JBC過去の熱戦

第16回 2016年
川崎競馬場

  • 11月3日 川崎競馬場 左2100m

    第16回JBCクラシック JpnI

    アウォーディー

    競走成績

    レース映像

    連勝の勢いで実績馬を圧倒
    ダート王に名乗りを上げる

    第16回となる今年のJBCは28,718名の入場者を集め、1日の勝馬投票券の売得金額が地方競馬歴代1位となる48億7402万2850円を記録、JBCクラシックとレディスクラシックの売得金額も、昨年の大井を上回るレコード。要因は、好メンバーが集まったことといえるだろう。 その舞台はコーナー6回の2100m。GI/JpnIの優勝回数でトップを目指すコパノリッキーにとっては初めての距離だが、前走のマイルチャンピオンシップ南部杯JpnIで日本レコードに迫る圧勝をみせたそのスピードは、ここでも1番人気として信頼された。 ホッコータルマエはその記録で追われる立場ではあるが、単勝では3番人気。逆に1番人気に迫る注目を集めたのが、ダートに転じて5連勝中のアウォーディーだった。この3頭に加えてノンコノユメまでが単勝10倍未満。そのあとはサウンドトゥルーが14.6倍、クリソライトは47.5倍という分布になった。 それらの強敵たちに真っ向勝負を挑んだのが、船橋所属のサミットストーン。スタート後、先手を取ったホッコータルマエを交わし、単騎逃げの態勢に持ち込んだ。ホッコータルマエはそれを見て2番手に下げ、その後ろにイッシンドウタイ、コパノリッキーなどが追走。アウォーディーも先行グループに加わっていった。 1周目スタンド前での隊列には落ち着きがあったが、再び向正面に入ると勝利を狙う争いは一気に活気を帯びてきた。コパノリッキーはホッコータルマエをターゲットに動き出し、その背後からアウォーディーも仕掛けていく。3コーナー過ぎでは上位人気3頭が先頭争いをする構図になったが、外を回ったアウォーディーの勢いは、遠くから見ていても一枚上のものがあった。 結果、アウォーディーがゴール前200m付近で先頭に立って押し切り勝ち。その姿には、この日いちばんの歓声がわき起こった。 それを見届けた前田幸治オーナーは「次はチャンピオンズカップ。来年はラニと一緒にドバイに行きたいね」と満足げな表情で宣言。まさに夢が広がる勝利になった。 3/4馬身差で2着だったホッコータルマエの鞍上、幸英明騎手は「今日は展開的にちょっと厳しかったですね」とのこと。それでも「残り2戦(チャンピオンズカップGI、東京大賞典GI)、がんばります」と気を取り直していた。 しかしながらアウォーディーの勢いは、他の陣営も一目を置かざるを得ないことになったようだ。 3着に入ったサウンドトゥルーを管理する高木登調教師は「ウチの馬もすごく良くなっていたけれど……、強いね」と、悔しさよりもその走りに感心した様子。5着に敗れたコパノリッキー鞍上の田邊裕信騎手も「コーナー6回のコースで馬が少し力んだところはありましたが、今回は相手が上でした」と振り返った。チャンピオンズカップGIは適条件といえるコーナー4回の1800m。巻き返しを狙ってくるはずだ。 4着に食い込んだノンコノユメを管理する加藤征弘調教師は「去勢して走りの反応がよくなりましたね。次は中京。これからどんどん行きますよ」と、笑顔を見せていた。 12月に控えるトップホースたちの戦いには、おそらくモーニンなども加わってくることだろう。輪をかけてハイレベルになっていくダート界の頂点をめぐる争い。その行方が今から楽しみだ。

    • 武豊 騎手

      どういうペースになるのかわかりませんでしたし、先行勢には離されない位置で行こうと思っていましたが、1周目がスローペースだったので早めに動きました。最後の直線での手応えもよかったのですが、先頭に立ちたがらないタイプなので、抜け出すタイミングを間違えないように気をつけました。

    • 松永幹夫 調教師

      今日は日本のダート界でいちばん強い馬たちが集まっていましたから、そのなかでいいレースができました。早めに抜け出すと走るのをやめる面があるところだけは心配していましたが、走りはいつものアウォーディーらしくて、安心して見ていられましたね。ジョッキーがうまく乗ってくれました。

    文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(国分智、岡田友貴)

  • 11月3日 川崎競馬場 左1400m

    第16回JBCスプリント JpnI

    ダノンレジェンド

    競走成績

    レース映像

    ハナを奪って逃げ切り完勝 1年越し悲願達成のJpnI制覇

    舞台は川崎1400m。スピードのみならず、器用さと強さが求められる一戦。1周1200m馬場の多い地方競馬場ならでは、そして、それがむしろ誇りとも言える“地方競馬の根幹距離”に、12頭のスプリンターが集結した。 大井のソルテにとっては、願ってもない舞台設定だった。さきたま杯JpnII制覇に加えて、かしわ記念JpnIでも2着に奮闘。いまや地方競馬のエースに成長した。本質的にマイルがベストだが、馬場を1周する1400m戦なら、持ち前の器用さが存分に生かせるはず。まして、コーナーのきつい川崎コース。不慣れな馬は、コーナーで減速せざるを得ない状況にもなりうる。すなわちそれが、全馬初コースというJRA勢の最大の課題。地の利か、スピードか。川崎1400mであるがゆえのおもしろさが、このレースをさらに熱くさせた。 結果は、スピードの勝利だった。最内枠から五分にスタートを切ったダノンレジェンドが、ソルテとコーリンベリーを制してハナを切った。コーナーを無難にこなして最後の直線に向くと、正面から秋の陽光を受け、ゴールに向かってひた走る。トップスピードのまま大観衆の前を駆け抜け、3馬身差の完勝を演じた。 ゆっくりと、激戦の足跡をたどるようにウィニングランを行ったダノンレジェンドとミルコ・デムーロ騎手。実際のところは「ウィニングランは物見をしていて、乗っていて怖かったよ」(デムーロ騎手)とのことだったが、馬にとっては悲願のJpnI初制覇、そして鞍上にとっては地方で初めてとなるJpnI制覇の余韻を楽しんでいるかのように見えた。 その鞍上の笑顔とは対照的に、村山明調教師は「1年間、いっぱい悔しい思いをしてきた」と思いを吐き出した。世界を知るデムーロ騎手からは「ドバイに行こう、海外に行こう」と言われていたそうだ。しかし、まずは昨年のリベンジから。この1年間、出遅れや展開のアヤで勝利を逃したこともあったが、酷量に耐え、持ち前のスピードを振り絞ってきた。それが、このレースで結実。村山調教師は「来年はドバイ遠征も視野に入れたい」と口にした。 ベストウォーリアの堅実さにも脱帽する。結果的に1番人気には応えられず2着だったが、内を突いて伸びてきたあたりは器用に立ち回った証拠だろう。これで1400mは【3・3・0・1】。斤量との戦いにはなるものの、今後は小回り1400mでも実績馬らしい走りをしてくれるはずだ。 一方、2番人気に推されたソルテは、4コーナーで手ごたえがなくなり6着。ここを目標に調整され、涼しくなったことで体調も上向いていたが、道中の行きっぷりや手ごたえは本来のものではなかった。さきたま杯JpnIIでは2キロの斤量差こそあったものの、ベストウォーリアに完勝しており、力負けとは考えにくい。大舞台で結果を出すことは、それほど難しいということか。 その点、ダノンレジェンドは大舞台で最高の結果を出した。1年間の悔しさ、苦しさをバネに、リベンジを果たした。 さあ、行こう。地方で培った強さを武器に、世界の大舞台へ。

    • M.デムーロ 騎手

      地方でジーワンを勝っていなかったから本当にうれしいです。やはり1200~1400mでは強いですね。ゲートでも落ち着いていたし、前走のように道中でプレッシャーを受けるようなこともなく、いい手ごたえで直線を迎えられました。でも、最後は太陽がまぶしかったですね。

    • 村山明 調教師

      この1年間は悔しい思いをしてきましたが、いつも通りの走りができれば一番強いと思って調整してきました。スタートで控えずに行き切ってくれたし、ミルコもうまく乗ってくれましたね。年内は休養。来年はオーナーとの相談次第で、ドバイも視野に入れたいと思っています。

    文:大貫師男 | 写真:いちかんぽ(国分智、岡田友貴)

  • 11月3日 川崎競馬場 左1600m

    第6回JBCレディスクラシック JpnI

    ホワイトフーガ

    競走成績

    レース映像

    好位から直線先頭で突き放す 得意のコースを味方に連覇達成

    今年で6回目を迎えたJBCレディスクラシックJpnI。レディスプレリュードJpnIIで2着同着だったトーコーヴィーナスを除く上位入線馬がエントリーしたが、そこで4着に入っていたララベルが右後肢臀筋炎のため、レース前日に競走除外。単勝5番人気までJRA所属馬が独占した。 JBCレディスクラシックJpnIのパドックに出走馬が姿を現した時点で、川崎競馬場の入場者数は2万人をオーバー。注目のなか、1番人気にはホワイトフーガが支持された。ホワイトフーガは前走後に“ノド鳴り”があるという高木登調教師の発言が報道されていたのだが、その心配をよそにパドックでは威風堂々とした歩き。昨年の覇者、そして川崎コースで2戦2勝というところも、支持を後押ししたのだろう。 2番人気はトロワボヌール。大井競馬場で行われた昨年は3着だったが、良績のほとんどが左回りというこの馬にとっては巡りあわせが悪かった。しかし川崎が舞台なら大きなチャンス。パドックでは隊列のいちばんうしろをマイペースで歩いていた。 アムールブリエもタマノブリュネットも気配は良好。そういったダート実績がある面々に、初ダートとなるレッツゴードンキが挑戦してきた。もともとはJRA桜花賞GIを逃げ切った快速馬。しかし場内から聞こえてくる会話からは、予想を悩ましくさせる存在になっていたようだった。 そのレッツゴードンキは大外枠。それでも鞍上の岩田康誠騎手は先手を取ったブルーチッパーの直後へと導き、ホワイトフーガが3番手を追走する展開になった。 先行した3頭が3コーナー手前に達したとき、向正面にある“川崎ドリームビジョン”に、ホワイトフーガ鞍上の蛯名正義騎手が持つ手綱が短く、そして張り詰めた状態になっている様子が大きく映しだされた。 その溜めた力が解放されたのが最後の直線。3コーナー過ぎで失速したブルーチッパーに代わってレッツゴードンキが先頭に立ったが、2頭の馬体が並んだ時間は短かった。ホワイトフーガが力強い伸び脚を披露して、昨年に続いての女王に輝いた。 レッツゴードンキは1馬身半差で2着。梅田智之調教師は「2着では正直喜べないですね」と、納得がいかぬという表情をしていた。それでもこの結果ならば、今後も芝・ダートを問わない活躍が期待できることだろう。 4着タマノブリュネット鞍上の田邊裕信騎手が「1600mは忙しかったですよ」とコメントを残した。9着だったアムールブリエとともに、今年のJBCが川崎で行われたことがマイナスになったようだった。 それらJRA勢を相手に3着に食い込んだのが、浦和のトーセンセラヴィ。父ディープインパクト、母がダートグレードで6勝を挙げたトーセンジョウオーという良血ではあるが、レース当日はまだA2クラスで、さらに今回が重賞初出走。しかしながら昨年12月に移籍初戦を迎えてからの上昇ぶりには目を瞠るだけのものがある。南関東リーディングを独走する小久保智厩舎が送り出すこの馬の今後に、大きな期待がふくらむ一戦でもあった。

    • 蛯名正義 騎手

      返し馬のときから状態のよさを感じていました。枠順がよかったので、ペースが速ければ引くし、遅ければ前に行こうと思っていましたが、速くはなかったので3番手。いいところに付けられました。道中はすこし行きたがっていましたが、以前ほどではなかったですし、手ごたえもよかったです。

    • 高木登 調教師

      勝ててホッとしました。この中間はノドの状態が気になっていましたが、それでもいい状態に仕上げられましたし、パドックでも落ち着いていました。レースではいいポジションが取れましたね。3コーナーあたりでジョッキーがうまく外に出してくれたところで、大丈夫だろうと思いました。

