JBC2020

第6回 2006年 川崎競馬場

第6回JBCクラシック GⅠ

優勝馬タイムパラドックス

11月3日 川崎競馬場 2100m

早めに抜け出し後続を完封
鞍上の好判断が連覇に導く

前日のJBCマイルでブルーコンコルドが連覇を達成。クラシックではタイムパラドックスにその期待がかかったが、近走の結果から厳しいと見られ、単勝は5番人気だった。しかしフタを開けてみれば、低評価を覆す鮮やかな走り。見事に連覇を果たした。

中団からレースを進めていたタイムパラドックスは、1周目ゴール板あたりから徐々に進出。この馬の場合、鞍上がつねに折り合いに苦労しており、今回も悪い部分が出てしまったように思われた。しかし岩田康誠騎手は、手綱を抑えてはいたものの、ある程度馬の行く気に任せる戦法をとった。2周目向正面で後続が追撃態勢に入ると、3コーナー手前でタイムパラドックスも進出。楽な手ごたえで直線に向くと、伸びきれない後続を尻目にそのまま先頭でゴールを駆け抜けた。

やはり今回は岩田騎手の好判断が大きな勝因だろう。掛かったところで無理せず行かせ、しかしながら2番手まで上がったところで我慢させる。普通に掛かったのであれば、直線を向いた時のあの抜群の手ごたえはあり得ない。柔と剛を合わせた騎乗で、タイムパラドックスの本来の力を見事に引き出した。だがタイムパラドックスは、その後ジャパンカップダートGⅠへ向けての調整中に骨折が判明。引退、種牡馬入りすることになった。

2着は1番人気に推されたシーキングザダイヤ。最内枠からハナを切る勢いも、好位を追走。直線で外に持ち出すと最速の上がり(39秒2)を見せて追い込んだ。だが、結局1馬身半届かず2着。これが8度目のGⅠ2着となってしまった。実力は誰もが認めているだけに、悲願成就もそう遠くないと思うのだが…。

地方勢では大井のボンネビルレコードが3着に突っ込んできた。的場文男騎手は「『大井なら…』と思っていたけど、今日は走ったね。まだ力をつけそうだよ」と満足そうな表情。今回が初めての遠征、そして初めての左回りで、この好結果。終いの脚は相変わらず強烈で、遠征に慣れてくれば今後の展望も大きく広がるだろう。

COMMENT

岩田康誠 騎手

ちょっと出負けして中団からになりましたが、ペースが遅くて引っかかりました。でも結果としては馬が「行け!」って言ったんだなと思います。早めに抜け出して、直線でも何とかなるかなと思っていましたが、最後は必死でした。2000メートル前後で、掛かるくらいのペースがこの馬には理想なんでしょうね。

松田博資 調教師

年寄りですけど、本当によくがんばってくれます。夏場は体調が悪かったのですが、徐々に行きっぷりもよくなっていました。騎手には指示を出していませんでしたが、三分三厘で抜けてきた時に「今日はいける」と思いましたし、1ハロン手前で勝利を確信しました。

JBCマイル(第6回JBCスプリント) GⅠ

優勝馬ブルーコンコルド

11月2日 川崎競馬場 1600m

マイルでも強烈な末脚を発揮
盤石の差し切りで連覇達成!

前走のマイルチャンピオンシップ南部杯GⅠで、ブルーコンコルドはマイル戦初勝利を挙げた。これまで1400メートルでは無類の強さを発揮し、昨年のJBCスプリントGⅠ(名古屋)を制すなど活躍。しかしマイルのフェブラリーステークスGⅠ、かしわ記念GⅠでは惜敗しており、南部杯の、あの混戦のゴール前を制したことは、この馬の成長を如実に物語っている。

それもあってか、ブルーコンコルドは断然の1番人気に推され、そして期待どおりの圧勝を演じた。道中は例によって中団につけ、3〜4コーナーで徐々に進出。直線に向いたところで、先頭のメイショウバトラーとは差があったが、持ち前の鋭い末脚を爆発させると、これをあっさり交わした。

文字どおり"あっさり"だった。上がりタイムは最速の38秒4。2番目に速い上がりを見せたメイショウバトラー(39秒0)すら交わされてしまったのだから、他馬もお手上げというよりほかない。これだけの強さを見せる要因は、小回りへの対応力はもちろんだが、コーナーを抜けてからトップスピードへ乗せるまでのギアチェンジが非常に早いところにあると見る。管理する服部利之調教師が「器用なところがある」と毎回言うように、その切り替えの早さ、加えて末脚の爆発力は超一流。この1年間で折り合い面でも進境を見せており、高いレベルでバランスのとれた馬に成長したといえる。

2着のメイショウバトラーは、さすがに相手が悪かった。前述のように、この馬も終いによく伸びており、追ってきたリミットレスビッドを寄せ付けなかった。ダートGⅢを連勝してきた勢いは本物。脚元さえ無事なら、今後もダート戦線をにぎわすはずだ。

COMMENT

幸英明 騎手

折り合いさえつけば伸びてくれるので、その点に注意して乗りました。手ごたえはよかったのですが、メイショウバトラーもいい感じでしたから、4コーナーではヒヤッとしました。でも最後はこの馬の末脚を見せてくれましたね。マイルは問題ないと思っていましたし、コーナーがきついのも馬は気にしていなかったです。

