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連載第6回 1993年 北日本マイルチャンピオンシップ南部杯

ライバルの姿にこの馬の強さを重ねた
トウケイニセイ


 
ゴール前で逃げるオーディン(写真左)を捉えたトウケイニセイ
※ 写真はレース映像からのキャプチャー画像です

(映像ファイルサイズ:24MB)

 話は、南部杯の2ヵ月後から始めたい。1994年1月に行われたあるレースの成績を探した。それは阪神競馬場で行われた平安ステークスGIII。1着はトーヨーリファールか。2着は……、オーディン!! 着差はクビだ。中央勢を向こうに回し逃げて逃げて逃げまくって、あわやという2着だったようだ。「そうだ。そうじゃなきゃ」。そんな事をひとり口走る。トウケイニセイを相手にあそこまで逃げてみせた馬なのだ。これくらいやってくれなければ困る。
 この年の平安Sは歴史的画期となるレースだった。前年までのオープン特別からGIIIに格上げされ、関西圏で最初の、そして唯一のダート重賞となった。もうひとつ。この年から平安Sは地方・中央の交流重賞として設定され、JRAのサラ系ダート重賞が初めて地方馬に門戸を開放されたのだ。いわゆる『交流元年』は翌95年の事、94年はまだ部分的な開放に留まる。だが、地方馬にとってみれば、待ちに待ったチャンスだ。
 そうして第1回平安Sに出走した地方馬は4頭。笠松・トミシノポルンガ、名古屋・ヒデノデュレン、荒尾・ユートジョージ、そして新潟・オーディン。結果、オーディンが2着、トミシノポルンガが3着に食い込んで波乱を巻き起こす。
 この時のオーディンは16頭立て8番人気。既に東海地区のトップホースと言われていたトミシノポルンガですら6番人気だ。関西圏には馴染みの薄い新潟の馬ではこの程度の人気に留まるのも致し方あるまい。だが、前年の南部杯でトウケイニセイ・モリユウプリンスを始め、スイフトセイダイ・グレートホープと言った岩手のTM、SGを相手に快速を見せつけたあげく2着に粘り切ったあの戦いを見ていたからには、これは波乱じゃない、“順当”なんだよ。そう言いたかった。
 2ヵ月前、93年の北日本マイルチャンピオンシップ南部杯。このレースはその名が示すとおり北海道から北関東までのエリアでの交流戦として行われており、この時も各地区から5頭の遠征馬が集まった。
 だが注目は何と言っても地元の雄・トウケイニセイだった。この時点で26戦25勝、春から負け無しの6連勝に加え、みちのく大賞典・東北サラブレッド大賞典・北上川大賞典と重賞を3連勝中。最大のライバルだと思われていたモリユウプリンスをも3連続で退け、実はこの年から本格的に重賞戦線に進出したばかりのトウケイニセイなのだが、すでに岩手No.1の存在と見なされていた。
 SGの二騎、スイフトセイダイ・グレートホープはまだ現役ではあったが既にその時代は過ぎ去り、岩手はトウケイニセイ・モリユウプリンスによるTM時代に入っていた。新聞の本命印は当然のごとくトウケイニセイに集中、対抗印もまたモリユウプリンスに集まった。トウケイニセイにとっては短期間の内に遠征や距離延長・短縮が続くが、それでもここは突破可能。逆転があるならモリユウプリンスか……。そんな印だ。トウケイニセイの手綱を取る菅原勲騎手もそう思っていた。どの馬にも負けるとは思わないが、ライバルになるとすればモリユウだろう、と。
 「どの馬にも負けると思わない」。こう文字にするとえらく強気に感じるが、トウケイニセイが時に信じられないような、人知を超えるかのような力を絞り出す馬だ、という事を直に感じているからこそ、全幅の信頼という意味でこういう表現になる。
 レースでも、好スタートを切って先行争いすらできそうだったトウケイニセイを、菅原騎手は徐々に下げて6、7番手につけさせた。モリユウプリンスは最後方、菅原騎手は「モリユウが動けば一緒に動くつもりでのこの位置だった」と振り返る。だが、逃げるオーディンがあまりにも快調なのを見て、向こう正面半ば、自ら動き出す。これを見たモリユウプリンスがトウケイニセイを追って動く。2〜3馬身の差をもって馬群の外を捲っていく2頭。あっという間に前との差が縮まっていくが、オーディンは、しかし4コーナーを回ってもまだ1馬身ほどのリードを保つ。
 直線に向いてトウケイニセイが猛然と追い上げる。残り100mで馬体が並び、じわりと交わした所がゴール。着差はクビ、思わぬ僅差に見ていた自分はひやりとしたのを思い出す。
 今になって聞いてみれば菅原騎手は絶対に捉える事が出来ると信じて乗っていたと言うし、実際、当時のVTRを見てもオーディンと並んだところでちらりと後ろを見、モリユウプリンスの位置を確認した菅原騎手はもうムチを使っていない。だが、いちファンとして見ていたその時の自分はそんな事にまで気が回る訳もなく、この芦毛のオーディン、全く無印だった馬が見せた逃げ脚に、地方にはまだまだ知られていない強い馬がいるものだ、トウケイニセイすら負けそうになったじゃないか……とひたすら感心したものだった。
 ご存じの通りトウケイニセイは重度の脚部不安を抱えていた馬で、ついに中央の舞台に立てなかったのだが、本当はどれくらい強いのか? どこまでやれるのか? この馬のレースを見た者なら、それは是非知りたい事でもあった。
 平安Sでのオーディンの快走。阪神のダートを駆ける姿が、2ヵ月前の水沢を駆ける姿に重なる。芦毛の馬体をわずかに交わすのが、栗毛ではなく鹿毛の身体であってもいいじゃないか。着差は同じだ! 南部杯と平安ステークス、2つのレースが一頭の馬を通じて重なり合い、そしてトウケイニセイは“かなりやれるはず”という手応えが残った。もちろんそれはオーディンが強かったからこそ感じる事ができたもの、なのも間違いない。

文●横川典視(テシオ編集部)
(協力:岩手県競馬組合)

第6回 北日本マイルチャンピオンシップ南部杯 平成5年(1993年)11月23日
  サラ系オープン 1着賞金3000万円 水沢1,600m 曇・重 
着順
枠番
馬番
馬名
所属
性齢
重量
騎手
タイム・着差
人気
1 5 5 トウケイニセイ 岩手 牡7 56 菅原 勲 1.39.8 1
2 6 6 オーディン 新潟 牡5 56 向山 牧 クビ 6
3 7 8 モリユウプリンス 岩手 牡5 56 小林 俊彦 1 1/2 2
4 7 7 グレートホープ 岩手 牡8 56 千田 知幸 1/2 3
5 1 1 スガノラージャ 北海道 牡4 54 柳澤 好美 5 4
6 2 2 スイフトセイダイ 岩手 牡8 56 小竹 清一 1 5
7 3 3 ビクトリアレット 宇都宮 牝5 54 内田 利雄 1/2 9
8 4 4 ユニオンリーダー 高崎 牡7 56 加藤 和宏 2 1/2 8
9 8 9 アフエクシヨネツト 岩手 牡7 56 佐藤 雅彦 4 10
10 8 10 コウエイアタック 宇都宮 牝6 54 平澤 則雄 大差 7
払戻金 単勝130円 複勝110円・360円・120円 枠連複1,930円
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