JBC過去の熱戦
第13回 2013年 金沢競馬場
金沢競馬場で初のJBC開催
国内史上初JpnI同日3レース
金沢競馬場で初めての開催、JBCレディスクラシックがJpnIに格付けされ日本で初めて1日にJpnIが3レースというJBCで、まず何よりよかったのは、天気に恵まれたことだろう。馬場状態こそずっと不良のままだったが、前日までのピンポイント予報では雨が確実だったことを思えば、少なくとも昼以降、天気の変わりやすいこの地で傘の必要なほどの雨が降らなかったのは奇跡的ともいえた。もちろん雨でもレース自体は普通に行われただろうが、あとからこの日の様々な場面を思い出してみたときに、もし予報が当たっていたらどうなっていたかは想像もできない。
JBCの初期を思えば、最近ではJRAの厩舎関係者のJBCに対する意識がかなり高いものになってきていて、早い時期からJBCを目標のひとつとして語る陣営も少なくない。それを示すひとつの出来事が、JRA所属馬の登録締切の段階で選定馬となっていたJBC3レースの各5頭ずつがそのまま出走したということ。逆に言うと、補欠馬が1頭も繰り上がれなかったのだ。つまりは、とりあえず登録だけしておくというのではなく、どの陣営も本気でJBCを狙ってきているといえるのではないだろうか。
特に今年からJpnIに格付けされたJBCレディスクラシックは牝馬のダート路線では唯一のGI/JpnIのタイトルであり、ダートを得意とする牝馬は、すでに今年のJBCが終了した今の時点から来年に向けた戦いが始まっているといってもいいかもしれない。
JRA勢が本気で臨むとあれば、3レースいずれも上位3着までを独占という結果も当然だった。さらに今年はいずれも1番人気馬の勝利となった。
なかでもJBCレディスクラシックを勝ったメーデイアは、牝馬のこのメンバーと対戦している限り負けることはないのではないかという強さを今回も見せた。社台グループ系クラブ馬主の規定で6歳春での繁殖入りが決まっており、メーデイアはこのあと1、2戦して引退ということになりそうだ。ジャパンカップダートやフェブラリーステークスも視野にあるようで、そうなると先にも触れたとおり、まさに12月の船橋・クイーン賞JpnIIIから、来年のJBCレディスクラシックへ向けた戦いが始まることになる。
地方最先着は名古屋の3歳馬ピッチシフターだった。この馬はひょっとすると来年は地方の牝馬路線の中心的存在になるかもしれない。あらためてこのレベルの馬をホッカイドウ競馬からJRAや南関東でなはなく、名古屋へ移籍させたというのは画期的で、そうした視点でも見続けていきたい。
JBCスプリントは、8歳にしてダートのこの距離は初めてというエスポワールシチーが勝利。2着には、鞍上の好騎乗もあったが初ダートのドリームバレンチノが入った。東京盃JpnIIを勝って臨んだタイセイレジェンドが実力を発揮できなかったということはあるが、ダート短距離路線を使われてきた馬たちは、ダートのマイル以上の路線や、芝の短距離路線よりレベルが一枚落ちるのかもという見方はできる。
地方最先着は大井のセイントメモリーが5着。JRAの一線級を相手にみずからペースをつくってのこの結果は、地方馬の中ではやはり力が抜けていた。6着のサミットストーンに5馬身差をつけたということもそれを示している。ラブミーチャンの引退が発表され、ダートグレードで互角に勝負できる地方馬がますます少なくなっている現状だけに、セイントメモリーにかかる期待は大きい。
JBCクラシックは、1番枠から初めての逃げの手に出たホッコータルマエが、ワンダーアキュート以下を寄せつけずコースレコードで勝利。今年前半の連戦連勝や、今回のレースぶりから、この馬はまだ成長途上にあるのではないだろうか。クリソライトは道中ずっと掛かったままで消耗してしまい、ハタノヴァンクールは故障があったということで、JRA勢で実質競馬をしたのは上位3頭だけ。結果的に地元のジャングルスマイルが地方最先着の4着に入ったが、3着のソリタリーキングからは2秒7もの大差がついていた。
JBC3レースで南関東から遠征がなかったのは、このクラシックだけ。今さら1年近くも前に引退したフリオーソの名を出してもしかたのないことだが、フリオーソの引退によって中央・地方の格差がもっとも大きくなってしまったのは、この中長距離の路線かもしれない。
最終レースには、地元2歳馬による重賞・百万石ジュニアカップが行われた。このレースが盛り上がるのかどうかという不安もあったが、果たして、直線での攻防ではスタンドのファンからJBCと変わらないほどの大歓声が上がっていた。ファンがたくさん集まれば交流重賞でなくとも盛り上がるのだということをあらためて確認できた。
その百万石ジュニアカップを1番人気のイグレシアスで制したのは吉原寛人騎手。金沢でのJBC開催を前に、数多くのマスコミの取材に応じるなど、金沢の広告塔としても奔走してきた。表彰式のあと、ファンからのサインの要望に最後までこたえ、そして騎手控室のほうに戻ってきたときの心底ホッとした様子は印象的だった。金沢不動のリーディングとして、JBC初開催に向けて背負ってきたものは大きかったに違いない。
JBCの開催で競馬以外に期待されるのは、普段より多くのファンを迎えるために出店されるその日限りのグルメだ。船橋や川崎でのJBC開催では、全国さまざまなグルメの屋台やキッチンカーが出ていたが、今回の金沢でおおいに感心させられたのは、地元能登地方の食材やグルメにこだわったこと。能登地方には、魚、肉、野菜と、それらを食べることだけを目的に観光に訪れてもいいほどすばらしい食材が豊富だ。そうしたグルメが多数提供されたことで、遠方から来場したファンも楽しめたのではないか。今後、JBCの会場となる地方都市の競馬場では、ぜひ参考にしてほしい。
文:斎藤修
初めての逃げも安定した強さ
タイトルを重ね夢はドバイへ
今年のJBCクラシックJpnIは、前日に京都で行われたみやこステークスGIIIとややメンバーが分散することになったが、それでも中央勢はこの路線の実績馬が集結し、GI/JpnI勝ち馬4頭が単勝一桁台。中でもホッコータルマエは前走マイルチャンピオンシップ南部杯JpnIで2着に敗れ連勝が途切れたにもかかわらず、ファンは単勝1.4倍という断然人気に支持した。
昨年あたりまでとダート中長距離路線のレースが明らかに変わってきているのは、中央の有力馬に典型的な逃げ馬がいないということ。今回も、さてどれが逃げるのだろうというメンバーで、逃げ馬といえるのは名古屋のサイモンロードくらいだった。
ゲートの出がよかったのはワンダーアキュートだが、ダッシュよく飛び出して行ったのはやはりサイモンロード。しかし意外にもホッコータルマエが最初の3コーナーまでにハナを取りきった。1番枠で内で包まれるのを嫌ったのかもしれない。
隊列が決まったところでペースが落ちついた。いや、落ち着きすぎたというべきか。同じ舞台で毎年行われている白山大賞典JpnIIIが、近年は中央馬と地方馬の実力差が開いてしまったこともあり、縦長となって前に中央馬、離れて後ろが地方馬という展開もめずらしくないが、今回は1周目のスタンド前で全馬がひとかたまり。ジャパンダートダービーJpnIを制して以来4カ月ぶりのクリソライトは馬群の中で行きたがって鞍上を手こずらせていた。緩みのないペースだと追走に苦労することがあるハタノヴァンクールも口を割って行きたがるような場面があった。
どの馬がどこで仕掛けてくるのかという展開だが、2コーナーを回ったあたりからホッコータルマエの幸英明騎手が徐々にペースアップ。向正面でサイモンロードが後退すると、3番手を追走していたワンダーアキュートが仕掛けていき、3~4コーナーではホッコータルマエに1馬身ほどの差にまで迫った。
しかし直線に入るとホッコータルマエが再び突き放しにかかり、後続を寄せつけず完勝。2馬身と差が開いたワンダーアキュートに、ゴール前でソリタリーキングが迫ったがハナ差及ばず3着だった。
タイムの出やすい不良馬場だったとはいえ、前半スローに流れたわりにコースレコードでの決着となったのは、後半一気にペースアップしたからだろう。ホッコータルマエが逃げ切った上り3ハロンは37秒0。ワンダーアキュートも同じ37秒0だから、向正面での差を詰められなかったことが数字でもわかる。上り最速はソリタリーキングで36秒8。近年の白山大賞典JpnIIIで上り最速だったのが昨年のニホンピロアワーズの37秒5というものゆえ、さすがにこのタイムで上がられたのでは後続勢は追いつけない。後続の末脚を封じるホッコータルマエの幸騎手による完璧な騎乗だった。
2着のワンダーアキュートは今回の馬体重がプラス17キロの519キロ。前走で12キロ減っていたぶんを戻したと言えなくもないが、馬体が完成したと思われる4歳以降、勝った時の馬体重は500キロ台前半から510キロ。武豊騎手は「枠順が逆なら違う競馬になっていたかも」と。たしかに3番枠に入った帝王賞JpnIでは逃げの手に出て、外枠に入った日本テレビ盃JpnIIでは内のソリタリーキングを行かせて2番手から。逃げ馬不在のこのメンバーでは、展開は枠順によるところが大きいようだ。
3着から大差がついたとはいえ、地元のジャングルスマイルが地方最先着の4着と健闘。クリソライトは掛かりまくったことがすべてで5着。スローに流れて好位を追走できればチャンスはあったはずのハタノヴァンクールだが、3コーナーあたりからずるずると後退。四位洋文騎手によると「3コーナー手前でガクガクっときた」という。レース直後にはその程度はわからなかったものの、どうやら脚元に異常があったようだ。
「来年はドバイに挑戦したいという夢を持っています」とは、勝ったホッコータルマエの西浦勝一調教師。まだ4歳だが、いよいよ安定した強さを発揮するようになった。次走に予定しているというジャパンカップダートGIで、あらためてその力が試される。
文:斎藤修| 写真:いちかんぽ(国分智、宮原政典)、NAR
短距離戦でもスピードを発揮
古豪健在を示してJpnI連勝
JBCスプリントJpnIのゲートが開く数日前、日本中の競馬ファンに残念な知らせが伝えられた。
「ラブミーチャンがJBCを回避」
今年は4月に東京スプリントJpnIIIを勝ち、8月にもクラスターカップJpnIIIを勝利。2001年に始まったJBCでは、2007年にフジノウェーブが挙げた勝利が地方馬による唯一のものとなっているが、ラブミーチャンにはそれ以来の期待が大いにあった。しかし調教中に右前脚を骨折。夢の続きはその産駒で見られることを祈りたい。
それでもJBCスプリントJpnIには魅力的な役者が揃った。なかでも最大の注目は、GI/JpnIを8勝しているエスポワールシチーである。しかし同馬はダート1400mが初めてで、芝を含めても2008年以来の短距離戦。ならば、スプリント路線を主戦場としてきた馬たちが黙っておれまい。タイセイレジェンドはこのレース連覇に向けて虎視眈々。さらには2年連続で2着の実績があるセイクリムズンや、フェブラリーステークスGIのタイトルがあるテスタマッタも出走メンバーに名を連ねた。また、ドリームバレンチノは今回が初のダート戦とはいえ、今年の高松宮記念GIでの2着が光る。大井のセイントメモリーは前走でJpnIIIのオーバルスプリントを制しており、こちらにも期待がかけられた。そしてレースも、その6頭が激しく火花を散らす展開となった。
