JBC過去の熱戦
第19回 2019年 浦和競馬場
『この日、今まで見たことのない浦和になる。』
なんとも絶妙なキャッチコピーだと思った。初めて浦和競馬場で開催されるJBC。期待もあれば、不安も少なからずあったはず。だが不安は杞憂に終わり、期待を裏切らない結果になったのではないだろうか。
主催者の最大の課題は競馬場までのアクセスだったという。浦和競馬場駐車場の利用を禁止。住宅街のど真ん中にある競馬場だけに、周辺の道路を一時車両通行止めにするなど、渋滞緩和に努めた。そのうえで、南浦和駅から運行している無料送迎バスのルートを変更。浦和レッズの試合などでノウハウのあるバス会社に委託することで、スムーズなピストン輸送を実現した。約3分おきに2台が同時に発車するため、むしろ通常より快適だったという声もあったほどだ。無料送迎バスは通常は運行のない東浦和駅からも約10分おきに発車。ほかに臨時駐車場(埼玉県庁、大間木公園)からのシャトルバスも運行していたが、あくまでも南浦和駅、浦和駅からの徒歩を推奨。十分すぎるほどの対策が施された。
前夜に強い雨が降る時間帯もあったようだが、当日は朝から好天に恵まれた。午前9時を予定していた開門時刻は午前8時半に繰り上げ。その時点で正門の待機列には1,080人が並んでいたという。いわゆる開門ダッシュが予想されたため、50人ずつの入場にするなどの対応がとられた。入場料は無料。通常は入場料を投入すると開くゲートが開放され、それもスムーズな入場につながったようだ。指定席券はすべて前売りで発売。JBCに向けて新築された今年9月オープンの2号スタンド、4コーナーよりにある平成4年1月オープンの3号スタンドともに完売で、指定席券売り場は閉じられ、その前には仮設トイレが並んでいた。
競馬場内のイベントは最小限にとどめられた。馬場の中央を左右に藤右衛門川が流れる敷地。スタンドは河岸段丘の段丘崖に建てられ、出走馬は段丘面にあるパドックから坂道を下って馬場に入場する。もともとイベントを実施できるような場所が少ないうえに、パドック脇の芝生広場には仮設の臨時記者室と馬主下見所観覧席が設置され、通常よりもスペースが限られていた。イベントを最小限にしただけではなく、予想士の場立ち台を通常とは違う正門通路沿いのパドック向きに移動したり、畜産サンプリングキットの配布が行われたテントは配布終了とともに撤去するなどして、ファンが滞留しそうな場所を広めに確保。北門付近で行われたグルメイベント以外は浦和駅東口駅前市民広場でサテライトイベントを行い、場内は純粋に競馬を楽しみたいファンのための空間になっていたと思う。その甲斐だろうか、1Rから直線の攻防に大歓声。早くも見たことのない光景が広がっていた。
もっとも、初めて浦和競馬場に訪れる若いファンにとっては、場内に残るレトロな売店の数々が何よりのイベントだったかもしれない。その売店に並ぶ待機列をはじめ、この日のために考え抜かれたファンの動線や、場内のいたるところに配置された誘導員の的確さにも感嘆の声が上がっていた。ちなみに黄色いカレーでおなじみの里美食堂のカレーライスは「注ぎ足し注ぎ足しで出したので、何食出たのかよく分からないんです。普段が50食くらいなので、200食は出ていたと思いますが…」と里美さん。午後3時ごろには完売していたという。
文:牛山基康 | 写真:いちかんぽ
人気2頭の一騎打ちはハナ差で決着
帝王賞の雪辱果たしジーワン初制覇
コーナーを6回まわる中距離戦は、地方競馬の代名詞。器用さとパワー、そしてスピードという、さまざまな要素を備えていなければ勝ち切ることのできない舞台である。
帝王賞JpnIでは2着に敗れたチュウワウィザードだったが、名古屋グランプリJpnIIで小回りを経験。先団で立ち回れる器用さも評価され、単勝1.6倍の1番人気に支持された。これに対し、帝王賞JpnIを制したオメガパフュームは差し脚質ということもあり、小回りが不安視されて3.0倍の2番人気にとどまった。ただ、続く3番人気のロードゴラッソが7.4倍で、ほぼ一騎打ちの戦前予想。適性か、底力か――。初開催となった浦和JBCのクライマックスは、この一点に集約された。
大井のワークアンドラブと浦和のシュテルングランツの2頭が激しい先行争いを演じ、3番手にストライクイーグル(大井)。浦和のコースを熟知する地元勢、というより南関東のジョッキーが積極的な競馬を展開する。その後ろにチュウワウィザードがつけ、オメガパフュームは後方3番手を進んだ。
2周目の向正面でオメガパフュームが仕掛け、チュウワウィザードの直後まで位置取りを上げる。それを感じ取ったか、チュウワウィザードがスパートをかけ、3コーナーで先頭へ。他馬を振り切り、1馬身ほど抜け出した状態で直線に向いた。
そこへオメガパフュームが、ワークアンドラブとセンチュリオンの間を割って強襲。一歩ずつ差を詰め、並んだ体勢でゴールを駆け抜けた。
写真判定の結果、軍配はハナ差でチュウワウィザード。川田将雅騎手も「全然分からなくて、ゴールに入ったあともデムーロ騎手のほうが勝った雰囲気でいたので『負けたのかな』と思って帰ってきたんです」と話すほどの大接戦だった。
これでデビューから【8・3・2・0】とし、初のGI/JpnIタイトルを手にしたチュウワウィザード。コース、距離に関係なく安定して力を発揮できるのが強みで、「1戦ごとに強くなってきましたし、総合力の高い馬だなと感じています」と川田騎手。コーナー6回のチャンピオンディスタンスで、トータルバランスに優れたダート王者が誕生した。
オメガパフュームは際どい勝負に持ち込んだものの、及ばず2着。「初めてでこのコースをこなすのは難しいし、あまり手前を替えなかった」とミルコ・デムーロ騎手。これまで経験したコースは、全て1周距離が1500m以上。その脚質からも、小回りへの対応に苦戦した格好となった。それでもハナ差の2着。GI/JpnI・2勝の実力は、十分に示すことができたといえる。
さらに4馬身差の3着はセンチュリオン(浦和)。2周目の向正面で仕掛けた際に勝ち馬に抵抗され、終始外を回らされたのが響いた。森泰斗騎手は「もう少し内枠がほしかったかな。外を回されたが、食らいついて走っていた」と一定の評価。今回の結果からも“相手なり”の印象は拭いきれないが、JpnI・3着という結果は実力の証明。仕掛けのタイミングがはまったときには、ダートグレードの舞台でも勝ち切る可能性がある。
今回の上位2頭はともに4歳。帝王賞JpnI以来の実戦で、10キロ程度の馬体増だった。それでこのパフォーマンスなら、チャンピオンズカップGI、東京大賞典GIへ向けて好スタートを切ったといえる。トータルバランスのチュウワウィザードと、パワーのオメガパフューム。今後もさまざまな舞台で好勝負を演じてくれるに違いない。
文:大貫師男 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)
地方馬として3頭目のJBC勝利
菜七子騎手キッキングは2着
浦和競馬場の悲願でもあったJBC開催。そこに、南関東リーディング・浦和の小久保智調教師は管理馬を計8頭も送り出した。ダート競馬の祭典JBC競走に、ひと厩舎がこれほどの所属馬を出走させるのは記憶にない。レース前、小久保調教師にそんな話題を投げかけてみた。
「ここでちゃんと結果を出さないと、2回目、3回目のJBCが浦和に来ないと思うので、浦和でやってよかったと思われるように、ちゃんと結果を出さなくてはいけないと感じています。地元の利というのはあると思いますし、地方競馬全体が、自分の地元なら中央馬とやり合えるというのがあれば、JBCももっと盛り上がっていくでしょうし、そういう意味でもちゃんと結果を残せるように頑張りたいです」(小久保調教師)。
JBCスプリントJpnIには有力候補の一角を担っていた重賞3連勝中のノブワイルドをはじめ、ブルドッグボス、ドリームドルチェ、ジョーストリクトリと4頭を送り出した。
そんな中、御神本訓史騎手とコンビを組んだ6番人気ブルドッグボスが頂点を極めた。地方馬がJBC競走を制したのは、2017年JBCレディスクラシックJpnIのララベル以来2年ぶり。JBCスプリントJpnIを制したのは、07年に御神本騎手が手綱を取ったフジノウェーブ以来12年ぶり。そして、浦和所属馬がJBC競走を制したのは史上初。
予想通り、左海誠二騎手のノブワイルドが先手を主張していこうとするが、武豊騎手が手綱を取ったファンタジストや、藤田菜七子騎手のコパノキッキングも馬体を併せていき、1コーナーに入るまで激しい先行争いが続いた。ブルドッグボスは中団を追走。
「僕が乗せていただいたここ3走の中では一番軽い動きだったので、これならやれるという感触はありました。最初のゴール板が過ぎてからも、またペースが上がっていって、これはだいぶ速いなぁと感じました」(御神本騎手)。
ノブワイルドが僅差でリードをしていくも、3コーナー手前からコパノキッキングが並びかけていき、最後の直線に入るところでは先頭へ躍り出た。藤田騎手のGI/JpnI制覇が見えてきた瞬間……。
「4コーナーまでうまく誘導できて、追い出してからの反応もよかったですし、キッキングの伸びがあまりよくなかったので、これはつかまえられるなと思いました」(御神本騎手)。