    文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(岡田友貴、国分智)

第17回 2017年
大井競馬場

  • 11月4日 大井競馬場 右2000m

    第17回JBCクラシック JpnI

    サウンドトゥルー

    競走成績

    レース映像

    後方から持ち味を発揮し差し切る 3度目の正直でJBCタイトル奪取

    すでに終了したJBCレディスクラシックJpnIとスプリントJpnIの1着馬と2着馬の差はともにアタマ。2戦続けてきわどい勝負が続くと場内の熱気がさらに高まるのは必然で、JBCクラシックJpnIのパドックはかなりの人口密度になった。 出走馬は13頭で、そのうちJRA所属馬が7頭。昨年、川崎競馬場で行われたこのレースを制したアウォーディーが2.4倍で1番人気に推され、昨年の東京大賞典GIを制したアポロケンタッキーが3.6倍で2番人気。その2頭に続いたのはケイティブレイブとサウンドトゥルーで、ここまでの4頭が単勝6倍未満。オールブラッシュはパドック周回中では13倍台だったが最終的には15.2倍。グレンツェントは14倍台から20.0倍まで下がり、徐々に上位4頭に人気が集約されていく形になった。 ゲートが開き、先手を主張したのはオールブラッシュ。大井のサブノクロヒョウが2番手につけ、ミツバ、アウォーディーは前の2頭を見る形。ケイティブレイブは7番手あたりを進み、アポロケンタッキーはその直後。サウンドトゥルーはさらにその後方からレースを進めた。 向正面に入ったところで、場内の大型ビジョンには先頭から順番に走行中の各馬がアップになった。それがアポロケンタッキーのところに来たとき、内田博幸騎手が腰を落としながら手を大きく動かしている姿が映った。その瞬間、スタンドのファンからはどよめきが。そして画面が先頭争いに戻ると、激しくなりつつある先頭争いに再び歓声が上がった。 最後の直線に入ると、逃げるオールブラッシュに代わって、ミツバとケイティブレイブが先頭に。アウォーディーはインコースから差を詰めてきたが、並びかけたところから伸びあぐねる走りになった。そこに勢いよく加わってきたのはサウンドトゥルー。ミツバとケイティブレイブの追い比べを横目に、1馬身差をつけてJBC初勝利を飾った。 サウンドトゥルーはそのままの流れで馬場をもう1周。ホームストレッチではファンからの大声援を浴びた。検量エリアに戻ってきたところでは大野拓弥騎手が「この馬にとってのマイペース」と笑顔を見せた。 2着のケイティブレイブは勝利を寸前で逃したが、福永祐一騎手は「以前からこういうレースをしたいと思っていました」とコメント。徐々に成長している手ごたえをつかんでいるようだった。 惜しかったのはJRA勢では最低人気ながら、2着とはクビ差3着だったミツバ。松山弘平騎手は「最後まで真面目に走ってくれて、ゴール前では差し返そうとしてくれました」と残念そうだったが、パドックで勢いよく歩く姿には状態のよさが現れていた。 4着のアウォーディーは「状態も走りもよかったのですが、大井は合わないのかな」と武豊騎手。「左回りのほうが力を発揮できると思いますので、次は巻き返したい」と12月3日のチャンピオンズカップGIでの捲土重来を期した。 しかし、そこを狙うのはサウンドトゥルーも同様。「寒い時期は調子が上がる」タイプだけに、チャンピオンズカップGIの連覇が次のターゲットだ。「まだ成長の余地がある感じがしますね」と高木登調教師。7歳でもまだまだ、ダート界の中心的存在として君臨し続けていくつもりだ。

    • 大野拓弥 騎手

      惜しい競馬が続いていたので、勝ちたいと思っていました。(休み明けを)1走して状態がすごく良くなっていましたし、自信を持ってマイペースで行くことを心掛けて乗りました。今回は最後の直線で手前をしっかりかえてくれましたね。今年の残り2戦でもいい競馬をしてくれると思います。

    • 高木登 調教師

      ジョッキーには「ウチのがいちばん強いと思って乗ってこい」と言いました。夏負けがきついタイプですが、今年は順調に調整できましたね。前走のときも調子がよくて、今回はさらに良くなっていましたから、これを維持できるか心配(笑)。でも年末までもう2つ、タイトルを取りに行きたいと思っています。

    文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、国分智)

  • 11月4日 大井競馬場 右1200m

    第17回JBCスプリント JpnI

    ニシケンモノノフ

    競走成績

    レース映像

    4頭が同タイムの激戦を制す
    地方デビュー馬が頂点奪取

    大観衆が目にしたのは、JBC史上に残る名勝負だった。 前哨戦・東京盃JpnIIは、地方馬によるワンツーフィニッシュ。船橋のキタサンミカヅキが持ち前の末脚を繰り出し、先に抜け出した浦和のブルドッグボスをゴール前で差し切った。当然、この2頭への期待も大きかったが、東京盃JpnIIで休み明けながら3着に食い込んだニシケンモノノフ、大井1200mで抜群の成績を誇るコーリンベリー、そしてGI/JpnI単独最多勝の11勝目を狙い、あえてこのレースを選択してきたコパノリッキーと、JRA勢も強力な布陣。地方馬として、スプリンターとして、GI/JpnI・10勝馬として、それぞれの意地がぶつかり合う一戦となった。 ダッシュ良く飛び出したコーリンベリーを先頭に、向正面の長い直線を使った先行争いが演じられる。そのさなか、出遅れ気味のスタートだったコパノリッキーが外から一気に位置取りを上げ、3コーナーで先団に取りつく。最内枠のニシケンモノノフは先行争いに加わりながらも内で脚をため、ブルドッグボスとキタサンミカヅキは中団位置。それぞれの思惑が入り乱れ、最後の直線を迎えた。 コーリンベリーとネロがしぶとい粘り腰を発揮し、コパノリッキーもじわじわと差を詰める。直線も半ばを過ぎると、外では中団にいた地方勢2頭の末脚が爆発。ニシケンモノノフは抜け出す場所を内に求め、進路を切り替える。6頭による息が詰まるような最後の攻防。結果、4頭が同タイムでゴール線を切った。 そして、左手でガッツポーズを作ったのはニシケンモノノフ鞍上の横山典弘騎手。内に進路を切り替えたとたん、ニシケンモノノフは爆発的な加速を見せ、瞬時に前に出た。ホッカイドウ競馬でデビューして以来、コンスタントに走り続け、6歳の秋にようやくつかんだ頂点。検量室前に引き揚げてきた横山騎手は、馬から下りるやいなや満面の笑みで関係者と抱き合い、喜びを爆発させた。「本当にタフに走ってくれる」。横山騎手のその言葉には、万感の思いが込められている。 コパノリッキーはゴール寸前で一瞬、先頭に立ったものの、最後は勝ち馬の瞬発力に屈して2着。手中にしたかと思われたGI/JpnI・11勝目が、するりと抜け落ちてしまった。「少し出遅れて……。流れが速くて戸惑ったのかも。じっと構えていた方が良かったのかな……」。森泰斗騎手は1番人気に応えられなかった悔しさもあったか。話の合間に「すみません」という言葉を繰り返し入れて話した。ただ、初めて挑んだスプリント戦で、しかもJpnI。それでアタマ差の2着なら、胸を張れる結果だろう。 期待された地方勢は、ブルドッグボスの3着が最高だった。「もう少し前で運べたら良かったけどね。でも、差のないところまで来たし、よく頑張っている」と内田博幸騎手。今回は勝利の女神がほほえまなかったが、グレードウイナーらしい卓越した末脚は見せた。チャンスはまた巡ってくるに違いない。 一般的に“意地の張り合い”という言葉は、いい意味では使われない。しかし勝負の世界では、これほどのすばらしい名場面を演出し、そして興奮と余韻を与えてくれる。地方馬として、スプリンターとして、GI/JpnI・10勝馬として――。JBC史上に残る名勝負を演じた各馬に、惜しみない拍手を送りたい。

    • 横山典弘 騎手

      返し馬ではいつも以上に元気が良くて、具合が良さそうだと感じました。道中の手応えもずっと良かったですね。最後はどこへ出そうか迷ったけど、内に進路をとってからは反応も良く、伸び伸び走ってくれました。6歳馬ですが、本当にタフな馬ですし、来年も再来年も頑張ってくれると思います。

    • 庄野靖志 調教師

      このレースを目標にしてきたから、勝てて本当にうれしいです。前走を使ってから、グングン調子が上がってきていました。最後に前が詰まったときには『ノリさん、お願い!』と祈りましたね。次走は未定ですが、とにかく元気いっぱいですし、来年以降も頑張ってくれるでしょう。

    文:大貫師男 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、国分智)

  • 11月3日 大井競馬場 右1800m

    第7回JBCレディスクラシック JpnI

    ララベル

    競走成績

    レース映像

    逃げ馬をとらえ一騎打ちを制す 悲願のグレード初勝利がJBC

    2011年に、ここ大井競馬場から始まったJBCレディスクラシックJpnIは今年で7回目を迎えた。 前哨戦のレディスプレリュードJpnIIを圧勝したクイーンマンボが、ケガのため直前で出走を回避。となれば、2連覇中の女王ホワイトフーガに人気が集まるのは当然のことで、単勝1.8倍の支持を受けた。2番人気は今年のスパーキングレディーカップJpnIIIを勝った3歳馬アンジュデジールで4.3倍。今年の牝馬ダートグレードで2勝を挙げているワンミリオンスが3番人気で7.9倍。武豊騎手を配したプリンシアコメータが4番人気で8.3倍と、JRA勢が上位人気。しかし、これら実力馬たちをねじ伏せたのは、この大井競馬場でデビューし、地方競馬のトップホースとして牝馬戦線を牽引してきたララベルだった。 ゲートが開き、先手を取ったのはプリンシアコメータで、2番手に大井のプリンセスバリュー、ララベルは3番手につけた。その後ろに、ワンミリオンス、キンショーユキヒメが続き、ホワイトフーガは6番手を追走。アンジュデジールは好位集団を見る位置取りでレースを進めていた。 3~4コーナーで各ジョッキーが一気に追い出し始め直線勝負へ。逃げるプリンシアコメータにララベルが並びかけ、そこから2頭の一騎打ちに。一度前に出たララベルに、再び盛り返すプリンシアコメータ。壮絶な追い比べはゴールまで続き、その争いをアタマ差で制したのはララベルだった。なお、直線でララベルが内側に斜行しプリンシアコメータの進路に影響を与えたことについて審議が行われたが、入線通り確定した。 プリンシアコメータの武豊騎手は「先手を取れたら行こうと思っていました。3コーナーをまわっても手応えが良かったですし、直線の不利は痛かったですね。でもこのメンバーでこれだけ走れましたから今後も楽しみです」と振り返った。 3着は、直線で鋭い末脚を見せた大井のラインハート。今回がJRAからの転入初戦ということで、この先に繋がる走りを見せてくれた。なお、3連覇を狙ったホワイトフーガは11着に敗れた。 JBCでの地方所属馬の勝利は、2007年にJBCスプリントJpnIを制したフジノウェーブ以来2頭目、JBCレディスクラシックJpnIの優勝は史上初という快挙に、大井競馬場は大興奮の渦となった。 「この馬で大きいところを獲りたい」と常々口にしていたララベル陣営。昨年は馬体故障のためJBC当日に無念の競走除外。今年は、マリーンカップJpnIII、スパーキングレディーカップJpnIIIでいずれも2着と、あと一歩のレースが続いていた。しかし、最大の目標としていた最高の舞台で、すべてのうっ憤を晴らしてみせた。 デビューからコンビを組んでいる真島大輔騎手は、全神経をララベルとのリズムに注いでいたようだ。「初めての感覚なんですが、向正面はあまり覚えてないんです。4コーナーくらいでそろそろ仕掛けないと、と思った記憶はあるんですが……。直線はとにかく必死でしたし、それくらい集中していたんだと思います」。そして、喜びを噛み締めるように語った。「能力試験の時から、この馬とはずっとパートナーだと思っていました。特別な馬です。いつもとにかく無事にと思っていて、さらに勝てればいいなと。オーナー、調教師、厩務員みんなの想いをわかっているので本当に良かったです」 いつも笑顔の荒山勝徳調教師だが、このときばかりは感極まり、涙と想いが溢れ出た。「胸がいっぱいです。万全な状態でレースに臨めたことがないのですが、それでもいつも一生懸命に走ってくれる馬。今日は冷静に見ていられず、とにかくがんばってくれとしか思いませんでした」 ララベルは来年春に繁殖入りすることが決まっている。第二の馬生を前に最高の勲章を手に入れることができた。この後、レースに出走するかどうかは未定だが、無事に次のステップへと進んでほしい。