ゲートが開いた瞬間に真っ先に飛び出したのはセイントメモリー。セイクリムズンがその直後でダッシュ力を効かせ、大外枠からスタートしたエスポワールシチーも先行争いに加わっていく。さらにタイセイレジェンドも先頭集団を目指していくその流れは見た目にも速く、スタンドのファンからは早くもどよめきが上がった。
向正面でもそのスピード争いは続いたが、3コーナーでタイセイレジェンドが脱落。代わって中団からレースを進めたテスタマッタが馬群の外から先頭に接近し、4コーナー手前では4頭が鎬を削る形になった。その後方ではドリームバレンチノがインコースに狙いを定めて追撃開始。しかしエスポワールシチーのスピードは、やはり一枚上だった。
4コーナーのカーブでさらに加速して、直線入口では先頭に立って押し切ろうという態勢に。その後ろではセイクリムズンが懸命に粘り、テスタマッタが差を詰めてくる。レースを引っ張ったセイントメモリーはここで失速。そして内ラチ沿いの狭い隙間をドリームバレンチノが割ってきた。
エスポワールシチーは激しい2着争いを尻目にゴール板を通過。1馬身半離れた2着にはドリームバレンチノが入り、セイクリムズンは3着。セイントメモリーは4着のテスタマッタから3/4馬身遅れの5着となった。
レースが終わり、勝利を飾ったエスポワールシチーは馬場をもう1周。再びゴール地点に戻ってきたところで鞍上の後藤浩輝騎手が馬を止め、スタンドのファンに向かって手を高く突き上げ、湧き起こる「ゴトウ」コールにリズムを合わせて指揮をとった。それはJBCスプリントJpnIで見せたトップクラスのスピード感が、金沢競馬場を埋め尽くした観客に間違いなく伝わったと感じさせられる瞬間でもあった。
「今回のガッツポーズは(佐藤)哲三さんの意見も聞きつつ、自分のやりかたも主張しつつ、という感じですね」と、後藤騎手はそのアクションを振り返り、さらに「哲三さんとはレースプランについて電話で相談させてもらいました。だから2人で作ったレースといえるかな。そしてその通りにできたことがうれしいですね」と、大怪我からの復帰を目指す主戦ジョッキーへの想いを語った。後藤騎手自身も大怪我から1カ月ほど前に復帰したばかり。命を賭けて戦うアスリート同士の絆が、その言葉にこめられていた。
一方、連覇を狙ったタイセイレジェンドは7着。内田博幸騎手は「ゲートのなかで待たされましたし、内枠も苦しかった。馬体も少し重かったかな(プラス15キロ)。でも、まだまだやれる馬ですよ」と捲土重来を誓った。また、地方馬最先着となったセイントメモリーの手綱を取った本橋孝太騎手は、「ゲートが速かったですし、理想のレースができました」と言いつつも、「ただ、最後の直線はいつもの感じがなかったですね」と残念がった。このあたりは初の長距離輸送が影響したのかもしれない。
それでも、各馬が披露してくれたスピードはまぎれもなく一流のもの。この先もこのメンバーたちがハイレベルな戦いで、我々を魅了してくれることだろう。
COMMENT
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後藤浩輝 騎手
距離がどうなのかなと思っていましたが、勝ってホッとしました。3~4コーナーでは前にいた馬の手応えが怪しくなっていましたし、あとは後ろからどれだけ来るのかなと。3番手から競馬ができたのも収穫ですね。とにかく強いですし、僕の気持ちも汲んでくれる馬。この先も活躍できると思います。
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安達昭夫 調教師
(前走の南部杯のあとは)オーナーと相談して、JBCスプリントを選びました。前走のダメージがほとんどなかったのでいいレースができるとは思っていましたが、最後はなんとか踏ん張ってくれという思いで見ていましたね。この先の予定は、またオーナーと話し合って決める予定です。
文:浅野靖典| 写真:いちかんぽ(原政典、国分智)、NAR
単勝元返しの期待にこたえ完勝
JpnI勝利で真のダート女王に
3回目を迎えたJBCレディスクラシックは今年からJpnIに格付けされ、歴史の幕開けは金沢競馬場からスタートした。
1回目、2回目で連覇したミラクルレジェンドが今春に引退し、混戦ムードになるかと思われた2013年の牝馬ダート戦線。しかし、後継者はすぐに現れた。今年からこの路線に参戦してきたメーデイアだ。1月のTCK女王盃JpnIIIを5馬身差で圧勝した時、濱中俊騎手は「この馬と一緒にJBCに出たい」と初めて思ったという。その次のマリーンカップJpnIIIを横綱相撲で他馬を圧倒すると、メーデイア時代の到来を確信させた。芝のヴィクトリアマイルGIでは大敗したが、スパーキングレディーカップJpnIIIでは敗戦のダメージへの心配をよそに、2着のサマリーズには1馬身差だったが着差以上の強さを見せつけた。このレース後、笹田和秀調教師は「完成の域に達している」とコメントを残している。そして、JBCレディスクラシックJpnIの前哨戦レディスプレリュードJpnIIでは、危なげない勝ち方で本番に弾みをつけた。
ここまで牝馬のダート交流重賞では無敗のメーデイアは、当然JBCレディスクラシックJpnIでも断然の1番人気。単勝支持率75.7%の1.0倍で、ファンからも勝利への舞台が用意された。
注目の先行争いからハナを切ったのはトシキャンディ。少し出遅れたメーデイアはすぐに巻き返し、1コーナーでは2番手につけた。すぐ後ろには、アクティビューティやサマリーズ、キモンレッドというJRA勢が追走。しかしそのマークをよそに、「2番手が取れた時点で、もう大丈夫だと思った」(濱中騎手)というメーデイアは4コーナーあたりで早くも先頭に立った。直線では後ろを振り返る余裕を見せ3馬身差の完勝。1万人を超える大観衆を前に貫録の勝利を飾った。2着は3番手でレースを進めたアクティビューティ。ダート交流重賞初挑戦となったキモンレッドが3着に入った。
前走のレディスプレリュードの後、「JBCに向けて不安はありません」と自信が溢れていた濱中騎手だが、やはりファンからの大きな期待にプレッシャーがあったのだろう、今回は「ほっとしました」と安堵の表情が印象的だった。
陣営はこの日のために、より負荷をかけて調教し大一番に臨んだという。笹田調教師は「以前は骨が弱かったが、しっかり固まってきてそれに合わせて良い筋肉もついてきて、理想的な体型になった」と成長を振り返った。
初の牝馬ダートJpnIのタイトルを手にし、これで正真正銘の女王の座に君臨したメーデイア。しかし来年の春には現役を引退し、繁殖牝馬の道に進むことが決まっている。この後は、ジャパンカップダートGIかフェブラリーステークスGIに挑戦する可能性もあるとのことで、一線級の牡馬たち相手にどんな走りを見せてくれるのか非常に楽しみである。そして無事に第2の人生のスタートに立てるよう、女王のラストランをしっかりと見守りたい。
地方馬最先着は、名古屋の3歳馬ピッチシフターだった。直線で脚を伸ばし5着と掲示板を確保。3戦続けてコンビを組んでいる大畑雅章騎手は「馬まかせでレースを進めましたが、がんばってくれました。成長をとても感じます。砂をかぶっても動じないし、どんな展開でも対応できる馬。東海ナンバーワンですよ。今回挑戦した甲斐がありました」と嬉しそうに語った。
北海道からの転入当初からこの馬の素質を高く評価していた川西毅調教師は、9月の秋桜賞を勝った時からJBCへの参戦を口にしていた。JRA勢の上位馬との差はあったが、これまで牝馬のダート交流重賞で地方代表として健闘しきたクラーベセクレタ(6着)やアドマイヤインディ(7着)、マニエリスム(10着)などの古馬たちに先着したという結果は、今後の大きな糧となるだろう。まだ底が知れていない名古屋のピッチシフターには、全国区での活躍が期待できそうだ。
COMMENT
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濱中俊 騎手
隣の馬がゲートで暴れた影響で馬が力んでしまって少し出遅れてしまいました。最後は力も残っていたので無事に走りきってほしいなという気持ち。負けられいと思っていたし、当然の結果を出すことができて安心しました。自分自身、交流のジーワンを勝ったのは初めてですし、JBCを勝てて嬉しいです。
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笹田和秀 調教師
目標としていたレースですが馬にプレッシャーがかからないように自然体で臨みました。オッズを見たらやはり負けられないという思いでした。2番手につけられた時にはこのまま無事に周ってくれればと。この後、どのレースを使うか未定ですが母親になってもいい子ができるよう見守ってほしいですね。
文:秋田奈津子| 写真:いちかんぽ(国分智、宮原政典)、NAR
第14回 2014年 盛岡競馬場
外枠から逃げて直線突き放す
ジーワン3勝もさらなる高みへ
天候が心配された盛岡競馬場のJBCデー。寒風が吹きつけ、枯れ葉が舞い、時折小雨にも見舞われる、来場したファンにはかなり厳しい1日となったが、熱気に包まれたままメインレースを迎えた。GI/JpnIホース6頭が集結したJBCクラシックJpnIは、ハイレベルの激闘となったが、コパノリッキーが見事にコースレコードで逃げ切り。春からの勢いを盛岡でも見せつけた。
ある程度人気どころがはっきりしていたレディスクラシックやスプリントと違い、実績馬の多くが休み明け。特に実績最上位のホッコータルマエは3月のドバイワールドカップ以来の出走で、現時点での状態評価が難しくなっていた。それにも増して悩まされたのが展開予想。帝王賞JpnIがにらみ合いのような展開になり、大井の2000mとしても珍しいスローペース。これに近いメンバーとなる今回もどの馬が逃げるのか、そしてどの馬に展開が向きそうなのかが読み切れない。単勝上位5頭で人気が割れ、これらの解明が予想の大きなポイントとなった。
その悩みにスパッと答えを出したのがコパノリッキーの田邊裕信騎手。スタート直後はやはり各馬が内外をうかがうような流れだったが、それならと8枠15番からのスタートでも徐々に内へ寄せながら無理なく先頭に押し上げた。そこまでは気持ち速い程度の流れだったが、1コーナーを回るあたりからうまくスローダウン。案の定その後ろがポジションの取り合いとなり、ベストウォーリア、ホッコータルマエ、クリソライト、ワンダーアキュートがつかず離れずの位置で追走した。
コパノリッキーには絶妙のペース配分となったのだろう、4コーナーで後続が追い上げてきた時にも田邊騎手は、「ペースを上げていない」と。十分に余力を残したコパノリッキーがここからスパートをかけ、後続を突き放して勝負あり。ゴールでは2着のクリソライトに3馬身差。フェブラリーステークスGI、かしわ記念JpnIに続くビッグタイトルは、戦うごとに差を広げての勝利となっている。