ブルドッグボスが力強く伸びてきて、ゴール前でコパノキッキングをクビ差交わした。測ったかのような鮮やかな差し切り勝ち。勝ちタイムは1分24秒9(重)。3着には後方から伸びてきた大井のトロヴァオ。1番人気に推されていた高松宮記念GIの覇者ミスターメロディは6着に敗れた。
地方馬として3頭目のJBCウイナーになったブルドッグボス。中央時代もダートグレード競走で好走してきたが、南関東に移籍後、2年前のクラスターカップJpnIIIで念願の重賞初制覇を飾ると、その年のJBCスプリントJpnIでは優勝したニシケンモノノフにタイム差なしの3着に敗れて涙を呑んだことも記憶に新しい。
その後は脚元の不安で1年ほど長期休養に入っていた時期もあったのだが、そこから立て直しての復活劇は、ブルドッグボスの能力の高さはもちろんのこと、陣営の手腕も大きいだろう。
浦和競馬場で初めて行われたJBC開催に地元馬が勝利をするというドラマチックな結果。地元ファンにとっても、こういう瞬間が最高のファンサービスだと思う。
一方、大きな注目を集めていた藤田菜七子騎手が手綱を取ったコパノキッキングにとっては非常に悔しい結果に終わった。
「ナイターじゃない分なのか落ち着きがあって、馬の状態はすごくよかったです。ゲートでかなり待たされましたが、しっかり出てくれて手応えも抜群でした。向正面を過ぎたあたりから自分でハミを取ってくれたので、少し抑えつつ、あまり邪魔しすぎないようにというのは意識して乗りました。チャンスのある馬に引き続き乗せていただきましたが、勝てなかったのは悔しいです」(藤田騎手)。
国内女性騎手初のGI/JpnI制覇に大きな期待がかけられていたが、今後に持ち越された。
COMMENT
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御神本訓史 騎手
浦和で開催されるJBCなので、浦和をはじめ地方馬にもチャンスはあると思っていました。お客様はナナコちゃんのジーワンを見届けたかったと思うのですが、勝ってしまってすいません(苦笑)。ナナコちゃんのジーワンはいずれ見られると思うので今日は素直にブルドッグボスと小久保厩舎を褒めてください。
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小久保智 調教師
まだ実感がわきません。春先に復帰して道営で調整をしていただいて、ここが最終目標という感じでやってきました。体調は一番よかったんじゃないかなと感じています。具体的な予定は決まっていませんが、脚元のこともあるので、それを相談しながら次のステップにいきたいです。まだまだやれる仔です。
文:高橋華代子 | 写真:いちかんぽ(築田純、早川範雄)
中団から上昇し差し切り勝ち
武騎手は地方全ジーワン制覇
令和初のJBC競走として実施されたJBCレディスクラシックJpnIは、武豊騎手のヤマニンアンプリメが差し切り勝ち。武騎手はこの勝利で地方競馬での全GI/JpnIの勝利騎手として名前を刻むことになった。
その道中には激しいものがあった。前日の夜に降った雨の影響で、前半戦の時計は全体的に速め。おそらく各騎手の頭にはそのことが入っていたのだろう。ゲートが開くと多くの騎手が前の位置を取りに行った。
そのスタートから200m足らず、1周目のゴール前でアクシデントが発生した。タイセイラナキラ、アップトゥユー、ゴールドクイーンが先手を奪おうとダッシュ。そこに1番枠からスタートしたモンペルデュがタイセイラナキラの内側から先行集団に加わろうとしたのだが、行き場がなくなるかたちになって戸崎圭太騎手が落馬(競走中止)。その部分の内ラチは大きくへこんでしまった。
11番枠からのスタートだったファッショニスタは、その影響を受けることなく4番手を追走。逆にレッツゴードンキは先行勢の後ろでインコースに進路を取ろうとしていたため、そのアクシデントを避けて急ブレーキ。最後方からの競馬になってしまった。
一方のゴールドクイーンはマイペースの逃げが続き、3コーナーでは2番手に浮上したファッショニスタとの差がおよそ3馬身。そこに、2コーナーあたりでは隊列の中ほどにいたヤマニンアンプリメが一気に近づいてきた。その勢いは遠くからでも感じられるほどで、みるみるうちに各馬を追い抜いて、残り400m地点で2番手に上昇。それでも4コーナー手前では先頭まで2馬身ほどあった。
しかしその差は一完歩ごとに縮まっていった。最後の直線に入ったところではおよそ1馬身差になり、残り100m付近で並び、ゴール地点ではゴールドクイーンに2馬身差をつけて勝利。
その内容に、ゴールドクイーンの手綱を取った古川吉洋騎手は「この馬のペースで走れましたが、わりとすぐに(ヤマニンアンプリメに)来られましたね」と苦笑い。それでも3着のファッショニスタには6馬身差をつけているのだから、今回は相手が悪かったということになるのだろう。
3着馬から1馬身半差の4着には、川崎のラーゴブルーが入った。「手応えはそれほど良くなかったのですが、絞れたぶん(前走よりマイナス10キロ)、動くことができたと思います」と、鞍上の吉原寛人騎手は話した。
しかしながら1着馬と2着馬のスピードは圧倒的で、浦和の同じ距離で行われているダートグレードでは、2000年のさきたま杯JpnIII(当時)以来となる1分24秒台。2着に入ったゴールドクイーンの走破タイムは、続くJBCスプリントJpnIの勝ち時計と同じだった。
その戦いを制した長谷川浩大調教師は「クラスターカップを勝ったあと、東京盃に行く選択肢もあったのですが、ここが目標だったのでオーバルスプリントにしたんです。そのときに浦和競馬場を経験したことが、ここで生きたのかもしれませんね」と話して、感無量という表情に。開業1年目でのJpnI制覇という快挙は、長谷川調教師が調教助手時代からたずさわっていた馬がもたらすことになった。
COMMENT
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武豊 騎手
ゲートでうるさい面があると聞いていましたが、いいスタートが切れて、いい位置につけられました。向正面でゴーサインを出したときの反応も良くて、逃げた馬とは離れていましたが、つかまえられるんじゃないかと感じました。馬も2度目の浦和競馬場ということで、いい精神状態で臨めていたと思います。
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長谷川浩大 調教師
前の日の雨で展開的にどうかと心配しましたが、いい流れになってくれました。オーバルスプリントは外枠で3着でしたが、今回は枠順の運もありましたね。前走後は満足のいく調教ができましたし、最後の直線ではこれまでで一番というくらいに叫びました。(師匠の)中村均先生にもいい報告ができます。
文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)
第20回 2020年 大井・門別競馬場
馬産地門別と初の2場開催 生産者の祭典として進化
20回目、2歳カテゴリーの追加、史上初の2場開催という、記念すべきJBCは、残念ながらコロナ禍というきわめて特殊な状況で行われた。2月下旬からどこの競馬場も無観客開催が続いていたが、大井競馬場では9月の開催から人数を限定する形で入場を再開。門別競馬場ではJBC当日を含む今シーズン最後の3日間(11月3~5日)のみ、やはり人数を限定しての入場となった。馬産地にある門別競馬場は普段から生産者同士の交流の場ともなっている。今年はコロナ禍の状況ゆえ入場が制限されたのは仕方ないが、来年以降、コロナ等を気にせず通常の開催ができるようになったときには、JBC開催に併せて多くの生産者が集まれるような、いわば社交の場として盛り上がれるようなことがあってもよいのではないか。初めての2場開催ということでは、発走時刻も工夫された。JBC以外のレースでも、大井・門別それぞれ第1レースから40分間隔で組まれ、互いに重ならない等間隔となっていた。JBC4競走ではきっちり40分の間隔が確保され、大井のスプリントとクラシックの間に、2歳優駿が挟み込まれた。これによって単なる相互発売やリレー開催ではなく、2場で連携した一体感があった。
2場開催となった今回のJBCで画期的だったのは、各レースの表彰式後に生産者のインタビューが実施されたこと。レディスクラシックではファッショニスタの生産牧場であるダーレー・ジャパン・ファームの方の都合がつかなったようでインタビューがなかったが、スプリントのサブノジュニアは藤沢牧場の藤沢亮輔氏が大井で、2歳優駿のラッキードリームは谷岡牧場の谷岡康成氏が門別で、それぞれインタビューが行われた。そしてクラシックのクリソベリルでは、ノーザンファーム・吉田俊介氏のインタビューが門別競馬場で行われた。場産地・門別競馬場との2場開催で連携がしっかりと機能した。かつてのJBCでは、競馬場によっては表彰式で生産者の表彰台すらないということがあり、勝ち馬の生産者ががっかりしていたということもあった。しかしようやくこうして生産者の顔が見えるようになったことは、生産者主導の祭典と呼ぶにふさわしい。
昨年の1・2着馬を完封 王者が国内無敗を継続
