、ジャパンダートクラシック(1着7000万円)ではないんだ。やっぱり“ダービー”なんだと思いました。

古谷:やっぱり最高峰は“ダービー”でしょう。

小堺:やはり“ダービー”に栄誉を持たせるということかなと思いますね。それと3歳三冠路線では、JRA馬の頭数が気になりますね。

一瀬:そうですね。JRA馬の出走予定頭数(初年度)というのが少ないと思うのですが……。

  • ※参考:3歳ダート三冠路線における中央所属馬の出走馬決定方法(PDF)
  • 古谷:今後段階的に考えられていくとは思いますが、南関東で行われてきたレースの形を変えるということで、地元所属馬への影響を考慮して、まず初年度はJRAの頭数は少なめになっています。将来的にはダートの有力馬はますます地方に入厩する流れになって、中央・地方の所属に関係なく選ばれるのが理想ですね。日本で競馬を行ってるわけですから、“日本馬”という感覚で捉えるべきです。海外のレースに申し込むとなれば、JRAでもNARでもなく“JPN”になるわけですから。

    一瀬:確かにそうなっていくのが一番いいですね。

    古谷:なのでこれは中央と地方が対等な関係になっていくというように見たほうがいいですね。

    小堺:対等な関係になる上での初めの一歩ということですね。

    古谷:いずれダート路線も必ず対等になりますよ。セリでは馬の価格が上がって、素質のある馬も地方に入ってきています。それは市場に来てる人たちが一番実感していると思います。JRAの調教師の方々ですら、(オーナーから依頼された馬が)高くて買えないと言ってるのですから。それに近年は、セレクトセールの取引馬が地方競馬でデビューすることもめずらしくなくなっています。以前なら考えられなかったことですよね。

    小堺:変化ということでは、南関東の厩舎関係者の皆さんは、三冠すべてがJRAとの交流に変わるということで、「もう勝てなくなるのではないか」という不安を持った方もいたと思うのですが、古谷さんのお話だと、(今年三冠を制した)ミックファイアも出ているし、そうじゃないんだ、ということですよね。

    3冠を達成したミックファイア

    古谷:もちろんです。

    一瀬:ただ、中央と地方が交流していくなかで、今まで地方馬同士の交流として盛り上がっていたダービーグランプリがなくなってしまうのは少し寂しいですね。

    小堺:たしかに、今年はダービーグランプリがすごいメンバーになりそうなので、それがなくなるのは少し寂しい気はしますよね。

    古谷:でもJBCができたことによって、かつて2000mで実施されていた大井のグランドチャンピオン2000というレースが(第1回JBC前年の)2000年を最後に幕を閉じたという例もあるので、最後の年にすごいメンバーが集まって、来年の素質馬たちは東京ダービーを目指して頑張りましょうという形で終わるのはかっこよくないですか。

    一瀬:そう思うと今年はかなり意味のある年ですね。

    古谷:今年の地方の3歳戦線では、東海ダービーを無敗のまま制したセブンカラーズは故障で戦線離脱してしまいましたが、全国的に活躍馬が目立った1年だったと思います。生え抜きの馬が強いのは地元戦だけなのではないかと思われることもありますが、金沢のショウガタップリが大井の黒潮盃に出て6着とそこまで負けず、西日本ダービーではあれだけ強い競馬を見せましたよね。負けを経験して強くなる馬もいるので、地元のみで無敗続きというよりは、他地区に遠征して強敵相手に揉まれることは大きいと思います。

    小堺:改めてになりますが、古谷さん、この体系整備で競馬全体にどのような変化が起きると思いますか。

    古谷:ダート馬に、今まで以上に大きな目標ができたということはありますね。JRA所属馬は主に地方で実施されるトライアルで上位に入らないと三冠への出走が難しいという面はありますが、地方馬が芝のクラシックを目指す時は、トライアルでの上位着順やJRAの3歳芝重賞での実績が必要となるので、地方が舞台となる以上は、JRAの馬も同じように地方の舞台で権利を獲るというのは別におかしくないと思います。JRAの馬にとってはハードルが高くなるので、地方でデビューしたほうがダート三冠を狙いやすくなりますし、地方でデビューすれば短距離路線も狙えるので、2歳の早い段階で距離適性を試すこともできます。それに距離やカテゴリーごとの競走体系が確立されれば、その分野のスペシャリストが誕生しやすくなりますよね。

    小堺:またそこで結果を残した馬が種牡馬になるという流れもできてくるかもしれませんね。

    古谷:今はダートの種牡馬も人気がありますからね。先ほど中央と地方が対等という話が出ましたけど、芝とダートが対等になっていくのではないでしょうか。

    小堺:そういう意味でも日本の競馬全体の流れが変わる大きな改革だと思います。一瀬さんは古谷さんの説明を聞いて、改めて3歳のダート路線についてどう思いますか。

    一瀬:ダートも含めた世代全体が楽しみになるのはすごくいいことだと思いました。今まではどうしても芝のクラシックに目が行きがちで、南関東のクラシックも楽しみにはしていましたけど、全国的に注目度がそこまで高くはなかったと思うので、今後それが同じようにハイレベルになるのは楽しみですね。さらに強いダート馬が出てきてほしいと思います。

    小堺:先々が楽しみになる改革ですね。まずは初年度のダート三冠がどうなるか、注目になりそうですね。

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