田邊騎手は、「1600mは乗りやすい。この距離では引っかかるし、ムキになるところもあるが、ゴールまでもってくれた。2000mで走っている馬を負かせました」という点を強調した。フェブラリーステークスGIでは16頭立て16番人気の勝利で日本中を驚かせたが、何度見直してもレース内容に恵まれたような点は見当たらないし、そのあとのかしわ記念JpnIや今日のレースはもはや自信満々の騎乗と思える。馬への信頼を田邊騎手は、「ずっと強いと思っていたから、『強いですね』と聞かれても、そうとしか言えない」と表現した。秋冬のダート路線は続き、次走は中京のチャンピオンズカップGIへ向かうとのこと。村山明調教師も、「今日はオーナーに言われて、(開運アイテムの)刺身を買って食べました」と笑わせながらも、「もう1つランクアップできる」とさらなる可能性を示した。
敗れた各馬も休み明けを叩かれ、舞台を変えて反撃に出るに違いない。特にホッコータルマエの幸英明騎手が、「使いながら良くなっていく馬だから、今日これくらいのレースができるのなら……」と手応えを感じていたことは記憶しておきたい。
地方勢はさすがに出番がなかったが、岩手所属馬はナムラタイタンがジワジワと差を詰め6着。坂口裕一騎手は、「もう少し前の位置がとりたかった」。夏場が順調でなかっただけに、この状態で南部杯JpnIからステップできていればと惜しまれる。南部杯JpnIで見せ場があったコミュニティも8着ながら、山本政聡騎手は、「流れに乗れていた」と。JRA未勝利から約1年2カ月でこの舞台へ上がり、まだ進化を続けていると感じられるだけに、好走の部類といって差し支えないだろう。JBC3競走で岩手からは入着馬を出すことができなかったが、現時点でできるだけの健闘は見せたといえる。
12年ぶりに盛岡で行われたJBC競走は、その間、岩手競馬に様々な経緯があったことが周知されているが、様々な形で支えてくださったすべての方に対して感謝の気持ちを添えて、この観戦記を終えたい。
COMMENT
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田邊裕信 騎手
帝王賞では(前へ)行きたくなくて馬とけんかしましたが、今日は馬場の内に水が浮いていたので逃げました。4コーナーで後続が来ましたが、自分のペースは上げていないです。この距離では引っかかるし、ムキになりますが、ゴールまでもってくれました。2000mで走っている馬を負かせましたね。
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村山明 調教師
南部杯の予定が体調が上向かず、ここに切り替えて乗り込めました。入厩後は静かなところで環境が良かったです。前に行くのは勇気のいることだと思いますが、田邊騎手が馬を信じたのが良かったですね。次走はチャンピオンズカップが目標。潜在能力は高く、もう1つランクアップできると思います。
文:深田桂一 | 写真:いちかんぽ(佐藤到、国分智)、NAR
強気の競馬で直線競り落とす
昨年2着の雪辱でJpnI初勝利
JBCデー2つ目のJpnIはJBCスプリント。地元専門紙のトラックマンが「重という馬場状態を考慮に入れても時計は速い」というコンディションならば、スピードに勝るJRA勢が上位人気を独占したのは当然といえるかもしれない。
そのオッズは、ノーザンリバーが1.9倍、ドリームバレンチノが2.7倍と、このレースと好相性の東京盃JpnII・1、2着馬に人気が集中。3番人気には今回が初めてのダート戦となるコパノリチャードが4.2倍で入ってきた。JBCスプリントJpnIでは、昨年のドリームバレンチノ(単勝10.0)がやはりダート初参戦で2着となったが、コパノリチャードはGI(高松宮記念)勝ちの実績からファンの期待もまた高いものになっていた。
しかしその3頭のレース内容は、対照的なものとなった。
ゲートが開くとタイセイレジェンド、コパノリチャード、サトノタイガー、さらに大外枠のエスワンプリンスが先陣を争って、ドリームバレンチノはその直後につける形。ノーザンリバーはスタートダッシュがつかず、それでもすぐさま先頭集団の直後に位置取りを上げたが、最内枠の同馬にとっては厳しい展開になったようだ。
とはいえ、先頭集団も激しくスピード争いをしている状況。ドリームバレンチノは馬群の外を回って追い上げ、スムーズに順位を上げていくその勢いは、前にいる馬たちを上回っていた。
しかし先頭集団はしぶとかった。早々に失速したコパノリチャードに代わって先頭に立ったタイセイレジェンドが必死に粘り込みを図り、サトノタイガーもじわじわと伸びる。直線の入口あたりではドリームバレンチノも先頭を窺う態勢になり、ゴール直前ではサトノタイガーとドリームバレンチノの一騎打ちに。その戦いはわずかに、ドリームバレンチノが上回る結果となった。
「最後はいい併せ馬になりましたね」と、ドリームバレンチノの岩田康誠騎手は振り返り、サトノタイガーの吉原寛人騎手は「追い比べで負けて悔しいです」と逃したチャンスの大きさに苦笑いも出てこない様子。吉原騎手にとっては今年のジャパンダートダービーに続くJpnIでの2着だけに、胸中を察するに余りある。それでも今年のJBCで地方所属馬唯一の入着、それも僅差の2着にエスコートしたのだから、胸を張っていいだろう。
3着にはタイセイレジェンドが残り、ノーザンリバーはセイクリムズンに続く5着。蛯名正義騎手は、「インで包まれる形になってしまったし、左回りもいまひとつ」と敗因を語った。しかし今年のダート交流重賞を3勝している6歳馬だけに、巻き返しが期待できることだろう。
今後が期待できるのは、ドリームバレンチノも同じ。加用正調教師は、「7歳といってもダートならそれほど年齢を考えなくてもいいですからね」と、厩舎の先輩で10歳を超えても一線級で活躍したリミットレスビッドの再来という夢を描く。そのあと「これからは使えるレースが限られますけれどね」と少しトーンが下がったが、報道陣から「来年のJBCは大井ですよ」と声をかけられると、「それはいいねえ」とレース直後の明るい表情に戻った。
COMMENT
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岩田康誠 騎手
いいスタートが切れて、先行馬のすぐ後ろでレースができたのがよかったですね。馬場が締まっていたし、この馬のスピードを生かせられました。多少、外を回ることになりましたが、馬の調子がよかったので強気の競馬をしようと考えて乗りました。去年以上の走りでしたし、年齢を感じさせません。
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加用正 調教師
このレースのために(黒船賞のあと)放牧に出して、東京盃を使ったのがよかったですね。ジョッキーには前のほうでと言っておいたんですが、それにしてもうまく乗ってくれました。昨年2着のくやしさに、馬もスタッフも応えてくれましたね。今度は追われる立場なので、引き続き頑張りたいと思います。
文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(国分智、佐藤到)、NAR
人気馬を目標にゴール前抜け出す
一戦ごとに力をつけ女王の座に
2002年以来、12年ぶりに盛岡競馬場で開催されたJBC。当日は朝から雨が降ったり止んだり。日中の気温は10度くらいまでしか上がらず、冷たい風が吹き荒れ、東北の冬の到来を感じさせた。しかしJBCレディスクラシックJpnIのパドックが始まる頃には晴れ間が見え始め、戦いを控えた牝馬たちを美しく照らし出していた。
今年のJBCレディスクラシックJpnIの中心は、牝馬ダート交流重賞で3勝をマークし、前哨戦のレディスプレリュードJpnIIを快勝したワイルドフラッパー。単勝は1.4倍と当然のごとく支持を集めていた。しかしライバルたちも多彩で、ワイルドフラッパーを負かしたことのあるサンビスタや、ダートでは底を見せていないトロワボヌール、連勝の勢いがあるブルーチッパーなど、直接対決が少ないことや展開面を考えても非常に興味深い対戦となった。
コーリンベリーがゲート内で座り込んで、全馬が一旦ゲートから出された影響で約5分遅れてのスタート。注目の先行争いはそのコーリンベリーが好スタートから最内を利して先手を主張した。ブルーチッパーが外から2番手につけ、コウギョウデジタル、アクティビューティと続き、2番人気のサンビスタは好位5番手で前を窺う態勢。その後ろにワイルドフラッパーが位置取り、3番人気のトロワボヌールは中団あたりでレースを進めた。
先に動いたのはワイルドフラッパーだった。向正面半ばを過ぎると一気に前に進出し、3コーナー手前では3番手まで上がっていた。そのまま人気に応える展開になるかと思ったのだが、そこで待ってましたとばかりにその後ろにピタリとつけたのがサンビスタ。直線に入り、先に抜け出そうとするワイルドフラッパーを残り100m手前で交わすと、その勢いのまま先頭でゴール板を駆け抜け、1分49秒3というコースレコードで優勝。
直線外から上がり最速の脚で伸びたトロワボヌールが2着に食い込み、最後は一杯になった様子のワイルドフラッパーは3着に敗れた。
鮮やかに女王の称号を手にしたサンビスタ。レース前、陣営はワイルドフラッパーとの一騎打ちを想定して臨んだという。「ワイルドフラッパーに勝つにはあの方法しかない、という位置取りだった」と満足げな表情の角居勝彦調教師。ライバルを常に意識しながらレースを運んだ岩田康誠騎手の好騎乗が勝利に導いた。
サンビスタは、初めて牝馬ダート交流重賞に出走した今年2月のエンプレス杯JpnII(3着)では、ワイルドフラッパーに2秒2もの差をつけられたのだが、8月のブリーダーズゴールドカップJpnIIIでは0秒7差をつけて逆転。しかし、前走のレディスプレリュードJpnIIでは完敗を喫していた。この大舞台で再度逆転劇を演じ、勝負強さを見せつけた。「一戦一戦、状態が上がり、良い体になっている」と調教師、騎手ともに口を揃えたように、この1年での成長ぶりには目を見張るものがある。「もっと強くなりますよ」という岩田騎手の言葉にはこれからの大きな期待が感じとれた。次走は、状態次第となるが船橋のクイーン賞JpnIIIを予定している。
今後の牝馬ダート戦線は、このままサンビスタ時代に突入するのか、ワイルドフラッパーが再び立ちはだかるのか。それとも、「この相手でもやれる力がある」(田中勝春騎手)というトロワボヌールのような第3の勢力が現れるのか。来年のJBCレディスクラシックJpnIに向けて、新たな牝馬たちの戦いが始まる。
COMMENT
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岩田康誠 騎手
