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連載第4回 1994年 全日本サラブレッドカップ

中央・地方交流時代へスイッチオン
トミシノポルンガ(2着)


 
早めスパートで先頭に躍り出たトミシノポルンガ(内)を、
マルブツセカイオー(中)がゴール前で競り落とした
(映像ファイルサイズ:12MB)
※ 映像の画質が低くなっております。ご了承ください。

 今回は1994年の全日本サラブレッドカップを中心に回顧させていただこう。主役は、このレースでは敗者となった当時5歳のトミシノポルンガである。
 トミシノポルンガは1989年生まれ。90年代の笠松競馬を、東海公営競馬を、ひいては地方競馬を牽引した1頭と位置付けられる。そして筆者には、いまだに強烈な印象として残るその走りとともに、「スイッチ オン」という言葉が心に刻まれているのである。
 ツナギが短く、しかも立ったような、どこか細くすら感じさせる栗毛の馬体は、決してグッドルッキングとはいえなかった。が、牧場でひと目見るとすぐ、オーナーに購入をすすめた吉沢厩務員は「インスピレーションを感じた」と語る。後にミツアキタービンなども育てあげた、笠松が誇るこの名厩務員の慧眼のすばらしさだ。パートナーとなる安藤勝己騎手は「心肺機能がいい」と語った。
 3歳時には、東海ダービー、岐阜金賞など、重賞を席捲した後、水沢でダービーグランプリを勝って、笠松にトミシノポルンガありを高らかに宣言した。4歳時には東海ゴールドカップの連覇を決めるなど、もっぱら地元で雌伏の時を過ごしたが、5歳時になって、がぜん他流試合へと打って出るのである。
 1月阪神の平安ステークスで3着に敗れると、4月には大井の帝王賞で7着。ただ、前者はトーヨーリファール相手の0秒2差であり、後者はスタビライザー相手の0秒4差だった。いずれも接戦に持ち込みながらも悔しい結果に、陣営には、ことに安藤勝己騎手には「中央馬相手でも通用する馬づくり」との思いが「スイッチ オン」したようだ。地元へ戻って5月の東海桜花賞を快勝すると、6月にはテレビ愛知オープンへホコ先を向け、キングファラオ、カリブソングなど、中央勢を一蹴した。これで春のシーズンを終えると、秋は中山のオールカマーへ。このレースではビワハヤヒデ、ウィニングチケットなど、中央の一線級相手に4着に敗れて、またまた苦汁をなめることになる。そして迎えたのが全日本サラブレッドカップというわけだ。
 単勝1番人気に推されたトミシノポルンガを筆頭に、東海菊花賞馬マルブツセカイオー、アラブの女傑スズノキャスターらの東海勢に加え、前年のダービーグランプリを制した金沢のミスタールドルフ、そのミスタールドルフに北國王冠で2秒4の大差を付けた(1位入線3着降着)エビスライトオー。南部杯でトウケイニセイの2着と健闘した、宇都宮のサクラグットオーなど、全国の強豪が参戦していた。
 2500mのこのレース。最初の1周は淡々とした流れだったが、それを崩したのがトミシノポルンガだった。2周目2コーナーを後方で回ると、そこから安藤勝己騎手のゴーサインにこたえ、馬群の大外をまくる形で一気に進出した。前を行くマルブツセカイオーもスズノキャスターも止まって見えるほどの脚だった。4コーナーを迎える時にはすでに先頭へ。その勢いからして、そのまま押し切るかと思われたが、直線で粘りを見せたマルブツセカイオーに3/4馬身、差し返されてしまった。レース後、安藤勝己騎手は「強引なのはわかっている。でも、あれで勝てなければ中央馬相手には勝てないんだ」と語る言葉が印象的だった。
 この後も、安藤勝己騎手が「中央へ、中央へ」との執念を持ち続けたのは、周知の事実である。その「スイッチ オン」の役がトミシノポルンガだった。そして翌年、地方競馬に門戸開放へと「スイッチ オン」した中央競馬で、スポットライトを浴びたのはアンカツ・ライデンリーダーだった。
 一方、この全日本サラブレッドカップで金星をあげたマルブツセカイオーは、この後、全国区へと打って出ることになる。明けた95年は川崎記念でスタートを切ると、秋には、この年から中央との交流重賞になったオグリキャップ記念で、アドマイヤボサツなどを破って見せた。さらにはラストランとなる、あの東京大賞典での大健闘(0秒2差3着)へとつながった。
 ちなみに、後に宝塚記念にも挑戦するなど、外へ外へと活躍の場を求めたトミシノポルンガに対して、地元岩手にいて勝ち続けるトウケイニセイを、当時は地方競馬における東西の横綱と位置付けていた。両雄があいまみえることは、ついになかった。が、トウケイニセイのデビュー以来の連勝が止まった日、それはトミシノポルンガが、同じ水沢でダービーグランプリを勝ち、同時に安藤勝己騎手が2000勝を達成した日だった。連勝が止まり、妙なプレッシャーから解放された岩手の怪物が、真の強者への道を進む、その「スイッチ オン」になった日と思っているが、いささかこじつけがすぎるだろうか。

文●伊藤和敬(競馬エース)
写真●いちかんぽ
音声●弘報館
映像●セントラルビデオ
(協力:岐阜県地方競馬組合)

第7回 全日本サラブレッドカップ 平成6年(1994年)11月23日
  サラ系オープン 1着賞金3000万円 笠松2,500m 晴・良 
着順
枠番
馬番
馬名
所属
性齢
重量
騎手
タイム・着差
人気
1 8 10 マルブツセカイオー 名古屋 牡5 56 戸部 尚実 2.46.4 3
2 5 5 トミシノポルンガ 笠松 牡6 56 安藤 勝己 3/4 1
3 7 8 スズノキャスター 笠松 牝7 53 濱口 楠彦 3 7
4 3 3 ミスタールドルフ 金沢 牡5 56 渡辺 壮 7 6
5 6 6 エビスライトオー 金沢 牡5 56 平床 良博 2 2
6 4 4 サクラグッドオー 宇都宮 牡7 55 内田 利雄 1 1/2 8
7 8 9 ダイカツオパール 佐賀 牝8 53 古川 哲也 クビ 10
8 2 2 ポスターフェイス 笠松 牡6 56 仙道 光男 クビ 4
9 7 7 ギャラントウイン 船橋 牡5 56 張田 京 大差 9
10 1 1 ヤマジュンオー 大井 牡6 56 的場 文男 ハナ 5
払戻金 単勝660円 複勝150円・110円・210円 枠連複470円
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