服部利之 調教師

昨年とは距離もコースも違いますから、連覇ということに対して意欲を持って臨みました。器用なところがありますから小回りはいいですし、前走でマイルもこなせると思っていました。この中間はいいテンションを保っていて、コンディションを整えることに注意していました。

文:斎藤修、大貫師男、八木重和、土屋真光
写真:いちかんぽ(川村光章、森澤 志津雄、トム岸田、宮原政典)

第7回 2007年 大井競馬場

第7回JBCクラシック JpnⅠ

優勝馬ヴァーミリアン

10月31日 大井競馬場 2000m

直線一気に突き放す
まさに次元の違う強さ

「ドバイに行くとその反動が大きく、立て直すのに時間がかかる」とは以前によく言われていたこと。しかしここ1~2年はほとんど耳にすることがなくなった。

ドバイには毎年のように遠征する馬が出てくるようになり、またドバイに限らず海外への遠征競馬もめずらしいことではなくなって、遠征などのノウハウも厩舎間で共有されるようになったに違いない。ヴァーミリアンは、ドバイに遠征した反動が出るどころか、むしろドバイ遠征によってさらに力をつけたと言ってもよさそうな、圧倒的なレースぶりを披露した。

ヴァーミリアンは、キングスゾーンやメーンエベンターなどの先行争いから離れ、中団7番手あたりを追走。3コーナーでは外からブルーコンコルドが早めに交わしていったが、慌てずじっくり仕掛けるタイミングを待った。

直線を向くと、ヴァーミリアンの前にいたフリオーソがまず先頭に立った。しかしそれも一瞬で、フリオーソの内に進路をとったヴァーミリアンが、武豊騎手にムチを1発入れられただけでビュンと伸びると、アッという間に突き放し、4馬身差をつける圧勝劇となった。

これで国内に限れば名古屋グランプリGⅡ、川崎記念JpnⅠから3連勝。ドバイワールドカップでは離された4着に敗れたが、石坂正調教師は、そのドバイでのレースを見てほんとうに強くなっていることを確信していたという。ドバイ以来7カ月ぶりで臨んだ実戦だ ったが、久々を感じさせないレースぶりだった。

4馬身差をつけられたとはいえ、2着のフリオーソも好位から一旦は抜け出す強い競馬を見せた。うしろから追い込んだサンライズバッカスを1 1/4馬身抑え、さらにそのうしろには3コーナーで早めに仕掛けたブルーコンコルド。上位4着までをGⅠ (JpnⅠ)馬が占めるという実力どおりの結果となった。

そしてGⅠ好走実績のあるシーキングザダイヤ、クーリンガーは6、7着。今回、岩田康誠騎手が手綱をとったルースリンドはそこに割って入る5着で、相応の力があると見てよさそうだ。

JBCクラシックJpnⅠはこれで中央勢が7連勝。歴代の勝ち馬を見ると、レギュラーメンバー、アドマイヤドン3連勝、タイムパラドックス2連勝、そしてヴァーミリアンと、ダート最強馬の名がズラリと並ぶ。

2着に入った地方馬は、第1回のマキバスナイパー、第4回のアジュディミツオーに続いて3頭目。いずれも船橋の所属馬で、またいずれもがGⅠ馬となっている。

COMMENT

武豊 騎手

乗っていていい馬だなと思いました。途中からブルーコンコルドが行ったのですが、つられないように我慢しました。直線ではなかなかスペースがなかったのですが、前が開いたらすごい脚で抜け出してくれました。

石坂正 調教師

休み明けですが、久々というつもりではなく、ここを目標に調教を積んでいましたが、パドックを見たらだいじょうぶだなと思いました。ドバイに行ったことで、精神的にものすごく強くなりました。直線ではどこから抜けてくるのかと見ていて、これまではそれほど瞬発力を見せるような競馬をしたことはなかったのですが、すごい脚で伸びてくれました。

 

第7回JBCスプリントJpnⅠ

優勝馬フジノウェーブ

10月31日 大井競馬場 1200m

末脚一閃、見事な差し切り
地方馬初!JBC制覇の快挙

ついに、地方馬がJBCを制した。ダートグレードは、全体を通して見れば中央馬が圧倒的に優勢だ。しかし地方馬からもGⅠ(JpnⅠ)を勝つ馬がコンスタントに出ていて、入厩する馬の値段の圧倒的な差や、層の厚さを考えれば、むしろ地方馬もかなり健闘しているように思う。

しかし過去6回のJBCで1度も地方馬が勝つことがなかったのは、地方競馬における最高賞金ということはもとより、その格の高さゆえ、中央馬が本気で狙ってきていたからだろう。

得てしてそういう均衡が破られるときというのは、意外なものだ。むしろ今回であれば、JpnⅠ (GⅠ)を2勝もしているフリオーソがクラシックを勝ったなら、それほどの驚きではなかったと思う。

もちろんフジノウェーブが勝つと予想していた人もいただろう。しかし普通に考えて、いくら南関東で10連勝したとはいえ、重賞勝ちは南関東限定のもので、ダートグレードもさきたま杯JpnⅢの4着が最高という成績。そしてこれが帝王賞JpnⅠ(11着)以来の休み明け。7番人気の単勝38.1倍という人気も当然だった。