前走はゲートの出も良くなくて道中窮屈なレースをしてしまいましたが、今回は好スタートで前を見ながら理想的な展開。最後相手は伸びてくるだろうと思っていたのですが……。一戦ごとに硬さが抜けてきて本当に柔らかい馬になったと思います。どんなレースもできますし、瞬発力も持っている馬です。
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角居勝彦 調教師
思いのほか相手が早く動いてくれましたし、直線抜け出した時は勝てると思いました。以前は精神的に強すぎるところがありましたが年齢的にも落ち着いてきたぶん、体のふくらみや体調が上がっていき、夏からの3戦も使うごとに状態が良くなりました。牝馬の交流レースが続くので参戦していきたいです。
文:秋田奈津子 | 写真:いちかんぽ(国分智、佐藤到)
第15回 2015年 大井競馬場
先手を主張しライバルを完封
2度目の骨折を克服し連覇達成
JBCレディスクラシックJpnI、JBCスプリントJpnIとも、単勝1倍台の人気を集めた馬が2着に敗れ、内枠からスタートした3番人気または4番人気馬が勝つという結果。二度あることは三度あるのか、それともその流れを単勝1.4倍のホッコータルマエが止めるのか。不良馬場というコンディションも含めて、ファンには悩ましい選択になっていたようだ。
その不良馬場を味方につけたのはコパノリッキー。15番枠からのスタートでも1コーナーでは主導権を握り、向正面ではマイペースの走りで息を入れ、最後の直線でもセーフティリードを保つという横綱相撲で完勝。昨年の盛岡に続き、JBCクラシックJpnI連覇を達成した。
しかしコパノリッキーは前走の日本テレビ盃JpnIIで、骨折休養明けとはいえ差のある3着に敗れていた。今回、パドックでの雰囲気はその前走とそれほど変わらないように見えたし、馬体重の増減もなし。村山明調教師も「まだ良くなる余地があると思っていたので、あまり自信はありませんでした」と振り返っていた。加えて大井競馬場ではこれまで2戦とも2着。4歳以降に挙げた5勝はいずれも左回りでのもの。昨年4歳時に制したフェブラリーステークスGIは骨折休養明けから3戦目だったが、今回は休み明け2戦目でこれだけのパフォーマンスを見せたのだから、そのポテンシャルの高さを改めて証明することになったといえる。
対してホッコータルマエは、前走の帝王賞JpnIなどと同じく、先頭から差のない位置でレースを進め、3コーナーでは2番手に進出。しかしそこからは差を詰められず、逆にゴール前では中団から伸びてきたサウンドトゥルーに交わされて、3着に敗れるという結果になった。
「去年よりは順調だと思っていたんですが。でも久しぶりが響きましたね」と、幸英明騎手。西浦勝一厩舎の調教スタッフも「みんなここに向けて仕上げてきているわけですし、そう甘くはないですよ」と、次のチャンピオンズカップGIに向けて気持ちを切り替えているようだった。
2着に入ったサウンドトゥルーは、日本テレビ盃に続いての好走。「初めての2000mでしたが、いいリズムで運ぶことができました」と大野拓弥騎手。JBCレディスクラシックJpnIに続き、騎手、厩舎ともにJBCを同一年に2勝するという快挙はあと一歩で逃したが、力を出し切ったという手応えはあっただろう。
地方勢は、大井のハッピースプリントがクリソライトにハナ差の5着で最先着。大井のユーロビートが6着、船橋のサミットストーンが7着と善戦まで。そして今年のJBCは、3レースすべて、4着までJRA勢が独占という結果になった。
地方馬最先着が5着だったというのは残念ではあるが、盛り上がりに一役買っていたことは間違いない。来年のJBCは川崎競馬場での開催。そこで地方競馬のスターホースが輝いてくれることを期待したい。
COMMENT
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武豊 騎手
大一番ですし、どうしても勝ちたい気持ちが強かったのですが、馬の状態がよかったですし、向正面では気持ちよく走ってくれて、4コーナーでの手応えも抜群。早め早めの競馬をして押し切ろうかなと思っていたのですが、そのとおりにできました。骨折を乗り越えて、いい走りをしてくれたと思います。
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村山明 調教師
レース前の印象は、前走よりは良くなっているかなという感じでしたが、僕が思っていたより走ってくれましたね。普段はあまりレースで声を出したりしないんですが、今日はさすがに出ました。ホッコータルマエに負けて悔しいことが多かったので、本当にうれしいです。次はチャンピオンズカップの予定です。
文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(国分智、岡田友貴)
好ダッシュを決め一気に逃げ切る
牝馬が初めてダート短距離の頂点に
Road to JBCの東京盃JpnII、マイルチャンピオンシップ南部杯JpnIの優勝馬が揃って出走した今年のJBCスプリントJpnI。本番と同じ舞台である東京盃JpnIIを快勝したダノンレジェンドは、予想通りの断然人気で単勝は1.6倍。一方、昨年はJBCクラシックJpnIに参戦したベストウォーリアが、今年はスプリントを選択(福永祐一騎手が落馬負傷のため、川田将雅騎手に変更)。デビュー戦以来の1200mではあるものの、対戦が少ないメンバーが相手だけにファンの注目度も高く、単勝3.1倍の2番人気に支持された。この2頭が人気の中心で、紅一点のコーリンベリーが単勝10.5倍で3番人気に続いた。
ゲートが開くと、好スタート、好ダッシュを決めたコーリンベリーが先手を主張。15番枠からポアゾンブラックが押しながら2番手を確保し、ダノンレジェンドは3番手の外につけた。やや出遅れたベストウォーリアは6、7番手で、昨年の覇者ドリームバレンチンノは中団うしろの外目を追走していた。
4コーナーから差を広げにかかって直線勝負に持ち込んだコーリンベリー。それを目がけて追い出した後続の中から、1頭抜け出して差を詰めてきたのはダノンレジェンドだった。しかし「直線は脚もたまっていたし、追ってからの反応もとても良かった」とコーリンベリーの松山弘平騎手。徐々に迫るその追撃を退け、1200mをまんまと逃げ切ってみせた。勝ちタイムは1分10秒9(不良)。
ダノンレジェンドは3/4馬身届かず2着に敗れ、その2馬身差の3着にベストウォーリアが続いた。5着までを中央勢が独占し、地方馬最先着は、昨年2着だったサトノタイガー(浦和)で6着だった。
今年で15回目となるJBCスプリントJpnI、JBCクラシックJpnIで、牝馬の優勝は初めてという歴史に残る勝利でジーワン初制覇を獲得したコーリンベリー。そして、管理する小野次郎調教師と松山弘平騎手もジーワン初勝利を飾り、人馬ともに記念すべきレースとなった。今回が転厩初戦ということもあり、「これまで自分が手掛けてきた馬ではないので、とにかく責任を果たせてホッとしています」と小野調教師は安堵の表情を浮かべた。
昨年はJBCレディスクラシックJpnIに出走したものの9着に終わったコーリンベリーだが、松山騎手は「去年と比べると馬体もひと回り大きくなり、何より精神面が強くなったことが大きい。男馬相手にすごい馬です」と、この1年コンビを組み続けてきたパートナーを称えた。小野調教師は「今の落ち着きであれば距離の融通性はある。1600mまでなら大丈夫だろう」とコメントしており、今後はフェブラリーステークスGIが目標になりそうだ。ダートスプリント界の頂点に立った快速牝馬コーリンベリー。今後もそのスピードで、並いる牡馬たちを翻弄することだろう。
2着のダノンレジェンドは、最大目標だったこのレースに向けて、ここまで順調に結果を残してきただけに悔しい結果となった。「スタートも良くてポジションもうまく取れたけど、前が止まらなかった」とミルコ・デムーロ騎手。村山明調教師は「状態も良かったし、レースの位置取りも良かったけど、相手にうまく逃げられてしまった」と言葉少なに語った。
3着だったベストウォーリアの川田騎手は「スタートで滑ってしまい、1200mのペースなのでなかなか前との差が縮まらなかった。後半は挽回したんですが…」とコメントを残した。
そしてレース後、残念な出来事があった。兵庫のタガノジンガロが入線後(14着)、急性心不全のため他界した。通算成績40戦12勝(うち重賞4勝)。2014年のかきつばた記念JpnIIIを制し、今年も黒船賞JpnIII・3着、サマーチャンピオンJpnIII・2着など、地方競馬を代表するスプリンターとして交流重賞を盛り上げてくれた。その功績を称えると供に冥福を祈りたい。
COMMENT
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松山弘平 騎手
ずっと乗せていただいたこの馬でジーワンを勝てて感謝の気持ちでいっぱいです。今日はスタートも上手に出てくれて自分のペースで楽に逃げることができました。直線を向いて手前もしっかり変えてくれたのも良かったです。スピードがあって、直線でもう一段階脚が使えるというのがこの馬の強みですね。
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小野次郎 調教師
転厩初戦ですがここまで順調に調教もこなせました。前走出遅れたこともあり、今日も出遅れるようであれば無理をせずに新しい面を引き出してくれればと松山騎手には指示しましたが、好スタートで自慢のスピードを生かせましたね。この形で直線に入れば最後までがんばれそうだと思いながら見ていました。
文:秋田奈津子 | 写真:いちかんぽ(岡田友貴、国分智)、NAR
控える競馬で直線抜け出し5馬身差
成長著しい3歳馬がダートの女王に
前哨戦のレディスプレリュードJpnIIでは、他馬より重い別定重量を背負いながら圧勝ともいうべきレース内容で約半年ぶりの勝利を挙げたサンビスタ。予想紙にはズラリと◎が並び、ファンも連覇濃厚と見て断然人気となって、迎えた第5回のJBCレディスクラシックJpnI。しかし勝ったのは、4番人気の3歳馬、ホワイトフーガだった。
レディスプレリュードJpnIIと同様、迷わず逃げたのは大井のブルーチッパーで、カチューシャ、キャニオンバレーと続き、人気の2頭サンビスタとアムールブリエは4番手で併走。レディスプレリュードJpnIIではブルーチッパーの直後を掛かり気味に追走したホワイトフーガだったが、今回は有力2頭のうしろ6番手を追走した。
レース前、「ここ2走より控えてくれ」と鞍上に指示を出したという高木登調教師。ブルーチッパーの逃げたペースが1000m通過で59秒4。レディスプレリュードJpnIIより1秒8も速い流れになったことで、高木調教師が授けた作戦がズバリと当たることになる。
3コーナーからアムールブリエが仕掛け、これを追ったサンビスタが4コーナーで並びかけ、この人気2頭が直線を向いて先頭に立ちかけたところ、内を突いて抜け出したのがホワイトフーガだった。
