過去の熱戦

第1回 2001年 大井競馬場

カクテル光線に美しく映し出されたコースに、高らかに鳴り響いたファンファーレ、超満員のスタンドからは、星もきらめく夜空に向けて、拍手、大歓声が沸きあがった。同じ日にGI競走が2レース、日本では初めてのこの大イベント『JBC(ジェイビーシー)』が行われた10月31日の大井競馬場は、今年最高の4万8454人のファンで、大いに盛り上がった。
長引く不況に売上げは伸び悩み、ファン離れさえ伝えられる最近の競馬場。しかしこの夜ばかりは違った。人、人、人の波で賑わったスタンド。実力馬が勢揃いしてのビッグなレースには、興味、関心を示すファンはまだまだ多いと、改めて意を強くしたばかりか、その異様ともいえる光景を目のあたりにして、久しぶりに興奮した。
中央、地方のダート巧者が出走して、1200mの距離にスピードを争う『JBCスプリント』と、2000mの距離にスタミナを競う『JBCクラシック』の、ふたつのGI競走が行われた記念すべき第1回の『JBC』。レースのほうもGI競走ならではの激戦となり、スタンドのファンを大いに満足させるものだった。

10月31日 大井競馬場 右2000m

第1回JBCクラシック GI

レギュラーメンバー

混戦模様が一転…

1着賞金は地方競馬では破格の1億円と、日本版ブリーダーズカップにふさわしい高賞金に、ダートGI優勝の実力馬が大挙出走して覇を競ったメイン第9レースの『JBCクラシックGI』。
1番人気のレギュラーメンバーが、どの馬にもチャンスありの混戦模様であった戦前の予想をくつがえし、ゴール前強襲のマキバスナイパーをクビ差振り切って優勝。昨秋のダービーグランプリGI、今年1月の川崎記念GIに次いでダートGI3勝目を挙げた。
このレギュラーメンバーは、8月の旭川でのブリーダーズゴールドカップGII以来の実戦で11キロの馬体増。しかもフジノコンドルに先手を取られ、3番手から直線抜け出すという苦しい競馬を強いられての勝利だった。
東京記念制覇の余勢を駆って挑んだマキバスナイパーはもう一歩の所で金星を逃し、騎乗した左海誠二騎手は「最後は交わせると思ったのに……、悔しい」を連発していた。

松永幹夫 騎手

状態が良かったので勝ててホッとしています。スタートが悪かったのですが、初めから2、3番手の馬任せでいこうと考えていました。道中の手ごたえも抜群でしたし、最後はヒヤっとしましたけどゴール前では勝利を確信しました。

10月31日 大井競馬場 右1200m

第1回JBCスプリント GI

ノボジャック

スタートを決め一気にゴール

1着賞金8000万円を賭けて、名うてのスプリンター14頭が争った第8レースの『JBCスプリントGI』。東京盃GIIまで交流重賞5連勝のノボジャックが、積極果敢に飛び出したカガヤキローマン、メジロダーリングの好位3番手から、直線は馬なりのまま先頭に立って、最後方から大外を追いこんだブロードアピールを、2馬身半差突き放す圧勝劇で6連勝。見事1番人気にこたえた。
直線中ほどでは、うしろを振り返るほどの余裕を見せたノボジャックの蛯名正義騎手は、ポンと出たスタートのよさを勝因に挙げていた。
大健闘は地元大井の3歳馬フレアリングマズル。好位追走から内を鋭く伸びて、ゴール前ではブロードアピールにアタマ差交わされて3着と連対を果たせなかったが、キャリア豊富な古馬勢を相手に3着は立派。騎乗した内田博幸騎手も「直線で前が壁にならなかったら……」そんな思いではなかったろうか。

蛯名正義 騎手

スタートもスムーズでしたし、馬任せで無理してハナに立たなくていいと思っていました。うしろに脚を使う馬がいるので、早く抜け出したくなかったんですが、手ごたえ十分だったので行きました。いい時に乗せてもらえて感謝しています。

森秀行 調教師

これまでと比べて一番楽でしたね。今日はスタートも完璧だったし、逃げると思っていた馬が逃げてくれて展開も楽でした。前走後もすごく調整がしやすかったですね。前走も圧勝していたので、無事に走ってくれれば勝てると思っていました。

見えてきた日本競馬の新展開 存在意義が大きいJBC

迎えて今年が18回目と歴史を誇るアメリカでのブリーダーズカップは、いまでは1日に8レースのGI競走が行われ、世界のホースマンが注目する生産者主導の競馬の祭典である。
この日本版ブリーダーズカップの施行に向けて努力を続けてきた関係者。ファンの期待にこたえた白熱のレース、そして超満員のスタンドに、日本の競馬の新たな展開を確信したことだろう。
ファンが楽しむ競馬に中央も地方もない。充実した番組、素晴らしいレースには、ファンは競馬場に出向いて、一票を投じてスタンドで一喜一憂する。競馬のダイゴ味を満喫するものである。私も久しぶりに足を運んだ大井競馬場で、競馬の面白さ、素晴らしさを味わった。意義は大きいJBCの実施、来年の開催を今から楽しみに待ちたい。
文:原良馬、斎藤修、本田康宏、八木重和、小山内完友、大貫師男 | 写真:いちかんぽ

第2回 2002年 盛岡競馬場

11月4日 盛岡競馬場 左2000m

第2回JBCクラシック GI

アドマイヤドン

中央勢優位のクラシック 3歳馬Aドンが圧勝

2000m前後の古馬ダートGIは、このJBCクラシックを含めて年間に5レース。最近ではダート芝を問わず活躍する一流馬も増えてきたことから、事前に出走馬を予想することすら難しい。
JBCクラシックの1着賞金は1億円で、地方競馬では最高額だが、この1カ月後にジャパンカップダートGI、さらに年末には東京大賞典GIが控え、有力馬を出走させる陣営もレースの選択に慎重にならざるをえない。
南部杯GIを制した地元のトーホウエンペラーが回避し、帝王賞GI(8着)以来休養中の船橋トーシンブリザードも間に合わなかった。地方を代表する両雄が姿を見せず、地方勢はダートグレード勝ち馬不在となった。対する中央勢は出走枠が拡大され、注目の6頭が顔を揃えた。同じ盛岡2000mのマーキュリーカップGIIIとエルムステークスGIIIで牡馬を相手に連勝しているプリエミネンスが断然の1番人気。ホクトベガ、ファストフレンドなどのダート女王の域に近づくにはここでGIタイトルを獲りたいところ。菊花賞4着から中1週で出走してきたアドマイヤドンは、予定どおりのローテーション。もし菊花賞に勝っていてもここに挑戦したという。一昔前とは比べものにならないほどダート競馬が盛んになり、その変化を象徴する参戦過程といってもよいだろう。帝王賞GIの覇者カネツフルーヴ。川崎記念GIを制したリージェントブラフ。今シーズン2つのGIIを圧倒的な強さで制したアルアラン。武豊騎手を配したGIII3勝のマンボツイスト。いずれが勝っても不思議のない有力馬が厳選された。
中央の後藤浩輝騎手が手綱をとる船橋のキングリファールが軽快に逃げ、単独先頭。南部杯2着で波乱の立役者となった地元のバンケーティングがかかりぎみに並びかける。追い込みにかけるリージェントブラフを除き、中央の有力馬はいずれも前の2頭を見ながら好位をキープした。向正面でキングリファールが力尽きると、カネツフルーヴが3コーナーで早くも先頭、アドマイヤドンがすぐうしろを追走していた。果たして直線は、この2頭が抜け出した。坂のあたりまでは併走が続いたものの、アドマイヤドンが突き放しにかかり、残り200mほどで後続に楽々とつけた差が7馬身。思わずダービーグランプリGIでのゴールドアリュールと比較したくなるような、圧倒的な勝利となった。カネツフルーヴが最後は脚が上がり、プリエミネンスがこれを交わして2着に食い込んだ。プリエミネンスにとっては、それまでダート路線を歩んできた馬たちは負かしたものの、3歳クラシック路線から参入してきたアドマイヤドンには決定的な差をつけられた。GI2着という成績は残したものの、GIタイトルの壁は、今回つけられた着差以上に厚いものだとあらためて感じたのではないだろうか。
そして地方勢にとっては厳しい結果をつきつけられた。掲示板は中央勢が独占。あらためて層の厚さを感じさせる結果で、地方勢にグレードタイトル馬不在とあってはしかたない。 南部杯も含めれば、秋の古馬中距離ダートGIは4レース。今後JBC(特にクラシック)を一段格上の、GI中のGIとして盛り上げていくには、いかにここに最強馬を集結させるかが一番の課題となるところだろう。

藤田伸二 騎手

人気の馬が前にいたので競馬がしやすかったです。久々のダートで馬がとまどっていましたが、手ごたえも抜群で4コーナーで勝てると思いました。新馬戦もダートで勝っていますし、こなしてくれると思っていました。

松田博資 調教師

菊花賞を勝ってもここを使おうと決めていました。ようやく立ち直ってきましたし、ダート適性もあると思っていました。不安は中1週のレース間隔でした。まだ飼葉食いもよくないので、これからもっとよくなるでしょう。

11月4日 盛岡競馬場 左1200m

第2回JBCスプリント GI

スターリングローズ

スプリントはゴール前混戦
スターリングローズが人気にこたえる

ダート競馬でいま一番面白いのが、この短距離路線かもしれない。
JBCとして新設されて2回目だが、ダートを主戦場とするスプリンターたちのほとんどが、このレースを目標にしてきた。ひとつひとつのレースが白熱するのも競馬の面白さではあるが、数カ月や数年単位でレースを見るのも競馬の楽しみの一面でもある。もちろん賞金の高さもあるが、ダート1200mのGIは唯一のものだけに、そんな面白さが凝縮されたレースということができる。
出走すれば1番人気になったであろうサウスヴィグラスの戦線離脱は残念だったが、これはしかたない。今年は斤量を背負わされて苦戦が続いている昨年の覇者ノボジャックは、もちろんここが最大の目標だ。今年、サウスヴィグラスの次にこの路線で活躍が目立ったスターリングローズは、南部杯GI(7着)の雪辱を期しての出走で、やはりその期待は大きく再び1番人気に支持された。ステップレースの東京盃GIIを逃げ切ってアッといわせた牝馬アインアインも元気に遠征してきた。フェブラリーステークスGI勝ちのノボトゥルーがいる。前年の芝スプリントチャンピオン、トロットスターがいる。ダート・芝を股にかけて活躍するかつての2歳牝馬チャンピオン、ヤマカツスズランがいる。3歳の上がり馬ココモキングは最後までスターリングローズと1番人気を争った。新たな戦いの場を求めて中央から岩手に転厩してきたトキオパーフェクト、トーヨーワシントンもこの路線での活躍馬だ。トーヨーワシントン、トキオパーフェクト、ノボトゥルー、ノボジャック、ココモキング。5頭もが追加登録料を払って出走してきたことは、このレースへの期待の大きさを表しているといえるのではないだろうか。
スタート。逃げると思われたアインアインとヤマカツスズランがいない。出遅れたわけではないが、ダッシュがつかなかった。アインアインは、中団のややうしろにいた。楽に追走というわけでもなさそうで、この位置ではいかにも苦しい。気性的にも、いつも思いどおりのレースができるというわけではなく、その悪いパターンにはまった感じだ。
スターリングローズが絶好のスタートを切ったがやや抑え、大井のハタノアドニスが単独でペースをつくった。ココモキング、スターリングローズの両人気馬が続いた。ヤマカツスズランもすぐに位置どりを上げ、4番手を追走していた。4コーナーをまわる。ハタノアドニスの外にココモキング。そしてスターリングローズは、さらにその外を大事にまわった。南部杯の同じ4コーナーで内に包まれて行き場をなくした、その同じ轍を踏まぬよう福永祐一騎手はコースを読んだ。直線を向いても、我慢して、我慢して、後続が並んでくるまで追い出しを待った。外から並びかけてきたのは、道中スターリングローズをすぐ前に見て進んだ昨年の覇者ノボジャックだ。一旦は並んだように見えたが、スターリングローズはそれでも抜かせなかった。前にいた有力馬たちのサバイバルレースかに思えたゴール前で、それを切り裂いたのがノボトゥルーだ。先行グループから離れた中団ややうしろを進み、直線勝負にかけた。絶妙のタイミングで大外から追い込み、武豊騎手の「しまいを生かす」作戦がみごとにはまったかと思ったが、わずかにクビ差、及ばなかった。
接戦を制したスターリングローズの福永祐一騎手はゴールした瞬間、小さくガッツポーズ。3歳1月のデビューから2年近くをかけてオープンまでクラスを上げ、それからさらに約1年、ようやく上り詰めた念願のGIタイトル奪取となった。

