過去の熱戦

第12回 2012年 川崎競馬場

11月5日 川崎競馬場 左2100m

第12回JBCクラシック JpnI

ワンダーアキュート

直線弾けて5馬身突き放す 三度目の正直でJpnI奪取

昨年まで11回の歴史を重ねたJBCクラシックJpnI。第1回のレギューラメンバー以外の勝ち馬は、いずれも2連覇または3連覇を果たしているというのは広く知られるところ。それゆえJBCスプリントJpnIと比較して固い決着となる印象のクラシックだが、過去5年の結果を見ても、連対馬10頭中8頭を1、2番人気馬が占めるという、データ面でもそれははっきりと示されている。しかし今年は、昨年まで2連覇の絶対王者スマートファルコンが2カ月前に電撃引退、地方の雄フリオーソも休養中、さらには中央のダート王者トランセンドもドバイ以来の休み明けということもあり、結果的には混戦のJBCクラシックとなった。
勝ったのは、単勝5番人気のワンダーアキュート。「作戦どおり、外に持ち出してズドンといけた。久々にこの馬らしいレースができた」という和田竜二騎手のコメントが、このレースの多くを物語っている。ワンダーアキュートにとって悲願のJpnI・GI初制覇となった喜びを、和田騎手は右手を高々と挙げて表現した。
絶好のスタート切ったのはワンダーアキュートだが、マグニフィカが押してすぐに先頭を奪い、外からトランセンドも仕掛けていった。ワンダーアキュートは控えて3番手を追走。テスタマッタはそのうしろでやや掛かり気味、日本テレビ盃JpnIIまで3連勝で臨んだソリタリーキングがそのうしろ、近走好位につけるレースで成績を残してきたシビルウォーは最後方から徐々に位置取りを上げる展開となった。
向正面でソリタリーキングがまず動き、さらにはシビルウォーが一気に先団まで押し上げてきてレースが動いた。マグニフィカは後退、3コーナー過ぎでトランセンド、ソリタリーキング、シビルウォーが併走するように先頭へ。ここで仕掛けをワンテンポ遅らせたのが、ワンダーアキュートの和田騎手だった。4コーナー手前で3頭の外に持ち出して追い出されると、直線では馬場の中央を堂々と突き抜けた。早めに仕掛けてきたシビルウォーが5馬身差の2着。トランセンドは粘りきれず3馬身差の3着。そしてソリタリーキング、テスタマッタと続き、フリオーソ不在のこのメンバーでは、やはりJRA勢が掲示板を独占する結果となった。
勝ったワンダーアキュートは、これまでにもたびたび素質の片鱗は見せていた。その序章となったのが、昨年5月の東海ステークスGIIで、ゴール前一気に追い込んでのレコード勝ち。秋のジャパンカップダートGIでは後方一気でエスポワールシチーをとらえ、トランセンドから2馬身差の2着。そして東京大賞典GIでは、逃げ切りを図るスマートファルコンに対して首の上げ下げの勝負に持ち込んだ。写真判定の結果2着に敗れはしたが、どちらが勝っていてもおかしくない大接戦だった。
念願のJpnIタイトルに、管理する佐藤正雄調教師は、「三度目の正直で、やっとなんとかここにこぎつけました」と安堵の表情を見せた。とはいえ前走東海ステークスでの惨敗もあり、ここに向けては手探り状態だったようだ。「休み明けはあまり実績がなかったんで、正直どうかなという心配はありました」と和田騎手。馬体重は前走比ではマイナス21キロだが、好走した東京大賞典との比較ではマイナス7キロ。馬自身は仕上がっていたのだろう。
この後に続く、ジャパンカップダート、そして東京大賞典というGI戦線では、ワンダーアキュートが突っ走るのか、それともひと叩きされたトランセンドの復活があるのか、南部杯JpnIを圧勝したエスポワールシチーも衰えはない、はたまた前日のみやこステークスGIIIでダート6連勝とした上がり馬ローマンレジェンドの台頭があるのか。秋のダート古馬頂上決戦は、高いレベルでの混戦となりそうだ。

和田竜二 騎手

GI級の力がある馬だとずっと思っていましたし、この馬でずっと夢見ていたので、夢がかなった一瞬でした。苦しいときもあったんですけど、絶対いつかは勝ってくれると信じていました。ほんとに強い時はこれくらいのパフォーマンスができる馬なので、今回やっとそれが出せた感じです。

佐藤正雄 調教師

放牧から帰ってきて問題なく来ていましたが、この馬は体重の変動が激しく、今回はマイナス21キロで、ベスト体重から10キロくらい軽いかなと思ったんですけど、体はいい感じで出れたと思います。大井で見せたような脚はもってるんで、ひょっとしたらという気持ちはありました。この勢いでJRAのGIも狙います。
文:斎藤修 | 写真:いちかんぽ(国分智、森澤志津雄)、NAR

11月5日 川崎競馬場 左1400m

第12回JBCスプリント JpnI

タイセイレジェンド

この秋一気に頂点を極める 晩成の血が花開いての勝利

今年のJBCスプリントJpnIは注目馬多数のメンバー構成。最終的には4頭が単勝10倍以下となったが、セイクリムズンが1.5倍で断然人気。続いてタイセイレジェンドとラブミーチャンが5倍前後と、この3頭がやや抜けた人気となっていた。
JBCの3レースのうちレディスクラシックは終了していたが、それでも観客は川崎競馬場へ続々と入場。人垣の厚さがいっそう増したパドックにJBCスプリントの出走馬が入ってきた。それと同時に小粒の雨が落ちてきたが、騎乗合図の頃には止む程度のもの。霧雨のなか、蹄音を立てる馬がほとんどいないパドックは、静かな闘志に包まれていた。
関東では初めてとなる1400mのJBCスプリント。小回りコースの川崎だけに、どの騎手もまっさきにスタートを切りたいと思っていたであろうところで、アクシデントが起こった。ゲートが開いたその瞬間、チョウサンペガサスが大きくつまずき、ラブミーチャンもタイミングが合わずに出遅れ。内枠ではセイクリムズンとダイショウジェットが空脚を踏むような格好で、最初の踏み出しが遅くなってしまった。
それとは対照的に、すぐさま先手を取り切ったのがタイセイレジェンド。好スタートを切ったシャイニングアワーと立て直したラブミーチャンが馬群の外から追いかけるが、1~2コーナーでは体半分ほどリード。向正面では先行する3頭に向かって、スーニがアウトコースから、オオエライジンがインコースから攻め上がっていくが、タイセイレジェンドは後続各馬に並ばせない。4コーナーを回り終えるあたりでは、むしろ2番手以下との差を広げていった。
そして最後の直線は独走。このレースぶりは、まさに好スタートから逃げて最後の直線で追いかける各馬を置き去りにしたクラスターカップJpnIIIのような、圧倒的なものとなった。さらに勝ちタイムは1分26秒6のレコード。このレースでは最下位に敗れたが、チョウサンペガサスの従来の記録を0秒2短縮する快記録である。
3馬身遅れの2着には、最後の直線で瞬発力を見せたセイクリムズン。さらに2馬身差でスーニが粘り込み、中団から流れ込んできたセレスハントとダイショウジェットが続いて入線。JRA勢が上位独占という結果になった。
検量室前で、「よく、ここまでたどりついた」と感慨深そうに声を発したのは、タイセイレジェンドを管理する矢作芳人調教師。この馬自身、久々となる520キロを切る体重は、陣営が勝負をかけてきたという証拠だろう。対して、昨年2着の雪辱を期したセイクリムズンは、岩田騎手が「スタートで滑ったのがすべて」と悔しがった。
地方所属馬で最先着したのは6着のオオエライジン。木村健騎手は「1コーナーで外に行きたがって……」と、左回りに敗因を求めた。そして地方競馬ファンの期待を背負ったラブミーチャンは9着。柳江仁調教師は上がり運動をしているラブミーチャンを見ながら「パドックでこんなに元気がなかったのは初めて。馬体も思っていたより減っていましたし」と、首をひねった。「それでも今の歩様などを見る限りでは、脚元に問題があったとかではなさそうですし、笠松グランプリに向けてまたがんばります」と、気を取り直していた。
その近くには、表彰式を終えて、タイセイレジェンドの様子を確認に来た矢作調教師が。花束を抱えながら愛馬を見ている矢作師の後姿は、いかにも肩の荷が下りたという安堵を感じさせる背中だった。

内田博幸 騎手

逃げたら強いということはわかっていましたが、もし逃げられなかったら好位でと思っていました。でもスタートがすごくよくて、いい形で勝たせてもらえました。返し馬のときから馬がすごくやわらかくて、いい雰囲気でしたね。この川崎競馬場で、南関東出身の矢作調教師、内田博幸のコンビで勝ててよかったです。

矢作芳人 調教師

東京盃(2着)は、クラスターカップから少し間隔があった分かなという感じでしたが、それからずいぶんと状態が上がりました。逃げられれば大丈夫だと思っていましたし、大井の1200より小回りの1400のほうがベターですからね。今後は来年のフェブラリーステークスを目標にしていきたいと思います。
文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(川村章子、森澤志津雄、国分智)、NAR

11月5日 川崎競馬場 左1600m

第2回JBCレディスクラシック

ミラクルレジェンド

早めの仕掛けで直線差し切る 2年連続ダート女王の座に

前哨戦のレディスプレリュードでは、馬連複で1.4倍という人気となったダート牝馬の2強、ミラクルレジェンドとクラーベセクレタだが、結果は明暗の分かれるもの。クラーベセクレタはプラス15キロの太め残りに加え、スタートで後手を踏み、直線ではあきらめた感じのレースぶりだった。
しかし今回のクラーベセクレタは、大一番のここが目標とばかり、マイナス13キロと前回増えていた馬体をしっかり絞ってきた。それゆえファンは再び2強対決に期待を寄せ、ミラクルレジェンドとの馬連複で1.5倍と人気を集めた。とはいえ、やはり1番人気は前哨戦を快勝して臨むミラクルレジェンドで1.4倍、クラーベセクレタは2.8倍だった。
レースを盛り上げたのは、北海道から遠征のサクラサクラサクラだった。勢い良く飛び出して先頭に立つと、4ハロン目に13秒7という道中で息の入る楽な流れに持ち込んだ。2強は中団を追走。向正面では先行集団のうしろで、真ん中にサトノジョリーを挟み、ラチ沿いにクラーベセクレタ、外にミラクルレジェンドが併走して追走する展開となった。
4コーナーでもサクラサクラサクラの手ごたえは楽。鞍上の森泰斗騎手は、「自分のペースで行けて、4コーナーではやったと思った」という。
しかし力の差は歴然だった。外から進出してきたミラクルレジェンドが残り100mを切って抜け出し、クラーベセクレタも内から馬群を捌いて抜けてきた。
ダート牝馬の頂上決戦は2強がその実力を見せての決着。先に抜けたミラクルレジェンドが、クラーベセクレタに1馬身半の差をつけての勝利。サクラサクラサクラが3/4馬身差でしぶとく3着に粘っていた。
勝ったミラクルレジェンドは、4コーナーから直線を向くところで視界が完全に開けたのに対し、一方のクラーベセクレタは内の狭いところに入り、抜け出すまでにちょっと手間取った様子だった。2頭に実力の差はなく、勝ち負けはコース取りの差だったかもしれない。管理する藤原英昭調教師は、「広いコースだったらもっと余裕あったと思うんですけど、このコースで岩田騎手がうまいこと乗ってくれました」と、好騎乗を讃えた。
このレース連覇で、あらためてダート女王の座を揺るぎないものとしたミラクルレジェンドの今後は、あらためて牡馬一線級との対戦になるようだ。
このレースの前日に京都競馬場で行われた、みやこステークスGIIIでは、同じく藤原調教師が管理する1つ下の半弟ローマンレジェンドが、同じく岩田騎手で勝利。ダートで6連勝中と快進撃を見せている。藤原調教師はミラクルレジェンドの次走が「どこになるかはまだわかりませんが」と前置きした上で、JRAのダートでは最高峰の舞台となるジャパンカップダートGIで、姉弟の直接対決にも想いを馳せている様子だった。

岩田康誠 騎手

今日は勝つために来ました。ペースは遅くても速くても、この馬はどういう展開にも対応できます。川崎の3~4コーナーだけクリアできればと思っていました。少し膨らんだところもありましたが、立て直して走ってくることができました。

藤原英昭 調教師

帝王賞のあと連闘で使って、ちょっとかわいそうなことをしました。前走を叩いてここという目標を立てていましたから、ほんとに馬がよくこたえてくれました。直線が短いので、早めに仕掛けるというのは作戦にありました。3~4コーナーでスピードに乗って来たので、そのままいけると思いました。
文:斎藤修 | 写真:いちかんぽ(国分智、森澤志津雄、川村章子)、NAR

第13回 2013年 金沢競馬場

金沢競馬場で初のJBC開催 国内史上初JpnI同日3レース

金沢競馬場で初めての開催、JBCレディスクラシックがJpnIに格付けされ日本で初めて1日にJpnIが3レースというJBCで、まず何よりよかったのは、天気に恵まれたことだろう。馬場状態こそずっと不良のままだったが、前日までのピンポイント予報では雨が確実だったことを思えば、少なくとも昼以降、天気の変わりやすいこの地で傘の必要なほどの雨が降らなかったのは奇跡的ともいえた。もちろん雨でもレース自体は普通に行われただろうが、あとからこの日の様々な場面を思い出してみたときに、もし予報が当たっていたらどうなっていたかは想像もできない。
JBCの初期を思えば、最近ではJRAの厩舎関係者のJBCに対する意識がかなり高いものになってきていて、早い時期からJBCを目標のひとつとして語る陣営も少なくない。それを示すひとつの出来事が、JRA所属馬の登録締切の段階で選定馬となっていたJBC3レースの各5頭ずつがそのまま出走したということ。逆に言うと、補欠馬が1頭も繰り上がれなかったのだ。つまりは、とりあえず登録だけしておくというのではなく、どの陣営も本気でJBCを狙ってきているといえるのではないだろうか。
特に今年からJpnIに格付けされたJBCレディスクラシックは牝馬のダート路線では唯一のGI/JpnIのタイトルであり、ダートを得意とする牝馬は、すでに今年のJBCが終了した今の時点から来年に向けた戦いが始まっているといってもいいかもしれない。
JRA勢が本気で臨むとあれば、3レースいずれも上位3着までを独占という結果も当然だった。さらに今年はいずれも1番人気馬の勝利となった。
なかでもJBCレディスクラシックを勝ったメーデイアは、牝馬のこのメンバーと対戦している限り負けることはないのではないかという強さを今回も見せた。社台グループ系クラブ馬主の規定で6歳春での繁殖入りが決まっており、メーデイアはこのあと1、2戦して引退ということになりそうだ。ジャパンカップダートやフェブラリーステークスも視野にあるようで、そうなると先にも触れたとおり、まさに12月の船橋・クイーン賞JpnIIIから、来年のJBCレディスクラシックへ向けた戦いが始まることになる。
地方最先着は名古屋の3歳馬ピッチシフターだった。この馬はひょっとすると来年は地方の牝馬路線の中心的存在になるかもしれない。あらためてこのレベルの馬をホッカイドウ競馬からJRAや南関東でなはなく、名古屋へ移籍させたというのは画期的で、そうした視点でも見続けていきたい。
JBCスプリントは、8歳にしてダートのこの距離は初めてというエスポワールシチーが勝利。2着には、鞍上の好騎乗もあったが初ダートのドリームバレンチノが入った。東京盃JpnIIを勝って臨んだタイセイレジェンドが実力を発揮できなかったということはあるが、ダート短距離路線を使われてきた馬たちは、ダートのマイル以上の路線や、芝の短距離路線よりレベルが一枚落ちるのかもという見方はできる。
地方最先着は大井のセイントメモリーが5着。JRAの一線級を相手にみずからペースをつくってのこの結果は、地方馬の中ではやはり力が抜けていた。6着のサミットストーンに5馬身差をつけたということもそれを示している。ラブミーチャンの引退が発表され、ダートグレードで互角に勝負できる地方馬がますます少なくなっている現状だけに、セイントメモリーにかかる期待は大きい。
JBCクラシックは、1番枠から初めての逃げの手に出たホッコータルマエが、ワンダーアキュート以下を寄せつけずコースレコードで勝利。今年前半の連戦連勝や、今回のレースぶりから、この馬はまだ成長途上にあるのではないだろうか。クリソライトは道中ずっと掛かったままで消耗してしまい、ハタノヴァンクールは故障があったということで、JRA勢で実質競馬をしたのは上位3頭だけ。結果的に地元のジャングルスマイルが地方最先着の4着に入ったが、3着のソリタリーキングからは2秒7もの大差がついていた。
JBC3レースで南関東から遠征がなかったのは、このクラシックだけ。今さら1年近くも前に引退したフリオーソの名を出してもしかたのないことだが、フリオーソの引退によって中央・地方の格差がもっとも大きくなってしまったのは、この中長距離の路線かもしれない。
最終レースには、地元2歳馬による重賞・百万石ジュニアカップが行われた。このレースが盛り上がるのかどうかという不安もあったが、果たして、直線での攻防ではスタンドのファンからJBCと変わらないほどの大歓声が上がっていた。ファンがたくさん集まれば交流重賞でなくとも盛り上がるのだということをあらためて確認できた。
その百万石ジュニアカップを1番人気のイグレシアスで制したのは吉原寛人騎手。金沢でのJBC開催を前に、数多くのマスコミの取材に応じるなど、金沢の広告塔としても奔走してきた。表彰式のあと、ファンからのサインの要望に最後までこたえ、そして騎手控室のほうに戻ってきたときの心底ホッとした様子は印象的だった。金沢不動のリーディングとして、JBC初開催に向けて背負ってきたものは大きかったに違いない。
JBCの開催で競馬以外に期待されるのは、普段より多くのファンを迎えるために出店されるその日限りのグルメだ。船橋や川崎でのJBC開催では、全国さまざまなグルメの屋台やキッチンカーが出ていたが、今回の金沢でおおいに感心させられたのは、地元能登地方の食材やグルメにこだわったこと。能登地方には、魚、肉、野菜と、それらを食べることだけを目的に観光に訪れてもいいほどすばらしい食材が豊富だ。そうしたグルメが多数提供されたことで、遠方から来場したファンも楽しめたのではないか。今後、JBCの会場となる地方都市の競馬場では、ぜひ参考にしてほしい。
文:斎藤修

11月4日 金沢競馬場 右2100m

第13回JBCクラシック JpnI

ホッコータルマエ

初めての逃げも安定した強さ タイトルを重ね夢はドバイへ

今年のJBCクラシックJpnIは、前日に京都で行われたみやこステークスGIIIとややメンバーが分散することになったが、それでも中央勢はこの路線の実績馬が集結し、GI/JpnI勝ち馬4頭が単勝一桁台。中でもホッコータルマエは前走マイルチャンピオンシップ南部杯JpnIで2着に敗れ連勝が途切れたにもかかわらず、ファンは単勝1.4倍という断然人気に支持した。
昨年あたりまでとダート中長距離路線のレースが明らかに変わってきているのは、中央の有力馬に典型的な逃げ馬がいないということ。今回も、さてどれが逃げるのだろうというメンバーで、逃げ馬といえるのは名古屋のサイモンロードくらいだった。
ゲートの出がよかったのはワンダーアキュートだが、ダッシュよく飛び出して行ったのはやはりサイモンロード。しかし意外にもホッコータルマエが最初の3コーナーまでにハナを取りきった。1番枠で内で包まれるのを嫌ったのかもしれない。
隊列が決まったところでペースが落ちついた。いや、落ち着きすぎたというべきか。同じ舞台で毎年行われている白山大賞典JpnIIIが、近年は中央馬と地方馬の実力差が開いてしまったこともあり、縦長となって前に中央馬、離れて後ろが地方馬という展開もめずらしくないが、今回は1周目のスタンド前で全馬がひとかたまり。ジャパンダートダービーJpnIを制して以来4カ月ぶりのクリソライトは馬群の中で行きたがって鞍上を手こずらせていた。緩みのないペースだと追走に苦労することがあるハタノヴァンクールも口を割って行きたがるような場面があった。
どの馬がどこで仕掛けてくるのかという展開だが、2コーナーを回ったあたりからホッコータルマエの幸英明騎手が徐々にペースアップ。向正面でサイモンロードが後退すると、3番手を追走していたワンダーアキュートが仕掛けていき、3~4コーナーではホッコータルマエに1馬身ほどの差にまで迫った。
しかし直線に入るとホッコータルマエが再び突き放しにかかり、後続を寄せつけず完勝。2馬身と差が開いたワンダーアキュートに、ゴール前でソリタリーキングが迫ったがハナ差及ばず3着だった。
タイムの出やすい不良馬場だったとはいえ、前半スローに流れたわりにコースレコードでの決着となったのは、後半一気にペースアップしたからだろう。ホッコータルマエが逃げ切った上り3ハロンは37秒0。ワンダーアキュートも同じ37秒0だから、向正面での差を詰められなかったことが数字でもわかる。上り最速はソリタリーキングで36秒8。近年の白山大賞典JpnIIIで上り最速だったのが昨年のニホンピロアワーズの37秒5というものゆえ、さすがにこのタイムで上がられたのでは後続勢は追いつけない。後続の末脚を封じるホッコータルマエの幸騎手による完璧な騎乗だった。
2着のワンダーアキュートは今回の馬体重がプラス17キロの519キロ。前走で12キロ減っていたぶんを戻したと言えなくもないが、馬体が完成したと思われる4歳以降、勝った時の馬体重は500キロ台前半から510キロ。武豊騎手は「枠順が逆なら違う競馬になっていたかも」と。たしかに3番枠に入った帝王賞JpnIでは逃げの手に出て、外枠に入った日本テレビ盃JpnIIでは内のソリタリーキングを行かせて2番手から。逃げ馬不在のこのメンバーでは、展開は枠順によるところが大きいようだ。
3着から大差がついたとはいえ、地元のジャングルスマイルが地方最先着の4着と健闘。クリソライトは掛かりまくったことがすべてで5着。スローに流れて好位を追走できればチャンスはあったはずのハタノヴァンクールだが、3コーナーあたりからずるずると後退。四位洋文騎手によると「3コーナー手前でガクガクっときた」という。レース直後にはその程度はわからなかったものの、どうやら脚元に異常があったようだ。
「来年はドバイに挑戦したいという夢を持っています」とは、勝ったホッコータルマエの西浦勝一調教師。まだ4歳だが、いよいよ安定した強さを発揮するようになった。次走に予定しているというジャパンカップダートGIで、あらためてその力が試される。

幸英明 騎手

もしかしたら逃げることもあるのかなとは思っていましたが、逃げたことがなかったので、それがどう出るかちょっと不安はあって乗っていました。それでも向正面半ばくらいでハミをとってくれて、行けるんじゃないかと思いました。これから負けられない立場になってきたなというプレッシャーも感じています。

西浦勝一 調教師

前回負けて、なんとかここはと思っていたので、勝ててホッとしました。逃げたのは意外でしたが、幸君の判断でああいうレースをしてくれたので、間違いないと思って安心して見ていました。どこの競馬場に行っても対応してくれるので、すごく賢い馬だと思っています。
文:斎藤修| 写真:いちかんぽ(国分智、宮原政典)、NAR

