調教師インタビュー

インタビュー

INTERVIEW 03

野口 孝

調教師

野口先生は代々調教師をされているご家庭出身ということですが、実際に調教師を目指したのはいつ頃ですか?

野口:幼い頃からこの道でと思っていましたし、幼稚園の頃から馬の水桶のチェックをしていましたね(笑)。自然な流れで厩務員になって、調教師試験を受けられる30歳になった時に試験を受けました。

同じ競走馬を扱うと言っても、厩務員と調教師では内容が全然違うと思いますが、開業してみていかがでしたか?

野口:厩務員は1頭1頭の世話をするのが仕事ですが、調教師はオーナーに馬を預けていただいて、厩務員を雇って、ジョッキーを探したりもします。馬のことだけではなく人も育てる仕事ですし、経営のことも考えないといけない。

調教師になりたての頃は頭数が少なくて、厩務員兼調教師のような感じでした。だんだん頭数が増えていって、オーナーに営業して、牧場に馬を見に行って、厩舎の馬たちもチェックして…。慣れるまでは忙しくて大変でしたね。

馬を育てることも難しいですが、人を育てることも難しそうですね。

野口:どちらかと言うと、人を育てる方が難しいかもしれません。馬は言葉が話せないし、人間の赤ちゃんのようなものですから、繰り返し忍耐強く教えてあげることが大事。1頭1頭直接馬の世話をする厩務員の仕事はとても重要で、その厩務員を育てることも、調教師にとっては大きな仕事です。

調教師をしていて一番の喜びというのは?

野口:もちろんレースで勝った時は嬉しいですが、それは本当に一瞬だけ。ゴールに入ってこちらに戻ってくる時には、脚が痛くないか確認するまで不安だし、脚元が大丈夫だとわかったら次はどうしようか考え始めます。

競馬はオーナーに馬を預託していただいて、ファンの方に馬券を買っていただいて成立しているので、調教師には大きな責任があります。プレッシャーもありますが、とてもやりがいのある仕事ですよ。一生懸命馬のことを考えて調教して、たくさんのファンの前で勝負をする。そこで勝てば自分も嬉しいし、ファンも喜んでくれますから。

これまで辞めたいと思ったことはありますか?

野口:もうイヤだと思ったことは全然ないです。馬がケガをしたりすると、防げたのではないか、馬に申し訳なかった、と落ち込むことはありますけど。正解のない世界なので、もっとこうしていたらというのは常に考えますね。例えレースで勝ったとしても、本当にそのやり方が正解かはわからないですから。他のやり方だったらもっと楽に勝てた可能性もあるわけで、負けたら反省するのは当然ですが、勝っても考えます。

調教師に向いている性格というのは?

野口:やっぱり真面目であるというのは大切だと思いますね。ただ、オーナーに営業して馬を預けてもらわないといけませんから、面白みがある、外交ができる、という部分も必要かと思います。

収入はどういう形ですか?

野口:オーナーから馬を預けていただいて、預託料をいただきます。その中に調教管理料があるわけですが、厩務員に給料を払って、カイバ代や獣医代なども払いますから、経営能力が大事になってきます。レースに出走すれば出走手当、上位入着したら賞金の10%がもらえます。これは馬の出走回数や成績によって大きく変わるところです。

調教師になるにはどんな方法がありますか?

野口:(外部の人が)直接調教師にはなれません。騎手か厩務員をやっていて、調教師試験を受けられる規定の年齢(満28歳)に達した者が試験を受けることができます。

昔は代々競馬一家という人が多かったけれど、今は一般家庭から調教師を目指して入って来る人も多いですね。そういう人にとっては窓口が非常に難しいとは思いますが、まずは牧場へ行ったり、競馬場へ連絡してみて欲しいです。

地方競馬に就職するための第一歩というのは、 なかなか難しいですよね。

野口:全国各地で主催者が違い、ルールや規定も違う部分があるので仕方のない面はありますが、今後は改善していきたいと考えています。全国的に人手不足は深刻ですし、窓口がわからないということだけではなくて、厩務員という職業が一般的にあまり知られていないというのも原因かなと。

厩務員は競走馬にとって一番長く近くで接しているのに、レースで勝ってもインタビューがないですよね。僕はもっと厩務員をクローズアップして欲しいと考えています。例えばヨーロッパやJRAのように、ベストターンドアウト賞(『最もよく躾けられ、最も美しく手入れされた出走馬を担当する厩務員』の努力を称え表彰する制度/JRAホームページより)を導入して欲しいです。そうすれば注目度も上がるし、厩務員のモチベーション向上にもつながりますから。

今後地方競馬の道を目指したいという方に伝えたいことはありますか?

野口:たとえまったく馬を扱ったことがなくても、最初は他の人のようには動けないかもしれないですが、先輩の厩務員がいろいろ教えてくれるし、愛情を持って接していれば馬も応えてくれます。

興味があったらバックしないで一歩踏み出してみてください。自分だけで考えていないで、まずは各競馬場などに気軽に連絡していただいて、実際にどんな場所なのか、どんな環境で働いているのか、自分の目で見て判断してください。たくさんの方が一歩踏み出してくれることを期待しています。

インタビュアー:赤見千尋

野口 孝

野口 孝

  • 全国公営競馬調教師会連合会 会長
  • 埼玉県調教師会 会長
  • 1951年1月9日生まれ
  • 1981年8月管理馬初出走
  • 浦和競馬所属
  • 地方通算7,683戦849勝(中央9戦0勝)
  • 主な管理馬:ヒカリカツオーヒ(エンプレス杯2回、トゥインクルレディー賞、クイーン賞、ロジータ記念)、ホワイトアリーナ(浦和・桜花賞、関東オークス)、グランプリクン(金盃、ニューイヤーカップ、埼玉新聞杯)など

※データは2019年12月2日現在