福永祐一 騎手

外枠だったのでスタートでつまずかないように気をつけました。道中の手ごたえもすごくよかったのですが、一気に伸びるタイプではないので気を抜くことができませんでした。最後もよく差し返してくれました。

北橋修二 調教師

南部杯はスタートが悪かったし、調教も少しやりすぎたところがありました。今回は外枠だったので、鞍上も精神的に楽だったようです。(初の)1200mも、スピードがあるので短いほうがいいと思っていました。

JBCをさらに大きなイベントにするために

第2回JBCを「地方競馬の祭典」という面で見てみると、明らかに他のGIとは異なる、それ以上の盛り上がりを見せたことは確かだろう。
まず、これまで日本では行われることがなかった「1日にGI 2レース」というインパクトは、やはり大きい。盛岡駅から競馬場に向かう送迎バスの混雑が、これまでに経験したこともないほどのものだったことからも、競馬場に到着する前からその熱気を感じることができた。
JBCスプリントの前に重賞(オパールカップ)が行われたのも、JBCというイベント全体を盛り上げるのに一役買ったのではないだろうか。将来的にJBCとしてさまざまなカテゴリーのレースを増やしていくことが目標であれば、とりあえず地区限定の重賞でもいいから、2歳馬戦や牝馬限定戦の重賞を組んでいくべきだろう。
盛岡競馬場にいたので、場外発売が行われた競馬場の雰囲気については伝聞になるが、昨年に続いて多くのファンが馬券を買いに訪れ、普段の開催以上に混雑していたところもあったと聞く。次回はJRAの施設でも本格的に場外発売が行われることになる予定で、それがどの程度の規模になるのかが楽しみなところ。
さらに、JBCを日本の競馬の祭典として盛り上げるには、競馬ファンの枠にとどまらず、社会全体に広く浸透させていくことが必要となるだろう。
文:斎藤修、來田康宏、八木重和、小山内完友、大貫師男 | 写真:いちかんぽ

第3回 2003年 大井競馬場

11月3日 大井競馬場 右2000m

第3回JBCクラシック GI

アドマイヤドン

余裕のレース運びで完勝!
ドンが築いた砂の牙城は、より強固に、そして難攻不落に。

前年の覇者アドマイヤドンに死角はなかった。2月のフェブラリーステークスGIこそ大敗したが、秋シーズンはエルムステークスGIIIを皮切りに、マイルチャンピオンシップ南部杯GIも楽勝。ダート界の覇者として、その地歩を固めつつある。そして今回もやはりと言おうか、危なげないレースで連覇を達成した。
ただ、これほどまでにレースがうまかっただろうか。ゲートは特筆するほど速いわけではないが、労せずして3、4番手につけると、スッと折り合う。そのあとは安藤勝己騎手の頭脳が冴える番で、逃げるカネツフルーヴの脚を量り、追い込み勢を牽制する絶好の位置取り。抜け出しのタイミングさえ間違えなければ、と思わせる余裕の走りだった。3コーナー過ぎで徐々に進出し、4コーナーでは先頭のカネツフルーヴを確実に射程圏に捉える。直後からスターキングマンが迫撃態勢に入ると、安藤騎手もそれを確認。ゴーサインを送ると安藤騎手の仕事は8割が終わり、アドマイヤドンの出番。けっして「切れる」のではなく、あくまで「伸びる」。そして残り1ハロンを切った時点で大勢は決し、前走マイルチャンピオンシップ南部杯同様、ゆうゆうと、そして力強く、先頭でゴールを駆け抜けた。
やはり感じるのは、道中のレース運びに余裕があること。そしてその余裕は、前半で無理なく好位をキープできるレースセンスの良さに起因すると見る。それだけではない。今回もただ1頭37秒台の上がりをマークしたように、終いも確実に伸びる。
450キロ前後の馬体から繰り出される迫力は、あえて言うなら重戦車。そら恐ろしささえ感じさせる直線の重厚感だった。
2、3着はマイルチャンピオンシップ南部杯の順位が逆転。早めに進出していたスターキングマンが、コアレスハンターの追撃を抑えた。スターキングマンは道中アドマイヤドンを見るかたちで、絶好のレース展開。直線でも先頭に迫ろうかという勢いだったが、いい脚は一瞬だけ。結局は勝ち馬の持続的な伸びに屈した。
前走の逃げから一転、中団からの競馬に徹したコアレスハンターもいい末脚を見せた。前走が自身初の長距離輸送だっただけに反動も心配されたが、そこは勝手知ったる自分の庭。地方勢最有力と見られたネームヴァリューをきっちり抑え込んだ。
結果的に、1~3着馬はマイルチャンピオンシップ南部杯と同じで、スターキングマンは日本テレビ盃GIIの優勝馬。3歳馬ながら5着に健闘したミツアキタービンもダービーグランプリGIからの参戦で、Road to JBCの結果が大きく反映された今回のレースだった。
比類なき強さでダート界を席巻するアドマイヤドン。今回の勝利で、その覇権はさらに強固なものとなった。迎え来たる厳冬。ドンの牙城を巡る争いが、その焦点となる。

安藤勝己 騎手

スタートはあまりよくなかったですが、無理をしないでいい位置を取ることができたし、終始楽なレースができました。前走の盛岡の時に比べて落ち着いていたのですが、終いに1頭になったらフワフワしていましたね。馬場に対する不安が少しだけありましたが、今年になってだいぶ力をつけたようで、安定したいい雰囲気を持っています。レースもうまいですから、なんの心配もなく乗れました。

松田博資 調教師

デキに関しては、なんの心配もありませんでした。レース前にも言っていたとおり、自信を持ってレースに出したので当然の結果だと思っています。今回がこの馬の普通の状態です。まだまだよくなりますよ。落ち着いているし、まったく言うことがなかったです。この馬はダート向きだと思っていません。ドバイには行こうと思っていますが、オーナーは芝も使ってみようと言っていますので、芝も使うことになるでしょう。

11月3日 大井競馬場 右1190m

第3回JBCスプリント GI

サウスヴィグラス

1年越しで悲願のGI制覇
ゴール前の叩き合いを制し、名実共にスプリントの王者へ

第3回を迎え、ダートスプリント王決定戦にふさわしい豪華メンバーが集結。
短距離陣の層が厚いJRA勢は、ノボトゥルー、ノボジャック、スターリングローズのGI馬3頭に実力馬サウスヴィグラス。そして今夏に頭角を現し、条件戦から3連勝で一気に重賞を制した上がり馬マイネルセレクトという精鋭中の精鋭。一方の地方勢も、前哨戦の東京盃GIIでサウスヴィグラスに圧勝したハタノアドニスをはじめ、そのレースで致命的な出遅れをしながら、直線だけの競馬で3着に入ったエスプリシーズが代表格。また、南関東二冠馬のナイキアディライトがクラシックではなくこちらに参戦したこともレースを盛り上げた。
注目のスタートで一番のダッシュを見せたのはサウスヴィグラスだったが、内からナイキアディライトが気合をつけられながらハナへ立つと無理せず2番手に。1番人気に推されたハタノアドニスは3番手。マイネルセレクト、スターリングローズらもその直後で虎視眈々とレースを進める。3~4コーナー。サウスヴィグラスがほとんど馬なりのままナイキアディライトに並びかけると、直線で一気に後続を突き放し押し切る態勢へ。何とかこれに迫ろうとするハタノアドニスだが、馬体さえ併せることができずゴール前で力尽きる。代わってサウスヴィグラスに一完歩ずつ迫ってきたのがマイネルセレクトだった。ゴール入線はほぼ同時。ゴール後には完全に相手を交わしていたが、写真判定の末ハナ差でサウスヴィグラスの粘りに軍配が上がった。
勝ちタイムの1分9秒7は東京盃よりも0秒9も速いレコード。つまり東京盃より5馬身近くも前でゴールしたことになる。雨で適度に湿った馬場状態だったとはいえ、頂上決戦にふさわしい破格のタイムでの決着でもあった。
ダートスプリントGIはJRAにはなく、1年に1度のみの大勝負。それだけに各陣営の意気込みは並々ならぬものがあったことだろう。そのなかでもっともこのタイトルを熱望していたのは、勝ったサウスヴィグラス陣営だったに違いない。特に02年はダートグレード4連勝を飾るなど向かうところ敵なしの大活躍で、満を持してJBCに出走する予定だった。しかし好事魔多し、直前に脚部不安を発生し出走はかなわなかった。その後、03年6月の北海道スプリントカップGIIIを勝ったあとには「今後は直接JBCか、その前に一戦させるかでしょう」(高橋祥泰調教師)と"JBC以外は眼中になし"と言わんばかり。そんな経緯もあっただけに、陣営にとってはまさに念願のGIタイトルだった。
「今後は白紙」ということだが、そのまま種牡馬入りとなるようだ。有終の美を飾り、名実ともにダートスプリント界の頂点へ立った同馬にあらためて敬意を表したい。

柴田善臣 騎手

一度叩いてよくなっていたので、期待していました。ゲートでもすごく落ち着いていましたから、スタートもよかったです。最後も余力は残っていたのですが、このクラスになるとうしろからも差してくるから、油断はできませんでした。最後は不安もありましたけど、馬を信用して追いました。ゴールまでの距離を量って、残ってくれるだろうと思いました。去年このレースに出たくて1年延びてしまいましたが、勝ててよかったです。

高橋祥泰 調教師

前回の疲れはほとんどなかったですね。スピードがあるからレース展開に注文もつかないし、テンからダッシュよくガンと行きますから、乗り役にも特に指示はしていませんでした。ただ、やはり直線はとても長く感じましたね。この距離のGI はこのレースしかないですし、ずっと目標にしていたので、1年がすごく長く感じました。このあとはまったくの白紙です。年齢的にも目標とするレースもないですから。
文:ハロン編集部 | 写真:いちかんぽ

第4回 2004年 大井競馬場

11月3日 大井競馬場 右2000m

第4回JBCクラシック GI

アドマイヤドン

24年ぶりのレコード決着
粘るミツオーを楽に交わしGI3連覇の偉業達成!