11月4日 金沢競馬場 右1400m

第13回JBCスプリント JpnI

エスポワールシチー

短距離戦でもスピードを発揮 古豪健在を示してJpnI連勝

JBCスプリントJpnIのゲートが開く数日前、日本中の競馬ファンに残念な知らせが伝えられた。
「ラブミーチャンがJBCを回避」
今年は4月に東京スプリントJpnIIIを勝ち、8月にもクラスターカップJpnIIIを勝利。2001年に始まったJBCでは、2007年にフジノウェーブが挙げた勝利が地方馬による唯一のものとなっているが、ラブミーチャンにはそれ以来の期待が大いにあった。しかし調教中に右前脚を骨折。夢の続きはその産駒で見られることを祈りたい。
それでもJBCスプリントJpnIには魅力的な役者が揃った。なかでも最大の注目は、GI/JpnIを8勝しているエスポワールシチーである。しかし同馬はダート1400mが初めてで、芝を含めても2008年以来の短距離戦。ならば、スプリント路線を主戦場としてきた馬たちが黙っておれまい。タイセイレジェンドはこのレース連覇に向けて虎視眈々。さらには2年連続で2着の実績があるセイクリムズンや、フェブラリーステークスGIのタイトルがあるテスタマッタも出走メンバーに名を連ねた。また、ドリームバレンチノは今回が初のダート戦とはいえ、今年の高松宮記念GIでの2着が光る。大井のセイントメモリーは前走でJpnIIIのオーバルスプリントを制しており、こちらにも期待がかけられた。そしてレースも、その6頭が激しく火花を散らす展開となった。
ゲートが開いた瞬間に真っ先に飛び出したのはセイントメモリー。セイクリムズンがその直後でダッシュ力を効かせ、大外枠からスタートしたエスポワールシチーも先行争いに加わっていく。さらにタイセイレジェンドも先頭集団を目指していくその流れは見た目にも速く、スタンドのファンからは早くもどよめきが上がった。
向正面でもそのスピード争いは続いたが、3コーナーでタイセイレジェンドが脱落。代わって中団からレースを進めたテスタマッタが馬群の外から先頭に接近し、4コーナー手前では4頭が鎬を削る形になった。その後方ではドリームバレンチノがインコースに狙いを定めて追撃開始。しかしエスポワールシチーのスピードは、やはり一枚上だった。
4コーナーのカーブでさらに加速して、直線入口では先頭に立って押し切ろうという態勢に。その後ろではセイクリムズンが懸命に粘り、テスタマッタが差を詰めてくる。レースを引っ張ったセイントメモリーはここで失速。そして内ラチ沿いの狭い隙間をドリームバレンチノが割ってきた。
エスポワールシチーは激しい2着争いを尻目にゴール板を通過。1馬身半離れた2着にはドリームバレンチノが入り、セイクリムズンは3着。セイントメモリーは4着のテスタマッタから3/4馬身遅れの5着となった。
レースが終わり、勝利を飾ったエスポワールシチーは馬場をもう1周。再びゴール地点に戻ってきたところで鞍上の後藤浩輝騎手が馬を止め、スタンドのファンに向かって手を高く突き上げ、湧き起こる「ゴトウ」コールにリズムを合わせて指揮をとった。それはJBCスプリントJpnIで見せたトップクラスのスピード感が、金沢競馬場を埋め尽くした観客に間違いなく伝わったと感じさせられる瞬間でもあった。
「今回のガッツポーズは(佐藤)哲三さんの意見も聞きつつ、自分のやりかたも主張しつつ、という感じですね」と、後藤騎手はそのアクションを振り返り、さらに「哲三さんとはレースプランについて電話で相談させてもらいました。だから2人で作ったレースといえるかな。そしてその通りにできたことがうれしいですね」と、大怪我からの復帰を目指す主戦ジョッキーへの想いを語った。後藤騎手自身も大怪我から1カ月ほど前に復帰したばかり。命を賭けて戦うアスリート同士の絆が、その言葉にこめられていた。
一方、連覇を狙ったタイセイレジェンドは7着。内田博幸騎手は「ゲートのなかで待たされましたし、内枠も苦しかった。馬体も少し重かったかな(プラス15キロ)。でも、まだまだやれる馬ですよ」と捲土重来を誓った。また、地方馬最先着となったセイントメモリーの手綱を取った本橋孝太騎手は、「ゲートが速かったですし、理想のレースができました」と言いつつも、「ただ、最後の直線はいつもの感じがなかったですね」と残念がった。このあたりは初の長距離輸送が影響したのかもしれない。
それでも、各馬が披露してくれたスピードはまぎれもなく一流のもの。この先もこのメンバーたちがハイレベルな戦いで、我々を魅了してくれることだろう。

後藤浩輝 騎手

距離がどうなのかなと思っていましたが、勝ってホッとしました。3~4コーナーでは前にいた馬の手応えが怪しくなっていましたし、あとは後ろからどれだけ来るのかなと。3番手から競馬ができたのも収穫ですね。とにかく強いですし、僕の気持ちも汲んでくれる馬。この先も活躍できると思います。

安達昭夫 調教師

(前走の南部杯のあとは)オーナーと相談して、JBCスプリントを選びました。前走のダメージがほとんどなかったのでいいレースができるとは思っていましたが、最後はなんとか踏ん張ってくれという思いで見ていましたね。この先の予定は、またオーナーと話し合って決める予定です。
文:浅野靖典| 写真:いちかんぽ(原政典、国分智)、NAR

11月4日 金沢競馬場 右1500m

第3回JBCレディスクラシック JpnI

メーデイア

単勝元返しの期待にこたえ完勝 JpnI勝利で真のダート女王に

3回目を迎えたJBCレディスクラシックは今年からJpnIに格付けされ、歴史の幕開けは金沢競馬場からスタートした。
1回目、2回目で連覇したミラクルレジェンドが今春に引退し、混戦ムードになるかと思われた2013年の牝馬ダート戦線。しかし、後継者はすぐに現れた。今年からこの路線に参戦してきたメーデイアだ。1月のTCK女王盃JpnIIIを5馬身差で圧勝した時、濱中俊騎手は「この馬と一緒にJBCに出たい」と初めて思ったという。その次のマリーンカップJpnIIIを横綱相撲で他馬を圧倒すると、メーデイア時代の到来を確信させた。芝のヴィクトリアマイルGIでは大敗したが、スパーキングレディーカップJpnIIIでは敗戦のダメージへの心配をよそに、2着のサマリーズには1馬身差だったが着差以上の強さを見せつけた。このレース後、笹田和秀調教師は「完成の域に達している」とコメントを残している。そして、JBCレディスクラシックJpnIの前哨戦レディスプレリュードJpnIIでは、危なげない勝ち方で本番に弾みをつけた。
ここまで牝馬のダート交流重賞では無敗のメーデイアは、当然JBCレディスクラシックJpnIでも断然の1番人気。単勝支持率75.7%の1.0倍で、ファンからも勝利への舞台が用意された。
注目の先行争いからハナを切ったのはトシキャンディ。少し出遅れたメーデイアはすぐに巻き返し、1コーナーでは2番手につけた。すぐ後ろには、アクティビューティやサマリーズ、キモンレッドというJRA勢が追走。しかしそのマークをよそに、「2番手が取れた時点で、もう大丈夫だと思った」(濱中騎手)というメーデイアは4コーナーあたりで早くも先頭に立った。直線では後ろを振り返る余裕を見せ3馬身差の完勝。1万人を超える大観衆を前に貫録の勝利を飾った。2着は3番手でレースを進めたアクティビューティ。ダート交流重賞初挑戦となったキモンレッドが3着に入った。
前走のレディスプレリュードの後、「JBCに向けて不安はありません」と自信が溢れていた濱中騎手だが、やはりファンからの大きな期待にプレッシャーがあったのだろう、今回は「ほっとしました」と安堵の表情が印象的だった。
陣営はこの日のために、より負荷をかけて調教し大一番に臨んだという。笹田調教師は「以前は骨が弱かったが、しっかり固まってきてそれに合わせて良い筋肉もついてきて、理想的な体型になった」と成長を振り返った。
初の牝馬ダートJpnIのタイトルを手にし、これで正真正銘の女王の座に君臨したメーデイア。しかし来年の春には現役を引退し、繁殖牝馬の道に進むことが決まっている。この後は、ジャパンカップダートGIかフェブラリーステークスGIに挑戦する可能性もあるとのことで、一線級の牡馬たち相手にどんな走りを見せてくれるのか非常に楽しみである。そして無事に第2の人生のスタートに立てるよう、女王のラストランをしっかりと見守りたい。
地方馬最先着は、名古屋の3歳馬ピッチシフターだった。直線で脚を伸ばし5着と掲示板を確保。3戦続けてコンビを組んでいる大畑雅章騎手は「馬まかせでレースを進めましたが、がんばってくれました。成長をとても感じます。砂をかぶっても動じないし、どんな展開でも対応できる馬。東海ナンバーワンですよ。今回挑戦した甲斐がありました」と嬉しそうに語った。
北海道からの転入当初からこの馬の素質を高く評価していた川西毅調教師は、9月の秋桜賞を勝った時からJBCへの参戦を口にしていた。JRA勢の上位馬との差はあったが、これまで牝馬のダート交流重賞で地方代表として健闘しきたクラーベセクレタ(6着)やアドマイヤインディ(7着)、マニエリスム(10着)などの古馬たちに先着したという結果は、今後の大きな糧となるだろう。まだ底が知れていない名古屋のピッチシフターには、全国区での活躍が期待できそうだ。

濱中俊 騎手

隣の馬がゲートで暴れた影響で馬が力んでしまって少し出遅れてしまいました。最後は力も残っていたので無事に走りきってほしいなという気持ち。負けられいと思っていたし、当然の結果を出すことができて安心しました。自分自身、交流のジーワンを勝ったのは初めてですし、JBCを勝てて嬉しいです。

笹田和秀 調教師

目標としていたレースですが馬にプレッシャーがかからないように自然体で臨みました。オッズを見たらやはり負けられないという思いでした。2番手につけられた時にはこのまま無事に周ってくれればと。この後、どのレースを使うか未定ですが母親になってもいい子ができるよう見守ってほしいですね。
文:秋田奈津子| 写真:いちかんぽ(国分智、宮原政典)、NAR

第14回 2014年 盛岡競馬場

11月3日 盛岡競馬場 左2000m

第14回JBCクラシック JpnI

コパノリッキー

外枠から逃げて直線突き放す ジーワン3勝もさらなる高みへ

天候が心配された盛岡競馬場のJBCデー。寒風が吹きつけ、枯れ葉が舞い、時折小雨にも見舞われる、来場したファンにはかなり厳しい1日となったが、熱気に包まれたままメインレースを迎えた。GI/JpnIホース6頭が集結したJBCクラシックJpnIは、ハイレベルの激闘となったが、コパノリッキーが見事にコースレコードで逃げ切り。春からの勢いを盛岡でも見せつけた。
ある程度人気どころがはっきりしていたレディスクラシックやスプリントと違い、実績馬の多くが休み明け。特に実績最上位のホッコータルマエは3月のドバイワールドカップ以来の出走で、現時点での状態評価が難しくなっていた。それにも増して悩まされたのが展開予想。帝王賞JpnIがにらみ合いのような展開になり、大井の2000mとしても珍しいスローペース。これに近いメンバーとなる今回もどの馬が逃げるのか、そしてどの馬に展開が向きそうなのかが読み切れない。単勝上位5頭で人気が割れ、これらの解明が予想の大きなポイントとなった。
その悩みにスパッと答えを出したのがコパノリッキーの田邊裕信騎手。スタート直後はやはり各馬が内外をうかがうような流れだったが、それならと8枠15番からのスタートでも徐々に内へ寄せながら無理なく先頭に押し上げた。そこまでは気持ち速い程度の流れだったが、1コーナーを回るあたりからうまくスローダウン。案の定その後ろがポジションの取り合いとなり、ベストウォーリア、ホッコータルマエ、クリソライト、ワンダーアキュートがつかず離れずの位置で追走した。
コパノリッキーには絶妙のペース配分となったのだろう、4コーナーで後続が追い上げてきた時にも田邊騎手は、「ペースを上げていない」と。十分に余力を残したコパノリッキーがここからスパートをかけ、後続を突き放して勝負あり。ゴールでは2着のクリソライトに3馬身差。フェブラリーステークスGI、かしわ記念JpnIに続くビッグタイトルは、戦うごとに差を広げての勝利となっている。
田邊騎手は、「1600mは乗りやすい。この距離では引っかかるし、ムキになるところもあるが、ゴールまでもってくれた。2000mで走っている馬を負かせました」という点を強調した。フェブラリーステークスGIでは16頭立て16番人気の勝利で日本中を驚かせたが、何度見直してもレース内容に恵まれたような点は見当たらないし、そのあとのかしわ記念JpnIや今日のレースはもはや自信満々の騎乗と思える。馬への信頼を田邊騎手は、「ずっと強いと思っていたから、『強いですね』と聞かれても、そうとしか言えない」と表現した。秋冬のダート路線は続き、次走は中京のチャンピオンズカップGIへ向かうとのこと。村山明調教師も、「今日はオーナーに言われて、(開運アイテムの)刺身を買って食べました」と笑わせながらも、「もう1つランクアップできる」とさらなる可能性を示した。
敗れた各馬も休み明けを叩かれ、舞台を変えて反撃に出るに違いない。特にホッコータルマエの幸英明騎手が、「使いながら良くなっていく馬だから、今日これくらいのレースができるのなら……」と手応えを感じていたことは記憶しておきたい。
地方勢はさすがに出番がなかったが、岩手所属馬はナムラタイタンがジワジワと差を詰め6着。坂口裕一騎手は、「もう少し前の位置がとりたかった」。夏場が順調でなかっただけに、この状態で南部杯JpnIからステップできていればと惜しまれる。南部杯JpnIで見せ場があったコミュニティも8着ながら、山本政聡騎手は、「流れに乗れていた」と。JRA未勝利から約1年2カ月でこの舞台へ上がり、まだ進化を続けていると感じられるだけに、好走の部類といって差し支えないだろう。JBC3競走で岩手からは入着馬を出すことができなかったが、現時点でできるだけの健闘は見せたといえる。
12年ぶりに盛岡で行われたJBC競走は、その間、岩手競馬に様々な経緯があったことが周知されているが、様々な形で支えてくださったすべての方に対して感謝の気持ちを添えて、この観戦記を終えたい。

田邊裕信 騎手

帝王賞では(前へ)行きたくなくて馬とけんかしましたが、今日は馬場の内に水が浮いていたので逃げました。4コーナーで後続が来ましたが、自分のペースは上げていないです。この距離では引っかかるし、ムキになりますが、ゴールまでもってくれました。2000mで走っている馬を負かせましたね。

村山明 調教師

南部杯の予定が体調が上向かず、ここに切り替えて乗り込めました。入厩後は静かなところで環境が良かったです。前に行くのは勇気のいることだと思いますが、田邊騎手が馬を信じたのが良かったですね。次走はチャンピオンズカップが目標。潜在能力は高く、もう1つランクアップできると思います。
文:深田桂一 | 写真:いちかんぽ(佐藤到、国分智)、NAR

11月3日 盛岡競馬場 左1200m

第14回JBCスプリント JpnI

ドリームバレンチノ

強気の競馬で直線競り落とす 昨年2着の雪辱でJpnI初勝利

JBCデー2つ目のJpnIはJBCスプリント。地元専門紙のトラックマンが「重という馬場状態を考慮に入れても時計は速い」というコンディションならば、スピードに勝るJRA勢が上位人気を独占したのは当然といえるかもしれない。
そのオッズは、ノーザンリバーが1.9倍、ドリームバレンチノが2.7倍と、このレースと好相性の東京盃JpnII・1、2着馬に人気が集中。3番人気には今回が初めてのダート戦となるコパノリチャードが4.2倍で入ってきた。JBCスプリントJpnIでは、昨年のドリームバレンチノ(単勝10.0)がやはりダート初参戦で2着となったが、コパノリチャードはGI(高松宮記念)勝ちの実績からファンの期待もまた高いものになっていた。
しかしその3頭のレース内容は、対照的なものとなった。
ゲートが開くとタイセイレジェンド、コパノリチャード、サトノタイガー、さらに大外枠のエスワンプリンスが先陣を争って、ドリームバレンチノはその直後につける形。ノーザンリバーはスタートダッシュがつかず、それでもすぐさま先頭集団の直後に位置取りを上げたが、最内枠の同馬にとっては厳しい展開になったようだ。
とはいえ、先頭集団も激しくスピード争いをしている状況。ドリームバレンチノは馬群の外を回って追い上げ、スムーズに順位を上げていくその勢いは、前にいる馬たちを上回っていた。
しかし先頭集団はしぶとかった。早々に失速したコパノリチャードに代わって先頭に立ったタイセイレジェンドが必死に粘り込みを図り、サトノタイガーもじわじわと伸びる。直線の入口あたりではドリームバレンチノも先頭を窺う態勢になり、ゴール直前ではサトノタイガーとドリームバレンチノの一騎打ちに。その戦いはわずかに、ドリームバレンチノが上回る結果となった。
「最後はいい併せ馬になりましたね」と、ドリームバレンチノの岩田康誠騎手は振り返り、サトノタイガーの吉原寛人騎手は「追い比べで負けて悔しいです」と逃したチャンスの大きさに苦笑いも出てこない様子。吉原騎手にとっては今年のジャパンダートダービーに続くJpnIでの2着だけに、胸中を察するに余りある。それでも今年のJBCで地方所属馬唯一の入着、それも僅差の2着にエスコートしたのだから、胸を張っていいだろう。
3着にはタイセイレジェンドが残り、ノーザンリバーはセイクリムズンに続く5着。蛯名正義騎手は、「インで包まれる形になってしまったし、左回りもいまひとつ」と敗因を語った。しかし今年のダート交流重賞を3勝している6歳馬だけに、巻き返しが期待できることだろう。
今後が期待できるのは、ドリームバレンチノも同じ。加用正調教師は、「7歳といってもダートならそれほど年齢を考えなくてもいいですからね」と、厩舎の先輩で10歳を超えても一線級で活躍したリミットレスビッドの再来という夢を描く。そのあと「これからは使えるレースが限られますけれどね」と少しトーンが下がったが、報道陣から「来年のJBCは大井ですよ」と声をかけられると、「それはいいねえ」とレース直後の明るい表情に戻った。

岩田康誠 騎手

いいスタートが切れて、先行馬のすぐ後ろでレースができたのがよかったですね。馬場が締まっていたし、この馬のスピードを生かせられました。多少、外を回ることになりましたが、馬の調子がよかったので強気の競馬をしようと考えて乗りました。去年以上の走りでしたし、年齢を感じさせません。

加用正 調教師

このレースのために(黒船賞のあと)放牧に出して、東京盃を使ったのがよかったですね。ジョッキーには前のほうでと言っておいたんですが、それにしてもうまく乗ってくれました。昨年2着のくやしさに、馬もスタッフも応えてくれましたね。今度は追われる立場なので、引き続き頑張りたいと思います。
文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(国分智、佐藤到)、NAR

11月3日 盛岡競馬場 左1800m

第4回JBCレディスクラシック JpnI

サンビスタ

人気馬を目標にゴール前抜け出す
一戦ごとに力をつけ女王の座に

2002年以来、12年ぶりに盛岡競馬場で開催されたJBC。当日は朝から雨が降ったり止んだり。日中の気温は10度くらいまでしか上がらず、冷たい風が吹き荒れ、東北の冬の到来を感じさせた。しかしJBCレディスクラシックJpnIのパドックが始まる頃には晴れ間が見え始め、戦いを控えた牝馬たちを美しく照らし出していた。
今年のJBCレディスクラシックJpnIの中心は、牝馬ダート交流重賞で3勝をマークし、前哨戦のレディスプレリュードJpnIIを快勝したワイルドフラッパー。単勝は1.4倍と当然のごとく支持を集めていた。しかしライバルたちも多彩で、ワイルドフラッパーを負かしたことのあるサンビスタや、ダートでは底を見せていないトロワボヌール、連勝の勢いがあるブルーチッパーなど、直接対決が少ないことや展開面を考えても非常に興味深い対戦となった。
コーリンベリーがゲート内で座り込んで、全馬が一旦ゲートから出された影響で約5分遅れてのスタート。注目の先行争いはそのコーリンベリーが好スタートから最内を利して先手を主張した。ブルーチッパーが外から2番手につけ、コウギョウデジタル、アクティビューティと続き、2番人気のサンビスタは好位5番手で前を窺う態勢。その後ろにワイルドフラッパーが位置取り、3番人気のトロワボヌールは中団あたりでレースを進めた。
先に動いたのはワイルドフラッパーだった。向正面半ばを過ぎると一気に前に進出し、3コーナー手前では3番手まで上がっていた。そのまま人気に応える展開になるかと思ったのだが、そこで待ってましたとばかりにその後ろにピタリとつけたのがサンビスタ。直線に入り、先に抜け出そうとするワイルドフラッパーを残り100m手前で交わすと、その勢いのまま先頭でゴール板を駆け抜け、1分49秒3というコースレコードで優勝。
直線外から上がり最速の脚で伸びたトロワボヌールが2着に食い込み、最後は一杯になった様子のワイルドフラッパーは3着に敗れた。
鮮やかに女王の称号を手にしたサンビスタ。レース前、陣営はワイルドフラッパーとの一騎打ちを想定して臨んだという。「ワイルドフラッパーに勝つにはあの方法しかない、という位置取りだった」と満足げな表情の角居勝彦調教師。ライバルを常に意識しながらレースを運んだ岩田康誠騎手の好騎乗が勝利に導いた。
サンビスタは、初めて牝馬ダート交流重賞に出走した今年2月のエンプレス杯JpnII(3着)では、ワイルドフラッパーに2秒2もの差をつけられたのだが、8月のブリーダーズゴールドカップJpnIIIでは0秒7差をつけて逆転。しかし、前走のレディスプレリュードJpnIIでは完敗を喫していた。この大舞台で再度逆転劇を演じ、勝負強さを見せつけた。「一戦一戦、状態が上がり、良い体になっている」と調教師、騎手ともに口を揃えたように、この1年での成長ぶりには目を見張るものがある。「もっと強くなりますよ」という岩田騎手の言葉にはこれからの大きな期待が感じとれた。次走は、状態次第となるが船橋のクイーン賞JpnIIIを予定している。
今後の牝馬ダート戦線は、このままサンビスタ時代に突入するのか、ワイルドフラッパーが再び立ちはだかるのか。それとも、「この相手でもやれる力がある」(田中勝春騎手)というトロワボヌールのような第3の勢力が現れるのか。来年のJBCレディスクラシックJpnIに向けて、新たな牝馬たちの戦いが始まる。

岩田康誠 騎手

前走はゲートの出も良くなくて道中窮屈なレースをしてしまいましたが、今回は好スタートで前を見ながら理想的な展開。最後相手は伸びてくるだろうと思っていたのですが……。一戦ごとに硬さが抜けてきて本当に柔らかい馬になったと思います。どんなレースもできますし、瞬発力も持っている馬です。

角居勝彦 調教師

思いのほか相手が早く動いてくれましたし、直線抜け出した時は勝てると思いました。以前は精神的に強すぎるところがありましたが年齢的にも落ち着いてきたぶん、体のふくらみや体調が上がっていき、夏からの3戦も使うごとに状態が良くなりました。牝馬の交流レースが続くので参戦していきたいです。
文:秋田奈津子 | 写真:いちかんぽ(国分智、佐藤到)