ゴールの瞬間、場内から拍手が湧きおこったJBCスプリントJpnIからJBCクラシックJpnIまでの間は、門別競馬場でのJBC2歳優駿JpnIIIをはさんでいるため、大井競馬場は静かな時間がしばらく続いた。
2020年、JBCデーの4戦目。ここまでの3戦とも、単勝1番人気馬が2着以内に入れないという結果だったが、国内で無敗という成績を誇るクリソベリルの単勝オッズはほとんど動かないまま最終的に1.3倍。続く2番人気は昨年浦和のJBCクラシックJpnIでハナ差2着のオメガパフュームで4.1倍、3番人気は昨年の覇者であるチュウワウィザードで8.0倍。連勝系のオッズも含めて、この3頭に人気が集中していた。
しかしクリソベリルは帝王賞JpnI以来の休み明け。その点は心配材料といえたが、結果は2着のオメガパフュームに2馬身半の差をつける完勝。国内での無敗は継続された。
その走りには、2着馬の鞍上、ミルコ・デムーロ騎手も白旗。「自分としてもうまく乗れたと思います。でもクリソベリルはやっぱりすごい」とコメントしていた。3着に入ったチュウワウィザードのクリストフ・ルメール騎手も「勝った馬が強かったです」と、同様だった。
そのクリソベリルはパドックでリップチェーンを装着。それが多少きつめだったのか、口の左側は歯茎が見え、舌も出しながら歩いていた。そのあたりはキャリア8戦の4歳馬というところなのかもしれない。クリソベリルの直後で体を大きく見せて歩いていた3歳馬のダノンファラオのほうが、威風堂々としているようにも映った。
そのダノンファラオが先手を主張。チュウワウィザードが2番手につけ、クリソベリルは3番手。オメガパフュームはライバルたちが視界に入る4番手でレースを進めた。
軽快に逃げるダノンファラオが刻むペースは前半1000mが61秒4。後半1000mも61秒1という淀みのない流れに乗った各馬の戦いは有利も不利もなかったという印象で、その実力の差が結果に表れたという感がある。馬連複が210円で、馬連単が260円。そして3連単が520円だったのは、ファンもそう思っていることの証左だろう。
それでも全体的に見ると、逃げたダノンファラオが5着に粘る前残りの形。そのなかで差し脚を見せて4着に食い込んだ船橋のミューチャリーは「うまく差し脚がはまってくれました」と御神本訓史騎手が振り返ったにしても、今後に期待をもたせる内容だった。ミューチャリーは地方のダートグレードでは4回連続で4着以内。クリソベリル陣営が「次はチャンピオンズカップを目指して、そのあとは新型コロナ次第にはなりますが、サウジカップが目標」(馬主・キャロットファームの秋田博章代表)という青写真を描いているだけに、東京大賞典GIでの前進を期待したいところだ。
それはオメガパフューム、チュウワウィザード両陣営も同様に考えていることだろう。しかしそれとは関係ない場所にいるのがクリソベリル。「種牡馬としての価値を考えるなら、海外でも結果を出すことがこの馬の宿命でしょう」(秋田代表)という高みにまで上り詰めている。
COMMENT
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川田将雅 騎手
結果を出すことができてホッとしています。返し馬で状態面は問題ないと思いましたし、前半は力みながらでしたが、それでも我慢してくれて、リズムよく走ってくれました。以前よりも全体的に体がしっかりしてきた感じがありますね。このまま次の目標に向かっていければと思います。
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音無秀孝 調教師
負けなかったことがとてもうれしいですね。今までで今日がいちばん、安心して見ていることができました。ここまで順調で、追い切りもいい内容で、スタートも決めてくれましたからね。このあとはオーナーさんと相談して、チャンピオンズカップ、そしてサウジカップでのリベンジをしたいと考えています。
文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)
瞬発力を発揮し直線抜け出す
地元の生え抜きが殊勲の勝利
今年のJBCスプリントJpnIは実に見どころの多い一戦となった。連覇に挑むブルドッグボス、藤田菜七子騎手のGI/JpnI初制覇がかかるコパノキッキング、大井1200mのダートグレードを連勝しているジャスティン、高松宮記念との芝・ダート両GI/JpnI勝利を目指すモズスーパーフレアに加え、地方勢もダートグレードウイナーを筆頭に実力馬が参戦。激戦必至の好メンバーとなった。
それだけに、レース前には地方の陣営からも「10回やっても、全て結果が違うと思う」という声が聞かれたほど。馬場や展開次第で、多くの馬にチャンスがあると思われた。
そしてスタートから波乱が起きる。昨年の覇者で3番人気のブルドッグボス、そして前走のテレ玉杯オーバルスプリントJpnIIIを制したサクセスエナジーが出遅れを喫した。それを尻目に5、6頭が激しい先行争いを展開し、前半3ハロンは33秒4のハイペース。結果的に芝GI馬のモズスーパーフレアが先頭を奪い切ったが、時計が若干速いわりに差しも決まっていたこの開催の馬場。それを地元の矢野貴之騎手は読み切っていた。
中団を進んでいたサブノジュニアと矢野騎手は、3コーナー過ぎから徐々に進出。直線の入口で前が詰まるような場面もあったが、こじ開けるようにして進路を確保すると、残り200mで持ち前の瞬発力を発揮。先団からじわじわと伸びていたマテラスカイ、逃げたモズスーパーフレアを交わし、1馬身3/4差で勝利した。
3歳の頃から重賞級と目されていたサブノジュニアだったが、初めてタイトルを手にしたのは6歳となった今夏のアフター5スター賞。「充実しているし、見せ場は作れるなと思っていた。でも、気を抜くこともなく走ってくれて、時計も速かったからびっくり」と堀千亜樹調教師が話したように、目下の充実ぶりと本格化は明らか。加えて、このレースを目標に据え、1200mに照準を絞ったローテーションを組んできたことも的中した印象だ。
矢野騎手は8番人気での勝利に、「もちろん狙ってはいたけど、信じられない気持ち」と目元に笑みを浮かべた。一昨年の春から手綱をとり、「南関でもなかなかタイトルを獲れなかったけど、これだけの力があることを証明できた。思い入れのある馬だし、大井の馬で中央勢を負かすことができてうれしい」と、地元で大仕事を成し遂げた充実感を口にした。
2着には7番人気のマテラスカイ。JBCスプリントJpnIでは2018年に続く2着となったが、激しい先行争いに加わりながら脚を伸ばす好内容で、地力の高さを証明した。武豊騎手は「外からプレッシャーをかけられた。惜しかったね」と話したが、コースを問わず、持ち前の先行力を発揮できるのは強み。今後もこの路線では注目だ。
ブルドッグボスは出遅れこそあったものの、直線で猛然と追い込んで3着と、昨年の覇者として意地を見せた。御神本訓史騎手は「勝てたレースだった」と肩を落としたが、近況もつねに掲示板を確保しているように、8歳でも衰えとは無縁。今後もチャンスはあるはずだ。
地元生え抜きのヒーローによる完勝劇に沸いた今年のJBCスプリントJpnI。サブノジュニアのより一層の飛躍に期待が集まるが、もまれたのが響いて8着に敗れた1番人気のジャスティン、追走に手間取って6着の2番人気コパノキッキングも巻き返しの余地は十分にある。頂上決戦を終え、スプリント路線にさらなる楽しみが増えた。
COMMENT
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矢野貴之 騎手
ここ2戦はスタートでもたついていたので、それを注意しながらいい位置に進められたら、と思っていました。少し窮屈だったので、開いてくれたら確実に伸びてくれるとは思いましたが、ここまで突き抜けるとは思っていませんでした。充実期を迎えており、精神力も強くなっています。
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堀千亜樹 調教師
ずっとここを目標にやってきたので、本当に感無量です。いつもパドックではおっとりしているのですが、普段の調教は充実してきているので、十分見せ場は作れるなと思っていました。早く先頭に立つと気を抜くところがあるのですが、今回はそれもなく最後までしっかり走り切ってくれました。
文:大貫師男 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)
逃げ馬マークの2番手追走 競り合い制しJpnI初勝利
前哨戦のレディスプレリュードJpnIIを3馬身差で快勝。ダートに転じてから2戦2勝のマルシュロレーヌが注目を集めた今年のJBCレディスクラシックJpnI。その単勝オッズは最終的に1.3倍と集中した。前走時はマルシュロレーヌが2.3倍でマドラスチェックは4.5倍だったが、今回は8.6倍と大きく離れてしまった。
8.2倍の支持でその間に入ったのが、7月15日以来の実戦となるファッショニスタ。続いて11.4倍でレーヌブランシュ、17.3倍でプリンシアコメータとJRA馬が続いた。