アグネスジェダイとプリサイスマシーンが前で競り合い、直後のナイキアディライトが4コーナーで並びかけた。この3頭のうしろで機をうかがっていたのがフジノウェーブだった。

直線半ばでナイキアディライトが後退すると、代わってその外から進出。さらに外からリミットレスビッドも伸びてきたが、脚いろは完全にフジノウェーブが勝っていて、粘るプリサイスマシーンをクビ差交わしたところがゴールだった。

レースはもちろんだが、もうひとつ印象に残ったのがレース後の高橋三郎調教師だ。

囲まれた記者の質問に答えてはいるが、心はどこか宙に浮いた感じで、茫然自失。想像もしていなかった嬉しさも度を越すと、こんな状態になるのかと思った。

東京盃JpnⅡを叩いてここに臨むはずが、インフルエンザの影響が長引いたことで帰厩が遅れ、その東京盃には間に合わず。強い調教もできないまま迎えた本番だった。

驚くのも無理はない。フジノウェーブは、一線級相手の経験が少ないなかで、よくこれほどのレースができたと思う。それはおそらくさきたま杯の経験が生きたのだろう。スタートで出遅れ、4コーナーでも後方。敗れたとはいえ、直線だけで追い込み、それほど差のない4着に食い込んだ。勝ったのはメイショウバトラーだが、すぐ前にはアグネスジェダイがいて、5着のリミットレスビッドには先着。ここでJpnⅠ並に厳しい経験していたと考えれば、この勝利も納得できる。

COMMENT

御神本訓史 騎手

残りの200メートルからは夢中で追いました。最後はよく伸びて、よく辛抱してくれました。今回は半信半疑だったのですが、よく走ってくれたと思います。

高橋三郎 調教師

このレースの前に1回叩こうと考えていたのですが、インフルエンザの影響で大井に移動することができなかったので、調教は少し足りない感じで、悩みはたくさんありました。これで走ってくれたところを見ると、あまり強い調教はやらなくてもいいのかなとも思いました。スタッフが替ったばかりで結果を出すのは、ほんとうに難しいのですが、厩舎スタッフのみんなが、ほんとうによくやってくれました。

文:斎藤修
写真:いちかんぽ

第8回 2008年 園田競馬場

可能性を感じさせた、園田でのJBC開催

近年のJBCでまず感じるのは、中央の厩舎関係者にも完全に定着したということ。

JBCクラシックが1億円、JBCスプリントが8000万円という、中央競馬と比較してもかなり高額な賞金だけに当然とも思えるが、JBCがスタートして何年かは、ダートの有力馬を管理している調教師でもJBCのことを意識している方ばかりではなかった。中長距離路線では、JBCクラシック→ジャパンカップダート→東京大賞典という秋のGⅠ(JpnⅠ)路線が関係者にもファンにも完全に定着したし、短距離路線においても、JBCクラシックが唯一のJpnⅠ(GⅠ)であり、最高賞金のレースでもあると認識されるようになった。

今年その象徴となったのが、古馬チャンピオンのヴァーミリアンと、ダートでは無敗の3歳チャンピオンであるサクセスブロッケンによる、初めての直接対決が実現したということだろう。

ヴァーミリアンは昨年同様ドバイ遠征以来、サクセスブロッケンもジャパンダートダービー圧勝以来と、両陣営ともに休み明けながら、秋の早い段階からJBCクラシックが復帰戦になるであろうことを表明していた。言うまでもなく馬は生き物であるだけに、公言した予定どおりにいかないことも常だが、両陣営ともに万全の状態でレースを迎え、そしてダート競馬の歴史に残るような名勝負を繰り広げた。

残念ながら今年はスプリントで4着に敗れたブルーコンコルドだが、この馬も4年にも渡ってJBCを盛り上げている主役の1頭。05年は名古屋のJBCスプリント、06年は川崎のJBCマイルを制し、昨年の大井では「JBC3階級制覇を目指す」としてクラシックに挑戦し、話題となった。その昨年は4着に敗れたが、今年はマイルチャンピオンシップ南部杯で3連覇を果たし、8歳でも衰えのないことを証明して見せた。そして今年はアドマイヤドンに続くJBC3勝目を目指し、JBCスプリントに断然人気で臨んだことも、今年のJBCを盛り上げる重要な要素のひとつとなった。

そのJBCスプリントは、結果的にではあるが、ダートスプリント路線の「世代交代」となった。ブルーコンコルド、メイショウバトラー、リミットレスビッドと、この路線を牽引してきたベテラン勢が4着以下に沈み、勝ったのはこれが重賞初制覇となるバンブーエール。そして2着は、前走白山大賞典で重賞初制覇を果たしていた3歳馬のスマートファルコンだった。

バンブーエール陣営のJBCスプリントに賭ける意気込みは相当のものだったようだ。一方、デビュー以降マイル以上の距離しか経験のなかったスマートファルコンは、クラシックでは除外確実と見て、JBCスプリントと武蔵野ステークスと、両天秤にかけてのエントリーだったとのこと。

JBCのみならず、地方競馬で行われるダートグレードでは、限られた所属枠ゆえ中央勢にとっては出走すること自体が容易ではない。そうした状況でのスプリント路線の世代交代も、今年のJBCを象徴する出来事のひとつだった。