第15回 2015年 大井競馬場

11月3日 大井競馬場 右2000m

第15回JBCクラシック JpnI

コパノリッキー

先手を主張しライバルを完封 2度目の骨折を克服し連覇達成

JBCレディスクラシックJpnI、JBCスプリントJpnIとも、単勝1倍台の人気を集めた馬が2着に敗れ、内枠からスタートした3番人気または4番人気馬が勝つという結果。二度あることは三度あるのか、それともその流れを単勝1.4倍のホッコータルマエが止めるのか。不良馬場というコンディションも含めて、ファンには悩ましい選択になっていたようだ。
その不良馬場を味方につけたのはコパノリッキー。15番枠からのスタートでも1コーナーでは主導権を握り、向正面ではマイペースの走りで息を入れ、最後の直線でもセーフティリードを保つという横綱相撲で完勝。昨年の盛岡に続き、JBCクラシックJpnI連覇を達成した。
しかしコパノリッキーは前走の日本テレビ盃JpnIIで、骨折休養明けとはいえ差のある3着に敗れていた。今回、パドックでの雰囲気はその前走とそれほど変わらないように見えたし、馬体重の増減もなし。村山明調教師も「まだ良くなる余地があると思っていたので、あまり自信はありませんでした」と振り返っていた。加えて大井競馬場ではこれまで2戦とも2着。4歳以降に挙げた5勝はいずれも左回りでのもの。昨年4歳時に制したフェブラリーステークスGIは骨折休養明けから3戦目だったが、今回は休み明け2戦目でこれだけのパフォーマンスを見せたのだから、そのポテンシャルの高さを改めて証明することになったといえる。
対してホッコータルマエは、前走の帝王賞JpnIなどと同じく、先頭から差のない位置でレースを進め、3コーナーでは2番手に進出。しかしそこからは差を詰められず、逆にゴール前では中団から伸びてきたサウンドトゥルーに交わされて、3着に敗れるという結果になった。
「去年よりは順調だと思っていたんですが。でも久しぶりが響きましたね」と、幸英明騎手。西浦勝一厩舎の調教スタッフも「みんなここに向けて仕上げてきているわけですし、そう甘くはないですよ」と、次のチャンピオンズカップGIに向けて気持ちを切り替えているようだった。
2着に入ったサウンドトゥルーは、日本テレビ盃に続いての好走。「初めての2000mでしたが、いいリズムで運ぶことができました」と大野拓弥騎手。JBCレディスクラシックJpnIに続き、騎手、厩舎ともにJBCを同一年に2勝するという快挙はあと一歩で逃したが、力を出し切ったという手応えはあっただろう。
地方勢は、大井のハッピースプリントがクリソライトにハナ差の5着で最先着。大井のユーロビートが6着、船橋のサミットストーンが7着と善戦まで。そして今年のJBCは、3レースすべて、4着までJRA勢が独占という結果になった。
地方馬最先着が5着だったというのは残念ではあるが、盛り上がりに一役買っていたことは間違いない。来年のJBCは川崎競馬場での開催。そこで地方競馬のスターホースが輝いてくれることを期待したい。

武豊 騎手

大一番ですし、どうしても勝ちたい気持ちが強かったのですが、馬の状態がよかったですし、向正面では気持ちよく走ってくれて、4コーナーでの手応えも抜群。早め早めの競馬をして押し切ろうかなと思っていたのですが、そのとおりにできました。骨折を乗り越えて、いい走りをしてくれたと思います。

村山明 調教師

レース前の印象は、前走よりは良くなっているかなという感じでしたが、僕が思っていたより走ってくれましたね。普段はあまりレースで声を出したりしないんですが、今日はさすがに出ました。ホッコータルマエに負けて悔しいことが多かったので、本当にうれしいです。次はチャンピオンズカップの予定です。
文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(国分智、岡田友貴)

11月3日 大井競馬場 右1200m

第15回JBCスプリント JpnI

コーリンベリー

好ダッシュを決め一気に逃げ切る 牝馬が初めてダート短距離の頂点に

Road to JBCの東京盃JpnII、マイルチャンピオンシップ南部杯JpnIの優勝馬が揃って出走した今年のJBCスプリントJpnI。本番と同じ舞台である東京盃JpnIIを快勝したダノンレジェンドは、予想通りの断然人気で単勝は1.6倍。一方、昨年はJBCクラシックJpnIに参戦したベストウォーリアが、今年はスプリントを選択(福永祐一騎手が落馬負傷のため、川田将雅騎手に変更)。デビュー戦以来の1200mではあるものの、対戦が少ないメンバーが相手だけにファンの注目度も高く、単勝3.1倍の2番人気に支持された。この2頭が人気の中心で、紅一点のコーリンベリーが単勝10.5倍で3番人気に続いた。
ゲートが開くと、好スタート、好ダッシュを決めたコーリンベリーが先手を主張。15番枠からポアゾンブラックが押しながら2番手を確保し、ダノンレジェンドは3番手の外につけた。やや出遅れたベストウォーリアは6、7番手で、昨年の覇者ドリームバレンチンノは中団うしろの外目を追走していた。
4コーナーから差を広げにかかって直線勝負に持ち込んだコーリンベリー。それを目がけて追い出した後続の中から、1頭抜け出して差を詰めてきたのはダノンレジェンドだった。しかし「直線は脚もたまっていたし、追ってからの反応もとても良かった」とコーリンベリーの松山弘平騎手。徐々に迫るその追撃を退け、1200mをまんまと逃げ切ってみせた。勝ちタイムは1分10秒9(不良)。
ダノンレジェンドは3/4馬身届かず2着に敗れ、その2馬身差の3着にベストウォーリアが続いた。5着までを中央勢が独占し、地方馬最先着は、昨年2着だったサトノタイガー(浦和)で6着だった。
今年で15回目となるJBCスプリントJpnI、JBCクラシックJpnIで、牝馬の優勝は初めてという歴史に残る勝利でジーワン初制覇を獲得したコーリンベリー。そして、管理する小野次郎調教師と松山弘平騎手もジーワン初勝利を飾り、人馬ともに記念すべきレースとなった。今回が転厩初戦ということもあり、「これまで自分が手掛けてきた馬ではないので、とにかく責任を果たせてホッとしています」と小野調教師は安堵の表情を浮かべた。
昨年はJBCレディスクラシックJpnIに出走したものの9着に終わったコーリンベリーだが、松山騎手は「去年と比べると馬体もひと回り大きくなり、何より精神面が強くなったことが大きい。男馬相手にすごい馬です」と、この1年コンビを組み続けてきたパートナーを称えた。小野調教師は「今の落ち着きであれば距離の融通性はある。1600mまでなら大丈夫だろう」とコメントしており、今後はフェブラリーステークスGIが目標になりそうだ。ダートスプリント界の頂点に立った快速牝馬コーリンベリー。今後もそのスピードで、並いる牡馬たちを翻弄することだろう。
2着のダノンレジェンドは、最大目標だったこのレースに向けて、ここまで順調に結果を残してきただけに悔しい結果となった。「スタートも良くてポジションもうまく取れたけど、前が止まらなかった」とミルコ・デムーロ騎手。村山明調教師は「状態も良かったし、レースの位置取りも良かったけど、相手にうまく逃げられてしまった」と言葉少なに語った。
3着だったベストウォーリアの川田騎手は「スタートで滑ってしまい、1200mのペースなのでなかなか前との差が縮まらなかった。後半は挽回したんですが…」とコメントを残した。
そしてレース後、残念な出来事があった。兵庫のタガノジンガロが入線後(14着)、急性心不全のため他界した。通算成績40戦12勝(うち重賞4勝)。2014年のかきつばた記念JpnIIIを制し、今年も黒船賞JpnIII・3着、サマーチャンピオンJpnIII・2着など、地方競馬を代表するスプリンターとして交流重賞を盛り上げてくれた。その功績を称えると供に冥福を祈りたい。

松山弘平 騎手

ずっと乗せていただいたこの馬でジーワンを勝てて感謝の気持ちでいっぱいです。今日はスタートも上手に出てくれて自分のペースで楽に逃げることができました。直線を向いて手前もしっかり変えてくれたのも良かったです。スピードがあって、直線でもう一段階脚が使えるというのがこの馬の強みですね。

小野次郎 調教師

転厩初戦ですがここまで順調に調教もこなせました。前走出遅れたこともあり、今日も出遅れるようであれば無理をせずに新しい面を引き出してくれればと松山騎手には指示しましたが、好スタートで自慢のスピードを生かせましたね。この形で直線に入れば最後までがんばれそうだと思いながら見ていました。
文:秋田奈津子 | 写真:いちかんぽ(岡田友貴、国分智)、NAR

11月3日 大井競馬場 右1800m

第5回JBCレディスクラシック JpnI

ホワイトフーガ

控える競馬で直線抜け出し5馬身差 成長著しい3歳馬がダートの女王に

前哨戦のレディスプレリュードJpnIIでは、他馬より重い別定重量を背負いながら圧勝ともいうべきレース内容で約半年ぶりの勝利を挙げたサンビスタ。予想紙にはズラリと◎が並び、ファンも連覇濃厚と見て断然人気となって、迎えた第5回のJBCレディスクラシックJpnI。しかし勝ったのは、4番人気の3歳馬、ホワイトフーガだった。
レディスプレリュードJpnIIと同様、迷わず逃げたのは大井のブルーチッパーで、カチューシャ、キャニオンバレーと続き、人気の2頭サンビスタとアムールブリエは4番手で併走。レディスプレリュードJpnIIではブルーチッパーの直後を掛かり気味に追走したホワイトフーガだったが、今回は有力2頭のうしろ6番手を追走した。
レース前、「ここ2走より控えてくれ」と鞍上に指示を出したという高木登調教師。ブルーチッパーの逃げたペースが1000m通過で59秒4。レディスプレリュードJpnIIより1秒8も速い流れになったことで、高木調教師が授けた作戦がズバリと当たることになる。
3コーナーからアムールブリエが仕掛け、これを追ったサンビスタが4コーナーで並びかけ、この人気2頭が直線を向いて先頭に立ちかけたところ、内を突いて抜け出したのがホワイトフーガだった。
2番手以下との差はみるみる広がり、ホワイトフーガは2着のサンビスタに5馬身差をつけての圧勝。ホワイトフーガと道中同じような位置を進んでいたトロワボヌールが2馬身半差で3着に入り、アムールブリエは4着。離れて地方最先着の5着には、南関東B級で好走までという伏兵のリュウグウノツカイが入った。ハイペースで飛ばしたブルーチッパーは、レディスプレリュードJpnII(6着)より着順を下げての8着だった。
ホワイトフーガの勝因はいくつか考えられる。まず3歳馬の定量53キロが、デビュー以来もっとも軽い斤量だったこと。前述のとおり、控える作戦が速い流れにピタリとハマったこと。3~4コーナーでラチ沿いをロスなく回ってきて、4コーナーで内を突いたという大野拓弥騎手の判断も見事だった。そして何より、「一戦一戦、古馬との力差が近づいているのがわかった」(大野騎手)という成長もあったのだろう。
一方、サンビスタの岩田康誠騎手は、「4コーナーで(アムールブリエに)並んでなんとかなると思ったけど、前回のような勝つ時の手ごたえとは違っていた」。アムールブリエの濱中俊騎手は、「(湿った)軽い馬場は合わないし、距離も2000m以上あったほうがいい。流れに乗れず力を出せなかった」とのこと。
前走からいくつものプラス要因があったホワイトフーガに対して、有力2頭は力が発揮できなかった、もしくは力を発揮できる状況にはなかった。それらのプラス・マイナスが、今回の大きな着差として結果に表れたといえそうだ。
いずれにしても、若い3歳馬からダートの新女王が誕生したことだけは間違いない。まだ5回と歴史は浅いが、このレースを3歳馬が制したのは初のこととなった。

大野拓弥 騎手

今日はいつもよりポジション下げようと思って、そのとおりの競馬ができましたし、コースロスなくいい競馬ができました。手ごたえがすごくよくて、突き抜ける感じはありました。牝馬ですがすごいパワーがありますし、持久力もあります。一戦一戦強くなっているので、どこまで強くなるのか楽しみです。

高木登 調教師

この中間も順調に来ていたので、あとは脚の使いどころだけということをレース前に大野と話しました。4コーナーで出られるかなと思って心配したんですが、脚色と手ごたえを見たら、来るなっていう感じはありました。古馬の壁はあるのかなと思っていたんですが、ジーワンで勝ててよかったです。
文:斎藤修 | 写真:いちかんぽ(国分智、岡田友貴)

第16回 2016年 川崎競馬場

11月3日 川崎競馬場 左2100m

第16回JBCクラシック JpnI

アウォーディー

連勝の勢いで実績馬を圧倒 ダート王に名乗りを上げる

第16回となる今年のJBCは28,718名の入場者を集め、1日の勝馬投票券の売得金額が地方競馬歴代1位となる48億7402万2850円を記録、JBCクラシックとレディスクラシックの売得金額も、昨年の大井を上回るレコード。要因は、好メンバーが集まったことといえるだろう。
その舞台はコーナー6回の2100m。GI/JpnIの優勝回数でトップを目指すコパノリッキーにとっては初めての距離だが、前走のマイルチャンピオンシップ南部杯JpnIで日本レコードに迫る圧勝をみせたそのスピードは、ここでも1番人気として信頼された。
ホッコータルマエはその記録で追われる立場ではあるが、単勝では3番人気。逆に1番人気に迫る注目を集めたのが、ダートに転じて5連勝中のアウォーディーだった。この3頭に加えてノンコノユメまでが単勝10倍未満。そのあとはサウンドトゥルーが14.6倍、クリソライトは47.5倍という分布になった。
それらの強敵たちに真っ向勝負を挑んだのが、船橋所属のサミットストーン。スタート後、先手を取ったホッコータルマエを交わし、単騎逃げの態勢に持ち込んだ。ホッコータルマエはそれを見て2番手に下げ、その後ろにイッシンドウタイ、コパノリッキーなどが追走。アウォーディーも先行グループに加わっていった。
1周目スタンド前での隊列には落ち着きがあったが、再び向正面に入ると勝利を狙う争いは一気に活気を帯びてきた。コパノリッキーはホッコータルマエをターゲットに動き出し、その背後からアウォーディーも仕掛けていく。3コーナー過ぎでは上位人気3頭が先頭争いをする構図になったが、外を回ったアウォーディーの勢いは、遠くから見ていても一枚上のものがあった。
結果、アウォーディーがゴール前200m付近で先頭に立って押し切り勝ち。その姿には、この日いちばんの歓声がわき起こった。
それを見届けた前田幸治オーナーは「次はチャンピオンズカップ。来年はラニと一緒にドバイに行きたいね」と満足げな表情で宣言。まさに夢が広がる勝利になった。
3/4馬身差で2着だったホッコータルマエの鞍上、幸英明騎手は「今日は展開的にちょっと厳しかったですね」とのこと。それでも「残り2戦(チャンピオンズカップGI、東京大賞典GI)、がんばります」と気を取り直していた。
しかしながらアウォーディーの勢いは、他の陣営も一目を置かざるを得ないことになったようだ。
3着に入ったサウンドトゥルーを管理する高木登調教師は「ウチの馬もすごく良くなっていたけれど……、強いね」と、悔しさよりもその走りに感心した様子。5着に敗れたコパノリッキー鞍上の田邊裕信騎手も「コーナー6回のコースで馬が少し力んだところはありましたが、今回は相手が上でした」と振り返った。チャンピオンズカップGIは適条件といえるコーナー4回の1800m。巻き返しを狙ってくるはずだ。
4着に食い込んだノンコノユメを管理する加藤征弘調教師は「去勢して走りの反応がよくなりましたね。次は中京。これからどんどん行きますよ」と、笑顔を見せていた。
12月に控えるトップホースたちの戦いには、おそらくモーニンなども加わってくることだろう。輪をかけてハイレベルになっていくダート界の頂点をめぐる争い。その行方が今から楽しみだ。

武豊 騎手

どういうペースになるのかわかりませんでしたし、先行勢には離されない位置で行こうと思っていましたが、1周目がスローペースだったので早めに動きました。最後の直線での手応えもよかったのですが、先頭に立ちたがらないタイプなので、抜け出すタイミングを間違えないように気をつけました。

松永幹夫 調教師

今日は日本のダート界でいちばん強い馬たちが集まっていましたから、そのなかでいいレースができました。早めに抜け出すと走るのをやめる面があるところだけは心配していましたが、走りはいつものアウォーディーらしくて、安心して見ていられましたね。ジョッキーがうまく乗ってくれました。
文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(国分智、岡田友貴)

11月3日 川崎競馬場 左1400m

第16回JBCスプリント JpnI

ダノンレジェンド

ハナを奪って逃げ切り完勝 1年越し悲願達成のJpnI制覇

舞台は川崎1400m。スピードのみならず、器用さと強さが求められる一戦。1周1200m馬場の多い地方競馬場ならでは、そして、それがむしろ誇りとも言える“地方競馬の根幹距離”に、12頭のスプリンターが集結した。
大井のソルテにとっては、願ってもない舞台設定だった。さきたま杯JpnII制覇に加えて、かしわ記念JpnIでも2着に奮闘。いまや地方競馬のエースに成長した。本質的にマイルがベストだが、馬場を1周する1400m戦なら、持ち前の器用さが存分に生かせるはず。まして、コーナーのきつい川崎コース。不慣れな馬は、コーナーで減速せざるを得ない状況にもなりうる。すなわちそれが、全馬初コースというJRA勢の最大の課題。地の利か、スピードか。川崎1400mであるがゆえのおもしろさが、このレースをさらに熱くさせた。
結果は、スピードの勝利だった。最内枠から五分にスタートを切ったダノンレジェンドが、ソルテとコーリンベリーを制してハナを切った。コーナーを無難にこなして最後の直線に向くと、正面から秋の陽光を受け、ゴールに向かってひた走る。トップスピードのまま大観衆の前を駆け抜け、3馬身差の完勝を演じた。
ゆっくりと、激戦の足跡をたどるようにウィニングランを行ったダノンレジェンドとミルコ・デムーロ騎手。実際のところは「ウィニングランは物見をしていて、乗っていて怖かったよ」(デムーロ騎手)とのことだったが、馬にとっては悲願のJpnI初制覇、そして鞍上にとっては地方で初めてとなるJpnI制覇の余韻を楽しんでいるかのように見えた。
その鞍上の笑顔とは対照的に、村山明調教師は「1年間、いっぱい悔しい思いをしてきた」と思いを吐き出した。世界を知るデムーロ騎手からは「ドバイに行こう、海外に行こう」と言われていたそうだ。しかし、まずは昨年のリベンジから。この1年間、出遅れや展開のアヤで勝利を逃したこともあったが、酷量に耐え、持ち前のスピードを振り絞ってきた。それが、このレースで結実。村山調教師は「来年はドバイ遠征も視野に入れたい」と口にした。
ベストウォーリアの堅実さにも脱帽する。結果的に1番人気には応えられず2着だったが、内を突いて伸びてきたあたりは器用に立ち回った証拠だろう。これで1400mは【3・3・0・1】。斤量との戦いにはなるものの、今後は小回り1400mでも実績馬らしい走りをしてくれるはずだ。
一方、2番人気に推されたソルテは、4コーナーで手ごたえがなくなり6着。ここを目標に調整され、涼しくなったことで体調も上向いていたが、道中の行きっぷりや手ごたえは本来のものではなかった。さきたま杯JpnIIでは2キロの斤量差こそあったものの、ベストウォーリアに完勝しており、力負けとは考えにくい。大舞台で結果を出すことは、それほど難しいということか。
その点、ダノンレジェンドは大舞台で最高の結果を出した。1年間の悔しさ、苦しさをバネに、リベンジを果たした。
さあ、行こう。地方で培った強さを武器に、世界の大舞台へ。

M.デムーロ 騎手

地方でジーワンを勝っていなかったから本当にうれしいです。やはり1200~1400mでは強いですね。ゲートでも落ち着いていたし、前走のように道中でプレッシャーを受けるようなこともなく、いい手ごたえで直線を迎えられました。でも、最後は太陽がまぶしかったですね。

村山明 調教師

この1年間は悔しい思いをしてきましたが、いつも通りの走りができれば一番強いと思って調整してきました。スタートで控えずに行き切ってくれたし、ミルコもうまく乗ってくれましたね。年内は休養。来年はオーナーとの相談次第で、ドバイも視野に入れたいと思っています。
文:大貫師男 | 写真:いちかんぽ(国分智、岡田友貴)

11月3日 川崎競馬場 左1600m

第6回JBCレディスクラシック JpnI

ホワイトフーガ

好位から直線先頭で突き放す 得意のコースを味方に連覇達成

今年で6回目を迎えたJBCレディスクラシックJpnI。レディスプレリュードJpnIIで2着同着だったトーコーヴィーナスを除く上位入線馬がエントリーしたが、そこで4着に入っていたララベルが右後肢臀筋炎のため、レース前日に競走除外。単勝5番人気までJRA所属馬が独占した。
JBCレディスクラシックJpnIのパドックに出走馬が姿を現した時点で、川崎競馬場の入場者数は2万人をオーバー。注目のなか、1番人気にはホワイトフーガが支持された。ホワイトフーガは前走後に“ノド鳴り”があるという高木登調教師の発言が報道されていたのだが、その心配をよそにパドックでは威風堂々とした歩き。昨年の覇者、そして川崎コースで2戦2勝というところも、支持を後押ししたのだろう。
2番人気はトロワボヌール。大井競馬場で行われた昨年は3着だったが、良績のほとんどが左回りというこの馬にとっては巡りあわせが悪かった。しかし川崎が舞台なら大きなチャンス。パドックでは隊列のいちばんうしろをマイペースで歩いていた。
アムールブリエもタマノブリュネットも気配は良好。そういったダート実績がある面々に、初ダートとなるレッツゴードンキが挑戦してきた。もともとはJRA桜花賞GIを逃げ切った快速馬。しかし場内から聞こえてくる会話からは、予想を悩ましくさせる存在になっていたようだった。
そのレッツゴードンキは大外枠。それでも鞍上の岩田康誠騎手は先手を取ったブルーチッパーの直後へと導き、ホワイトフーガが3番手を追走する展開になった。
先行した3頭が3コーナー手前に達したとき、向正面にある“川崎ドリームビジョン”に、ホワイトフーガ鞍上の蛯名正義騎手が持つ手綱が短く、そして張り詰めた状態になっている様子が大きく映しだされた。
その溜めた力が解放されたのが最後の直線。3コーナー過ぎで失速したブルーチッパーに代わってレッツゴードンキが先頭に立ったが、2頭の馬体が並んだ時間は短かった。ホワイトフーガが力強い伸び脚を披露して、昨年に続いての女王に輝いた。
レッツゴードンキは1馬身半差で2着。梅田智之調教師は「2着では正直喜べないですね」と、納得がいかぬという表情をしていた。それでもこの結果ならば、今後も芝・ダートを問わない活躍が期待できることだろう。
4着タマノブリュネット鞍上の田邊裕信騎手が「1600mは忙しかったですよ」とコメントを残した。9着だったアムールブリエとともに、今年のJBCが川崎で行われたことがマイナスになったようだった。
それらJRA勢を相手に3着に食い込んだのが、浦和のトーセンセラヴィ。父ディープインパクト、母がダートグレードで6勝を挙げたトーセンジョウオーという良血ではあるが、レース当日はまだA2クラスで、さらに今回が重賞初出走。しかしながら昨年12月に移籍初戦を迎えてからの上昇ぶりには目を瞠るだけのものがある。南関東リーディングを独走する小久保智厩舎が送り出すこの馬の今後に、大きな期待がふくらむ一戦でもあった。

蛯名正義 騎手

返し馬のときから状態のよさを感じていました。枠順がよかったので、ペースが速ければ引くし、遅ければ前に行こうと思っていましたが、速くはなかったので3番手。いいところに付けられました。道中はすこし行きたがっていましたが、以前ほどではなかったですし、手ごたえもよかったです。

高木登 調教師

勝ててホッとしました。この中間はノドの状態が気になっていましたが、それでもいい状態に仕上げられましたし、パドックでも落ち着いていました。レースではいいポジションが取れましたね。3コーナーあたりでジョッキーがうまく外に出してくれたところで、大丈夫だろうと思いました。
文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(岡田友貴、国分智)