パドックでは出走15頭がすべてメンコを着用。マルシュロレーヌも落ち着いた歩きを見せていた。前向きさが感じられる雰囲気があったのはファッショニスタ。マドラスチェックは騎乗合図がかかるとすぐに、本馬場へと向かっていった。
スタート地点は大井競馬場でもっとも新しいスタンドであるG-FRONTの前。例年ならたくさんの観客がゲート入りを見守ることになるのだが、今回は大井競馬場への入場が事前申し込みによる抽選制。当選して入場したのは777名にとどまった。
それでもゲートの横にはそれなりに多くのファンが集まった。ゲート入りに時間を要したのはサルサディオーネだったが、スタートしてまっさきに飛び出したのもサルサディオーネだった。
その直後にファッショニスタがつけて、14番ゲートから発走したローザノワールが追走。マドラスチェックは2番枠からそのまま進んで4番手だったが、最初のコーナーで最短距離を通ったことで3番手に上がった。
向正面でも馬順はそれほど変わらなかったが、3コーナーが近づくにつれて、先行した馬たちがひとかたまりになってきた。逃げるサルサディオーネを斜め前に見る形でファッショニスタが進み、マドラスチェックは経済コースを通って3番手をキープ。そして道中は中団にいたマルシュロレーヌが上昇してきた。
その雰囲気ならばマルシュロレーヌが届くように思えたが、直線に入ってからの加速はいまひとつ。直線に入ったところで先頭に立ったのはファッショニスタとマドラスチェックで、残り300mあたりからゴールまでの間には、どちらも先頭に立つ瞬間があった。最後にその勝負を制したのはファッショニスタ。アタマ差での先着だった。
マルシュロレーヌはその争いに加われず、2着マドラスチェックから3馬身差の3着。「あとは前を捕まえるだけだったのですが……」と、川田将雅騎手。このあたりは前哨戦と本番を連勝する難しさが出たのかもしれない。
地方馬での最先着は4着に入った浦和のダノンレジーナ。「手応えも位置取りもよかったのですが、この距離は多少長いかな」と、本橋孝太騎手。それでもA2格付の馬がここまで戦えるのなら、今後の活躍が楽しみになる。
勝ったファッショニスタの北村友一騎手が表彰台に立っている間、安田翔伍調教師がその様子をにこやかに見ていた。「ファッショニスタには(父の安田隆行厩舎で)調教で乗ったことがあります。今回は装鞍を手伝ったくらいですが(笑)」とのことで、調教師代理で臨場した兄の安田景一朗調教助手とアイコンタクト。この結果は安田ファミリーの力で勝ち取ったといえるのかもしれない。
COMMENT
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北村友一 騎手
調教のときから状態がよさそうと感じていましたし、レースでは馬の気分を害さないようにしようと考えていました。ブリンカーの効果もあって、集中して走ってくれましたね。3コーナーあたりの手応えはいまひとつでしたが、内からマドラスチェックが上がってきたことで、再び頑張りを見せてくれました。
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安田景一朗 調教助手
パドックでも返し馬でも落ち着いていましたし、自分のペースで、いいリズムで進めていけたと思います。ただ、勝負どころでの手応えがあまりよくないように見えたので、大丈夫かと心配しましたね。でも競り合いになると強い面を見せてくれる、その長所を発揮してくれたのではないかと思います。
文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)
厳しい流れを中団から抜け出す
地元馬が第1回の勝者に名を刻む
JBC開催が始まった2001年。日高で開催される競走馬市場は、1000頭を超える上場頭数を誇るサマーセールや、1年の締め括りとなるオータムセールの売却率は、ともに約31%と低迷。最も選りすぐられた1歳馬が上場されるセレクションセールの売却率でも、54.1%と厳しい状況だった。
地方競馬の売上も厳しい状況が続いていた中、生産者が主導となり、アメリカのブリーダーズカップを範とした形で創設されたのが、JBC開催だった。短中距離でのチャンピオンを決めるレースとして始まったが、当初から2歳カテゴリーを作ることは悲願だった。それは、馬が売れず、ホッカイドウ競馬に託すオーナーブリーダーが多い状況もあった。
生産、育成、競走のサイクルは、どの地区よりも密接であるホッカイドウ競馬で、早い時期にデビューできる若駒のビッグレースは、生産者にとって待望だった。北海道2歳優駿JpnIIIを引き継ぐ形で、門別競馬場でJBCと名の付くレースが創設されたことは、JBCの理念を考えれば、大変意義深い。
JBC開催を迎えるにあたり、最も古いAスタンドを増築し、3階建ての来賓及び馬主席ができた。また、ジンギスカンを楽しむスペースとポラリススタンドの間に、2階建てのとねっこラウンジも完成した。1週前にようやく、これらの竣工式が行われたほど、何とかJBC開催に間に合ったという慌ただしい状況だったが、JBCのロゴや横断幕を見ると、関係者やメディアたちも気持ちが高まってきた。JBCデーから、事前抽選による限定的な状況ながら、ファンも入場できるようになり、第1レースから賑わいを見せた門別競馬場は、まさにダート競馬の祭典だった。
今年のホッカイドウ競馬は、例年に比べると中距離の番組が少なく、2歳の中距離戦が始まったのが、6月4日のアタックチャレンジ(1700m)。その勝ち馬であるシビックドライヴが、その後の中距離路線で物差しとなる。早い時期に中距離にシフトして勝ち上がった馬たちが、他の追随を許さない状況が、今年の2歳中距離の図式だった。
対するJRA勢は、函館2歳ステークスGIIIで2着に健闘したルーチェドーロや、プラタナス賞を勝ったタイセイアゲイン、好時計で1800mを勝ち上がったレイニーデイとカズカポレイなど、例年以上の好メンバーが揃った。
先週にかなり雨が降り、前日の夜にも一時的に雨が降った門別競馬場。大一番を控える序盤のレースで、前残りの競馬が目立ち、騎手たちも先行することを意識して騎乗していた。どのレースもハイペースとなり、中距離戦は差し馬の台頭もあったが、JBC2歳優駿JpnIIIでも序盤から激しい先行争いが繰り広げられた。
カズカポレイが逃げ、ルーチェドーロが続くラップは、12秒1-11秒5-12秒3=35秒9と速く、向正面に進んだ後も12秒4-12秒7とラップが緩まず、5ハロン通過で61秒を刻んだ。後方にいた吉原寛人騎手と岩橋勇二騎手は、「前と離れていても、慌てなくても追いつくと思った」とレース後に話していたことが、厳しい流れだったことを物語っている。
3番手にいたブライトフラッグが早めに先頭へ立ち、中団で折り合いに専念したラッキードリームが直線で力強く抜け出す。外からトランセンデンスとサハラヴァンクールが追い込み、地元勢が首位争いを演じていた時、大声を出せない環境ながらも、場内から拍手や声援が飛び交った。ラッキードリームが接戦を制し、ゴール板を過ぎた1コーナーあたりで石川倭騎手はガッツポーズを見せた。JRA勢は、レイニーデイが3着に食い込み、何とか意地を見せた。
「(18年に)エーデルワイス賞を勝った時とは違う、何とも言えない嬉しさがありますね」と石川騎手。JBC2歳優駿JpnIIIは、開幕前から関係者が目指していたレースであり、記念すべき第1回の勝者となった……。簡単に言えばそうだが、話しているとそんな単純なものではない。JBCは馬産地の祭典として定着した瞬間だと感じた。道営記念とともに、大いなる目標へ確実に育つレースとなるだろう。
COMMENT
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石川倭 騎手
乗り手に従順で、乗りやすい馬です。レース前からハイペースが想定できましたので、じっくり構えていこうと思っていました。外から何か来ていたのは感じていたので、最後まで気を緩めず、しっかり追いましたが、勝利を確信した瞬間は、本当に嬉しかったです。今後の成長も楽しみです。
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林和弘 調教師
芝を走った疲れが多少残っていた前走より、間隔を空けて立て直した今回は、状態も上がっていました。中央馬もいるので、ペースが速くなると思っていましたから、巻き込まれないようにと指示を出しましたが、石川倭騎手がうまくエスコートしてくれました。この後は、全日本2歳優駿に向かいます。
文:古谷剛彦 | 写真:いちかんぽ(浅野一行、中地広大)
第21回 2021年 金沢・門別競馬場
4コーナー先頭から後続を振り切る
21回目で地方馬初のクラシック制覇
ついにJBCクラシックJpnIを地方馬が制覇する時がやってきた。「あのフリオーソも叶わなかった」と実況された通り、創設から21年、幾多の名馬が挑んでは跳ね返されてきた高い壁を越えたのはミューチャリー(船橋)と、ここ金沢が誇るトップジョッキーの吉原寛人騎手。秋の日は短く、グッと冷え込んだ金沢競馬場だったが、一転して明るい雰囲気に変わった。
