未来優駿2017特集
 毎年秋に行われる各地の2歳主要競走(計7レース)を短期集中施行するシリーズ(2008年創設)。2017年は10月8日から、11月14日まで、未来を期待される優駿たちの戦いが繰り広げられます。

 3歳馬によるダービーシリーズ同様、各地の主要競走が短期間で楽しめる贅沢感や、先々への期待感を醸成できることが、このシリーズ最大の魅力。また、10月末以降のダートグレード競走(10/31・門別競馬場・北海道2歳優駿、11/21・園田競馬場・兵庫ジュニアグランプリ、 12/13・川崎競馬場・全日本2歳優駿)への期待感を高めることも期待されます。

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好スタートから一気の逃げ切り
かつての師匠に贈る重賞タイトル

 兵庫の2歳戦線は4つの重賞を軸に展開される。兵庫若駒賞は2つ目の重賞だが、最初の園田プリンセスカップ(牝馬限定)では北海道からの遠征馬に上位3着まで独占され、女王候補は不透明。牡馬もデビューから3連勝のアゼツライトが前走で3着に敗れ、絶対的な主役不在の混戦模様となった。
 単勝オッズもアゼツライト2.7倍、フセノラン4.1倍、セイヴァーベナ4.7倍、イチノフリオーソ5.1倍、メイクアラッシュ7.7倍と5頭が一桁台と人気も割れていた。
 レースは吉村智洋騎手の7番人気トゥリパが好スタートから逃げると、田中学騎手のセイヴァーベナが外の2番手でマーク。3番手に1番人気のアゼツライトが追走する展開。向正面からトゥリパがペースを上げると、セイヴァーベナが外をぴったり追走、3番手以下は離された。直線では、粘るセイヴァーベナをトゥリパが振り切ると、中団から追い込んできた2番人気のフセノランに2馬身差をつけて混戦を断った。
 7番人気の勝利で単勝は3680円、3連単も7、2、1番人気の組み合わせで5万770円の波乱となった。
 2着フセノランの宮下康一騎手は「3コーナーで前が詰まったぶんの差です」と唇をかめば、3着アゼツライトの川原正一騎手は「重馬場は合わないし、もっと長い距離の方がいい」と語った。
 勝ったトゥリパの橋本忠男オーナーは、今年1月4日付で勇退した兵庫の元調教師。調教師として最後の重賞出走だった1月3日の新春賞では、今回同様、最後の弟子となった吉村騎手を鞍上にエイシンニシパで勝利。またトゥリパを管理する平松徳彦調教師も騎手時代は橋本忠男厩舎に所属していたこともあり、今回は橋本ファミリーでの勝利となった。表彰台に立った橋本忠男オーナーは「トモ(吉村騎手)に乗せたから今日は勝負やと思ってた。これで負けてたら、平松を怒ってたとこやで」と上機嫌でインタビューに答え、取り囲む観衆の笑いを誘った。
 トゥリパは、ここまで6戦して2着2回、3着3回。堅実な走りこそ見せていたが、未勝利馬だった。兵庫若駒賞での未勝利馬の重賞勝ちは昨年のナチュラリーに続き2度目。ただし、血統を見ると全兄に今年の兵庫ダービー馬ブレイヴコールがおり、終わってみれば勝っても不思議はない要素はあった。
 両馬の父は短距離で活躍したカルストンライトオだが、兄の主戦でもある吉村騎手は「牡と牝だから比較は難しいけど、走る時にフワフワしたり、集中力を欠くところは似てるかな。兄は秋になって、短距離色が濃くなってきたけど、両方とも折り合いはつくので、トゥリパも3歳の春くらいまでは、距離は延びても大丈夫だと思う」と見通しを話した。
 吉村騎手は、昨年の兵庫ダービーではエイシンニシパに騎乗してクビ差2着に敗れ、今年は主戦をつとめていたブレイヴコールが当初は回避予定だったため、他馬との先約があって乗れない不運があった。兵庫ダービー馬の妹での重賞勝ちは、吉村騎手にとっては来年のダービーに向けて吉兆となったことは間違いない。
 この後は一度叩いて、12月31日の園田ジュニアカップ(1700メートル)を目標に調整される。11月21日の兵庫ジュニアグランプリJpnⅡ(1400メートル)への出走について平松調教師は「無理させたくない」と回避の意向を示した。
吉村智洋騎手
初めて乗りましたが、一緒にレースもしていたので、いいものはあると思っていました。抜群のスタートだったので逃げました。師匠に勝利をプレゼントしたと言われますが、その逆で、僕が勝利をプレゼントしてもらってます。調教師最後の重賞を勝って、馬主でも重賞勝ち。師匠はモッテると思います。
平松徳彦調教師
勝ちあぐねていたけど、前走もチグハグだったし、一緒に走っていた相手だったので遜色ないと思っていました。逃げたら勝負になると色気はありました。うまくゲートを出たら、行ってくれと言ってあった。次は兵庫ジュニアグランプリではなく、無理せず一度叩いて園田ジュニアカップを考えています。


取材・文:松浦渉
写真:桂伸也(いちかんぽ)