    • 真島大輔 騎手

      自分の技術不足のため直線で迷惑をかけてしまって申し訳ないです。位置取りはスタートしてから決めようと思っていてあの位置になりました。この馬に騎乗する時はプレッシャーを感じたことがありません。緊張感を消してくれる安心感があるのだと思います。本当に素晴らしい馬です。頭が下がります。

    • 荒山勝徳 調教師

      去年の状態ほどではありませんが、前走後は疲れが出ることもなく型通り良化してくれました。真島騎手には「レースは任せるからララベルと一緒にでかいところ取ってこい」と。この馬には、スタッフや獣医さんなどみんなが尽力してくれました。ここまで無事に、そして勝つことができて本当に嬉しいです。

    文:秋田奈津子 | 写真:いちかんぽ(国分智、早川範雄)

第18回 2018年
JRA京都競馬場

初めてJRAを舞台にしたJBC開催 地方馬はキタサンミカヅキが健闘

土日とも好天に恵まれた京都競馬場。京阪淀駅から直結するステーションゲート下の放牧馬房では、2007~09年にJBCクラシックを3連覇したヴァーミリアンの展示が行われていた。あとで詳しく触れるが、JRAのGIが行われる日と同じように多くのファンが来場したJBC当日、ヴァーミリアンの放牧馬房には人垣ができて長蛇の列。そんなファンの喧騒にも、16歳になったヴァーミリアンは我関せずという様子でおとなしかった。 近年のJBCでは地元グルメの販売が定番となっているが、4コーナー側のイベントスペースでは『おあがりやす京都2018』が開催。和牛、京野菜、日本酒、ビールなど、京都産のグルメが堪能でき、また販売されるテントがズラリと並んだ。なかでも牛肉グルメのテントは長蛇の列ができていた。遠方から遠征するファンには、競馬場以外の観光をする時間がないという人も少なからずいるはずで、JBC開催では定番となった、競馬場での地元グルメ販売はうれしい。 ステーションゲートから直結したビッグスワン2階テラスでは、JBC3競走の馬券購入者を対象に、JBCグッズ(いずれもJBCオリジナルのフリースジャケット、キャップ、キャップ、モバイルチャージャー、ネックウォーマーなど)が当たる抽選会が行われ、これにもかなりの行列ができていた。また抽選会場脇に設置されたモニターでは、過去のJBC競走のレース映像が流されていた。さすがに今年で18回という歴史を重ねると、立ち止まって過去のレースに見入っているファンも多かった。 初めてJRAでの開催となったJBCで、ひとつ注目となったのは、的場文男騎手の参戦だ。JBCではクラシックのシュテルングランツへの騎乗だが、的場騎手は第5レースの新馬戦にも騎乗馬を得た。父が大井の調教師だった矢作芳人調教師の管理馬。的場騎手がパドックで騎乗すると、まるでウェーブのように声援やカメラのシャッター音も円形のパドックを1周した。この日、的場騎手は62歳と1カ月28日で、JRAの最年長騎乗記録を更新。佐々木竹見さんの記録をまたひとつ塗り替えた。 その第5レース。的場騎手はスタートこそ互角だったが、ダッシュがつかず8頭立ての最後方から。それでも4コーナー手前で大外からまくって出ると、直線を向いて先頭をとらえようかという見せ場をつくった。ファンへのアピールだけでなく、3番人気馬で3着と役目は果たした。 時間は前後するが、大井出身の戸崎圭太騎手が第3レースを勝ってJRA年間100勝を達成した際の表彰セレモニーでは、「年間100勝達成!」のプラカードを的場騎手が持つという場面もあった。 最終12レースに組まれたJBCレディスクラシックの発走前には、TCK大井競馬のトゥインクルファンファーレ隊がウィナーズサークルに登場。JRA関西のGIファンファーレ演奏は新鮮だった。レース前のファンファーレでは、これが一番盛り上がった。

文:斎藤修 | 写真:いちかんぽ

  • 11月4日 JRA京都競馬場 右1900m

    第18回JBCクラシック JpnI

    ケイティブレイブ

    競走成績

    レース映像

    中団追走からゴール前抜け出す JpnI・3勝目でさらなる高みへ

    18回目にして初のJRA開催となったJBC。JpnIレースが3つという豪華版で、好天に恵まれたこともあり、京都競馬場には3万8865人の観衆が詰めかけた。 フルゲート16頭のうち、地方からは3頭が出走。東京記念を制したシュテルングランツ(浦和)、白山大賞典JpnIII・3着のカツゲキキトキト(愛知)、姫山菊花賞を勝ったタガノゴールド(兵庫)が淀に参戦してきた。 人気はやはり、中央勢が中心。単勝1番人気には今年GIII/JpnIIIを2勝し、本格化したサンライズソアで3.2倍。もちろん、この背景には直前のJBCスプリントJpnIをグレイスフルリープで勝ち、4週連続GI/JpnI制覇を達成した絶好調のクリストフ・ルメール騎手という要素も人気を押し上げていた。これに3歳ながらシリウスステークスGIIIで古馬を一蹴したオメガパフュームが3.7倍、JpnIで2勝、2着3回のケイティブレイブが4.2倍、一昨年の東京大賞典GIの勝ち馬で、ミルコ・デムーロ騎手のアポロケンタッキーが7.7倍で続き、この4頭が単勝ひと桁台だった。 逃げたのはルメール騎手のサンライズソア。これに外からテーオーエナジーとテイエムジンソク、内からJRA史上最年長騎乗記録となる62歳1カ月28日の的場文男騎手(それまでの記録は佐々木竹見騎手の59歳3カ月16日)のシュテルングランツがつけた。ケイティブレイブは中団外で待機。オメガパフュームはさらにうしろという位置取りだった。 3コーナー過ぎ。ケイティブレイブが外から徐々に進出すると、オメガパフュームもうしろから脚を伸ばす。4コーナーで逃げるサンライズソアを射程圏に入れたケイティブレイブがラスト100mで先頭に立つと、オメガパフュームの猛追を3/4馬身振り切り、17年帝王賞、今年の川崎記念に続くJpnI・3勝目をマークした。 外々を回っての差し切り勝ちは横綱相撲だった。杉山晴紀調教師は「前走(日本テレビ盃1着)は休み明けでも強い勝ち方だったが、今回はさらに、上積みを感じていた。ここは勝たないといけないと思っていた」と自信を持って臨んでいたことを明かした。今年3月、定年解散の目野哲也厩舎から引き継いで以降、ダイオライト記念、日本テレビ盃とJpnIIは2勝したが、帝王賞JpnIではゴールドドリームにクビ差2着に惜敗。今回は杉山調教師にとって、念願のJpnI初制覇となった。 昨年3月から、13戦続けて騎乗している福永祐一騎手は脚質転換の成功を勝因にあげた。昨年の平安ステークスGIIIまでは逃げか先行して2番手からでないと結果が出なかったケイティブレイブだったが、続く帝王賞JpnIでは出遅れて後方追走から直線一気の末脚で差し切って、周囲を驚かせた。それ以降は、福永騎手がどんな展開になっても、対応できる競馬を教えた。距離不足で11着に敗れたフェブラリーステークスGIを別とすれば、9戦4勝、2着、3着が各2回、4着1回とすっかり安定した。「今日もポジションは決めずに、流れに任せて無理せず、リズムが守れる外めにつけました。今では何でもできる馬になりました」と胸を張った。 今後は、12月2日中京のチャンピオンズカップGI(ダート1800m)に向かう。「(帝王賞で負けた)ゴールドドリームと(3歳でマイルチャンピオンシップ南部杯を制した)ルヴァンスレーヴが相手になりますが、対戦できる勲章は今日、得ることができたと思います」と福永騎手。JBCクラシックJpnIからチャンピオンズカップGI、東京大賞典GIと続く、秋のダート王道路線が、ますます面白くなってきた。 地方から参戦の3頭はタガノゴールドが9着、カツゲキキトキトが12着、シュテルングランツが16着に終わった。「3~4コーナーは思ったより手応えは良かったし、よく頑張った。あともう1つ上の着順が欲しかったですね」とタガノゴールドの下原理騎手。カツゲキキトキトの大畑雅章騎手は「今回は相手が強いので控えました。強い相手と経験を積んで慣れてくれば」と悲願でもあるダートグレード競走制覇に向け、今後に期待をかけた。的場騎手は「3番手のいい位置が取れたが、最後は力の差かな」と振り返った。

      文:松浦渉 | 写真:いちかんぽ(桂伸也、早川範雄)

    • 11月4日 JRA京都競馬場 右1200m

      第18回JBCスプリント JpnI

      グレイスフルリープ

      競走成績

      レース映像

      人気馬マークでゴール前とらえる 8歳にして掴んだビッグタイトル

      今年で18回目を迎えたJBC競走が、地方競馬から中央競馬に舞台を移して行われた。ダートのスプリンターにとっては国内唯一のJpnIの舞台でもあるJBCスプリントから、その戦いの火ぶたが切られた。 単勝10倍以下は3頭で、1番人気はプロキオンステークスGIIIで日本レコードを叩き出したマテラスカイが2.0倍。2番人気が桜花賞GI優勝や高松宮記念GI・2着(2回)など、芝を中心に活躍してきたレッツゴードンキで6.4倍。3番人気がフェブラリーステークスGIや韓国のコリアスプリントなどを優勝しているモーニンで6.6倍。 しかしそれら人気馬に立ちはだかったのは、4番人気グレイスフルリープだった。昨年は韓国のコリアスプリントを優勝し、それ以降はダートグレードを戦い続けている。今年4月の東京スプリントJpnIIIでは武豊騎手で逃げ切り勝ちを収めたが、前走東京盃JpnIIから手綱をとるクリストフ・ルメール騎手にエスコートされ、ダートスプリント王へと上り詰めた。 レースは、マテラスカイが先頭に立つと、ウインムートや浦和のノブワイルドが続いていき、グレイスフルリープはその後ろの内をキープ。3~4コーナーに向けて馬群がばらけても、グレイスフルリープはマテラスカイの後ろをキープした。 直線に入り、マテラスカイが後続を離しにかかったが、グレイスフルリープは残り300mを過ぎて外に持ち出され、200mを切ってステッキが入れられると、一完歩ずつマテラスカイに詰め寄っていった。芸術的なレース運びで、最後は測ったかのようにクビ差交わしたところがゴール。勝ちタイムは1分10秒4(良)だった。 「馬の状態もよかったです。武さん(マテラスカイ)マークでいいポジションでレースをすることができて、最後も交わせると思いました。完璧な内容でした」と、自身のレースぶりをも褒めたルメール騎手は、JRAで行われたGI(JpnI)では史上初となる4週連続制覇と年間7勝を達成した。 グレイスフルリープを管理する橋口慎介調教師は、JRAの重賞初制覇がJpnIのタイトルとなった。「昨年のコリアスプリント優勝後から、馬体のハリや毛づやなどが目に見えて良化し、走る気持ちも前向きになり、馬が自信をつけたかのよう」と橋口調教師。今年8歳とはいえ年齢を感じさせない走りを続けている。まだまだ奥が深そうな馬だ。 一方、東京盃JpnII連覇の勲章を引っ下げて、地方競馬の期待を一身に背負った船橋のキタサンミカヅキは3着。道中は中団を追走し、直線ではこの馬の持ち味でもある末脚をしっかり繰り出した。 「(キタサンミカヅキの強みは)地方競馬レベルにはいないくらいのパワー」と森泰斗騎手がいうほどの馬。そんなパワータイプだけに、ダートが軽いと言われる京都競馬場で、地方に移籍してからの力強い走りが見られるのかは懸念されていた。 レース後、森騎手は神妙な面持ちで、「無念です。南関東のダートと質が違うので、軽いダートが堪えた感じで、いつもより進みが悪かったです。それでも4コーナーで前が開いた時には何とかなるかなと思ったし、最後はいい脚で伸びているのですが、時計が速くなるぶん、前の馬たちも頑張るので……。重いダートでやれればこのメンバーでもヒケは取りません。いい勝負になるんじゃないかと思っていたので残念です」と肩を落としていた。今年8歳のキタサンミカヅキにとって、充実期ともいえるような今だからこそ、残念な3着だった。 中央時代はオープン特別で1勝を挙げたものの、移籍前には二桁着順も多く、頭打ちの感じもあった。しかし8歳となって確実にパワーアップし、再び中央のJpnIの舞台での堂々とした走りは本当にすばらしい。胸を張って欲しい。