JBCクラシックGI3連覇という偉業の期待がかかるアドマイヤドン。帝王賞GIでそのアドマイヤドンにハナ差まで迫り、前走日本テレビ盃GIIを快勝してここに臨むナイキアディライト。マイルチャンピオンシップ南部杯GIでアドマイヤドンに土をつけたユートピア。白山大賞典GIIIで他馬を寄せつけず圧勝したタイムパラドックス。東京記念を大差で圧勝し目下4連勝中のシャコーオープン。日本のダート競馬最高賞金をかける争いにふさわしい、まさに「ダート競馬の祭典」となった。ユートピアが果敢に先頭を奪い、ナイキアディライトが2番手に控えた。1コーナーを回るころに早くも馬群が縦長にバラけ、やや速めの淀みない厳しい流れになった。
3コーナー手前でほんの少しペースが落ちたところで好位にいたナイキディライト、アジュディミツオー、トーシンブリザードがユートピアに迫り、前の4頭が固まる。ここでアドマインドンは少し離れた5番手。しかしやはりアドマイヤドンは強かった。前の有力馬を見るかたちで仕掛けを遅らせ、直線を向くと計算しつくしていたかのように前の馬を1頭1頭確実に抜き去った。誤算があったとすれば、3歳馬のアジュディミツオーに馬体を併せたところで執拗に食い下がられたことだろう。それでも最後は、3/4馬身だが、確実に突き放した。
勝ちタイム2分2秒4はコースレコードを24年ぶりに塗り変えた。トゥインクルレースが始まる以前は砂が軽かったことを考えれば驚異的なタイムで、アドマイヤドンの安定した強さをあらためてアピールする結果となった。
そして2着に敗れはしたが、アジュディミツオーの底力にも驚かされた。前走の日本テレビ盃ではナイキアディライトの半馬身差2着に好走はしていたものの、そのときより今回は斤量が2キロ重くなっていたこともあり、6番人気に過ぎなかった。ジャパンダートダービーGIでは逃げて直線での粘りを欠いたのとは対照的に、今回は前の2頭を先に行かせると、すぐにラチ沿いのインに入れ3番手から。直線半ばでは一気に交わしにかかるアドマイヤドンに食らいつき、一瞬だが差し返す脚も見せた。検量室前に引き揚げてきた内田博幸騎手は「この馬すごいよ」と、2着に敗れたことよりも、アジュディミツオーのレースぶりに興奮を隠せない様子だった。春の逃げ一辺倒の競馬からは見違えるほどの成長で、東京大賞典GIはもちろん、来年に向けて南関東に期待の有力馬がまた1頭現れた。

安藤勝己 騎手

余裕があるレースでしたが、もう少し楽に勝てると思っていました。それでも時計は速いですし、それなりの競馬ができました。調子もよかったですし、先行馬を見ながら競馬ができたので、レースはしやすかったです。

松田博資 調教師

普通に走れば勝てるだろうと思っていましたが、あんなものでしょう。レース内容には満足しています。レコードについてはレースのペースもありますから気にしていません。今後は、やはり芝を使ってみたいですね。

11月3日 大井競馬場 右1200m

第4回JBCスプリント GI

マイネルセレクト

世界タイトルへの第一歩
後続を楽に突き放し、ダート短距離王座に君臨

マイルや2000m級のダートGIは年に何度か行われるが、1200mのGIはこのJBCスプリントが唯一のもの。それだけに、ダートのスプリンターにとってはここが目指すべき最大のレースになる。今年もチャンピオン決定戦にふさわしい顔ぶれが揃った。 断然1番人気はもちろんマイネルセレクト。昨年は追い込んでわずかハナ差、サウスヴィグラスに届かず。しかしそれを最後にサウスヴィグラスが引退したあとは、暫定チャンピオンとしてドバイゴールデンシャヒーンにも遠征した。そして前走、Road to JBCの東京盃GIIでは中団から余裕の差し切り勝ちを見せ、この路線に敵なしをアピールした。
今回は果たして、マイネルセレクトがどんな勝ち方をするかを見るレースとなった。好スタートを切ると、東京盃とは一転、カセギガシラ、ディバインシルバーの直後、好位の3番手を追走した。直線を向くといったんはディバインシルバーが先頭に立ったものの、マイネルセレクトが余裕の手ごたえで差し切り、ゴール前は独走。最高峰のGIの舞台で、再び圧倒的な強さを見せつけた。
2着争いは3頭が接戦。マイネルセレクトの直後を追走したアグネスウイングが外から伸びて2着。芝路線のスプリンターズステークス(9着)から参戦のサニングデールが中団追走からラチ沿いを突き、2番手で厳しいレースを強いられたディバインシルバーをわずかに差し切り3着に入った。
残念だったのがヒカリジルコニアだ。重賞未勝利ながら東京盃ではマイネルセレクトの1馬身半差2着に粘り、今回も期待されたが、スタートで痛恨の出遅れ。吉田稔騎手が尻もちをついてしまう格好でダッシュもつかず、勝負にならなかった。
短距離路線は層が薄い地方勢にありながら、ただ1頭気を吐いたのが高崎のタイガーロータリーだ。馬券にはからめなかったが、東京盃(4着)に続く地方最先着の5着。上がり3ハロンも東京盃ではメンバー中最速の35秒8、今回のJBCスプリントでも圏外のヒカリジルコニアに次ぐ36秒2と、確実に切れる脚を披露した。さすがにこのメンバーでは厳しいが、相手関係次第ではGIII程度なら勝つチャンスも巡ってきそうだ。
今年はGIIIタイトルのみでのドバイ挑戦だったマイネルセレクトだが、来年は堂々、日本のダートスプリントチャンピオンとして世界に挑戦する。クラシックのアドマイヤドンだけでなく、JBCスプリントからも世界へとつながる道が開けそうだ。

武豊 騎手

今日はいいレースができました。スタートもうまく出てくれましたし、直線もいい手ごたえでした。先頭に立つのが少し早いかなと思いましたが、頑張ってくれました。状態は前走よりもさらによくなっていたと思います。

中村均 調教師

昨年はハナ差で負けて悔しい思いをしたので、今年はぜひ勝ちたかった。今回は前走からの上積みもあったので絶対負けられない気持ちでした。これでドバイへは大手を振って行けます。ぜひ万全な状態で臨みたいですね。
文:斎藤修、來田康宏、大貫師男、八木重和、小山内完友 | 写真:いちかんぽ(川村光章、森澤志津雄、トム岸田、宮原政典)

第5回 2005年 名古屋競馬場

11月3日 名古屋競馬場 右1900m

第5回JBCクラシック GI

タイムパラドックス

貫禄を見せてGI4勝目 レイナワルツもレースを演出

向正面で最内を通って先団に取りつき、4コーナーで単独先頭。どよめきと歓声が入り交じる満員のスタンド前を、兒島真二騎手とレイナワルツは疾走した。地方競馬ファンの夢を乗せ、紫・桃の勝負服と白い馬体は、力の限りに疾走した。
「手ごたえも抜群だったし、本当にいいレースでした。最高でしたね」(兒島騎手) 結果は2頭に交わされ、3着敗退。だが大観衆で埋め尽くされた今回のJBC、一番の盛り上がりを見せたのはレイナワルツが懸命に逃げ込みを図った、この直線のワンシーンだった。
いまやダート戦線の核となっているタイムパラドックス。今回のレースを制したのはこの馬だった。道中は得意の中団待機策。小回りの名古屋だけに、追い込むのは厳しいと思われたが、3~4コーナーで外を上がっていくと、想像以上の末脚を繰り出して優勝した。これでGI4勝目となったが、馬券圏内を外さない安定度も特筆もの。勝ち続ける派手さはないものの、今後のダートGI戦線もこの馬が中心となるだろう。
2着はユートピア。いったんハナを譲りながら、終いに差してくる味な競馬を演じた。最近は馬の間を割る調教を繰り返しており、それが生きた格好だった。 今回のレースはナイキアディライトがゲート入りを嫌い、スタートが遅れるハプニングがあった。そのナイキアディライトはいつもの先行力が見られず9着と、不完全燃焼だったのが残念でならなかった。

武豊 騎手

パドックでも元気だったし、いいレースをしてくれるだろうと思っていました。ここは小回りですから、3~4コーナーで外を回されるな、とは思いました。ただレースとしては理想どおりでしたね。これまでは左回りのほうがいいといわれていましたが、右回りでも上位に来ていますし、あまり関係がないのかもしれません。(スタンドが満員で)最後の歓声もよく聞こえましたよ。

松田博資 調教師

今日のレースは安心してみることができました。7歳ですが、年齢的によくがんばっていると思います。故障するタイプの馬ではありませんが、年が年ですから、今後については帰って(様子を見て)みないとわからないですね。

11月3日 名古屋競馬場 右1400m

第5回JBCスプリント GI

ブルーコンコルド

短い名古屋の直線で5馬身 短距離路線にスター誕生

西日本では初のJBC開催だが、1400mでJBCスプリントが行われるのも初めて。それが結果に影響したのか、果たして、同距離の重賞を連勝してここに臨んだブルーコンコルドの圧勝となった。
スタート直後はややスピードに乗れない感じで中団を追走する格好になったブルーコンコルドだが、3コーナーから外を回って一気に進出。4コーナーを回って先頭に立つと、200m足らずの名古屋の直線で後続を楽々と5馬身突き放した。
ブルーコンコルドはデビュー5戦目で京王杯2歳ステークスを制し期待されたが、3歳時は芝で結果を残せず、秋にはダートに路線変更。しかし急激に力をつけたのはそれから約1年後の昨年暮れ。6月のプロキオンステークスGIIIでダートグレード初制覇を果たしてからは圧巻のレースぶりで一気に頂点まで昇りつめた。
それにしても驚いたのは9歳馬ハタノアドニスの好走だ。2年前には東京盃GIIを圧勝し、本番のJBCスプリントでは堂々の1番人気に推されたものの4着。その後の勝ち星は昨年のアフター5スター賞のみだが、今年5月にはこのJBCスプリントと同じ舞台のかきつばた記念GIIIでヨシノイチバンボシからアタマ、クビ差の接戦の3着と好走していた。ブルーコンコルドの勢いには及ばなかったものの、中央のスピード馬を相手に再びこの大舞台での2着は、2年前の雪辱と言っていいのではないだろうか。

幸英明 騎手

今日も強かったです。中団よりもう少し前で競馬がしたかったのですが、このクラスになるとみんな速いのであの位置からになりました。ずっと手ごたえは良かったです。小回りということで早めに動こうと決めていて、できれば4コーナーで前にとりつきたいと思っていたので、思いどおりのレースができました。どんどん力をつけて強くなっています。

服部利之 調教師

シリウスステークスと同じようなレースができれば、直線は短くても関係ないと思っていたのですが、思ったとおりの競馬ができました。調教でも馬がしっかりできていたので自信はありました。まだまだ強くなると思います。
文:斎藤修、大貫師男、八木重和 | 写真:いちかんぽ(川村光章、森澤志津雄、トム岸田、宮原政典)

