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”短期集中連載” 【地方競馬所属騎手の韓国遠征記録】
「最終回 内田騎手の重賞制覇と山本騎手の活躍、続いていく日韓交流」

2013年07月31日
取材・文・写真●牛山基康

 2007年に期間限定免許による外国人騎手の受け入れを正式に開始した韓国。隣国という地理的な好条件に加えて、行われているのがダート競馬ということもあり、いまや地方競馬所属騎手の海外遠征先としてすっかり定着している。地方競馬所属騎手の韓国での活躍ぶりをお伝えするこの連載。最終回は、メイセイオペラ産駒でグレード競走を制した内田利雄騎手を筆頭に、多くの地方競馬所属騎手が騎乗した2011、2012年を中心に振り返る。

2回目も変わらない内田騎手の存在感
 約2年ぶりに2回目の韓国遠征を実現した内田利雄騎手は、2010年11月5日からプサンキョンナム競馬場で騎乗。翌週には大統領杯の騎乗依頼を受けてソウル競馬場にも遠征するなど、いきなり存在感を示して2011年を迎えると、年が明けてほどなく、ある3歳馬の騎乗を依頼された。初めて騎乗した1月21日は、すでにデビューから8戦目。それでも「まだ走る気になっていませんね」と内田騎手をてこずらせたのは、ソスルッテムンというメイセイオペラ産駒だった。勝負どころまでは抑えるのに苦労するほどだったが、直線は必死に追ってもなかなか伸びない。「鞍上がバテちゃうよ」と苦笑しながらも2着した内田騎手は、黙々と調教をこなす反面、教えたことを覚えてくれないという同馬を次走でも2着に導くと、続く3冠の1冠目である4月3日のKRAカップ・マイルを勝利。韓国でのグレード競走初制覇を達成した。
メイセイオペラ産駒のソスルッテムンでKRAカップ・マイルを制覇した内田騎手(写真提供:KRA韓国馬事会)
 思わぬスローペースで最内に閉じ込められたが、4コーナーを回るときに一瞬だけ馬群が切れた。それを逃さなかった内田騎手の好騎乗もさることながら、外に出されたソスルッテムンは、内田騎手が驚くほど直線もしっかりと伸びたという。「勝つときというのは、すべてがうまくいくものですね」。2冠を目指してソウル競馬場に遠征した5月15日のコリアンダービーも内田騎手が騎乗。残念ながら26㎏の馬体重減で7着に終わったが、ダービーに初めて騎乗した外国人騎手として韓国の競馬史にその名を刻んだ。
 2011年8月28日まで騎乗した2回目の韓国遠征でも1回目と同数の69勝を挙げた内田騎手だが、「満足できる数字ではありますが、1回目と2回目で内容が違いますからね」という。2回目の遠征までに腕を上げた上位の騎手たちによるマークが激しくなり、10ヵ月の騎乗で384戦を要したからだが、それでも韓国での通算成績を695戦138勝に伸ばし、韓国における外国人騎手の最多勝記録を更新して帰国した。


伝説の名馬と記録に挑んだ山本騎手
 「マレーシアに行く機会があったのですが、そこにちょうど韓国の騎手が交流で来ていて、それから韓国を意識するようになりました」という、これまでにないきっかけで遠征を決めたのが山本茜騎手だ。「ミサキティンバーが走っていたので、東海ダービーが終わってからというタイミングになりました」と、2011年7月1日からプサンキョンナム競馬場での騎乗をスタート。すでにニュージーランドで海外での騎乗も経験していた山本騎手は、特別競走を制してソウル競馬場のグレード競走にも遠征するなど着実に結果を出していくと、ある大役を任されることになった。韓国の最多連勝記録を塗り替える16連勝を達成したばかりのミスターパークの鞍上だ。脚元に爆弾を抱える同馬が記録更新に挑んだ10月16日の騎乗を依頼され、これを無事にクリアすると、続く12月11日の大一番、グランプリの鞍上も託された。
 「私が乗って脚元が大丈夫だったので、それでグランプリも乗ることになったみたいです」。結果は逃げて2着。前年の覇者にして目下17連勝、人気と記録を背負って正攻法の競馬で勝ちに行ったが、前年の1番人気馬のリベンジに遭った。「負けてしまいましたけど、レース自体は後悔していません」。韓国の伝説的な名馬のハイライトに騎乗した騎手として記憶されることになった“アカネ”騎手は、18勝目を挙げた同馬の次走も鞍上を務めるなど、2012年4月8日まで騎乗して256戦41勝の成績で遠征を終えた。