第17回 2017年 大井競馬場

11月4日 大井競馬場 右2000m

第17回JBCクラシック JpnI

サウンドトゥルー

後方から持ち味を発揮し差し切る 3度目の正直でJBCタイトル奪取

すでに終了したJBCレディスクラシックJpnIとスプリントJpnIの1着馬と2着馬の差はともにアタマ。2戦続けてきわどい勝負が続くと場内の熱気がさらに高まるのは必然で、JBCクラシックJpnIのパドックはかなりの人口密度になった。
出走馬は13頭で、そのうちJRA所属馬が7頭。昨年、川崎競馬場で行われたこのレースを制したアウォーディーが2.4倍で1番人気に推され、昨年の東京大賞典GIを制したアポロケンタッキーが3.6倍で2番人気。その2頭に続いたのはケイティブレイブとサウンドトゥルーで、ここまでの4頭が単勝6倍未満。オールブラッシュはパドック周回中では13倍台だったが最終的には15.2倍。グレンツェントは14倍台から20.0倍まで下がり、徐々に上位4頭に人気が集約されていく形になった。
ゲートが開き、先手を主張したのはオールブラッシュ。大井のサブノクロヒョウが2番手につけ、ミツバ、アウォーディーは前の2頭を見る形。ケイティブレイブは7番手あたりを進み、アポロケンタッキーはその直後。サウンドトゥルーはさらにその後方からレースを進めた。
向正面に入ったところで、場内の大型ビジョンには先頭から順番に走行中の各馬がアップになった。それがアポロケンタッキーのところに来たとき、内田博幸騎手が腰を落としながら手を大きく動かしている姿が映った。その瞬間、スタンドのファンからはどよめきが。そして画面が先頭争いに戻ると、激しくなりつつある先頭争いに再び歓声が上がった。
最後の直線に入ると、逃げるオールブラッシュに代わって、ミツバとケイティブレイブが先頭に。アウォーディーはインコースから差を詰めてきたが、並びかけたところから伸びあぐねる走りになった。そこに勢いよく加わってきたのはサウンドトゥルー。ミツバとケイティブレイブの追い比べを横目に、1馬身差をつけてJBC初勝利を飾った。
サウンドトゥルーはそのままの流れで馬場をもう1周。ホームストレッチではファンからの大声援を浴びた。検量エリアに戻ってきたところでは大野拓弥騎手が「この馬にとってのマイペース」と笑顔を見せた。
2着のケイティブレイブは勝利を寸前で逃したが、福永祐一騎手は「以前からこういうレースをしたいと思っていました」とコメント。徐々に成長している手ごたえをつかんでいるようだった。
惜しかったのはJRA勢では最低人気ながら、2着とはクビ差3着だったミツバ。松山弘平騎手は「最後まで真面目に走ってくれて、ゴール前では差し返そうとしてくれました」と残念そうだったが、パドックで勢いよく歩く姿には状態のよさが現れていた。
4着のアウォーディーは「状態も走りもよかったのですが、大井は合わないのかな」と武豊騎手。「左回りのほうが力を発揮できると思いますので、次は巻き返したい」と12月3日のチャンピオンズカップGIでの捲土重来を期した。
しかし、そこを狙うのはサウンドトゥルーも同様。「寒い時期は調子が上がる」タイプだけに、チャンピオンズカップGIの連覇が次のターゲットだ。「まだ成長の余地がある感じがしますね」と高木登調教師。7歳でもまだまだ、ダート界の中心的存在として君臨し続けていくつもりだ。

大野拓弥 騎手

惜しい競馬が続いていたので、勝ちたいと思っていました。(休み明けを)1走して状態がすごく良くなっていましたし、自信を持ってマイペースで行くことを心掛けて乗りました。今回は最後の直線で手前をしっかりかえてくれましたね。今年の残り2戦でもいい競馬をしてくれると思います。

高木登 調教師

ジョッキーには「ウチのがいちばん強いと思って乗ってこい」と言いました。夏負けがきついタイプですが、今年は順調に調整できましたね。前走のときも調子がよくて、今回はさらに良くなっていましたから、これを維持できるか心配(笑)。でも年末までもう2つ、タイトルを取りに行きたいと思っています。
文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、国分智)

11月4日 大井競馬場 右1200m

第17回JBCスプリント JpnI

ニシケンモノノフ

4頭が同タイムの激戦を制す 地方デビュー馬が頂点奪取

大観衆が目にしたのは、JBC史上に残る名勝負だった。
前哨戦・東京盃JpnIIは、地方馬によるワンツーフィニッシュ。船橋のキタサンミカヅキが持ち前の末脚を繰り出し、先に抜け出した浦和のブルドッグボスをゴール前で差し切った。当然、この2頭への期待も大きかったが、東京盃JpnIIで休み明けながら3着に食い込んだニシケンモノノフ、大井1200mで抜群の成績を誇るコーリンベリー、そしてGI/JpnI単独最多勝の11勝目を狙い、あえてこのレースを選択してきたコパノリッキーと、JRA勢も強力な布陣。地方馬として、スプリンターとして、GI/JpnI・10勝馬として、それぞれの意地がぶつかり合う一戦となった。
ダッシュ良く飛び出したコーリンベリーを先頭に、向正面の長い直線を使った先行争いが演じられる。そのさなか、出遅れ気味のスタートだったコパノリッキーが外から一気に位置取りを上げ、3コーナーで先団に取りつく。最内枠のニシケンモノノフは先行争いに加わりながらも内で脚をため、ブルドッグボスとキタサンミカヅキは中団位置。それぞれの思惑が入り乱れ、最後の直線を迎えた。
コーリンベリーとネロがしぶとい粘り腰を発揮し、コパノリッキーもじわじわと差を詰める。直線も半ばを過ぎると、外では中団にいた地方勢2頭の末脚が爆発。ニシケンモノノフは抜け出す場所を内に求め、進路を切り替える。6頭による息が詰まるような最後の攻防。結果、4頭が同タイムでゴール線を切った。
そして、左手でガッツポーズを作ったのはニシケンモノノフ鞍上の横山典弘騎手。内に進路を切り替えたとたん、ニシケンモノノフは爆発的な加速を見せ、瞬時に前に出た。ホッカイドウ競馬でデビューして以来、コンスタントに走り続け、6歳の秋にようやくつかんだ頂点。検量室前に引き揚げてきた横山騎手は、馬から下りるやいなや満面の笑みで関係者と抱き合い、喜びを爆発させた。「本当にタフに走ってくれる」。横山騎手のその言葉には、万感の思いが込められている。
コパノリッキーはゴール寸前で一瞬、先頭に立ったものの、最後は勝ち馬の瞬発力に屈して2着。手中にしたかと思われたGI/JpnI・11勝目が、するりと抜け落ちてしまった。「少し出遅れて……。流れが速くて戸惑ったのかも。じっと構えていた方が良かったのかな……」。森泰斗騎手は1番人気に応えられなかった悔しさもあったか。話の合間に「すみません」という言葉を繰り返し入れて話した。ただ、初めて挑んだスプリント戦で、しかもJpnI。それでアタマ差の2着なら、胸を張れる結果だろう。
期待された地方勢は、ブルドッグボスの3着が最高だった。「もう少し前で運べたら良かったけどね。でも、差のないところまで来たし、よく頑張っている」と内田博幸騎手。今回は勝利の女神がほほえまなかったが、グレードウイナーらしい卓越した末脚は見せた。チャンスはまた巡ってくるに違いない。
一般的に“意地の張り合い”という言葉は、いい意味では使われない。しかし勝負の世界では、これほどのすばらしい名場面を演出し、そして興奮と余韻を与えてくれる。地方馬として、スプリンターとして、GI/JpnI・10勝馬として――。JBC史上に残る名勝負を演じた各馬に、惜しみない拍手を送りたい。

横山典弘 騎手

返し馬ではいつも以上に元気が良くて、具合が良さそうだと感じました。道中の手応えもずっと良かったですね。最後はどこへ出そうか迷ったけど、内に進路をとってからは反応も良く、伸び伸び走ってくれました。6歳馬ですが、本当にタフな馬ですし、来年も再来年も頑張ってくれると思います。

庄野靖志 調教師

このレースを目標にしてきたから、勝てて本当にうれしいです。前走を使ってから、グングン調子が上がってきていました。最後に前が詰まったときには『ノリさん、お願い!』と祈りましたね。次走は未定ですが、とにかく元気いっぱいですし、来年以降も頑張ってくれるでしょう。
文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、国分智)

11月3日 大井競馬場 右1800m

第7回JBCレディスクラシック JpnI

ララベル

逃げ馬をとらえ一騎打ちを制す 悲願のグレード初勝利がJBC

2011年に、ここ大井競馬場から始まったJBCレディスクラシックJpnIは今年で7回目を迎えた。
前哨戦のレディスプレリュードJpnIIを圧勝したクイーンマンボが、ケガのため直前で出走を回避。となれば、2連覇中の女王ホワイトフーガに人気が集まるのは当然のことで、単勝1.8倍の支持を受けた。2番人気は今年のスパーキングレディーカップJpnIIIを勝った3歳馬アンジュデジールで4.3倍。今年の牝馬ダートグレードで2勝を挙げているワンミリオンスが3番人気で7.9倍。武豊騎手を配したプリンシアコメータが4番人気で8.3倍と、JRA勢が上位人気。しかし、これら実力馬たちをねじ伏せたのは、この大井競馬場でデビューし、地方競馬のトップホースとして牝馬戦線を牽引してきたララベルだった。
ゲートが開き、先手を取ったのはプリンシアコメータで、2番手に大井のプリンセスバリュー、ララベルは3番手につけた。その後ろに、ワンミリオンス、キンショーユキヒメが続き、ホワイトフーガは6番手を追走。アンジュデジールは好位集団を見る位置取りでレースを進めていた。
3~4コーナーで各ジョッキーが一気に追い出し始め直線勝負へ。逃げるプリンシアコメータにララベルが並びかけ、そこから2頭の一騎打ちに。一度前に出たララベルに、再び盛り返すプリンシアコメータ。壮絶な追い比べはゴールまで続き、その争いをアタマ差で制したのはララベルだった。なお、直線でララベルが内側に斜行しプリンシアコメータの進路に影響を与えたことについて審議が行われたが、入線通り確定した。
プリンシアコメータの武豊騎手は「先手を取れたら行こうと思っていました。3コーナーをまわっても手応えが良かったですし、直線の不利は痛かったですね。でもこのメンバーでこれだけ走れましたから今後も楽しみです」と振り返った。
3着は、直線で鋭い末脚を見せた大井のラインハート。今回がJRAからの転入初戦ということで、この先に繋がる走りを見せてくれた。なお、3連覇を狙ったホワイトフーガは11着に敗れた。
JBCでの地方所属馬の勝利は、2007年にJBCスプリントJpnIを制したフジノウェーブ以来2頭目、JBCレディスクラシックJpnIの優勝は史上初という快挙に、大井競馬場は大興奮の渦となった。
「この馬で大きいところを獲りたい」と常々口にしていたララベル陣営。昨年は馬体故障のためJBC当日に無念の競走除外。今年は、マリーンカップJpnIII、スパーキングレディーカップJpnIIIでいずれも2着と、あと一歩のレースが続いていた。しかし、最大の目標としていた最高の舞台で、すべてのうっ憤を晴らしてみせた。
デビューからコンビを組んでいる真島大輔騎手は、全神経をララベルとのリズムに注いでいたようだ。「初めての感覚なんですが、向正面はあまり覚えてないんです。4コーナーくらいでそろそろ仕掛けないと、と思った記憶はあるんですが……。直線はとにかく必死でしたし、それくらい集中していたんだと思います」。そして、喜びを噛み締めるように語った。「能力試験の時から、この馬とはずっとパートナーだと思っていました。特別な馬です。いつもとにかく無事にと思っていて、さらに勝てればいいなと。オーナー、調教師、厩務員みんなの想いをわかっているので本当に良かったです」
いつも笑顔の荒山勝徳調教師だが、このときばかりは感極まり、涙と想いが溢れ出た。「胸がいっぱいです。万全な状態でレースに臨めたことがないのですが、それでもいつも一生懸命に走ってくれる馬。今日は冷静に見ていられず、とにかくがんばってくれとしか思いませんでした」
ララベルは来年春に繁殖入りすることが決まっている。第二の馬生を前に最高の勲章を手に入れることができた。この後、レースに出走するかどうかは未定だが、無事に次のステップへと進んでほしい。

真島大輔 騎手

自分の技術不足のため直線で迷惑をかけてしまって申し訳ないです。位置取りはスタートしてから決めようと思っていてあの位置になりました。この馬に騎乗する時はプレッシャーを感じたことがありません。緊張感を消してくれる安心感があるのだと思います。本当に素晴らしい馬です。頭が下がります。

荒山勝徳 調教師

去年の状態ほどではありませんが、前走後は疲れが出ることもなく型通り良化してくれました。真島騎手には「レースは任せるからララベルと一緒にでかいところ取ってこい」と。この馬には、スタッフや獣医さんなどみんなが尽力してくれました。ここまで無事に、そして勝つことができて本当に嬉しいです。
文:秋田奈津子 | 写真:いちかんぽ(国分智、早川範雄)

第18回 2018年 JRA京都競馬場

初めてJRAを舞台にしたJBC開催 地方馬はキタサンミカヅキが健闘

土日とも好天に恵まれた京都競馬場。京阪淀駅から直結するステーションゲート下の放牧馬房では、2007~09年にJBCクラシックを3連覇したヴァーミリアンの展示が行われていた。あとで詳しく触れるが、JRAのGIが行われる日と同じように多くのファンが来場したJBC当日、ヴァーミリアンの放牧馬房には人垣ができて長蛇の列。そんなファンの喧騒にも、16歳になったヴァーミリアンは我関せずという様子でおとなしかった。
近年のJBCでは地元グルメの販売が定番となっているが、4コーナー側のイベントスペースでは『おあがりやす京都2018』が開催。和牛、京野菜、日本酒、ビールなど、京都産のグルメが堪能でき、また販売されるテントがズラリと並んだ。なかでも牛肉グルメのテントは長蛇の列ができていた。遠方から遠征するファンには、競馬場以外の観光をする時間がないという人も少なからずいるはずで、JBC開催では定番となった、競馬場での地元グルメ販売はうれしい。
ステーションゲートから直結したビッグスワン2階テラスでは、JBC3競走の馬券購入者を対象に、JBCグッズ(いずれもJBCオリジナルのフリースジャケット、キャップ、キャップ、モバイルチャージャー、ネックウォーマーなど)が当たる抽選会が行われ、これにもかなりの行列ができていた。また抽選会場脇に設置されたモニターでは、過去のJBC競走のレース映像が流されていた。さすがに今年で18回という歴史を重ねると、立ち止まって過去のレースに見入っているファンも多かった。
初めてJRAでの開催となったJBCで、ひとつ注目となったのは、的場文男騎手の参戦だ。JBCではクラシックのシュテルングランツへの騎乗だが、的場騎手は第5レースの新馬戦にも騎乗馬を得た。父が大井の調教師だった矢作芳人調教師の管理馬。的場騎手がパドックで騎乗すると、まるでウェーブのように声援やカメラのシャッター音も円形のパドックを1周した。この日、的場騎手は62歳と1カ月28日で、JRAの最年長騎乗記録を更新。佐々木竹見さんの記録をまたひとつ塗り替えた。
その第5レース。的場騎手はスタートこそ互角だったが、ダッシュがつかず8頭立ての最後方から。それでも4コーナー手前で大外からまくって出ると、直線を向いて先頭をとらえようかという見せ場をつくった。ファンへのアピールだけでなく、3番人気馬で3着と役目は果たした。
時間は前後するが、大井出身の戸崎圭太騎手が第3レースを勝ってJRA年間100勝を達成した際の表彰セレモニーでは、「年間100勝達成!」のプラカードを的場騎手が持つという場面もあった。
最終12レースに組まれたJBCレディスクラシックの発走前には、TCK大井競馬のトゥインクルファンファーレ隊がウィナーズサークルに登場。JRA関西のGIファンファーレ演奏は新鮮だった。レース前のファンファーレでは、これが一番盛り上がった。
文:斎藤修 | 写真:いちかんぽ

11月4日 JRA京都競馬場 右1900m

第18回JBCクラシック JpnI

ケイティブレイブ

中団追走からゴール前抜け出す JpnI・3勝目でさらなる高みへ

18回目にして初のJRA開催となったJBC。JpnIレースが3つという豪華版で、好天に恵まれたこともあり、京都競馬場には3万8865人の観衆が詰めかけた。
フルゲート16頭のうち、地方からは3頭が出走。東京記念を制したシュテルングランツ(浦和)、白山大賞典JpnIII・3着のカツゲキキトキト(愛知)、姫山菊花賞を勝ったタガノゴールド(兵庫)が淀に参戦してきた。
人気はやはり、中央勢が中心。単勝1番人気には今年GIII/JpnIIIを2勝し、本格化したサンライズソアで3.2倍。もちろん、この背景には直前のJBCスプリントJpnIをグレイスフルリープで勝ち、4週連続GI/JpnI制覇を達成した絶好調のクリストフ・ルメール騎手という要素も人気を押し上げていた。これに3歳ながらシリウスステークスGIIIで古馬を一蹴したオメガパフュームが3.7倍、JpnIで2勝、2着3回のケイティブレイブが4.2倍、一昨年の東京大賞典GIの勝ち馬で、ミルコ・デムーロ騎手のアポロケンタッキーが7.7倍で続き、この4頭が単勝ひと桁台だった。
逃げたのはルメール騎手のサンライズソア。これに外からテーオーエナジーとテイエムジンソク、内からJRA史上最年長騎乗記録となる62歳1カ月28日の的場文男騎手(それまでの記録は佐々木竹見騎手の59歳3カ月16日)のシュテルングランツがつけた。ケイティブレイブは中団外で待機。オメガパフュームはさらにうしろという位置取りだった。
3コーナー過ぎ。ケイティブレイブが外から徐々に進出すると、オメガパフュームもうしろから脚を伸ばす。4コーナーで逃げるサンライズソアを射程圏に入れたケイティブレイブがラスト100mで先頭に立つと、オメガパフュームの猛追を3/4馬身振り切り、17年帝王賞、今年の川崎記念に続くJpnI・3勝目をマークした。
外々を回っての差し切り勝ちは横綱相撲だった。杉山晴紀調教師は「前走(日本テレビ盃1着)は休み明けでも強い勝ち方だったが、今回はさらに、上積みを感じていた。ここは勝たないといけないと思っていた」と自信を持って臨んでいたことを明かした。今年3月、定年解散の目野哲也厩舎から引き継いで以降、ダイオライト記念、日本テレビ盃とJpnIIは2勝したが、帝王賞JpnIではゴールドドリームにクビ差2着に惜敗。今回は杉山調教師にとって、念願のJpnI初制覇となった。
昨年3月から、13戦続けて騎乗している福永祐一騎手は脚質転換の成功を勝因にあげた。昨年の平安ステークスGIIIまでは逃げか先行して2番手からでないと結果が出なかったケイティブレイブだったが、続く帝王賞JpnIでは出遅れて後方追走から直線一気の末脚で差し切って、周囲を驚かせた。それ以降は、福永騎手がどんな展開になっても、対応できる競馬を教えた。距離不足で11着に敗れたフェブラリーステークスGIを別とすれば、9戦4勝、2着、3着が各2回、4着1回とすっかり安定した。「今日もポジションは決めずに、流れに任せて無理せず、リズムが守れる外めにつけました。今では何でもできる馬になりました」と胸を張った。
今後は、12月2日中京のチャンピオンズカップGI(ダート1800m)に向かう。「(帝王賞で負けた)ゴールドドリームと(3歳でマイルチャンピオンシップ南部杯を制した)ルヴァンスレーヴが相手になりますが、対戦できる勲章は今日、得ることができたと思います」と福永騎手。JBCクラシックJpnIからチャンピオンズカップGI、東京大賞典GIと続く、秋のダート王道路線が、ますます面白くなってきた。
地方から参戦の3頭はタガノゴールドが9着、カツゲキキトキトが12着、シュテルングランツが16着に終わった。「3~4コーナーは思ったより手応えは良かったし、よく頑張った。あともう1つ上の着順が欲しかったですね」とタガノゴールドの下原理騎手。カツゲキキトキトの大畑雅章騎手は「今回は相手が強いので控えました。強い相手と経験を積んで慣れてくれば」と悲願でもあるダートグレード競走制覇に向け、今後に期待をかけた。的場騎手は「3番手のいい位置が取れたが、最後は力の差かな」と振り返った。
文:松浦渉 | 写真:いちかんぽ(桂伸也、早川範雄)

11月4日 JRA京都競馬場 右1200m

第18回JBCスプリント JpnI

グレイスフルリープ

人気馬マークでゴール前とらえる 8歳にして掴んだビッグタイトル

今年で18回目を迎えたJBC競走が、地方競馬から中央競馬に舞台を移して行われた。ダートのスプリンターにとっては国内唯一のJpnIの舞台でもあるJBCスプリントから、その戦いの火ぶたが切られた。
単勝10倍以下は3頭で、1番人気はプロキオンステークスGIIIで日本レコードを叩き出したマテラスカイが2.0倍。2番人気が桜花賞GI優勝や高松宮記念GI・2着(2回)など、芝を中心に活躍してきたレッツゴードンキで6.4倍。3番人気がフェブラリーステークスGIや韓国のコリアスプリントなどを優勝しているモーニンで6.6倍。
しかしそれら人気馬に立ちはだかったのは、4番人気グレイスフルリープだった。昨年は韓国のコリアスプリントを優勝し、それ以降はダートグレードを戦い続けている。今年4月の東京スプリントJpnIIIでは武豊騎手で逃げ切り勝ちを収めたが、前走東京盃JpnIIから手綱をとるクリストフ・ルメール騎手にエスコートされ、ダートスプリント王へと上り詰めた。
レースは、マテラスカイが先頭に立つと、ウインムートや浦和のノブワイルドが続いていき、グレイスフルリープはその後ろの内をキープ。3~4コーナーに向けて馬群がばらけても、グレイスフルリープはマテラスカイの後ろをキープした。
直線に入り、マテラスカイが後続を離しにかかったが、グレイスフルリープは残り300mを過ぎて外に持ち出され、200mを切ってステッキが入れられると、一完歩ずつマテラスカイに詰め寄っていった。芸術的なレース運びで、最後は測ったかのようにクビ差交わしたところがゴール。勝ちタイムは1分10秒4(良)だった。
「馬の状態もよかったです。武さん(マテラスカイ)マークでいいポジションでレースをすることができて、最後も交わせると思いました。完璧な内容でした」と、自身のレースぶりをも褒めたルメール騎手は、JRAで行われたGI(JpnI)では史上初となる4週連続制覇と年間7勝を達成した。
グレイスフルリープを管理する橋口慎介調教師は、JRAの重賞初制覇がJpnIのタイトルとなった。「昨年のコリアスプリント優勝後から、馬体のハリや毛づやなどが目に見えて良化し、走る気持ちも前向きになり、馬が自信をつけたかのよう」と橋口調教師。今年8歳とはいえ年齢を感じさせない走りを続けている。まだまだ奥が深そうな馬だ。
一方、東京盃JpnII連覇の勲章を引っ下げて、地方競馬の期待を一身に背負った船橋のキタサンミカヅキは3着。道中は中団を追走し、直線ではこの馬の持ち味でもある末脚をしっかり繰り出した。
「(キタサンミカヅキの強みは)地方競馬レベルにはいないくらいのパワー」と森泰斗騎手がいうほどの馬。そんなパワータイプだけに、ダートが軽いと言われる京都競馬場で、地方に移籍してからの力強い走りが見られるのかは懸念されていた。
レース後、森騎手は神妙な面持ちで、「無念です。南関東のダートと質が違うので、軽いダートが堪えた感じで、いつもより進みが悪かったです。それでも4コーナーで前が開いた時には何とかなるかなと思ったし、最後はいい脚で伸びているのですが、時計が速くなるぶん、前の馬たちも頑張るので……。重いダートでやれればこのメンバーでもヒケは取りません。いい勝負になるんじゃないかと思っていたので残念です」と肩を落としていた。今年8歳のキタサンミカヅキにとって、充実期ともいえるような今だからこそ、残念な3着だった。
中央時代はオープン特別で1勝を挙げたものの、移籍前には二桁着順も多く、頭打ちの感じもあった。しかし8歳となって確実にパワーアップし、再び中央のJpnIの舞台での堂々とした走りは本当にすばらしい。胸を張って欲しい。
文:高橋華代子 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、桂伸也)