第6回 2006年 川崎競馬場

11月3日 川崎競馬場 左2100m

第6回JBCクラシック GI

タイムパラドックス

早めに抜け出し後続を完封 鞍上の好判断が連覇に導く

前日のJBCマイルでブルーコンコルドが連覇を達成。クラシックではタイムパラドックスにその期待がかかったが、近走の結果から厳しいと見られ、単勝は5番人気だった。しかしフタを開けてみれば、低評価を覆す鮮やかな走り。見事に連覇を果たした。
中団からレースを進めていたタイムパラドックスは、1周目ゴール板あたりから徐々に進出。この馬の場合、鞍上がつねに折り合いに苦労しており、今回も悪い部分が出てしまったように思われた。しかし岩田康誠騎手は、手綱を抑えてはいたものの、ある程度馬の行く気に任せる戦法をとった。2周目向正面で後続が追撃態勢に入ると、3コーナー手前でタイムパラドックスも進出。楽な手ごたえで直線に向くと、伸びきれない後続を尻目にそのまま先頭でゴールを駆け抜けた。
やはり今回は岩田騎手の好判断が大きな勝因だろう。掛かったところで無理せず行かせ、しかしながら2番手まで上がったところで我慢させる。普通に掛かったのであれば、直線を向いた時のあの抜群の手ごたえはあり得ない。柔と剛を合わせた騎乗で、タイムパラドックスの本来の力を見事に引き出した。だがタイムパラドックスは、その後ジャパンカップダートGIへ向けての調整中に骨折が判明。引退、種牡馬入りすることになった。
2着は1番人気に推されたシーキングザダイヤ。最内枠からハナを切る勢いも、好位を追走。直線で外に持ち出すと最速の上がり(39秒2)を見せて追い込んだ。だが、結局1馬身半届かず2着。これが8度目のGI2着となってしまった。実力は誰もが認めているだけに、悲願成就もそう遠くないと思うのだが…。
地方勢では大井のボンネビルレコードが3着に突っ込んできた。的場文男騎手は「『大井なら…』と思っていたけど、今日は走ったね。まだ力をつけそうだよ」と満足そうな表情。今回が初めての遠征、そして初めての左回りで、この好結果。終いの脚は相変わらず強烈で、遠征に慣れてくれば今後の展望も大きく広がるだろう。

岩田康誠 騎手

ちょっと出負けして中団からになりましたが、ペースが遅くて引っかかりました。でも結果としては馬が「行け!」って言ったんだなと思います。早めに抜け出して、直線でも何とかなるかなと思っていましたが、最後は必死でした。2000m前後で、掛かるくらいのペースがこの馬には理想なんでしょうね。

松田博資 調教師

年寄りですけど、本当によくがんばってくれます。夏場は体調が悪かったのですが、徐々に行きっぷりもよくなっていました。騎手には指示を出していませんでしたが、三分三厘で抜けてきた時に「今日はいける」と思いましたし、1ハロン手前で勝利を確信しました。

11月2日 川崎競馬場 左1600m

JBCマイル(第6回JBCスプリント) GI

ブルーコンコルド

マイルでも強烈な末脚を発揮 盤石の差し切りで連覇達成!

前走のマイルチャンピオンシップ南部杯GIで、ブルーコンコルドはマイル戦初勝利を挙げた。これまで1400mでは無類の強さを発揮し、昨年のJBCスプリントGI(名古屋)を制すなど活躍。しかしマイルのフェブラリーステークスGI、かしわ記念GIでは惜敗しており、南部杯の、あの混戦のゴール前を制したことは、この馬の成長を如実に物語っている。
それもあってか、ブルーコンコルドは断然の1番人気に推され、そして期待どおりの圧勝を演じた。道中は例によって中団につけ、3〜4コーナーで徐々に進出。直線に向いたところで、先頭のメイショウバトラーとは差があったが、持ち前の鋭い末脚を爆発させると、これをあっさり交わした。
文字どおり"あっさり"だった。上がりタイムは最速の38秒4。2番目に速い上がりを見せたメイショウバトラー(39秒0)すら交わされてしまったのだから、他馬もお手上げというよりほかない。これだけの強さを見せる要因は、小回りへの対応力はもちろんだが、コーナーを抜けてからトップスピードへ乗せるまでのギアチェンジが非常に早いところにあると見る。管理する服部利之調教師が「器用なところがある」と毎回言うように、その切り替えの早さ、加えて末脚の爆発力は超一流。この1年間で折り合い面でも進境を見せており、高いレベルでバランスのとれた馬に成長したといえる。
2着のメイショウバトラーは、さすがに相手が悪かった。前述のように、この馬も終いによく伸びており、追ってきたリミットレスビッドを寄せ付けなかった。ダートGIIIを連勝してきた勢いは本物。脚元さえ無事なら、今後もダート戦線をにぎわすはずだ。

幸英明 騎手

折り合いさえつけば伸びてくれるので、その点に注意して乗りました。手ごたえはよかったのですが、メイショウバトラーもいい感じでしたから、4コーナーではヒヤッとしました。でも最後はこの馬の末脚を見せてくれましたね。マイルは問題ないと思っていましたし、コーナーがきついのも馬は気にしていなかったです。

服部利之 調教師

昨年とは距離もコースも違いますから、連覇ということに対して意欲を持って臨みました。器用なところがありますから小回りはいいですし、前走でマイルもこなせると思っていました。この中間はいいテンションを保っていて、コンディションを整えることに注意していました。
文:斎藤修、大貫師男、八木重和、土屋真光 | 写真:いちかんぽ(川村光章、森澤 志津雄、トム岸田、宮原政典)

第7回 2007年 大井競馬場

10月31日 大井競馬場 右2000m

第7回JBCクラシック JpnI

ヴァーミリアン

直線一気に突き放す まさに次元の違う強さ

「ドバイに行くとその反動が大きく、立て直すのに時間がかかる」とは以前によく言われていたこと。しかしここ1~2年はほとんど耳にすることがなくなった。
ドバイには毎年のように遠征する馬が出てくるようになり、またドバイに限らず海外への遠征競馬もめずらしいことではなくなって、遠征などのノウハウも厩舎間で共有されるようになったに違いない。ヴァーミリアンは、ドバイに遠征した反動が出るどころか、むしろドバイ遠征によってさらに力をつけたと言ってもよさそうな、圧倒的なレースぶりを披露した。
ヴァーミリアンは、キングスゾーンやメーンエベンターなどの先行争いから離れ、中団7番手あたりを追走。3コーナーでは外からブルーコンコルドが早めに交わしていったが、慌てずじっくり仕掛けるタイミングを待った。
直線を向くと、ヴァーミリアンの前にいたフリオーソがまず先頭に立った。しかしそれも一瞬で、フリオーソの内に進路をとったヴァーミリアンが、武豊騎手にムチを1発入れられただけでビュンと伸びると、アッという間に突き放し、4馬身差をつける圧勝劇となった。
これで国内に限れば名古屋グランプリGII、川崎記念JpnIから3連勝。ドバイワールドカップでは離された4着に敗れたが、石坂正調教師は、そのドバイでのレースを見てほんとうに強くなっていることを確信していたという。ドバイ以来7カ月ぶりで臨んだ実戦だ ったが、久々を感じさせないレースぶりだった。
4馬身差をつけられたとはいえ、2着のフリオーソも好位から一旦は抜け出す強い競馬を見せた。うしろから追い込んだサンライズバッカスを1 1/4馬身抑え、さらにそのうしろには3コーナーで早めに仕掛けたブルーコンコルド。上位4着までをGI (JpnI)馬が占めるという実力どおりの結果となった。
そしてGI好走実績のあるシーキングザダイヤ、クーリンガーは6、7着。今回、岩田康誠騎手が手綱をとったルースリンドはそこに割って入る5着で、相応の力があると見てよさそうだ。
JBCクラシックJpnIはこれで中央勢が7連勝。歴代の勝ち馬を見ると、レギュラーメンバー、アドマイヤドン3連勝、タイムパラドックス2連勝、そしてヴァーミリアンと、ダート最強馬の名がズラリと並ぶ。
2着に入った地方馬は、第1回のマキバスナイパー、第4回のアジュディミツオーに続いて3頭目。いずれも船橋の所属馬で、またいずれもがGI馬となっている。

武豊 騎手

乗っていていい馬だなと思いました。途中からブルーコンコルドが行ったのですが、つられないように我慢しました。直線ではなかなかスペースがなかったのですが、前が開いたらすごい脚で抜け出してくれました。

石坂正 調教師

休み明けですが、久々というつもりではなく、ここを目標に調教を積んでいましたが、パドックを見たらだいじょうぶだなと思いました。ドバイに行ったことで、精神的にものすごく強くなりました。直線ではどこから抜けてくるのかと見ていて、これまではそれほど瞬発力を見せるような競馬をしたことはなかったのですが、すごい脚で伸びてくれました。

10月31日 大井競馬場 右1200m

第7回JBCスプリント JpnI

フジノウェーブ

末脚一閃、見事な差し切り地方馬初!JBC制覇の快挙

ついに、地方馬がJBCを制した。ダートグレードは、全体を通して見れば中央馬が圧倒的に優勢だ。しかし地方馬からもGI(JpnI)を勝つ馬がコンスタントに出ていて、入厩する馬の値段の圧倒的な差や、層の厚さを考えれば、むしろ地方馬もかなり健闘しているように思う。
しかし過去6回のJBCで1度も地方馬が勝つことがなかったのは、地方競馬における最高賞金ということはもとより、その格の高さゆえ、中央馬が本気で狙ってきていたからだろう。
得てしてそういう均衡が破られるときというのは、意外なものだ。むしろ今回であれば、JpnI (GI)を2勝もしているフリオーソがクラシックを勝ったなら、それほどの驚きではなかったと思う。
もちろんフジノウェーブが勝つと予想していた人もいただろう。しかし普通に考えて、いくら南関東で10連勝したとはいえ、重賞勝ちは南関東限定のもので、ダートグレードもさきたま杯JpnIIIの4着が最高という成績。そしてこれが帝王賞JpnI(11着)以来の休み明け。7番人気の単勝38.1倍という人気も当然だった。
アグネスジェダイとプリサイスマシーンが前で競り合い、直後のナイキアディライトが4コーナーで並びかけた。この3頭のうしろで機をうかがっていたのがフジノウェーブだった。
直線半ばでナイキアディライトが後退すると、代わってその外から進出。さらに外からリミットレスビッドも伸びてきたが、脚いろは完全にフジノウェーブが勝っていて、粘るプリサイスマシーンをクビ差交わしたところがゴールだった。
レースはもちろんだが、もうひとつ印象に残ったのがレース後の高橋三郎調教師だ。
囲まれた記者の質問に答えてはいるが、心はどこか宙に浮いた感じで、茫然自失。想像もしていなかった嬉しさも度を越すと、こんな状態になるのかと思った。
東京盃JpnIIを叩いてここに臨むはずが、インフルエンザの影響が長引いたことで帰厩が遅れ、その東京盃には間に合わず。強い調教もできないまま迎えた本番だった。
驚くのも無理はない。フジノウェーブは、一線級相手の経験が少ないなかで、よくこれほどのレースができたと思う。それはおそらくさきたま杯の経験が生きたのだろう。スタートで出遅れ、4コーナーでも後方。敗れたとはいえ、直線だけで追い込み、それほど差のない4着に食い込んだ。勝ったのはメイショウバトラーだが、すぐ前にはアグネスジェダイがいて、5着のリミットレスビッドには先着。ここでJpnI並に厳しい経験していたと考えれば、この勝利も納得できる。

御神本訓史 騎手

残りの200mからは夢中で追いました。最後はよく伸びて、よく辛抱してくれました。今回は半信半疑だったのですが、よく走ってくれたと思います。

高橋三郎 調教師

このレースの前に1回叩こうと考えていたのですが、インフルエンザの影響で大井に移動することができなかったので、調教は少し足りない感じで、悩みはたくさんありました。これで走ってくれたところを見ると、あまり強い調教はやらなくてもいいのかなとも思いました。スタッフが替ったばかりで結果を出すのは、ほんとうに難しいのですが、厩舎スタッフのみんなが、ほんとうによくやってくれました。
文:斎藤修 | 写真:いちかんぽ

