JBC過去の熱戦

第7回 2007年 大井競馬場

ヴァーミリアン

10月31日 大井競馬場 右2000m

第7回JBCクラシック JpnI

優勝馬ヴァーミリアン

直線一気に突き放す まさに次元の違う強さ

「ドバイに行くとその反動が大きく、立て直すのに時間がかかる」とは以前によく言われていたこと。しかしここ1~2年はほとんど耳にすることがなくなった。

ドバイには毎年のように遠征する馬が出てくるようになり、またドバイに限らず海外への遠征競馬もめずらしいことではなくなって、遠征などのノウハウも厩舎間で共有されるようになったに違いない。ヴァーミリアンは、ドバイに遠征した反動が出るどころか、むしろドバイ遠征によってさらに力をつけたと言ってもよさそうな、圧倒的なレースぶりを披露した。

ヴァーミリアンは、キングスゾーンやメーンエベンターなどの先行争いから離れ、中団7番手あたりを追走。3コーナーでは外からブルーコンコルドが早めに交わしていったが、慌てずじっくり仕掛けるタイミングを待った。

直線を向くと、ヴァーミリアンの前にいたフリオーソがまず先頭に立った。しかしそれも一瞬で、フリオーソの内に進路をとったヴァーミリアンが、武豊騎手にムチを1発入れられただけでビュンと伸びると、アッという間に突き放し、4馬身差をつける圧勝劇となった。

これで国内に限れば名古屋グランプリGII、川崎記念JpnIから3連勝。ドバイワールドカップでは離された4着に敗れたが、石坂正調教師は、そのドバイでのレースを見てほんとうに強くなっていることを確信していたという。ドバイ以来7カ月ぶりで臨んだ実戦だ ったが、久々を感じさせないレースぶりだった。

4馬身差をつけられたとはいえ、2着のフリオーソも好位から一旦は抜け出す強い競馬を見せた。うしろから追い込んだサンライズバッカスを1 1/4馬身抑え、さらにそのうしろには3コーナーで早めに仕掛けたブルーコンコルド。上位4着までをGI (JpnI)馬が占めるという実力どおりの結果となった。

そしてGI好走実績のあるシーキングザダイヤ、クーリンガーは6、7着。今回、岩田康誠騎手が手綱をとったルースリンドはそこに割って入る5着で、相応の力があると見てよさそうだ。

JBCクラシックJpnIはこれで中央勢が7連勝。歴代の勝ち馬を見ると、レギュラーメンバー、アドマイヤドン3連勝、タイムパラドックス2連勝、そしてヴァーミリアンと、ダート最強馬の名がズラリと並ぶ。

2着に入った地方馬は、第1回のマキバスナイパー、第4回のアジュディミツオーに続いて3頭目。いずれも船橋の所属馬で、またいずれもがGI馬となっている。

COMMENT

  • 武豊 騎手

    武豊 騎手

    乗っていていい馬だなと思いました。途中からブルーコンコルドが行ったのですが、つられないように我慢しました。直線ではなかなかスペースがなかったのですが、前が開いたらすごい脚で抜け出してくれました。

  • 石坂正 調教師

    石坂正 調教師

    休み明けですが、久々というつもりではなく、ここを目標に調教を積んでいましたが、パドックを見たらだいじょうぶだなと思いました。ドバイに行ったことで、精神的にものすごく強くなりました。直線ではどこから抜けてくるのかと見ていて、これまではそれほど瞬発力を見せるような競馬をしたことはなかったのですが、すごい脚で伸びてくれました。

フジノウェーブ

10月31日 大井競馬場 右1200m

第7回JBCスプリント JpnI

優勝馬フジノウェーブ

末脚一閃、見事な差し切り
地方馬初!JBC制覇の快挙

ついに、地方馬がJBCを制した。ダートグレードは、全体を通して見れば中央馬が圧倒的に優勢だ。しかし地方馬からもGI(JpnI)を勝つ馬がコンスタントに出ていて、入厩する馬の値段の圧倒的な差や、層の厚さを考えれば、むしろ地方馬もかなり健闘しているように思う。

しかし過去6回のJBCで1度も地方馬が勝つことがなかったのは、地方競馬における最高賞金ということはもとより、その格の高さゆえ、中央馬が本気で狙ってきていたからだろう。

得てしてそういう均衡が破られるときというのは、意外なものだ。むしろ今回であれば、JpnI (GI)を2勝もしているフリオーソがクラシックを勝ったなら、それほどの驚きではなかったと思う。

もちろんフジノウェーブが勝つと予想していた人もいただろう。しかし普通に考えて、いくら南関東で10連勝したとはいえ、重賞勝ちは南関東限定のもので、ダートグレードもさきたま杯JpnIIIの4着が最高という成績。そしてこれが帝王賞JpnI(11着)以来の休み明け。7番人気の単勝38.1倍という人気も当然だった。

アグネスジェダイとプリサイスマシーンが前で競り合い、直後のナイキアディライトが4コーナーで並びかけた。この3頭のうしろで機をうかがっていたのがフジノウェーブだった。

直線半ばでナイキアディライトが後退すると、代わってその外から進出。さらに外からリミットレスビッドも伸びてきたが、脚いろは完全にフジノウェーブが勝っていて、粘るプリサイスマシーンをクビ差交わしたところがゴールだった。

レースはもちろんだが、もうひとつ印象に残ったのがレース後の高橋三郎調教師だ。

囲まれた記者の質問に答えてはいるが、心はどこか宙に浮いた感じで、茫然自失。想像もしていなかった嬉しさも度を越すと、こんな状態になるのかと思った。

東京盃JpnIIを叩いてここに臨むはずが、インフルエンザの影響が長引いたことで帰厩が遅れ、その東京盃には間に合わず。強い調教もできないまま迎えた本番だった。

驚くのも無理はない。フジノウェーブは、一線級相手の経験が少ないなかで、よくこれほどのレースができたと思う。それはおそらくさきたま杯の経験が生きたのだろう。スタートで出遅れ、4コーナーでも後方。敗れたとはいえ、直線だけで追い込み、それほど差のない4着に食い込んだ。勝ったのはメイショウバトラーだが、すぐ前にはアグネスジェダイがいて、5着のリミットレスビッドには先着。ここでJpnI並に厳しい経験していたと考えれば、この勝利も納得できる。

COMMENT

  • 御神本訓史 騎手

    御神本訓史 騎手

    残りの200mからは夢中で追いました。最後はよく伸びて、よく辛抱してくれました。今回は半信半疑だったのですが、よく走ってくれたと思います。

  • 高橋三郎 調教師

    高橋三郎 調教師

    このレースの前に1回叩こうと考えていたのですが、インフルエンザの影響で大井に移動することができなかったので、調教は少し足りない感じで、悩みはたくさんありました。これで走ってくれたところを見ると、あまり強い調教はやらなくてもいいのかなとも思いました。スタッフが替ったばかりで結果を出すのは、ほんとうに難しいのですが、厩舎スタッフのみんなが、ほんとうによくやってくれました。

文:斎藤修 | 写真:いちかんぽ

第8回 2008年 園田競馬場

可能性を感じさせた、園田でのJBC開催

近年のJBCでまず感じるのは、中央の厩舎関係者にも完全に定着したということ。

JBCクラシックが1億円、JBCスプリントが8000万円という、中央競馬と比較してもかなり高額な賞金だけに当然とも思えるが、JBCがスタートして何年かは、ダートの有力馬を管理している調教師でもJBCのことを意識している方ばかりではなかった。中長距離路線では、JBCクラシック→ジャパンカップダート→東京大賞典という秋のGI(JpnI)路線が関係者にもファンにも完全に定着したし、短距離路線においても、JBCクラシックが唯一のJpnI(GI)であり、最高賞金のレースでもあると認識されるようになった。

今年その象徴となったのが、古馬チャンピオンのヴァーミリアンと、ダートでは無敗の3歳チャンピオンであるサクセスブロッケンによる、初めての直接対決が実現したということだろう。

ヴァーミリアンは昨年同様ドバイ遠征以来、サクセスブロッケンもジャパンダートダービー圧勝以来と、両陣営ともに休み明けながら、秋の早い段階からJBCクラシックが復帰戦になるであろうことを表明していた。言うまでもなく馬は生き物であるだけに、公言した予定どおりにいかないことも常だが、両陣営ともに万全の状態でレースを迎え、そしてダート競馬の歴史に残るような名勝負を繰り広げた。

