当コーナーでは、地方競馬に関するイベントや注目レース等の気になる話題を写真と共にご紹介します。

ダービーグランプリを頂点とした
成長を見せた3歳馬たちの争い

2017年12月5日

ダービーシリーズから勢力図の変化は

 『ダービーウイーク』から移行した『ダービーシリーズ』は、地方競馬における3歳戦線前半の盛り上がりとして定着した。そして3歳秋はサラブレッドがもっとも成長する時期とも言われており、今年新たにシリーズ化された『3歳秋のチャンピオンシップ』では、新興勢力の台頭や勢力図の変化も期待できる。
 まずはダービーシリーズからの勢力図の移り変わりをふまえ、3歳秋のチャンピオンシップ各レースを簡単に振り返ってみたい。
黒潮盃
戸塚記念

 南関東のシリーズ対象レースは、大井の黒潮盃と川崎の戸塚記念。もとより南関東三冠いずれかのタイトルを獲った馬たちは秋に備えて出走することが少ないレースで、羽田盃を制したキャプテンキング、東京ダービー、ジャパンダートダービーJpnⅠの二冠を制したヒガシウィルウィンは出走せず。東京ダービー3着だったブラウンレガートが黒潮盃に出走し、春の2強不在ならというという単勝1.8倍の断然人気にこえて4馬身差の圧勝となった。続く戸塚記念でもブラウンレガートは断然人気に支持されたものの5着。主戦の的場文男騎手が遠征のため騎乗できず、馬群の中で流れに乗れなかった。そして夏から秋にかけて急成長を遂げたのがカンムルだ。春は羽田盃8着、東京ダービー5着と勝ち負けには加われなかったものの、黒潮盃で2着に好走すると、戸塚記念では向正面早め先頭から後続を寄せ付けず、強いレースを見せた。その後、さらに古馬相手の埼玉新聞栄冠賞では3歳ながら58キロを背負って勝利。そのときハナ差で2着にしりぞけたディアドムスが、その後勝島王冠を4馬身差で圧勝しているだけに、もはやカンムルは世代を代表するレベルにまで成長したといえそうだ。
 続いては金沢のサラブレッド大賞典。地元無敗で北日本新聞杯を制したヤマミダンスは、石川ダービーでも断然人気に支持されたが、ハイペースに巻き込まれて4着。続くMRO金賞が2着、加賀友禅賞でも5着と、同世代同士でも苦戦するようになった。そして臨んだサラブレッド大賞典は、北日本新聞杯を制したとき以来の逃げの手に出て見事復活の勝利。しかしながら、続く準重賞の石川門カップでは、MRO金賞を制したムーンファーストの2着に敗れており、他の有力馬の成長に対して、ヤマミダンスはやや成長が鈍ったように思われる。また石川ダービーを制したヴィーナスアローは、その後結果を残せていない。
秋の鞍
岐阜金賞

 東海地区では、9月22日に名古屋で秋の鞍、10月13日に笠松で岐阜金賞が行われた。春に駿蹄賞と東海ダービーの二冠を制して東海地区3歳の頂点に立ったドリームズラインは、岐阜金賞に出走して危なげのない勝ち方を見せた。一方で、中央1勝から名古屋に転入した牝馬のポルタディソーニが新興勢力として台頭し、秋の鞍を制した。ポルタディソーニはその後、古馬相手のゴールド争覇でも、カツゲキキトキト、トウケイタイガーという超一線級には差をつけられたものの3着に入る好走を見せ、今後の活躍が楽しみになった。
 兵庫では三冠目の兵庫ダービーを終えると3歳限定戦が組まれていないため、上記東海地区や西日本ダービーに遠征しての戦いとなる。無敗のまま一冠目の菊水賞を制したマジックカーペットは、兵庫ダービー直前に残念ながら骨折(現在も放牧休養中)。菊水賞2着から兵庫ダービーを制したブレイヴコールは、秋の鞍に遠征してポルタディソーニに半馬身差と迫った。ただ兵庫ダービー後の好走はその一戦だけ。格付けされた古馬A2ではやや苦戦している。
ロータスクラウン賞
 佐賀のロータスクラウン賞は、九州ダービー栄城賞を制していたスーパーマックスが6馬身差の圧勝で佐賀二冠を達成。しかし春に一時的に大井に移籍していたため、地元開催となった西日本ダービーへの出走資格がなかったのがなんとも残念。とはいえすでに古馬S2重賞も制し、ここまで佐賀では無敗。来年以降、古馬戦線でも中心的な存在となりそうだ。
 高知の黒潮菊花賞は、二冠を制したフリビオンが西日本ダービー遠征のため不在となっての争い。1番人気の支持にこたえ4馬身差の圧勝となったのは、まさに新興勢力といえるモズオトコマエ。今年7月の中央デビュー戦で惨敗のあと、移籍した北海道では古馬との下級条件戦を2連勝。高知に転入し、古馬とのC3特別を制して臨んでいた。黒潮菊花賞後は、11月末日現在、出走がない。
黒潮菊花賞
不来方賞
 岩手二冠目の不来方賞には、北海道の三冠に挑戦して二冠を制したベンテンコゾウが3月以来、久々の地元戦となる予定だったが、残念ながら間に合わず回避。岩手ダービーダイヤモンドカップを含め重賞3連勝中だったキングジャガーが逃げ切って岩手二冠を制して見せた。
 同日、佐賀で行われた西日本ダービーには、兵庫ダービー馬ブレイヴコール、高知優駿馬フリビオンと、2頭のダービー馬が出走。ほかに重賞勝ち馬では、金沢のムーンファースト、笠松のグレイトデピュティ、地元佐賀勢(S2重賞は除く)ではオヒナサマが出走した。それら重賞勝ち馬が上位4着までを占める結果となり、勝ったのは高知のフリビオン。初めての遠征競馬でも全国区で通用するところを見せた。
西日本ダービー