2番手以下との差はみるみる広がり、ホワイトフーガは2着のサンビスタに5馬身差をつけての圧勝。ホワイトフーガと道中同じような位置を進んでいたトロワボヌールが2馬身半差で3着に入り、アムールブリエは4着。離れて地方最先着の5着には、南関東B級で好走までという伏兵のリュウグウノツカイが入った。ハイペースで飛ばしたブルーチッパーは、レディスプレリュードJpnII(6着)より着順を下げての8着だった。
ホワイトフーガの勝因はいくつか考えられる。まず3歳馬の定量53キロが、デビュー以来もっとも軽い斤量だったこと。前述のとおり、控える作戦が速い流れにピタリとハマったこと。3~4コーナーでラチ沿いをロスなく回ってきて、4コーナーで内を突いたという大野拓弥騎手の判断も見事だった。そして何より、「一戦一戦、古馬との力差が近づいているのがわかった」(大野騎手)という成長もあったのだろう。
一方、サンビスタの岩田康誠騎手は、「4コーナーで(アムールブリエに)並んでなんとかなると思ったけど、前回のような勝つ時の手ごたえとは違っていた」。アムールブリエの濱中俊騎手は、「(湿った)軽い馬場は合わないし、距離も2000m以上あったほうがいい。流れに乗れず力を出せなかった」とのこと。
前走からいくつものプラス要因があったホワイトフーガに対して、有力2頭は力が発揮できなかった、もしくは力を発揮できる状況にはなかった。それらのプラス・マイナスが、今回の大きな着差として結果に表れたといえそうだ。
いずれにしても、若い3歳馬からダートの新女王が誕生したことだけは間違いない。まだ5回と歴史は浅いが、このレースを3歳馬が制したのは初のこととなった。
COMMENT
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大野拓弥 騎手
今日はいつもよりポジション下げようと思って、そのとおりの競馬ができましたし、コースロスなくいい競馬ができました。手ごたえがすごくよくて、突き抜ける感じはありました。牝馬ですがすごいパワーがありますし、持久力もあります。一戦一戦強くなっているので、どこまで強くなるのか楽しみです。
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高木登 調教師
この中間も順調に来ていたので、あとは脚の使いどころだけということをレース前に大野と話しました。4コーナーで出られるかなと思って心配したんですが、脚色と手ごたえを見たら、来るなっていう感じはありました。古馬の壁はあるのかなと思っていたんですが、ジーワンで勝ててよかったです。
文:斎藤修 | 写真:いちかんぽ(国分智、岡田友貴)
第16回 2016年 川崎競馬場
連勝の勢いで実績馬を圧倒 ダート王に名乗りを上げる
第16回となる今年のJBCは28,718名の入場者を集め、1日の勝馬投票券の売得金額が地方競馬歴代1位となる48億7402万2850円を記録、JBCクラシックとレディスクラシックの売得金額も、昨年の大井を上回るレコード。要因は、好メンバーが集まったことといえるだろう。
その舞台はコーナー6回の2100m。GI/JpnIの優勝回数でトップを目指すコパノリッキーにとっては初めての距離だが、前走のマイルチャンピオンシップ南部杯JpnIで日本レコードに迫る圧勝をみせたそのスピードは、ここでも1番人気として信頼された。
ホッコータルマエはその記録で追われる立場ではあるが、単勝では3番人気。逆に1番人気に迫る注目を集めたのが、ダートに転じて5連勝中のアウォーディーだった。この3頭に加えてノンコノユメまでが単勝10倍未満。そのあとはサウンドトゥルーが14.6倍、クリソライトは47.5倍という分布になった。
それらの強敵たちに真っ向勝負を挑んだのが、船橋所属のサミットストーン。スタート後、先手を取ったホッコータルマエを交わし、単騎逃げの態勢に持ち込んだ。ホッコータルマエはそれを見て2番手に下げ、その後ろにイッシンドウタイ、コパノリッキーなどが追走。アウォーディーも先行グループに加わっていった。
1周目スタンド前での隊列には落ち着きがあったが、再び向正面に入ると勝利を狙う争いは一気に活気を帯びてきた。コパノリッキーはホッコータルマエをターゲットに動き出し、その背後からアウォーディーも仕掛けていく。3コーナー過ぎでは上位人気3頭が先頭争いをする構図になったが、外を回ったアウォーディーの勢いは、遠くから見ていても一枚上のものがあった。
結果、アウォーディーがゴール前200m付近で先頭に立って押し切り勝ち。その姿には、この日いちばんの歓声がわき起こった。
それを見届けた前田幸治オーナーは「次はチャンピオンズカップ。来年はラニと一緒にドバイに行きたいね」と満足げな表情で宣言。まさに夢が広がる勝利になった。
3/4馬身差で2着だったホッコータルマエの鞍上、幸英明騎手は「今日は展開的にちょっと厳しかったですね」とのこと。それでも「残り2戦(チャンピオンズカップGI、東京大賞典GI)、がんばります」と気を取り直していた。
しかしながらアウォーディーの勢いは、他の陣営も一目を置かざるを得ないことになったようだ。
3着に入ったサウンドトゥルーを管理する高木登調教師は「ウチの馬もすごく良くなっていたけれど……、強いね」と、悔しさよりもその走りに感心した様子。5着に敗れたコパノリッキー鞍上の田邊裕信騎手も「コーナー6回のコースで馬が少し力んだところはありましたが、今回は相手が上でした」と振り返った。チャンピオンズカップGIは適条件といえるコーナー4回の1800m。巻き返しを狙ってくるはずだ。
4着に食い込んだノンコノユメを管理する加藤征弘調教師は「去勢して走りの反応がよくなりましたね。次は中京。これからどんどん行きますよ」と、笑顔を見せていた。
12月に控えるトップホースたちの戦いには、おそらくモーニンなども加わってくることだろう。輪をかけてハイレベルになっていくダート界の頂点をめぐる争い。その行方が今から楽しみだ。
COMMENT
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武豊 騎手
どういうペースになるのかわかりませんでしたし、先行勢には離されない位置で行こうと思っていましたが、1周目がスローペースだったので早めに動きました。最後の直線での手応えもよかったのですが、先頭に立ちたがらないタイプなので、抜け出すタイミングを間違えないように気をつけました。
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松永幹夫 調教師
今日は日本のダート界でいちばん強い馬たちが集まっていましたから、そのなかでいいレースができました。早めに抜け出すと走るのをやめる面があるところだけは心配していましたが、走りはいつものアウォーディーらしくて、安心して見ていられましたね。ジョッキーがうまく乗ってくれました。
文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(国分智、岡田友貴)
ハナを奪って逃げ切り完勝
1年越し悲願達成のJpnI制覇
舞台は川崎1400m。スピードのみならず、器用さと強さが求められる一戦。1周1200m馬場の多い地方競馬場ならでは、そして、それがむしろ誇りとも言える“地方競馬の根幹距離”に、12頭のスプリンターが集結した。
大井のソルテにとっては、願ってもない舞台設定だった。さきたま杯JpnII制覇に加えて、かしわ記念JpnIでも2着に奮闘。いまや地方競馬のエースに成長した。本質的にマイルがベストだが、馬場を1周する1400m戦なら、持ち前の器用さが存分に生かせるはず。まして、コーナーのきつい川崎コース。不慣れな馬は、コーナーで減速せざるを得ない状況にもなりうる。すなわちそれが、全馬初コースというJRA勢の最大の課題。地の利か、スピードか。川崎1400mであるがゆえのおもしろさが、このレースをさらに熱くさせた。
結果は、スピードの勝利だった。最内枠から五分にスタートを切ったダノンレジェンドが、ソルテとコーリンベリーを制してハナを切った。コーナーを無難にこなして最後の直線に向くと、正面から秋の陽光を受け、ゴールに向かってひた走る。トップスピードのまま大観衆の前を駆け抜け、3馬身差の完勝を演じた。
ゆっくりと、激戦の足跡をたどるようにウィニングランを行ったダノンレジェンドとミルコ・デムーロ騎手。実際のところは「ウィニングランは物見をしていて、乗っていて怖かったよ」(デムーロ騎手)とのことだったが、馬にとっては悲願のJpnI初制覇、そして鞍上にとっては地方で初めてとなるJpnI制覇の余韻を楽しんでいるかのように見えた。
その鞍上の笑顔とは対照的に、村山明調教師は「1年間、いっぱい悔しい思いをしてきた」と思いを吐き出した。世界を知るデムーロ騎手からは「ドバイに行こう、海外に行こう」と言われていたそうだ。しかし、まずは昨年のリベンジから。この1年間、出遅れや展開のアヤで勝利を逃したこともあったが、酷量に耐え、持ち前のスピードを振り絞ってきた。それが、このレースで結実。村山調教師は「来年はドバイ遠征も視野に入れたい」と口にした。
ベストウォーリアの堅実さにも脱帽する。結果的に1番人気には応えられず2着だったが、内を突いて伸びてきたあたりは器用に立ち回った証拠だろう。これで1400mは【3・3・0・1】。斤量との戦いにはなるものの、今後は小回り1400mでも実績馬らしい走りをしてくれるはずだ。
一方、2番人気に推されたソルテは、4コーナーで手ごたえがなくなり6着。ここを目標に調整され、涼しくなったことで体調も上向いていたが、道中の行きっぷりや手ごたえは本来のものではなかった。さきたま杯JpnIIでは2キロの斤量差こそあったものの、ベストウォーリアに完勝しており、力負けとは考えにくい。大舞台で結果を出すことは、それほど難しいということか。
その点、ダノンレジェンドは大舞台で最高の結果を出した。1年間の悔しさ、苦しさをバネに、リベンジを果たした。
さあ、行こう。地方で培った強さを武器に、世界の大舞台へ。
COMMENT
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M.デムーロ 騎手
地方でジーワンを勝っていなかったから本当にうれしいです。やはり1200~1400mでは強いですね。ゲートでも落ち着いていたし、前走のように道中でプレッシャーを受けるようなこともなく、いい手ごたえで直線を迎えられました。でも、最後は太陽がまぶしかったですね。
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村山明 調教師
この1年間は悔しい思いをしてきましたが、いつも通りの走りができれば一番強いと思って調整してきました。スタートで控えずに行き切ってくれたし、ミルコもうまく乗ってくれましたね。年内は休養。来年はオーナーとの相談次第で、ドバイも視野に入れたいと思っています。
文:大貫師男 | 写真:いちかんぽ(国分智、岡田友貴)