残念ながら今年はスプリントで4着に敗れたブルーコンコルドだが、この馬も4年にも渡ってJBCを盛り上げている主役の1頭。05年は名古屋のJBCスプリント、06年は川崎のJBCマイルを制し、昨年の大井では「JBC3階級制覇を目指す」としてクラシックに挑戦し、話題となった。その昨年は4着に敗れたが、今年はマイルチャンピオンシップ南部杯で3連覇を果たし、8歳でも衰えのないことを証明して見せた。そして今年はアドマイヤドンに続くJBC3勝目を目指し、JBCスプリントに断然人気で臨んだことも、今年のJBCを盛り上げる重要な要素のひとつとなった。

そのJBCスプリントは、結果的にではあるが、ダートスプリント路線の「世代交代」となった。ブルーコンコルド、メイショウバトラー、リミットレスビッドと、この路線を牽引してきたベテラン勢が4着以下に沈み、勝ったのはこれが重賞初制覇となるバンブーエール。そして2着は、前走白山大賞典で重賞初制覇を果たしていた3歳馬のスマートファルコンだった。

バンブーエール陣営のJBCスプリントに賭ける意気込みは相当のものだったようだ。一方、デビュー以降マイル以上の距離しか経験のなかったスマートファルコンは、クラシックでは除外確実と見て、JBCスプリントと武蔵野ステークスと、両天秤にかけてのエントリーだったとのこと。

JBCのみならず、地方競馬で行われるダートグレードでは、限られた所属枠ゆえ中央勢にとっては出走すること自体が容易ではない。そうした状況でのスプリント路線の世代交代も、今年のJBCを象徴する出来事のひとつだった。

さらに今年注目されたことのひとつとして、8回目にして園田競馬場で初めてJBC開催が実現したことが挙げられる。

大阪という日本第二の都市の中心部から近く、交通手段でも極めて便利な立地条件にある園田競馬場で、これまでJBCが行われてこなかったのは、おそらくその施設の小ささゆえだろう。1周1051mは、現在ダートグレードが行われている競馬場ではもっとも小回り。しかしそれ以上にJBCの園田開催に二の足を踏ませていたのは、住宅街の中の限られた土地、そして限られたスタンドで、押し寄せてくるファンを収容しきれるかどうかという不安だったのではないだろうか。

しかしその不安は見事に払拭された。

JBCのレースが行われるときには、スタンド前は人、人、人で埋めつくされた。近年の園田競馬場では見たことのない光景だった。にもかかわらず、馬券の売り残しはほとんどなかったようだし、食事面でも行列こそできていたものの、食べられなくて困ったというようなことも聞かれなかった。これはおそらく05年の名古屋での経験が生きたものと思う。

目標としていた入場人員25,000人に対し、実際の入場は22,174人。これは目標に達しなかったというより、仮に25,000人のファンが来場してもスムーズに競馬開催が行われるよう周到な準備をした上で、その想定内に収まったと捉えたい。

一方で、1日の総売得目標17億円に対し、20億円を超える売上げがあったことは評価に値する。もちろんこれには、最初にも書いたとおり、ヴァーミリアンVSサクセスブロッケンという、競馬ファンなら誰もが注目するであろう対戦が実現したことも大きい。しかし裏を返せば、JBCがそれだけのレースになったということでもある。それほどの大一番が滞りなく実施できたということは、園田競馬場のみならず、地方競馬全体の自信にもなっただろうし、今後さまざまな展望も開けてくる。

JBCは、さまざまな競馬場での持ち回り開催がひとつの「ウリ」としてスタートした。しかし実際には、第4回までは大井、盛岡、大井、大井という開催で、「持ち回りと言いながら、結局は大井と盛岡でしかできないのか」という声も聞かれた。しかしその後は、距離にある程度の融通を持たせることで、名古屋、川崎、園田での開催を実現させた。

来年は名古屋での2度目の開催が決まっているが、さて、その後はあらたにどの競馬場で開催が可能だろうか。

札幌は、集客や施設面での不安はないが、距離的な面で問題がありそうだ。スプリントは引き込み線を使えば1100mがとれるが、クラシックは1700m、もしくは2400mでは合格とはいえそうもない。

門別競馬場は、大井、盛岡とともに1200、2000の基本的な距離がとれる上、フルゲートも16頭で申し分ない。しかし交通の便と、何よりスタンドなどの施設面を考えると現状では厳しいと考えざるをえない。

水沢は、盛岡がある以上は施設面で見劣りがする。浦和は2000mのフルゲートが11頭では少な過ぎる。

集客や交通の便では船橋が理想的だが、距離面が難しい。1200と2000の距離設定もあるにはあるが、トリッキーなコースで最近ではほとんど使われていない。クラシックが園田より短い1800mになるのはいいとしても、スプリント(もしくは川崎のようにマイル)が1500か1600では、2つのレースの距離設定があまりにも近過ぎる。内回りの1400mというのもあるが、現実的ではない。船橋は距離設定で悩むことになりそうだ。

ヴァーミリアン

11月3日 園田競馬場 右1870m

第8回JBCクラシック JpnI

優勝馬ヴァーミリアン

ダート王の座はゆるがず、
一騎打ちで3歳チャンプを下す

勝ったヴァーミリアンはもちろん強かったが、3歳ながら古馬チャンピオンを相手に堂々と渡り合ったサクセスブロッケンも、負けてなお強し。GI(JpnI)馬5頭が顔を揃えた豪華メンバーでも、やはり注目の2頭は力が抜けていた。園田1870mのレコードを0秒6更新する決着も当然の結果だった。

サクセスブロッケンがハナに立ち、2番手にフリオーソ、そしてヴァーミリアンと続く展開。3コーナー手前でヴァーミリアンが仕掛けると、3~4コーナーでは、ダート3歳チャンピオン、地方現役最強馬、中央の古馬チャンピオン、3頭が一団となり、スタンドを埋め尽くしたファンの歓声も一気に最高潮に達した。

直線を向いてもサクセスブロッケンが先頭だったが、すぐにヴァーミリアンが交わして先頭。ここからは2頭の一騎打ち。サクセスブロッケンが一旦は遅れたが、ゴール前差し返す意地を見せた。しかしヴァーミリアンは二度と先頭を譲らず、サクセスブロッケンをクビ差で抑え、JBCクラシックJpnI連覇を果たした。

そしていつものように後方追走から差を詰めてきたメイショウトウコンがサクセスブロッケンに3/4馬身まで迫る3着に入り、フリオーソは直線後退して4着だった。

「海外遠征帰りで、小回りで、心配がないわけではなかった」というヴァーミリアンの武豊騎手。しかし石坂正調教師は「休み明けは感じさせなかった。小回りを考えるより、ヴァーミリアンは強いんだと思うことにしていた」と自信を持って臨んでいた。

わずかアタマ差2着に敗れたサクセスブロッケンの横山典弘騎手にとっては、スタートが痛恨だったようだ。出遅れというほどではなかったが、トモを滑らせてダッシュがつかず。無理せず先頭に立ったようには見えたが、相手がヴァーミリアンでは、やはりそのわずかな不利が最後まで影響したのだろう。

中央勢や船橋のフリオーソにとっては、経験のない小回りの馬場が、ともすればどんなレースになるのかという不安材料でもあった。しかし終わってみれば、初めて1周1051mという園田競馬場で行われたこのレースは、JBC史上に残る名勝負となった。

ヴァーミリアンはこのあと、ジャパンカップダート、東京大賞典と、昨年同様に秋のダートGI(JpnI)3連勝を目指す。サクセスブロッケンも当然雪辱を期しているだろう。その戦いにはアメリカ挑戦を続けたカジノドライヴも加わるかもしれない。地方の雄フリオーソも巻き返しを狙う。

今後のダート頂上決戦への期待をさらに高めるJBCクラシックでもあった。

COMMENT

  • 武豊 騎手

    武豊 騎手

    スタッフが万全に仕上げてくれて、返し馬の感触がすごくよかった。スタートで不安があるのですが、いいスタートがきれました。乗りやすい馬で、小回りもうまくこなしてくれました。復帰を楽しみにしていたので、強いヴァーミリアンが見せられてよかったです。

  • 石坂正 調教師

    石坂正 調教師

    ドバイからは間隔もあり、去年のJBCクラシックもドバイ以来で強い競馬をしていたので、だいじょうぶだと思っていました。結果を見たらやはり強かったですね。去年の勢いが衰えていないというのが確認できました。