        文:高橋華代子 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、桂伸也)

      • 11月4日 JRA京都競馬場 右1800m

        第8回JBCレディスクラシック JpnI

        アンジュデジール

        競走成績

        レース映像

        直線一騎打ちで人気馬を競り落とす 今年にかける意欲が生んだ
        JpnI制覇

        2018年JBC競走のラストを飾るJBCレディスクラシックJpnI。地方から出走したのは4頭で、そのうちジュエルクイーン、ブランシェクール、ラインハートが大井所属、ディアマルコが高知所属で、いずれもレディスプレリュードJpnIIに出走していた。そこで2着に入ったブランシェクールが単勝52.9倍で10番人気。ほかの3頭は300倍以上となった。 それでもパドックには熱心なファンがたくさん。ディアマルコに騎乗する佐原秀泰騎手の応援幕は、福山競馬場で使われていたもの。笹川翼騎手の応援幕も張られていた。 人気の中心はJRA馬。今年のブリーダーズゴールドカップJpnIIIを制したラビットランが1番人気に支持され、重賞実績があるクイーンマンボが2番人気。フォンターナリーリは初の重賞挑戦だった前走が4着でも、京都競馬場で3着内率100%という実績が評価されたようで3番人気。前年のこのレースでアタマ差2着に敗れたプリンシアコメータが4番人気で、ここまでが単勝10倍以下となった。 16時25分の発走時刻はまさに夕景。この日の京都競馬場ではこのレースだけ、普段は大井競馬場で演奏している東京ブラススタイルのメンバーがファンファーレを生演奏して盛り上げた。それとともに始まった各馬のゲート入りは、プリンシアコメータは時間がかかったものの、それ以外の15頭はスムーズ。そして横一線のスタートになった。 先手を主張したのはアイアンテーラーで、その後にカワキタエンカ、サルサディオーネと続き、プリンシアコメータは4番手。大外枠だったアンジュデジールは1コーナー手前でインコースに進路を見つけて5番手につけた。ラビットランはその直後につけ、ブランシェクール、クイーンマンボ、フォンターナリーリなどがそのうしろ。ジュエルクイーンとラインハートは後方に構え、ディアマルコは馬群から離れた最後方を進んだ。 そのペースは、2ハロン目が10秒9と速くなった以外、残り1ハロンまで12秒台で緩みが少ない流れ。先行した4頭は4コーナーで苦しくなってしまった。 代わって台頭してきたのがアンジュデジールとラビットランで、その2頭は最後の直線で一騎打ち。長く2頭の馬体は並んでいたが、最後はインコースのアンジュデジールがアタマ差で競り勝った。 アンジュデジールは前走のレディスプレリュードJpnIIで大きく出遅れたが、今回は「スタートから気分よく走ってくれました」と横山典弘騎手。「前に行く馬が何頭かいるのでペースは流れてくれるだろうと思っていましたし、1コーナーでちょうどいいところに入れました。最後は(ラビットランに)前に出られるところもありましたが、よく盛り返してくれました」と笑顔だった。 2着惜敗のラビットランは、ミルコ・デムーロ騎手が「最後は苦しくなってしまいました」とコメントを残した。3着には後方から差を詰めてきたファッショニスタが入り、クイーンマンボは4着。地方馬の最先着は、9着のジュエルクイーンで、ブランシェクールは11着。ラインハートは14着で、ディアマルコは15着だった。 JBC競走は実施される競馬場が年によって違うだけに、馬場が向く、向かないがあるのは仕方がないところ。「来年のJBCは浦和ですからね。軽い馬場が得意なタイプですし、(タイトルを)今年取ってしまいたかった。大外枠を引いたのでどんな競馬になるのかと思っていましたが、いい位置を取れましたね」と昆貢調教師。京都の舞台を最大限にいかしての勝利となった。

          文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(桂伸也、早川範雄)

        第19回 2019年
        浦和競馬場

        『この日、今まで見たことのない
        浦和になる。』

        なんとも絶妙なキャッチコピーだと思った。初めて浦和競馬場で開催されるJBC。期待もあれば、不安も少なからずあったはず。だが不安は杞憂に終わり、期待を裏切らない結果になったのではないだろうか。 主催者の最大の課題は競馬場までのアクセスだったという。浦和競馬場駐車場の利用を禁止。住宅街のど真ん中にある競馬場だけに、周辺の道路を一時車両通行止めにするなど、渋滞緩和に努めた。そのうえで、南浦和駅から運行している無料送迎バスのルートを変更。浦和レッズの試合などでノウハウのあるバス会社に委託することで、スムーズなピストン輸送を実現した。約3分おきに2台が同時に発車するため、むしろ通常より快適だったという声もあったほどだ。無料送迎バスは通常は運行のない東浦和駅からも約10分おきに発車。ほかに臨時駐車場(埼玉県庁、大間木公園)からのシャトルバスも運行していたが、あくまでも南浦和駅、浦和駅からの徒歩を推奨。十分すぎるほどの対策が施された。 前夜に強い雨が降る時間帯もあったようだが、当日は朝から好天に恵まれた。午前9時を予定していた開門時刻は午前8時半に繰り上げ。その時点で正門の待機列には1,080人が並んでいたという。いわゆる開門ダッシュが予想されたため、50人ずつの入場にするなどの対応がとられた。入場料は無料。通常は入場料を投入すると開くゲートが開放され、それもスムーズな入場につながったようだ。指定席券はすべて前売りで発売。JBCに向けて新築された今年9月オープンの2号スタンド、4コーナーよりにある平成4年1月オープンの3号スタンドともに完売で、指定席券売り場は閉じられ、その前には仮設トイレが並んでいた。 競馬場内のイベントは最小限にとどめられた。馬場の中央を左右に藤右衛門川が流れる敷地。スタンドは河岸段丘の段丘崖に建てられ、出走馬は段丘面にあるパドックから坂道を下って馬場に入場する。もともとイベントを実施できるような場所が少ないうえに、パドック脇の芝生広場には仮設の臨時記者室と馬主下見所観覧席が設置され、通常よりもスペースが限られていた。イベントを最小限にしただけではなく、予想士の場立ち台を通常とは違う正門通路沿いのパドック向きに移動したり、畜産サンプリングキットの配布が行われたテントは配布終了とともに撤去するなどして、ファンが滞留しそうな場所を広めに確保。北門付近で行われたグルメイベント以外は浦和駅東口駅前市民広場でサテライトイベントを行い、場内は純粋に競馬を楽しみたいファンのための空間になっていたと思う。その甲斐だろうか、1Rから直線の攻防に大歓声。早くも見たことのない光景が広がっていた。 もっとも、初めて浦和競馬場に訪れる若いファンにとっては、場内に残るレトロな売店の数々が何よりのイベントだったかもしれない。その売店に並ぶ待機列をはじめ、この日のために考え抜かれたファンの動線や、場内のいたるところに配置された誘導員の的確さにも感嘆の声が上がっていた。ちなみに黄色いカレーでおなじみの里美食堂のカレーライスは「注ぎ足し注ぎ足しで出したので、何食出たのかよく分からないんです。普段が50食くらいなので、200食は出ていたと思いますが…」と里美さん。午後3時ごろには完売していたという。

        文:牛山基康 | 写真:いちかんぽ

        • 11月4日 浦和競馬場 左2000m

          第19回JBCクラシック JpnI

          チュウワウィザード

          競走成績

          レース映像

          人気2頭の一騎打ちはハナ差で決着 帝王賞の雪辱果たしジーワン初制覇

          コーナーを6回まわる中距離戦は、地方競馬の代名詞。器用さとパワー、そしてスピードという、さまざまな要素を備えていなければ勝ち切ることのできない舞台である。 帝王賞JpnIでは2着に敗れたチュウワウィザードだったが、名古屋グランプリJpnIIで小回りを経験。先団で立ち回れる器用さも評価され、単勝1.6倍の1番人気に支持された。これに対し、帝王賞JpnIを制したオメガパフュームは差し脚質ということもあり、小回りが不安視されて3.0倍の2番人気にとどまった。ただ、続く3番人気のロードゴラッソが7.4倍で、ほぼ一騎打ちの戦前予想。適性か、底力か――。初開催となった浦和JBCのクライマックスは、この一点に集約された。 大井のワークアンドラブと浦和のシュテルングランツの2頭が激しい先行争いを演じ、3番手にストライクイーグル(大井)。浦和のコースを熟知する地元勢、というより南関東のジョッキーが積極的な競馬を展開する。その後ろにチュウワウィザードがつけ、オメガパフュームは後方3番手を進んだ。 2周目の向正面でオメガパフュームが仕掛け、チュウワウィザードの直後まで位置取りを上げる。それを感じ取ったか、チュウワウィザードがスパートをかけ、3コーナーで先頭へ。他馬を振り切り、1馬身ほど抜け出した状態で直線に向いた。 そこへオメガパフュームが、ワークアンドラブとセンチュリオンの間を割って強襲。一歩ずつ差を詰め、並んだ体勢でゴールを駆け抜けた。 写真判定の結果、軍配はハナ差でチュウワウィザード。川田将雅騎手も「全然分からなくて、ゴールに入ったあともデムーロ騎手のほうが勝った雰囲気でいたので『負けたのかな』と思って帰ってきたんです」と話すほどの大接戦だった。 これでデビューから【8・3・2・0】とし、初のGI/JpnIタイトルを手にしたチュウワウィザード。コース、距離に関係なく安定して力を発揮できるのが強みで、「1戦ごとに強くなってきましたし、総合力の高い馬だなと感じています」と川田騎手。コーナー6回のチャンピオンディスタンスで、トータルバランスに優れたダート王者が誕生した。 オメガパフュームは際どい勝負に持ち込んだものの、及ばず2着。「初めてでこのコースをこなすのは難しいし、あまり手前を替えなかった」とミルコ・デムーロ騎手。これまで経験したコースは、全て1周距離が1500m以上。その脚質からも、小回りへの対応に苦戦した格好となった。それでもハナ差の2着。GI/JpnI・2勝の実力は、十分に示すことができたといえる。 さらに4馬身差の3着はセンチュリオン(浦和)。2周目の向正面で仕掛けた際に勝ち馬に抵抗され、終始外を回らされたのが響いた。森泰斗騎手は「もう少し内枠がほしかったかな。外を回されたが、食らいついて走っていた」と一定の評価。今回の結果からも“相手なり”の印象は拭いきれないが、JpnI・3着という結果は実力の証明。仕掛けのタイミングがはまったときには、ダートグレードの舞台でも勝ち切る可能性がある。 今回の上位2頭はともに4歳。帝王賞JpnI以来の実戦で、10キロ程度の馬体増だった。それでこのパフォーマンスなら、チャンピオンズカップGI、東京大賞典GIへ向けて好スタートを切ったといえる。トータルバランスのチュウワウィザードと、パワーのオメガパフューム。今後もさまざまな舞台で好勝負を演じてくれるに違いない。

          • 川田将雅 騎手

            結果を聞くまでは勝ったかどうか分からなかったですね。勝ててホッとしています。スムーズにスタートを切ることができましたし、行く馬を見ながら競馬を組み立てて、終始いいリズムで競馬ができました。課題をクリアするごとに強くなってきた印象ですし、全体的に総合力の高い馬だなと思います。