発走地点の2コーナーポケットから好スタートを決めたのは単勝5番人気と地方馬で最も人気を集めたカジノフォンテン(船橋)。前走の帝王賞JpnIはダノンファラオ(JRA)にピタリとマークされてのハイペースで直線で失速してしまったが、今回は内から同馬が来るとスッと控えて2番手の外に収まった。そうなれば自ずとペースは落ち着き、後方からレースを運ぶことの多いミューチャリーが3番手外につけた。
レースが動いたのは2周目向正面後半。ミューチャリーがペースアップしながら先頭へと迫り、出遅れて後方からとなったオメガパフューム(JRA)も大外からロングスパートをかけてきた。ミューチャリーが先頭で直線を迎えるとファンのボルテージは高まり、ゴール直前でオメガパフュームが迫ってくると手を叩いて応援する音と、大声を出してはいけないとの思いからか言葉にならぬ声も聞こえてきた。粘るか差すかの争いは、地方馬初のJBCクラシックJpnI制覇か3年連続同レース2着馬の悲願が詰まった戦い。それを半馬身差で制したのは、ミューチャリーだった。
ミューチャリーは2018年、デビューから3連勝で鎌倉記念を制し、3歳では羽田盃を鮮やかな末脚で勝利していた。古馬になってからは2年連続でフェブラリーステークスGIに挑戦するなど、強い相手と戦い力をつけてきた。「直線では机が割れるくらい叩きました」と矢野義幸調教師のレース中の様子からも、念願のタイトルだったことが窺える。
前走の白山大賞典JpnIIIに続いて手綱をとった吉原騎手は、19年のマイルチャンピオンシップ南部杯をサンライズノヴァで制してJpnI初制覇を決め、「次は地方馬でジーワンを勝つことが目標」と話したわずか2カ月後には全日本2歳優駿JpnIをヴァケーション(川崎)で制覇、そして今回、地元での偉業となった。
関係者はハイタッチして喜び合い、吉原騎手が「やったー!強かった、ありがとう」と戻ってくると、地元の騎手仲間からも祝福を受け、ファンは涙を浮かべた。
対照的に残念そうな表情で戻ってきたのは6着のカジノフォンテンと張田昂騎手。「リズムよく行けましたが、小回りで合わなかったかもしれません」と、JpnI・2勝馬の意地を見せられず肩を落とした。
2着オメガパフュームはペースが落ち着いた中で後方からロングスパートを決めてここまで迫ってきたのにはさすがのひと言。「前走ではゲート裏までメンコを着けていてボーッとしていたので、今日は早めにメンコを取って気持ちを入れたかったです」と、闘志が入りきらなかった帝王賞JpnIから対策を講じてきた。3着チュウワウィザードは骨折による休養明けながら戸崎圭太騎手は「いい状態でした」と振り返り、4着テーオーケインズや5着ケイティブレイブは小回りコースが一つのポイントとなったようだった。
JBCクラシックJpnI単体で24億123万300円を売り上げ、金沢競馬場の1競走当たりの最高売得額を更新し、1日合計売得金額も54億6426万500円で同競馬場のレコードとなったこの日、コロナの影響で入場者こそ事前当選した1300名に限定されたが、吉原騎手がミューチャリーの馬上で右手を大きく上げると、スタンドからは何度も大きな拍手が送られた。
COMMENT
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吉原寛人 騎手
どこかで大仕事をしてくれる馬だと思っていました。返し馬で前走よりもいい状態と感じて、カジノフォンテンの近くでレースを運びたいと思っていました。4コーナーでは「他の馬に絶対に交わさせないぞ」というハミの取り方でした。地元・金沢で決められて嬉しいです。馬にもファンにも感謝しています。
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矢野義幸 調教師
嬉しく、ホッとしています。前哨戦の白山大賞典を使えたことで、きちんと仕上げられました。道中は前に馬がいなくて心配しましたが、ジョッキーに任せて見ていました。体はそんなに大きくないですが、いいキレ味を持った馬で、それをうまく引き出してくれました。この後は東京大賞典の予定です。
文:大恵陽子 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)
コース取り冴えた川田騎手 直線内から突き抜けて完勝
好メンバーが揃ったJBCスプリントJpnI。東京盃JpnII上位組が人気の中心で、1番人気は海外でも好走歴のあるレッドルゼルで2.0倍。2番人気は1400メートルの重賞で5勝をあげているサクセスエナジーで4.8倍。3番人気は今年の東京スプリントJpnIIIとクラスターカップJpnIIIの勝ち馬リュウノユキナで5.5倍。地方勢もディフェンディングチャンピオンのサブノジュニアをはじめ、実力馬モジアナフレイバーや3歳のアランバローズなど実績馬たちが集結した。
今年の大きなポイントは、小回り2ターンの金沢1400メートルという舞台だ。さらには、今の金沢は内が深い独特の馬場のため進路取りも重要になってくる。実際、JBCレディスクラシックJpnIのレース後、多くの騎手がコース適性についてコメントしていた。
そんな中、この個性的なコースを全く問題にしなかったレッドルゼルが鮮やかに勝利を飾った。JBCレディスクラシックJpnIから連続で表彰台に立った川田将雅騎手は「状態が良ければこのメンバーで負けることはないと思っていました」と語った。
予想通り、モズスーパーフレアが先手を取り、2番手にベストマッチョ、サクセスエナジーやリュウノユキナが続き、レッドルゼルも大外枠から好位につけた。モジアナフレイバーは中団、サブノジュニアは後方でレースを進めた。3~4コーナーでレッドルゼルの川田騎手は内を選択して前へと進出。「この深い砂でも十分こなせるパワーを持っているので外を回すよりは内に行く方がベターだと思いました」と、直線でもモズスーパーフレアの内から伸び、最後は突き放して勝利を手にした。
3馬身差がついての2着争いは接戦となったが、こちらも直線でインを突いたサンライズノヴァが2着、半馬身差の3着にモズスーパーフレアが残った。
圧倒的な強さで、ダートスプリントの頂点に立ったレッドルゼル。馬を信じて進路を導いた川田騎手の好騎乗も光った。もともとデビュー時から安定した走りを続けてきたが、5歳の今年、根岸ステークスGIIIで重賞初制覇を飾ると、フェブラリーステークスGIでも4着に健闘し、ドバイゴールデンシャヒーンGIで2着と初の海外遠征でも好走した。前走の東京盃JpnIIは海外遠征帰りの休み明けということで3着に敗れたが、叩き2戦目の大一番で最高の結果を出し、まさに本格化。どんな状況にも対応できるポテンシャルの高さには驚くと同時に、レッドルゼルの時代が到来したことを予感させるような今回の走りだった。安田隆行調教師によると、今後はフェブラリーステークスGIを視野にいれながら再びドバイに挑戦したいとのことだ。
2着サンライズノヴァは5番人気。吉原寛人騎手とは2019年のマイルチャンピオンシップ南部杯JpnIを優勝して以来のコンビとなった。「もちろん基本は外が伸びますが、このレベルのメンバーだと外を回る距離のロスの方が痛いと判断しました」と金沢コースを知り尽くした名手の騎乗はさすがだった。
3着のモズスーパーフレアは1年ぶりのダート挑戦。松若風馬騎手は「コーナー4つが課題だったが上手に息が入れられました。でもやはり1200メートルがベスト。その分最後に差されてしまいました」と振り返った。
地方馬最先着は4着のモジアナフレイバー。「ゲートも落ち着いて出られて良かったです。小回りも上手く対応してくれました。レース直後、福永(敏)調教師と“大きいところを獲りたいたい”と話しました」と今回が3度目のコンビとなった真島大輔騎手。これまで何度もダートグレードで見せ場を作ってきた馬だけに、どこかで大きなタイトルを獲ってほしいと願うファンも多いだろう。
今年はコースの攻略が大きなポイントとなったが、来年のJBCスプリントJpnIはコース形態が全く異なる盛岡の1200メートル戦。1年後のこの舞台に向けて、全国のスプリンターたちの新たな戦いが始まる。
COMMENT
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川田将雅 騎手
前走を使ったことでとても良い状態で競馬場に来れました。返し馬でも具合の良さを感じたので自信を持って競馬をしようと思いました。1400メートルでコーナー4つのコースなのでどうなるかと思いましたが全く問題なかったです。海外でも活躍している馬ですし、能力を示すことができてよかったです。
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安田隆行 調教師
馬の状態がすごく良かったので期待していました。4つのカーブがあるので心配していましたが全く問題なくて嬉しかったです。前走は夏負けが尾を引いていましたが今回は状態もすごく上がっていました。
文:秋田奈津子 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)
初距離でも鋭い末脚を披露 1番人気に応えJpnI初制覇
百萬石ウィンドオーケストラによるファンファーレの生演奏で幕を開けた金沢競馬場でのJBC競走。そのひとつめとなるJBCレディスクラシックJpnIは、金沢に不慣れな人馬が多かったためか、やや乱れたレースになった。
