毎年秋に行われる各地の2歳主要競走(計7レース)を短期集中施行するシリーズ(2008年創設)。2014年は10月後半、約2週間にわたり、未来を期待される優駿たちの戦いが繰り広げられます。

 3歳馬によるダービーウイーク同様、各地の主要競走が短期間で楽しめる贅沢感や、先々への期待感を醸成できることが、このシリーズ最大の魅力。また、11月以降のダートグレード競走(11/26・園田競馬場・兵庫ジュニアグランプリ、 12/17・川崎競馬場・全日本2歳優駿)への出走意識を高めることで、競走体系の整備促進にも資することが期待されます。


2014年未来優駿の総括はこちらです

※下の“タブ”をクリックするとご覧になりたいレースの記事に切り替わります。

期待の逸材が能力の違いを見せる
自信のレース運びで無傷の5連勝

 今年で7回目を迎える兵庫若駒賞。過去の勝ち馬6頭中3頭が翌年の兵庫ダービーを制している出世レースで、あのオオエライジンもこのレースを制して、ダービーも勝った。まさに『未来優駿』の名にふさわしい園田の未来を背負って立つ優駿たちを生み出している。
 今年の兵庫2歳戦線の主役を務め、このレースでも1番人気に推されたのがデビュー以来、余裕十分に無傷の4連勝を挙げているトーコーヴィーナスだ。父がクロフネ、母が97年JRA桜花賞3着のホーネットピアスで、従姉に05年JRA桜花賞、NHKマイルカップ勝ちのラインクラフトがいる良血。2013年のセレクトセールで3000万円(税別)で落札された地方では破格の素質馬で、484キロの馬体はパドックでも他馬を圧倒していた。
 また、この世代の数少ないライバルと見られていた3勝馬ショウリ(9月の園田プリンセスカップではトーコーヴィーナスを差し置いて1番人気、7着)が金沢へ移籍。トーコーヴィーナスの初戦、2戦目の2着馬フセノダイヤは右前蹄骨骨折でリタイア。牡馬にもこれといった有力馬が不在。出走全馬が牝馬で、時計面でも大きな開きがあるメンバーの中、単勝1.1倍が示す通り、焦点はトーコーヴィーナスの勝ち方に絞られていた。
 レースは、トーコーヴィーナスがハナに立つと、鞍上の木村健騎手はスローに落とす。淡々とした流れで進んだ3コーナー手前で、3番手にいた4番人気ジンアトランティスの山田雄大騎手がトーコーヴィーナスを捕まえに動くと、2番手外にいた2番人気ポムショコラの川原正一騎手も呼応、レースは一気にヒートアップ。
 しかし、逃げるトーコーヴィーナスの木村騎手は慌てない。後続が迫ると、さらにひと伸びし、直線では外から伸びたポムショコラに1馬身半のセフティリードを保ったままゴールイン。5連勝で重賞2勝目を飾った。
 危なげない完勝劇に、「ハミを取ったのは直線の一瞬だけ。まだ遊びながら走っているし、半分の力くらいでしか走っていない」と木村騎手が言えば、吉行龍穂調教師も、「今日みたいなレースでは負荷がかかっていないので、次走の追い切りの時に負荷をかけないといけない」と話すほどだった。
 次走は11月26日の兵庫ジュニアグランプリJpnⅡ。さらにその結果次第では12月31日大井の東京2歳優駿牝馬を目指すとのこと。兵庫ジュニアグランプリでは強力な中央勢が相手となる。しかし吉行調教師は、「この馬は相手に合わせて走る馬。まだ真面目に走ったことがないから、中央馬が相手でも、どこまで走ってくれるのか本当に楽しみ。過去に感じたことのない期待感がある」と言い切る。
 今年で16回目を迎える兵庫ジュニアグランプリは過去に2度、地方馬が勝っているが、地元兵庫勢は未勝利。だが、今年は地元勢初Vの悲願を託せる期待馬の出現で少し趣が変わりそうだ。
木村健騎手
強いのは分かっているのでプレッシャーもなく、自信しかなかった。レースではまだ若くて、直線で一瞬ハミを取っただけ。まだ能力の半分くらいしか走っていない。全能力を発揮したら、どれくらい強いか分からない。次も馬を信じて頑張りたい。
吉行龍穂調教師
他の馬が来るのを待ちながら走っていた。前に馬がいれば追いかけるし、後ろから来れば、走る気を出す。だから強い馬と走ったら、もっと力を出せそう。まだ遊びながら走ってるし、今までの馬と違って、中央勢が相手でもやれそうな手応えはあるので、次が楽しみ。



取材・文:松浦渉
写真:桂伸也(いちかんぽ)