好位から直線先頭で突き放す
得意のコースを味方に連覇達成
今年で6回目を迎えたJBCレディスクラシックJpnI。レディスプレリュードJpnIIで2着同着だったトーコーヴィーナスを除く上位入線馬がエントリーしたが、そこで4着に入っていたララベルが右後肢臀筋炎のため、レース前日に競走除外。単勝5番人気までJRA所属馬が独占した。
JBCレディスクラシックJpnIのパドックに出走馬が姿を現した時点で、川崎競馬場の入場者数は2万人をオーバー。注目のなか、1番人気にはホワイトフーガが支持された。ホワイトフーガは前走後に“ノド鳴り”があるという高木登調教師の発言が報道されていたのだが、その心配をよそにパドックでは威風堂々とした歩き。昨年の覇者、そして川崎コースで2戦2勝というところも、支持を後押ししたのだろう。
2番人気はトロワボヌール。大井競馬場で行われた昨年は3着だったが、良績のほとんどが左回りというこの馬にとっては巡りあわせが悪かった。しかし川崎が舞台なら大きなチャンス。パドックでは隊列のいちばんうしろをマイペースで歩いていた。
アムールブリエもタマノブリュネットも気配は良好。そういったダート実績がある面々に、初ダートとなるレッツゴードンキが挑戦してきた。もともとはJRA桜花賞GIを逃げ切った快速馬。しかし場内から聞こえてくる会話からは、予想を悩ましくさせる存在になっていたようだった。
そのレッツゴードンキは大外枠。それでも鞍上の岩田康誠騎手は先手を取ったブルーチッパーの直後へと導き、ホワイトフーガが3番手を追走する展開になった。
先行した3頭が3コーナー手前に達したとき、向正面にある“川崎ドリームビジョン”に、ホワイトフーガ鞍上の蛯名正義騎手が持つ手綱が短く、そして張り詰めた状態になっている様子が大きく映しだされた。
その溜めた力が解放されたのが最後の直線。3コーナー過ぎで失速したブルーチッパーに代わってレッツゴードンキが先頭に立ったが、2頭の馬体が並んだ時間は短かった。ホワイトフーガが力強い伸び脚を披露して、昨年に続いての女王に輝いた。
レッツゴードンキは1馬身半差で2着。梅田智之調教師は「2着では正直喜べないですね」と、納得がいかぬという表情をしていた。それでもこの結果ならば、今後も芝・ダートを問わない活躍が期待できることだろう。
4着タマノブリュネット鞍上の田邊裕信騎手が「1600mは忙しかったですよ」とコメントを残した。9着だったアムールブリエとともに、今年のJBCが川崎で行われたことがマイナスになったようだった。
それらJRA勢を相手に3着に食い込んだのが、浦和のトーセンセラヴィ。父ディープインパクト、母がダートグレードで6勝を挙げたトーセンジョウオーという良血ではあるが、レース当日はまだA2クラスで、さらに今回が重賞初出走。しかしながら昨年12月に移籍初戦を迎えてからの上昇ぶりには目を瞠るだけのものがある。南関東リーディングを独走する小久保智厩舎が送り出すこの馬の今後に、大きな期待がふくらむ一戦でもあった。
COMMENT
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蛯名正義 騎手
返し馬のときから状態のよさを感じていました。枠順がよかったので、ペースが速ければ引くし、遅ければ前に行こうと思っていましたが、速くはなかったので3番手。いいところに付けられました。道中はすこし行きたがっていましたが、以前ほどではなかったですし、手ごたえもよかったです。
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高木登 調教師
勝ててホッとしました。この中間はノドの状態が気になっていましたが、それでもいい状態に仕上げられましたし、パドックでも落ち着いていました。レースではいいポジションが取れましたね。3コーナーあたりでジョッキーがうまく外に出してくれたところで、大丈夫だろうと思いました。
文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(岡田友貴、国分智)
第17回 2017年 大井競馬場
後方から持ち味を発揮し差し切る
3度目の正直でJBCタイトル奪取
すでに終了したJBCレディスクラシックJpnIとスプリントJpnIの1着馬と2着馬の差はともにアタマ。2戦続けてきわどい勝負が続くと場内の熱気がさらに高まるのは必然で、JBCクラシックJpnIのパドックはかなりの人口密度になった。
出走馬は13頭で、そのうちJRA所属馬が7頭。昨年、川崎競馬場で行われたこのレースを制したアウォーディーが2.4倍で1番人気に推され、昨年の東京大賞典GIを制したアポロケンタッキーが3.6倍で2番人気。その2頭に続いたのはケイティブレイブとサウンドトゥルーで、ここまでの4頭が単勝6倍未満。オールブラッシュはパドック周回中では13倍台だったが最終的には15.2倍。グレンツェントは14倍台から20.0倍まで下がり、徐々に上位4頭に人気が集約されていく形になった。
ゲートが開き、先手を主張したのはオールブラッシュ。大井のサブノクロヒョウが2番手につけ、ミツバ、アウォーディーは前の2頭を見る形。ケイティブレイブは7番手あたりを進み、アポロケンタッキーはその直後。サウンドトゥルーはさらにその後方からレースを進めた。
向正面に入ったところで、場内の大型ビジョンには先頭から順番に走行中の各馬がアップになった。それがアポロケンタッキーのところに来たとき、内田博幸騎手が腰を落としながら手を大きく動かしている姿が映った。その瞬間、スタンドのファンからはどよめきが。そして画面が先頭争いに戻ると、激しくなりつつある先頭争いに再び歓声が上がった。
最後の直線に入ると、逃げるオールブラッシュに代わって、ミツバとケイティブレイブが先頭に。アウォーディーはインコースから差を詰めてきたが、並びかけたところから伸びあぐねる走りになった。そこに勢いよく加わってきたのはサウンドトゥルー。ミツバとケイティブレイブの追い比べを横目に、1馬身差をつけてJBC初勝利を飾った。
サウンドトゥルーはそのままの流れで馬場をもう1周。ホームストレッチではファンからの大声援を浴びた。検量エリアに戻ってきたところでは大野拓弥騎手が「この馬にとってのマイペース」と笑顔を見せた。
2着のケイティブレイブは勝利を寸前で逃したが、福永祐一騎手は「以前からこういうレースをしたいと思っていました」とコメント。徐々に成長している手ごたえをつかんでいるようだった。
惜しかったのはJRA勢では最低人気ながら、2着とはクビ差3着だったミツバ。松山弘平騎手は「最後まで真面目に走ってくれて、ゴール前では差し返そうとしてくれました」と残念そうだったが、パドックで勢いよく歩く姿には状態のよさが現れていた。
4着のアウォーディーは「状態も走りもよかったのですが、大井は合わないのかな」と武豊騎手。「左回りのほうが力を発揮できると思いますので、次は巻き返したい」と12月3日のチャンピオンズカップGIでの捲土重来を期した。
しかし、そこを狙うのはサウンドトゥルーも同様。「寒い時期は調子が上がる」タイプだけに、チャンピオンズカップGIの連覇が次のターゲットだ。「まだ成長の余地がある感じがしますね」と高木登調教師。7歳でもまだまだ、ダート界の中心的存在として君臨し続けていくつもりだ。
COMMENT
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大野拓弥 騎手
惜しい競馬が続いていたので、勝ちたいと思っていました。(休み明けを)1走して状態がすごく良くなっていましたし、自信を持ってマイペースで行くことを心掛けて乗りました。今回は最後の直線で手前をしっかりかえてくれましたね。今年の残り2戦でもいい競馬をしてくれると思います。
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高木登 調教師
ジョッキーには「ウチのがいちばん強いと思って乗ってこい」と言いました。夏負けがきついタイプですが、今年は順調に調整できましたね。前走のときも調子がよくて、今回はさらに良くなっていましたから、これを維持できるか心配(笑)。でも年末までもう2つ、タイトルを取りに行きたいと思っています。
文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、国分智)
4頭が同タイムの激戦を制す 地方デビュー馬が頂点奪取
大観衆が目にしたのは、JBC史上に残る名勝負だった。
前哨戦・東京盃JpnIIは、地方馬によるワンツーフィニッシュ。船橋のキタサンミカヅキが持ち前の末脚を繰り出し、先に抜け出した浦和のブルドッグボスをゴール前で差し切った。当然、この2頭への期待も大きかったが、東京盃JpnIIで休み明けながら3着に食い込んだニシケンモノノフ、大井1200mで抜群の成績を誇るコーリンベリー、そしてGI/JpnI単独最多勝の11勝目を狙い、あえてこのレースを選択してきたコパノリッキーと、JRA勢も強力な布陣。地方馬として、スプリンターとして、GI/JpnI・10勝馬として、それぞれの意地がぶつかり合う一戦となった。
ダッシュ良く飛び出したコーリンベリーを先頭に、向正面の長い直線を使った先行争いが演じられる。そのさなか、出遅れ気味のスタートだったコパノリッキーが外から一気に位置取りを上げ、3コーナーで先団に取りつく。最内枠のニシケンモノノフは先行争いに加わりながらも内で脚をため、ブルドッグボスとキタサンミカヅキは中団位置。それぞれの思惑が入り乱れ、最後の直線を迎えた。
コーリンベリーとネロがしぶとい粘り腰を発揮し、コパノリッキーもじわじわと差を詰める。直線も半ばを過ぎると、外では中団にいた地方勢2頭の末脚が爆発。ニシケンモノノフは抜け出す場所を内に求め、進路を切り替える。6頭による息が詰まるような最後の攻防。結果、4頭が同タイムでゴール線を切った。
そして、左手でガッツポーズを作ったのはニシケンモノノフ鞍上の横山典弘騎手。内に進路を切り替えたとたん、ニシケンモノノフは爆発的な加速を見せ、瞬時に前に出た。ホッカイドウ競馬でデビューして以来、コンスタントに走り続け、6歳の秋にようやくつかんだ頂点。検量室前に引き揚げてきた横山騎手は、馬から下りるやいなや満面の笑みで関係者と抱き合い、喜びを爆発させた。「本当にタフに走ってくれる」。横山騎手のその言葉には、万感の思いが込められている。
コパノリッキーはゴール寸前で一瞬、先頭に立ったものの、最後は勝ち馬の瞬発力に屈して2着。手中にしたかと思われたGI/JpnI・11勝目が、するりと抜け落ちてしまった。「少し出遅れて……。流れが速くて戸惑ったのかも。じっと構えていた方が良かったのかな……」。森泰斗騎手は1番人気に応えられなかった悔しさもあったか。話の合間に「すみません」という言葉を繰り返し入れて話した。ただ、初めて挑んだスプリント戦で、しかもJpnI。それでアタマ差の2着なら、胸を張れる結果だろう。