          • 大久保龍志 調教師

            小回りなので、ある程度は前の位置で、と思っていました。最後はモニターを見て「負けたか」と思ってモヤモヤしましたが、こんな格好いいシーンは、なかなかないですね。前走で体重が減っていたので夏休みをとりましたが、それが好走につながったのでしょう。次走はチャンピオンズカップの予定です。

          文:大貫師男 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)

        • 11月4日 浦和競馬場 左1400m

          第19回JBCスプリント JpnI

          ブルドッグボス

          競走成績

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          地方馬として3頭目のJBC勝利 菜七子騎手キッキングは2着

          浦和競馬場の悲願でもあったJBC開催。そこに、南関東リーディング・浦和の小久保智調教師は管理馬を計8頭も送り出した。ダート競馬の祭典JBC競走に、ひと厩舎がこれほどの所属馬を出走させるのは記憶にない。レース前、小久保調教師にそんな話題を投げかけてみた。 「ここでちゃんと結果を出さないと、2回目、3回目のJBCが浦和に来ないと思うので、浦和でやってよかったと思われるように、ちゃんと結果を出さなくてはいけないと感じています。地元の利というのはあると思いますし、地方競馬全体が、自分の地元なら中央馬とやり合えるというのがあれば、JBCももっと盛り上がっていくでしょうし、そういう意味でもちゃんと結果を残せるように頑張りたいです」(小久保調教師)。 JBCスプリントJpnIには有力候補の一角を担っていた重賞3連勝中のノブワイルドをはじめ、ブルドッグボス、ドリームドルチェ、ジョーストリクトリと4頭を送り出した。 そんな中、御神本訓史騎手とコンビを組んだ6番人気ブルドッグボスが頂点を極めた。地方馬がJBC競走を制したのは、2017年JBCレディスクラシックJpnIのララベル以来2年ぶり。JBCスプリントJpnIを制したのは、07年に御神本騎手が手綱を取ったフジノウェーブ以来12年ぶり。そして、浦和所属馬がJBC競走を制したのは史上初。 予想通り、左海誠二騎手のノブワイルドが先手を主張していこうとするが、武豊騎手が手綱を取ったファンタジストや、藤田菜七子騎手のコパノキッキングも馬体を併せていき、1コーナーに入るまで激しい先行争いが続いた。ブルドッグボスは中団を追走。 「僕が乗せていただいたここ3走の中では一番軽い動きだったので、これならやれるという感触はありました。最初のゴール板が過ぎてからも、またペースが上がっていって、これはだいぶ速いなぁと感じました」(御神本騎手)。 ノブワイルドが僅差でリードをしていくも、3コーナー手前からコパノキッキングが並びかけていき、最後の直線に入るところでは先頭へ躍り出た。藤田騎手のGI/JpnI制覇が見えてきた瞬間……。 「4コーナーまでうまく誘導できて、追い出してからの反応もよかったですし、キッキングの伸びがあまりよくなかったので、これはつかまえられるなと思いました」(御神本騎手)。 ブルドッグボスが力強く伸びてきて、ゴール前でコパノキッキングをクビ差交わした。測ったかのような鮮やかな差し切り勝ち。勝ちタイムは1分24秒9(重)。3着には後方から伸びてきた大井のトロヴァオ。1番人気に推されていた高松宮記念GIの覇者ミスターメロディは6着に敗れた。 地方馬として3頭目のJBCウイナーになったブルドッグボス。中央時代もダートグレード競走で好走してきたが、南関東に移籍後、2年前のクラスターカップJpnIIIで念願の重賞初制覇を飾ると、その年のJBCスプリントJpnIでは優勝したニシケンモノノフにタイム差なしの3着に敗れて涙を呑んだことも記憶に新しい。 その後は脚元の不安で1年ほど長期休養に入っていた時期もあったのだが、そこから立て直しての復活劇は、ブルドッグボスの能力の高さはもちろんのこと、陣営の手腕も大きいだろう。 浦和競馬場で初めて行われたJBC開催に地元馬が勝利をするというドラマチックな結果。地元ファンにとっても、こういう瞬間が最高のファンサービスだと思う。 一方、大きな注目を集めていた藤田菜七子騎手が手綱を取ったコパノキッキングにとっては非常に悔しい結果に終わった。 「ナイターじゃない分なのか落ち着きがあって、馬の状態はすごくよかったです。ゲートでかなり待たされましたが、しっかり出てくれて手応えも抜群でした。向正面を過ぎたあたりから自分でハミを取ってくれたので、少し抑えつつ、あまり邪魔しすぎないようにというのは意識して乗りました。チャンスのある馬に引き続き乗せていただきましたが、勝てなかったのは悔しいです」(藤田騎手)。 国内女性騎手初のGI/JpnI制覇に大きな期待がかけられていたが、今後に持ち越された。

          • 御神本訓史 騎手

            浦和で開催されるJBCなので、浦和をはじめ地方馬にもチャンスはあると思っていました。お客様はナナコちゃんのジーワンを見届けたかったと思うのですが、勝ってしまってすいません(苦笑)。ナナコちゃんのジーワンはいずれ見られると思うので今日は素直にブルドッグボスと小久保厩舎を褒めてください。

          • 小久保智 調教師

            まだ実感がわきません。春先に復帰して道営で調整をしていただいて、ここが最終目標という感じでやってきました。体調は一番よかったんじゃないかなと感じています。具体的な予定は決まっていませんが、脚元のこともあるので、それを相談しながら次のステップにいきたいです。まだまだやれる仔です。

          文:高橋華代子 | 写真:いちかんぽ(築田純、早川範雄)

        • 11月4日 浦和競馬場 左1400m

          第9回JBCレディスクラシック JpnI

          ヤマニンアンプリメ

          競走成績

          レース映像

          中団から上昇し差し切り勝ち 武騎手は地方全ジーワン制覇

          令和初のJBC競走として実施されたJBCレディスクラシックJpnIは、武豊騎手のヤマニンアンプリメが差し切り勝ち。武騎手はこの勝利で地方競馬での全GI/JpnIの勝利騎手として名前を刻むことになった。 その道中には激しいものがあった。前日の夜に降った雨の影響で、前半戦の時計は全体的に速め。おそらく各騎手の頭にはそのことが入っていたのだろう。ゲートが開くと多くの騎手が前の位置を取りに行った。 そのスタートから200m足らず、1周目のゴール前でアクシデントが発生した。タイセイラナキラ、アップトゥユー、ゴールドクイーンが先手を奪おうとダッシュ。そこに1番枠からスタートしたモンペルデュがタイセイラナキラの内側から先行集団に加わろうとしたのだが、行き場がなくなるかたちになって戸崎圭太騎手が落馬(競走中止)。その部分の内ラチは大きくへこんでしまった。 11番枠からのスタートだったファッショニスタは、その影響を受けることなく4番手を追走。逆にレッツゴードンキは先行勢の後ろでインコースに進路を取ろうとしていたため、そのアクシデントを避けて急ブレーキ。最後方からの競馬になってしまった。 一方のゴールドクイーンはマイペースの逃げが続き、3コーナーでは2番手に浮上したファッショニスタとの差がおよそ3馬身。そこに、2コーナーあたりでは隊列の中ほどにいたヤマニンアンプリメが一気に近づいてきた。その勢いは遠くからでも感じられるほどで、みるみるうちに各馬を追い抜いて、残り400m地点で2番手に上昇。それでも4コーナー手前では先頭まで2馬身ほどあった。 しかしその差は一完歩ごとに縮まっていった。最後の直線に入ったところではおよそ1馬身差になり、残り100m付近で並び、ゴール地点ではゴールドクイーンに2馬身差をつけて勝利。 その内容に、ゴールドクイーンの手綱を取った古川吉洋騎手は「この馬のペースで走れましたが、わりとすぐに(ヤマニンアンプリメに)来られましたね」と苦笑い。それでも3着のファッショニスタには6馬身差をつけているのだから、今回は相手が悪かったということになるのだろう。 3着馬から1馬身半差の4着には、川崎のラーゴブルーが入った。「手応えはそれほど良くなかったのですが、絞れたぶん(前走よりマイナス10キロ)、動くことができたと思います」と、鞍上の吉原寛人騎手は話した。 しかしながら1着馬と2着馬のスピードは圧倒的で、浦和の同じ距離で行われているダートグレードでは、2000年のさきたま杯JpnIII(当時)以来となる1分24秒台。2着に入ったゴールドクイーンの走破タイムは、続くJBCスプリントJpnIの勝ち時計と同じだった。 その戦いを制した長谷川浩大調教師は「クラスターカップを勝ったあと、東京盃に行く選択肢もあったのですが、ここが目標だったのでオーバルスプリントにしたんです。そのときに浦和競馬場を経験したことが、ここで生きたのかもしれませんね」と話して、感無量という表情に。開業1年目でのJpnI制覇という快挙は、長谷川調教師が調教助手時代からたずさわっていた馬がもたらすことになった。

          • 武豊 騎手

            ゲートでうるさい面があると聞いていましたが、いいスタートが切れて、いい位置につけられました。向正面でゴーサインを出したときの反応も良くて、逃げた馬とは離れていましたが、つかまえられるんじゃないかと感じました。馬も2度目の浦和競馬場ということで、いい精神状態で臨めていたと思います。

          • 長谷川浩大 調教師

            前の日の雨で展開的にどうかと心配しましたが、いい流れになってくれました。オーバルスプリントは外枠で3着でしたが、今回は枠順の運もありましたね。前走後は満足のいく調教ができましたし、最後の直線ではこれまでで一番というくらいに叫びました。(師匠の)中村均先生にもいい報告ができます。

          文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)

        第20回 2020年
        大井・門別競馬場

        馬産地門別と初の2場開催
        生産者の祭典として進化

        20回目、2歳カテゴリーの追加、史上初の2場開催という、記念すべきJBCは、残念ながらコロナ禍というきわめて特殊な状況で行われた。2月下旬からどこの競馬場も無観客開催が続いていたが、大井競馬場では9月の開催から人数を限定する形で入場を再開。門別競馬場ではJBC当日を含む今シーズン最後の3日間(11月3~5日)のみ、やはり人数を限定しての入場となった。馬産地にある門別競馬場は普段から生産者同士の交流の場ともなっている。今年はコロナ禍の状況ゆえ入場が制限されたのは仕方ないが、来年以降、コロナ等を気にせず通常の開催ができるようになったときには、JBC開催に併せて多くの生産者が集まれるような、いわば社交の場として盛り上がれるようなことがあってもよいのではないか。初めての2場開催ということでは、発走時刻も工夫された。JBC以外のレースでも、大井・門別それぞれ第1レースから40分間隔で組まれ、互いに重ならない等間隔となっていた。JBC4競走ではきっちり40分の間隔が確保され、大井のスプリントとクラシックの間に、2歳優駿が挟み込まれた。これによって単なる相互発売やリレー開催ではなく、2場で連携した一体感があった。 2場開催となった今回のJBCで画期的だったのは、各レースの表彰式後に生産者のインタビューが実施されたこと。レディスクラシックではファッショニスタの生産牧場であるダーレー・ジャパン・ファームの方の都合がつかなったようでインタビューがなかったが、スプリントのサブノジュニアは藤沢牧場の藤沢亮輔氏が大井で、2歳優駿のラッキードリームは谷岡牧場の谷岡康成氏が門別で、それぞれインタビューが行われた。そしてクラシックのクリソベリルでは、ノーザンファーム・吉田俊介氏のインタビューが門別競馬場で行われた。場産地・門別競馬場との2場開催で連携がしっかりと機能した。かつてのJBCでは、競馬場によっては表彰式で生産者の表彰台すらないということがあり、勝ち馬の生産者ががっかりしていたということもあった。しかしようやくこうして生産者の顔が見えるようになったことは、生産者主導の祭典と呼ぶにふさわしい。

