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阪野学騎手 アジアヤングガンズチャレンジ2010 挑戦記

2010年07月21日
取材・文●土屋真光
写真●土屋真光、NAR

 日本では3連休の真っ只中の7月18日、シンガポール・クランジ競馬場で国際見習騎手招待シリーズ「アジアヤングガンズチャレンジ2010(Asian Young Guns Challenge 2010)」が行われた。アジア圏における見習い騎手の国際招待競走といえば、かつて2008年までマカオで開催されていた、アジア競馬会議に所属する国や地域を対象にした「マカオ国際見習騎手招待競走」がある。このアジアヤングガンズチャレンジはこれを引き継ぐような形で、昨年、オーストラリア、香港、シンガポール、日本から見習い騎手を招いてオーストラリアで開催され、今年はシンガポールに舞台を移し、マレーシアからの招待騎手も加わって、アジアナンバーワン見習い騎手の覇を競うこととなった。
 昨年は、日本から唯一人参戦したJRAの藤岡康太騎手が1勝を含む活躍で見事に優勝。今年は日本からの代表の枠が増え、JRAからは松山弘平騎手が、そして地方競馬から名古屋の阪野学騎手(愛知・井上哲厩舎)が参戦。昨年に引き続いての日本勢の勝利や優勝に大きな期待がかかった。

松山騎手と阪野騎手(右)
5カ国から10名の騎手が参戦(右から4人目が阪野騎手)

 全12レースが組まれたこの日のクランジ競馬場の開催。そのうち、第6レース(芝1200メートル)、第8レース(芝1400メートル)、第10レース(ポリトラック1700メートル)の3つのレースがこのシリーズの競走となり、それぞれの着順に応じたポイントの合計で、シリーズ優勝が競われるというもの。10人の参加騎手に対して、10頭を超える頭数の出走もあり、この場合は地元シンガポールの見習い騎手がポイント加算対象外として騎乗した。また、騎乗馬は純粋な抽選ではなく、ハンデキャッパーや番組担当者によって、出場全騎手がポイントを獲得できるチャンスを均等になるように振り分けられた。こういった柔軟さは、興行面の奥行きを十分に拡充させるもので、是非とも機会があれば日本でも取り入れて欲しいものだと思った。

エクストラで第3レースに騎乗(7着)
 さて、阪野騎手にとっては、初の海外遠征、初の芝コース、初の左回りと初物尽くし。直線の長さも普段乗っている名古屋や笠松より相当長い。加えて、当日は昼頃から南国特有のシャワーのような雨が降ったことで、芝はいわゆるノメりやすい状態となっていた。
 レースの3日前から現地入りしていた阪野騎手は、レースに騎乗する馬に調教で跨っていたが、レースとなるとそれはまた別の話。いきなりシリーズでの騎乗となれば、出場全騎手の中で唯一芝の経験がない阪野騎手にとって、このコース状態は相当のハンデとなっていたはず。事実、その日の開催後にも「最初に乗ったレースで、この「芝でノメる」というのが全く今まで自分が知らない感覚だったので、正直戸惑いました」と語っていたほど。これに救いの手を差し伸べたのが、日本でもお馴染みの当地で活躍する高岡秀行調教師だった。第3レースに組まれた芝1400メートルの条件戦に、阪野騎手のために騎乗馬ドルチェヴィータ(セン3歳)をスタンバイ。このひと鞍で好成績こそ残せなかったものの、だいぶ騎乗のイメージが掴めたそうだ。

 迎えたシリーズ、第1戦の第6レースで阪野騎手が手綱を取ったのはダーウィン(セン3歳・ブラウン厩舎)。12頭立てから1頭が取り消して11頭が出走。スタートも五分に決めて、すんなりと中団につけたまではよかったが、4コーナー手前から手応えが怪しくなり、直線ではバテた馬を1頭交わすのが精一杯の10着に終わった。「指示通りの位置にはつけられたんですが…」と見せ場も作れないままでの敗戦を悔やしがっていたが、その一方で結果はともかくイメージ通りに動けたことで、芝コースでの競馬にかなりの手応えを感じたようだった。

第6レース(1戦目)前に関係者と談笑
第6レース(1戦目)のゴール前(10着)

第8レース(2戦目)は惜しくも3着
 続く第2戦目の第8レースでは、人気の一角であるハッピーリド(セン6歳・クー厩舎)に騎乗。一旦は小康状態になった雨が再びバケツをひっくり返したように降り出し、向こう正面は雨の多さで霞むほど。そんな中、スタート直後からサッと外めの2番手に位置取り、絶好の手応えでレースを進める。レースが動いたのは4コーナーの手前。逃げる馬が一杯になり、外から抑えたままのハッピーリドが先頭に立ちかけたところで、この2頭の間にマレーシアのジル騎手が騎乗のイノセントスターがするりと入り込み、ハッピーリドはやや外に振られて遅れる形に。直線に向いて必死に阪野騎手が追うが、そのうち後方から進出したイーガン騎手のスーパーリターンにも迫られ、最後はハナ差で3着に惜敗してしまった。あと一歩のところで勝利を逃した阪野騎手だったが、この3着でポイントを大きく加算。他の騎手の成績によっては逆転優勝の可能性も残して、最終戦へと向かうこととなった。

第10レース(3戦目)に向かう阪野騎手
 迎えた最終戦で手綱を取るのは、これまた高岡厩舎の日本産馬ボウイナイフ(牡4歳)。叔父にエンドスイープがいる良血馬で、JRAに所属していた昨年の小倉のレースでは1着入線(降着で2着)も果たしている。スタート直後から気合をつけて果敢に内枠から先行。2週間前に出走したレースでは逃げて3着に粘っており、そのことからも勝利への期待が高まった。しかし、最後の直線を向いたところで一気に手応えがなくなり、10着に敗退。スタート時と、内から絡まれた3コーナーで脚を使ったのが大きく響いたようだった。残念ながら、期待された逆転優勝は幻に終わってしまった。

第10レース(3戦目)で果敢に先行(最内)
健闘むなしく10着(第10レース・3戦目)

 総合優勝を果たしたのは、第1戦目を制した香港のデレク・リョン騎手。奇遇にも、阪野騎手と同じ愛知の山本茜騎手がニュージーランドに長期遠征していた際、一時期同じ厩舎に所属していたという。阪野騎手は総合で7位に、JRAの松山騎手は9位という結果だった。
 今回参戦した日本人騎手はともに優勝を逃し、勝利を挙げられなかったが、この経験は必ず先々の糧となるはず。レースが終わった夜、1日を振り返って一番うまくいったこと、いかなかったことはなんだい? と阪野騎手に質問をぶつけてみた。
「うまくいったことは、レースの位置取りは全部思った通りにできたこと。うまくいかなかったことは、位置取りが思った通りでも結果に繋がらなかったこと。名古屋とはやっぱり違うんだと思いました」
うーん…、と腕組しながらじっくりと答えた阪野騎手だったが、最後にはっきりとした口調で付け加えた。
「だから、いきなり違う土地でも結果を出せるのがうまい騎手なんですよね。そうなれるように、今日の経験を経験だけで終わらせたくないです」

オーストラリア・香港チームと
現地のバレットと
クランジ競馬場
レース前集合写真
エキストラ騎乗後
パドック
6R騎乗後の検量
裁決室前
調教師と打ち合わせ
激しいスコール
10Rレース後
松山騎手と
がっちり握手
レース後記念撮影
記念品授与
所属の井上調教師夫婦と

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