バンブーエール

11月3日 園田競馬場 右1400m

第8回JBCスプリント JpnI

優勝馬バンブーエール

世代交代のスプリント 連勝の勢いでJpnI初制覇

新興勢力の台頭で、世代交代を感じさせられるJBCスプリントJpnIだった。

勝ったのは、これが重賞初制覇となるバンブーエール。そして2着には、前走白山大賞典JpnIIIでの重賞初制覇からスプリントへと路線変更した3歳馬スマートファルコンが入り、断然人気となったブルーコンコルドなど、ここ何年かに渡ってこの路線を牽引してきたベテラン勢は4着以下に敗れた。

それにしてもバンブーエールは見事な逃げ切りだった。好スタートから無理することなく先頭に立つと、向正面まで手綱をがっちり抑えたまま。4コーナーでは直後にスマートファルコンに迫られたが、直線では並びかけることを許さず、1馬身差を保ったままゴール。松岡正海騎手の左手が挙がった。

そして園田競馬場ではめずらしいウイニングラン。松岡騎手はよほど嬉しかったのであろう、検量室前に戻ってくると、今度は馬上で両手を大きく広げ「やったー!」と歓喜の声を上げた。

バンブーエールは、3歳時にジャパンダートダービー、ダービーグランプリの両GIで2着があったが、その後4カ月の休養。さらに昨年5月から今年7月にかけても長期休養があった。ダート短距離路線で本格化したのはその後のこと。復帰戦のプロキオンステークスGIIIは4着だったが、松岡騎手に乗替り、ダートオープンを3連勝でここに臨んでいた。ただ、その3連勝目となった前走は、松岡騎手は騎乗停止中。新人・三浦皇成騎手が手綱を取り、JRAの新人騎手として武豊騎手の記録に並ぶ69勝目を挙げ、大きな話題となっていた。それだけに松岡騎手にとっては、もう一度自分に手綱が戻り、バンブーエールに初重賞、そしてJpnIのタイトルをもたらしたことが嬉しかったようだ。

一方、JBC3勝目に加え、GI(JpnI)8勝目という偉業がかかっていたブルーコンコルドは残念ながら4着。スタート後は慎重に外に持ち出し、向正面で仕掛けるという、この馬の持ち味を生かす正攻法でのレース運び。しかし、追い出してからの反応が本来のものではなかった。「やっぱりズブくはなっているようで、今は1400より1600くらいのほうがいいのかな」と幸英明騎手は振り返った。

そして中央勢掲示板独占の一角を崩し、3着に食い込んだのが、地元兵庫のアルドラゴン。当初は白山大賞典からJBCクラシックという予定だったそうだが、地元の1400m戦で強い勝ち方をしたことから、白山大賞典は使わず、JBCスプリントへ路線変更。兵庫では初のJBC開催、初のJpnIレースで地元馬が見せた意地の3着だった。

COMMENT

  • 松岡正海 騎手

    松岡正海 騎手

    あまり速くなりそうになかったので、行ってしまいましたが、スローだったのでだいじょうぶだと思いました。1頭になると遊ぶところがあるのですが、手ごたえには余裕がありました。マイペースでいけたので、うしろは気にならなかったです。

  • 安達昭夫 調教師

    安達昭夫 調教師

    行けるんだったら行こうと話していました。2000mも使ってましたけど、この馬には1600くらいまで、スピードを生かす競馬のほうがいいのかなと思います。このあとは未定ですが、これで(賞金を稼いだことで)思うようなところが使えますね。

文:斎藤修 | 写真:いちかんぽ

第9回 2009年 名古屋競馬場

ヴァーミリアン

11月3日 名古屋競馬場 右1900m

第9回JBCクラシック JpnI

優勝馬ヴァーミリアン

成長し続ける7歳馬、 GI(JpnI)8勝目の日本記録

ヴァーミリアンにずらりと◎が並んだ。単勝は最終的に1.3倍。その期待にこたえれば、02~04年のアドマイヤドンに並ぶJBCクラシック3連覇。そして、何頭かの名馬が越えられなかったGI(JpnI)勝利数の日本記録を更新して8勝目となる。

現役馬でいえば、このレースにも出走しているブルーコンコルドが昨年10月のマイルチャンピオンシップ南部杯JpnIでGI(JpnI)7勝目を挙げ、続いたカネヒキリは今年の川崎記念JpnIでその記録に並んだ。そしてヴァーミリアンは、今年6月の帝王賞JpnIを圧勝してその2頭に追いついた。

GI(JpnI)8勝の新記録達成は、やはり楽なものではなかった。

外から一気にマコトスパルビエロが交わして先頭を奪うと、さらにワンダースピードが続き、好スタートから一旦はハナに立ったヴァーミリアンは、内の3番手に控えた。

勝負どころの3コーナーでもヴァーミリアンの武豊騎手の手ごたえは楽。しかしラチ沿いのすぐ前にはマコトスパルビエロ、外にはワンダースピード、さらには直後にブルーコンコルドが迫ってきていて、外に持ち出すことができない。手ごたえはよくても、三方を囲まれ自分からはまったく動けない状況だった。

すでに外に持ち出す余裕はなく、ほとんど隙間のないラチ沿いから抜けてこられるのだろうかと思ったが、193mと短い名古屋の直線で、マコトスパルビエロの内からぐいとアタマ差前に出たところがゴールだった。

「とにかく内をずっと狙っていました。見ているほうはドキドキしたかもしれません」と武豊騎手。見ている者の印象よりも、自信を持っての抜け出しだったようだ。

2着のマコトスパルビエロから、さらにクビ差でワンダースピードが入り、終始3頭が一団で競り合う見ごたえのあるレースだった。

ヴァーミリアンは、さすがに7歳の秋ともあれば、成長や上積みはないだろうと考えるのが普通だ。しかし石坂正調教師は「成長し続けている」という。それは気性面だ。「競馬に集中している。一切ムダな動きはしない」と。なるほど、そうした部分の成長が、体力的な部分をカバーしているのだろう。

JBCクラシックJpnI3連覇に、GI(JpnI)8勝目。あらためてすばらしい記録だ。

今年もJRA勢が上位を独占する結果となり、地方最先着は、地方勢ではもっとも期待されていた笠松のマルヨフェニックスの5着。勝ったヴァーミリアンから2秒4の差をつけられた。スタートに難のある馬で、今回も伸び上がるようなスタートで、出遅れというほどではないものの、決していいスタートとはいえなかった。JpnIでは、これで昨年の帝王賞(4着)に続いての掲示板確保。さすがにJpnIクラスになると厳しいが、JpnIIIならどこかでひとつくらいはと期待したい。

COMMENT

  • 武豊 騎手

    武豊 騎手

    スタートがよかったので、このコースならハナを切ってもいいかなと思っていました。とにかく乗りやすい馬です。外には出られないと思い、内がちょっとあいたときに一気に行こうと思いました。3連覇ですが、(馬の状態は)今が一番いいかもしれないです。

  • 石坂正 調教師

    石坂正 調教師

    手ごたえは十分あるけど、前に馬がいて出られない展開。あそこから出てこられたのがヴァーミリアンの力ですね。落ち着いて競馬に集中していて、よくぞこういう精神状態の馬になれたなと思います。体力的に衰えを見せていませんし、次のジャパンカップダートでも勝利に向かっていくことができると思います。

スーニ

11月3日 名古屋競馬場 右1400m

第9回JBCスプリント JpnI

優勝馬スーニ

ダート短距離でこその強さ、3歳馬がスプリント初勝利

強いスーニが戻ってきた。

昨年2歳時、全日本2歳優駿JpnIまで圧倒的なレースぶりで4連勝したときは、3歳になってどれほどの活躍をしてくれるのだろうと期待を抱かせた。年が明け、芝のアーリントンカップGIIIは惨敗だったものの、伏竜ステークスでは59キロを背負ってゴール前猛然と追い込む強い競馬を見せた。しかしその後、兵庫チャンピオンシップJpnIIでゴールデンチケットにクビ差で敗れると、ジャパンダートダービーJpnIは惨敗ともいえる6着。レパードステークスでも決定的ともいえる3馬身差をつけられてトランセンドに敗れていた。

ただ、あらためてこの馬の力を再認識させられたのが、古馬と初対戦となった前走の東京盃JpnIIだったのではないだろうか。昨年のJBCスプリントJpnIを制したバンブーエールには敗れたものの、上がり3ハロン36秒9という鋭い末脚を繰り出しての2着は、バンブーエールの36秒8と比べても見劣るものではなかった。