第8回 2008年 園田競馬場

可能性を感じさせた、園田でのJBC開催

近年のJBCでまず感じるのは、中央の厩舎関係者にも完全に定着したということ。
JBCクラシックが1億円、JBCスプリントが8000万円という、中央競馬と比較してもかなり高額な賞金だけに当然とも思えるが、JBCがスタートして何年かは、ダートの有力馬を管理している調教師でもJBCのことを意識している方ばかりではなかった。中長距離路線では、JBCクラシック→ジャパンカップダート→東京大賞典という秋のGI(JpnI)路線が関係者にもファンにも完全に定着したし、短距離路線においても、JBCクラシックが唯一のJpnI(GI)であり、最高賞金のレースでもあると認識されるようになった。
今年その象徴となったのが、古馬チャンピオンのヴァーミリアンと、ダートでは無敗の3歳チャンピオンであるサクセスブロッケンによる、初めての直接対決が実現したということだろう。
ヴァーミリアンは昨年同様ドバイ遠征以来、サクセスブロッケンもジャパンダートダービー圧勝以来と、両陣営ともに休み明けながら、秋の早い段階からJBCクラシックが復帰戦になるであろうことを表明していた。言うまでもなく馬は生き物であるだけに、公言した予定どおりにいかないことも常だが、両陣営ともに万全の状態でレースを迎え、そしてダート競馬の歴史に残るような名勝負を繰り広げた。
残念ながら今年はスプリントで4着に敗れたブルーコンコルドだが、この馬も4年にも渡ってJBCを盛り上げている主役の1頭。05年は名古屋のJBCスプリント、06年は川崎のJBCマイルを制し、昨年の大井では「JBC3階級制覇を目指す」としてクラシックに挑戦し、話題となった。その昨年は4着に敗れたが、今年はマイルチャンピオンシップ南部杯で3連覇を果たし、8歳でも衰えのないことを証明して見せた。そして今年はアドマイヤドンに続くJBC3勝目を目指し、JBCスプリントに断然人気で臨んだことも、今年のJBCを盛り上げる重要な要素のひとつとなった。
そのJBCスプリントは、結果的にではあるが、ダートスプリント路線の「世代交代」となった。ブルーコンコルド、メイショウバトラー、リミットレスビッドと、この路線を牽引してきたベテラン勢が4着以下に沈み、勝ったのはこれが重賞初制覇となるバンブーエール。そして2着は、前走白山大賞典で重賞初制覇を果たしていた3歳馬のスマートファルコンだった。
バンブーエール陣営のJBCスプリントに賭ける意気込みは相当のものだったようだ。一方、デビュー以降マイル以上の距離しか経験のなかったスマートファルコンは、クラシックでは除外確実と見て、JBCスプリントと武蔵野ステークスと、両天秤にかけてのエントリーだったとのこと。
JBCのみならず、地方競馬で行われるダートグレードでは、限られた所属枠ゆえ中央勢にとっては出走すること自体が容易ではない。そうした状況でのスプリント路線の世代交代も、今年のJBCを象徴する出来事のひとつだった。
さらに今年注目されたことのひとつとして、8回目にして園田競馬場で初めてJBC開催が実現したことが挙げられる。
大阪という日本第二の都市の中心部から近く、交通手段でも極めて便利な立地条件にある園田競馬場で、これまでJBCが行われてこなかったのは、おそらくその施設の小ささゆえだろう。1周1051mは、現在ダートグレードが行われている競馬場ではもっとも小回り。しかしそれ以上にJBCの園田開催に二の足を踏ませていたのは、住宅街の中の限られた土地、そして限られたスタンドで、押し寄せてくるファンを収容しきれるかどうかという不安だったのではないだろうか。
しかしその不安は見事に払拭された。
JBCのレースが行われるときには、スタンド前は人、人、人で埋めつくされた。近年の園田競馬場では見たことのない光景だった。にもかかわらず、馬券の売り残しはほとんどなかったようだし、食事面でも行列こそできていたものの、食べられなくて困ったというようなことも聞かれなかった。これはおそらく05年の名古屋での経験が生きたものと思う。
目標としていた入場人員25,000人に対し、実際の入場は22,174人。これは目標に達しなかったというより、仮に25,000人のファンが来場してもスムーズに競馬開催が行われるよう周到な準備をした上で、その想定内に収まったと捉えたい。
一方で、1日の総売得目標17億円に対し、20億円を超える売上げがあったことは評価に値する。もちろんこれには、最初にも書いたとおり、ヴァーミリアンVSサクセスブロッケンという、競馬ファンなら誰もが注目するであろう対戦が実現したことも大きい。しかし裏を返せば、JBCがそれだけのレースになったということでもある。それほどの大一番が滞りなく実施できたということは、園田競馬場のみならず、地方競馬全体の自信にもなっただろうし、今後さまざまな展望も開けてくる。
JBCは、さまざまな競馬場での持ち回り開催がひとつの「ウリ」としてスタートした。しかし実際には、第4回までは大井、盛岡、大井、大井という開催で、「持ち回りと言いながら、結局は大井と盛岡でしかできないのか」という声も聞かれた。しかしその後は、距離にある程度の融通を持たせることで、名古屋、川崎、園田での開催を実現させた。
来年は名古屋での2度目の開催が決まっているが、さて、その後はあらたにどの競馬場で開催が可能だろうか。
札幌は、集客や施設面での不安はないが、距離的な面で問題がありそうだ。スプリントは引き込み線を使えば1100mがとれるが、クラシックは1700m、もしくは2400mでは合格とはいえそうもない。
門別競馬場は、大井、盛岡とともに1200、2000の基本的な距離がとれる上、フルゲートも16頭で申し分ない。しかし交通の便と、何よりスタンドなどの施設面を考えると現状では厳しいと考えざるをえない。
水沢は、盛岡がある以上は施設面で見劣りがする。浦和は2000mのフルゲートが11頭では少な過ぎる。
集客や交通の便では船橋が理想的だが、距離面が難しい。1200と2000の距離設定もあるにはあるが、トリッキーなコースで最近ではほとんど使われていない。クラシックが園田より短い1800mになるのはいいとしても、スプリント(もしくは川崎のようにマイル)が1500か1600では、2つのレースの距離設定があまりにも近過ぎる。内回りの1400mというのもあるが、現実的ではない。船橋は距離設定で悩むことになりそうだ。

11月3日 園田競馬場 右1870m

第8回JBCクラシック JpnI

ヴァーミリアン

ダート王の座はゆるがず、一騎打ちで3歳チャンプを下す

勝ったヴァーミリアンはもちろん強かったが、3歳ながら古馬チャンピオンを相手に堂々と渡り合ったサクセスブロッケンも、負けてなお強し。GI(JpnI)馬5頭が顔を揃えた豪華メンバーでも、やはり注目の2頭は力が抜けていた。園田1870mのレコードを0秒6更新する決着も当然の結果だった。
サクセスブロッケンがハナに立ち、2番手にフリオーソ、そしてヴァーミリアンと続く展開。3コーナー手前でヴァーミリアンが仕掛けると、3~4コーナーでは、ダート3歳チャンピオン、地方現役最強馬、中央の古馬チャンピオン、3頭が一団となり、スタンドを埋め尽くしたファンの歓声も一気に最高潮に達した。
直線を向いてもサクセスブロッケンが先頭だったが、すぐにヴァーミリアンが交わして先頭。ここからは2頭の一騎打ち。サクセスブロッケンが一旦は遅れたが、ゴール前差し返す意地を見せた。しかしヴァーミリアンは二度と先頭を譲らず、サクセスブロッケンをクビ差で抑え、JBCクラシックJpnI連覇を果たした。
そしていつものように後方追走から差を詰めてきたメイショウトウコンがサクセスブロッケンに3/4馬身まで迫る3着に入り、フリオーソは直線後退して4着だった。
「海外遠征帰りで、小回りで、心配がないわけではなかった」というヴァーミリアンの武豊騎手。しかし石坂正調教師は「休み明けは感じさせなかった。小回りを考えるより、ヴァーミリアンは強いんだと思うことにしていた」と自信を持って臨んでいた。
わずかアタマ差2着に敗れたサクセスブロッケンの横山典弘騎手にとっては、スタートが痛恨だったようだ。出遅れというほどではなかったが、トモを滑らせてダッシュがつかず。無理せず先頭に立ったようには見えたが、相手がヴァーミリアンでは、やはりそのわずかな不利が最後まで影響したのだろう。
中央勢や船橋のフリオーソにとっては、経験のない小回りの馬場が、ともすればどんなレースになるのかという不安材料でもあった。しかし終わってみれば、初めて1周1051mという園田競馬場で行われたこのレースは、JBC史上に残る名勝負となった。
ヴァーミリアンはこのあと、ジャパンカップダート、東京大賞典と、昨年同様に秋のダートGI(JpnI)3連勝を目指す。サクセスブロッケンも当然雪辱を期しているだろう。その戦いにはアメリカ挑戦を続けたカジノドライヴも加わるかもしれない。地方の雄フリオーソも巻き返しを狙う。
今後のダート頂上決戦への期待をさらに高めるJBCクラシックでもあった。

武豊 騎手

スタッフが万全に仕上げてくれて、返し馬の感触がすごくよかった。スタートで不安があるのですが、いいスタートがきれました。乗りやすい馬で、小回りもうまくこなしてくれました。復帰を楽しみにしていたので、強いヴァーミリアンが見せられてよかったです。

石坂正 調教師

ドバイからは間隔もあり、去年のJBCクラシックもドバイ以来で強い競馬をしていたので、だいじょうぶだと思っていました。結果を見たらやはり強かったですね。去年の勢いが衰えていないというのが確認できました。

11月3日 園田競馬場 右1400m

第8回JBCスプリント JpnI

バンブーエール

世代交代のスプリント 連勝の勢いでJpnI初制覇

新興勢力の台頭で、世代交代を感じさせられるJBCスプリントJpnIだった。
勝ったのは、これが重賞初制覇となるバンブーエール。そして2着には、前走白山大賞典JpnIIIでの重賞初制覇からスプリントへと路線変更した3歳馬スマートファルコンが入り、断然人気となったブルーコンコルドなど、ここ何年かに渡ってこの路線を牽引してきたベテラン勢は4着以下に敗れた。
それにしてもバンブーエールは見事な逃げ切りだった。好スタートから無理することなく先頭に立つと、向正面まで手綱をがっちり抑えたまま。4コーナーでは直後にスマートファルコンに迫られたが、直線では並びかけることを許さず、1馬身差を保ったままゴール。松岡正海騎手の左手が挙がった。
そして園田競馬場ではめずらしいウイニングラン。松岡騎手はよほど嬉しかったのであろう、検量室前に戻ってくると、今度は馬上で両手を大きく広げ「やったー!」と歓喜の声を上げた。
バンブーエールは、3歳時にジャパンダートダービー、ダービーグランプリの両GIで2着があったが、その後4カ月の休養。さらに昨年5月から今年7月にかけても長期休養があった。ダート短距離路線で本格化したのはその後のこと。復帰戦のプロキオンステークスGIIIは4着だったが、松岡騎手に乗替り、ダートオープンを3連勝でここに臨んでいた。ただ、その3連勝目となった前走は、松岡騎手は騎乗停止中。新人・三浦皇成騎手が手綱を取り、JRAの新人騎手として武豊騎手の記録に並ぶ69勝目を挙げ、大きな話題となっていた。それだけに松岡騎手にとっては、もう一度自分に手綱が戻り、バンブーエールに初重賞、そしてJpnIのタイトルをもたらしたことが嬉しかったようだ。
一方、JBC3勝目に加え、GI(JpnI)8勝目という偉業がかかっていたブルーコンコルドは残念ながら4着。スタート後は慎重に外に持ち出し、向正面で仕掛けるという、この馬の持ち味を生かす正攻法でのレース運び。しかし、追い出してからの反応が本来のものではなかった。「やっぱりズブくはなっているようで、今は1400より1600くらいのほうがいいのかな」と幸英明騎手は振り返った。
そして中央勢掲示板独占の一角を崩し、3着に食い込んだのが、地元兵庫のアルドラゴン。当初は白山大賞典からJBCクラシックという予定だったそうだが、地元の1400m戦で強い勝ち方をしたことから、白山大賞典は使わず、JBCスプリントへ路線変更。兵庫では初のJBC開催、初のJpnIレースで地元馬が見せた意地の3着だった。