栄冠は北海道のスーパーステションに

 迎えたダービーグランプリは、11月としてはめずらしい雪の中での決戦となった。『3歳秋のチャンピオンシップ』対象レースを制してボーナスの可能性があったのは、地元のキングジャガーと、西日本ダービーを制したフリビオンの2頭。ともにカテゴリーBのレースを制しており、勝てば500万円のボーナスとなる。
 しかし勝ったのは、すでに今年度の開催が終了していた北海道のスーパーステション。レースハイライトでも書いたとおり、3歳前半までは万全の状態になく、重賞初制覇となった王冠賞あたりから本格化。まさに夏から秋にかけての上がり馬が、秋の頂点を制した。惜しかったのは、ゴール前差を詰めたフリビオンで、500万円のボーナスに1馬身届かなかった。
 北海道所属馬がダービーグランプリを制したのは、1991年リバーストンキング以来のこと。まだ交流が盛んになる前で、競馬の仕組自体が今とはだいぶ違う時代。その後、JRA認定競走の制度ができたことで、ホッカイドウ競馬では2歳馬の層が格段に厚いものとなった。ところが2歳シーズンが終了すると、有力馬のほとんどが中央や南関東に転出してしまい、逆に3歳戦線は盛り上がりに欠けるようになった。それでも昨年から北海道の三冠にはボーナスが設定され、また冬期他地区に転出していた馬が翌シーズンの開幕に合わせて北海道に戻れば補助金が支給されるようになるなど、3歳、古馬のレベルも上がってきていた。それらが、北海道勢による26年ぶりのダービーグランプリ制覇の一因となったともいえるだろう。
 残念だったのは、ホッカイドウ競馬には3歳秋のチャンピオンシップの対象レースが設定されていないこと。位置づけ的には、三冠目の、まさにスーパーステションが制していた王冠賞が対象レースとなってもよさそうだが、実施が7月のため、“秋の…”とはならなかったのだろう。
 前述のとおり兵庫にもシリーズ対象レースはないが、兵庫の場合は東海地区への遠征が容易で、実際に今年も秋の鞍、岐阜金賞には兵庫所属馬が出走していた。また生え抜き馬に限られるものの、西日本ダービーもある。
 対して北海道所属馬がこのボーナスを狙おうと思えば、岩手の不来方賞は地元馬限定ゆえに出走できず、大井の黒潮盃か、東海地区まで遠征しなければならず、あまり現実的ではない。
 王冠賞は、シリーズ初戦の黒潮盃よりわずか2週間早いだけ。来年は8月施行にするなどして、シリーズに加えるべきと思う。
 交流がほとんどなく、地方競馬が競馬場ごと、地区ごとに完結していたかつてであれば、各地の“三冠”というタイトルにもそれなりの価値や重みがあった。ところが交流が盛んになって、たとえば今年の活躍馬でいえば、フリビオンは高知の三冠を捨てて、さらに高みを目指し、西日本ダービー、そしてダービーグランプリへと遠征。また岩手には、地元二冠馬と北海道の二冠馬とが同時に存在することになった。
 かつてダービーグランプリは、地方だけの交流の時代でも1着賞金5000万円で行われていた時期があり、しかし今年は1000万円。それでも昨年までの800万円からはアップしているのだが。
 地方全国交流の頂点を争うという価値を高めるために、ダービーグランプリの賞金、そして3歳秋のチャンピオンシップのボーナス(800~300万円)は、もっと引き上げられてもいいと思うのだが、どうだろう。

文:斎藤修
写真:いちかんぽ