        • 11月3日 大井競馬場 右2000m

          第20回JBCクラシック JpnI

          クリソベリル

          競走成績

          レース映像

          昨年の1・2着馬を完封
          王者が国内無敗を継続

          ゴールの瞬間、場内から拍手が湧きおこったJBCスプリントJpnIからJBCクラシックJpnIまでの間は、門別競馬場でのJBC2歳優駿JpnIIIをはさんでいるため、大井競馬場は静かな時間がしばらく続いた。 2020年、JBCデーの4戦目。ここまでの3戦とも、単勝1番人気馬が2着以内に入れないという結果だったが、国内で無敗という成績を誇るクリソベリルの単勝オッズはほとんど動かないまま最終的に1.3倍。続く2番人気は昨年浦和のJBCクラシックJpnIでハナ差2着のオメガパフュームで4.1倍、3番人気は昨年の覇者であるチュウワウィザードで8.0倍。連勝系のオッズも含めて、この3頭に人気が集中していた。 しかしクリソベリルは帝王賞JpnI以来の休み明け。その点は心配材料といえたが、結果は2着のオメガパフュームに2馬身半の差をつける完勝。国内での無敗は継続された。 その走りには、2着馬の鞍上、ミルコ・デムーロ騎手も白旗。「自分としてもうまく乗れたと思います。でもクリソベリルはやっぱりすごい」とコメントしていた。3着に入ったチュウワウィザードのクリストフ・ルメール騎手も「勝った馬が強かったです」と、同様だった。 そのクリソベリルはパドックでリップチェーンを装着。それが多少きつめだったのか、口の左側は歯茎が見え、舌も出しながら歩いていた。そのあたりはキャリア8戦の4歳馬というところなのかもしれない。クリソベリルの直後で体を大きく見せて歩いていた3歳馬のダノンファラオのほうが、威風堂々としているようにも映った。 そのダノンファラオが先手を主張。チュウワウィザードが2番手につけ、クリソベリルは3番手。オメガパフュームはライバルたちが視界に入る4番手でレースを進めた。 軽快に逃げるダノンファラオが刻むペースは前半1000mが61秒4。後半1000mも61秒1という淀みのない流れに乗った各馬の戦いは有利も不利もなかったという印象で、その実力の差が結果に表れたという感がある。馬連複が210円で、馬連単が260円。そして3連単が520円だったのは、ファンもそう思っていることの証左だろう。 それでも全体的に見ると、逃げたダノンファラオが5着に粘る前残りの形。そのなかで差し脚を見せて4着に食い込んだ船橋のミューチャリーは「うまく差し脚がはまってくれました」と御神本訓史騎手が振り返ったにしても、今後に期待をもたせる内容だった。ミューチャリーは地方のダートグレードでは4回連続で4着以内。クリソベリル陣営が「次はチャンピオンズカップを目指して、そのあとは新型コロナ次第にはなりますが、サウジカップが目標」(馬主・キャロットファームの秋田博章代表)という青写真を描いているだけに、東京大賞典GIでの前進を期待したいところだ。 それはオメガパフューム、チュウワウィザード両陣営も同様に考えていることだろう。しかしそれとは関係ない場所にいるのがクリソベリル。「種牡馬としての価値を考えるなら、海外でも結果を出すことがこの馬の宿命でしょう」(秋田代表)という高みにまで上り詰めている。

          • 川田将雅 騎手

            結果を出すことができてホッとしています。返し馬で状態面は問題ないと思いましたし、前半は力みながらでしたが、それでも我慢してくれて、リズムよく走ってくれました。以前よりも全体的に体がしっかりしてきた感じがありますね。このまま次の目標に向かっていければと思います。

          • 音無秀孝 調教師

            負けなかったことがとてもうれしいですね。今までで今日がいちばん、安心して見ていることができました。ここまで順調で、追い切りもいい内容で、スタートも決めてくれましたからね。このあとはオーナーさんと相談して、チャンピオンズカップ、そしてサウジカップでのリベンジをしたいと考えています。

          文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)

        • 11月3日 大井競馬場 右1200m

          第20回JBCスプリント JpnI

          サブノジュニア

          競走成績

          レース映像

          瞬発力を発揮し直線抜け出す 地元の生え抜きが殊勲の勝利

          今年のJBCスプリントJpnIは実に見どころの多い一戦となった。連覇に挑むブルドッグボス、藤田菜七子騎手のGI/JpnI初制覇がかかるコパノキッキング、大井1200mのダートグレードを連勝しているジャスティン、高松宮記念との芝・ダート両GI/JpnI勝利を目指すモズスーパーフレアに加え、地方勢もダートグレードウイナーを筆頭に実力馬が参戦。激戦必至の好メンバーとなった。 それだけに、レース前には地方の陣営からも「10回やっても、全て結果が違うと思う」という声が聞かれたほど。馬場や展開次第で、多くの馬にチャンスがあると思われた。 そしてスタートから波乱が起きる。昨年の覇者で3番人気のブルドッグボス、そして前走のテレ玉杯オーバルスプリントJpnIIIを制したサクセスエナジーが出遅れを喫した。それを尻目に5、6頭が激しい先行争いを展開し、前半3ハロンは33秒4のハイペース。結果的に芝GI馬のモズスーパーフレアが先頭を奪い切ったが、時計が若干速いわりに差しも決まっていたこの開催の馬場。それを地元の矢野貴之騎手は読み切っていた。 中団を進んでいたサブノジュニアと矢野騎手は、3コーナー過ぎから徐々に進出。直線の入口で前が詰まるような場面もあったが、こじ開けるようにして進路を確保すると、残り200mで持ち前の瞬発力を発揮。先団からじわじわと伸びていたマテラスカイ、逃げたモズスーパーフレアを交わし、1馬身3/4差で勝利した。 3歳の頃から重賞級と目されていたサブノジュニアだったが、初めてタイトルを手にしたのは6歳となった今夏のアフター5スター賞。「充実しているし、見せ場は作れるなと思っていた。でも、気を抜くこともなく走ってくれて、時計も速かったからびっくり」と堀千亜樹調教師が話したように、目下の充実ぶりと本格化は明らか。加えて、このレースを目標に据え、1200mに照準を絞ったローテーションを組んできたことも的中した印象だ。 矢野騎手は8番人気での勝利に、「もちろん狙ってはいたけど、信じられない気持ち」と目元に笑みを浮かべた。一昨年の春から手綱をとり、「南関でもなかなかタイトルを獲れなかったけど、これだけの力があることを証明できた。思い入れのある馬だし、大井の馬で中央勢を負かすことができてうれしい」と、地元で大仕事を成し遂げた充実感を口にした。 2着には7番人気のマテラスカイ。JBCスプリントJpnIでは2018年に続く2着となったが、激しい先行争いに加わりながら脚を伸ばす好内容で、地力の高さを証明した。武豊騎手は「外からプレッシャーをかけられた。惜しかったね」と話したが、コースを問わず、持ち前の先行力を発揮できるのは強み。今後もこの路線では注目だ。 ブルドッグボスは出遅れこそあったものの、直線で猛然と追い込んで3着と、昨年の覇者として意地を見せた。御神本訓史騎手は「勝てたレースだった」と肩を落としたが、近況もつねに掲示板を確保しているように、8歳でも衰えとは無縁。今後もチャンスはあるはずだ。 地元生え抜きのヒーローによる完勝劇に沸いた今年のJBCスプリントJpnI。サブノジュニアのより一層の飛躍に期待が集まるが、もまれたのが響いて8着に敗れた1番人気のジャスティン、追走に手間取って6着の2番人気コパノキッキングも巻き返しの余地は十分にある。頂上決戦を終え、スプリント路線にさらなる楽しみが増えた。

          • 矢野貴之 騎手

            ここ2戦はスタートでもたついていたので、それを注意しながらいい位置に進められたら、と思っていました。少し窮屈だったので、開いてくれたら確実に伸びてくれるとは思いましたが、ここまで突き抜けるとは思っていませんでした。充実期を迎えており、精神力も強くなっています。

          • 堀千亜樹 調教師

            ずっとここを目標にやってきたので、本当に感無量です。いつもパドックではおっとりしているのですが、普段の調教は充実してきているので、十分見せ場は作れるなと思っていました。早く先頭に立つと気を抜くところがあるのですが、今回はそれもなく最後までしっかり走り切ってくれました。

          文:大貫師男 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)

        • 11月3日 大井競馬場 右1800m

          第10回JBCレディスクラシック JpnI

          ファッショニスタ

          競走成績

          レース映像

          逃げ馬マークの2番手追走
          競り合い制しJpnI初勝利

          前哨戦のレディスプレリュードJpnIIを3馬身差で快勝。ダートに転じてから2戦2勝のマルシュロレーヌが注目を集めた今年のJBCレディスクラシックJpnI。その単勝オッズは最終的に1.3倍と集中した。前走時はマルシュロレーヌが2.3倍でマドラスチェックは4.5倍だったが、今回は8.6倍と大きく離れてしまった。 8.2倍の支持でその間に入ったのが、7月15日以来の実戦となるファッショニスタ。続いて11.4倍でレーヌブランシュ、17.3倍でプリンシアコメータとJRA馬が続いた。 パドックでは出走15頭がすべてメンコを着用。マルシュロレーヌも落ち着いた歩きを見せていた。前向きさが感じられる雰囲気があったのはファッショニスタ。マドラスチェックは騎乗合図がかかるとすぐに、本馬場へと向かっていった。 スタート地点は大井競馬場でもっとも新しいスタンドであるG-FRONTの前。例年ならたくさんの観客がゲート入りを見守ることになるのだが、今回は大井競馬場への入場が事前申し込みによる抽選制。当選して入場したのは777名にとどまった。 それでもゲートの横にはそれなりに多くのファンが集まった。ゲート入りに時間を要したのはサルサディオーネだったが、スタートしてまっさきに飛び出したのもサルサディオーネだった。 その直後にファッショニスタがつけて、14番ゲートから発走したローザノワールが追走。マドラスチェックは2番枠からそのまま進んで4番手だったが、最初のコーナーで最短距離を通ったことで3番手に上がった。 向正面でも馬順はそれほど変わらなかったが、3コーナーが近づくにつれて、先行した馬たちがひとかたまりになってきた。逃げるサルサディオーネを斜め前に見る形でファッショニスタが進み、マドラスチェックは経済コースを通って3番手をキープ。そして道中は中団にいたマルシュロレーヌが上昇してきた。 その雰囲気ならばマルシュロレーヌが届くように思えたが、直線に入ってからの加速はいまひとつ。直線に入ったところで先頭に立ったのはファッショニスタとマドラスチェックで、残り300mあたりからゴールまでの間には、どちらも先頭に立つ瞬間があった。最後にその勝負を制したのはファッショニスタ。アタマ差での先着だった。 マルシュロレーヌはその争いに加われず、2着マドラスチェックから3馬身差の3着。「あとは前を捕まえるだけだったのですが……」と、川田将雅騎手。このあたりは前哨戦と本番を連勝する難しさが出たのかもしれない。 地方馬での最先着は4着に入った浦和のダノンレジーナ。「手応えも位置取りもよかったのですが、この距離は多少長いかな」と、本橋孝太騎手。それでもA2格付の馬がここまで戦えるのなら、今後の活躍が楽しみになる。 勝ったファッショニスタの北村友一騎手が表彰台に立っている間、安田翔伍調教師がその様子をにこやかに見ていた。「ファッショニスタには(父の安田隆行厩舎で)調教で乗ったことがあります。今回は装鞍を手伝ったくらいですが(笑)」とのことで、調教師代理で臨場した兄の安田景一朗調教助手とアイコンタクト。この結果は安田ファミリーの力で勝ち取ったといえるのかもしれない。

          • 北村友一 騎手

            調教のときから状態がよさそうと感じていましたし、レースでは馬の気分を害さないようにしようと考えていました。ブリンカーの効果もあって、集中して走ってくれましたね。3コーナーあたりの手応えはいまひとつでしたが、内からマドラスチェックが上がってきたことで、再び頑張りを見せてくれました。

          • 安田景一朗 調教助手

            パドックでも返し馬でも落ち着いていましたし、自分のペースで、いいリズムで進めていけたと思います。ただ、勝負どころでの手応えがあまりよくないように見えたので、大丈夫かと心配しましたね。でも競り合いになると強い面を見せてくれる、その長所を発揮してくれたのではないかと思います。