11月4日 JRA京都競馬場 右1800m

第8回JBCレディスクラシック JpnI

アンジュデジール

直線一騎打ちで人気馬を競り落とす 今年にかける意欲が生んだJpnI制覇

2018年JBC競走のラストを飾るJBCレディスクラシックJpnI。地方から出走したのは4頭で、そのうちジュエルクイーン、ブランシェクール、ラインハートが大井所属、ディアマルコが高知所属で、いずれもレディスプレリュードJpnIIに出走していた。そこで2着に入ったブランシェクールが単勝52.9倍で10番人気。ほかの3頭は300倍以上となった。
それでもパドックには熱心なファンがたくさん。ディアマルコに騎乗する佐原秀泰騎手の応援幕は、福山競馬場で使われていたもの。笹川翼騎手の応援幕も張られていた。
人気の中心はJRA馬。今年のブリーダーズゴールドカップJpnIIIを制したラビットランが1番人気に支持され、重賞実績があるクイーンマンボが2番人気。フォンターナリーリは初の重賞挑戦だった前走が4着でも、京都競馬場で3着内率100%という実績が評価されたようで3番人気。前年のこのレースでアタマ差2着に敗れたプリンシアコメータが4番人気で、ここまでが単勝10倍以下となった。
16時25分の発走時刻はまさに夕景。この日の京都競馬場ではこのレースだけ、普段は大井競馬場で演奏している東京ブラススタイルのメンバーがファンファーレを生演奏して盛り上げた。それとともに始まった各馬のゲート入りは、プリンシアコメータは時間がかかったものの、それ以外の15頭はスムーズ。そして横一線のスタートになった。
先手を主張したのはアイアンテーラーで、その後にカワキタエンカ、サルサディオーネと続き、プリンシアコメータは4番手。大外枠だったアンジュデジールは1コーナー手前でインコースに進路を見つけて5番手につけた。ラビットランはその直後につけ、ブランシェクール、クイーンマンボ、フォンターナリーリなどがそのうしろ。ジュエルクイーンとラインハートは後方に構え、ディアマルコは馬群から離れた最後方を進んだ。
そのペースは、2ハロン目が10秒9と速くなった以外、残り1ハロンまで12秒台で緩みが少ない流れ。先行した4頭は4コーナーで苦しくなってしまった。
代わって台頭してきたのがアンジュデジールとラビットランで、その2頭は最後の直線で一騎打ち。長く2頭の馬体は並んでいたが、最後はインコースのアンジュデジールがアタマ差で競り勝った。
アンジュデジールは前走のレディスプレリュードJpnIIで大きく出遅れたが、今回は「スタートから気分よく走ってくれました」と横山典弘騎手。「前に行く馬が何頭かいるのでペースは流れてくれるだろうと思っていましたし、1コーナーでちょうどいいところに入れました。最後は(ラビットランに)前に出られるところもありましたが、よく盛り返してくれました」と笑顔だった。
2着惜敗のラビットランは、ミルコ・デムーロ騎手が「最後は苦しくなってしまいました」とコメントを残した。3着には後方から差を詰めてきたファッショニスタが入り、クイーンマンボは4着。地方馬の最先着は、9着のジュエルクイーンで、ブランシェクールは11着。ラインハートは14着で、ディアマルコは15着だった。
JBC競走は実施される競馬場が年によって違うだけに、馬場が向く、向かないがあるのは仕方がないところ。「来年のJBCは浦和ですからね。軽い馬場が得意なタイプですし、(タイトルを)今年取ってしまいたかった。大外枠を引いたのでどんな競馬になるのかと思っていましたが、いい位置を取れましたね」と昆貢調教師。京都の舞台を最大限にいかしての勝利となった。
文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(桂伸也、早川範雄)

第19回 2019年 浦和競馬場

『この日、今まで見たことのない浦和になる。』

なんとも絶妙なキャッチコピーだと思った。初めて浦和競馬場で開催されるJBC。期待もあれば、不安も少なからずあったはず。だが不安は杞憂に終わり、期待を裏切らない結果になったのではないだろうか。
主催者の最大の課題は競馬場までのアクセスだったという。浦和競馬場駐車場の利用を禁止。住宅街のど真ん中にある競馬場だけに、周辺の道路を一時車両通行止めにするなど、渋滞緩和に努めた。そのうえで、南浦和駅から運行している無料送迎バスのルートを変更。浦和レッズの試合などでノウハウのあるバス会社に委託することで、スムーズなピストン輸送を実現した。約3分おきに2台が同時に発車するため、むしろ通常より快適だったという声もあったほどだ。無料送迎バスは通常は運行のない東浦和駅からも約10分おきに発車。ほかに臨時駐車場(埼玉県庁、大間木公園)からのシャトルバスも運行していたが、あくまでも南浦和駅、浦和駅からの徒歩を推奨。十分すぎるほどの対策が施された。
前夜に強い雨が降る時間帯もあったようだが、当日は朝から好天に恵まれた。午前9時を予定していた開門時刻は午前8時半に繰り上げ。その時点で正門の待機列には1,080人が並んでいたという。いわゆる開門ダッシュが予想されたため、50人ずつの入場にするなどの対応がとられた。入場料は無料。通常は入場料を投入すると開くゲートが開放され、それもスムーズな入場につながったようだ。指定席券はすべて前売りで発売。JBCに向けて新築された今年9月オープンの2号スタンド、4コーナーよりにある平成4年1月オープンの3号スタンドともに完売で、指定席券売り場は閉じられ、その前には仮設トイレが並んでいた。
競馬場内のイベントは最小限にとどめられた。馬場の中央を左右に藤右衛門川が流れる敷地。スタンドは河岸段丘の段丘崖に建てられ、出走馬は段丘面にあるパドックから坂道を下って馬場に入場する。もともとイベントを実施できるような場所が少ないうえに、パドック脇の芝生広場には仮設の臨時記者室と馬主下見所観覧席が設置され、通常よりもスペースが限られていた。イベントを最小限にしただけではなく、予想士の場立ち台を通常とは違う正門通路沿いのパドック向きに移動したり、畜産サンプリングキットの配布が行われたテントは配布終了とともに撤去するなどして、ファンが滞留しそうな場所を広めに確保。北門付近で行われたグルメイベント以外は浦和駅東口駅前市民広場でサテライトイベントを行い、場内は純粋に競馬を楽しみたいファンのための空間になっていたと思う。その甲斐だろうか、1Rから直線の攻防に大歓声。早くも見たことのない光景が広がっていた。
もっとも、初めて浦和競馬場に訪れる若いファンにとっては、場内に残るレトロな売店の数々が何よりのイベントだったかもしれない。その売店に並ぶ待機列をはじめ、この日のために考え抜かれたファンの動線や、場内のいたるところに配置された誘導員の的確さにも感嘆の声が上がっていた。ちなみに黄色いカレーでおなじみの里美食堂のカレーライスは「注ぎ足し注ぎ足しで出したので、何食出たのかよく分からないんです。普段が50食くらいなので、200食は出ていたと思いますが…」と里美さん。午後3時ごろには完売していたという。
文:牛山基康 | 写真:いちかんぽ

11月4日 浦和競馬場 左2000m

第19回JBCクラシック JpnI

チュウワウィザード

人気2頭の一騎打ちはハナ差で決着 帝王賞の雪辱果たしジーワン初制覇

コーナーを6回まわる中距離戦は、地方競馬の代名詞。器用さとパワー、そしてスピードという、さまざまな要素を備えていなければ勝ち切ることのできない舞台である。
帝王賞JpnIでは2着に敗れたチュウワウィザードだったが、名古屋グランプリJpnIIで小回りを経験。先団で立ち回れる器用さも評価され、単勝1.6倍の1番人気に支持された。これに対し、帝王賞JpnIを制したオメガパフュームは差し脚質ということもあり、小回りが不安視されて3.0倍の2番人気にとどまった。ただ、続く3番人気のロードゴラッソが7.4倍で、ほぼ一騎打ちの戦前予想。適性か、底力か――。初開催となった浦和JBCのクライマックスは、この一点に集約された。
大井のワークアンドラブと浦和のシュテルングランツの2頭が激しい先行争いを演じ、3番手にストライクイーグル(大井)。浦和のコースを熟知する地元勢、というより南関東のジョッキーが積極的な競馬を展開する。その後ろにチュウワウィザードがつけ、オメガパフュームは後方3番手を進んだ。
2周目の向正面でオメガパフュームが仕掛け、チュウワウィザードの直後まで位置取りを上げる。それを感じ取ったか、チュウワウィザードがスパートをかけ、3コーナーで先頭へ。他馬を振り切り、1馬身ほど抜け出した状態で直線に向いた。
そこへオメガパフュームが、ワークアンドラブとセンチュリオンの間を割って強襲。一歩ずつ差を詰め、並んだ体勢でゴールを駆け抜けた。
写真判定の結果、軍配はハナ差でチュウワウィザード。川田将雅騎手も「全然分からなくて、ゴールに入ったあともデムーロ騎手のほうが勝った雰囲気でいたので『負けたのかな』と思って帰ってきたんです」と話すほどの大接戦だった。
これでデビューから【8・3・2・0】とし、初のGI/JpnIタイトルを手にしたチュウワウィザード。コース、距離に関係なく安定して力を発揮できるのが強みで、「1戦ごとに強くなってきましたし、総合力の高い馬だなと感じています」と川田騎手。コーナー6回のチャンピオンディスタンスで、トータルバランスに優れたダート王者が誕生した。
オメガパフュームは際どい勝負に持ち込んだものの、及ばず2着。「初めてでこのコースをこなすのは難しいし、あまり手前を替えなかった」とミルコ・デムーロ騎手。これまで経験したコースは、全て1周距離が1500m以上。その脚質からも、小回りへの対応に苦戦した格好となった。それでもハナ差の2着。GI/JpnI・2勝の実力は、十分に示すことができたといえる。
さらに4馬身差の3着はセンチュリオン(浦和)。2周目の向正面で仕掛けた際に勝ち馬に抵抗され、終始外を回らされたのが響いた。森泰斗騎手は「もう少し内枠がほしかったかな。外を回されたが、食らいついて走っていた」と一定の評価。今回の結果からも“相手なり”の印象は拭いきれないが、JpnI・3着という結果は実力の証明。仕掛けのタイミングがはまったときには、ダートグレードの舞台でも勝ち切る可能性がある。
今回の上位2頭はともに4歳。帝王賞JpnI以来の実戦で、10キロ程度の馬体増だった。それでこのパフォーマンスなら、チャンピオンズカップGI、東京大賞典GIへ向けて好スタートを切ったといえる。トータルバランスのチュウワウィザードと、パワーのオメガパフューム。今後もさまざまな舞台で好勝負を演じてくれるに違いない。

川田将雅 騎手

結果を聞くまでは勝ったかどうか分からなかったですね。勝ててホッとしています。スムーズにスタートを切ることができましたし、行く馬を見ながら競馬を組み立てて、終始いいリズムで競馬ができました。課題をクリアするごとに強くなってきた印象ですし、全体的に総合力の高い馬だなと思います。

大久保龍志 調教師

小回りなので、ある程度は前の位置で、と思っていました。最後はモニターを見て「負けたか」と思ってモヤモヤしましたが、こんな格好いいシーンは、なかなかないですね。前走で体重が減っていたので夏休みをとりましたが、それが好走につながったのでしょう。次走はチャンピオンズカップの予定です。
文:大貫師男 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)

11月4日 浦和競馬場 左1400m

第19回JBCスプリント JpnI

ブルドッグボス

地方馬として3頭目のJBC勝利 菜七子騎手キッキングは2着

浦和競馬場の悲願でもあったJBC開催。そこに、南関東リーディング・浦和の小久保智調教師は管理馬を計8頭も送り出した。ダート競馬の祭典JBC競走に、ひと厩舎がこれほどの所属馬を出走させるのは記憶にない。レース前、小久保調教師にそんな話題を投げかけてみた。
「ここでちゃんと結果を出さないと、2回目、3回目のJBCが浦和に来ないと思うので、浦和でやってよかったと思われるように、ちゃんと結果を出さなくてはいけないと感じています。地元の利というのはあると思いますし、地方競馬全体が、自分の地元なら中央馬とやり合えるというのがあれば、JBCももっと盛り上がっていくでしょうし、そういう意味でもちゃんと結果を残せるように頑張りたいです」(小久保調教師)。
JBCスプリントJpnIには有力候補の一角を担っていた重賞3連勝中のノブワイルドをはじめ、ブルドッグボス、ドリームドルチェ、ジョーストリクトリと4頭を送り出した。
そんな中、御神本訓史騎手とコンビを組んだ6番人気ブルドッグボスが頂点を極めた。地方馬がJBC競走を制したのは、2017年JBCレディスクラシックJpnIのララベル以来2年ぶり。JBCスプリントJpnIを制したのは、07年に御神本騎手が手綱を取ったフジノウェーブ以来12年ぶり。そして、浦和所属馬がJBC競走を制したのは史上初。
予想通り、左海誠二騎手のノブワイルドが先手を主張していこうとするが、武豊騎手が手綱を取ったファンタジストや、藤田菜七子騎手のコパノキッキングも馬体を併せていき、1コーナーに入るまで激しい先行争いが続いた。ブルドッグボスは中団を追走。
「僕が乗せていただいたここ3走の中では一番軽い動きだったので、これならやれるという感触はありました。最初のゴール板が過ぎてからも、またペースが上がっていって、これはだいぶ速いなぁと感じました」(御神本騎手)。
ノブワイルドが僅差でリードをしていくも、3コーナー手前からコパノキッキングが並びかけていき、最後の直線に入るところでは先頭へ躍り出た。藤田騎手のGI/JpnI制覇が見えてきた瞬間……。
「4コーナーまでうまく誘導できて、追い出してからの反応もよかったですし、キッキングの伸びがあまりよくなかったので、これはつかまえられるなと思いました」(御神本騎手)。
ブルドッグボスが力強く伸びてきて、ゴール前でコパノキッキングをクビ差交わした。測ったかのような鮮やかな差し切り勝ち。勝ちタイムは1分24秒9(重)。3着には後方から伸びてきた大井のトロヴァオ。1番人気に推されていた高松宮記念GIの覇者ミスターメロディは6着に敗れた。
地方馬として3頭目のJBCウイナーになったブルドッグボス。中央時代もダートグレード競走で好走してきたが、南関東に移籍後、2年前のクラスターカップJpnIIIで念願の重賞初制覇を飾ると、その年のJBCスプリントJpnIでは優勝したニシケンモノノフにタイム差なしの3着に敗れて涙を呑んだことも記憶に新しい。
その後は脚元の不安で1年ほど長期休養に入っていた時期もあったのだが、そこから立て直しての復活劇は、ブルドッグボスの能力の高さはもちろんのこと、陣営の手腕も大きいだろう。
浦和競馬場で初めて行われたJBC開催に地元馬が勝利をするというドラマチックな結果。地元ファンにとっても、こういう瞬間が最高のファンサービスだと思う。
一方、大きな注目を集めていた藤田菜七子騎手が手綱を取ったコパノキッキングにとっては非常に悔しい結果に終わった。
「ナイターじゃない分なのか落ち着きがあって、馬の状態はすごくよかったです。ゲートでかなり待たされましたが、しっかり出てくれて手応えも抜群でした。向正面を過ぎたあたりから自分でハミを取ってくれたので、少し抑えつつ、あまり邪魔しすぎないようにというのは意識して乗りました。チャンスのある馬に引き続き乗せていただきましたが、勝てなかったのは悔しいです」(藤田騎手)。
国内女性騎手初のGI/JpnI制覇に大きな期待がかけられていたが、今後に持ち越された。

御神本訓史 騎手

浦和で開催されるJBCなので、浦和をはじめ地方馬にもチャンスはあると思っていました。お客様はナナコちゃんのジーワンを見届けたかったと思うのですが、勝ってしまってすいません(苦笑)。ナナコちゃんのジーワンはいずれ見られると思うので今日は素直にブルドッグボスと小久保厩舎を褒めてください。

小久保智 調教師

まだ実感がわきません。春先に復帰して道営で調整をしていただいて、ここが最終目標という感じでやってきました。体調は一番よかったんじゃないかなと感じています。具体的な予定は決まっていませんが、脚元のこともあるので、それを相談しながら次のステップにいきたいです。まだまだやれる仔です。
文:高橋華代子 | 写真:いちかんぽ(築田純、早川範雄)

11月4日 浦和競馬場 左1400m

第9回JBCレディスクラシック JpnI

ヤマニンアンプリメ

中団から上昇し差し切り勝ち 武騎手は地方全ジーワン制覇

令和初のJBC競走として実施されたJBCレディスクラシックJpnIは、武豊騎手のヤマニンアンプリメが差し切り勝ち。武騎手はこの勝利で地方競馬での全GI/JpnIの勝利騎手として名前を刻むことになった。
その道中には激しいものがあった。前日の夜に降った雨の影響で、前半戦の時計は全体的に速め。おそらく各騎手の頭にはそのことが入っていたのだろう。ゲートが開くと多くの騎手が前の位置を取りに行った。
そのスタートから200m足らず、1周目のゴール前でアクシデントが発生した。タイセイラナキラ、アップトゥユー、ゴールドクイーンが先手を奪おうとダッシュ。そこに1番枠からスタートしたモンペルデュがタイセイラナキラの内側から先行集団に加わろうとしたのだが、行き場がなくなるかたちになって戸崎圭太騎手が落馬(競走中止)。その部分の内ラチは大きくへこんでしまった。
11番枠からのスタートだったファッショニスタは、その影響を受けることなく4番手を追走。逆にレッツゴードンキは先行勢の後ろでインコースに進路を取ろうとしていたため、そのアクシデントを避けて急ブレーキ。最後方からの競馬になってしまった。
一方のゴールドクイーンはマイペースの逃げが続き、3コーナーでは2番手に浮上したファッショニスタとの差がおよそ3馬身。そこに、2コーナーあたりでは隊列の中ほどにいたヤマニンアンプリメが一気に近づいてきた。その勢いは遠くからでも感じられるほどで、みるみるうちに各馬を追い抜いて、残り400m地点で2番手に上昇。それでも4コーナー手前では先頭まで2馬身ほどあった。
しかしその差は一完歩ごとに縮まっていった。最後の直線に入ったところではおよそ1馬身差になり、残り100m付近で並び、ゴール地点ではゴールドクイーンに2馬身差をつけて勝利。
その内容に、ゴールドクイーンの手綱を取った古川吉洋騎手は「この馬のペースで走れましたが、わりとすぐに(ヤマニンアンプリメに)来られましたね」と苦笑い。それでも3着のファッショニスタには6馬身差をつけているのだから、今回は相手が悪かったということになるのだろう。
3着馬から1馬身半差の4着には、川崎のラーゴブルーが入った。「手応えはそれほど良くなかったのですが、絞れたぶん(前走よりマイナス10キロ)、動くことができたと思います」と、鞍上の吉原寛人騎手は話した。
しかしながら1着馬と2着馬のスピードは圧倒的で、浦和の同じ距離で行われているダートグレードでは、2000年のさきたま杯JpnIII(当時)以来となる1分24秒台。2着に入ったゴールドクイーンの走破タイムは、続くJBCスプリントJpnIの勝ち時計と同じだった。
その戦いを制した長谷川浩大調教師は「クラスターカップを勝ったあと、東京盃に行く選択肢もあったのですが、ここが目標だったのでオーバルスプリントにしたんです。そのときに浦和競馬場を経験したことが、ここで生きたのかもしれませんね」と話して、感無量という表情に。開業1年目でのJpnI制覇という快挙は、長谷川調教師が調教助手時代からたずさわっていた馬がもたらすことになった。

武豊 騎手

ゲートでうるさい面があると聞いていましたが、いいスタートが切れて、いい位置につけられました。向正面でゴーサインを出したときの反応も良くて、逃げた馬とは離れていましたが、つかまえられるんじゃないかと感じました。馬も2度目の浦和競馬場ということで、いい精神状態で臨めていたと思います。

長谷川浩大 調教師

前の日の雨で展開的にどうかと心配しましたが、いい流れになってくれました。オーバルスプリントは外枠で3着でしたが、今回は枠順の運もありましたね。前走後は満足のいく調教ができましたし、最後の直線ではこれまでで一番というくらいに叫びました。(師匠の)中村均先生にもいい報告ができます。
文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)

第20回 2020年 大井・門別競馬場

馬産地門別と初の2場開催 生産者の祭典として進化

20回目、2歳カテゴリーの追加、史上初の2場開催という、記念すべきJBCは、残念ながらコロナ禍というきわめて特殊な状況で行われた。2月下旬からどこの競馬場も無観客開催が続いていたが、大井競馬場では9月の開催から人数を限定する形で入場を再開。門別競馬場ではJBC当日を含む今シーズン最後の3日間(11月3~5日)のみ、やはり人数を限定しての入場となった。馬産地にある門別競馬場は普段から生産者同士の交流の場ともなっている。今年はコロナ禍の状況ゆえ入場が制限されたのは仕方ないが、来年以降、コロナ等を気にせず通常の開催ができるようになったときには、JBC開催に併せて多くの生産者が集まれるような、いわば社交の場として盛り上がれるようなことがあってもよいのではないか。初めての2場開催ということでは、発走時刻も工夫された。JBC以外のレースでも、大井・門別それぞれ第1レースから40分間隔で組まれ、互いに重ならない等間隔となっていた。JBC4競走ではきっちり40分の間隔が確保され、大井のスプリントとクラシックの間に、2歳優駿が挟み込まれた。これによって単なる相互発売やリレー開催ではなく、2場で連携した一体感があった。
2場開催となった今回のJBCで画期的だったのは、各レースの表彰式後に生産者のインタビューが実施されたこと。レディスクラシックではファッショニスタの生産牧場であるダーレー・ジャパン・ファームの方の都合がつかなったようでインタビューがなかったが、スプリントのサブノジュニアは藤沢牧場の藤沢亮輔氏が大井で、2歳優駿のラッキードリームは谷岡牧場の谷岡康成氏が門別で、それぞれインタビューが行われた。そしてクラシックのクリソベリルでは、ノーザンファーム・吉田俊介氏のインタビューが門別競馬場で行われた。場産地・門別競馬場との2場開催で連携がしっかりと機能した。かつてのJBCでは、競馬場によっては表彰式で生産者の表彰台すらないということがあり、勝ち馬の生産者ががっかりしていたということもあった。しかしようやくこうして生産者の顔が見えるようになったことは、生産者主導の祭典と呼ぶにふさわしい。