そして今回、バンブーエールは残念ながら浅屈腱炎によって戦線離脱となったものの、スーニはこの短い距離でこそ力を発揮するのだというレースをあらためて見せてくれた。

高知の快速馬ポートジェネラルが逃げ、スーニはその2番手を追走。向正面では抑えきれないような手ごたえだった。3~4コーナーで外からアドマイヤスバルがまくってくると、先に行かせまいと追い出され、直線では単独で先頭に立ち、そのまま押し切った。

見せ場をつくったアドマイヤスバルだが、2100mの白山大賞典JpnIIIを勝ってここに臨んで2着という結果は、奇しくも昨年のスマートファルコンと同じ。「4コーナーで並びかけたときは勝てると思いました。もう少し距離が延びたほうがいい」と勝浦正樹騎手。3/4馬身差で振り切られたのは、距離適性の差だろう。アドマイヤスバルは、目標であるジャパンカップダートGIであらためて期待ということになる。

そして今回、注目を集めたことのひとつが、芝のスプリンターズステークスGIできわどいハナ差の2着だったビービーガルダンのダート初参戦。前半こそスーニをぴったりマークする位置を進んでいたものの、直線では置かれてしまい、離されての6着。「返し馬の感じはむしろ芝よりいいかと思ったけど、あれだけ負けたということは、やっぱりダートは合わないということでしょう」と安藤勝己騎手。芝ではGI級でも、そのスピードが通用するほど今のダート路線のレベルは甘くはないということだろう。

地方勢は、船橋のノーズダンデーが勝ち馬から1秒2差の4着と好走。一方で、一昨年の覇者フジノウェーブは、中団のまま5着。この馬の適距離はやはり大井の1200mのようだ。

JBCでは、クラシックのほうはアドマイヤドンが02年の3歳時に勝っているものの、スプリントを3歳馬が制したのは、今年のスーニが初めてのこと。このあとの武蔵野ステークスGIIIに、スーニに土をつけたテスタマッタ、トランセンドらが出走予定となっているが、今年のダート戦線における3歳馬もかなり高いレベルにありそうだ。

COMMENT

  • 川田将雅 騎手

    川田将雅 騎手

    前走の東京盃は、久しぶりに短い距離だったこともあって、次につながる競馬をしたのですが、今回は勝ちに行く競馬をしました。3コーナー手前で流れが落ち着いて、そのあとに外からアドマイヤスバルが上がってきたので、すぐにはエンジンがかからなかったのですが、最後もしっかり伸びてくれました。3歳馬でJpnIを獲ってくれて、ほんとによくがんばってくれたと思います。

  • 福島豊 助手

    福島豊 助手

    ビービーガルダンがハナに行ってくれると思ったけど、それでも2番手からは理想的な展開でレースができました。ジョッキーも折り合いはついていたと話していたし、コーナーワークも問題ありませんでした。アドマイヤスバルに来られたときは脚取りが怪しいように見えましたが、相手も同じような脚いろだったので安心して見ていました。

文:斎藤修 | 写真:いちかんぽ(宮原政典、三戸森弘康)、NAR

第10回 2010年 船橋競馬場

スマートファルコン

11月3日 船橋競馬場 左1800m

第10回JBCクラシック JpnI

優勝馬スマートファルコン

思い切った作戦がピタリ的中
前走完敗した舞台での逆転劇

JBCスプリントJpnIは07年に大井のフジノウェーブが制しているが、昨年まで9回を重ねたJBCクラシックJpnIは、いまだ地方馬の勝利がない。それは多くのファンや関係者が知るところ。

そして今年、地方馬によるJBCクラシック制覇の悲願を現実のものとしようとしていたのが地元船橋のフリオーソ。帝王賞JpnIでは、これまで歯が立たなかったヴァーミリアン、カネヒキリを相手に勝利。前走、Road to JBCの日本テレビ盃JpnIIでも中央勢を寄せ付けず完勝というレースぶりだっただけに、そうした期待が高まるのは当然のことだろう。単勝1.7倍の圧倒的人気に支持された。

しかしそれに待ったをかけたのが、昨年までヴァーミリアンでこのレース3連覇を果たしていた武豊騎手だった。武騎手は、怪我で療養中の岩田康誠騎手に代わり、スマートファルコンに前走の日本テレビ盃JpnIIから騎乗。その日本テレビ盃では、フリオーソが58キロだったのに対し、内容的に完敗のスマートファルコンは56キロ。それが今回、同じ57キロとあれば、普通に考えれば勝ち目はない。

「同じレースをしたのでは逆転は難しいだろう」と考えた武騎手は、思い切った“逃げ”の手に出た。

大外14番枠のアドマイヤフジが前日の段階で除外となり、13番枠から互角のスタートを切ったスマートファルコンは、武騎手が手綱をしごいて内に切れ込みながら一気に先頭へ。スタンドからはどよめきが起きた。おそらく武騎手以外の騎手も、ファンと同様、これにはアッと思ったに違いない。「してやったり」と思ったのは、もちろん武騎手だ。

向正面に入っても軽快に逃げるスマートファルコンが単独先頭。2番手のフリオーソは、離されまいと戸崎圭太騎手が懸命に追う。

4コーナーから直線に入ると、スマートファルコンはフリオーソとの差を広げにかかり、直線半ばではすでにセーフティリード。道中追い通しだったフリオーソに7馬身という決定的な差をつけ快勝。ダートグレード11勝目にして、念願のJpnI勝利となった。

「帝王賞は強いメンバーと走ったダメージがあり、その後は夏負けもありました。正直、前走(日本テレビ盃)は仕上がり途上でした。今回は、これで負けたら仕方ないと思うくらい、仕上がりに関しては自信を持って出走できました」とは、スマートファルコンの小崎憲調教師。

対するフリオーソは、帝王賞、日本テレビ盃と完璧ともいえる強いレースをして、今回までピークの状態を保っていたのかどうか。「レース前、前回とは違って馬に気合がなかった」とは川島正行調教師。

結果、帝王賞、日本テレビ盃で完敗だったスマートファルコンが大逆転。

どのレースを目標として馬の状態をピークにもっていくか。今回、それはフリオーソ陣営にとっても、スマートファルコン陣営にとっても同じだっただろう。しかし必ずしも厩舎関係者の思い通りになるものでもなく、あらためて競馬の難しさと、奥深さを考えさせられる一戦だった。

COMMENT

  • 武豊 騎手

    武豊 騎手

    馬の状態は前走より今回のほうが断然いいと聞いていたので、(先手を)狙っていました。1コーナーに入るときもいい感じでしたし、向正面に入ったら折り合いもついて、いい走りだなと思って乗っていました。うしろはあまり気にせず、馬が気分よく走ってくれて、状態のよさも感じたので、ある程度粘ってくれるとは思っていたんですけど、それにしても強かったですね。

  • 小崎憲 調教師

    小崎憲 調教師

    前走は、まだ仕上がり途上だったので、1週先の白山大賞典も考えたんですが、やはりここを目指すには(同じ船橋を)一度使っておいたほうがいいかなと思ったので、それは正解でした。普段この馬は、一度使うと外厩に出してリフレッシュさせるんですが、今回はトレセンの中で作り直すという方法をとってみました。

サマーウインド

11月3日 船橋競馬場 左1000m

第10回JBCスプリント JpnI

優勝馬サマーウインド

他馬を寄せ付けないスピード
1000m戦でさらに強さを発揮

第10回を迎えるJBCだが、スプリントの1000mは過去最短の距離設定。加えて、日本で1000mのダートJpnIが行われるのは初めてのこと。地方競馬では、競馬場のコース形態にもよるが、2歳の早い時期には1000mやそれ以下の距離のレースもめずらしくない。しかし今回出走する中央馬5頭にとっては初めて経験する距離。それゆえ出走させる陣営にも少なからず不安があったのではないだろうか。結果は、明暗が分かれた。

1000mのスピード決戦は、やはりというか展開関係なしのサバイバルレース。スタートを失敗してしまえばそこで万事休す。五分にスタートを切った中から、手綱をしごいてじわじわと先頭に抜けてきたのは、断然人気のサマーウインド。スピードに乗ってからの二の脚は、他のどの馬にも負けない。3コーナー手前では1馬身ほど抜け出し、単独で先頭に立った。

外枠のナイキマドリードが離されまいとこれに食らいつき、芝のスピード競馬を経験しているアイルラヴァゲインも追走した。

しかしサマーウインドのスピード能力は次元が違った。直線を向くと2番手のナイキマドリードを引き離しにかかり、最後まで余裕の手ごたえのままゴール板を駆け抜けた。

4馬身離れた2着には、地元船橋のナイキマドリードが粘った。直線を向いて後退したアイルラヴァゲインに替わり、道中はやや離れた4番手集団を追走したミリオンディスクが3着を確保した。