さらに今年注目されたことのひとつとして、8回目にして園田競馬場で初めてJBC開催が実現したことが挙げられる。

大阪という日本第二の都市の中心部から近く、交通手段でも極めて便利な立地条件にある園田競馬場で、これまでJBCが行われてこなかったのは、おそらくその施設の小ささゆえだろう。1周1051メートルは、現在ダートグレードが行われている競馬場ではもっとも小回り。しかしそれ以上にJBCの園田開催に二の足を踏ませていたのは、住宅街の中の限られた土地、そして限られたスタンドで、押し寄せてくるファンを収容しきれるかどうかという不安だったのではないだろうか。

しかしその不安は見事に払拭された。

JBCのレースが行われるときには、スタンド前は人、人、人で埋めつくされた。近年の園田競馬場では見たことのない光景だった。にもかかわらず、馬券の売り残しはほとんどなかったようだし、食事面でも行列こそできていたものの、食べられなくて困ったというようなことも聞かれなかった。これはおそらく05年の名古屋での経験が生きたものと思う。

目標としていた入場人員25,000人に対し、実際の入場は22,174人。これは目標に達しなかったというより、仮に25,000人のファンが来場してもスムーズに競馬開催が行われるよう周到な準備をした上で、その想定内に収まったと捉えたい。

一方で、1日の総売得目標17億円に対し、20億円を超える売上げがあったことは評価に値する。もちろんこれには、最初にも書いたとおり、ヴァーミリアンVSサクセスブロッケンという、競馬ファンなら誰もが注目するであろう対戦が実現したことも大きい。しかし裏を返せば、JBCがそれだけのレースになったということでもある。それほどの大一番が滞りなく実施できたということは、園田競馬場のみならず、地方競馬全体の自信にもなっただろうし、今後さまざまな展望も開けてくる。

JBCは、さまざまな競馬場での持ち回り開催がひとつの「ウリ」としてスタートした。しかし実際には、第4回までは大井、盛岡、大井、大井という開催で、「持ち回りと言いながら、結局は大井と盛岡でしかできないのか」という声も聞かれた。しかしその後は、距離にある程度の融通を持たせることで、名古屋、川崎、園田での開催を実現させた。

来年は名古屋での2度目の開催が決まっているが、さて、その後はあらたにどの競馬場で開催が可能だろうか。

札幌は、集客や施設面での不安はないが、距離的な面で問題がありそうだ。スプリントは引き込み線を使えば1100メートルがとれるが、クラシックは1700メートル、もしくは2400メートルでは合格とはいえそうもない。

門別競馬場は、大井、盛岡とともに1200、2000の基本的な距離がとれる上、フルゲートも16頭で申し分ない。しかし交通の便と、何よりスタンドなどの施設面を考えると現状では厳しいと考えざるをえない。

水沢は、盛岡がある以上は施設面で見劣りがする。浦和は2000メートルのフルゲートが11頭では少な過ぎる。

集客や交通の便では船橋が理想的だが、距離面が難しい。1200と2000の距離設定もあるにはあるが、トリッキーなコースで最近ではほとんど使われていない。クラシックが園田より短い1800メートルになるのはいいとしても、スプリント(もしくは川崎のようにマイル)が1500か1600では、2つのレースの距離設定があまりにも近過ぎる。内回りの1400メートルというのもあるが、現実的ではない。船橋は距離設定で悩むことになりそうだ。

第8回JBCクラシック JpnⅠ

優勝馬ヴァーミリアン

11月3日 園田競馬場 1870m

ダート王の座はゆるがず、
一騎打ちで3歳チャンプを下す

勝ったヴァーミリアンはもちろん強かったが、3歳ながら古馬チャンピオンを相手に堂々と渡り合ったサクセスブロッケンも、負けてなお強し。GⅠ(JpnⅠ)馬5頭が顔を揃えた豪華メンバーでも、やはり注目の2頭は力が抜けていた。園田1870メートルのレコードを0秒6更新する決着も当然の結果だった。

サクセスブロッケンがハナに立ち、2番手にフリオーソ、そしてヴァーミリアンと続く展開。3コーナー手前でヴァーミリアンが仕掛けると、3~4コーナーでは、ダート3歳チャンピオン、地方現役最強馬、中央の古馬チャンピオン、3頭が一団となり、スタンドを埋め尽くしたファンの歓声も一気に最高潮に達した。

直線を向いてもサクセスブロッケンが先頭だったが、すぐにヴァーミリアンが交わして先頭。ここからは2頭の一騎打ち。サクセスブロッケンが一旦は遅れたが、ゴール前差し返す意地を見せた。しかしヴァーミリアンは二度と先頭を譲らず、サクセスブロッケンをクビ差で抑え、JBCクラシックJpnⅠ連覇を果たした。

そしていつものように後方追走から差を詰めてきたメイショウトウコンがサクセスブロッケンに3/4馬身まで迫る3着に入り、フリオーソは直線後退して4着だった。

「海外遠征帰りで、小回りで、心配がないわけではなかった」というヴァーミリアンの武豊騎手。しかし石坂正調教師は「休み明けは感じさせなかった。小回りを考えるより、ヴァーミリアンは強いんだと思うことにしていた」と自信を持って臨んでいた。