11月3日 大井競馬場 右2000m

第20回JBCクラシック JpnI

クリソベリル

昨年の1・2着馬を完封 王者が国内無敗を継続

ゴールの瞬間、場内から拍手が湧きおこったJBCスプリントJpnIからJBCクラシックJpnIまでの間は、門別競馬場でのJBC2歳優駿JpnIIIをはさんでいるため、大井競馬場は静かな時間がしばらく続いた。
2020年、JBCデーの4戦目。ここまでの3戦とも、単勝1番人気馬が2着以内に入れないという結果だったが、国内で無敗という成績を誇るクリソベリルの単勝オッズはほとんど動かないまま最終的に1.3倍。続く2番人気は昨年浦和のJBCクラシックJpnIでハナ差2着のオメガパフュームで4.1倍、3番人気は昨年の覇者であるチュウワウィザードで8.0倍。連勝系のオッズも含めて、この3頭に人気が集中していた。
しかしクリソベリルは帝王賞JpnI以来の休み明け。その点は心配材料といえたが、結果は2着のオメガパフュームに2馬身半の差をつける完勝。国内での無敗は継続された。
その走りには、2着馬の鞍上、ミルコ・デムーロ騎手も白旗。「自分としてもうまく乗れたと思います。でもクリソベリルはやっぱりすごい」とコメントしていた。3着に入ったチュウワウィザードのクリストフ・ルメール騎手も「勝った馬が強かったです」と、同様だった。
そのクリソベリルはパドックでリップチェーンを装着。それが多少きつめだったのか、口の左側は歯茎が見え、舌も出しながら歩いていた。そのあたりはキャリア8戦の4歳馬というところなのかもしれない。クリソベリルの直後で体を大きく見せて歩いていた3歳馬のダノンファラオのほうが、威風堂々としているようにも映った。
そのダノンファラオが先手を主張。チュウワウィザードが2番手につけ、クリソベリルは3番手。オメガパフュームはライバルたちが視界に入る4番手でレースを進めた。
軽快に逃げるダノンファラオが刻むペースは前半1000mが61秒4。後半1000mも61秒1という淀みのない流れに乗った各馬の戦いは有利も不利もなかったという印象で、その実力の差が結果に表れたという感がある。馬連複が210円で、馬連単が260円。そして3連単が520円だったのは、ファンもそう思っていることの証左だろう。
それでも全体的に見ると、逃げたダノンファラオが5着に粘る前残りの形。そのなかで差し脚を見せて4着に食い込んだ船橋のミューチャリーは「うまく差し脚がはまってくれました」と御神本訓史騎手が振り返ったにしても、今後に期待をもたせる内容だった。ミューチャリーは地方のダートグレードでは4回連続で4着以内。クリソベリル陣営が「次はチャンピオンズカップを目指して、そのあとは新型コロナ次第にはなりますが、サウジカップが目標」(馬主・キャロットファームの秋田博章代表)という青写真を描いているだけに、東京大賞典GIでの前進を期待したいところだ。
それはオメガパフューム、チュウワウィザード両陣営も同様に考えていることだろう。しかしそれとは関係ない場所にいるのがクリソベリル。「種牡馬としての価値を考えるなら、海外でも結果を出すことがこの馬の宿命でしょう」(秋田代表)という高みにまで上り詰めている。

川田将雅 騎手

結果を出すことができてホッとしています。返し馬で状態面は問題ないと思いましたし、前半は力みながらでしたが、それでも我慢してくれて、リズムよく走ってくれました。以前よりも全体的に体がしっかりしてきた感じがありますね。このまま次の目標に向かっていければと思います。

音無秀孝 調教師

負けなかったことがとてもうれしいですね。今までで今日がいちばん、安心して見ていることができました。ここまで順調で、追い切りもいい内容で、スタートも決めてくれましたからね。このあとはオーナーさんと相談して、チャンピオンズカップ、そしてサウジカップでのリベンジをしたいと考えています。
文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)

11月3日 大井競馬場 右1200m

第20回JBCスプリント JpnI

サブノジュニア

瞬発力を発揮し直線抜け出す 地元の生え抜きが殊勲の勝利

今年のJBCスプリントJpnIは実に見どころの多い一戦となった。連覇に挑むブルドッグボス、藤田菜七子騎手のGI/JpnI初制覇がかかるコパノキッキング、大井1200mのダートグレードを連勝しているジャスティン、高松宮記念との芝・ダート両GI/JpnI勝利を目指すモズスーパーフレアに加え、地方勢もダートグレードウイナーを筆頭に実力馬が参戦。激戦必至の好メンバーとなった。
それだけに、レース前には地方の陣営からも「10回やっても、全て結果が違うと思う」という声が聞かれたほど。馬場や展開次第で、多くの馬にチャンスがあると思われた。
そしてスタートから波乱が起きる。昨年の覇者で3番人気のブルドッグボス、そして前走のテレ玉杯オーバルスプリントJpnIIIを制したサクセスエナジーが出遅れを喫した。それを尻目に5、6頭が激しい先行争いを展開し、前半3ハロンは33秒4のハイペース。結果的に芝GI馬のモズスーパーフレアが先頭を奪い切ったが、時計が若干速いわりに差しも決まっていたこの開催の馬場。それを地元の矢野貴之騎手は読み切っていた。
中団を進んでいたサブノジュニアと矢野騎手は、3コーナー過ぎから徐々に進出。直線の入口で前が詰まるような場面もあったが、こじ開けるようにして進路を確保すると、残り200mで持ち前の瞬発力を発揮。先団からじわじわと伸びていたマテラスカイ、逃げたモズスーパーフレアを交わし、1馬身3/4差で勝利した。
3歳の頃から重賞級と目されていたサブノジュニアだったが、初めてタイトルを手にしたのは6歳となった今夏のアフター5スター賞。「充実しているし、見せ場は作れるなと思っていた。でも、気を抜くこともなく走ってくれて、時計も速かったからびっくり」と堀千亜樹調教師が話したように、目下の充実ぶりと本格化は明らか。加えて、このレースを目標に据え、1200mに照準を絞ったローテーションを組んできたことも的中した印象だ。
矢野騎手は8番人気での勝利に、「もちろん狙ってはいたけど、信じられない気持ち」と目元に笑みを浮かべた。一昨年の春から手綱をとり、「南関でもなかなかタイトルを獲れなかったけど、これだけの力があることを証明できた。思い入れのある馬だし、大井の馬で中央勢を負かすことができてうれしい」と、地元で大仕事を成し遂げた充実感を口にした。
2着には7番人気のマテラスカイ。JBCスプリントJpnIでは2018年に続く2着となったが、激しい先行争いに加わりながら脚を伸ばす好内容で、地力の高さを証明した。武豊騎手は「外からプレッシャーをかけられた。惜しかったね」と話したが、コースを問わず、持ち前の先行力を発揮できるのは強み。今後もこの路線では注目だ。
ブルドッグボスは出遅れこそあったものの、直線で猛然と追い込んで3着と、昨年の覇者として意地を見せた。御神本訓史騎手は「勝てたレースだった」と肩を落としたが、近況もつねに掲示板を確保しているように、8歳でも衰えとは無縁。今後もチャンスはあるはずだ。
地元生え抜きのヒーローによる完勝劇に沸いた今年のJBCスプリントJpnI。サブノジュニアのより一層の飛躍に期待が集まるが、もまれたのが響いて8着に敗れた1番人気のジャスティン、追走に手間取って6着の2番人気コパノキッキングも巻き返しの余地は十分にある。頂上決戦を終え、スプリント路線にさらなる楽しみが増えた。

矢野貴之 騎手

ここ2戦はスタートでもたついていたので、それを注意しながらいい位置に進められたら、と思っていました。少し窮屈だったので、開いてくれたら確実に伸びてくれるとは思いましたが、ここまで突き抜けるとは思っていませんでした。充実期を迎えており、精神力も強くなっています。

堀千亜樹 調教師

ずっとここを目標にやってきたので、本当に感無量です。いつもパドックではおっとりしているのですが、普段の調教は充実してきているので、十分見せ場は作れるなと思っていました。早く先頭に立つと気を抜くところがあるのですが、今回はそれもなく最後までしっかり走り切ってくれました。
文:大貫師男 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)

11月3日 大井競馬場 右1800m

第10回JBCレディスクラシック JpnI

ファッショニスタ

逃げ馬マークの2番手追走 競り合い制しJpnI初勝利

前哨戦のレディスプレリュードJpnIIを3馬身差で快勝。ダートに転じてから2戦2勝のマルシュロレーヌが注目を集めた今年のJBCレディスクラシックJpnI。その単勝オッズは最終的に1.3倍と集中した。前走時はマルシュロレーヌが2.3倍でマドラスチェックは4.5倍だったが、今回は8.6倍と大きく離れてしまった。
8.2倍の支持でその間に入ったのが、7月15日以来の実戦となるファッショニスタ。続いて11.4倍でレーヌブランシュ、17.3倍でプリンシアコメータとJRA馬が続いた。
パドックでは出走15頭がすべてメンコを着用。マルシュロレーヌも落ち着いた歩きを見せていた。前向きさが感じられる雰囲気があったのはファッショニスタ。マドラスチェックは騎乗合図がかかるとすぐに、本馬場へと向かっていった。
スタート地点は大井競馬場でもっとも新しいスタンドであるG-FRONTの前。例年ならたくさんの観客がゲート入りを見守ることになるのだが、今回は大井競馬場への入場が事前申し込みによる抽選制。当選して入場したのは777名にとどまった。
それでもゲートの横にはそれなりに多くのファンが集まった。ゲート入りに時間を要したのはサルサディオーネだったが、スタートしてまっさきに飛び出したのもサルサディオーネだった。
その直後にファッショニスタがつけて、14番ゲートから発走したローザノワールが追走。マドラスチェックは2番枠からそのまま進んで4番手だったが、最初のコーナーで最短距離を通ったことで3番手に上がった。
向正面でも馬順はそれほど変わらなかったが、3コーナーが近づくにつれて、先行した馬たちがひとかたまりになってきた。逃げるサルサディオーネを斜め前に見る形でファッショニスタが進み、マドラスチェックは経済コースを通って3番手をキープ。そして道中は中団にいたマルシュロレーヌが上昇してきた。
その雰囲気ならばマルシュロレーヌが届くように思えたが、直線に入ってからの加速はいまひとつ。直線に入ったところで先頭に立ったのはファッショニスタとマドラスチェックで、残り300mあたりからゴールまでの間には、どちらも先頭に立つ瞬間があった。最後にその勝負を制したのはファッショニスタ。アタマ差での先着だった。
マルシュロレーヌはその争いに加われず、2着マドラスチェックから3馬身差の3着。「あとは前を捕まえるだけだったのですが……」と、川田将雅騎手。このあたりは前哨戦と本番を連勝する難しさが出たのかもしれない。
地方馬での最先着は4着に入った浦和のダノンレジーナ。「手応えも位置取りもよかったのですが、この距離は多少長いかな」と、本橋孝太騎手。それでもA2格付の馬がここまで戦えるのなら、今後の活躍が楽しみになる。
勝ったファッショニスタの北村友一騎手が表彰台に立っている間、安田翔伍調教師がその様子をにこやかに見ていた。「ファッショニスタには(父の安田隆行厩舎で)調教で乗ったことがあります。今回は装鞍を手伝ったくらいですが(笑)」とのことで、調教師代理で臨場した兄の安田景一朗調教助手とアイコンタクト。この結果は安田ファミリーの力で勝ち取ったといえるのかもしれない。

北村友一 騎手

調教のときから状態がよさそうと感じていましたし、レースでは馬の気分を害さないようにしようと考えていました。ブリンカーの効果もあって、集中して走ってくれましたね。3コーナーあたりの手応えはいまひとつでしたが、内からマドラスチェックが上がってきたことで、再び頑張りを見せてくれました。

安田景一朗 調教助手

パドックでも返し馬でも落ち着いていましたし、自分のペースで、いいリズムで進めていけたと思います。ただ、勝負どころでの手応えがあまりよくないように見えたので、大丈夫かと心配しましたね。でも競り合いになると強い面を見せてくれる、その長所を発揮してくれたのではないかと思います。
文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)

11月3日 門別競馬場 右1800m

第1回JBC2歳優駿 JpnIII

ラッキードリーム

厳しい流れを中団から抜け出す 地元馬が第1回の勝者に名を刻む

JBC開催が始まった2001年。日高で開催される競走馬市場は、1000頭を超える上場頭数を誇るサマーセールや、1年の締め括りとなるオータムセールの売却率は、ともに約31%と低迷。最も選りすぐられた1歳馬が上場されるセレクションセールの売却率でも、54.1%と厳しい状況だった。
地方競馬の売上も厳しい状況が続いていた中、生産者が主導となり、アメリカのブリーダーズカップを範とした形で創設されたのが、JBC開催だった。短中距離でのチャンピオンを決めるレースとして始まったが、当初から2歳カテゴリーを作ることは悲願だった。それは、馬が売れず、ホッカイドウ競馬に託すオーナーブリーダーが多い状況もあった。
生産、育成、競走のサイクルは、どの地区よりも密接であるホッカイドウ競馬で、早い時期にデビューできる若駒のビッグレースは、生産者にとって待望だった。北海道2歳優駿JpnIIIを引き継ぐ形で、門別競馬場でJBCと名の付くレースが創設されたことは、JBCの理念を考えれば、大変意義深い。
JBC開催を迎えるにあたり、最も古いAスタンドを増築し、3階建ての来賓及び馬主席ができた。また、ジンギスカンを楽しむスペースとポラリススタンドの間に、2階建てのとねっこラウンジも完成した。1週前にようやく、これらの竣工式が行われたほど、何とかJBC開催に間に合ったという慌ただしい状況だったが、JBCのロゴや横断幕を見ると、関係者やメディアたちも気持ちが高まってきた。JBCデーから、事前抽選による限定的な状況ながら、ファンも入場できるようになり、第1レースから賑わいを見せた門別競馬場は、まさにダート競馬の祭典だった。
今年のホッカイドウ競馬は、例年に比べると中距離の番組が少なく、2歳の中距離戦が始まったのが、6月4日のアタックチャレンジ(1700m)。その勝ち馬であるシビックドライヴが、その後の中距離路線で物差しとなる。早い時期に中距離にシフトして勝ち上がった馬たちが、他の追随を許さない状況が、今年の2歳中距離の図式だった。
対するJRA勢は、函館2歳ステークスGIIIで2着に健闘したルーチェドーロや、プラタナス賞を勝ったタイセイアゲイン、好時計で1800mを勝ち上がったレイニーデイとカズカポレイなど、例年以上の好メンバーが揃った。
先週にかなり雨が降り、前日の夜にも一時的に雨が降った門別競馬場。大一番を控える序盤のレースで、前残りの競馬が目立ち、騎手たちも先行することを意識して騎乗していた。どのレースもハイペースとなり、中距離戦は差し馬の台頭もあったが、JBC2歳優駿JpnIIIでも序盤から激しい先行争いが繰り広げられた。
カズカポレイが逃げ、ルーチェドーロが続くラップは、12秒1-11秒5-12秒3=35秒9と速く、向正面に進んだ後も12秒4-12秒7とラップが緩まず、5ハロン通過で61秒を刻んだ。後方にいた吉原寛人騎手と岩橋勇二騎手は、「前と離れていても、慌てなくても追いつくと思った」とレース後に話していたことが、厳しい流れだったことを物語っている。
3番手にいたブライトフラッグが早めに先頭へ立ち、中団で折り合いに専念したラッキードリームが直線で力強く抜け出す。外からトランセンデンスとサハラヴァンクールが追い込み、地元勢が首位争いを演じていた時、大声を出せない環境ながらも、場内から拍手や声援が飛び交った。ラッキードリームが接戦を制し、ゴール板を過ぎた1コーナーあたりで石川倭騎手はガッツポーズを見せた。JRA勢は、レイニーデイが3着に食い込み、何とか意地を見せた。
「(18年に)エーデルワイス賞を勝った時とは違う、何とも言えない嬉しさがありますね」と石川騎手。JBC2歳優駿JpnIIIは、開幕前から関係者が目指していたレースであり、記念すべき第1回の勝者となった……。簡単に言えばそうだが、話しているとそんな単純なものではない。JBCは馬産地の祭典として定着した瞬間だと感じた。道営記念とともに、大いなる目標へ確実に育つレースとなるだろう。

石川倭 騎手

乗り手に従順で、乗りやすい馬です。レース前からハイペースが想定できましたので、じっくり構えていこうと思っていました。外から何か来ていたのは感じていたので、最後まで気を緩めず、しっかり追いましたが、勝利を確信した瞬間は、本当に嬉しかったです。今後の成長も楽しみです。

林和弘 調教師

芝を走った疲れが多少残っていた前走より、間隔を空けて立て直した今回は、状態も上がっていました。中央馬もいるので、ペースが速くなると思っていましたから、巻き込まれないようにと指示を出しましたが、石川倭騎手がうまくエスコートしてくれました。この後は、全日本2歳優駿に向かいます。
文:古谷剛彦 | 写真:いちかんぽ(浅野一行、中地広大)

第21回 2021年 金沢・門別競馬場

11月3日 金沢競馬場 右2100m

第21回JBCクラシック JpnI

ミューチャリー

4コーナー先頭から後続を振り切る 21回目で地方馬初のクラシック制覇

ついにJBCクラシックJpnIを地方馬が制覇する時がやってきた。「あのフリオーソも叶わなかった」と実況された通り、創設から21年、幾多の名馬が挑んでは跳ね返されてきた高い壁を越えたのはミューチャリー(船橋)と、ここ金沢が誇るトップジョッキーの吉原寛人騎手。秋の日は短く、グッと冷え込んだ金沢競馬場だったが、一転して明るい雰囲気に変わった。
発走地点の2コーナーポケットから好スタートを決めたのは単勝5番人気と地方馬で最も人気を集めたカジノフォンテン(船橋)。前走の帝王賞JpnIはダノンファラオ(JRA)にピタリとマークされてのハイペースで直線で失速してしまったが、今回は内から同馬が来るとスッと控えて2番手の外に収まった。そうなれば自ずとペースは落ち着き、後方からレースを運ぶことの多いミューチャリーが3番手外につけた。
レースが動いたのは2周目向正面後半。ミューチャリーがペースアップしながら先頭へと迫り、出遅れて後方からとなったオメガパフューム(JRA)も大外からロングスパートをかけてきた。ミューチャリーが先頭で直線を迎えるとファンのボルテージは高まり、ゴール直前でオメガパフュームが迫ってくると手を叩いて応援する音と、大声を出してはいけないとの思いからか言葉にならぬ声も聞こえてきた。粘るか差すかの争いは、地方馬初のJBCクラシックJpnI制覇か3年連続同レース2着馬の悲願が詰まった戦い。それを半馬身差で制したのは、ミューチャリーだった。
ミューチャリーは2018年、デビューから3連勝で鎌倉記念を制し、3歳では羽田盃を鮮やかな末脚で勝利していた。古馬になってからは2年連続でフェブラリーステークスGIに挑戦するなど、強い相手と戦い力をつけてきた。「直線では机が割れるくらい叩きました」と矢野義幸調教師のレース中の様子からも、念願のタイトルだったことが窺える。
前走の白山大賞典JpnIIIに続いて手綱をとった吉原騎手は、19年のマイルチャンピオンシップ南部杯をサンライズノヴァで制してJpnI初制覇を決め、「次は地方馬でジーワンを勝つことが目標」と話したわずか2カ月後には全日本2歳優駿JpnIをヴァケーション(川崎)で制覇、そして今回、地元での偉業となった。
関係者はハイタッチして喜び合い、吉原騎手が「やったー!強かった、ありがとう」と戻ってくると、地元の騎手仲間からも祝福を受け、ファンは涙を浮かべた。
対照的に残念そうな表情で戻ってきたのは6着のカジノフォンテンと張田昂騎手。「リズムよく行けましたが、小回りで合わなかったかもしれません」と、JpnI・2勝馬の意地を見せられず肩を落とした。
2着オメガパフュームはペースが落ち着いた中で後方からロングスパートを決めてここまで迫ってきたのにはさすがのひと言。「前走ではゲート裏までメンコを着けていてボーッとしていたので、今日は早めにメンコを取って気持ちを入れたかったです」と、闘志が入りきらなかった帝王賞JpnIから対策を講じてきた。3着チュウワウィザードは骨折による休養明けながら戸崎圭太騎手は「いい状態でした」と振り返り、4着テーオーケインズや5着ケイティブレイブは小回りコースが一つのポイントとなったようだった。
JBCクラシックJpnI単体で24億123万300円を売り上げ、金沢競馬場の1競走当たりの最高売得額を更新し、1日合計売得金額も54億6426万500円で同競馬場のレコードとなったこの日、コロナの影響で入場者こそ事前当選した1300名に限定されたが、吉原騎手がミューチャリーの馬上で右手を大きく上げると、スタンドからは何度も大きな拍手が送られた。

吉原寛人 騎手

どこかで大仕事をしてくれる馬だと思っていました。返し馬で前走よりもいい状態と感じて、カジノフォンテンの近くでレースを運びたいと思っていました。4コーナーでは「他の馬に絶対に交わさせないぞ」というハミの取り方でした。地元・金沢で決められて嬉しいです。馬にもファンにも感謝しています。

矢野義幸 調教師

嬉しく、ホッとしています。前哨戦の白山大賞典を使えたことで、きちんと仕上げられました。道中は前に馬がいなくて心配しましたが、ジョッキーに任せて見ていました。体はそんなに大きくないですが、いいキレ味を持った馬で、それをうまく引き出してくれました。この後は東京大賞典の予定です。
文:大恵陽子 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)

11月3日 金沢競馬場 右1400m

第21回JBCスプリント JpnI

レッドルゼル

コース取り冴えた川田騎手 直線内から突き抜けて完勝

好メンバーが揃ったJBCスプリントJpnI。東京盃JpnII上位組が人気の中心で、1番人気は海外でも好走歴のあるレッドルゼルで2.0倍。2番人気は1400メートルの重賞で5勝をあげているサクセスエナジーで4.8倍。3番人気は今年の東京スプリントJpnIIIとクラスターカップJpnIIIの勝ち馬リュウノユキナで5.5倍。地方勢もディフェンディングチャンピオンのサブノジュニアをはじめ、実力馬モジアナフレイバーや3歳のアランバローズなど実績馬たちが集結した。
今年の大きなポイントは、小回り2ターンの金沢1400メートルという舞台だ。さらには、今の金沢は内が深い独特の馬場のため進路取りも重要になってくる。実際、JBCレディスクラシックJpnIのレース後、多くの騎手がコース適性についてコメントしていた。
そんな中、この個性的なコースを全く問題にしなかったレッドルゼルが鮮やかに勝利を飾った。JBCレディスクラシックJpnIから連続で表彰台に立った川田将雅騎手は「状態が良ければこのメンバーで負けることはないと思っていました」と語った。
予想通り、モズスーパーフレアが先手を取り、2番手にベストマッチョ、サクセスエナジーやリュウノユキナが続き、レッドルゼルも大外枠から好位につけた。モジアナフレイバーは中団、サブノジュニアは後方でレースを進めた。3~4コーナーでレッドルゼルの川田騎手は内を選択して前へと進出。「この深い砂でも十分こなせるパワーを持っているので外を回すよりは内に行く方がベターだと思いました」と、直線でもモズスーパーフレアの内から伸び、最後は突き放して勝利を手にした。
3馬身差がついての2着争いは接戦となったが、こちらも直線でインを突いたサンライズノヴァが2着、半馬身差の3着にモズスーパーフレアが残った。
圧倒的な強さで、ダートスプリントの頂点に立ったレッドルゼル。馬を信じて進路を導いた川田騎手の好騎乗も光った。もともとデビュー時から安定した走りを続けてきたが、5歳の今年、根岸ステークスGIIIで重賞初制覇を飾ると、フェブラリーステークスGIでも4着に健闘し、ドバイゴールデンシャヒーンGIで2着と初の海外遠征でも好走した。前走の東京盃JpnIIは海外遠征帰りの休み明けということで3着に敗れたが、叩き2戦目の大一番で最高の結果を出し、まさに本格化。どんな状況にも対応できるポテンシャルの高さには驚くと同時に、レッドルゼルの時代が到来したことを予感させるような今回の走りだった。安田隆行調教師によると、今後はフェブラリーステークスGIを視野にいれながら再びドバイに挑戦したいとのことだ。
2着サンライズノヴァは5番人気。吉原寛人騎手とは2019年のマイルチャンピオンシップ南部杯JpnIを優勝して以来のコンビとなった。「もちろん基本は外が伸びますが、このレベルのメンバーだと外を回る距離のロスの方が痛いと判断しました」と金沢コースを知り尽くした名手の騎乗はさすがだった。
3着のモズスーパーフレアは1年ぶりのダート挑戦。松若風馬騎手は「コーナー4つが課題だったが上手に息が入れられました。でもやはり1200メートルがベスト。その分最後に差されてしまいました」と振り返った。
地方馬最先着は4着のモジアナフレイバー。「ゲートも落ち着いて出られて良かったです。小回りも上手く対応してくれました。レース直後、福永(敏)調教師と“大きいところを獲りたいたい”と話しました」と今回が3度目のコンビとなった真島大輔騎手。これまで何度もダートグレードで見せ場を作ってきた馬だけに、どこかで大きなタイトルを獲ってほしいと願うファンも多いだろう。
今年はコースの攻略が大きなポイントとなったが、来年のJBCスプリントJpnIはコース形態が全く異なる盛岡の1200メートル戦。1年後のこの舞台に向けて、全国のスプリンターたちの新たな戦いが始まる。