          文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)

        • 11月3日 門別競馬場 右1800m

          第1回JBC2歳優駿 JpnIII

          ラッキードリーム

          競走成績

          レース映像

          厳しい流れを中団から抜け出す 地元馬が第1回の勝者に名を刻む

          JBC開催が始まった2001年。日高で開催される競走馬市場は、1000頭を超える上場頭数を誇るサマーセールや、1年の締め括りとなるオータムセールの売却率は、ともに約31%と低迷。最も選りすぐられた1歳馬が上場されるセレクションセールの売却率でも、54.1%と厳しい状況だった。 地方競馬の売上も厳しい状況が続いていた中、生産者が主導となり、アメリカのブリーダーズカップを範とした形で創設されたのが、JBC開催だった。短中距離でのチャンピオンを決めるレースとして始まったが、当初から2歳カテゴリーを作ることは悲願だった。それは、馬が売れず、ホッカイドウ競馬に託すオーナーブリーダーが多い状況もあった。 生産、育成、競走のサイクルは、どの地区よりも密接であるホッカイドウ競馬で、早い時期にデビューできる若駒のビッグレースは、生産者にとって待望だった。北海道2歳優駿JpnIIIを引き継ぐ形で、門別競馬場でJBCと名の付くレースが創設されたことは、JBCの理念を考えれば、大変意義深い。 JBC開催を迎えるにあたり、最も古いAスタンドを増築し、3階建ての来賓及び馬主席ができた。また、ジンギスカンを楽しむスペースとポラリススタンドの間に、2階建てのとねっこラウンジも完成した。1週前にようやく、これらの竣工式が行われたほど、何とかJBC開催に間に合ったという慌ただしい状況だったが、JBCのロゴや横断幕を見ると、関係者やメディアたちも気持ちが高まってきた。JBCデーから、事前抽選による限定的な状況ながら、ファンも入場できるようになり、第1レースから賑わいを見せた門別競馬場は、まさにダート競馬の祭典だった。 今年のホッカイドウ競馬は、例年に比べると中距離の番組が少なく、2歳の中距離戦が始まったのが、6月4日のアタックチャレンジ(1700m)。その勝ち馬であるシビックドライヴが、その後の中距離路線で物差しとなる。早い時期に中距離にシフトして勝ち上がった馬たちが、他の追随を許さない状況が、今年の2歳中距離の図式だった。 対するJRA勢は、函館2歳ステークスGIIIで2着に健闘したルーチェドーロや、プラタナス賞を勝ったタイセイアゲイン、好時計で1800mを勝ち上がったレイニーデイとカズカポレイなど、例年以上の好メンバーが揃った。 先週にかなり雨が降り、前日の夜にも一時的に雨が降った門別競馬場。大一番を控える序盤のレースで、前残りの競馬が目立ち、騎手たちも先行することを意識して騎乗していた。どのレースもハイペースとなり、中距離戦は差し馬の台頭もあったが、JBC2歳優駿JpnIIIでも序盤から激しい先行争いが繰り広げられた。 カズカポレイが逃げ、ルーチェドーロが続くラップは、12秒1-11秒5-12秒3=35秒9と速く、向正面に進んだ後も12秒4-12秒7とラップが緩まず、5ハロン通過で61秒を刻んだ。後方にいた吉原寛人騎手と岩橋勇二騎手は、「前と離れていても、慌てなくても追いつくと思った」とレース後に話していたことが、厳しい流れだったことを物語っている。 3番手にいたブライトフラッグが早めに先頭へ立ち、中団で折り合いに専念したラッキードリームが直線で力強く抜け出す。外からトランセンデンスとサハラヴァンクールが追い込み、地元勢が首位争いを演じていた時、大声を出せない環境ながらも、場内から拍手や声援が飛び交った。ラッキードリームが接戦を制し、ゴール板を過ぎた1コーナーあたりで石川倭騎手はガッツポーズを見せた。JRA勢は、レイニーデイが3着に食い込み、何とか意地を見せた。 「(18年に)エーデルワイス賞を勝った時とは違う、何とも言えない嬉しさがありますね」と石川騎手。JBC2歳優駿JpnIIIは、開幕前から関係者が目指していたレースであり、記念すべき第1回の勝者となった……。簡単に言えばそうだが、話しているとそんな単純なものではない。JBCは馬産地の祭典として定着した瞬間だと感じた。道営記念とともに、大いなる目標へ確実に育つレースとなるだろう。

          • 石川倭 騎手

            乗り手に従順で、乗りやすい馬です。レース前からハイペースが想定できましたので、じっくり構えていこうと思っていました。外から何か来ていたのは感じていたので、最後まで気を緩めず、しっかり追いましたが、勝利を確信した瞬間は、本当に嬉しかったです。今後の成長も楽しみです。

          • 林和弘 調教師

            芝を走った疲れが多少残っていた前走より、間隔を空けて立て直した今回は、状態も上がっていました。中央馬もいるので、ペースが速くなると思っていましたから、巻き込まれないようにと指示を出しましたが、石川倭騎手がうまくエスコートしてくれました。この後は、全日本2歳優駿に向かいます。

          文:古谷剛彦 | 写真:いちかんぽ(浅野一行、中地広大)

        第21回 2021年
        金沢・門別競馬場

        • 11月3日 金沢競馬場 右2100m

          第21回JBCクラシック JpnI

          ミューチャリー

          競走成績

          レース映像

          4コーナー先頭から後続を振り切る 21回目で地方馬初の
          クラシック制覇

          ついにJBCクラシックJpnIを地方馬が制覇する時がやってきた。「あのフリオーソも叶わなかった」と実況された通り、創設から21年、幾多の名馬が挑んでは跳ね返されてきた高い壁を越えたのはミューチャリー(船橋)と、ここ金沢が誇るトップジョッキーの吉原寛人騎手。秋の日は短く、グッと冷え込んだ金沢競馬場だったが、一転して明るい雰囲気に変わった。 発走地点の2コーナーポケットから好スタートを決めたのは単勝5番人気と地方馬で最も人気を集めたカジノフォンテン(船橋)。前走の帝王賞JpnIはダノンファラオ(JRA)にピタリとマークされてのハイペースで直線で失速してしまったが、今回は内から同馬が来るとスッと控えて2番手の外に収まった。そうなれば自ずとペースは落ち着き、後方からレースを運ぶことの多いミューチャリーが3番手外につけた。 レースが動いたのは2周目向正面後半。ミューチャリーがペースアップしながら先頭へと迫り、出遅れて後方からとなったオメガパフューム(JRA)も大外からロングスパートをかけてきた。ミューチャリーが先頭で直線を迎えるとファンのボルテージは高まり、ゴール直前でオメガパフュームが迫ってくると手を叩いて応援する音と、大声を出してはいけないとの思いからか言葉にならぬ声も聞こえてきた。粘るか差すかの争いは、地方馬初のJBCクラシックJpnI制覇か3年連続同レース2着馬の悲願が詰まった戦い。それを半馬身差で制したのは、ミューチャリーだった。 ミューチャリーは2018年、デビューから3連勝で鎌倉記念を制し、3歳では羽田盃を鮮やかな末脚で勝利していた。古馬になってからは2年連続でフェブラリーステークスGIに挑戦するなど、強い相手と戦い力をつけてきた。「直線では机が割れるくらい叩きました」と矢野義幸調教師のレース中の様子からも、念願のタイトルだったことが窺える。 前走の白山大賞典JpnIIIに続いて手綱をとった吉原騎手は、19年のマイルチャンピオンシップ南部杯をサンライズノヴァで制してJpnI初制覇を決め、「次は地方馬でジーワンを勝つことが目標」と話したわずか2カ月後には全日本2歳優駿JpnIをヴァケーション(川崎)で制覇、そして今回、地元での偉業となった。 関係者はハイタッチして喜び合い、吉原騎手が「やったー!強かった、ありがとう」と戻ってくると、地元の騎手仲間からも祝福を受け、ファンは涙を浮かべた。 対照的に残念そうな表情で戻ってきたのは6着のカジノフォンテンと張田昂騎手。「リズムよく行けましたが、小回りで合わなかったかもしれません」と、JpnI・2勝馬の意地を見せられず肩を落とした。 2着オメガパフュームはペースが落ち着いた中で後方からロングスパートを決めてここまで迫ってきたのにはさすがのひと言。「前走ではゲート裏までメンコを着けていてボーッとしていたので、今日は早めにメンコを取って気持ちを入れたかったです」と、闘志が入りきらなかった帝王賞JpnIから対策を講じてきた。3着チュウワウィザードは骨折による休養明けながら戸崎圭太騎手は「いい状態でした」と振り返り、4着テーオーケインズや5着ケイティブレイブは小回りコースが一つのポイントとなったようだった。 JBCクラシックJpnI単体で24億123万300円を売り上げ、金沢競馬場の1競走当たりの最高売得額を更新し、1日合計売得金額も54億6426万500円で同競馬場のレコードとなったこの日、コロナの影響で入場者こそ事前当選した1300名に限定されたが、吉原騎手がミューチャリーの馬上で右手を大きく上げると、スタンドからは何度も大きな拍手が送られた。

          • 吉原寛人 騎手

            どこかで大仕事をしてくれる馬だと思っていました。返し馬で前走よりもいい状態と感じて、カジノフォンテンの近くでレースを運びたいと思っていました。4コーナーでは「他の馬に絶対に交わさせないぞ」というハミの取り方でした。地元・金沢で決められて嬉しいです。馬にもファンにも感謝しています。

          • 矢野義幸 調教師

            嬉しく、ホッとしています。前哨戦の白山大賞典を使えたことで、きちんと仕上げられました。道中は前に馬がいなくて心配しましたが、ジョッキーに任せて見ていました。体はそんなに大きくないですが、いいキレ味を持った馬で、それをうまく引き出してくれました。この後は東京大賞典の予定です。

          文:大恵陽子 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)