わずかアタマ差2着に敗れたサクセスブロッケンの横山典弘騎手にとっては、スタートが痛恨だったようだ。出遅れというほどではなかったが、トモを滑らせてダッシュがつかず。無理せず先頭に立ったようには見えたが、相手がヴァーミリアンでは、やはりそのわずかな不利が最後まで影響したのだろう。

中央勢や船橋のフリオーソにとっては、経験のない小回りの馬場が、ともすればどんなレースになるのかという不安材料でもあった。しかし終わってみれば、初めて1周1051メートルという園田競馬場で行われたこのレースは、JBC史上に残る名勝負となった。

ヴァーミリアンはこのあと、ジャパンカップダート、東京大賞典と、昨年同様に秋のダートGⅠ(JpnⅠ)3連勝を目指す。サクセスブロッケンも当然雪辱を期しているだろう。その戦いにはアメリカ挑戦を続けたカジノドライヴも加わるかもしれない。地方の雄フリオーソも巻き返しを狙う。

今後のダート頂上決戦への期待をさらに高めるJBCクラシックでもあった。

COMMENT

武豊 騎手

スタッフが万全に仕上げてくれて、返し馬の感触がすごくよかった。スタートで不安があるのですが、いいスタートがきれました。乗りやすい馬で、小回りもうまくこなしてくれました。復帰を楽しみにしていたので、強いヴァーミリアンが見せられてよかったです。

石坂正 調教師

ドバイからは間隔もあり、去年のJBCクラシックもドバイ以来で強い競馬をしていたので、だいじょうぶだと思っていました。結果を見たらやはり強かったですね。去年の勢いが衰えていないというのが確認できました。

第8回JBCスプリント JpnⅠ

優勝馬バンブーエール

11月3日 園田競馬場 1400m

世代交代のスプリント
連勝の勢いでJpnⅠ初制覇

新興勢力の台頭で、世代交代を感じさせられるJBCスプリントJpnⅠだった。

勝ったのは、これが重賞初制覇となるバンブーエール。そして2着には、前走白山大賞典JpnⅢでの重賞初制覇からスプリントへと路線変更した3歳馬スマートファルコンが入り、断然人気となったブルーコンコルドなど、ここ何年かに渡ってこの路線を牽引してきたベテラン勢は4着以下に敗れた。

それにしてもバンブーエールは見事な逃げ切りだった。好スタートから無理することなく先頭に立つと、向正面まで手綱をがっちり抑えたまま。4コーナーでは直後にスマートファルコンに迫られたが、直線では並びかけることを許さず、1馬身差を保ったままゴール。松岡正海騎手の左手が挙がった。

そして園田競馬場ではめずらしいウイニングラン。松岡騎手はよほど嬉しかったのであろう、検量室前に戻ってくると、今度は馬上で両手を大きく広げ「やったー!」と歓喜の声を上げた。

バンブーエールは、3歳時にジャパンダートダービー、ダービーグランプリの両GⅠで2着があったが、その後4カ月の休養。さらに昨年5月から今年7月にかけても長期休養があった。ダート短距離路線で本格化したのはその後のこと。復帰戦のプロキオンステークスGⅢは4着だったが、松岡騎手に乗替り、ダートオープンを3連勝でここに臨んでいた。ただ、その3連勝目となった前走は、松岡騎手は騎乗停止中。新人・三浦皇成騎手が手綱を取り、JRAの新人騎手として武豊騎手の記録に並ぶ69勝目を挙げ、大きな話題となっていた。それだけに松岡騎手にとっては、もう一度自分に手綱が戻り、バンブーエールに初重賞、そしてJpnⅠのタイトルをもたらしたことが嬉しかったようだ。

一方、JBC3勝目に加え、GⅠ(JpnⅠ)8勝目という偉業がかかっていたブルーコンコルドは残念ながら4着。スタート後は慎重に外に持ち出し、向正面で仕掛けるという、この馬の持ち味を生かす正攻法でのレース運び。しかし、追い出してからの反応が本来のものではなかった。「やっぱりズブくはなっているようで、今は1400より1600くらいのほうがいいのかな」と幸英明騎手は振り返った。

そして中央勢掲示板独占の一角を崩し、3着に食い込んだのが、地元兵庫のアルドラゴン。当初は白山大賞典からJBCクラシックという予定だったそうだが、地元の1400メートル戦で強い勝ち方をしたことから、白山大賞典は使わず、JBCスプリントへ路線変更。兵庫では初のJBC開催、初のJpnⅠレースで地元馬が見せた意地の3着だった。

COMMENT

松岡正海 騎手

あまり速くなりそうになかったので、行ってしまいましたが、スローだったのでだいじょうぶだと思いました。1頭になると遊ぶところがあるのですが、手ごたえには余裕がありました。マイペースでいけたので、うしろは気にならなかったです。

安達昭夫 調教師

行けるんだったら行こうと話していました。2000メートルも使ってましたけど、この馬には1600くらいまで、スピードを生かす競馬のほうがいいのかなと思います。このあとは未定ですが、これで(賞金を稼いだことで)思うようなところが使えますね。

文:斎藤修
写真:いちかんぽ

第9回 2009年 名古屋競馬場

第9回JBCクラシック JpnⅠ

優勝馬ヴァーミリアン

11月3日 名古屋競馬場 1900m

成長し続ける7歳馬、
GⅠ(JpnⅠ)8勝目の日本記録

ヴァーミリアンにずらりと◎が並んだ。単勝は最終的に1.3倍。その期待にこたえれば、02~04年のアドマイヤドンに並ぶJBCクラシック3連覇。そして、何頭かの名馬が越えられなかったGⅠ(JpnⅠ)勝利数の日本記録を更新して8勝目となる。