川田将雅 騎手

前走を使ったことでとても良い状態で競馬場に来れました。返し馬でも具合の良さを感じたので自信を持って競馬をしようと思いました。1400メートルでコーナー4つのコースなのでどうなるかと思いましたが全く問題なかったです。海外でも活躍している馬ですし、能力を示すことができてよかったです。

安田隆行 調教師

馬の状態がすごく良かったので期待していました。4つのカーブがあるので心配していましたが全く問題なくて嬉しかったです。前走は夏負けが尾を引いていましたが今回は状態もすごく上がっていました。
文:秋田奈津子 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)

11月3日 金沢競馬場 右1500m

第11回JBCレディスクラシック JpnI

テオレーマ

初距離でも鋭い末脚を披露 1番人気に応えJpnI初制覇

百萬石ウィンドオーケストラによるファンファーレの生演奏で幕を開けた金沢競馬場でのJBC競走。そのひとつめとなるJBCレディスクラシックJpnIは、金沢に不慣れな人馬が多かったためか、やや乱れたレースになった。
スタート直後に2番ゲートからスタートしたサルサディオーネが蛇行。その影響でリネンファッションの進路が狭くなってしまった。さらに1コーナーでは先行集団を形成した4頭がぶつかり合うような形になり、外側にいたクリスティが大きく外にはじかれてしまった。
そこでは大きな声を上げる騎手もいたという危険な状況だったが、2コーナーではサルサディオーネが単独で先頭に立ち、後続の各馬の位置取りも落ち着いた。ただ、出走12頭のうち10頭が前走よりも距離短縮で、小回りコースの経験が少ない馬もいるメンバー構成。レース後に「この馬に1500メートルは短いかなと思いました」と武豊騎手が話したリネンファッションが3コーナー手前でサルサディオーネに並びかけていったのは正解だったといえるだろう。
その外をマドラスチェックが追走して、3コーナー手前での先行グループは3頭。しかし左回りに良績が集中しているサルサディオーネは早々に失速し、リネンファッションが代わって先頭に立った。
その形は3番手を進んだマドラスチェックにとって、いい目標。最後の直線に入ったところで先頭に立ち、そのまま押し切る構えを見せた。
しかし勝ったのは、そのさらに外から伸びてきたテオレーマ。中団後ろから徐々に位置取りを上げて勝ち切ったその内容は、2年連続で白山大賞典JpnIIIを制している鞍上の川田将雅騎手の経験値の差がもたらしたものかもしれない。
一方、マドラスチェックは2年連続でのJBCレディスクラシックJpnI・2着で、齋藤新騎手は惜しいところでダートグレードでの初勝利を逃す結果。それでも重賞戦線での安定した成績を今回も披露する結果にはなった。
早めに動いたリネンファッションは3着。武騎手は「最後の直線は余力がありませんでした」と話したが、1コーナーまでに2度の不利を受けてのものだけに、ダートグレードで2戦連続2着だった実力は示した。
単勝2番人気に推されたレーヌブランシュは4着で、好位追走から流れ込んだという内容。パドックでは首が高い歩きで物見が激しく、こちらも金沢コースが悪いほうに影響したように映った。松山弘平騎手も「小回りでこの距離はすこし忙しい印象」とコメントしていた。
そのなかで5着に健闘したのが浦和のラインカリーナ。陣営からの指名を受けて岩手からやってきた山本聡哉騎手は「馬のリズムを重視して乗りました。いろいろな経験をしている馬なので初コースも心配していませんでしたが、差のない競馬ができたので大健闘だと思います」と笑顔。管理する小澤宏次調教師もうれしそうな表情で検量室前に戻ってきたラインカリーナを迎えていた。

川田将雅 騎手

返し馬から状態の良さを感じることができたので、自信を持って乗りました。いい時の雰囲気で走ってくれていたので、これなら大丈夫だと思いましたし、最後の直線でもこの馬らしい動きをしてくれました。自分の能力を安定して出せるタイプだと思いますし、これからも期待していただけたらと思います。

石坂公一 調教師

前走後に馬の状態がさらに上がっていましたので、それよりもさらに上げていこうと考えて、緩めずに負荷をかけてきました。レースは川田騎手に任せましたが、ゴール前では大きな声が出てしまいましたね(笑)。目いっぱいの仕上げで臨みましたので、今後はしばらく休ませることになると思います。
文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)

11月3日 門別競馬場 右1800m

第2回JBC2歳優駿 JpnIII

アイスジャイアント

後半スタミナ比べを制す 北海道勢も3頭が掲示板

10月以降の門別開催は、雨に見舞われる日が続いた。朝晩の気温が低い時期に入っているので、レース当日に晴れる時はあったものの、水分を含んだ馬場が乾き切ることはない。9月29日を最後に、良馬場で行われた開催はなかった。2日から3日朝まで降り続いた雨の影響で、午前10時に開門した時の馬場状態は、不良発表だったが、雨が止んで気温が上昇し、第1レースを前に重馬場に回復した。
全国最初の2歳重賞として定着している栄冠賞、そしてJBC2歳優駿JpnIIIに向けた中距離3重賞を振り返ると、良馬場で行われたのは、ブリーダーズゴールドジュニアカップのみ。サッポロクラシックカップは、前年の勝ち時計を2秒7上回るレコード決着。サンライズカップは、前年より2秒5も速かった。時計を大幅に詰めたことで、レベルが高い世代と片付けるのは容易だが、逆に道悪の競馬が続き、高速決着ばかりだと、時計の判断を見誤ることもある。その意味で、稍重で行われた栄冠賞が、1200メートルとはいえ最も注目すべきレースだった。
栄冠賞のレースラップは、前半3ハロン34秒4-後半ハロン38秒3。2歳6月だと考えれば、相当厳しいレースが繰り広げられていた。笹川翼騎手がコパノミッキーで参戦したが、「この時期で速い流れを経験できるのは、北海道以外の僕らにとって未経験。北海道の馬たちが強い理由が何となくわかりました」と話していた。坂路効果がクローズアップされるが、それとともに2歳のデビュー頭数が確保されている競馬なので、中央競馬のような勝ち上がり制が採られ、ピラミッドの図式がしっかりしている。栄冠賞で敗れた馬の中で、シャルフジンとリコーヴィクターが、後の中距離重賞を制したことから、栄冠賞が単なる短距離重賞ではないと、断言できる。栄冠賞を制したモーニングショーを含め、サンライズカップで重賞ウィナーたちを退けて重賞初制覇を飾ったナッジは、下級条件でも中距離戦が増えた8月に台頭。血統を考えても、距離が延びて結果が伴ってきたのは頷ける。
路線がしっかりしている北海道と比較すると、中央競馬の2歳戦は、ダートの番組が極端に少ない。今年の出走馬がすべて1勝馬。1勝クラスを経験した馬は1頭しかいない。しかも、長距離輸送を伴う点から、地の利を生かせる北海道勢が優位と考えてしまう。しかし、今年の中央勢は、各馬のレースを観ていた時に『今年は互角かそれ以上』と、個人的に感じた。アイスジャイアントとオディロンは、向正面から動きがあり、外から被される経験をしている。特に、アイスジャイアントは、3頭併せの真ん中で鎬を削った。オディロンも直線の攻防に渋太さを感じさせた。コマノカモンは、プラタナス賞で控える競馬を試みた内容が良く、この3頭は不気味に感じていた。
エンリルが先手を主張したが、外からシャルフジンが掛かり気味に追いかけたので、前半3ハロンが12秒0-10秒9-11秒9=34秒8と、短距離並みのハイペースになった。向正面に入って多少ペースが落ち着き、縦長の展開から少しずつ馬群が固まってくる。内枠だったアイスジャイアントは、ハイペースに戸惑い、ダッシュがつかず後方からのレースとなったが、ラップが落ちた向正面で少し位置を上げていた。ナッジは中団内で辛抱し、リコーヴィクターは3コーナー手前から仕掛けていく。
後半4ハロンは、すべて13秒台のスタミナ比べとなり、直線を向いての残り1ハロンでは各馬が横に広がる大混戦。アイスジャイアントがロングスパートを利かせ、内から迫るナッジの追撃を凌ぎ、2戦目で重賞制覇を飾った。1分53秒0の勝ち時計は、北海道2歳優駿を含めてレース史上3番目に速いタイム(門別1800メートルで実施時)。真冬の高速馬場だったキングオブサンデーの1分50秒8は例外的だったので、それを除けばハッピースプリント(1分52秒5)に次ぐものだった。
高柳瑞樹調教師、三浦皇成騎手も話していたが、まだ成長途上で、走りも幼い。その中で激戦に耐えた重賞勝ちは、今後のダート界を背負う存在に育つ可能性を感じる。北海道勢もナッジ、リコーヴィクター、シャルフジンの3頭が入着し、意地を見せた。JBCの2歳カテゴリーに加わり、北海道2歳優駿の時以上に、序盤の厳しさが明らかに増してきた。来年のダート界も、中央・地方ともに、この舞台を経験した馬が羽ばたいていくと信じている。

三浦皇成 騎手

想定より後ろからのレースとなりましたが、経験が浅いので、あらゆることを想定して挑みました。終始手応えは良かったんですが、タフな馬場だと返し馬で感じたので、脚の使いどころを慎重にレースを運びました。2戦目で重賞を勝つことができたのは、潜在能力と素質の高さを持ってこそだと思います。

高柳瑞樹 調教師

ゲートの出が遅く、思っていた以上に後方にいる形となりましたが、ハイペースで展開が向いた面もありました。ただ、成長の余地を残した段階で、厳しいレースの中、よく耐えてくれました。レース後の状態を見ながら、オーナーとの相談になりますが、全日本2歳優駿も視野に入れています。
文:古谷剛彦 | 写真:いちかんぽ(浅野一行、中地広大)

第22回 2022年 盛岡・門別競馬場

11月3日 盛岡競馬場 2000m

第22回JBCクラシック JpnI

テーオーケインズ

直線抜け出し昨年の雪辱 得意の左回りで実力発揮

JBCスプリントJpnIとJBCクラシックJpnIの間に門別競馬場でJBC2歳優駿JpnIIIが行われるため、盛岡競馬場のレース間隔は1時間20分。しかしJBCスプリントJpnIの出走馬がコースに向かったあとも、ときおり雨が降るなか、パドックの周囲にはたくさんの人が残っていた。
そして18時10分頃、出走する15頭がパドックに登場。帝王賞JpnIで優勝経験があるテーオーケインズとメイショウハリオ、そして今年UAEダービーGIIを制したクラウンプライドが人気を集めたが、なかでもテーオーケインズが単勝1.8倍と圧倒的。クラウンプライドが4.4倍で続き、メイショウハリオは5.7倍となった。
小雨は降り続いていたが、スタンドの外にはたくさんのファン。ファンファーレの演奏と拍手のあとしばらくの静寂があり、そしてゲートが開くと再び拍手が沸き起こった。
好スタートから先手を取ったのはクラウンプライド。続く2番手には前走の日本テレビ盃JpnIIで差し切り勝ちを決めたフィールドセンスがつけて、その直後にはペイシャエス。テーオーケインズとメイショウハリオは縦長になった隊列の中団あたりを追走していた。
その流れはゆるやかだと感じられるもの。前走で逃げた馬が1頭もいないメンバー構成だけに、クラウンプライド鞍上の福永祐一騎手が取った作戦は正解だったといえるだろう。そしてテーオーケインズは向正面の中央付近から上昇を開始。これもまた、勝つために必要な判断だった。
逆に、前半で2番手につけたフィールドセンスは好スタートがアダになったようで、3コーナーあたりから失速。直線の入口では逃げるクラウンプライド、2番手に上がったペイシャエス、その直後にテーオーケインズという形になり、最後の坂を上がり切ったところでテーオーケインズが先頭に立ち、2馬身半の差をつけての完勝となった。2着はクラウンプライド、1馬身1/4差の3着にはペイシャエスが粘り込んだ。
メイショウハリオは5着。濱中俊騎手は「改めて右回りのほうが向いていると感じました」と話した。そうなると、東京大賞典GIでの巻き返しが次の目標になりそうだ。
勝ったテーオーケインズは、金沢競馬場で行われた昨年のJBCクラシックJpnIで好位追走のまま4着。今年の帝王賞JpnIも1番人気で4着だった。しかし左回りでは堅実で、今回の勝利で通算7戦5勝。敗れた2回は2歳時の3着と、サウジカップGIでの8着だけだ。レース後に高柳大輔調教師が「次はチャンピオンズカップを目指します」と話したのは当然のことだろう。
一方、2着のクラウンプライドは福永祐一騎手が「この馬もいずれは(GI/JpnIを)獲れると思います」と評価。3着のペイシャエスは菅原明良騎手が「返し馬から調子のよさを感じました」とコメントしていた。今回、ユニコーンステークスGIIIを勝ったときと同じクロス鼻革に戻したことも好走の要因になったのかもしれない。
JBCデイの最終レースとして実施されたJBCクラシックJpnIのあとには、次回、2023年11月3日(祝・金)の舞台となる大井競馬場にJBCフラッグが引き渡された。同時に実施されたトークイベントにもたくさんの人。夜8時を過ぎても送迎バス乗り場の列は長く続いていた。

松山弘平 騎手

スタートでしっかりと出てくれたので、前半は道中のポジションは意識しないで馬のリズムを大切にして乗りました。それでも流れがゆっくりだと感じていたので、後半は自分から動いていきました。去年のJBCは負けてしまいましたが、今年は勝つ姿を見せることができたのでよかったです。

高柳大輔 調教師

前走のあと、ここまで予定通りに乗り込んできたので、勝ててホッとしています。でも見ているほうは前半に外を回らされたこともあってハラハラ。心配していました。でも最後は調教の動きどおりにしっかりと伸びてくれました。まだキッチリ仕上げたというイメージではないので、次も楽しみにしています。
取材・文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)

11月3日 盛岡競馬場 1200m

第22回JBCスプリント JpnI

ダンシングプリンス

好スタートからマイペースで逃げ切り イグナイターは地方馬最先着の5着

小雨が降るなかで周回が始まったJBCスプリントJpnIのパドック。出走14頭の単勝人気は、連覇を狙うレッドルゼルが2.2倍で1番人気。テイエムサウスダンが3.7倍、ダンシングプリンスが5.4倍と、今年に入ってダートグレードで勝利を挙げている3頭が支持を集めた。そのあとはヘリオスが11.3倍、リュウノユキナが11.4倍、そして兵庫のイグナイターが12.4倍。地元岩手で重賞を3連勝しているキラットダイヤは34.7倍だった。
雨が降り始めた第3レースからこのレースまでにダートで行われた6レースのうち5つで、2ケタ馬番が3着以内に入る状況で迎えた多頭数の短距離戦。レッドルゼルにとっては1番ゲートが最大の難所といえた。まして、今年8月16日に行われた同じ盛岡ダート1200メートルのクラスターカップJpnIIIでは、1番ゲートだったダンシングプリンスが出遅れて4着。レッドルゼルは行き脚がつかず、最後方からになった姿には、観客席から悲鳴に近い声があちらこちらから聞こえてきた。
その反面、ダンシングプリンスは好スタートから素早く先頭に。2番手にはヘリオスがつけ、ラプタス、リュウノユキナも続いて先行策。前半3ハロンは34秒4で、このクラスとしてはそれほど速くないペースで進んだ。
4コーナーでもダンシングプリンスが先頭で、2番手がヘリオスという順番は変わらず。その後ろはラプタスが脱落し、5番手を進んでいたテイエムサウスダンも動きがいまひとつ。代わってインコースを通ってイグナイターが差を詰めてきた。
しかしダンシングプリンスにとっては、マイペースの逃げを打てたアドバンテージが最後まで生きた。最後の直線の上り坂でも勢いが衰えずに押し切り勝ち。好位から徐々に差を詰めたリュウノユキナがクラスターカップJpnIIIに続いて2着に入り、ヘリオスが3着。レッドルゼルはラスト600メートルで33秒5という芝並みの瞬発力で猛追したが4着までだった。
そのレッドルゼルの内側で粘り込みを図っていたのがイグナイター。前走のマイルチャンピオンシップ南部杯JpnIでは4着に健闘したが、今回は4着にクビ差での5着だった。レース後に田中学騎手は「外に出したかったのですがスペースがなくて……。1200メートルを1回でも経験していればまた違っていたと思います」と振り返った。新子雅司調教師も「経験の差が出たかな」とコメント。今後は兵庫ゴールドトロフィーJpnIIIで3つ目のダートグレード勝ちを狙い、その後は1200メートル戦をターゲットにしたいと考えているそうだ。
イグナイターに続く6着には浦和のティーズダンクが入った。こちらは2歳時以来の1200メートル戦だっただけに価値がある。和田譲二騎手は「最後の直線では道中で溜めた分、いい脚を使ってくれました」と話した。そのラスト3ハロンの推定タイムはレッドルゼルに次ぐ33秒8。今後の選択肢が広がる結果といえそうだ。
逆に4着に終わったレッドルゼルは、川田将雅騎手が「気合が入りすぎたことで、ゲートのところで気持ちが切れてしまった」とコメント。テイエムサウスダンは7着で、岩田康誠騎手は「最後の直線で前走みたいにグッとくるところがなかったですね。乗った感じはとてもよかったのですが」と話した。

三浦皇成 騎手

前回のレースを踏まえて、うまく出すことを考えていましたが、スタートしたらさすがのスピード。道中はプレッシャーをかけられないようにと思っていましたが、余裕をもって走れていました。最後はさすがに苦しくなりましたが、そこでもうひと踏ん張りしてくれました。この馬には感謝しかないです。

宮田敬介 調教師

昨年のカペラステークスと今年のサウジアラビア(リヤドダートスプリント)はあまり不安がありませんでしたが、そのあと疲れがあったのか、100%とは言えない状況が続いたなかの勝利。偉い馬だと思います。繊細な面があるので前走は敗れましたが、11月にリベンジするんだという気持ちでやってきました。
取材・文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)

11月3日 盛岡競馬場 1800m

第12回JBCレディスクラシック JpnI

ヴァレーデラルナ

逃げ馬マークし直線抜け出す 3歳馬が4連勝で一気に頂点に

かしわ記念JpnIまで制したショウナンナデシコ。前走のレディスプレリュードJpnIIで3着に敗れて連勝こそストップしたが、エンプレス杯JpnIIから始まったスパーキングレディーカップJpnIIIまでの4連勝が色あせることはなく、ここでも単勝1.7倍の支持を集めた。だが、これが牝馬の難しさなのだろうか。「連勝していた時と比べて返し馬がおとなしすぎるなというのは感じました。いい時に戻りきっていないのかもしれない」と吉田隼人騎手。3、4番手から直線も最内を突いて伸びてはいるが、春のような爆発力はなく3着に敗れた。
勝ったのは3番人気のヴァレーデラルナ。ここが重賞初挑戦という3歳馬が一気に頂点に立った。道中は外の2番手。逃げたサルサディオーネを見ながら運び、向正面でまくってきたテリオスベルにも動じることなく、4コーナーでは2頭と鼻面を並べた。先にサルサディオーネが脱落。直線まで併走していたテリオスベルも坂上で振り切り、508キロの馬体を躍らせて抜け出すと、迫ってきた後続の末脚も封じて先頭でゴールを駆け抜けた。
最後に外からクビ差まで迫った2着はグランブリッジ。第12回にして初めて3歳馬によるワンツーで決着し、結果的に世代交代を感じさせるような一戦となった。
デビュー戦は芝で4着だったヴァレーデラルナ。ダートに替わった2戦目を5馬身差で圧勝すると、そこからは一貫してダートを走り、4戦連続2着と勝ちあぐねていた1勝クラスを6月に6馬身差の圧勝で突破してからは連勝街道。一気にオープンまで駆け上がった。
藤原英昭調教師は「最初は芝も考えていたんですが、ドゥラメンテ産駒ですけれどもダートも兼用できて、ダートの走りの方がよかったので。なんとかここに出るために賞金がほしかったので、ちょっときついローテーションで挑戦させて、勝ち切ってここにきたんです」。10月9日の3勝クラスから間隔は短かったが、それもここを目指していたからこそだったのだろう。ダートが合う理由として「やはり血統、体形の裏付けはあると思うんですけど、気持ちが前向きなので。今日もペースに乗りながら前進気勢をずっと保っていましたからね。気性的にすごくいいんじゃないですか」と話していた。
勝利に導いたのは岩田望来騎手。これがうれしいジーワン初制覇となった。「終始ヒヤヒヤするレースではあったんですが、勝ててホッとしています。夏開催で怪我をして1カ月半の休みがあったんですけど、その間も馬のことをしっかり考えていました。復帰してからも順調に勝たせていただいて、本当に恵まれているんだなと思います。努力を怠らずに来年、再来年と日本を盛り上げられるジョッキーのひとりになれたらいいんじゃないかなと思います」と笑顔が絶えなかった。ヴァレーデラルナにはデビュー戦から騎乗。この日を含め、10戦のうち8戦の手綱を取ってきたパートナーは「一戦一戦、強くなっていますし、今年に入ってずっと使い続けて崩れていない。精神的にも強くなってきています。もっともっと上に行ける素質を持っている馬だと思っていますし、来年も無事に走り続けてくれたらいいなと思っています」と、さらなる飛躍を期待していた。
4連勝で歴戦の古馬も封じた若き女王。この勢いはどこまで続くのか。「まずはここまでしっかり走り切ってくれたので、ちょっと休憩させて」と藤原調教師。来年はダート界を席巻しているかもしれない。

岩田望来 騎手

ゲートだけ気をつけて、どこで競馬するかは出てから考えようと。テリオスベルが思った以上にグッときたので、無理に競らないようにしました。流れが一気に速くなってきつくなりましたが、53キロというのもあって最後まで必死に追いました。坂を上がってから同じ脚色。それでも馬が応えて進んでくれました。