ケガにも泣いたソウル競馬場での騎乗
別府騎手は国際女性騎手招待以来の
プサン遠征も果たした
 山本騎手よりひと足早く、2011年3月19日からソウル競馬場での騎乗を開始したのが、同期の別府真衣騎手だ。「国際女性騎手招待に参加して韓国に興味がわいたこともありますし、馬事会の方も熱心に誘ってくださったので」と遠征を決めたが、韓国での初騎乗の翌週にゲート練習でくるぶしを骨折するアクシデント。いきなり6月11日まで騎乗できなかった。「なかなか勝てませんでしたが、それでもよくしてくれて頭数は乗れました。初勝利できたときはうれしかったですね。勝てずに帰るのかなと思ったけど、厩舎の協力で勝たせてもらって免許期間を延長できました」。2012年2月26日まで騎乗して290戦13勝した別府騎手は、「もうちょっといたかったというのが正直なところですが、1年間の遠征で少しは成長できたかな? レースで落ち着いて乗れるようにはなりましたね」と遠征を振り返った。

騎乗馬に恵まれずケガもしながら
10勝を挙げた野田騎手

 別府騎手が復帰したころ、新たに野田誠騎手がソウル競馬場にやってきた。「ほかの人たちの遠征を見て、行ってみたいと思いました。年齢的にもそろそろ行っておかないとと思ったし」という野田騎手は、2011年6月18日から騎乗。2011年は6勝に終わり、ソウルの厳しさを実感したが、「厳しいのは厳しいけど、来て良かったですよ。後悔はしていません。精神的にもまれましたね。知らない人とコミュニケーションをとらなければ乗れないわけだし」。2012年になって調教中にラチの外に放り出されるアクシデントで入院もしたが、それでも3月10日には復帰。5月27日まで騎乗して407戦10勝の成績を残した。



それぞれの短期遠征を終えて……
 2011年10月28日には西村栄喜騎手が2回目のプサンキョンナム競馬場での騎乗を始めた。遠征中に地元の荒尾競馬場が廃止されてしまい、船橋競馬場への移籍も決まっていたため、2012年2月12日の騎乗をもって遠征を終えた。「プサンで乗れたことで、左回りへの対応ができていたのはよかったですね」という西村騎手。約4ヵ月で終了した2回目の遠征ではソウル競馬場にも遠征して105戦12勝。韓国の通算成績を497戦60勝に伸ばすと、なぜ延長しないんだと惜しまれながら新たな戦いの場に向かうために帰国した。
井上騎手は寒さの厳しいソウルで体重を落とせずに苦労
 2011年12月10日から2012年3月25日までソウル競馬場に参戦した井上俊彦騎手。そのきっかけは、これまでに遠征した騎手とは少し違っていた。「北海道の騎手が冬に遠征する場所のひとつとして、後輩たちに勧められるかどうか、様子見を兼ねて来たんです」。遠征初日にいきなり1勝を挙げ、幸先のいいスタートかと思われたが、思わぬ苦労が待っていた。「重たい人はダメですね。サウナもお風呂もまともに使えないので、これじゃ絞れないですよ」。習慣の違いに戸惑った井上騎手は「最初は53㌔も乗っていたんですが、とても無理。乗れないといったら、一気に騎乗馬が減りました(苦笑)。軽い人には勧めたいですね」。結局、83戦して勝ち星は初日の1勝だけに終わってしまったが2着8回3着11回。少ない騎乗馬でも健闘を見せた。


楢崎騎手は悔しいダービー2着
 「今まで福山で乗ってきて、違うところでも乗ってみたいなと。外国に行くのも面白いかと思って」。そういって2012年3月16日からプサンキョンナム競馬場での騎乗をスタートした楢崎功祐騎手は、徐々に調子を上げ、5月に限ると39戦9勝、同月20日にはコリアンダービーに騎乗して2着に追い込んだ。「悔しかったですね。あそこまでテンに行けないとは……」。追い切りで併せ馬の相手が思ったほど走ってくれず、懸念していたことが現実になってしまったという。4コーナーでも最後方。騎乗馬に上がり3ハロン39秒7の末脚を発揮させたが、1馬身だけ勝ち馬に届かなかった。
 ダービーだけでなくオークスを含む3歳の4大競走すべてに騎乗したほか、グランプリにも騎乗するなどグレード競走の依頼も多かった。順調に勝ち星を積み重ねて韓国での通算成績は508戦68勝を数えたが、それでも騎乗馬に恵まれていたことを考えると満足できる数字ではなかったという楢崎騎手は、福山競馬場でのラストランに駆けつけるために2013年3月17日で遠征を終えた。