松岡正海 騎手

あまり速くなりそうになかったので、行ってしまいましたが、スローだったのでだいじょうぶだと思いました。1頭になると遊ぶところがあるのですが、手ごたえには余裕がありました。マイペースでいけたので、うしろは気にならなかったです。

安達昭夫 調教師

行けるんだったら行こうと話していました。2000mも使ってましたけど、この馬には1600くらいまで、スピードを生かす競馬のほうがいいのかなと思います。このあとは未定ですが、これで(賞金を稼いだことで)思うようなところが使えますね。
文:斎藤修 | 写真:いちかんぽ

第9回 2009年 名古屋競馬場

11月3日 名古屋競馬場 右1900m

第9回JBCクラシック JpnI

ヴァーミリアン

成長し続ける7歳馬、GI(JpnI)8勝目の日本記録

ヴァーミリアンにずらりと◎が並んだ。単勝は最終的に1.3倍。その期待にこたえれば、02~04年のアドマイヤドンに並ぶJBCクラシック3連覇。そして、何頭かの名馬が越えられなかったGI(JpnI)勝利数の日本記録を更新して8勝目となる。
現役馬でいえば、このレースにも出走しているブルーコンコルドが昨年10月のマイルチャンピオンシップ南部杯JpnIでGI(JpnI)7勝目を挙げ、続いたカネヒキリは今年の川崎記念JpnIでその記録に並んだ。そしてヴァーミリアンは、今年6月の帝王賞JpnIを圧勝してその2頭に追いついた。
GI(JpnI)8勝の新記録達成は、やはり楽なものではなかった。
外から一気にマコトスパルビエロが交わして先頭を奪うと、さらにワンダースピードが続き、好スタートから一旦はハナに立ったヴァーミリアンは、内の3番手に控えた。
勝負どころの3コーナーでもヴァーミリアンの武豊騎手の手ごたえは楽。しかしラチ沿いのすぐ前にはマコトスパルビエロ、外にはワンダースピード、さらには直後にブルーコンコルドが迫ってきていて、外に持ち出すことができない。手ごたえはよくても、三方を囲まれ自分からはまったく動けない状況だった。
すでに外に持ち出す余裕はなく、ほとんど隙間のないラチ沿いから抜けてこられるのだろうかと思ったが、193mと短い名古屋の直線で、マコトスパルビエロの内からぐいとアタマ差前に出たところがゴールだった。
「とにかく内をずっと狙っていました。見ているほうはドキドキしたかもしれません」と武豊騎手。見ている者の印象よりも、自信を持っての抜け出しだったようだ。
2着のマコトスパルビエロから、さらにクビ差でワンダースピードが入り、終始3頭が一団で競り合う見ごたえのあるレースだった。
ヴァーミリアンは、さすがに7歳の秋ともあれば、成長や上積みはないだろうと考えるのが普通だ。しかし石坂正調教師は「成長し続けている」という。それは気性面だ。「競馬に集中している。一切ムダな動きはしない」と。なるほど、そうした部分の成長が、体力的な部分をカバーしているのだろう。
JBCクラシックJpnI3連覇に、GI(JpnI)8勝目。あらためてすばらしい記録だ。
今年もJRA勢が上位を独占する結果となり、地方最先着は、地方勢ではもっとも期待されていた笠松のマルヨフェニックスの5着。勝ったヴァーミリアンから2秒4の差をつけられた。スタートに難のある馬で、今回も伸び上がるようなスタートで、出遅れというほどではないものの、決していいスタートとはいえなかった。JpnIでは、これで昨年の帝王賞(4着)に続いての掲示板確保。さすがにJpnIクラスになると厳しいが、JpnIIIならどこかでひとつくらいはと期待したい。

武豊 騎手

スタートがよかったので、このコースならハナを切ってもいいかなと思っていました。とにかく乗りやすい馬です。外には出られないと思い、内がちょっとあいたときに一気に行こうと思いました。3連覇ですが、(馬の状態は)今が一番いいかもしれないです。

石坂正 調教師

手ごたえは十分あるけど、前に馬がいて出られない展開。あそこから出てこられたのがヴァーミリアンの力ですね。落ち着いて競馬に集中していて、よくぞこういう精神状態の馬になれたなと思います。体力的に衰えを見せていませんし、次のジャパンカップダートでも勝利に向かっていくことができると思います。

11月3日 名古屋競馬場 右1400m

第9回JBCスプリント JpnI

スーニ

ダート短距離でこその強さ、3歳馬がスプリント初勝利

強いスーニが戻ってきた。
昨年2歳時、全日本2歳優駿JpnIまで圧倒的なレースぶりで4連勝したときは、3歳になってどれほどの活躍をしてくれるのだろうと期待を抱かせた。年が明け、芝のアーリントンカップGIIIは惨敗だったものの、伏竜ステークスでは59キロを背負ってゴール前猛然と追い込む強い競馬を見せた。しかしその後、兵庫チャンピオンシップJpnIIでゴールデンチケットにクビ差で敗れると、ジャパンダートダービーJpnIは惨敗ともいえる6着。レパードステークスでも決定的ともいえる3馬身差をつけられてトランセンドに敗れていた。
ただ、あらためてこの馬の力を再認識させられたのが、古馬と初対戦となった前走の東京盃JpnIIだったのではないだろうか。昨年のJBCスプリントJpnIを制したバンブーエールには敗れたものの、上がり3ハロン36秒9という鋭い末脚を繰り出しての2着は、バンブーエールの36秒8と比べても見劣るものではなかった。
そして今回、バンブーエールは残念ながら浅屈腱炎によって戦線離脱となったものの、スーニはこの短い距離でこそ力を発揮するのだというレースをあらためて見せてくれた。
高知の快速馬ポートジェネラルが逃げ、スーニはその2番手を追走。向正面では抑えきれないような手ごたえだった。3~4コーナーで外からアドマイヤスバルがまくってくると、先に行かせまいと追い出され、直線では単独で先頭に立ち、そのまま押し切った。
見せ場をつくったアドマイヤスバルだが、2100mの白山大賞典JpnIIIを勝ってここに臨んで2着という結果は、奇しくも昨年のスマートファルコンと同じ。「4コーナーで並びかけたときは勝てると思いました。もう少し距離が延びたほうがいい」と勝浦正樹騎手。3/4馬身差で振り切られたのは、距離適性の差だろう。アドマイヤスバルは、目標であるジャパンカップダートGIであらためて期待ということになる。
そして今回、注目を集めたことのひとつが、芝のスプリンターズステークスGIできわどいハナ差の2着だったビービーガルダンのダート初参戦。前半こそスーニをぴったりマークする位置を進んでいたものの、直線では置かれてしまい、離されての6着。「返し馬の感じはむしろ芝よりいいかと思ったけど、あれだけ負けたということは、やっぱりダートは合わないということでしょう」と安藤勝己騎手。芝ではGI級でも、そのスピードが通用するほど今のダート路線のレベルは甘くはないということだろう。
地方勢は、船橋のノーズダンデーが勝ち馬から1秒2差の4着と好走。一方で、一昨年の覇者フジノウェーブは、中団のまま5着。この馬の適距離はやはり大井の1200mのようだ。
JBCでは、クラシックのほうはアドマイヤドンが02年の3歳時に勝っているものの、スプリントを3歳馬が制したのは、今年のスーニが初めてのこと。このあとの武蔵野ステークスGIIIに、スーニに土をつけたテスタマッタ、トランセンドらが出走予定となっているが、今年のダート戦線における3歳馬もかなり高いレベルにありそうだ。

川田将雅 騎手

前走の東京盃は、久しぶりに短い距離だったこともあって、次につながる競馬をしたのですが、今回は勝ちに行く競馬をしました。3コーナー手前で流れが落ち着いて、そのあとに外からアドマイヤスバルが上がってきたので、すぐにはエンジンがかからなかったのですが、最後もしっかり伸びてくれました。3歳馬でJpnIを獲ってくれて、ほんとによくがんばってくれたと思います。

吉田直弘 調教師

ビービーガルダンがハナに行ってくれると思ったけど、それでも2番手からは理想的な展開でレースができました。ジョッキーも折り合いはついていたと話していたし、コーナーワークも問題ありませんでした。アドマイヤスバルに来られたときは脚取りが怪しいように見えましたが、相手も同じような脚いろだったので安心して見ていました。
文:斎藤修 | 写真:いちかんぽ(宮原政典、三戸森弘康)、NAR

第10回 2010年 船橋競馬場

11月3日 船橋競馬場 左1800m

第10回JBCクラシック JpnI

スマートファルコン

思い切った作戦がピタリ的中 前走完敗した舞台での逆転劇

JBCスプリントJpnIは07年に大井のフジノウェーブが制しているが、昨年まで9回を重ねたJBCクラシックJpnIは、いまだ地方馬の勝利がない。それは多くのファンや関係者が知るところ。
そして今年、地方馬によるJBCクラシック制覇の悲願を現実のものとしようとしていたのが地元船橋のフリオーソ。帝王賞JpnIでは、これまで歯が立たなかったヴァーミリアン、カネヒキリを相手に勝利。前走、Road to JBCの日本テレビ盃JpnIIでも中央勢を寄せ付けず完勝というレースぶりだっただけに、そうした期待が高まるのは当然のことだろう。単勝1.7倍の圧倒的人気に支持された。
しかしそれに待ったをかけたのが、昨年までヴァーミリアンでこのレース3連覇を果たしていた武豊騎手だった。武騎手は、怪我で療養中の岩田康誠騎手に代わり、スマートファルコンに前走の日本テレビ盃JpnIIから騎乗。その日本テレビ盃では、フリオーソが58キロだったのに対し、内容的に完敗のスマートファルコンは56キロ。それが今回、同じ57キロとあれば、普通に考えれば勝ち目はない。
「同じレースをしたのでは逆転は難しいだろう」と考えた武騎手は、思い切った“逃げ”の手に出た。
大外14番枠のアドマイヤフジが前日の段階で除外となり、13番枠から互角のスタートを切ったスマートファルコンは、武騎手が手綱をしごいて内に切れ込みながら一気に先頭へ。スタンドからはどよめきが起きた。おそらく武騎手以外の騎手も、ファンと同様、これにはアッと思ったに違いない。「してやったり」と思ったのは、もちろん武騎手だ。
向正面に入っても軽快に逃げるスマートファルコンが単独先頭。2番手のフリオーソは、離されまいと戸崎圭太騎手が懸命に追う。
4コーナーから直線に入ると、スマートファルコンはフリオーソとの差を広げにかかり、直線半ばではすでにセーフティリード。道中追い通しだったフリオーソに7馬身という決定的な差をつけ快勝。ダートグレード11勝目にして、念願のJpnI勝利となった。
「帝王賞は強いメンバーと走ったダメージがあり、その後は夏負けもありました。正直、前走(日本テレビ盃)は仕上がり途上でした。今回は、これで負けたら仕方ないと思うくらい、仕上がりに関しては自信を持って出走できました」とは、スマートファルコンの小崎憲調教師。
対するフリオーソは、帝王賞、日本テレビ盃と完璧ともいえる強いレースをして、今回までピークの状態を保っていたのかどうか。「レース前、前回とは違って馬に気合がなかった」とは川島正行調教師。
結果、帝王賞、日本テレビ盃で完敗だったスマートファルコンが大逆転。
どのレースを目標として馬の状態をピークにもっていくか。今回、それはフリオーソ陣営にとっても、スマートファルコン陣営にとっても同じだっただろう。しかし必ずしも厩舎関係者の思い通りになるものでもなく、あらためて競馬の難しさと、奥深さを考えさせられる一戦だった。