「速すぎて、ついていけなかった」。着外に敗れた騎手の何人かが、検量室前に戻って開口一番、口を揃えていたが、それほどサマーウインドのスピードは抜けていたということだろう。

1000mが“明”と出たのは、もちろんそのサマーウインド。「この馬のスピードを思う存分発揮できる舞台だと思っていたので、記録に名前を残せてうれしいです」と藤岡佑介騎手。ともにJpnI初制覇となった庄野靖志調教師は、「こんないい馬を預けてくれたオーナーに感謝です。厩舎スタッフもよくやってくれた」と声を詰まらせた。

対してこの距離が“暗”と出たのはスーニ。昨年、名古屋1400mからの連覇がかかり、単勝では2番人気に支持されていた。結果は、サマーウインドから1秒7も離された4着。「ここ2走があまりよくなかったですが、だいぶよくなってきていました。1000mはやっぱり忙しい」と川田将雅騎手。

そして単勝54.6倍の6番人気ながら2着に粘ったナイキマドリードの健闘も光った。07年のこのレースの覇者フジノウェーブ、東京盃JpnIIでサマーウインドにハナ差まで迫ったヤサカファインらとともに、ダート短距離路線を盛り上げる南関東勢の中心的存在となりそうだ。

COMMENT

  • 藤岡佑介 騎手

    藤岡佑介 騎手

    いつもスタートがあまり速くはないんですが、ここ一番でいいスタートきってくれました。出た時点で、あとは丁寧に乗ることだけ心掛けてまわってきたので、何も不安はなかったです。4コーナーでもかなりいい手ごたえでしたし、ゴール前でもスピードは衰えなかったので、ほかの馬は追いつけないだろうと思って乗っていました。

  • 庄野靖志 調教師

    庄野靖志 調教師

    いつもより一歩目が早く出られたし、そのあと二の脚も早い段階でエンジンがかかって、スピードに乗って行けました。1000mということで、馬のスピードを十分に生かせる競馬ができました。ここまで夏からずっとがんばってくれたので、まずは馬の様子を見て、疲れをしっかりとってあげて、その後のことはじっくり考えたいと思います。

文:斎藤修 | 写真:いちかんぽ(森澤志津雄、宮原政典、川村章子)、NAR

第11回 2011年 大井競馬場

新設レディスクラシックが牝馬戦線に好影響
世界レベルの活躍馬登場も地方馬と格差

第11回を迎えたJBCの大きな進化は、JBCレディスクラシックの新設だろう。21世紀の幕開けとともに、クラシック、スプリントの2レースでスタートしたJBCは、当初からさらに別のカテゴリーのレースを増やしていくという計画があった。しかし昨年までの10年間は、同日に2歳馬の地区重賞が行われたり、大井開催時にはTCKディスタフ(現・レディスプレリュード)が行われてはいたが、JBCとしてのレースを増やすまでにはなかなか至らなかった。今回、レディスクラシックが新設されたことで、JBCはまた新たなステージに入ったといっていいだろう。

何よりその成果は、中央・地方ともに、早い段階からJBCレディスクラシックを目標に掲げる陣営があったことだろう。それによって、ここに至るダートグレードの牝馬戦線も、例年以上に盛り上がりを見せた。

もっとも注目されたのはラヴェリータだ。当初は今年春に繁殖入りする計画もあったが、JBCレディスクラシックを目標にするとして、繁殖入りを1年延期。ラヴェリータはその現役続行によって、今年さらに3つのダートグレードタイトルを加え、牡馬とのレースも含めて通算で7つものタイトルを獲得することとなった。

そしてこの牝馬戦線をさらに盛り上げたのが、女王ラヴェリータに対し、1つ下のミラクルレジェンドが挑むという、対決の構図ができたこと。結果的に、前哨戦のレディスプレリュード、そしてJBCレディスクラシックと、ミラクルレジェンドが連勝という結果になったが、そうした世代交代というのも競馬を面白くする要素のひとつだろう。

地方勢では、中央のオープンから笠松に転厩してきたエーシンクールディの存在が大きかった。グランダム・ジャパン古馬シーズンを圧倒的な強さで優勝し、レディスプレリュードでは直線半ばまで先頭で粘って3着。本番では残念ながら9着に沈んだが、これはブラボーデイジーにつつかれてオーバーペースになるという不運もあった。

今回のJBCでもっともメンバーが充実していたのがスプリントではなかっただろうか。連覇を目指すサマーウインドに、一昨年の覇者スーニ。地方勢では、前哨戦の東京盃JpnIIであわやの2着だったラブミーチャンに、昨年2着だったナイキマドリード。そして果敢にハナを切ったのも大井の快速馬ジーエスライカーだった。

JBC創設以前、ダート短距離路線の最高格付はGIIの東京盃で、さらに上を目指すとなれば、純粋なスプリンターとしてはちょっと距離が長いフェブラリーステークスGIしかなかった。

近年、ダート短距離路線の層が厚くなってきたのは、JBCスプリントJpnIという目指すべき明確な頂点ができたことと無関係ではないだろう。一時期勝てなくなっていたスーニが、以前よりも力をつけての復活も見事だった。

JBCクラシックJpnIでは、地方競馬にとって残念だったのがフリオーソの回避だろう。とはいえ、昨年のJBCクラシック以来負けなしの連勝を続けるスマートファルコンと、ドバイワールドカップ2着の実績があるトランセンドとの対決は見ごたえがあった。

しかしその2頭があまりに強かったため、地方勢との力差がはっきりしていたのも確か。なんとか3着に食らいついたのもJRAのシビルウォーで、4着以下の地方勢はまったく別のレースをしているかのようだった。

そうした中央と地方の格差はJBC全体を通していえることで、地方勢でいわゆる「勝ち負け」のレースをしたのは、JBCスプリントで勝ち馬からコンマ2秒差の4着に粘ったラブミーチャンのみだった。JBCレディスクラシックでは中央勢が掲示板を独占。JBCクラシックは、高知のグランシュヴァリエが4着に入ったが、勝ったスマートファルコンからは3秒2もの差がついていた。

もはや世界的なレベルにまでなった中央勢に対し、地方勢はその差を埋めることができるかどうかが今後の課題となるだろう。

最後に東北の震災復興についても触れておきたい。JBCを含めた大井の開催中、震災復興のシンボルとして場内に多数展示された大漁旗は壮観だった。これは津波によって流されたものを、ボランティアがきれいに洗濯したもの。また、盛岡競馬場の名物・ジャンボ焼き鳥と、水沢競馬場名物・ホルモンの出店販売も大盛況。昨年船橋のJBCでもご当地グルメが盛況だったように、JBC当日には、今後も全国の競馬場の人気グルメなどの販売はぜひとも続けていってほしい。

スマートファルコン

11月3日 大井競馬場 右2000m

第11回JBCクラシック JpnI

優勝馬スマートファルコン

圧倒的なスピードで連勝 ドバイへ向けた戦いは続く

スマートファルコンとトランセンドに人気が集中するであろうことは予想されたが、最終的に馬連複が100円元返しになると想像できた人はいただろうか。

当初はエスポワールシチー、フリオーソも参戦する意向を示し、現役ダート4強の直接対決がここで実現するかに思われた。しかしフリオーソは日本テレビ盃JpnIIでの競走除外から完調とまではいかずに回避。エスポワールシチーもマイルチャンピオンシップ南部杯JpnIでの4着敗退が納得いかなかったか、6日のみやこステークスGIIIへ回ることになった。

4強のうち2頭が抜け、残る2頭の実力が断然で、馬券的な興味には欠ける組合せとなった。しかし昨年のJBCクラシックJpnIから6連勝中のスマートファルコンに、ドバイワールドカップ2着で世界レベルの実力を見せつけたトランセンド、2強の激突は、おおいに興味をかき立てられる一戦となった。先行タイプの2頭がどんな駆け引きでレースを進めるのか、そして結果はどうなるのか。

結果から言ってしまえば、スマートファルコンが勝ち、トランセンドが1馬身差で2着。3着のシビルウォーには3馬身半差で、4着馬には大差がついた。2強での決着。しかしこれを一騎打ちと言っていいものかどうか。一騎打ちと言えば想像するのは、2頭が馬体を併せて激しく叩き合い、その後ろには差がついているような状況だろう。

スマートファルコンは、トランセンドよりもひとつ外の枠だったにもかかわらず、今回も単独で逃げた。トランセンドの藤田伸二騎手もそうした展開を想像していたのか、競りかけてはいかず2番手に控えた。向正面では2頭の間に3~4馬身ほどの差がついた。スマートファルコンのひとり旅といってもよい。