スタート直後に2番ゲートからスタートしたサルサディオーネが蛇行。その影響でリネンファッションの進路が狭くなってしまった。さらに1コーナーでは先行集団を形成した4頭がぶつかり合うような形になり、外側にいたクリスティが大きく外にはじかれてしまった。
そこでは大きな声を上げる騎手もいたという危険な状況だったが、2コーナーではサルサディオーネが単独で先頭に立ち、後続の各馬の位置取りも落ち着いた。ただ、出走12頭のうち10頭が前走よりも距離短縮で、小回りコースの経験が少ない馬もいるメンバー構成。レース後に「この馬に1500メートルは短いかなと思いました」と武豊騎手が話したリネンファッションが3コーナー手前でサルサディオーネに並びかけていったのは正解だったといえるだろう。
その外をマドラスチェックが追走して、3コーナー手前での先行グループは3頭。しかし左回りに良績が集中しているサルサディオーネは早々に失速し、リネンファッションが代わって先頭に立った。
その形は3番手を進んだマドラスチェックにとって、いい目標。最後の直線に入ったところで先頭に立ち、そのまま押し切る構えを見せた。
しかし勝ったのは、そのさらに外から伸びてきたテオレーマ。中団後ろから徐々に位置取りを上げて勝ち切ったその内容は、2年連続で白山大賞典JpnIIIを制している鞍上の川田将雅騎手の経験値の差がもたらしたものかもしれない。
一方、マドラスチェックは2年連続でのJBCレディスクラシックJpnI・2着で、齋藤新騎手は惜しいところでダートグレードでの初勝利を逃す結果。それでも重賞戦線での安定した成績を今回も披露する結果にはなった。
早めに動いたリネンファッションは3着。武騎手は「最後の直線は余力がありませんでした」と話したが、1コーナーまでに2度の不利を受けてのものだけに、ダートグレードで2戦連続2着だった実力は示した。
単勝2番人気に推されたレーヌブランシュは4着で、好位追走から流れ込んだという内容。パドックでは首が高い歩きで物見が激しく、こちらも金沢コースが悪いほうに影響したように映った。松山弘平騎手も「小回りでこの距離はすこし忙しい印象」とコメントしていた。
そのなかで5着に健闘したのが浦和のラインカリーナ。陣営からの指名を受けて岩手からやってきた山本聡哉騎手は「馬のリズムを重視して乗りました。いろいろな経験をしている馬なので初コースも心配していませんでしたが、差のない競馬ができたので大健闘だと思います」と笑顔。管理する小澤宏次調教師もうれしそうな表情で検量室前に戻ってきたラインカリーナを迎えていた。
COMMENT
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川田将雅 騎手
返し馬から状態の良さを感じることができたので、自信を持って乗りました。いい時の雰囲気で走ってくれていたので、これなら大丈夫だと思いましたし、最後の直線でもこの馬らしい動きをしてくれました。自分の能力を安定して出せるタイプだと思いますし、これからも期待していただけたらと思います。
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石坂公一 調教師
前走後に馬の状態がさらに上がっていましたので、それよりもさらに上げていこうと考えて、緩めずに負荷をかけてきました。レースは川田騎手に任せましたが、ゴール前では大きな声が出てしまいましたね(笑)。目いっぱいの仕上げで臨みましたので、今後はしばらく休ませることになると思います。
文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)
後半スタミナ比べを制す 北海道勢も3頭が掲示板
10月以降の門別開催は、雨に見舞われる日が続いた。朝晩の気温が低い時期に入っているので、レース当日に晴れる時はあったものの、水分を含んだ馬場が乾き切ることはない。9月29日を最後に、良馬場で行われた開催はなかった。2日から3日朝まで降り続いた雨の影響で、午前10時に開門した時の馬場状態は、不良発表だったが、雨が止んで気温が上昇し、第1レースを前に重馬場に回復した。
全国最初の2歳重賞として定着している栄冠賞、そしてJBC2歳優駿JpnIIIに向けた中距離3重賞を振り返ると、良馬場で行われたのは、ブリーダーズゴールドジュニアカップのみ。サッポロクラシックカップは、前年の勝ち時計を2秒7上回るレコード決着。サンライズカップは、前年より2秒5も速かった。時計を大幅に詰めたことで、レベルが高い世代と片付けるのは容易だが、逆に道悪の競馬が続き、高速決着ばかりだと、時計の判断を見誤ることもある。その意味で、稍重で行われた栄冠賞が、1200メートルとはいえ最も注目すべきレースだった。
栄冠賞のレースラップは、前半3ハロン34秒4-後半ハロン38秒3。2歳6月だと考えれば、相当厳しいレースが繰り広げられていた。笹川翼騎手がコパノミッキーで参戦したが、「この時期で速い流れを経験できるのは、北海道以外の僕らにとって未経験。北海道の馬たちが強い理由が何となくわかりました」と話していた。坂路効果がクローズアップされるが、それとともに2歳のデビュー頭数が確保されている競馬なので、中央競馬のような勝ち上がり制が採られ、ピラミッドの図式がしっかりしている。栄冠賞で敗れた馬の中で、シャルフジンとリコーヴィクターが、後の中距離重賞を制したことから、栄冠賞が単なる短距離重賞ではないと、断言できる。栄冠賞を制したモーニングショーを含め、サンライズカップで重賞ウィナーたちを退けて重賞初制覇を飾ったナッジは、下級条件でも中距離戦が増えた8月に台頭。血統を考えても、距離が延びて結果が伴ってきたのは頷ける。
路線がしっかりしている北海道と比較すると、中央競馬の2歳戦は、ダートの番組が極端に少ない。今年の出走馬がすべて1勝馬。1勝クラスを経験した馬は1頭しかいない。しかも、長距離輸送を伴う点から、地の利を生かせる北海道勢が優位と考えてしまう。しかし、今年の中央勢は、各馬のレースを観ていた時に『今年は互角かそれ以上』と、個人的に感じた。アイスジャイアントとオディロンは、向正面から動きがあり、外から被される経験をしている。特に、アイスジャイアントは、3頭併せの真ん中で鎬を削った。オディロンも直線の攻防に渋太さを感じさせた。コマノカモンは、プラタナス賞で控える競馬を試みた内容が良く、この3頭は不気味に感じていた。
エンリルが先手を主張したが、外からシャルフジンが掛かり気味に追いかけたので、前半3ハロンが12秒0-10秒9-11秒9=34秒8と、短距離並みのハイペースになった。向正面に入って多少ペースが落ち着き、縦長の展開から少しずつ馬群が固まってくる。内枠だったアイスジャイアントは、ハイペースに戸惑い、ダッシュがつかず後方からのレースとなったが、ラップが落ちた向正面で少し位置を上げていた。ナッジは中団内で辛抱し、リコーヴィクターは3コーナー手前から仕掛けていく。
後半4ハロンは、すべて13秒台のスタミナ比べとなり、直線を向いての残り1ハロンでは各馬が横に広がる大混戦。アイスジャイアントがロングスパートを利かせ、内から迫るナッジの追撃を凌ぎ、2戦目で重賞制覇を飾った。1分53秒0の勝ち時計は、北海道2歳優駿を含めてレース史上3番目に速いタイム(門別1800メートルで実施時)。真冬の高速馬場だったキングオブサンデーの1分50秒8は例外的だったので、それを除けばハッピースプリント(1分52秒5)に次ぐものだった。
高柳瑞樹調教師、三浦皇成騎手も話していたが、まだ成長途上で、走りも幼い。その中で激戦に耐えた重賞勝ちは、今後のダート界を背負う存在に育つ可能性を感じる。北海道勢もナッジ、リコーヴィクター、シャルフジンの3頭が入着し、意地を見せた。JBCの2歳カテゴリーに加わり、北海道2歳優駿の時以上に、序盤の厳しさが明らかに増してきた。来年のダート界も、中央・地方ともに、この舞台を経験した馬が羽ばたいていくと信じている。
COMMENT
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三浦皇成 騎手
想定より後ろからのレースとなりましたが、経験が浅いので、あらゆることを想定して挑みました。終始手応えは良かったんですが、タフな馬場だと返し馬で感じたので、脚の使いどころを慎重にレースを運びました。2戦目で重賞を勝つことができたのは、潜在能力と素質の高さを持ってこそだと思います。
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高柳瑞樹 調教師
ゲートの出が遅く、思っていた以上に後方にいる形となりましたが、ハイペースで展開が向いた面もありました。ただ、成長の余地を残した段階で、厳しいレースの中、よく耐えてくれました。レース後の状態を見ながら、オーナーとの相談になりますが、全日本2歳優駿も視野に入れています。
文:古谷剛彦 | 写真:いちかんぽ(浅野一行、中地広大)
第22回 2022年 盛岡・門別競馬場
直線抜け出し昨年の雪辱
得意の左回りで実力発揮