武豊 騎手

馬の状態は前走より今回のほうが断然いいと聞いていたので、(先手を)狙っていました。1コーナーに入るときもいい感じでしたし、向正面に入ったら折り合いもついて、いい走りだなと思って乗っていました。うしろはあまり気にせず、馬が気分よく走ってくれて、状態のよさも感じたので、ある程度粘ってくれるとは思っていたんですけど、それにしても強かったですね。

小崎憲 調教師

前走は、まだ仕上がり途上だったので、1週先の白山大賞典も考えたんですが、やはりここを目指すには(同じ船橋を)一度使っておいたほうがいいかなと思ったので、それは正解でした。普段この馬は、一度使うと外厩に出してリフレッシュさせるんですが、今回はトレセンの中で作り直すという方法をとってみました。

11月3日 船橋競馬場 左1000m

第10回JBCスプリント JpnI

サマーウインド

他馬を寄せ付けないスピード 1000m戦でさらに強さを発揮

第10回を迎えるJBCだが、スプリントの1000mは過去最短の距離設定。加えて、日本で1000mのダートJpnIが行われるのは初めてのこと。地方競馬では、競馬場のコース形態にもよるが、2歳の早い時期には1000mやそれ以下の距離のレースもめずらしくない。しかし今回出走する中央馬5頭にとっては初めて経験する距離。それゆえ出走させる陣営にも少なからず不安があったのではないだろうか。結果は、明暗が分かれた。
1000mのスピード決戦は、やはりというか展開関係なしのサバイバルレース。スタートを失敗してしまえばそこで万事休す。五分にスタートを切った中から、手綱をしごいてじわじわと先頭に抜けてきたのは、断然人気のサマーウインド。スピードに乗ってからの二の脚は、他のどの馬にも負けない。3コーナー手前では1馬身ほど抜け出し、単独で先頭に立った。
外枠のナイキマドリードが離されまいとこれに食らいつき、芝のスピード競馬を経験しているアイルラヴァゲインも追走した。
しかしサマーウインドのスピード能力は次元が違った。直線を向くと2番手のナイキマドリードを引き離しにかかり、最後まで余裕の手ごたえのままゴール板を駆け抜けた。
4馬身離れた2着には、地元船橋のナイキマドリードが粘った。直線を向いて後退したアイルラヴァゲインに替わり、道中はやや離れた4番手集団を追走したミリオンディスクが3着を確保した。
「速すぎて、ついていけなかった」。着外に敗れた騎手の何人かが、検量室前に戻って開口一番、口を揃えていたが、それほどサマーウインドのスピードは抜けていたということだろう。
1000mが“明”と出たのは、もちろんそのサマーウインド。「この馬のスピードを思う存分発揮できる舞台だと思っていたので、記録に名前を残せてうれしいです」と藤岡佑介騎手。ともにJpnI初制覇となった庄野靖志調教師は、「こんないい馬を預けてくれたオーナーに感謝です。厩舎スタッフもよくやってくれた」と声を詰まらせた。
対してこの距離が“暗”と出たのはスーニ。昨年、名古屋1400mからの連覇がかかり、単勝では2番人気に支持されていた。結果は、サマーウインドから1秒7も離された4着。「ここ2走があまりよくなかったですが、だいぶよくなってきていました。1000mはやっぱり忙しい」と川田将雅騎手。
そして単勝54.6倍の6番人気ながら2着に粘ったナイキマドリードの健闘も光った。07年のこのレースの覇者フジノウェーブ、東京盃JpnIIでサマーウインドにハナ差まで迫ったヤサカファインらとともに、ダート短距離路線を盛り上げる南関東勢の中心的存在となりそうだ。

藤岡佑介 騎手

いつもスタートがあまり速くはないんですが、ここ一番でいいスタートきってくれました。出た時点で、あとは丁寧に乗ることだけ心掛けてまわってきたので、何も不安はなかったです。4コーナーでもかなりいい手ごたえでしたし、ゴール前でもスピードは衰えなかったので、ほかの馬は追いつけないだろうと思って乗っていました。

庄野靖志 調教師

いつもより一歩目が早く出られたし、そのあと二の脚も早い段階でエンジンがかかって、スピードに乗って行けました。1000mということで、馬のスピードを十分に生かせる競馬ができました。ここまで夏からずっとがんばってくれたので、まずは馬の様子を見て、疲れをしっかりとってあげて、その後のことはじっくり考えたいと思います。
文:斎藤修 | 写真:いちかんぽ(森澤志津雄、宮原政典、川村章子)、NAR

第11回 2011年 大井競馬場

新設レディスクラシックが牝馬戦線に好影響
世界レベルの活躍馬登場も地方馬と格差

第11回を迎えたJBCの大きな進化は、JBCレディスクラシックの新設だろう。21世紀の幕開けとともに、クラシック、スプリントの2レースでスタートしたJBCは、当初からさらに別のカテゴリーのレースを増やしていくという計画があった。しかし昨年までの10年間は、同日に2歳馬の地区重賞が行われたり、大井開催時にはTCKディスタフ(現・レディスプレリュード)が行われてはいたが、JBCとしてのレースを増やすまでにはなかなか至らなかった。今回、レディスクラシックが新設されたことで、JBCはまた新たなステージに入ったといっていいだろう。
何よりその成果は、中央・地方ともに、早い段階からJBCレディスクラシックを目標に掲げる陣営があったことだろう。それによって、ここに至るダートグレードの牝馬戦線も、例年以上に盛り上がりを見せた。
もっとも注目されたのはラヴェリータだ。当初は今年春に繁殖入りする計画もあったが、JBCレディスクラシックを目標にするとして、繁殖入りを1年延期。ラヴェリータはその現役続行によって、今年さらに3つのダートグレードタイトルを加え、牡馬とのレースも含めて通算で7つものタイトルを獲得することとなった。
そしてこの牝馬戦線をさらに盛り上げたのが、女王ラヴェリータに対し、1つ下のミラクルレジェンドが挑むという、対決の構図ができたこと。結果的に、前哨戦のレディスプレリュード、そしてJBCレディスクラシックと、ミラクルレジェンドが連勝という結果になったが、そうした世代交代というのも競馬を面白くする要素のひとつだろう。
地方勢では、中央のオープンから笠松に転厩してきたエーシンクールディの存在が大きかった。グランダム・ジャパン古馬シーズンを圧倒的な強さで優勝し、レディスプレリュードでは直線半ばまで先頭で粘って3着。本番では残念ながら9着に沈んだが、これはブラボーデイジーにつつかれてオーバーペースになるという不運もあった。
今回のJBCでもっともメンバーが充実していたのがスプリントではなかっただろうか。連覇を目指すサマーウインドに、一昨年の覇者スーニ。地方勢では、前哨戦の東京盃JpnIIであわやの2着だったラブミーチャンに、昨年2着だったナイキマドリード。そして果敢にハナを切ったのも大井の快速馬ジーエスライカーだった。
JBC創設以前、ダート短距離路線の最高格付はGIIの東京盃で、さらに上を目指すとなれば、純粋なスプリンターとしてはちょっと距離が長いフェブラリーステークスGIしかなかった。
近年、ダート短距離路線の層が厚くなってきたのは、JBCスプリントJpnIという目指すべき明確な頂点ができたことと無関係ではないだろう。一時期勝てなくなっていたスーニが、以前よりも力をつけての復活も見事だった。
JBCクラシックJpnIでは、地方競馬にとって残念だったのがフリオーソの回避だろう。とはいえ、昨年のJBCクラシック以来負けなしの連勝を続けるスマートファルコンと、ドバイワールドカップ2着の実績があるトランセンドとの対決は見ごたえがあった。
しかしその2頭があまりに強かったため、地方勢との力差がはっきりしていたのも確か。なんとか3着に食らいついたのもJRAのシビルウォーで、4着以下の地方勢はまったく別のレースをしているかのようだった。
そうした中央と地方の格差はJBC全体を通していえることで、地方勢でいわゆる「勝ち負け」のレースをしたのは、JBCスプリントで勝ち馬からコンマ2秒差の4着に粘ったラブミーチャンのみだった。JBCレディスクラシックでは中央勢が掲示板を独占。JBCクラシックは、高知のグランシュヴァリエが4着に入ったが、勝ったスマートファルコンからは3秒2もの差がついていた。
もはや世界的なレベルにまでなった中央勢に対し、地方勢はその差を埋めることができるかどうかが今後の課題となるだろう。
最後に東北の震災復興についても触れておきたい。JBCを含めた大井の開催中、震災復興のシンボルとして場内に多数展示された大漁旗は壮観だった。これは津波によって流されたものを、ボランティアがきれいに洗濯したもの。また、盛岡競馬場の名物・ジャンボ焼き鳥と、水沢競馬場名物・ホルモンの出店販売も大盛況。昨年船橋のJBCでもご当地グルメが盛況だったように、JBC当日には、今後も全国の競馬場の人気グルメなどの販売はぜひとも続けていってほしい。