現役馬でいえば、このレースにも出走しているブルーコンコルドが昨年10月のマイルチャンピオンシップ南部杯JpnⅠでGⅠ(JpnⅠ)7勝目を挙げ、続いたカネヒキリは今年の川崎記念JpnⅠでその記録に並んだ。そしてヴァーミリアンは、今年6月の帝王賞JpnⅠを圧勝してその2頭に追いついた。

GⅠ(JpnⅠ)8勝の新記録達成は、やはり楽なものではなかった。

外から一気にマコトスパルビエロが交わして先頭を奪うと、さらにワンダースピードが続き、好スタートから一旦はハナに立ったヴァーミリアンは、内の3番手に控えた。

勝負どころの3コーナーでもヴァーミリアンの武豊騎手の手ごたえは楽。しかしラチ沿いのすぐ前にはマコトスパルビエロ、外にはワンダースピード、さらには直後にブルーコンコルドが迫ってきていて、外に持ち出すことができない。手ごたえはよくても、三方を囲まれ自分からはまったく動けない状況だった。

すでに外に持ち出す余裕はなく、ほとんど隙間のないラチ沿いから抜けてこられるのだろうかと思ったが、193メートルと短い名古屋の直線で、マコトスパルビエロの内からぐいとアタマ差前に出たところがゴールだった。

「とにかく内をずっと狙っていました。見ているほうはドキドキしたかもしれません」と武豊騎手。見ている者の印象よりも、自信を持っての抜け出しだったようだ。

2着のマコトスパルビエロから、さらにクビ差でワンダースピードが入り、終始3頭が一団で競り合う見ごたえのあるレースだった。

ヴァーミリアンは、さすがに7歳の秋ともあれば、成長や上積みはないだろうと考えるのが普通だ。しかし石坂正調教師は「成長し続けている」という。それは気性面だ。「競馬に集中している。一切ムダな動きはしない」と。なるほど、そうした部分の成長が、体力的な部分をカバーしているのだろう。

JBCクラシックJpnⅠ3連覇に、GⅠ(JpnⅠ)8勝目。あらためてすばらしい記録だ。

今年もJRA勢が上位を独占する結果となり、地方最先着は、地方勢ではもっとも期待されていた笠松のマルヨフェニックスの5着。勝ったヴァーミリアンから2秒4の差をつけられた。スタートに難のある馬で、今回も伸び上がるようなスタートで、出遅れというほどではないものの、決していいスタートとはいえなかった。JpnⅠでは、これで昨年の帝王賞(4着)に続いての掲示板確保。さすがにJpnⅠクラスになると厳しいが、JpnⅢならどこかでひとつくらいはと期待したい。

COMMENT

武豊 騎手

スタートがよかったので、このコースならハナを切ってもいいかなと思っていました。とにかく乗りやすい馬です。外には出られないと思い、内がちょっとあいたときに一気に行こうと思いました。3連覇ですが、(馬の状態は)今が一番いいかもしれないです。

石坂正 調教師

手ごたえは十分あるけど、前に馬がいて出られない展開。あそこから出てこられたのがヴァーミリアンの力ですね。落ち着いて競馬に集中していて、よくぞこういう精神状態の馬になれたなと思います。体力的に衰えを見せていませんし、次のジャパンカップダートでも勝利に向かっていくことができると思います。

第9回JBCスプリント JpnⅠ

優勝馬スーニ

11月3日 名古屋競馬場 1400m

ダート短距離でこその強さ、
3歳馬がスプリント初勝利

強いスーニが戻ってきた。

昨年2歳時、全日本2歳優駿JpnⅠまで圧倒的なレースぶりで4連勝したときは、3歳になってどれほどの活躍をしてくれるのだろうと期待を抱かせた。年が明け、芝のアーリントンカップGⅢは惨敗だったものの、伏竜ステークスでは59キロを背負ってゴール前猛然と追い込む強い競馬を見せた。しかしその後、兵庫チャンピオンシップJpnⅡでゴールデンチケットにクビ差で敗れると、ジャパンダートダービーJpnⅠは惨敗ともいえる6着。レパードステークスでも決定的ともいえる3馬身差をつけられてトランセンドに敗れていた。

ただ、あらためてこの馬の力を再認識させられたのが、古馬と初対戦となった前走の東京盃JpnⅡだったのではないだろうか。昨年のJBCスプリントJpnⅠを制したバンブーエールには敗れたものの、上がり3ハロン36秒9という鋭い末脚を繰り出しての2着は、バンブーエールの36秒8と比べても見劣るものではなかった。

そして今回、バンブーエールは残念ながら浅屈腱炎によって戦線離脱となったものの、スーニはこの短い距離でこそ力を発揮するのだというレースをあらためて見せてくれた。

高知の快速馬ポートジェネラルが逃げ、スーニはその2番手を追走。向正面では抑えきれないような手ごたえだった。3~4コーナーで外からアドマイヤスバルがまくってくると、先に行かせまいと追い出され、直線では単独で先頭に立ち、そのまま押し切った。