JBCスプリントJpnIとJBCクラシックJpnIの間に門別競馬場でJBC2歳優駿JpnIIIが行われるため、盛岡競馬場のレース間隔は1時間20分。しかしJBCスプリントJpnIの出走馬がコースに向かったあとも、ときおり雨が降るなか、パドックの周囲にはたくさんの人が残っていた。
そして18時10分頃、出走する15頭がパドックに登場。帝王賞JpnIで優勝経験があるテーオーケインズとメイショウハリオ、そして今年UAEダービーGIIを制したクラウンプライドが人気を集めたが、なかでもテーオーケインズが単勝1.8倍と圧倒的。クラウンプライドが4.4倍で続き、メイショウハリオは5.7倍となった。
小雨は降り続いていたが、スタンドの外にはたくさんのファン。ファンファーレの演奏と拍手のあとしばらくの静寂があり、そしてゲートが開くと再び拍手が沸き起こった。
好スタートから先手を取ったのはクラウンプライド。続く2番手には前走の日本テレビ盃JpnIIで差し切り勝ちを決めたフィールドセンスがつけて、その直後にはペイシャエス。テーオーケインズとメイショウハリオは縦長になった隊列の中団あたりを追走していた。
その流れはゆるやかだと感じられるもの。前走で逃げた馬が1頭もいないメンバー構成だけに、クラウンプライド鞍上の福永祐一騎手が取った作戦は正解だったといえるだろう。そしてテーオーケインズは向正面の中央付近から上昇を開始。これもまた、勝つために必要な判断だった。
逆に、前半で2番手につけたフィールドセンスは好スタートがアダになったようで、3コーナーあたりから失速。直線の入口では逃げるクラウンプライド、2番手に上がったペイシャエス、その直後にテーオーケインズという形になり、最後の坂を上がり切ったところでテーオーケインズが先頭に立ち、2馬身半の差をつけての完勝となった。2着はクラウンプライド、1馬身1/4差の3着にはペイシャエスが粘り込んだ。
メイショウハリオは5着。濱中俊騎手は「改めて右回りのほうが向いていると感じました」と話した。そうなると、東京大賞典GIでの巻き返しが次の目標になりそうだ。
勝ったテーオーケインズは、金沢競馬場で行われた昨年のJBCクラシックJpnIで好位追走のまま4着。今年の帝王賞JpnIも1番人気で4着だった。しかし左回りでは堅実で、今回の勝利で通算7戦5勝。敗れた2回は2歳時の3着と、サウジカップGIでの8着だけだ。レース後に高柳大輔調教師が「次はチャンピオンズカップを目指します」と話したのは当然のことだろう。
一方、2着のクラウンプライドは福永祐一騎手が「この馬もいずれは(GI/JpnIを)獲れると思います」と評価。3着のペイシャエスは菅原明良騎手が「返し馬から調子のよさを感じました」とコメントしていた。今回、ユニコーンステークスGIIIを勝ったときと同じクロス鼻革に戻したことも好走の要因になったのかもしれない。
JBCデイの最終レースとして実施されたJBCクラシックJpnIのあとには、次回、2023年11月3日(祝・金)の舞台となる大井競馬場にJBCフラッグが引き渡された。同時に実施されたトークイベントにもたくさんの人。夜8時を過ぎても送迎バス乗り場の列は長く続いていた。
COMMENT
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松山弘平騎手
スタートでしっかりと出てくれたので、前半は道中のポジションは意識しないで馬のリズムを大切にして乗りました。それでも流れがゆっくりだと感じていたので、後半は自分から動いていきました。去年のJBCは負けてしまいましたが、今年は勝つ姿を見せることができたのでよかったです。
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高柳大輔調教師
前走のあと、ここまで予定通りに乗り込んできたので、勝ててホッとしています。でも見ているほうは前半に外を回らされたこともあってハラハラ。心配していました。でも最後は調教の動きどおりにしっかりと伸びてくれました。まだキッチリ仕上げたというイメージではないので、次も楽しみにしています。
取材・文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)
好スタートからマイペースで逃げ切り
イグナイターは地方馬最先着の5着
小雨が降るなかで周回が始まったJBCスプリントJpnIのパドック。出走14頭の単勝人気は、連覇を狙うレッドルゼルが2.2倍で1番人気。テイエムサウスダンが3.7倍、ダンシングプリンスが5.4倍と、今年に入ってダートグレードで勝利を挙げている3頭が支持を集めた。そのあとはヘリオスが11.3倍、リュウノユキナが11.4倍、そして兵庫のイグナイターが12.4倍。地元岩手で重賞を3連勝しているキラットダイヤは34.7倍だった。
雨が降り始めた第3レースからこのレースまでにダートで行われた6レースのうち5つで、2ケタ馬番が3着以内に入る状況で迎えた多頭数の短距離戦。レッドルゼルにとっては1番ゲートが最大の難所といえた。まして、今年8月16日に行われた同じ盛岡ダート1200メートルのクラスターカップJpnIIIでは、1番ゲートだったダンシングプリンスが出遅れて4着。レッドルゼルは行き脚がつかず、最後方からになった姿には、観客席から悲鳴に近い声があちらこちらから聞こえてきた。
その反面、ダンシングプリンスは好スタートから素早く先頭に。2番手にはヘリオスがつけ、ラプタス、リュウノユキナも続いて先行策。前半3ハロンは34秒4で、このクラスとしてはそれほど速くないペースで進んだ。
4コーナーでもダンシングプリンスが先頭で、2番手がヘリオスという順番は変わらず。その後ろはラプタスが脱落し、5番手を進んでいたテイエムサウスダンも動きがいまひとつ。代わってインコースを通ってイグナイターが差を詰めてきた。
しかしダンシングプリンスにとっては、マイペースの逃げを打てたアドバンテージが最後まで生きた。最後の直線の上り坂でも勢いが衰えずに押し切り勝ち。好位から徐々に差を詰めたリュウノユキナがクラスターカップJpnIIIに続いて2着に入り、ヘリオスが3着。レッドルゼルはラスト600メートルで33秒5という芝並みの瞬発力で猛追したが4着までだった。
そのレッドルゼルの内側で粘り込みを図っていたのがイグナイター。前走のマイルチャンピオンシップ南部杯JpnIでは4着に健闘したが、今回は4着にクビ差での5着だった。レース後に田中学騎手は「外に出したかったのですがスペースがなくて……。1200メートルを1回でも経験していればまた違っていたと思います」と振り返った。新子雅司調教師も「経験の差が出たかな」とコメント。今後は兵庫ゴールドトロフィーJpnIIIで3つ目のダートグレード勝ちを狙い、その後は1200メートル戦をターゲットにしたいと考えているそうだ。
イグナイターに続く6着には浦和のティーズダンクが入った。こちらは2歳時以来の1200メートル戦だっただけに価値がある。和田譲二騎手は「最後の直線では道中で溜めた分、いい脚を使ってくれました」と話した。そのラスト3ハロンの推定タイムはレッドルゼルに次ぐ33秒8。今後の選択肢が広がる結果といえそうだ。
逆に4着に終わったレッドルゼルは、川田将雅騎手が「気合が入りすぎたことで、ゲートのところで気持ちが切れてしまった」とコメント。テイエムサウスダンは7着で、岩田康誠騎手は「最後の直線で前走みたいにグッとくるところがなかったですね。乗った感じはとてもよかったのですが」と話した。
COMMENT
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三浦皇成騎手
前回のレースを踏まえて、うまく出すことを考えていましたが、スタートしたらさすがのスピード。道中はプレッシャーをかけられないようにと思っていましたが、余裕をもって走れていました。最後はさすがに苦しくなりましたが、そこでもうひと踏ん張りしてくれました。この馬には感謝しかないです。
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宮田敬介調教師
昨年のカペラステークスと今年のサウジアラビア(リヤドダートスプリント)はあまり不安がありませんでしたが、そのあと疲れがあったのか、100%とは言えない状況が続いたなかの勝利。偉い馬だと思います。繊細な面があるので前走は敗れましたが、11月にリベンジするんだという気持ちでやってきました。
取材・文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)
逃げ馬マークし直線抜け出す
3歳馬が4連勝で一気に頂点に
かしわ記念JpnIまで制したショウナンナデシコ。前走のレディスプレリュードJpnIIで3着に敗れて連勝こそストップしたが、エンプレス杯JpnIIから始まったスパーキングレディーカップJpnIIIまでの4連勝が色あせることはなく、ここでも単勝1.7倍の支持を集めた。だが、これが牝馬の難しさなのだろうか。「連勝していた時と比べて返し馬がおとなしすぎるなというのは感じました。いい時に戻りきっていないのかもしれない」と吉田隼人騎手。3、4番手から直線も最内を突いて伸びてはいるが、春のような爆発力はなく3着に敗れた。
