ダービーウイーク タイトル

 競走馬にとって最高の名誉、それはダービー馬の称号。

 全国各地の6競馬場(佐賀・盛岡・門別・大井・園田・名古屋)で行われる“ダービー”6競走を約1週間で短期集中施行する夢のような6日間、それが「ダービーウイーク(Derby Week)」(創設2006年)です。

 ダービーウイーク各レースで勝利を掴んだ各地の世代ナンバーワンホースは、全国3歳馬のダート頂上決戦「ジャパンダートダービーJpnⅠ(大井・7/10)」出走に向け、大きなアドバンテージが与えられます(※)。
※ 東京ダービーの1・2着馬にはジャパンダートダービー(JDD)への優先出走権が与えられ、その他5競走は指定競走(注)として認定されている。
(注) 指定競走とは、その1着馬が根幹競走の選定委員会において、同一地区内の他の馬に優先して選定される競走をいう。なお、他の優先出走権の状況や指定馬の数によって適用されない場合がある。
 前年秋の「未来優駿」シリーズを皮切りに、一世代でしのぎを削る熱き戦いは、集大成への大きな山場を迎え、興奮はクライマックスへ。馬も人も本気にさせるダービーウイークを今年もよろしく!

2013年ダービーウイークの総括はこちらです
※下の“タブ”をクリックするとご覧になりたいレースの記事に切り替わります。

またも逃げ切り兵庫変則三冠制覇
亡き父に捧げるダービーの栄冠

 5月28日に気象庁から近畿地方が梅雨入りしたと発表になったが、それ以降の降水はわずか。今年の兵庫ダービーも砂けむりが舞い上がるコンディションで行われた。
 人気を集めたのは3頭。しかしそれぞれの馬には心配と感じられる部分があった。
 一冠目の菊水賞を圧勝し、グランダム・ジャパン3歳シーズンののじぎく賞も逃げ切っていたユメノアトサキは、これまで以上にマークが厳しくなるのではという心配。エーシンクリアーはゲート試験でいい走りを見せたとのことだが、剥離骨折からの休養明け。モズオーロラは3連勝と勢いに乗っているが、初の重賞でどうなのか。とはいえ、この3頭の単勝オッズは4倍未満で三つ巴の様相。さらにこの3頭の陣営はすべて、複数の馬を兵庫ダービーに出走させていた。
 さながら団体戦といった様相もあるなか、まず先手を取ったのはユメノアトサキだった。その直後をサヴァイバルダンスとハルイチバンが追走していくが、競りかけるというところまではいかず、ユメノアトサキがマイペースを保って逃げているように見えた。
 対するモズオーロラは、中団よりやや後ろの位置取り。エーシンクリアーも後方からレースを進めたが、1コーナーで田中学騎手が腰を落として左ムチを振り下ろす状況で、早くも首位争いから脱落していった。
 再び向正面に戻ったところで、モズオーロラと同厩舎のオレタチセッカチが先頭にプレッシャーを与えにきた。その後ろからモズオーロラが徐々に前との差を詰めにかかり、3コーナーの手前ではモズオーロラがユメノアトサキに馬体を並べるまでになった。
 しかし、ユメノアトサキはすぐに応戦。馬体が並んでいたのはわずかの間で、4コーナーでは競りかけたほうが逆に苦しくなってしまった。そうなれば、あとはユメノアトサキの独壇場。その2馬身後方ではモズオーロラが2着に粘り、混戦の3着争いはオレタチセッカチが巻き返す形で食い込んできた。
 ウイニングランを終え、検量室に戻ってきた坂本和也騎手は顔を洗い、その後も何度かおしぼりで顔をぬぐった。その姿にほかの騎手から「泣いているんじゃない!?」と声をかけられたが「いや、今日は涙を見せないから」と答えていた。それでも、笑顔のなかにレース中の興奮と緊張感が残っているような表情で記念写真を撮り、表彰式に向かった坂本騎手。その面持ちは勝利騎手インタビューのときに少しだけ崩れた。
 「これだけは言わせてください。今日、4コーナーで応援してくれていた、元ジョッキーでもある父に、感謝の気持ちでいっぱいです」
坂本和也騎手
スタートがよかったですし、道中のペースも思いどおり。でも馬がずっと遊んでいました。2周目の3コーナーで(モズオーロラに)迫られたところでまた伸びましたが、あれも馬がまだ遊んで走っているからなんです。並ばれたときには一瞬、厳しいかなとも思ったんですが、馬には余裕がありました。
新子雅司調教師
転入当初はハロン棒ごとに外に膨れていたというくらい、気持ちに幼さが残るタイプ。でも北海道で走っていたときよりは落ち着きが出てきたと思います。その意味でも、これから先の成長が見込めますね。次はジャパンダートダービーで相手が強くなりますが、この馬の走りを見せてくれると思います。


 坂本騎手の父は、昭和52年、坂本騎手が4歳のときにレース中の事故が原因で帰らぬ人となった。そのお墓は園田競馬場の4コーナーの近くにあるそうだ。
 ユメノアトサキの次走は、「強い相手にぶつけてみたい」というオーナーの意向で、ジャパンダートダービーJpnIと表明された。「どんな相手でも逃げられると思いますし、並ばれるとしぶとい」と新子雅司調教師が評価する兵庫ダービー馬には、まだまだたくさんの夢が託されている。

取材・文:浅野靖典
写真:国分智(いちかんぽ)