見せ場をつくったアドマイヤスバルだが、2100メートルの白山大賞典JpnⅢを勝ってここに臨んで2着という結果は、奇しくも昨年のスマートファルコンと同じ。「4コーナーで並びかけたときは勝てると思いました。もう少し距離が延びたほうがいい」と勝浦正樹騎手。3/4馬身差で振り切られたのは、距離適性の差だろう。アドマイヤスバルは、目標であるジャパンカップダートGⅠであらためて期待ということになる。

そして今回、注目を集めたことのひとつが、芝のスプリンターズステークスGⅠできわどいハナ差の2着だったビービーガルダンのダート初参戦。前半こそスーニをぴったりマークする位置を進んでいたものの、直線では置かれてしまい、離されての6着。「返し馬の感じはむしろ芝よりいいかと思ったけど、あれだけ負けたということは、やっぱりダートは合わないということでしょう」と安藤勝己騎手。芝ではGⅠ級でも、そのスピードが通用するほど今のダート路線のレベルは甘くはないということだろう。

地方勢は、船橋のノーズダンデーが勝ち馬から1秒2差の4着と好走。一方で、一昨年の覇者フジノウェーブは、中団のまま5着。この馬の適距離はやはり大井の1200メートルのようだ。

JBCでは、クラシックのほうはアドマイヤドンが02年の3歳時に勝っているものの、スプリントを3歳馬が制したのは、今年のスーニが初めてのこと。このあとの武蔵野ステークスGⅢに、スーニに土をつけたテスタマッタ、トランセンドらが出走予定となっているが、今年のダート戦線における3歳馬もかなり高いレベルにありそうだ。

COMMENT

川田将雅 騎手

前走の東京盃は、久しぶりに短い距離だったこともあって、次につながる競馬をしたのですが、今回は勝ちに行く競馬をしました。3コーナー手前で流れが落ち着いて、そのあとに外からアドマイヤスバルが上がってきたので、すぐにはエンジンがかからなかったのですが、最後もしっかり伸びてくれました。3歳馬でJpnⅠを獲ってくれて、ほんとによくがんばってくれたと思います。

福島豊 助手

ビービーガルダンがハナに行ってくれると思ったけど、それでも2番手からは理想的な展開でレースができました。ジョッキーも折り合いはついていたと話していたし、コーナーワークも問題ありませんでした。アドマイヤスバルに来られたときは脚取りが怪しいように見えましたが、相手も同じような脚いろだったので安心して見ていました。

文:斎藤修
写真:いちかんぽ(宮原政典、三戸森弘康)、NAR

第10回 2010年 船橋競馬場

第10回JBCクラシック JpnⅠ

優勝馬スマートファルコン

11月3日 船橋競馬場 1800m

思い切った作戦がピタリ的中
前走完敗した舞台での逆転劇

JBCスプリントJpnⅠは07年に大井のフジノウェーブが制しているが、昨年まで9回を重ねたJBCクラシックJpnⅠは、いまだ地方馬の勝利がない。それは多くのファンや関係者が知るところ。

そして今年、地方馬によるJBCクラシック制覇の悲願を現実のものとしようとしていたのが地元船橋のフリオーソ。帝王賞JpnⅠでは、これまで歯が立たなかったヴァーミリアン、カネヒキリを相手に勝利。前走、Road to JBCの日本テレビ盃JpnⅡでも中央勢を寄せ付けず完勝というレースぶりだっただけに、そうした期待が高まるのは当然のことだろう。単勝1.7倍の圧倒的人気に支持された。

しかしそれに待ったをかけたのが、昨年までヴァーミリアンでこのレース3連覇を果たしていた武豊騎手だった。武騎手は、怪我で療養中の岩田康誠騎手に代わり、スマートファルコンに前走の日本テレビ盃JpnⅡから騎乗。その日本テレビ盃では、フリオーソが58キロだったのに対し、内容的に完敗のスマートファルコンは56キロ。それが今回、同じ57キロとあれば、普通に考えれば勝ち目はない。

「同じレースをしたのでは逆転は難しいだろう」と考えた武騎手は、思い切った“逃げ”の手に出た。

大外14番枠のアドマイヤフジが前日の段階で除外となり、13番枠から互角のスタートを切ったスマートファルコンは、武騎手が手綱をしごいて内に切れ込みながら一気に先頭へ。スタンドからはどよめきが起きた。おそらく武騎手以外の騎手も、ファンと同様、これにはアッと思ったに違いない。「してやったり」と思ったのは、もちろん武騎手だ。

向正面に入っても軽快に逃げるスマートファルコンが単独先頭。2番手のフリオーソは、離されまいと戸崎圭太騎手が懸命に追う。

4コーナーから直線に入ると、スマートファルコンはフリオーソとの差を広げにかかり、直線半ばではすでにセーフティリード。道中追い通しだったフリオーソに7馬身という決定的な差をつけ快勝。ダートグレード11勝目にして、念願のJpnⅠ勝利となった。

「帝王賞は強いメンバーと走ったダメージがあり、その後は夏負けもありました。正直、前走(日本テレビ盃)は仕上がり途上でした。今回は、これで負けたら仕方ないと思うくらい、仕上がりに関しては自信を持って出走できました」とは、スマートファルコンの小崎憲調教師。