勝ったのは3番人気のヴァレーデラルナ。ここが重賞初挑戦という3歳馬が一気に頂点に立った。道中は外の2番手。逃げたサルサディオーネを見ながら運び、向正面でまくってきたテリオスベルにも動じることなく、4コーナーでは2頭と鼻面を並べた。先にサルサディオーネが脱落。直線まで併走していたテリオスベルも坂上で振り切り、508キロの馬体を躍らせて抜け出すと、迫ってきた後続の末脚も封じて先頭でゴールを駆け抜けた。
最後に外からクビ差まで迫った2着はグランブリッジ。第12回にして初めて3歳馬によるワンツーで決着し、結果的に世代交代を感じさせるような一戦となった。
デビュー戦は芝で4着だったヴァレーデラルナ。ダートに替わった2戦目を5馬身差で圧勝すると、そこからは一貫してダートを走り、4戦連続2着と勝ちあぐねていた1勝クラスを6月に6馬身差の圧勝で突破してからは連勝街道。一気にオープンまで駆け上がった。
藤原英昭調教師は「最初は芝も考えていたんですが、ドゥラメンテ産駒ですけれどもダートも兼用できて、ダートの走りの方がよかったので。なんとかここに出るために賞金がほしかったので、ちょっときついローテーションで挑戦させて、勝ち切ってここにきたんです」。10月9日の3勝クラスから間隔は短かったが、それもここを目指していたからこそだったのだろう。ダートが合う理由として「やはり血統、体形の裏付けはあると思うんですけど、気持ちが前向きなので。今日もペースに乗りながら前進気勢をずっと保っていましたからね。気性的にすごくいいんじゃないですか」と話していた。
勝利に導いたのは岩田望来騎手。これがうれしいジーワン初制覇となった。「終始ヒヤヒヤするレースではあったんですが、勝ててホッとしています。夏開催で怪我をして1カ月半の休みがあったんですけど、その間も馬のことをしっかり考えていました。復帰してからも順調に勝たせていただいて、本当に恵まれているんだなと思います。努力を怠らずに来年、再来年と日本を盛り上げられるジョッキーのひとりになれたらいいんじゃないかなと思います」と笑顔が絶えなかった。ヴァレーデラルナにはデビュー戦から騎乗。この日を含め、10戦のうち8戦の手綱を取ってきたパートナーは「一戦一戦、強くなっていますし、今年に入ってずっと使い続けて崩れていない。精神的にも強くなってきています。もっともっと上に行ける素質を持っている馬だと思っていますし、来年も無事に走り続けてくれたらいいなと思っています」と、さらなる飛躍を期待していた。
4連勝で歴戦の古馬も封じた若き女王。この勢いはどこまで続くのか。「まずはここまでしっかり走り切ってくれたので、ちょっと休憩させて」と藤原調教師。来年はダート界を席巻しているかもしれない。
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岩田望来騎手
ゲートだけ気をつけて、どこで競馬するかは出てから考えようと。テリオスベルが思った以上にグッときたので、無理に競らないようにしました。流れが一気に速くなってきつくなりましたが、53キロというのもあって最後まで必死に追いました。坂を上がってから同じ脚色。それでも馬が応えて進んでくれました。
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藤原英昭調教師
タフなコースですから、しまいだけというのはたぶん来ないと思うので、前でどれだけ我慢できるかと予想して指示は出しました。この勝利の賞金は大きいと思います。いろいろな選択肢が広がってきますから。今後、ダートのどこを目指していくのか、しっかり調査して、吟味して決めていきたいと思います。
取材・文:牛山基康 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)
絶好の手応えで直線突き放す
石川騎手が好判断で勝利に導く
エーデルワイス賞JpnIIIが7年ぶりに良馬場で行われ、前週の3日間も終始良馬場での開催と、例年より意外とパワーを要す馬場が続いた。1日は良馬場スタートだったが、夕方以降の強い雨で馬場が一気に悪化。2日は好天に恵まれ、一旦は稍重に回復したものの、JBC当日は朝から雨に見舞われ、重馬場でレースを迎えた。
ホッカイドウ競馬の2歳中距離重賞は、ブリーダーズゴールドジュニアカップ→サッポロクラシックカップ→サンライズカップ→JBC2歳優駿JpnIIIと体系化されている。今シーズンは、ベルピットとオーマイグッネスの角川秀樹厩舎2頭が牽引してきた。しかし、メンバーがほぼ変わらず、比較的遅いペースでのレースが多かったので、例年に比べると、自信を持って地元有利とは言い難い面はあった。しかも、エーデルワイス賞JpnIIIが、レース史上初となるJRA勢のワンツースリーとなったこともあり、JRA勢優位と考えた方が良いと感じていた。
エーデルワイス賞JpnIIIでワンツーを決めたJRA勢は、早めに門別競馬場へ入厩していた。海を渡る輸送を考えると、キャリアの浅い2歳馬が、能力を最大限に発揮できる上で滞在する効果は大きい。1頭のみ滞在する形だと、かえって馬が寂しい思いをすることもあるが、エコロアレス、ゴライコウ、ナチュラルリバーの3頭は1週前から門別競馬場に入厩。最終追い切りも、門別の屋内坂路を利用した。
ゴライコウは、レースに騎乗することになっていた石川倭騎手が、追い切りでも跨った。単走で肩ムチを入れながら運び、さほど目立つ時計ではないものの、最後の伸びは良かった。その辺りを石川倭騎手に伺うと「物見をして、あまり集中していなかっただけで、良い動きでしたよ」と話した後、少し間をあけ「相当能力を感じる馬です。癖を掴めたし、ゴライコウで挑めるのは楽しみです」と力強く答えていた。
ホッカイドウ競馬の2歳中距離重賞がいずれも、前半3ハロン38秒前後という流れだったことを考えると、エコロアレスが引っ張る展開となったJBC2歳優駿JpnIIIの前半3ハロンは36秒5で、少し速い流れと判断できる。ベルピットはこれまで、オーマイグッネスの後ろにいるレースをしていたが、今回は初めて僚馬より前につけた。
序盤でゴライコウは馬群の後ろにいたが、向正面に入ったところで、石川騎手が外に切り替え、砂を被らない位置に持っていくことができた。今週は、内を避けて走る地元ジョッキーが多く、道中のロスがあっても外を回る方が結果が出る。馬場を把握するジョッキーを配したことが、まさに地の利だった。4コーナーを絶好の手応えで先頭に立ったゴライコウが、ベルピットらを突き放し、未勝利戦から連勝で重賞タイトルを手にした。
新谷功一調教師は、グランブリッジとクラウンプライドが盛岡JBCに出走していたため、代わりに安田光佑調教助手が表彰台に立った。グランブリッジが惜しくも2着だった後だけに「ゴライコウの勝利は、クラウンプライドに弾みがついたと思います」と笑みを浮かべていた。そして、生産者の坂本智広さんは、「本当に勝ったのか!?と、いまだに信じられないぐらい。ファンの方々の声援がある中で、こんな大きなレースを勝たせてもらえるなんて、ただただ感謝です」と、喜びをかみしていた。
2着から5着は北海道勢が占め、何とか地元の意地を見せてくれた。積極的なレースで2着だったベルピットは、負けて強しの内容と言える。3着のリアルミーも、キャリア2戦の身で最後方から追い上げた。彼らのさらなる活躍を期待したい。
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石川倭騎手
追い切りに騎乗させていただき、ある程度癖を掴んだ上でレースに挑めました。道中は余裕があったことに加え、砂を嫌がる面がありましたから、向正面で外に切り替える判断をしました。外を回るロスがあっても、馬の力を信じて乗った結果が、後続を突き放す内容でしたから、今後がますます楽しみです。
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新谷功一調教師
早めに門別へ入厩し、1頭だけでなく他の厩舎の馬と一緒に行動ができたり、田中淳司厩舎にサポートしていただくなど、周りの方々のおかげで調整できたことは、本当に感謝したいと思います。砂を嫌がるタイプですが、石川倭騎手が上手にエスコートしてくれました。最高の結果を出すことができました。
取材・文:古谷剛彦 | 写真:いちかんぽ(浅野一行、中地広大)
注記
当ページは、地方競馬情報誌『ハロン』及び『WEBハロン』における当時の掲載内容を引用又は抜粋し、作成しています。
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川田将雅 騎手
結果を聞くまでは勝ったかどうか分からなかったですね。勝ててホッとしています。スムーズにスタートを切ることができましたし、行く馬を見ながら競馬を組み立てて、終始いいリズムで競馬ができました。課題をクリアするごとに強くなってきた印象ですし、全体的に総合力の高い馬だなと思います。
大久保龍志 調教師
小回りなので、ある程度は前の位置で、と思っていました。最後はモニターを見て「負けたか」と思ってモヤモヤしましたが、こんな格好いいシーンは、なかなかないですね。前走で体重が減っていたので夏休みをとりましたが、それが好走につながったのでしょう。次走はチャンピオンズカップの予定です。