4コーナーではスマートファルコンの武豊騎手の手綱はまだがっちりと押さえたままだったのに対し、3コーナーから差を詰めてきたトランセンドの藤田騎手は早くもムチを入れた。そして直線ではスマートファルコンが引き離しにかかり、そのまま圧勝かにも思えた。しかしゴールが近づくにつれ、トランセンドがじわじわと差を詰めた。その差を1馬身まで詰めてのゴール。

直線の後半では、武豊騎手がステッキを抜いて、必死に追う姿があった。見ていてドキドキする展開だった。勝ったスマートファルコンにとって、2着との1馬身差は、昨年のJBCクラシック以降では、もっとも小さい着差だ。やはりそれだけ力は接近していた。

藤田騎手は、「相手のほうがスピードがあるから、こういう競馬も覚えさせないと。結果は悲観はしていないです」と、スマートファルコンを行かせるだけ行かせて、最後に差し切るというレースをイメージしていたのだろう。結果的に交わすまでには至らなかったものの、見せ場はつくった。

スマートファルコンの単独逃げではあったが、トランセンドの藤田騎手は4~5馬身以上には差を広げられることはなかった。おそらく両騎手の間には相当な駆け引きがあったに違いない。馬体を併せることは一度もなかったが、内容的には一騎打ちと言ってもいいのではないか。

スマートファルコンの立ち場は、この1年で大きく変わった。それまでにも重賞はいくつも勝っていたが、昨年のJBCクラシックは4番人気という評価。しかしそこでJpnI初勝利を挙げると、ここまで連戦連勝で7連勝。重賞はじつに17勝目となった。

スマートファルコン陣営には、来春のドバイへの挑戦が、いよいよ現実のものとして近づいてきた。「最終目標はドバイに置いているので、そこに行けるようにローテーションを組んでいく」という小崎憲調教師のコメントは、前回の日本テレビ盃JpnIIのときから変わっていない。

トランセンド陣営も、当然のことながら前回2着だったドバイワールドカップが目標となるのだろう。ドバイの地で、再びこの2頭の一騎打ちが見られるのかどうか。楽しみに待ちたい。

COMMENT

  • 武豊 騎手

    武豊 騎手

    いいスタートが切れましたし、あとはいつもどおり自分のレースをするだけだったので、何も迷いはなかったです。相手も強いですから、最後まで気は抜けなかったです。(5年連続JBCクラシック制覇は)いい馬に恵まれているからで、この馬で連覇できたこともよかったです。今日はこの馬らしいレースができました。来年のドバイにはぜひ行きたいですね。

  • 小崎憲 調教師

    小崎憲 調教師

    ジョッキーともレース前に入念に打合せしました。とにかくこっちが逃げることを想定して、どこから動いていくかも想定して、ファルコンの競馬をするしかないというのが結論で、その通りの競馬をしてくれました。どこまで強くなるか、僕らもわからないですから、このままもっともっと連勝を続けて、ドバイまでいければと思います。

文:斎藤修 | 写真:いちかんぽ(森澤志津雄、国分智、川村章子)、NAR

スーニ

11月3日 大井競馬場 右1200m

第11回JBCスプリント JpnI

優勝馬スーニ

一昨年に続くJBC2勝目 コースレコードで圧勝

今年から3つの舞台が用意されたJBC。第9レースに行われるJBCレディスクラシックと第11レースに行われるJBCクラシックJpnIは一騎打ち濃厚というのが大半のファンの予想だったが、JBCスプリントJpnIだけはさにあらず。出走各馬がパドックを周回しているときに電光掲示板に表示された単勝オッズは、5頭が1ケタ台でラブミーチャンが10倍ちょうど。前哨戦の東京盃JpnIIを完勝したスーニと、そのレースで単勝1番人気ながら4着に終わったセイクリムズンが、3.6倍前後で1番人気を争っているという状況だった。

そのオッズを頭に入れつつ周回を続ける14頭を見てみると、スーニは軽さがありつつも威圧感が伝わってくる歩き。セイクリムズンは前走で12キロ減っていた体重が5キロ戻り、黒光りする体を誇示するような雰囲気があった。

ダート短距離の実績馬が集まるなかで、ファンの心を惑わしたのがダッシャーゴーゴーの参戦。デビュー戦以来、2年3カ月ぶりのダート戦出走だが、芝のGIで好勝負している実績があるだけに無視はしにくい。筆者が乗車した競馬場への送迎バスの車内でも、ダッシャーゴーゴーをどう評価するかと議論する声が聞こえてきていた。

そういった未知の魅力をもつ馬が参戦してくると、レース自体が盛り上がる。それらを含めた多数の精鋭によるJBCスプリントだったが、そのなかでもっとも勝利を祈りながら観戦していたのは、ラブミーチャンのファンだったかもしれない。

そのラブミーチャン、スタートダッシュではジーエスライカーに遅れをとったが、持ち前のスピードで2番手をキープ。残り200m付近で先頭に立って、ファンの心臓の鼓動を大きくさせた。

しかし残り100m付近からJRA所属の有力馬が猛追。とくに馬場の中央を進んできたスーニの勢いは別格で、1 1/4馬身突き抜けての完勝となった。

2着と3着には、好位から差し脚を使ったセイクリムズンとダッシャーゴーゴーが入線。ラブミーチャンは3着からクビ差粘れずの4着だった。

「惜しかったなあ」「一瞬、夢を見たよ」レース直後にスタンドで聞かれた声は、ラブミーチャンの健闘に対するものがほとんど。そんなファンの想いを柳江仁調教師に伝えると、「そうですか……。でもよく頑張ってくれましたよ。今日はちょっとテンションが高かったかな。ゲートでも横を向いていましたし。スタートのタイミングはよかったんですが」と、悔しさを抑えつつも冷静なコメント。柳江調教師からは、次走が12月5日(月)のオッズパークグランプリ(佐賀・1400m)であるという予定が示された。

しかし、スーニの破壊力はすさまじい。レースの上がりタイムを1秒以上も上回る強烈な末脚を見せられては、ダート短距離界日本最強に異論をはさむ余地などない。それでも吉田直弘調教師は「また課題が見つかりましたから、これからも成長していきますよ」と引き締まったままの表情で上を目指す。しかしながら「海外へという話も出てきそうですね」と水を向けたとき、「オーナーが決める話ですから」と言いながらも、まんざらではなさそうな表情に変わった。

COMMENT

  • 川田将雅 騎手

    川田将雅 騎手

    一時期、全然走れませんでしたが、3連勝でまたいちばん大きいところを取らせてもらいました。最後から2番目にゲート入りしたことで、リズムを崩すことがなかったのがよかったと思います。後方の位置取りは予定どおりといえば予定どおり。東京盃ではインを突きましたが、今日は下がってくる馬に邪魔されたくなかったので、最初から外を回ってくるつもりでした。1番人気に応えられてホッとしていますし、強いスーニを見せられることができたこともうれしいです。

  • 吉田直弘 調教師

    吉田直弘 調教師

    デキは最高によかったですね。スタッフや関係者に感謝します。サマーチャンピオンでも東京盃でも課題がみつかって、それをクリアするように努めてきて、そしてこのレースを通してさらに課題をつかむことができました。今日1日は喜びをかみしめますが、明日からまた新たな課題にチャレンジしていきたいと思います。

ミラクルレジェンド

11月3日 大井競馬場 右1800m

第1回JBCレディスクラシック

優勝馬ミラクルレジェンド

ハイペースでレコード決着 新設重賞で女王の座を奪う

これまで牝馬によるダートグレードでは、JpnIIのエンプレス杯が格付的には最上位。とはいえエンプレス杯を年間通しての大目標とする声はほとんど聞かれることはなかった。そこに今年新設されたJBCレディスクラシックは、初年度からダート路線の牝馬が明確に目標とするレースとなった。

その牝馬の頂点を決するレースで人気を集めたのは、ラヴェリータとミラクルレジェンドの2頭。前哨戦として行われたレディスプレリュードでも、この人気2頭の決着だった。それ以外の有力メンバーもほぼ再戦という顔ぶれとなったが、いざレースが始まると、展開はちょっと意外なものとなった。

