無限に増えゆく武豊伝説
有言実行でアレンパ達成
ちょうど1年前。JRAの武豊騎手は、ゴールデンジョッキーカップ初優勝のお立ち台で言った。
「“アレ”することができてよかったです(笑)」
阪神タイガースのアレ=優勝と絡めて笑いをとった武騎手は、その足で甲子園球場へ繰り出し、リーグ優勝の瞬間を体感したという。もはや伝説。
9月19日、園田競馬場で第31回ゴールデンジョッキーカップが行われた。通算2000勝以上を挙げた騎手から選ばれた12人が腕を競う“名手の祭典”。55歳になった武騎手は、今年もスペシャルウィークの勝負服(臼田浩義オーナーの馬主服)をまとって園田にやってきた。そして出場騎手の紹介セレモニーで宣言した。
「“アレンパ”できるように頑張ります(笑)」
第1戦ファイティングジョッキー賞は、兵庫の小牧太騎手&リケアヴェールが1枠1番から抜群のスタートを決めて、鮮やかに逃げ切った。大歓声のゴールイン。兵庫の川原正一騎手が後方から伸びて6馬身差の2着、兵庫の吉村智洋騎手が半馬身差の3着に粘って、兵庫勢のワンツースリーフィニッシュが炸裂した。
兵庫で育まれたスター騎手として、2004年にJRAへ移籍し活躍してきた小牧騎手。近年は乗り鞍が減っていたが、今年3月の園田遠征で大活躍したことがきっかけで「まだやれる」という手応えをつかみ、古巣への移籍を決断。8月に兵庫の騎手として再出発した。
小牧騎手は第1戦をこう振り返る。
「『スタートが出にくいところがある』と聞いていたので、出遅れたら腹を括って乗らなきゃいけないと思ったのですが、一番いいスタートを切ることができました。みんなに『やらせですか?』って言われたぐらい強かったです(笑)」
9月7日に57歳になったばかりの小牧騎手にとって、この勝利は『移籍後19勝目』。武騎手が「久しぶりに小牧さんの顔を見たら若返っていたので、『本当にいい移籍だったんだな』と思いました」と語るように、素晴らしい騎乗で兵庫のレースを盛り上げている。
第2戦エキサイティングジョッキー賞は、吉村騎手&ベラジオサキが大外から力強く脚を伸ばして1着。武騎手が1馬身差の2着に食い込み、高知の赤岡修次騎手がクビ差の3着に粘り込んだ。吉村騎手がベラジオサキとコンビを組むのは3度目だった。
「スタートが決まるかどうかわからなかったんで、『とりあえずスタートだけ決めよう』と考えて臨みました。道中は溜められるだけ溜めて、上がりの脚を伸ばしてくる競馬に徹しました。やっぱり皆さんお上手なので、隙がないですね。自分のしたいこともできないレースが多いので、楽しいレースばっかりです」
厳しいレースだからこそ楽しい――そう感じるメンタリティが、吉村騎手をリーディングジョッキーたらしめているのだろう。第2戦が終わった時点で、吉村騎手は33ポイントを獲得して暫定1位に立った。2位の小牧騎手が23ポイント、3位の武騎手が22ポイントで、2位以下のポイントは拮抗。栄光は誰の手に?
ラストの第3戦チャンピオンジョッキー賞のゲートが開くと、客席が大きくどよめいた。1番人気に推された武騎手&コンドリュールが立ち遅れてしまったのだ。後方に置かれた武騎手を尻目に、JRAの岩田康誠騎手が大逃げを打った。兵庫の下原理騎手が2番手、赤岡騎手が3番手を追走。岩手の山本聡哉騎手が4番手につけてレースを進める。
向正面から3コーナーにかけて、岩田騎手と後続の差がじわじわ詰まっていく。4コーナー、下原騎手と山本騎手が競りながら先頭に並びかける。直線、『岩田・下原・山本』が横並びで、火の出るような叩き合い!1着争いはこの3人に絞られたか、と思いきや……。
いつの間にか4番手に上がっていた武騎手が、外から軽やかに脚を伸ばして1着。下原騎手が2馬身半差の2着で、山本騎手がハナ差の3着に入った。
結果、42ポイントを獲得した武騎手が総合優勝。有言実行でアレンパ(連覇)を達成した。吉村騎手が36ポイントで2位、小牧騎手が29ポイントで3位に入賞した。
武騎手は「レース展開が上手くハマったと思いますし、『いい馬に当たったな』と思いました」と言って、さらっと爽やかにレースを振り返った。一方、陶然とした表情で「さすがだ……」と呟くジョッキーがいた。それは過去3戦、コンドリュールの鞍上を務めた山本咲希到騎手だ。
「ああいう競馬をするとは思っていなかったので、『本当に凄いな』と思いました。ズブいところがあったり、調教でも気難しいところがある馬なんです。だけど武さんはガシガシするわけでもなく、出たなりで馬の気に任せて、馬の能力を出し切って強い勝ち方をさせました。レース後、武さんは『ポジションどうこうじゃなくて、出たなりで、この馬のリズムで競馬をさせた方がいいよ』とおっしゃっていました。勝ってくれて嬉しいですし、ほんまに勉強になりました!」
27歳の若者は瞳を輝かせた。名手からとびきりの学びを得られる貴重な機会。ゴールデンジョッキーカップの意義を実感した。そして武豊伝説は無限に増えていくのであった。
取材・文井上オークス
写真早川範雄(いちかんぽ)
Comment

総合2位 吉村智洋騎手(兵庫)
豊さんとは役者が違いましたね。僕の庭まで獲って行っちゃうとは完敗です。(第2戦を終えた時点ではトップに立っていたが)第3戦は豊さんがめちゃくちゃ前にいたので「厳しいな」と思いました。また来年も豪華なメンバーで実施されると思いますので、選んでいただけたら、優勝を目指して頑張ります。

総合3位 小牧太騎手(兵庫)
最近は川原(正一)さん以外は自分より若いジョッキーと乗っていますが、今日は豊くんが乗りに来てくれて、なんだかホッとしました(笑)。ひとつ勝ててよかったです。馬が強かったので、厩舎の方々にお礼を言いたいですね。園田では週に3日間レースをやっているので、ぜひ皆さん遊びに来てください。













総合優勝 武豊騎手(JRA)
タイガースも“アレンパ”してほしいですね(笑)。今年も全国から素晴らしいジョッキーが集まり、園田に移籍した小牧さんと久しぶりに一緒に乗ることができたので、非常に嬉しい1日でした。地方競馬も中央競馬も、そして海外競馬も、これからどんどんいいレースが続きますのでぜひ応援してください。