11月3日 大井競馬場 右2000m

第11回JBCクラシック JpnI

スマートファルコン

圧倒的なスピードで連勝 ドバイへ向けた戦いは続く

スマートファルコンとトランセンドに人気が集中するであろうことは予想されたが、最終的に馬連複が100円元返しになると想像できた人はいただろうか。
当初はエスポワールシチー、フリオーソも参戦する意向を示し、現役ダート4強の直接対決がここで実現するかに思われた。しかしフリオーソは日本テレビ盃JpnIIでの競走除外から完調とまではいかずに回避。エスポワールシチーもマイルチャンピオンシップ南部杯JpnIでの4着敗退が納得いかなかったか、6日のみやこステークスGIIIへ回ることになった。
4強のうち2頭が抜け、残る2頭の実力が断然で、馬券的な興味には欠ける組合せとなった。しかし昨年のJBCクラシックJpnIから6連勝中のスマートファルコンに、ドバイワールドカップ2着で世界レベルの実力を見せつけたトランセンド、2強の激突は、おおいに興味をかき立てられる一戦となった。先行タイプの2頭がどんな駆け引きでレースを進めるのか、そして結果はどうなるのか。
結果から言ってしまえば、スマートファルコンが勝ち、トランセンドが1馬身差で2着。3着のシビルウォーには3馬身半差で、4着馬には大差がついた。2強での決着。しかしこれを一騎打ちと言っていいものかどうか。一騎打ちと言えば想像するのは、2頭が馬体を併せて激しく叩き合い、その後ろには差がついているような状況だろう。
スマートファルコンは、トランセンドよりもひとつ外の枠だったにもかかわらず、今回も単独で逃げた。トランセンドの藤田伸二騎手もそうした展開を想像していたのか、競りかけてはいかず2番手に控えた。向正面では2頭の間に3~4馬身ほどの差がついた。スマートファルコンのひとり旅といってもよい。
4コーナーではスマートファルコンの武豊騎手の手綱はまだがっちりと押さえたままだったのに対し、3コーナーから差を詰めてきたトランセンドの藤田騎手は早くもムチを入れた。そして直線ではスマートファルコンが引き離しにかかり、そのまま圧勝かにも思えた。しかしゴールが近づくにつれ、トランセンドがじわじわと差を詰めた。その差を1馬身まで詰めてのゴール。
直線の後半では、武豊騎手がステッキを抜いて、必死に追う姿があった。見ていてドキドキする展開だった。勝ったスマートファルコンにとって、2着との1馬身差は、昨年のJBCクラシック以降では、もっとも小さい着差だ。やはりそれだけ力は接近していた。
藤田騎手は、「相手のほうがスピードがあるから、こういう競馬も覚えさせないと。結果は悲観はしていないです」と、スマートファルコンを行かせるだけ行かせて、最後に差し切るというレースをイメージしていたのだろう。結果的に交わすまでには至らなかったものの、見せ場はつくった。
スマートファルコンの単独逃げではあったが、トランセンドの藤田騎手は4~5馬身以上には差を広げられることはなかった。おそらく両騎手の間には相当な駆け引きがあったに違いない。馬体を併せることは一度もなかったが、内容的には一騎打ちと言ってもいいのではないか。
スマートファルコンの立ち場は、この1年で大きく変わった。それまでにも重賞はいくつも勝っていたが、昨年のJBCクラシックは4番人気という評価。しかしそこでJpnI初勝利を挙げると、ここまで連戦連勝で7連勝。重賞はじつに17勝目となった。
スマートファルコン陣営には、来春のドバイへの挑戦が、いよいよ現実のものとして近づいてきた。「最終目標はドバイに置いているので、そこに行けるようにローテーションを組んでいく」という小崎憲調教師のコメントは、前回の日本テレビ盃JpnIIのときから変わっていない。
トランセンド陣営も、当然のことながら前回2着だったドバイワールドカップが目標となるのだろう。ドバイの地で、再びこの2頭の一騎打ちが見られるのかどうか。楽しみに待ちたい。

武豊 騎手

いいスタートが切れましたし、あとはいつもどおり自分のレースをするだけだったので、何も迷いはなかったです。相手も強いですから、最後まで気は抜けなかったです。(5年連続JBCクラシック制覇は)いい馬に恵まれているからで、この馬で連覇できたこともよかったです。今日はこの馬らしいレースができました。来年のドバイにはぜひ行きたいですね。

小崎憲 調教師

ジョッキーともレース前に入念に打合せしました。とにかくこっちが逃げることを想定して、どこから動いていくかも想定して、ファルコンの競馬をするしかないというのが結論で、その通りの競馬をしてくれました。どこまで強くなるか、僕らもわからないですから、このままもっともっと連勝を続けて、ドバイまでいければと思います。
文:斎藤修 | 写真:いちかんぽ(森澤志津雄、国分智、川村章子)、NAR

11月3日 大井競馬場 右1200m

第11回JBCスプリント JpnI

スーニ

一昨年に続くJBC2勝目 コースレコードで圧勝

今年から3つの舞台が用意されたJBC。第9レースに行われるJBCレディスクラシックと第11レースに行われるJBCクラシックJpnIは一騎打ち濃厚というのが大半のファンの予想だったが、JBCスプリントJpnIだけはさにあらず。出走各馬がパドックを周回しているときに電光掲示板に表示された単勝オッズは、5頭が1ケタ台でラブミーチャンが10倍ちょうど。前哨戦の東京盃JpnIIを完勝したスーニと、そのレースで単勝1番人気ながら4着に終わったセイクリムズンが、3.6倍前後で1番人気を争っているという状況だった。
そのオッズを頭に入れつつ周回を続ける14頭を見てみると、スーニは軽さがありつつも威圧感が伝わってくる歩き。セイクリムズンは前走で12キロ減っていた体重が5キロ戻り、黒光りする体を誇示するような雰囲気があった。
ダート短距離の実績馬が集まるなかで、ファンの心を惑わしたのがダッシャーゴーゴーの参戦。デビュー戦以来、2年3カ月ぶりのダート戦出走だが、芝のGIで好勝負している実績があるだけに無視はしにくい。筆者が乗車した競馬場への送迎バスの車内でも、ダッシャーゴーゴーをどう評価するかと議論する声が聞こえてきていた。
そういった未知の魅力をもつ馬が参戦してくると、レース自体が盛り上がる。それらを含めた多数の精鋭によるJBCスプリントだったが、そのなかでもっとも勝利を祈りながら観戦していたのは、ラブミーチャンのファンだったかもしれない。
そのラブミーチャン、スタートダッシュではジーエスライカーに遅れをとったが、持ち前のスピードで2番手をキープ。残り200m付近で先頭に立って、ファンの心臓の鼓動を大きくさせた。
しかし残り100m付近からJRA所属の有力馬が猛追。とくに馬場の中央を進んできたスーニの勢いは別格で、1 1/4馬身突き抜けての完勝となった。
2着と3着には、好位から差し脚を使ったセイクリムズンとダッシャーゴーゴーが入線。ラブミーチャンは3着からクビ差粘れずの4着だった。
「惜しかったなあ」「一瞬、夢を見たよ」レース直後にスタンドで聞かれた声は、ラブミーチャンの健闘に対するものがほとんど。そんなファンの想いを柳江仁調教師に伝えると、「そうですか……。でもよく頑張ってくれましたよ。今日はちょっとテンションが高かったかな。ゲートでも横を向いていましたし。スタートのタイミングはよかったんですが」と、悔しさを抑えつつも冷静なコメント。柳江調教師からは、次走が12月5日(月)のオッズパークグランプリ(佐賀・1400m)であるという予定が示された。
しかし、スーニの破壊力はすさまじい。レースの上がりタイムを1秒以上も上回る強烈な末脚を見せられては、ダート短距離界日本最強に異論をはさむ余地などない。それでも吉田直弘調教師は「また課題が見つかりましたから、これからも成長していきますよ」と引き締まったままの表情で上を目指す。しかしながら「海外へという話も出てきそうですね」と水を向けたとき、「オーナーが決める話ですから」と言いながらも、まんざらではなさそうな表情に変わった。

川田将雅 騎手

一時期、全然走れませんでしたが、3連勝でまたいちばん大きいところを取らせてもらいました。最後から2番目にゲート入りしたことで、リズムを崩すことがなかったのがよかったと思います。後方の位置取りは予定どおりといえば予定どおり。東京盃ではインを突きましたが、今日は下がってくる馬に邪魔されたくなかったので、最初から外を回ってくるつもりでした。1番人気に応えられてホッとしていますし、強いスーニを見せられることができたこともうれしいです。

吉田直弘 調教師

デキは最高によかったですね。スタッフや関係者に感謝します。サマーチャンピオンでも東京盃でも課題がみつかって、それをクリアするように努めてきて、そしてこのレースを通してさらに課題をつかむことができました。今日1日は喜びをかみしめますが、明日からまた新たな課題にチャレンジしていきたいと思います。

11月3日 大井競馬場 右1800m

第1回JBCレディスクラシック

ミラクルレジェンド

ハイペースでレコード決着 新設重賞で女王の座を奪う

これまで牝馬によるダートグレードでは、JpnIIのエンプレス杯が格付的には最上位。とはいえエンプレス杯を年間通しての大目標とする声はほとんど聞かれることはなかった。そこに今年新設されたJBCレディスクラシックは、初年度からダート路線の牝馬が明確に目標とするレースとなった。
その牝馬の頂点を決するレースで人気を集めたのは、ラヴェリータとミラクルレジェンドの2頭。前哨戦として行われたレディスプレリュードでも、この人気2頭の決着だった。それ以外の有力メンバーもほぼ再戦という顔ぶれとなったが、いざレースが始まると、展開はちょっと意外なものとなった。
エーシンクールディがハナを切ったのはレディスプレリュードと同じ。違ったのは、ブラボーデイジーが執拗に競りかけていったことだ。さすがに1番枠のエーシンクールディは譲らなかったが、ブラボーデイジーはハナを叩くつもりで行ったにちがいない。当然ペースは速くなる。3番手にカラフルデイズが続き、1番人気のラヴェリータは離れた4番手から、これをマークするようにミラクルレジェンドが続いた。あとの馬たちはバラバラで、縦長の展開になったことでも、いかにペースが速かったかがわかる。
直線を向いてもエーシンクールディが先頭だったが、残り300mあたりでラヴェリータが単独で先頭へ。しかし直後でマークしていたミラクルレジェンドが交わし去って勝利。最後まで食い下がったラヴェリータが3/4馬身差で2着。7馬身離れた3着にカラフルデイズが入り、JRA勢が掲示板を独占。前で競り合った2頭、ブラボーデイジーは8着、エーシンクールディは9着に沈んだ。
そして掲示板には「レコード」の赤い文字。1800m、1分49秒6は、1980年のカツアールの記録をコンマ3秒上回るもの。この距離のレコードが31年も更新されたないままだったのは、大井競馬場ではこれまで1800mで主要な重賞があまり行われてこなかったことが要因のひとつ。同じ1800mでは牝馬によるTCK女王盃JpnIIIも行われているが、今回ここでコースレコードが出たということは、もちろん前が競り合ったこともあるが、やはりそれだけレベルの高い争いになったということだろう。ちなみに今年2月に行われたTCK女王盃は、1着ラヴェリータ、2着ミラクルレジェンド、3着ブラボーデイジーという決着で、勝ちタイムは1分52秒4。同じ良馬場ながら3秒近くもタイムを縮めたことになる。
1番人気ながら2着に敗れたラヴェリータは今シーズン限りで引退と伝えられる。牝馬同士のダート重賞では10戦6勝、2着4回と、ここまでついに連対を外すことはなかった。牡馬相手でも名古屋大賞典JpnIIIのタイトルがあり、今年はかしわ記念JpnIでもフリオーソに3/4馬身差の2着があった。間違いなくダートに歴史を刻んだ最強牝馬の1頭といえるだろう。
そのラヴェリータを2戦連続して下し、女王の座を奪い取ったのがミラクルレジェンドだ。430キロ前後で、ともすれば体の線が細く見えるが、オープンの関越ステークスから3連勝で、ここにきての充実ぶりがうかがえる。このあとはジャパンカップダートGIに出走予定。「荷は重いかもしれないけど、スマートファルコンやトランセンドなど、牡馬の一線級とも勝負をしていきたい」と、管理する藤原英昭調教師は期待を語った。
ダート女王の世代交代。新設された大舞台にふさわしいレースとなった。

岩田康誠 騎手

今日は返し馬でも落ち着いていて、ゲートをスムーズに出たのもよかったですし、道中もいいペースで運べたと思います。3コーナーからラヴェリータのうしろについて、楽な手ごたえで直線を向いたので、これはいけるんじゃないかと思いました。直線で早めに先頭に抜け出したら遊び遊び走っているところもありましたが、それでも勝ったので、すごく強い内容だったと思います。

藤原英昭 調教師

ラヴェリータと同斤量になったことで警戒はしていたんですけど、こちらもしっかり成長してくれて、状態もよかったので、勝つことができました。いろいろな展開を予想して、それでもあれほどペースが速くなるとは思わなかったんですが、最後にラヴェリータを差すというのは、理想どおりの競馬ができたと思います。ここに来て馬の中身がしっかりしてきたし、母系もしっかりしたダート血統で、まだまだよくなると思います。
文:斎藤修 | 写真:いちかんぽ(森澤志津雄、国分智、川村章子)、NAR

注記
当ページは、地方競馬情報誌『ハロン』及び『WEBハロン』における当時の掲載内容を引用又は抜粋し、作成しています。