藤原英昭 調教師

タフなコースですから、しまいだけというのはたぶん来ないと思うので、前でどれだけ我慢できるかと予想して指示は出しました。この勝利の賞金は大きいと思います。いろいろな選択肢が広がってきますから。今後、ダートのどこを目指していくのか、しっかり調査して、吟味して決めていきたいと思います。
取材・文:牛山基康 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)

11月3日 門別競馬場 1800m

第3回JBC2歳優駿 JpnIII

ゴライコウ

絶好の手応えで直線突き放す 石川騎手が好判断で勝利に導く

エーデルワイス賞JpnIIIが7年ぶりに良馬場で行われ、前週の3日間も終始良馬場での開催と、例年より意外とパワーを要す馬場が続いた。1日は良馬場スタートだったが、夕方以降の強い雨で馬場が一気に悪化。2日は好天に恵まれ、一旦は稍重に回復したものの、JBC当日は朝から雨に見舞われ、重馬場でレースを迎えた。
ホッカイドウ競馬の2歳中距離重賞は、ブリーダーズゴールドジュニアカップ→サッポロクラシックカップ→サンライズカップ→JBC2歳優駿JpnIIIと体系化されている。今シーズンは、ベルピットとオーマイグッネスの角川秀樹厩舎2頭が牽引してきた。しかし、メンバーがほぼ変わらず、比較的遅いペースでのレースが多かったので、例年に比べると、自信を持って地元有利とは言い難い面はあった。しかも、エーデルワイス賞JpnIIIが、レース史上初となるJRA勢のワンツースリーとなったこともあり、JRA勢優位と考えた方が良いと感じていた。
エーデルワイス賞JpnIIIでワンツーを決めたJRA勢は、早めに門別競馬場へ入厩していた。海を渡る輸送を考えると、キャリアの浅い2歳馬が、能力を最大限に発揮できる上で滞在する効果は大きい。1頭のみ滞在する形だと、かえって馬が寂しい思いをすることもあるが、エコロアレス、ゴライコウ、ナチュラルリバーの3頭は1週前から門別競馬場に入厩。最終追い切りも、門別の屋内坂路を利用した。
ゴライコウは、レースに騎乗することになっていた石川倭騎手が、追い切りでも跨った。単走で肩ムチを入れながら運び、さほど目立つ時計ではないものの、最後の伸びは良かった。その辺りを石川倭騎手に伺うと「物見をして、あまり集中していなかっただけで、良い動きでしたよ」と話した後、少し間をあけ「相当能力を感じる馬です。癖を掴めたし、ゴライコウで挑めるのは楽しみです」と力強く答えていた。
ホッカイドウ競馬の2歳中距離重賞がいずれも、前半3ハロン38秒前後という流れだったことを考えると、エコロアレスが引っ張る展開となったJBC2歳優駿JpnIIIの前半3ハロンは36秒5で、少し速い流れと判断できる。ベルピットはこれまで、オーマイグッネスの後ろにいるレースをしていたが、今回は初めて僚馬より前につけた。
序盤でゴライコウは馬群の後ろにいたが、向正面に入ったところで、石川騎手が外に切り替え、砂を被らない位置に持っていくことができた。今週は、内を避けて走る地元ジョッキーが多く、道中のロスがあっても外を回る方が結果が出る。馬場を把握するジョッキーを配したことが、まさに地の利だった。4コーナーを絶好の手応えで先頭に立ったゴライコウが、ベルピットらを突き放し、未勝利戦から連勝で重賞タイトルを手にした。
新谷功一調教師は、グランブリッジとクラウンプライドが盛岡JBCに出走していたため、代わりに安田光佑調教助手が表彰台に立った。グランブリッジが惜しくも2着だった後だけに「ゴライコウの勝利は、クラウンプライドに弾みがついたと思います」と笑みを浮かべていた。そして、生産者の坂本智広さんは、「本当に勝ったのか!?と、いまだに信じられないぐらい。ファンの方々の声援がある中で、こんな大きなレースを勝たせてもらえるなんて、ただただ感謝です」と、喜びをかみしていた。
2着から5着は北海道勢が占め、何とか地元の意地を見せてくれた。積極的なレースで2着だったベルピットは、負けて強しの内容と言える。3着のリアルミーも、キャリア2戦の身で最後方から追い上げた。彼らのさらなる活躍を期待したい。

石川倭 騎手

追い切りに騎乗させていただき、ある程度癖を掴んだ上でレースに挑めました。道中は余裕があったことに加え、砂を嫌がる面がありましたから、向正面で外に切り替える判断をしました。外を回るロスがあっても、馬の力を信じて乗った結果が、後続を突き放す内容でしたから、今後がますます楽しみです。

新谷功一 調教師

早めに門別へ入厩し、1頭だけでなく他の厩舎の馬と一緒に行動ができたり、田中淳司厩舎にサポートしていただくなど、周りの方々のおかげで調整できたことは、本当に感謝したいと思います。砂を嫌がるタイプですが、石川倭騎手が上手にエスコートしてくれました。最高の結果を出すことができました。
取材・文:古谷剛彦 | 写真:いちかんぽ(浅野一行、中地広大)

第23回 2023年 大井・門別競馬場

11月3日 大井競馬場 2000m

第23回JBCクラシック JpnI

キングズソード

先行2頭をとらえ直線独走 JBCの舞台で重賞初制覇

JBCスプリントJpnIでイグナイターが勝利をおさめたことで、大井競馬場はどよめきが収まらないという状況。そのなかで16時30分発走のJBC2歳優駿JpnIIIの映像が大型ビジョンに映し出されると、再びスタンドは大きな歓声に包まれた。
それと同じころ、JBCクラシックJpnIの出走馬がパドックに登場。出走する10頭が夕方の淡い太陽光線に照らされてゆっくりと周回を始めた。
するとあちらこちらから驚きの声が聞こえてきた。パドックのビジョンに映し出された馬体重には、10キロ以上の増減がある馬が6頭もいたのだ。とくにノットゥルノのマイナス27キロが目立っていた。その姿を見ると、胴のくびれがはっきりと出ているシャープなフォルム。それでも明らかに細いという感じではなく、落ち着いた様子で歩いていた。
マイナス12キロと発表されたテーオーケインズもゆったりとした歩き。逆にプラス1キロのメイショウハリオは、帝王賞JpnIのときと比較すると歩様に硬さが感じられた。またマイナス2キロのウィルソンテソーロは、周回を重ねるうちに気合が表に出てくるようになった。
入れ替えられた白い砂が照明の灯りに照らされて浮かび上がる舞台でゲートが開くと、10頭は互角のスタート。しかしサベージだけはすぐに後方待機策を取った。そのほかの9頭は一団で、内枠のノットゥルノとテーオーケインズが並ぶ形で先頭に。その直後をケイアイパープル、ウィルソンテソーロ、キングズソードが横に広がって追走したそのペースはやや速いと感じられるもの。実際に2ハロン目は11秒4を計時した。
それでも1コーナーに入ると隊列は徐々に縦長に。そこでノットゥルノが内枠の利を得る形で、自身としては初めての逃げ戦法に出た。続いてテーオーケインズが2番手を確保。3番手はケイアイパープルとキングズソードが併走し、ウィルソンテソーロ、クリノドラゴン、メイショウハリオと続いた。
しかし3コーナーに入っても中団に付けた各馬の動きはいまひとつ。3コーナーあたりでケイアイパープルが後退したのを除くと、4コーナーでも各馬の位置取りは1コーナーとほぼ同じ。最後の直線を向いてノットゥルノにテーオーケインズが並んだ。
その争いに加わってきたのが、外を回ったキングズソード。競り合う2頭を横目に残り300メートルあたりで先頭に立つと、さらに加速して独走に入り、4馬身差をつけて勝利を飾った。
2着争いは、テーオーケインズが前に出る場面もあったが、残り100メートルあたりで内からノットゥルノが差し返した。テーオーケインズは競り負ける形でアタマ差の3着だった。
その結果にテーオーケインズ鞍上の松山弘平騎手は「勝ち馬は強かったですが、最後に差し返されたのは……」と話して納得がいかぬという様子。ノットゥルノは負傷した武豊騎手の代役として騎乗した森泰斗騎手が「勝ちたかったですね。メンバー的に前に行こうと考えていて、マイペースで進められたのですが。でもいい馬に乗せていただけて感謝しています」とコメントを残した。
単勝1番人気のメイショウハリオは3着馬から2馬身半差で4着。濱中俊騎手は「前が止まらない馬場でしたが、でも向正面から手応えがあまりよくなくて、最後の直線でも手応えがないままでした」とのこと。9月10日のコリアカップGIIIに招待されたものの、それを辞退した影響があったのかもしれない。
さらに2馬身差の5着は重賞3連勝で臨んだウィルソンテソーロで、「3コーナーでペースが上がったところでついていけなくなった」と、手綱を取った菅原明良騎手。6着のクリノドラゴンを含めてJRA所属馬が上位を独占したが、重賞未勝利のキングズソード(4番人気)が勝ち、近走成績がいまひとつだったノットゥルノ(5番人気)が2着に入ったことで、3連単は3万5080円となった。
地方馬の最先着は、大井のミヤギザオウで7着。唯一、南関東以外から参戦した金沢のトランスナショナルは8着だった。それでも手綱を取った松戸政也騎手はレース前もレース後も満面の笑顔。「地方最先着を狙っていたんですけれどね。最後の直線ではよく伸びてくれて、(ミヤギザオウの)今野さんの背中も見えていたんですが、届きませんでした。でも2年連続でJBCという舞台に参加することができて、本当にありがたいです。パドックではたくさんのお客さんの姿が見えるので、どうしても笑顔になってしまいますね」と、うれしそうに話した。
この日の大井競馬場の入場者数は24,506人。最終レース終了後には、たくさんのファンが見守るなか、JBCフラッグが来年の開催地である佐賀競馬場へと引き渡された。その風景は、初の九州開催となる次回への期待が感じられるものだった。

J.モレイラ 騎手

それほどプッシュすることなく3番手につけることができて、前の馬のキックバックもなく、馬がハッピーな位置で進めることができました。最後の直線で抜け出したところで馬が気を抜くかもしれないという心配があったので、最後までしっかりと追いました。

寺島良 調教師

嬉しいより驚きのほうが大きいかな。12キロ増でしたが馬体に張りがあっていい状態という感触がありました。この馬の全兄(キングズガード)で重賞(プロキオンステークス)を勝って、全弟で大きいところを勝ててよかったです。この1年くらいで一気に成長しましたが、さらに良くなってくれると思います。
取材・文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)

11月3日 大井競馬場 1200m

第23回JBCスプリント JpnI

イグナイター

直線抜け出し人気馬を完封 地方4頭目のスプリント制覇

JBCスプリントJpnIは、昨年の盛岡から連覇を狙っていたダンシングプリンスがスタート直後に落馬するまさかのアクシデント。その後、カラ馬のままレースの隊列に近寄り、3コーナーではリュウノユキナやケイアイドリーがラチに寄せられリズムを崩すなど、不利を受けた馬もいた。
1枠から好ダッシュを決めたギシギシがハナを切った。ラプタス、イグナイターがすぐ外につけ、ペースが上がった3コーナーでギシギシは後退。替わってラプタスが先頭に立った。直線に入るとリュウノユキナや外を回ったジャスティン、さらにインから盛り返したギシギシも加わって5、6頭が差なく横に広がる混戦。
その中から直線半ばでイグナイターが抜け出すと、大外から猛追するリメイクを1馬身半封じてゴール。笹川翼騎手の左手が大きく上がり、昨年は5着に泣いたスプリント王の座をついに掴んだ。今春のさきたま杯JpnII以来となる4つめのダートグレード制覇で、JpnIは初優勝となった。
場内から沸き上がる『ササガワ』コールに、笹川騎手は大きく手を上げて喜びを表した。
「夢かなと思うくらいの気持ち。本当に気持ち良いです。イグナイターがよく頑張ってくれました。乗せてもらって4回目ですが、馬の感触は掴んでいて、1200メートルはけっして悪くないと自信を持って挑みました。手応えは抜群で、思っていたより1列前で運べたのであとは馬のリズム。ハナに行っている馬をかわしてからが凄く長く感じて、本当に馬も必死に頑張ってくれていましたし僕も必死でした。園田の皆さんのおかげ。僕は良いバトンだけを任せてもらっている立場なので、本当にありがたいですね」と話した笹川騎手は、東日本での近走で手綱を任されてきた。
そしてインタビューの最後には、「園田の皆さんやりました!イグナイターをJpnI馬にできて僕も本当に嬉しい!皆さんにイグナイターの歴史的レースを見せることができて良かったと思います」と高らかにメッセージを送った。デビューから11年目の笹川騎手は現在29歳。もっか南関東リーディングのトップを走っている。2023年も残り約2カ月だが初のリーディングジョッキーが見えてきたところだ。
イグナイターは兵庫の新子雅司厩舎所属。新子調教師は11年に調教師補佐から調教師へ転身してこれが重賞64勝目。イグナイターの調教にもみずから跨がって仕上げ、初めてのGI/JpnIタイトルを兵庫にもたらした。地方所属馬のJBCスプリントJpnI制覇は07年フジノウェーブ(大井)、19年ブルドッグボス(浦和)、20年サブノジュニア(大井)に続いて4頭目となった。
新子調教師はマイクを向けられると「やっと勝てた。今年一番のデキでしたね。これで選択肢が広がったので今後は海外も視野に入れてレースプランを立てたい」と話した。15年の大井・JBCスプリントJpnIに出走させたタガノジンガロが14着で入線後に急性心不全を発症したことから、「きっとジンガロが後押ししてくれたんだと思います」と感極まるシーンもあった。
2着には武豊騎手から御神本訓史騎手へと乗り替わりになったリメイク。クラスターカップJpnIIIからコリアスプリントGIII勝ちと勢いに乗っていたこともあり1番人気に推されていた。直線勝負にかけた末脚に、今後の期待を募らせるばかりだが、「スタートして一歩目でつまずいたのとカラ馬の影響が多少ありました。それ以外はうまくいきましたが走りきらせてあげられなかった気がします。外に出したときは『勝った』と思いましたが、勝ち馬の伸びも良く差し切れなかった。結果を残し切れず申し訳ないです」と御神本騎手は話していた。
アクシデントにより不本意なレースになった馬もいたとはいえ、ゴール前のイグナイターは陽差しの中から1頭違う輝きで抜け出して素晴らしい勝利を見せてくれた。父エスポワールシチーとはJBC父子制覇の勲章となった。
今後、いくつかの選択肢の中から陣営がイグナイターをどう羽ばたかせるのか楽しみでならない。

笹川翼 騎手

厩舎の方々が良く仕上げてくれて、返し馬の感じは素晴らしいなと思っていたので、それも実った結果だと思います。この馬に恥じないよう自分の技術を磨いていかなければと思わせてくれる馬。JBCを地方馬で勝つことは簡単ではないので、皆さんにイグナイターの歴史を見せることができて良かったです。

新子雅司 調教師

やっと勝てたという思いですね。今回、仕上げ切った分、ちょっとゲートの中でピリピリしていたみたいなんですけど、笹川騎手がうまく乗ってくれました。気合が入りながら落ち着きもあって今年一番のデキで挑めたと思います。海外も視野に入れてレースプランを組み立てたいと思います。
取材・文:中川明美 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)

11月3日 大井競馬場 1800m

第13回JBCレディスクラシック JpnI

アイコンテーラー

早め先頭から独走4馬身差 ダート転向3戦目で女王に

今回のJBC開催の直前、大井競馬場では本コースの砂の全面入れ替えが実施された。導入されたのはオーストラリア産の白い砂で、すでにいくつかの地方競馬で使用されているもの。前開催までは東京盃JpnIIでコースレコードが樹立されるなど、高速決着が続いていたが、入れ替え後は1秒から1秒半ほど、時計がかかるようになっていた。
それだけに差し、追い込み馬が上位に顔をのぞかせる場面もあったが、全体的に見れば先行有利。さらに内ラチ沿いは少し砂が深い印象があり、勝ち切るには2、3番手の外か、その1列後ろにつける競馬が理想だった。
そんななかで行われたダート牝馬の頂上決戦。JRAからは盛岡で実施された昨年の覇者ヴァレーデラルナ、地方のダートグレードで安定した走りを見せるグランブリッジやテリオスベル、レディバグに加え、前走で初タイトルを手にしたアーテルアストレア、3歳ライオットガール、ダート転向3戦目のアイコンテーラーが参戦。浦和のスピーディキックを含めて人気は割れ加減となり、混戦が続くこの路線を象徴するオッズとなった。
レースはヴァレーデラルナの先導で始まった。2番手にアイコンテーラーが続き、その外に大井のノーブルシルエット。テリオスベルはなかなか行き脚がつかず、向正面に入ってからようやく上がっていく展開となった。
3コーナーでテリオスベルが先団に追いついたところでアイコンテーラーが先頭を交わし、この2頭が並ぶ形で直線を迎えた。しかし、こうなれば前半で脚をためていたアイコンテーラーに有利。残り300メートルで突き放しにかかると独走に持ち込み、4馬身差で勝利。重賞初制覇をJpnIタイトルで飾った。
アイコンテーラーはデビュー以来、一貫して芝を使われ4勝をマーク。愛知杯GIII・2着など、高い能力を示してきたが、初ダートだったBSN賞で5勝目を飾ると、シリウスステークスGIIIでも2着に好走。牡馬トップクラスと互角の走りを見せたことで、今回も1番人気に推されていた。騎乗予定だった武豊騎手の右足負傷により、代打騎乗となった松山弘平騎手は「強くて、いい競馬をしてくれましたね」とアイコンテーラーをねぎらい、管理する河内洋調教師も「思い通りの位置取りでした」と、この開催のベストポジションに導いた鞍上のエスコートに感謝した。
2着はグランブリッジ。中団の追走から外に持ち出しつつ位置取りを上げると、直線で脚を伸ばした。ジョアン・モレイラ騎手は「リズム良く折り合うことができて、流れも理想的でした。でも、1頭強い馬に負けました」と勝ち馬に脱帽。ダート牝馬路線の中心的な存在として活躍しているが、このレースに限れば2度目の2着。名実ともにトップに立てる日を待ちたいところ。
レディスプレリュードJpnII勝ちのアーテルアストレアが、さらに半馬身差の3着。後方から息長く脚を使ったが、前走ほどの鋭い末脚は見られなかった。ミルコ・デムーロ騎手は「いつもよりスタートも出て徐々に上がっていけたけど、直線は思ったより伸びなかったですね。砂が替わったからかも」と悔しさをにじませた。ただ、前走に続く好走で、牝馬トップクラスの力は示すことができた。スピード優先の馬場なら巻き返しが可能だ。
スピーディキックが4着で、地方勢の最先着。後方からじわじわと伸び、御神本訓史騎手も「ゆっくり追走したので脚を使ってくれましたね。ただ、1800メートルは少し長いかな」と評価したが、上位3頭には水をあけられた形。また馬群を割って伸びるような、この馬らしい走りを見せてもらいたい。
ひとまず決着をみたダート牝馬の最高峰レース。とはいえ、昨年の覇者ヴァレーデラルナがその後、重量増もあって波に乗り切れず、今回も11着に敗れたように、この路線は混迷を極めている。アイコンテーラーがその状況に断を下すことができるのか、今後の路線展開に注目が集まる。

松山弘平 騎手

嬉しいですし、僕に任せてくださった関係者の方々に感謝しています。キックバックは得意ではないかなと思っていたので、スムーズに自分の競馬をしたいなと考えていました。道中は2番手で流れに乗れましたし、手応えもよく、追ってからも離してくれましたので、非常に強かったなと思います。

河内洋 調教師

やっと勝つことができましたね。馬の状態は良かったので、なんとか頑張ってくれと祈っていました。いつも好位から競馬できているので、今回も流れに乗って砂をかぶらないように行けたらいいなと思っていました。選択肢が広がったので、今後のローテは状態を見ながら考えるつもりです。
取材・文:大貫師男 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)

11月3日 門別競馬場 1800m

第4回JBC2歳優駿 JpnIII

フォーエバーヤング

父譲りの末脚で直線強襲 キャリア1戦でJBC制覇

馬産地北海道で行うJBC2歳優駿JpnIIIは4回目を迎えた。経験を積んだ道営所属馬は7頭。今秋は北海道からの遠征馬が平和賞や鎌倉記念など各地で勝利を挙げ、レベルの高さを示している。JRA馬5頭も全て1勝ながら実力馬が集まった。
久々のデイ開催となった門別競馬場は好天に恵まれ、親子連れや遠征客も加わり賑わった。大井競馬場から東京トゥインクルファンファーレ(TTF)が来場し、地元の富川高校吹奏楽部とのコラボ演奏もレースを盛り上げ、入場人員は普段を大きく上回る2,606人。駐車場には長い列ができた。
1番人気は10月の新馬戦で強さを見せたJRAのフォーエバーヤング。ダートで一変したサンライズジパングが2番人気、道営からはサンライズカップ勝ち馬のパッションクライが3番人気と続いた。
TTFによるファンファーレでスタート。ブラックバトラーが大きく出遅れ、目の前で見ていた観客からざわめきが起きた。フォーディアライフが先頭を奪い、1馬身後ろにインテンシーヴォ、パッションクライが続く。フォーエバーヤングは後方3番手で縦長の展開。
3コーナーでパッションクライが早め先頭に立ち、横にぴったり付けながらサンライズジパングも進出。フォーエバーヤングはまだ中団で、長く脚を使って差を詰め始めた。
直線残り200メートルでサンライズジパングが先頭に立ったところを、外からフォーエバーヤングが強襲し抜け出した。2021年アイスジャイアントに続く1戦1勝での勝利で、タイムは1分54秒3。1馬身半差2着はサンライズジパングで、後方に置かれていたブラックバトラーが追い込み8馬身差3着に入った。
フォーエバーヤングは前週の土曜から門別入りし調整してきた。「持久力勝負なら合うと思っていた。ここまで来た甲斐があった」と矢作芳人厩舎の岡勇策助手。ノーザンファーム早来の津田朋紀場長も「生まれた時からすごくバランスが良くバネのあるいい馬だった。育成も順調で牧場全体で期待していた」と語る。後方からの脚も「父リアルスティールのポテンシャルを感じさせる」と今後を期待させるコメント。門別の重賞初勝利を飾った坂井瑠星騎手は、前半の後方2番手にも「落ち着いて乗っていました」と自信を持って馬のリズムでレースを進めた。
岡助手は今後について「来年から大井で三冠レースもありますし、年明けはサウジアラビア、ドバイといろいろな選択肢がある。どこに行くにしても楽しみ」と世界を見据えた。21年に門別のブリーダーズゴールドカップJpnIIIを勝ち海外GI制覇へと羽ばたいた厩舎の先輩マルシュロレーヌのように、門別からの飛躍に期待したい。
なお、今年のJBC2歳優駿JpnIIIの発売金額はホッカイドウ競馬で1レースのレコードとなる10億875万3000円で、従来の第1回の同レース(9億7489万8000円)を大きく上回った。

坂井瑠星 騎手

脚があるのがわかっていたし、直線も長いので落ち着いて乗りました。レース前はなにも不安がないくらいおとなしくて乗りやすい馬。牧場、厩舎で上手に調整してくれているのが強みです。

岡勇策 調教助手

無事に長距離輸送もこなしてくれてパドックも前走と変わらず落ち着いていた。素直なところが一番の持ち味。明日から放牧に出る予定で、今後は馬の状態を見て決めます。成長の余地をたくさん残している馬です。
取材・文:小久保友香 | 写真:いちかんぽ(浅野一行、中地広大)

注記
当ページは、地方競馬情報誌『ハロン』及び『WEBハロン』における当時の掲載内容を引用又は抜粋し、作成しています。