期待された地方勢は、ブルドッグボスの3着が最高だった。「もう少し前で運べたら良かったけどね。でも、差のないところまで来たし、よく頑張っている」と内田博幸騎手。今回は勝利の女神がほほえまなかったが、グレードウイナーらしい卓越した末脚は見せた。チャンスはまた巡ってくるに違いない。
一般的に“意地の張り合い”という言葉は、いい意味では使われない。しかし勝負の世界では、これほどのすばらしい名場面を演出し、そして興奮と余韻を与えてくれる。地方馬として、スプリンターとして、GI/JpnI・10勝馬として――。JBC史上に残る名勝負を演じた各馬に、惜しみない拍手を送りたい。
COMMENT
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横山典弘 騎手
返し馬ではいつも以上に元気が良くて、具合が良さそうだと感じました。道中の手応えもずっと良かったですね。最後はどこへ出そうか迷ったけど、内に進路をとってからは反応も良く、伸び伸び走ってくれました。6歳馬ですが、本当にタフな馬ですし、来年も再来年も頑張ってくれると思います。
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庄野靖志 調教師
このレースを目標にしてきたから、勝てて本当にうれしいです。前走を使ってから、グングン調子が上がってきていました。最後に前が詰まったときには『ノリさん、お願い!』と祈りましたね。次走は未定ですが、とにかく元気いっぱいですし、来年以降も頑張ってくれるでしょう。
文:大貫師男 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、国分智)
逃げ馬をとらえ一騎打ちを制す
悲願のグレード初勝利がJBC
2011年に、ここ大井競馬場から始まったJBCレディスクラシックJpnIは今年で7回目を迎えた。
前哨戦のレディスプレリュードJpnIIを圧勝したクイーンマンボが、ケガのため直前で出走を回避。となれば、2連覇中の女王ホワイトフーガに人気が集まるのは当然のことで、単勝1.8倍の支持を受けた。2番人気は今年のスパーキングレディーカップJpnIIIを勝った3歳馬アンジュデジールで4.3倍。今年の牝馬ダートグレードで2勝を挙げているワンミリオンスが3番人気で7.9倍。武豊騎手を配したプリンシアコメータが4番人気で8.3倍と、JRA勢が上位人気。しかし、これら実力馬たちをねじ伏せたのは、この大井競馬場でデビューし、地方競馬のトップホースとして牝馬戦線を牽引してきたララベルだった。
ゲートが開き、先手を取ったのはプリンシアコメータで、2番手に大井のプリンセスバリュー、ララベルは3番手につけた。その後ろに、ワンミリオンス、キンショーユキヒメが続き、ホワイトフーガは6番手を追走。アンジュデジールは好位集団を見る位置取りでレースを進めていた。
3~4コーナーで各ジョッキーが一気に追い出し始め直線勝負へ。逃げるプリンシアコメータにララベルが並びかけ、そこから2頭の一騎打ちに。一度前に出たララベルに、再び盛り返すプリンシアコメータ。壮絶な追い比べはゴールまで続き、その争いをアタマ差で制したのはララベルだった。なお、直線でララベルが内側に斜行しプリンシアコメータの進路に影響を与えたことについて審議が行われたが、入線通り確定した。
プリンシアコメータの武豊騎手は「先手を取れたら行こうと思っていました。3コーナーをまわっても手応えが良かったですし、直線の不利は痛かったですね。でもこのメンバーでこれだけ走れましたから今後も楽しみです」と振り返った。
3着は、直線で鋭い末脚を見せた大井のラインハート。今回がJRAからの転入初戦ということで、この先に繋がる走りを見せてくれた。なお、3連覇を狙ったホワイトフーガは11着に敗れた。
JBCでの地方所属馬の勝利は、2007年にJBCスプリントJpnIを制したフジノウェーブ以来2頭目、JBCレディスクラシックJpnIの優勝は史上初という快挙に、大井競馬場は大興奮の渦となった。
「この馬で大きいところを獲りたい」と常々口にしていたララベル陣営。昨年は馬体故障のためJBC当日に無念の競走除外。今年は、マリーンカップJpnIII、スパーキングレディーカップJpnIIIでいずれも2着と、あと一歩のレースが続いていた。しかし、最大の目標としていた最高の舞台で、すべてのうっ憤を晴らしてみせた。
デビューからコンビを組んでいる真島大輔騎手は、全神経をララベルとのリズムに注いでいたようだ。「初めての感覚なんですが、向正面はあまり覚えてないんです。4コーナーくらいでそろそろ仕掛けないと、と思った記憶はあるんですが……。直線はとにかく必死でしたし、それくらい集中していたんだと思います」。そして、喜びを噛み締めるように語った。「能力試験の時から、この馬とはずっとパートナーだと思っていました。特別な馬です。いつもとにかく無事にと思っていて、さらに勝てればいいなと。オーナー、調教師、厩務員みんなの想いをわかっているので本当に良かったです」
いつも笑顔の荒山勝徳調教師だが、このときばかりは感極まり、涙と想いが溢れ出た。「胸がいっぱいです。万全な状態でレースに臨めたことがないのですが、それでもいつも一生懸命に走ってくれる馬。今日は冷静に見ていられず、とにかくがんばってくれとしか思いませんでした」
ララベルは来年春に繁殖入りすることが決まっている。第二の馬生を前に最高の勲章を手に入れることができた。この後、レースに出走するかどうかは未定だが、無事に次のステップへと進んでほしい。
COMMENT
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真島大輔 騎手
自分の技術不足のため直線で迷惑をかけてしまって申し訳ないです。位置取りはスタートしてから決めようと思っていてあの位置になりました。この馬に騎乗する時はプレッシャーを感じたことがありません。緊張感を消してくれる安心感があるのだと思います。本当に素晴らしい馬です。頭が下がります。
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荒山勝徳 調教師
去年の状態ほどではありませんが、前走後は疲れが出ることもなく型通り良化してくれました。真島騎手には「レースは任せるからララベルと一緒にでかいところ取ってこい」と。この馬には、スタッフや獣医さんなどみんなが尽力してくれました。ここまで無事に、そして勝つことができて本当に嬉しいです。
文:秋田奈津子 | 写真:いちかんぽ(国分智、早川範雄)
第18回 2018年 JRA京都競馬場
初めてJRAを舞台にしたJBC開催
地方馬はキタサンミカヅキが健闘
土日とも好天に恵まれた京都競馬場。京阪淀駅から直結するステーションゲート下の放牧馬房では、2007~09年にJBCクラシックを3連覇したヴァーミリアンの展示が行われていた。あとで詳しく触れるが、JRAのGIが行われる日と同じように多くのファンが来場したJBC当日、ヴァーミリアンの放牧馬房には人垣ができて長蛇の列。そんなファンの喧騒にも、16歳になったヴァーミリアンは我関せずという様子でおとなしかった。
近年のJBCでは地元グルメの販売が定番となっているが、4コーナー側のイベントスペースでは『おあがりやす京都2018』が開催。和牛、京野菜、日本酒、ビールなど、京都産のグルメが堪能でき、また販売されるテントがズラリと並んだ。なかでも牛肉グルメのテントは長蛇の列ができていた。遠方から遠征するファンには、競馬場以外の観光をする時間がないという人も少なからずいるはずで、JBC開催では定番となった、競馬場での地元グルメ販売はうれしい。
ステーションゲートから直結したビッグスワン2階テラスでは、JBC3競走の馬券購入者を対象に、JBCグッズ(いずれもJBCオリジナルのフリースジャケット、キャップ、キャップ、モバイルチャージャー、ネックウォーマーなど)が当たる抽選会が行われ、これにもかなりの行列ができていた。また抽選会場脇に設置されたモニターでは、過去のJBC競走のレース映像が流されていた。さすがに今年で18回という歴史を重ねると、立ち止まって過去のレースに見入っているファンも多かった。
初めてJRAでの開催となったJBCで、ひとつ注目となったのは、的場文男騎手の参戦だ。JBCではクラシックのシュテルングランツへの騎乗だが、的場騎手は第5レースの新馬戦にも騎乗馬を得た。父が大井の調教師だった矢作芳人調教師の管理馬。的場騎手がパドックで騎乗すると、まるでウェーブのように声援やカメラのシャッター音も円形のパドックを1周した。この日、的場騎手は62歳と1カ月28日で、JRAの最年長騎乗記録を更新。佐々木竹見さんの記録をまたひとつ塗り替えた。
その第5レース。的場騎手はスタートこそ互角だったが、ダッシュがつかず8頭立ての最後方から。それでも4コーナー手前で大外からまくって出ると、直線を向いて先頭をとらえようかという見せ場をつくった。ファンへのアピールだけでなく、3番人気馬で3着と役目は果たした。
時間は前後するが、大井出身の戸崎圭太騎手が第3レースを勝ってJRA年間100勝を達成した際の表彰セレモニーでは、「年間100勝達成!」のプラカードを的場騎手が持つという場面もあった。
最終12レースに組まれたJBCレディスクラシックの発走前には、TCK大井競馬のトゥインクルファンファーレ隊がウィナーズサークルに登場。JRA関西のGIファンファーレ演奏は新鮮だった。レース前のファンファーレでは、これが一番盛り上がった。
文:斎藤修 | 写真:いちかんぽ

中団追走からゴール前抜け出す
JpnI・3勝目でさらなる高みへ
18回目にして初のJRA開催となったJBC。JpnIレースが3つという豪華版で、好天に恵まれたこともあり、京都競馬場には3万8865人の観衆が詰めかけた。
フルゲート16頭のうち、地方からは3頭が出走。東京記念を制したシュテルングランツ(浦和)、白山大賞典JpnIII・3着のカツゲキキトキト(愛知)、姫山菊花賞を勝ったタガノゴールド(兵庫)が淀に参戦してきた。
人気はやはり、中央勢が中心。単勝1番人気には今年GIII/JpnIIIを2勝し、本格化したサンライズソアで3.2倍。もちろん、この背景には直前のJBCスプリントJpnIをグレイスフルリープで勝ち、4週連続GI/JpnI制覇を達成した絶好調のクリストフ・ルメール騎手という要素も人気を押し上げていた。これに3歳ながらシリウスステークスGIIIで古馬を一蹴したオメガパフュームが3.7倍、JpnIで2勝、2着3回のケイティブレイブが4.2倍、一昨年の東京大賞典GIの勝ち馬で、ミルコ・デムーロ騎手のアポロケンタッキーが7.7倍で続き、この4頭が単勝ひと桁台だった。
逃げたのはルメール騎手のサンライズソア。これに外からテーオーエナジーとテイエムジンソク、内からJRA史上最年長騎乗記録となる62歳1カ月28日の的場文男騎手(それまでの記録は佐々木竹見騎手の59歳3カ月16日)のシュテルングランツがつけた。ケイティブレイブは中団外で待機。オメガパフュームはさらにうしろという位置取りだった。