対するフリオーソは、帝王賞、日本テレビ盃と完璧ともいえる強いレースをして、今回までピークの状態を保っていたのかどうか。「レース前、前回とは違って馬に気合がなかった」とは川島正行調教師。

結果、帝王賞、日本テレビ盃で完敗だったスマートファルコンが大逆転。

どのレースを目標として馬の状態をピークにもっていくか。今回、それはフリオーソ陣営にとっても、スマートファルコン陣営にとっても同じだっただろう。しかし必ずしも厩舎関係者の思い通りになるものでもなく、あらためて競馬の難しさと、奥深さを考えさせられる一戦だった。

COMMENT

武豊 騎手

馬の状態は前走より今回のほうが断然いいと聞いていたので、(先手を)狙っていました。1コーナーに入るときもいい感じでしたし、向正面に入ったら折り合いもついて、いい走りだなと思って乗っていました。うしろはあまり気にせず、馬が気分よく走ってくれて、状態のよさも感じたので、ある程度粘ってくれるとは思っていたんですけど、それにしても強かったですね。

小崎憲 調教師

前走は、まだ仕上がり途上だったので、1週先の白山大賞典も考えたんですが、やはりここを目指すには(同じ船橋を)一度使っておいたほうがいいかなと思ったので、それは正解でした。普段この馬は、一度使うと外厩に出してリフレッシュさせるんですが、今回はトレセンの中で作り直すという方法をとってみました。

第10回JBCスプリント JpnⅠ

優勝馬サマーウインド

11月3日 船橋競馬場 1000m

他馬を寄せ付けないスピード
1000m戦でさらに強さを発揮

第10回を迎えるJBCだが、スプリントの1000メートルは過去最短の距離設定。加えて、日本で1000メートルのダートJpnⅠが行われるのは初めてのこと。地方競馬では、競馬場のコース形態にもよるが、2歳の早い時期には1000メートルやそれ以下の距離のレースもめずらしくない。しかし今回出走する中央馬5頭にとっては初めて経験する距離。それゆえ出走させる陣営にも少なからず不安があったのではないだろうか。結果は、明暗が分かれた。

1000メートルのスピード決戦は、やはりというか展開関係なしのサバイバルレース。スタートを失敗してしまえばそこで万事休す。五分にスタートを切った中から、手綱をしごいてじわじわと先頭に抜けてきたのは、断然人気のサマーウインド。スピードに乗ってからの二の脚は、他のどの馬にも負けない。3コーナー手前では1馬身ほど抜け出し、単独で先頭に立った。

外枠のナイキマドリードが離されまいとこれに食らいつき、芝のスピード競馬を経験しているアイルラヴァゲインも追走した。

しかしサマーウインドのスピード能力は次元が違った。直線を向くと2番手のナイキマドリードを引き離しにかかり、最後まで余裕の手ごたえのままゴール板を駆け抜けた。

4馬身離れた2着には、地元船橋のナイキマドリードが粘った。直線を向いて後退したアイルラヴァゲインに替わり、道中はやや離れた4番手集団を追走したミリオンディスクが3着を確保した。

「速すぎて、ついていけなかった」。着外に敗れた騎手の何人かが、検量室前に戻って開口一番、口を揃えていたが、それほどサマーウインドのスピードは抜けていたということだろう。

1000メートルが“明”と出たのは、もちろんそのサマーウインド。「この馬のスピードを思う存分発揮できる舞台だと思っていたので、記録に名前を残せてうれしいです」と藤岡佑介騎手。ともにJpnⅠ初制覇となった庄野靖志調教師は、「こんないい馬を預けてくれたオーナーに感謝です。厩舎スタッフもよくやってくれた」と声を詰まらせた。

対してこの距離が“暗”と出たのはスーニ。昨年、名古屋1400メートルからの連覇がかかり、単勝では2番人気に支持されていた。結果は、サマーウインドから1秒7も離された4着。「ここ2走があまりよくなかったですが、だいぶよくなってきていました。1000メートルはやっぱり忙しい」と川田将雅騎手。

そして単勝54.6倍の6番人気ながら2着に粘ったナイキマドリードの健闘も光った。07年のこのレースの覇者フジノウェーブ、東京盃JpnⅡでサマーウインドにハナ差まで迫ったヤサカファインらとともに、ダート短距離路線を盛り上げる南関東勢の中心的存在となりそうだ。

COMMENT

藤岡佑介 騎手

いつもスタートがあまり速くはないんですが、ここ一番でいいスタートきってくれました。出た時点で、あとは丁寧に乗ることだけ心掛けてまわってきたので、何も不安はなかったです。4コーナーでもかなりいい手ごたえでしたし、ゴール前でもスピードは衰えなかったので、ほかの馬は追いつけないだろうと思って乗っていました。

庄野靖志 調教師

いつもより一歩目が早く出られたし、そのあと二の脚も早い段階でエンジンがかかって、スピードに乗って行けました。1000メートルということで、馬のスピードを十分に生かせる競馬ができました。ここまで夏からずっとがんばってくれたので、まずは馬の様子を見て、疲れをしっかりとってあげて、その後のことはじっくり考えたいと思います。

文:斎藤修
写真:いちかんぽ(森澤志津雄、宮原政典、川村章子)、NAR

注記

当ページは、地方競馬情報誌『ハロン』及び『WEBハロン』における当時の掲載内容を引用又は抜粋し、作成しています。