エーシンクールディがハナを切ったのはレディスプレリュードと同じ。違ったのは、ブラボーデイジーが執拗に競りかけていったことだ。さすがに1番枠のエーシンクールディは譲らなかったが、ブラボーデイジーはハナを叩くつもりで行ったにちがいない。当然ペースは速くなる。3番手にカラフルデイズが続き、1番人気のラヴェリータは離れた4番手から、これをマークするようにミラクルレジェンドが続いた。あとの馬たちはバラバラで、縦長の展開になったことでも、いかにペースが速かったかがわかる。

直線を向いてもエーシンクールディが先頭だったが、残り300mあたりでラヴェリータが単独で先頭へ。しかし直後でマークしていたミラクルレジェンドが交わし去って勝利。最後まで食い下がったラヴェリータが3/4馬身差で2着。7馬身離れた3着にカラフルデイズが入り、JRA勢が掲示板を独占。前で競り合った2頭、ブラボーデイジーは8着、エーシンクールディは9着に沈んだ。

そして掲示板には「レコード」の赤い文字。1800m、1分49秒6は、1980年のカツアールの記録をコンマ3秒上回るもの。この距離のレコードが31年も更新されたないままだったのは、大井競馬場ではこれまで1800mで主要な重賞があまり行われてこなかったことが要因のひとつ。同じ1800mでは牝馬によるTCK女王盃JpnIIIも行われているが、今回ここでコースレコードが出たということは、もちろん前が競り合ったこともあるが、やはりそれだけレベルの高い争いになったということだろう。ちなみに今年2月に行われたTCK女王盃は、1着ラヴェリータ、2着ミラクルレジェンド、3着ブラボーデイジーという決着で、勝ちタイムは1分52秒4。同じ良馬場ながら3秒近くもタイムを縮めたことになる。

1番人気ながら2着に敗れたラヴェリータは今シーズン限りで引退と伝えられる。牝馬同士のダート重賞では10戦6勝、2着4回と、ここまでついに連対を外すことはなかった。牡馬相手でも名古屋大賞典JpnIIIのタイトルがあり、今年はかしわ記念JpnIでもフリオーソに3/4馬身差の2着があった。間違いなくダートに歴史を刻んだ最強牝馬の1頭といえるだろう。

そのラヴェリータを2戦連続して下し、女王の座を奪い取ったのがミラクルレジェンドだ。430キロ前後で、ともすれば体の線が細く見えるが、オープンの関越ステークスから3連勝で、ここにきての充実ぶりがうかがえる。このあとはジャパンカップダートGIに出走予定。「荷は重いかもしれないけど、スマートファルコンやトランセンドなど、牡馬の一線級とも勝負をしていきたい」と、管理する藤原英昭調教師は期待を語った。

ダート女王の世代交代。新設された大舞台にふさわしいレースとなった。

COMMENT

  • 岩田康誠 騎手

    岩田康誠 騎手

    今日は返し馬でも落ち着いていて、ゲートをスムーズに出たのもよかったですし、道中もいいペースで運べたと思います。3コーナーからラヴェリータのうしろについて、楽な手ごたえで直線を向いたので、これはいけるんじゃないかと思いました。直線で早めに先頭に抜け出したら遊び遊び走っているところもありましたが、それでも勝ったので、すごく強い内容だったと思います。

  • 藤原英昭 調教師

    藤原英昭 調教師

    ラヴェリータと同斤量になったことで警戒はしていたんですけど、こちらもしっかり成長してくれて、状態もよかったので、勝つことができました。いろいろな展開を予想して、それでもあれほどペースが速くなるとは思わなかったんですが、最後にラヴェリータを差すというのは、理想どおりの競馬ができたと思います。ここに来て馬の中身がしっかりしてきたし、母系もしっかりしたダート血統で、まだまだよくなると思います。

文:斎藤修 | 写真:いちかんぽ(森澤志津雄、国分智、川村章子)、NAR

第12回 2012年 川崎競馬場

ワンダーアキュート

11月5日 川崎競馬場 左2100m

第12回JBCクラシック JpnI

優勝馬ワンダーアキュート

直線弾けて5馬身突き放す 三度目の正直でJpnI奪取

昨年まで11回の歴史を重ねたJBCクラシックJpnI。第1回のレギューラメンバー以外の勝ち馬は、いずれも2連覇または3連覇を果たしているというのは広く知られるところ。それゆえJBCスプリントJpnIと比較して固い決着となる印象のクラシックだが、過去5年の結果を見ても、連対馬10頭中8頭を1、2番人気馬が占めるという、データ面でもそれははっきりと示されている。しかし今年は、昨年まで2連覇の絶対王者スマートファルコンが2カ月前に電撃引退、地方の雄フリオーソも休養中、さらには中央のダート王者トランセンドもドバイ以来の休み明けということもあり、結果的には混戦のJBCクラシックとなった。

勝ったのは、単勝5番人気のワンダーアキュート。「作戦どおり、外に持ち出してズドンといけた。久々にこの馬らしいレースができた」という和田竜二騎手のコメントが、このレースの多くを物語っている。ワンダーアキュートにとって悲願のJpnI・GI初制覇となった喜びを、和田騎手は右手を高々と挙げて表現した。

絶好のスタート切ったのはワンダーアキュートだが、マグニフィカが押してすぐに先頭を奪い、外からトランセンドも仕掛けていった。ワンダーアキュートは控えて3番手を追走。テスタマッタはそのうしろでやや掛かり気味、日本テレビ盃JpnIIまで3連勝で臨んだソリタリーキングがそのうしろ、近走好位につけるレースで成績を残してきたシビルウォーは最後方から徐々に位置取りを上げる展開となった。

向正面でソリタリーキングがまず動き、さらにはシビルウォーが一気に先団まで押し上げてきてレースが動いた。マグニフィカは後退、3コーナー過ぎでトランセンド、ソリタリーキング、シビルウォーが併走するように先頭へ。ここで仕掛けをワンテンポ遅らせたのが、ワンダーアキュートの和田騎手だった。4コーナー手前で3頭の外に持ち出して追い出されると、直線では馬場の中央を堂々と突き抜けた。早めに仕掛けてきたシビルウォーが5馬身差の2着。トランセンドは粘りきれず3馬身差の3着。そしてソリタリーキング、テスタマッタと続き、フリオーソ不在のこのメンバーでは、やはりJRA勢が掲示板を独占する結果となった。

勝ったワンダーアキュートは、これまでにもたびたび素質の片鱗は見せていた。その序章となったのが、昨年5月の東海ステークスGIIで、ゴール前一気に追い込んでのレコード勝ち。秋のジャパンカップダートGIでは後方一気でエスポワールシチーをとらえ、トランセンドから2馬身差の2着。そして東京大賞典GIでは、逃げ切りを図るスマートファルコンに対して首の上げ下げの勝負に持ち込んだ。写真判定の結果2着に敗れはしたが、どちらが勝っていてもおかしくない大接戦だった。

念願のJpnIタイトルに、管理する佐藤正雄調教師は、「三度目の正直で、やっとなんとかここにこぎつけました」と安堵の表情を見せた。とはいえ前走東海ステークスでの惨敗もあり、ここに向けては手探り状態だったようだ。「休み明けはあまり実績がなかったんで、正直どうかなという心配はありました」と和田騎手。馬体重は前走比ではマイナス21キロだが、好走した東京大賞典との比較ではマイナス7キロ。馬自身は仕上がっていたのだろう。

この後に続く、ジャパンカップダート、そして東京大賞典というGI戦線では、ワンダーアキュートが突っ走るのか、それともひと叩きされたトランセンドの復活があるのか、南部杯JpnIを圧勝したエスポワールシチーも衰えはない、はたまた前日のみやこステークスGIIIでダート6連勝とした上がり馬ローマンレジェンドの台頭があるのか。秋のダート古馬頂上決戦は、高いレベルでの混戦となりそうだ。

COMMENT

  • 和田竜二 騎手

    和田竜二 騎手

    GI級の力がある馬だとずっと思っていましたし、この馬でずっと夢見ていたので、夢がかなった一瞬でした。苦しいときもあったんですけど、絶対いつかは勝ってくれると信じていました。ほんとに強い時はこれくらいのパフォーマンスができる馬なので、今回やっとそれが出せた感じです。

  • 佐藤正雄 調教師

    佐藤正雄 調教師

    放牧から帰ってきて問題なく来ていましたが、この馬は体重の変動が激しく、今回はマイナス21キロで、ベスト体重から10キロくらい軽いかなと思ったんですけど、体はいい感じで出れたと思います。大井で見せたような脚はもってるんで、ひょっとしたらという気持ちはありました。この勢いでJRAのGIも狙います。