        • 11月3日 金沢競馬場 右1400m

          第21回JBCスプリント JpnI

          レッドルゼル

          競走成績

          レース映像

          コース取り冴えた川田騎手
          直線内から突き抜けて完勝

          好メンバーが揃ったJBCスプリントJpnI。東京盃JpnII上位組が人気の中心で、1番人気は海外でも好走歴のあるレッドルゼルで2.0倍。2番人気は1400メートルの重賞で5勝をあげているサクセスエナジーで4.8倍。3番人気は今年の東京スプリントJpnIIIとクラスターカップJpnIIIの勝ち馬リュウノユキナで5.5倍。地方勢もディフェンディングチャンピオンのサブノジュニアをはじめ、実力馬モジアナフレイバーや3歳のアランバローズなど実績馬たちが集結した。 今年の大きなポイントは、小回り2ターンの金沢1400メートルという舞台だ。さらには、今の金沢は内が深い独特の馬場のため進路取りも重要になってくる。実際、JBCレディスクラシックJpnIのレース後、多くの騎手がコース適性についてコメントしていた。 そんな中、この個性的なコースを全く問題にしなかったレッドルゼルが鮮やかに勝利を飾った。JBCレディスクラシックJpnIから連続で表彰台に立った川田将雅騎手は「状態が良ければこのメンバーで負けることはないと思っていました」と語った。 予想通り、モズスーパーフレアが先手を取り、2番手にベストマッチョ、サクセスエナジーやリュウノユキナが続き、レッドルゼルも大外枠から好位につけた。モジアナフレイバーは中団、サブノジュニアは後方でレースを進めた。3~4コーナーでレッドルゼルの川田騎手は内を選択して前へと進出。「この深い砂でも十分こなせるパワーを持っているので外を回すよりは内に行く方がベターだと思いました」と、直線でもモズスーパーフレアの内から伸び、最後は突き放して勝利を手にした。 3馬身差がついての2着争いは接戦となったが、こちらも直線でインを突いたサンライズノヴァが2着、半馬身差の3着にモズスーパーフレアが残った。 圧倒的な強さで、ダートスプリントの頂点に立ったレッドルゼル。馬を信じて進路を導いた川田騎手の好騎乗も光った。もともとデビュー時から安定した走りを続けてきたが、5歳の今年、根岸ステークスGIIIで重賞初制覇を飾ると、フェブラリーステークスGIでも4着に健闘し、ドバイゴールデンシャヒーンGIで2着と初の海外遠征でも好走した。前走の東京盃JpnIIは海外遠征帰りの休み明けということで3着に敗れたが、叩き2戦目の大一番で最高の結果を出し、まさに本格化。どんな状況にも対応できるポテンシャルの高さには驚くと同時に、レッドルゼルの時代が到来したことを予感させるような今回の走りだった。安田隆行調教師によると、今後はフェブラリーステークスGIを視野にいれながら再びドバイに挑戦したいとのことだ。 2着サンライズノヴァは5番人気。吉原寛人騎手とは2019年のマイルチャンピオンシップ南部杯JpnIを優勝して以来のコンビとなった。「もちろん基本は外が伸びますが、このレベルのメンバーだと外を回る距離のロスの方が痛いと判断しました」と金沢コースを知り尽くした名手の騎乗はさすがだった。 3着のモズスーパーフレアは1年ぶりのダート挑戦。松若風馬騎手は「コーナー4つが課題だったが上手に息が入れられました。でもやはり1200メートルがベスト。その分最後に差されてしまいました」と振り返った。 地方馬最先着は4着のモジアナフレイバー。「ゲートも落ち着いて出られて良かったです。小回りも上手く対応してくれました。レース直後、福永(敏)調教師と“大きいところを獲りたいたい”と話しました」と今回が3度目のコンビとなった真島大輔騎手。これまで何度もダートグレードで見せ場を作ってきた馬だけに、どこかで大きなタイトルを獲ってほしいと願うファンも多いだろう。 今年はコースの攻略が大きなポイントとなったが、来年のJBCスプリントJpnIはコース形態が全く異なる盛岡の1200メートル戦。1年後のこの舞台に向けて、全国のスプリンターたちの新たな戦いが始まる。

          • 川田将雅 騎手

            前走を使ったことでとても良い状態で競馬場に来れました。返し馬でも具合の良さを感じたので自信を持って競馬をしようと思いました。1400メートルでコーナー4つのコースなのでどうなるかと思いましたが全く問題なかったです。海外でも活躍している馬ですし、能力を示すことができてよかったです。

          • 安田隆行 調教師

            馬の状態がすごく良かったので期待していました。4つのカーブがあるので心配していましたが全く問題なくて嬉しかったです。前走は夏負けが尾を引いていましたが今回は状態もすごく上がっていました。

          文:秋田奈津子 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)

        • 11月3日 金沢競馬場 右1500m

          第11回JBCレディスクラシック JpnI

          テオレーマ

          競走成績

          レース映像

          初距離でも鋭い末脚を披露
          1番人気に応えJpnI初制覇

          百萬石ウィンドオーケストラによるファンファーレの生演奏で幕を開けた金沢競馬場でのJBC競走。そのひとつめとなるJBCレディスクラシックJpnIは、金沢に不慣れな人馬が多かったためか、やや乱れたレースになった。 スタート直後に2番ゲートからスタートしたサルサディオーネが蛇行。その影響でリネンファッションの進路が狭くなってしまった。さらに1コーナーでは先行集団を形成した4頭がぶつかり合うような形になり、外側にいたクリスティが大きく外にはじかれてしまった。 そこでは大きな声を上げる騎手もいたという危険な状況だったが、2コーナーではサルサディオーネが単独で先頭に立ち、後続の各馬の位置取りも落ち着いた。ただ、出走12頭のうち10頭が前走よりも距離短縮で、小回りコースの経験が少ない馬もいるメンバー構成。レース後に「この馬に1500メートルは短いかなと思いました」と武豊騎手が話したリネンファッションが3コーナー手前でサルサディオーネに並びかけていったのは正解だったといえるだろう。 その外をマドラスチェックが追走して、3コーナー手前での先行グループは3頭。しかし左回りに良績が集中しているサルサディオーネは早々に失速し、リネンファッションが代わって先頭に立った。 その形は3番手を進んだマドラスチェックにとって、いい目標。最後の直線に入ったところで先頭に立ち、そのまま押し切る構えを見せた。 しかし勝ったのは、そのさらに外から伸びてきたテオレーマ。中団後ろから徐々に位置取りを上げて勝ち切ったその内容は、2年連続で白山大賞典JpnIIIを制している鞍上の川田将雅騎手の経験値の差がもたらしたものかもしれない。 一方、マドラスチェックは2年連続でのJBCレディスクラシックJpnI・2着で、齋藤新騎手は惜しいところでダートグレードでの初勝利を逃す結果。それでも重賞戦線での安定した成績を今回も披露する結果にはなった。 早めに動いたリネンファッションは3着。武騎手は「最後の直線は余力がありませんでした」と話したが、1コーナーまでに2度の不利を受けてのものだけに、ダートグレードで2戦連続2着だった実力は示した。 単勝2番人気に推されたレーヌブランシュは4着で、好位追走から流れ込んだという内容。パドックでは首が高い歩きで物見が激しく、こちらも金沢コースが悪いほうに影響したように映った。松山弘平騎手も「小回りでこの距離はすこし忙しい印象」とコメントしていた。 そのなかで5着に健闘したのが浦和のラインカリーナ。陣営からの指名を受けて岩手からやってきた山本聡哉騎手は「馬のリズムを重視して乗りました。いろいろな経験をしている馬なので初コースも心配していませんでしたが、差のない競馬ができたので大健闘だと思います」と笑顔。管理する小澤宏次調教師もうれしそうな表情で検量室前に戻ってきたラインカリーナを迎えていた。

          • 川田将雅 騎手

            返し馬から状態の良さを感じることができたので、自信を持って乗りました。いい時の雰囲気で走ってくれていたので、これなら大丈夫だと思いましたし、最後の直線でもこの馬らしい動きをしてくれました。自分の能力を安定して出せるタイプだと思いますし、これからも期待していただけたらと思います。

          • 石坂公一 調教師

            前走後に馬の状態がさらに上がっていましたので、それよりもさらに上げていこうと考えて、緩めずに負荷をかけてきました。レースは川田騎手に任せましたが、ゴール前では大きな声が出てしまいましたね(笑)。目いっぱいの仕上げで臨みましたので、今後はしばらく休ませることになると思います。

          文:浅野靖典 | 写真:いちかんぽ(早川範雄、築田純)

        • 11月3日 門別競馬場 右1800m

          第2回JBC2歳優駿 JpnIII

          アイスジャイアント

          競走成績

          レース映像

          後半スタミナ比べを制す
          北海道勢も3頭が掲示板

          10月以降の門別開催は、雨に見舞われる日が続いた。朝晩の気温が低い時期に入っているので、レース当日に晴れる時はあったものの、水分を含んだ馬場が乾き切ることはない。9月29日を最後に、良馬場で行われた開催はなかった。2日から3日朝まで降り続いた雨の影響で、午前10時に開門した時の馬場状態は、不良発表だったが、雨が止んで気温が上昇し、第1レースを前に重馬場に回復した。 全国最初の2歳重賞として定着している栄冠賞、そしてJBC2歳優駿JpnIIIに向けた中距離3重賞を振り返ると、良馬場で行われたのは、ブリーダーズゴールドジュニアカップのみ。サッポロクラシックカップは、前年の勝ち時計を2秒7上回るレコード決着。サンライズカップは、前年より2秒5も速かった。時計を大幅に詰めたことで、レベルが高い世代と片付けるのは容易だが、逆に道悪の競馬が続き、高速決着ばかりだと、時計の判断を見誤ることもある。その意味で、稍重で行われた栄冠賞が、1200メートルとはいえ最も注目すべきレースだった。 栄冠賞のレースラップは、前半3ハロン34秒4-後半ハロン38秒3。2歳6月だと考えれば、相当厳しいレースが繰り広げられていた。笹川翼騎手がコパノミッキーで参戦したが、「この時期で速い流れを経験できるのは、北海道以外の僕らにとって未経験。北海道の馬たちが強い理由が何となくわかりました」と話していた。坂路効果がクローズアップされるが、それとともに2歳のデビュー頭数が確保されている競馬なので、中央競馬のような勝ち上がり制が採られ、ピラミッドの図式がしっかりしている。栄冠賞で敗れた馬の中で、シャルフジンとリコーヴィクターが、後の中距離重賞を制したことから、栄冠賞が単なる短距離重賞ではないと、断言できる。栄冠賞を制したモーニングショーを含め、サンライズカップで重賞ウィナーたちを退けて重賞初制覇を飾ったナッジは、下級条件でも中距離戦が増えた8月に台頭。血統を考えても、距離が延びて結果が伴ってきたのは頷ける。 路線がしっかりしている北海道と比較すると、中央競馬の2歳戦は、ダートの番組が極端に少ない。今年の出走馬がすべて1勝馬。1勝クラスを経験した馬は1頭しかいない。しかも、長距離輸送を伴う点から、地の利を生かせる北海道勢が優位と考えてしまう。しかし、今年の中央勢は、各馬のレースを観ていた時に『今年は互角かそれ以上』と、個人的に感じた。アイスジャイアントとオディロンは、向正面から動きがあり、外から被される経験をしている。特に、アイスジャイアントは、3頭併せの真ん中で鎬を削った。オディロンも直線の攻防に渋太さを感じさせた。コマノカモンは、プラタナス賞で控える競馬を試みた内容が良く、この3頭は不気味に感じていた。 エンリルが先手を主張したが、外からシャルフジンが掛かり気味に追いかけたので、前半3ハロンが12秒0-10秒9-11秒9=34秒8と、短距離並みのハイペースになった。向正面に入って多少ペースが落ち着き、縦長の展開から少しずつ馬群が固まってくる。内枠だったアイスジャイアントは、ハイペースに戸惑い、ダッシュがつかず後方からのレースとなったが、ラップが落ちた向正面で少し位置を上げていた。ナッジは中団内で辛抱し、リコーヴィクターは3コーナー手前から仕掛けていく。 後半4ハロンは、すべて13秒台のスタミナ比べとなり、直線を向いての残り1ハロンでは各馬が横に広がる大混戦。アイスジャイアントがロングスパートを利かせ、内から迫るナッジの追撃を凌ぎ、2戦目で重賞制覇を飾った。1分53秒0の勝ち時計は、北海道2歳優駿を含めてレース史上3番目に速いタイム(門別1800メートルで実施時)。真冬の高速馬場だったキングオブサンデーの1分50秒8は例外的だったので、それを除けばハッピースプリント(1分52秒5)に次ぐものだった。 高柳瑞樹調教師、三浦皇成騎手も話していたが、まだ成長途上で、走りも幼い。その中で激戦に耐えた重賞勝ちは、今後のダート界を背負う存在に育つ可能性を感じる。北海道勢もナッジ、リコーヴィクター、シャルフジンの3頭が入着し、意地を見せた。JBCの2歳カテゴリーに加わり、北海道2歳優駿の時以上に、序盤の厳しさが明らかに増してきた。来年のダート界も、中央・地方ともに、この舞台を経験した馬が羽ばたいていくと信じている。

          • 三浦皇成 騎手

            想定より後ろからのレースとなりましたが、経験が浅いので、あらゆることを想定して挑みました。終始手応えは良かったんですが、タフな馬場だと返し馬で感じたので、脚の使いどころを慎重にレースを運びました。2戦目で重賞を勝つことができたのは、潜在能力と素質の高さを持ってこそだと思います。

          • 高柳瑞樹 調教師

            ゲートの出が遅く、思っていた以上に後方にいる形となりましたが、ハイペースで展開が向いた面もありました。ただ、成長の余地を残した段階で、厳しいレースの中、よく耐えてくれました。レース後の状態を見ながら、オーナーとの相談になりますが、全日本2歳優駿も視野に入れています。

          文:古谷剛彦 | 写真:いちかんぽ(浅野一行、中地広大)

        注記

        当ページは、地方競馬情報誌『ハロン』及び『WEBハロン』における当時の掲載内容を引用又は抜粋し、作成しています。