両競馬場の違いも経験した安部騎手
 2012年4月6日には安部幸夫騎手もプサンキョンナム競馬場の所属で騎乗を開始した。「最近は中央遠征も減ってきましたし、もうひと頑張りしたい、新しいところでやってみようかという気持ちになりました」。いきなり4月だけで51戦8勝という好スタートを切ると、翌月にはコリアンダービーに騎乗するためソウル競馬場に遠征。8月からは、そのソウル競馬場に移籍して遠征を続けることになった。プサンの地元騎手たちにもソウルでの活躍を期待された安部騎手は、移籍した8月に27戦4勝とこれまた好スタート。だが、9月以降は苦戦が続いた。「ぼくがもう少し頑張ればよかったんでしょうけど」というが、それにしても有力馬に騎乗する機会が少なかった。
 韓国での最後の騎乗となった2013年7月28日は、夏のグランプリともいえるプサンキョンナム競馬場の釜山広域市長杯にソウルからの遠征馬で参戦。主戦騎手の騎乗停止によって騎乗が決まったそうだが、プサンでも騎乗していた安部騎手だからこその依頼でもある。韓国での通算成績を542戦35勝とした安部騎手は、「2ヵ所で騎乗して、多くの人に出会えたことはよかったですね」。結果には満足していないが貴重な経験だったという1年4ヵ月の韓国生活をプサン遠征で締めくくった。


今年も続く地方競馬所属騎手の遠征
 2013年になると、新たに嬉勝則騎手が4月12日からプサンキョンナム競馬場で、そして2回目の韓国遠征となる倉兼育康騎手が4月13日からソウル競馬場で騎乗をスタートしている。ソウル競馬場と大井競馬場の相互国際交流競走の実施が発表されて、ますます注目を集める韓国の競馬。地方競馬所属騎手の遠征は、今後も続いていくことだろう。



地方競馬所属騎手の韓国遠征成績(年度別)
騎手名(所属) 成績 騎乗期間 所属場
大賞(グレード・リステッド)成績
2011年
宮下瞳(愛知) 106戦2勝 1月7日~4月3日 プサン
KRAカップ・マイル(G2)6着、釜山日報杯(L)5着
内田利雄 319戦61勝 1月7日~8月28日 プサン
KRAカップ・マイル(G2)1着、コリアンダービー(G1)7着、コリアンオークス(G2)14着、
慶南道民日報杯(L)3着、釜山日報杯(L)4着、KNN杯(L)11着、国際新聞杯(L)11着
別府真衣(高知) 251戦13勝 3月19日~12月18日 ソウル
釜山広域市長杯(G3)4着、KRAカップ・クラシック(G3)10着
野田誠(福山) 276戦6勝 6月18日~12月18日 ソウル
釜山広域市長杯(G3)9着、SBS杯(L)7着、日刊スポーツ杯(L)14着
山本茜(愛知) 167戦28勝 7月1日~12月16日 プサン
グランプリ(G1)2着、農林水産食品部長官杯(G2)7着、コリアンオークス(G2)11着、
慶尚南道知事杯(G3)5着、慶南道民日報杯(L)6着、慶南新聞杯(L)6着
西村栄喜(荒尾) 64戦7勝 10月28日~12月18日 プサン
ブリーダーズカップ(G3)10着
井上俊彦(北海道) 11戦1勝 12月10日~12月11日 ソウル
2012年
西村栄喜(荒尾) 41戦5勝 1月13日~2月12日 プサン
別府真衣(高知) 39戦0勝 2月4日~2月26日 ソウル
世界日報杯(L)3着
井上俊彦(北海道) 72戦0勝 1月7日~3月11日 ソウル
ヘラルド経済杯(L)6着
山本茜(愛知) 89戦13勝 1月13日~4月8日 プサン
KRAカップ・マイル(G2)9着、釜山日報杯(L)13着
野田誠(福山) 131戦4勝 1月7日~5月27日 ソウル
楢崎功祐(福山) 392戦51勝 3月16日~12月30日 プサン
コリアンダービー(G1)2着、グランプリ(G1)9着、KRAカップ・マイル(G2)3着、
コリアンオークス(G2)5着、農林水産食品部長官杯(G2)5着、オーナーズカップ(G3)2着、
慶尚南道知事杯(G3)5着、国際新聞杯(L)4着、慶南道民日報杯(L)8着、KNN杯(L)13着
安部幸夫(愛知) 165戦20勝 4月6日~7月22日 プサン
154戦6勝 8月11日~12月23日 ソウル
コリアンダービー(G1)8着、慶尚南道知事杯(G3)3着、釜山広域市長杯(G3)5着、
KRAカップ・クラシック(G3)13着、慶南道民日報杯(L)2着、KNN杯(L)6着、東亜日報杯(L)着外※
2013年(遠征終了騎手のみ)
楢崎功祐(福山) 116戦17勝 1月4日~3月17日 プサン
釜山日報杯(L)6着
安部幸夫(愛知) 223戦9勝 1月5日~7月28日 ソウル
コリアンダービー(G1)7着、ソウル馬主協会長杯(G3)2着、済州特別自治道知事杯(G3)6着、
釜山広域市長杯(G3)9着、スポーツ朝鮮杯(L)3着、世界日報杯(L)13着
※タイムオーバー(韓国では失格扱い)