文:斎藤修 | 写真:いちかんぽ(国分智、森澤志津雄)、NAR

タイセイレジェンド

11月5日 川崎競馬場 左1400m

第12回JBCスプリント JpnI

優勝馬タイセイレジェンド

この秋一気に頂点を極める 晩成の血が花開いての勝利

今年のJBCスプリントJpnIは注目馬多数のメンバー構成。最終的には4頭が単勝10倍以下となったが、セイクリムズンが1.5倍で断然人気。続いてタイセイレジェンドとラブミーチャンが5倍前後と、この3頭がやや抜けた人気となっていた。

JBCの3レースのうちレディスクラシックは終了していたが、それでも観客は川崎競馬場へ続々と入場。人垣の厚さがいっそう増したパドックにJBCスプリントの出走馬が入ってきた。それと同時に小粒の雨が落ちてきたが、騎乗合図の頃には止む程度のもの。霧雨のなか、蹄音を立てる馬がほとんどいないパドックは、静かな闘志に包まれていた。

関東では初めてとなる1400mのJBCスプリント。小回りコースの川崎だけに、どの騎手もまっさきにスタートを切りたいと思っていたであろうところで、アクシデントが起こった。ゲートが開いたその瞬間、チョウサンペガサスが大きくつまずき、ラブミーチャンもタイミングが合わずに出遅れ。内枠ではセイクリムズンとダイショウジェットが空脚を踏むような格好で、最初の踏み出しが遅くなってしまった。

それとは対照的に、すぐさま先手を取り切ったのがタイセイレジェンド。好スタートを切ったシャイニングアワーと立て直したラブミーチャンが馬群の外から追いかけるが、1~2コーナーでは体半分ほどリード。向正面では先行する3頭に向かって、スーニがアウトコースから、オオエライジンがインコースから攻め上がっていくが、タイセイレジェンドは後続各馬に並ばせない。4コーナーを回り終えるあたりでは、むしろ2番手以下との差を広げていった。

そして最後の直線は独走。このレースぶりは、まさに好スタートから逃げて最後の直線で追いかける各馬を置き去りにしたクラスターカップJpnIIIのような、圧倒的なものとなった。さらに勝ちタイムは1分26秒6のレコード。このレースでは最下位に敗れたが、チョウサンペガサスの従来の記録を0秒2短縮する快記録である。

3馬身遅れの2着には、最後の直線で瞬発力を見せたセイクリムズン。さらに2馬身差でスーニが粘り込み、中団から流れ込んできたセレスハントとダイショウジェットが続いて入線。JRA勢が上位独占という結果になった。

検量室前で、「よく、ここまでたどりついた」と感慨深そうに声を発したのは、タイセイレジェンドを管理する矢作芳人調教師。この馬自身、久々となる520キロを切る体重は、陣営が勝負をかけてきたという証拠だろう。対して、昨年2着の雪辱を期したセイクリムズンは、岩田騎手が「スタートで滑ったのがすべて」と悔しがった。

地方所属馬で最先着したのは6着のオオエライジン。木村健騎手は「1コーナーで外に行きたがって……」と、左回りに敗因を求めた。そして地方競馬ファンの期待を背負ったラブミーチャンは9着。柳江仁調教師は上がり運動をしているラブミーチャンを見ながら「パドックでこんなに元気がなかったのは初めて。馬体も思っていたより減っていましたし」と、首をひねった。「それでも今の歩様などを見る限りでは、脚元に問題があったとかではなさそうですし、笠松グランプリに向けてまたがんばります」と、気を取り直していた。

その近くには、表彰式を終えて、タイセイレジェンドの様子を確認に来た矢作調教師が。花束を抱えながら愛馬を見ている矢作師の後姿は、いかにも肩の荷が下りたという安堵を感じさせる背中だった。

COMMENT

  • 内田博幸 騎手

    内田博幸 騎手

    逃げたら強いということはわかっていましたが、もし逃げられなかったら好位でと思っていました。でもスタートがすごくよくて、いい形で勝たせてもらえました。返し馬のときから馬がすごくやわらかくて、いい雰囲気でしたね。この川崎競馬場で、南関東出身の矢作調教師、内田博幸のコンビで勝ててよかったです。

  • 矢作芳人 調教師

    矢作芳人 調教師

    東京盃(2着)は、クラスターカップから少し間隔があった分かなという感じでしたが、それからずいぶんと状態が上がりました。逃げられれば大丈夫だと思っていましたし、大井の1200より小回りの1400のほうがベターですからね。今後は来年のフェブラリーステークスを目標にしていきたいと思います。

文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(川村章子、森澤志津雄、国分智)、NAR

ミラクルレジェンド

11月5日 川崎競馬場 左1600m

第2回JBCレディスクラシック

優勝馬ミラクルレジェンド

早めの仕掛けで直線差し切る
2年連続ダート女王の座に

前哨戦のレディスプレリュードでは、馬連複で1.4倍という人気となったダート牝馬の2強、ミラクルレジェンドとクラーベセクレタだが、結果は明暗の分かれるもの。クラーベセクレタはプラス15キロの太め残りに加え、スタートで後手を踏み、直線ではあきらめた感じのレースぶりだった。

しかし今回のクラーベセクレタは、大一番のここが目標とばかり、マイナス13キロと前回増えていた馬体をしっかり絞ってきた。それゆえファンは再び2強対決に期待を寄せ、ミラクルレジェンドとの馬連複で1.5倍と人気を集めた。とはいえ、やはり1番人気は前哨戦を快勝して臨むミラクルレジェンドで1.4倍、クラーベセクレタは2.8倍だった。

レースを盛り上げたのは、北海道から遠征のサクラサクラサクラだった。勢い良く飛び出して先頭に立つと、4ハロン目に13秒7という道中で息の入る楽な流れに持ち込んだ。2強は中団を追走。向正面では先行集団のうしろで、真ん中にサトノジョリーを挟み、ラチ沿いにクラーベセクレタ、外にミラクルレジェンドが併走して追走する展開となった。

4コーナーでもサクラサクラサクラの手ごたえは楽。鞍上の森泰斗騎手は、「自分のペースで行けて、4コーナーではやったと思った」という。

しかし力の差は歴然だった。外から進出してきたミラクルレジェンドが残り100mを切って抜け出し、クラーベセクレタも内から馬群を捌いて抜けてきた。

ダート牝馬の頂上決戦は2強がその実力を見せての決着。先に抜けたミラクルレジェンドが、クラーベセクレタに1馬身半の差をつけての勝利。サクラサクラサクラが3/4馬身差でしぶとく3着に粘っていた。

勝ったミラクルレジェンドは、4コーナーから直線を向くところで視界が完全に開けたのに対し、一方のクラーベセクレタは内の狭いところに入り、抜け出すまでにちょっと手間取った様子だった。2頭に実力の差はなく、勝ち負けはコース取りの差だったかもしれない。管理する藤原英昭調教師は、「広いコースだったらもっと余裕あったと思うんですけど、このコースで岩田騎手がうまいこと乗ってくれました」と、好騎乗を讃えた。

このレース連覇で、あらためてダート女王の座を揺るぎないものとしたミラクルレジェンドの今後は、あらためて牡馬一線級との対戦になるようだ。

このレースの前日に京都競馬場で行われた、みやこステークスGIIIでは、同じく藤原調教師が管理する1つ下の半弟ローマンレジェンドが、同じく岩田騎手で勝利。ダートで6連勝中と快進撃を見せている。藤原調教師はミラクルレジェンドの次走が「どこになるかはまだわかりませんが」と前置きした上で、JRAのダートでは最高峰の舞台となるジャパンカップダートGIで、姉弟の直接対決にも想いを馳せている様子だった。

COMMENT

  • 岩田康誠 騎手

    岩田康誠 騎手

    今日は勝つために来ました。ペースは遅くても速くても、この馬はどういう展開にも対応できます。川崎の3~4コーナーだけクリアできればと思っていました。少し膨らんだところもありましたが、立て直して走ってくることができました。

  • 藤原英昭 調教師

    藤原英昭 調教師

    帝王賞のあと連闘で使って、ちょっとかわいそうなことをしました。前走を叩いてここという目標を立てていましたから、ほんとに馬がよくこたえてくれました。直線が短いので、早めに仕掛けるというのは作戦にありました。3~4コーナーでスピードに乗って来たので、そのままいけると思いました。

文:斎藤修 | 写真:いちかんぽ(国分智、森澤志津雄、川村章子)、NAR

注記

当ページは、地方競馬情報誌『ハロン』及び『WEBハロン』における当時の掲載内容を引用又は抜粋し、作成しています。

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