3コーナー過ぎ。ケイティブレイブが外から徐々に進出すると、オメガパフュームもうしろから脚を伸ばす。4コーナーで逃げるサンライズソアを射程圏に入れたケイティブレイブがラスト100mで先頭に立つと、オメガパフュームの猛追を3/4馬身振り切り、17年帝王賞、今年の川崎記念に続くJpnI・3勝目をマークした。
外々を回っての差し切り勝ちは横綱相撲だった。杉山晴紀調教師は「前走(日本テレビ盃1着)は休み明けでも強い勝ち方だったが、今回はさらに、上積みを感じていた。ここは勝たないといけないと思っていた」と自信を持って臨んでいたことを明かした。今年3月、定年解散の目野哲也厩舎から引き継いで以降、ダイオライト記念、日本テレビ盃とJpnIIは2勝したが、帝王賞JpnIではゴールドドリームにクビ差2着に惜敗。今回は杉山調教師にとって、念願のJpnI初制覇となった。
昨年3月から、13戦続けて騎乗している福永祐一騎手は脚質転換の成功を勝因にあげた。昨年の平安ステークスGIIIまでは逃げか先行して2番手からでないと結果が出なかったケイティブレイブだったが、続く帝王賞JpnIでは出遅れて後方追走から直線一気の末脚で差し切って、周囲を驚かせた。それ以降は、福永騎手がどんな展開になっても、対応できる競馬を教えた。距離不足で11着に敗れたフェブラリーステークスGIを別とすれば、9戦4勝、2着、3着が各2回、4着1回とすっかり安定した。「今日もポジションは決めずに、流れに任せて無理せず、リズムが守れる外めにつけました。今では何でもできる馬になりました」と胸を張った。
今後は、12月2日中京のチャンピオンズカップGI(ダート1800m)に向かう。「(帝王賞で負けた)ゴールドドリームと(3歳でマイルチャンピオンシップ南部杯を制した)ルヴァンスレーヴが相手になりますが、対戦できる勲章は今日、得ることができたと思います」と福永騎手。JBCクラシックJpnIからチャンピオンズカップGI、東京大賞典GIと続く、秋のダート王道路線が、ますます面白くなってきた。
地方から参戦の3頭はタガノゴールドが9着、カツゲキキトキトが12着、シュテルングランツが16着に終わった。「3~4コーナーは思ったより手応えは良かったし、よく頑張った。あともう1つ上の着順が欲しかったですね」とタガノゴールドの下原理騎手。カツゲキキトキトの大畑雅章騎手は「今回は相手が強いので控えました。強い相手と経験を積んで慣れてくれば」と悲願でもあるダートグレード競走制覇に向け、今後に期待をかけた。的場騎手は「3番手のいい位置が取れたが、最後は力の差かな」と振り返った。
文:松浦渉 | 写真:いちかんぽ(桂伸也、早川範雄)

人気馬マークでゴール前とらえる
8歳にして掴んだビッグタイトル
今年で18回目を迎えたJBC競走が、地方競馬から中央競馬に舞台を移して行われた。ダートのスプリンターにとっては国内唯一のJpnIの舞台でもあるJBCスプリントから、その戦いの火ぶたが切られた。
単勝10倍以下は3頭で、1番人気はプロキオンステークスGIIIで日本レコードを叩き出したマテラスカイが2.0倍。2番人気が桜花賞GI優勝や高松宮記念GI・2着(2回)など、芝を中心に活躍してきたレッツゴードンキで6.4倍。3番人気がフェブラリーステークスGIや韓国のコリアスプリントなどを優勝しているモーニンで6.6倍。
しかしそれら人気馬に立ちはだかったのは、4番人気グレイスフルリープだった。昨年は韓国のコリアスプリントを優勝し、それ以降はダートグレードを戦い続けている。今年4月の東京スプリントJpnIIIでは武豊騎手で逃げ切り勝ちを収めたが、前走東京盃JpnIIから手綱をとるクリストフ・ルメール騎手にエスコートされ、ダートスプリント王へと上り詰めた。
レースは、マテラスカイが先頭に立つと、ウインムートや浦和のノブワイルドが続いていき、グレイスフルリープはその後ろの内をキープ。3~4コーナーに向けて馬群がばらけても、グレイスフルリープはマテラスカイの後ろをキープした。
直線に入り、マテラスカイが後続を離しにかかったが、グレイスフルリープは残り300mを過ぎて外に持ち出され、200mを切ってステッキが入れられると、一完歩ずつマテラスカイに詰め寄っていった。芸術的なレース運びで、最後は測ったかのようにクビ差交わしたところがゴール。勝ちタイムは1分10秒4(良)だった。
「馬の状態もよかったです。武さん(マテラスカイ)マークでいいポジションでレースをすることができて、最後も交わせると思いました。完璧な内容でした」と、自身のレースぶりをも褒めたルメール騎手は、JRAで行われたGI(JpnI)では史上初となる4週連続制覇と年間7勝を達成した。
グレイスフルリープを管理する橋口慎介調教師は、JRAの重賞初制覇がJpnIのタイトルとなった。「昨年のコリアスプリント優勝後から、馬体のハリや毛づやなどが目に見えて良化し、走る気持ちも前向きになり、馬が自信をつけたかのよう」と橋口調教師。今年8歳とはいえ年齢を感じさせない走りを続けている。まだまだ奥が深そうな馬だ。
一方、東京盃JpnII連覇の勲章を引っ下げて、地方競馬の期待を一身に背負った船橋のキタサンミカヅキは3着。道中は中団を追走し、直線ではこの馬の持ち味でもある末脚をしっかり繰り出した。
「(キタサンミカヅキの強みは)地方競馬レベルにはいないくらいのパワー」と森泰斗騎手がいうほどの馬。そんなパワータイプだけに、ダートが軽いと言われる京都競馬場で、地方に移籍してからの力強い走りが見られるのかは懸念されていた。
レース後、森騎手は神妙な面持ちで、「無念です。南関東のダートと質が違うので、軽いダートが堪えた感じで、いつもより進みが悪かったです。それでも4コーナーで前が開いた時には何とかなるかなと思ったし、最後はいい脚で伸びているのですが、時計が速くなるぶん、前の馬たちも頑張るので……。重いダートでやれればこのメンバーでもヒケは取りません。いい勝負になるんじゃないかと思っていたので残念です」と肩を落としていた。今年8歳のキタサンミカヅキにとって、充実期ともいえるような今だからこそ、残念な3着だった。
中央時代はオープン特別で1勝を挙げたものの、移籍前には二桁着順も多く、頭打ちの感じもあった。しかし8歳となって確実にパワーアップし、再び中央のJpnIの舞台での堂々とした走りは本当にすばらしい。胸を張って欲しい。
文:高橋華代子 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、桂伸也)

直線一騎打ちで人気馬を競り落とす
今年にかける意欲が生んだJpnI制覇
2018年JBC競走のラストを飾るJBCレディスクラシックJpnI。地方から出走したのは4頭で、そのうちジュエルクイーン、ブランシェクール、ラインハートが大井所属、ディアマルコが高知所属で、いずれもレディスプレリュードJpnIIに出走していた。そこで2着に入ったブランシェクールが単勝52.9倍で10番人気。ほかの3頭は300倍以上となった。
それでもパドックには熱心なファンがたくさん。ディアマルコに騎乗する佐原秀泰騎手の応援幕は、福山競馬場で使われていたもの。笹川翼騎手の応援幕も張られていた。
人気の中心はJRA馬。今年のブリーダーズゴールドカップJpnIIIを制したラビットランが1番人気に支持され、重賞実績があるクイーンマンボが2番人気。フォンターナリーリは初の重賞挑戦だった前走が4着でも、京都競馬場で3着内率100%という実績が評価されたようで3番人気。前年のこのレースでアタマ差2着に敗れたプリンシアコメータが4番人気で、ここまでが単勝10倍以下となった。
16時25分の発走時刻はまさに夕景。この日の京都競馬場ではこのレースだけ、普段は大井競馬場で演奏している東京ブラススタイルのメンバーがファンファーレを生演奏して盛り上げた。それとともに始まった各馬のゲート入りは、プリンシアコメータは時間がかかったものの、それ以外の15頭はスムーズ。そして横一線のスタートになった。
先手を主張したのはアイアンテーラーで、その後にカワキタエンカ、サルサディオーネと続き、プリンシアコメータは4番手。大外枠だったアンジュデジールは1コーナー手前でインコースに進路を見つけて5番手につけた。ラビットランはその直後につけ、ブランシェクール、クイーンマンボ、フォンターナリーリなどがそのうしろ。ジュエルクイーンとラインハートは後方に構え、ディアマルコは馬群から離れた最後方を進んだ。
そのペースは、2ハロン目が10秒9と速くなった以外、残り1ハロンまで12秒台で緩みが少ない流れ。先行した4頭は4コーナーで苦しくなってしまった。
代わって台頭してきたのがアンジュデジールとラビットランで、その2頭は最後の直線で一騎打ち。長く2頭の馬体は並んでいたが、最後はインコースのアンジュデジールがアタマ差で競り勝った。
アンジュデジールは前走のレディスプレリュードJpnIIで大きく出遅れたが、今回は「スタートから気分よく走ってくれました」と横山典弘騎手。「前に行く馬が何頭かいるのでペースは流れてくれるだろうと思っていましたし、1コーナーでちょうどいいところに入れました。最後は(ラビットランに)前に出られるところもありましたが、よく盛り返してくれました」と笑顔だった。
2着惜敗のラビットランは、ミルコ・デムーロ騎手が「最後は苦しくなってしまいました」とコメントを残した。3着には後方から差を詰めてきたファッショニスタが入り、クイーンマンボは4着。地方馬の最先着は、9着のジュエルクイーンで、ブランシェクールは11着。ラインハートは14着で、ディアマルコは15着だった。
JBC競走は実施される競馬場が年によって違うだけに、馬場が向く、向かないがあるのは仕方がないところ。「来年のJBCは浦和ですからね。軽い馬場が得意なタイプですし、(タイトルを)今年取ってしまいたかった。大外枠を引いたのでどんな競馬になるのかと思っていましたが、いい位置を取れましたね」と昆貢調教師。京都の舞台を最大限にいかしての勝利となった。
文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(桂伸也、早川範雄)
注記
当ページは、地方競馬情報誌『ハロン』及び『WEBハロン』における当時の掲載内容を引用又は抜粋し、作成しています。
COMMENT
幸英明 騎手
もしかしたら逃げることもあるのかなとは思っていましたが、逃げたことがなかったので、それがどう出るかちょっと不安はあって乗っていました。それでも向正面半ばくらいでハミをとってくれて、行けるんじゃないかと思いました。これから負けられない立場になってきたなというプレッシャーも感じています。
西浦勝一 調教師
前回負けて、なんとかここはと思っていたので、勝ててホッとしました。逃げたのは意外でしたが、幸君の判断でああいうレースをしてくれたので、間違いないと思って安心して見ていました。どこの競馬場に行っても対応してくれるので、すごく賢い馬だと思っています。